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No.20629の一覧
[0] 俺と鬼と賽の河原と。生生世世 (ほのぼのラブコメ)[兄二](2010/08/02 00:00)
[1] 其の二 俺とどうかしてる日常。[兄二](2010/07/29 22:08)
[2] 其の三 俺とメイドと妙な気配。[兄二](2010/08/01 23:57)
[3] 其の四 俺とニート二人について。[兄二](2010/08/07 22:44)
[4] 其の五 俺と私の八月七日。[兄二](2010/08/10 22:44)
[5] 其の六 俺と身長。[兄二](2010/08/10 22:44)
[6] 其の七 俺と笑うあの人。[兄二](2010/08/13 22:36)
[7] 其の八 俺とこの時期。[兄二](2010/08/23 11:01)
[8] 其の九 俺とアホの子とアホ。[兄二](2010/08/20 23:19)
[9] 其の十 俺と新聞と猫。[兄二](2010/08/23 22:03)
[10] 其の十一 俺と買い物。[兄二](2010/08/27 21:56)
[11] 其の十二 俺とそろそろ――。[兄二](2010/08/31 01:05)
[12] 其の十三 俺と太陽。[兄二](2010/09/02 21:56)
[13] 其の十四 掌を太陽に。[兄二](2010/09/05 21:17)
[14] 其の十五 俺も周りも落ち着いて。[兄二](2010/09/09 22:14)
[15] 其の十六 いつも通りと変わった一日。[兄二](2010/09/15 21:33)
[16] 其の十七 俺と午睡。[兄二](2010/09/15 21:31)
[17] 其の十八 俺とお前。[兄二](2010/09/23 22:16)
[18] 其の十九 俺と勉学。[兄二](2010/09/23 22:12)
[19] 其の二十 俺と煙草。[兄二](2010/09/26 22:39)
[20] 其の二十一 俺と甘いお菓子。[兄二](2010/10/03 21:51)
[21] 其の二十二 俺と秋空。[兄二](2010/10/03 21:54)
[22] 其の二十三 俺と彼女の評価について。[兄二](2010/10/06 22:36)
[23] 其の二十四 俺と鯖。[兄二](2010/10/09 22:23)
[24] 其の二十五 俺と手袋。[兄二](2010/10/13 21:41)
[25] 其の二十六 俺と炭水化物。[兄二](2010/10/17 23:17)
[26] 其の二十七 俺とメイドの空模様。[兄二](2010/10/20 22:27)
[27] 其の二十八 俺と秋と言えば。[兄二](2010/10/30 22:51)
[28] 其の二十九 俺と小さいあの人。[兄二](2010/10/30 22:26)
[29] 其の三十 俺と月見草。[兄二](2010/11/03 23:35)
[30] 其の三十一 俺と動かない銀子。[兄二](2010/11/06 22:34)
[31] 其の三十二 俺と答案。[兄二](2010/11/10 22:41)
[32] 其の三十三 俺と手袋とマフラー。[兄二](2010/11/13 22:37)
[33] 其の三十四 俺とロマンスはスコープの輝き。[兄二](2011/01/29 20:37)
[34] 其の三十五 俺と不調。[兄二](2010/11/21 23:05)
[35] 其の三十六 俺と隣の家事情。[兄二](2010/11/27 22:58)
[36] 其の三十七 俺とこたつより。[兄二](2010/11/28 22:14)
[37] 其の三十八 俺と学校の怪談再来。[兄二](2010/12/01 22:21)
[38] 其の三十九 俺と厄日。[兄二](2010/12/05 22:23)
[39] 其の四十 俺と誕生日。[兄二](2010/12/08 22:04)
[40] 其の四十一 俺と風邪。[兄二](2010/12/11 22:12)
[41] 其の四十二 俺と手加減。[兄二](2010/12/19 00:54)
[42] 其の四十三 俺と悪魔祓い。[兄二](2010/12/28 22:39)
[43] 其の四十四 俺と悪魔祓いというか。[兄二](2010/12/23 22:14)
[44] 其の四十五 俺と奴の誕生日。[兄二](2010/12/25 21:04)
[45] 其の四十六 俺と年の瀬。[兄二](2010/12/28 23:11)
[46] 其の四十七 明けましておめでボグシャア。[兄二](2011/01/01 22:12)
[47] 其の四十八 俺と大人の色香について。[兄二](2011/01/05 22:21)
[48] 其の四十九 俺と彼女の家。[兄二](2011/01/08 22:36)
[49] 其の五十 働く俺。[兄二](2011/01/11 22:00)
[50] 其の五十一 俺と悪魔。[兄二](2011/01/14 22:27)
[51] 其の五十二 俺と日常。[兄二](2011/01/17 21:31)
[52] 其の五十三 俺と狭き世界の日常。[兄二](2011/01/20 22:42)
[53] 其の五十四 俺と閻魔の休日の過ごし方。[兄二](2011/01/23 22:13)
[54] 其の五十五 俺と死亡遊戯。[兄二](2011/01/29 20:36)
[55] 其の五十六 俺とお前の遠距離恋愛。[兄二](2011/01/29 20:34)
[56] 其の五十七 俺とシュークリーム。[兄二](2011/02/01 23:18)
[57] 其の五十八 俺と節分。[兄二](2011/02/04 23:32)
[58] 其の五十九 俺と鎧。[兄二](2011/02/08 21:49)
[59] 其の六十 俺とあの日の少し前。[兄二](2011/02/12 23:23)
[60] 其の六十一 俺と奴の命日。[兄二](2011/02/14 22:46)
[61] 其の六十二 俺と奴の命日は終わったはずだ。[兄二](2011/02/17 22:28)
[62] 其の六十三 俺と弦楽器。[兄二](2011/02/20 22:04)
[63] 其の六十四 俺と心は侍。[兄二](2011/02/23 22:33)
[64] 其の六十五 じゃら男には友達が少ない。[兄二](2011/02/26 22:56)
[65] 其の六十六 俺と紅茶。[兄二](2011/03/04 21:49)
[66] 其の六十七 俺と小豆洗い。[兄二](2011/03/04 21:48)
[67] 其の六十八 俺と百合。[兄二](2011/03/10 22:55)
[68] 其の六十九 俺と妾。[兄二](2011/03/10 22:55)
[69] 其の七十 俺と手繋ぎ日常。[兄二](2011/03/13 17:12)
[70] 其の七十一 俺と貴方の近距離恋愛。[兄二](2011/03/16 21:49)
[71] 其の七十二 俺と日記。[兄二](2011/03/19 22:17)
[72] 其の七十三 絶対霊障祟神[兄二](2011/03/21 21:47)
[73] 俺と鬼と賽の河原と。絶対霊障祟神「一」[兄二](2011/03/23 21:01)
[74] 俺と鬼と賽の河原と。絶対霊障祟神「二」[兄二](2011/03/25 21:05)
[75] 俺と鬼と賽の河原と。絶対霊障祟神「三」[兄二](2011/03/29 22:29)
[76] 俺と鬼と賽の河原と。絶対霊障祟神「祓」[兄二](2011/04/01 22:35)
[77] 其の七十四 俺と事件の裏側で。[兄二](2011/07/17 15:56)
[78] 其の七十五 俺と手繋ぎ。[兄二](2011/04/07 23:19)
[79] 其の七十六 俺と構ってにゃん子。[兄二](2011/04/10 21:41)
[80] 其の七十七 俺と婆。[兄二](2011/04/14 23:01)
[81] 其の七十八 俺と更に。[兄二](2011/04/18 00:46)
[82] 其の七十九 俺と睡眠。[兄二](2011/04/20 22:28)
[83] 其の八十 俺とツンデレ。[兄二](2011/04/23 21:44)
[84] 其の八十一 俺と未知との遭遇。[兄二](2011/04/27 22:02)
[85] 其の八十二 俺と白いワンピース。[兄二](2011/04/30 23:59)
[86] 其の八十三 俺とお悩み相談。[兄二](2011/05/03 22:49)
[87] 其の八十四 俺と父親度。[兄二](2011/05/06 22:19)
[88] 其の八十五 俺と謎の李知さん。[兄二](2011/05/09 22:16)
[89] 其の八十六 俺と覇気。[兄二](2011/05/13 21:46)
[90] 其の八十七 如意ヶ嶽由壱は焦らない。[兄二](2011/05/16 22:07)
[91] 其の八十八 俺とお前の恋の駆け引き。[兄二](2011/05/20 22:33)
[92] 其の八十九 俺と死亡遊戯弐。[兄二](2011/05/22 22:29)
[93] 其の九十 俺と鍛錬。[兄二](2011/05/25 22:08)
[94] 其の九十一 俺と厠を行ったり来たり。[兄二](2011/05/29 22:01)
[95] 其の九十二 俺と山崎春の山崎祭り。[兄二](2011/06/02 21:44)
[96] 其の九十三 俺と既知との遭遇。[兄二](2011/06/05 21:58)
[97] 其の九十四 Dances Under The Half Moon.[兄二](2011/06/09 21:29)
[98] 其の九十五 Dances Under The Full Moon.[兄二](2011/06/12 21:42)
[99] 其の九十六 Dog Fight.[兄二](2011/06/16 21:54)
[100] 其の九十七 俺と狐に化かされて。[兄二](2011/06/19 22:41)
[101] 其の九十八 俺と死亡遊戯参。[兄二](2011/06/24 21:17)
[102] 其の九十九 俺と贈答品。[兄二](2011/06/27 22:04)
[103] 其の百 俺とあの子。[兄二](2011/07/03 20:23)
[104] 其の百一 山崎愛の一人劇場。[兄二](2011/07/07 21:41)
[105] 其の百二 俺と飼うとか飼われるとか。[兄二](2011/07/17 15:55)
[106] 其の百三 俺と道端の煙草。[兄二](2011/07/14 22:14)
[107] 其の百四 俺と年上の女性。[兄二](2011/07/17 22:27)
[108] 其の百五 俺と二重衝撃。[兄二](2011/07/21 22:13)
[109] 其の百六 私と夏。[兄二](2011/07/24 23:01)
[110] 其の百七 ああ素晴らしき夏。[兄二](2011/07/27 20:38)
[111] 其の百八 俺と写真機という名のカメラ。[兄二](2011/07/31 21:23)
[112] 其の百九 俺と祭る夏。[兄二](2011/08/04 22:02)
[113] 其の百十 俺とフワジャン。[兄二](2011/08/07 22:24)
[114] 其の百十一 俺とエプロン。[兄二](2011/08/17 22:40)
[115] 其の百十二 夏は甘くない。[兄二](2011/08/17 22:39)
[116] 其の百十三 俺とひんやりとした。[兄二](2011/08/17 22:38)
[117] 其の百十四 俺とぬか喜び。[兄二](2011/08/21 23:12)
[118] 其の百十五 俺の知らないところで千日手。[兄二](2011/08/25 22:10)
[119] 其の百十六 俺と愛沙と閻魔。[兄二](2011/08/29 22:31)
[120] 其の百十七 俺と不真面目な件について。[兄二](2011/09/01 22:09)
[121] 其の百十八 俺とSとM。[兄二](2011/09/04 21:45)
[122] 其の百十九 俺と敗北。[兄二](2011/09/11 22:27)
[123] 其の百二十 なんと単純な。[兄二](2011/09/15 21:47)
[124] 其の百二十一 しろがねの錬金術師[兄二](2011/09/18 22:20)
[125] 其の百二十二 快速スタンピード[兄二](2011/09/23 22:19)
[126] 其の百二十三 ハートフルボッコ。[兄二](2011/09/28 21:00)
[127] 其の百二十四 大体三十九度。[兄二](2011/10/02 22:09)
[128] 其の百二十五 俺と飲まれないでくれ本当に。[兄二](2011/10/05 22:24)
[129] 其の百二十六 俺とハニーバイト。[兄二](2011/10/09 21:20)
[130] 其の百二十七 俺と飲まれないでくれ本当に2。[兄二](2011/10/13 22:14)
[131] 其の百二十八 俺とベアー。[兄二](2011/10/18 23:24)
[132] 其の百二十九 俺と女子力。[兄二](2011/10/24 22:37)
[133] 其の百三十 俺と温かい手。[兄二](2011/10/28 21:34)
[134] 其の百三十一 生温ハロウィン。[兄二](2011/10/31 22:36)
[135] 其の百三十二 俺と熱と看病と。[兄二](2011/11/04 23:23)
[136] 其の百三十三 俺と回転。[兄二](2011/11/09 22:16)
[137] 其の百三十四 俺と赤い青い。[兄二](2011/12/04 22:27)
[138] 其の百三十五 俺と呪いの藁人形。[兄二](2011/12/04 22:27)
[139] 其の百三十六 俺と思い出の地。[兄二](2011/12/04 22:26)
[140] 其の百三十七 俺とサービス過剰。[兄二](2011/12/04 22:26)
[141] 其の百三十八 俺と飲まれないでくれ本当に3。[兄二](2011/12/04 22:26)
[142] 其の百三十九 俺と生首と事件。[兄二](2011/12/04 22:25)
[143] 其の百四十 俺と女の強さについて。[兄二](2011/12/08 20:53)
[144] 其の百四十一 乙女と言う名の男前。[兄二](2011/12/12 22:42)
[145] 其の百四十二 俺と首。[兄二](2011/12/15 21:51)
[146] 其の百四十三 俺と長さ約10.6メートル、幅約30センチメートルの布。[兄二](2011/12/23 22:44)
[147] 其の百四十四 俺と家事手伝い兼湯たんぽ。[兄二](2011/12/28 01:00)
[148] 其の百四十五 俺と聖誕祭。[兄二](2012/01/03 21:40)
[149] 其の百四十六 俺と大掃除。[兄二](2011/12/31 10:34)
[150] 其の百四十七 俺と彼女は店主。[兄二](2012/01/03 22:05)
[151] 其の百四十八 俺と怒り変換。[兄二](2012/01/09 22:25)
[152] 其の百四十九 俺というべきか私と言うべきか。[兄二](2012/01/15 22:34)
[153] 其の百五十 俺か私か、それともわたしか。[兄二](2012/01/19 21:44)
[154] 其の百五十一 彼女と俺の平行線。[兄二](2012/01/23 22:30)
[155] 俺と彼女の恋の行方。[兄二](2012/01/25 22:21)
[156] 其の百五十二 俺と棒が。[兄二](2012/01/29 22:24)
[157] 其の百五十三 俺とまさかの客。[兄二](2012/02/04 01:24)
[158] 其の百五十四 俺と襟巻き。[兄二](2012/02/05 22:41)
[159] 其の番外編「馬鹿」[兄二](2011/01/01 22:08)
[160] 其の番外編「身勝手だからこそ」[兄二](2011/01/01 22:05)
[161] 人物設定[兄二](2010/09/02 21:53)
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[20629] 其の三十 俺と月見草。
Name: 兄二◆adcfcfa1 ID:8af9acb8 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/11/03 23:35
俺と鬼と賽の河原と。生生世世







「ただいまかえりましたー」

「おう、お帰り由美」


 居間でごろごろと転がっていると、不意に扉が開き、学校から由美が帰ってきた。

 そんな由美の方を見ると、不意に由美は肩を震わせる。


「どした?」


 挙動不審な彼女に、俺は聞いてみるが、彼女は首を横に振った。


「な、なんでもないですお父様」


 ぶんぶんと振られる首に俺は違和感を覚えるが、しかし追及も憚られ、ついぞ口に出すことはなく。


「お、お父様……」

「なんだ?」

「な、なんでもないですっ!」


 ぱたぱたと、由美は二階へ上って行ってしまった。


「どうしたんだ? 一体」


 俺の呟いた言葉に答えるものはなく、音は虚空に空しく消える。

 はたして、一体何だったのだろうか。








 その疑問に回答を出したのは、一枚の紙きれだった。

 ゴミ箱の中にあった、気になる文字列。


「んあ? 参観日の案内? こいつはまたお約束な……」









「前さん、明日俺仕事休むわ」

「なんで?」

「参観日」

「絶対行きなさい」












其の三十 俺と月見草。










 しかし、父兄としてこの学校に来るのは俺としては珍しい限りだな。

 ついこないだできたばかりの新しい校舎に俺が脚を運ぶのは、いつも職員としてだ。

 相も変わらず、人手は足りる様子を見せることはなく、いまだに俺は一般常識と体育を受け持っている。

 入学者は増える、しかし、職員はあまりにも増えなさすぎた。

 そもそも求められる水準が高すぎるのだ。

 なんて言うと俺のような教養のない人間が職員をしていることに違和感を覚えるかもしれないが、そういうことではない。

 この学校の求める基準はひとつ。

 腕っ節だ。

 はたして、生前体育教師の免許を持っていた人間がいたとして、だ。

 彼らの常識で言う幻想生物たちが放つ亜音速のボールを彼らは受け止められるだろうか。

 果ては乱闘にでもなったら。

 ……アルマゲドンである。

 と、そんなこんなの事情を抱え、ある程度危険な生徒間の揉め事にも対応できるというわけで職員をやってる俺だが。

 現実逃避しても現実は変わらない。

 現実が変わらないから逃避するのである。

 有体にいえば、顔から火が出そうである、と。

 ありがちな作文発表題、「尊敬する人」。

 その中で、『私のお父様』、その言葉が俺をじわじわと蝕んでいた。


「私のお父様は――」


 鈴のような声音で、我が娘が俺について話している。

 いるのだが、「ははぁ、あなたの話ですか」と聞かれたならば、俺は首を横に振り、「いえ、人違いです」と答えるだろう。

 他人から見た自分はいかほどに恥ずかしいのか。理解させられた。特に下から見上げた類のものは、だ。

 下から見た目線の話はどうしても美化される。というか美化八割だ。うん。

 否定も肯定もできぬこの辛さよ。


「普段はいい加減になりがちだけど、大事なところでは一生懸命なお父様を、尊敬してます……、っ!?」


 と、そんな時、ちらりと横目で背後を見た由美と、不意に目が合った。

 一瞬驚いた後、由美の顔が赤く染まり、動揺した音を立てて、彼女は席に着く。

 そして、由美は恥ずかしげに俯いてしまった。その耳まで真っ赤である。

 そんな由美を見つめる俺も心中顔真っ赤なわけだが。

 そうして、俺の授業参観は終了した。



















「お……、お父様、来てたんですか……?」


 照れの見られる顔の赤さで、由美は俺のもとにやってきた。


「来たとも」


 内心恥ずかしかったがなっ、という言葉は押し隠し、俺は言う。

 そして、意地悪く笑った。


「来たら悪いかね」


 すると、ふるふると由美は首を横に振る。


「そうじゃなくて……、その」


 授業参観の終わった学校の廊下は、いささか込んでいて、俺は由美の手を引いて外へと向かった。


「……恥ずかしい、です」


 そいつはお互い様だな。


「来ないほうがよかったか?」


 素直に、俺は聞いた。

 その方が良かった気はする。お互いの精神衛生的に。

 だが、今一度由美は首を横に振る。


「でも、嬉しいです……」


 それは来た甲斐があるというものだ。

 俺は人知れずにやりと笑みを湛えて呟く。


「それは良かった」


 そして、階段を下りて、玄関へ。

 靴を履き替え外に出る。


「いい天気だな」


 呟いた言葉は青空に消えた。

 些か寒い季節になっているが、秋晴れというやつだ。

 雲ひとつない青空が広がっていて、今宵はいい星が見えそうだ。


「ところで、お父様。お仕事は……」


 不意に、由美が問う。

 言えば由美が気にしてしまうのは分かっていたが、どうごまかせようか。

 俺は正直に語る。


「休んできた」

「……ごめんなさい」


 やっぱりか。

 申し訳なさそうに俯く由美に、俺は気付かれないよう溜息を漏らす。


「つまらんことを気にしすぎだ」

「でも、やっぱり。私……、ずるいです」

「なんで」

「もしかしたら見つかっちゃうかもしれないところに、プリント、捨てました」


 言い出せないが、気付いてほしい、そんな心境だったのだろうか。

 健気、とも言えず、涙ぐましい、でもないそんな筆舌に尽くしがたい由美の態度に、胸は熱くなるやもしれんが不快感は全くない。あり得ない。


「なら、正々堂々来いよ」

「え?」

「駄目ならちゃんとお断りするから言えばいい」


 そう、言えばいいのだ。春奈みたいに何でもかんでもとりあえず言ってみればいい。と考えて、春奈の名は出さずに言葉にした。玲衣子の言葉を借りるなら、マナー違反らしいから。

 ただ、まあ、遠慮する理由もあるまいに。


「……できるだけ、頑張ります」

「まあ、それでいいさ」


 俺の言葉を聞いた後、握りこぶしを作ってうなずいた少女に、俺は苦笑を一つ。

 そして、なんとなくに呟いた。


「ゆっくり待ってるよ。暇だけは、持て余してる」

「……お父様は、私にはちょっとだけ眩しいです」


 由美の呟きは、帰る親子の雑音に遮られ、よく聞こえなかった。

 そんな昼の一幕は終わり。

 特に変わったこともなく夜は訪れる。

 ……ま、何にせよ、昔に比べりゃ成長してるよ。
















「お父様、なにしてるんですか?」

「月見酒」


 夜の屋根の上。些か寒いがそれはそれで風情がある、と昇ったそこに俺は座っていて。

 声は屋根の下から響いた。


「月……、見えませんけど」

「だが、それがいい」


 放った言葉は七割方、負け惜しみである。

 女心と秋の空、とはよく言ったもので、月を覆い隠した雲は意地悪く光り、そこにあった。

 些か寒いのも、月が出ていないのも、正直に言えば空しいものがある。

 しかしながら、昇ってしまった以上すごすごと戻るのは癪で、気に食わない。

 よって残された意地と根性。

 この二つで酒を飲むのだ。

 追加でハッタリとお付けして。


「見えない月に思いを馳せる。浪漫があっていいことじゃないか?」

「……本当ですか?」


 可愛らしく、小首を傾げられてしまった。

 ふはは、年端もいかぬ少女から見ても強がりだってか。そうかい。


「まあ、それでも星は見えるさ」


 そう言って、俺は天を指差した。

 雲の隙間から、星達は輝きを洩らす。

 屋根の下に、由美の姿は見えなくなった。

 しかし、声は届く。彼女は縁側にいるのだろう。


「お父様は、お星様を見るのが好きなんですか?」


 下から聞こえる質問に、俺は苦笑して返した。


「どうだか」

「どういうことですか……?」

「その心を、酒が飲めりゃなんだっていい、っていうのさ」


 くく、と喉を鳴らして、今度は俺が問う。


「由美は好きか?」


 下から届いた声は、ちょいとばかし意外なもの。


「私は、お星様を見上げるより。お父様を見上げるほうが好きです」


 俺は、狐につままれたような顔をしていたのだろう。

 まあ、何にせよ、そんな心境だった。


「変わった奴だな。俺なんて見てても、つまらん面があるだけだ」


 努めて、ぶっきらぼうに言う俺に、由美はくすくすと笑う。


「だが、それがいい。ってお父様が言いました」

「言ったやもしれん」


 否定も肯定もできやしねー。

 それだけ言って俺が黙ると、しばらくして不意に由美が声を上げた。


「月見草が咲いてますね」


 うちの庭はよくわからないものがたくさんある。

 なんで植えてあるのかわからない、夜にしか咲かない黄色の花も、そのひとつ。


「お月さまは、この花を見てるんでしょうか」

「なんでだ?」

「だって、お月さまのために咲いてるみたいで……」

「むう、だが、厳しいやもしれんな。特に、こう曇ってちゃ」


 俺の、夢のない意見に、由美は残念そうな声を上げる。


「そう、ですね」


 そして、思い直したように続けた。


「でも、いいのかも。たとえ見てくれなくても、それでも何かのために咲き続けられるなら」


 何かを確認するかのように呟かれた言葉。

 少し寂しげな言葉である。

 屋根の下の表情は見えない。が、やはり寂しげな顔をしているのだろうか。

 なんとなく、そんな顔はさせたくはない。

 そんなことを思っていると、ふと俺は、少し変なことを思い出した。


「そういえば知ってるか? 実は月見草って白いらしい」

「そうなんですか?」

「たった一晩しか咲かない儚い花だよ」


 そう、富士山に似合うのは待宵草。

 月見草は白くて儚い。

 まさに一夜の月のために咲く花だ。


「その日、お月さまが出てなかったら……。少し、可哀そうです……」


 由美は言った。

 優しい言葉だ。

 ただ、やっぱり悲しげな顔はさせたくなかったから、俺は言った。


「だが、そんな花が咲く一晩が月のためだってんなら」


 俺は懐から羽団扇を取り出す。

 そして、その羽団扇を。

 月へと向けた。


「きっと月だって応えるさ――」


 こんなことしたらまた閻魔に怒られそうだな。

 が、まあ。そのくらいは丸めこむか。最悪夕飯をちらつかせれば大丈夫だ。

 これでもかと丸い姿を見せつける月には、そのくらいの価値はあった。


「――やっぱり、お父様を見上げるのが大好きです」


 下から聞こえてきた声は、なんとなく艶っぽくて。

 育ったらきっとなかなかの美人になるのだろう。

 そして結婚して家庭を築く、か。

 なんとなく、嬉しくもあり。






 なんとなく、寂しかったりも。






















―――
由美と一緒に編です。
薬師の親父っぷりが異常。

そして、本日ハードディスクケースを買ってきまして、ついに完全復活です。
修理前のデータもこれで使用可能に。

そんなこんなで、つい三、四日前に天狗奇譚も更新してみたりして調子が上がってるような別に気のせいなような。









返信


奇々怪々様

お医者さんごっこ。常人には至れない危うい領域でございます。さすがの薬師もたじたじに。
ちなみに、一夫多妻は黙認、というか正確な意味での婚姻はなく、家族登録があるだけなので、登録してしまえば、後の関係はそこの家庭次第です。
家族登録自体は数に制限があるわけでもないので、全員と家族登録して関係は妻ですと本人たちが認めれば何の問題もなく。
そして、最近もう、一通り前キャラロリ化しても罰は当たらないのじゃないかと思ってきたり思わなかったり。


SEVEN様

臭い飯は嫌だが愛妻弁当は何個でも行ける。そういうことなんでしょう。爆発すればいいのに。
まあ、確かに年下から言われるお兄ちゃんだからこそ、いいのではあるまいかというお話はごもっとも。
年上からだと、悪い意味でぞくりときます。中身が平常通りの憐子さんなのが問題ですねわかります。
そして、十二人も憐子さんがいたら、確実に薬師の胃に穴が開きますね。だが、それがいい。胃潰瘍くらい発症しても罰は当たらないと思います。


春都様

そう、あの憐子さんがミニマムサイズでお膝の上なんです。なんだか夢いっぱいなんです。
千以上年下の子にちょっと羨ましさを覚えてしまったりもするようなのです。その結果縮むという離れ業を発動。
しかし揺るがない薬師。やはり一度爆発して来たほうがいいのではあるまいかと思います。
もしくは一回憐子さんと結婚してみれば少しは変わるんじゃないですかね。変わらない可能性があるのが恐ろしいですが。


通りすがり六世様

お医者さんごっこ。今にして思えば随分ハードルの高い遊びです。なんとなく聴診器にあこがれはありましたが持ってるわけもなく。
憐子さんは、結局なんだかんだと我慢をしないから乙女まっしぐらなんでしょうね。やりたいことは全部試すと。
そして、薬師的には、結婚も恋人もたぶんその気はないんじゃないですかね。そもそも、性欲がないなら現状で満足ですよねー……。
まあ、しかし最後はやはり誰かが暴発することでしょう。きっと薬師なら朝起きたら憐子さんと結婚してたくらいはやってのけます。


志之司 琳様

もうなんど逮捕すれすれまで行ったことか。でもやっぱり獄中でもフラグ立てる件には同意です。最悪誰もいなくても獄中のベッドの精にフラグ立てそうです。
そして、春奈はすでになし崩しで突破しそうな勢いです。薬師にへいへいと言わせればもう勝ったも同然です。
憐子さんも憐子さんで、ふと思いついたようにロリに。もうどうしようもない。ある意味大勝利ですが。やっぱり薬師にへいへいと言わせたもん勝ちです。
結局、お医者さんごっこが広まったら、確実にエロ方面に診察されようとする人々がいるんでしょうね。その点憐子さんは今回は逆でしたが。











最後に。

月見草よりも月見蕎麦が食べたいです。


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