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No.20629の一覧
[0] 俺と鬼と賽の河原と。生生世世 (ほのぼのラブコメ)[兄二](2010/08/02 00:00)
[1] 其の二 俺とどうかしてる日常。[兄二](2010/07/29 22:08)
[2] 其の三 俺とメイドと妙な気配。[兄二](2010/08/01 23:57)
[3] 其の四 俺とニート二人について。[兄二](2010/08/07 22:44)
[4] 其の五 俺と私の八月七日。[兄二](2010/08/10 22:44)
[5] 其の六 俺と身長。[兄二](2010/08/10 22:44)
[6] 其の七 俺と笑うあの人。[兄二](2010/08/13 22:36)
[7] 其の八 俺とこの時期。[兄二](2010/08/23 11:01)
[8] 其の九 俺とアホの子とアホ。[兄二](2010/08/20 23:19)
[9] 其の十 俺と新聞と猫。[兄二](2010/08/23 22:03)
[10] 其の十一 俺と買い物。[兄二](2010/08/27 21:56)
[11] 其の十二 俺とそろそろ――。[兄二](2010/08/31 01:05)
[12] 其の十三 俺と太陽。[兄二](2010/09/02 21:56)
[13] 其の十四 掌を太陽に。[兄二](2010/09/05 21:17)
[14] 其の十五 俺も周りも落ち着いて。[兄二](2010/09/09 22:14)
[15] 其の十六 いつも通りと変わった一日。[兄二](2010/09/15 21:33)
[16] 其の十七 俺と午睡。[兄二](2010/09/15 21:31)
[17] 其の十八 俺とお前。[兄二](2010/09/23 22:16)
[18] 其の十九 俺と勉学。[兄二](2010/09/23 22:12)
[19] 其の二十 俺と煙草。[兄二](2010/09/26 22:39)
[20] 其の二十一 俺と甘いお菓子。[兄二](2010/10/03 21:51)
[21] 其の二十二 俺と秋空。[兄二](2010/10/03 21:54)
[22] 其の二十三 俺と彼女の評価について。[兄二](2010/10/06 22:36)
[23] 其の二十四 俺と鯖。[兄二](2010/10/09 22:23)
[24] 其の二十五 俺と手袋。[兄二](2010/10/13 21:41)
[25] 其の二十六 俺と炭水化物。[兄二](2010/10/17 23:17)
[26] 其の二十七 俺とメイドの空模様。[兄二](2010/10/20 22:27)
[27] 其の二十八 俺と秋と言えば。[兄二](2010/10/30 22:51)
[28] 其の二十九 俺と小さいあの人。[兄二](2010/10/30 22:26)
[29] 其の三十 俺と月見草。[兄二](2010/11/03 23:35)
[30] 其の三十一 俺と動かない銀子。[兄二](2010/11/06 22:34)
[31] 其の三十二 俺と答案。[兄二](2010/11/10 22:41)
[32] 其の三十三 俺と手袋とマフラー。[兄二](2010/11/13 22:37)
[33] 其の三十四 俺とロマンスはスコープの輝き。[兄二](2011/01/29 20:37)
[34] 其の三十五 俺と不調。[兄二](2010/11/21 23:05)
[35] 其の三十六 俺と隣の家事情。[兄二](2010/11/27 22:58)
[36] 其の三十七 俺とこたつより。[兄二](2010/11/28 22:14)
[37] 其の三十八 俺と学校の怪談再来。[兄二](2010/12/01 22:21)
[38] 其の三十九 俺と厄日。[兄二](2010/12/05 22:23)
[39] 其の四十 俺と誕生日。[兄二](2010/12/08 22:04)
[40] 其の四十一 俺と風邪。[兄二](2010/12/11 22:12)
[41] 其の四十二 俺と手加減。[兄二](2010/12/19 00:54)
[42] 其の四十三 俺と悪魔祓い。[兄二](2010/12/28 22:39)
[43] 其の四十四 俺と悪魔祓いというか。[兄二](2010/12/23 22:14)
[44] 其の四十五 俺と奴の誕生日。[兄二](2010/12/25 21:04)
[45] 其の四十六 俺と年の瀬。[兄二](2010/12/28 23:11)
[46] 其の四十七 明けましておめでボグシャア。[兄二](2011/01/01 22:12)
[47] 其の四十八 俺と大人の色香について。[兄二](2011/01/05 22:21)
[48] 其の四十九 俺と彼女の家。[兄二](2011/01/08 22:36)
[49] 其の五十 働く俺。[兄二](2011/01/11 22:00)
[50] 其の五十一 俺と悪魔。[兄二](2011/01/14 22:27)
[51] 其の五十二 俺と日常。[兄二](2011/01/17 21:31)
[52] 其の五十三 俺と狭き世界の日常。[兄二](2011/01/20 22:42)
[53] 其の五十四 俺と閻魔の休日の過ごし方。[兄二](2011/01/23 22:13)
[54] 其の五十五 俺と死亡遊戯。[兄二](2011/01/29 20:36)
[55] 其の五十六 俺とお前の遠距離恋愛。[兄二](2011/01/29 20:34)
[56] 其の五十七 俺とシュークリーム。[兄二](2011/02/01 23:18)
[57] 其の五十八 俺と節分。[兄二](2011/02/04 23:32)
[58] 其の五十九 俺と鎧。[兄二](2011/02/08 21:49)
[59] 其の六十 俺とあの日の少し前。[兄二](2011/02/12 23:23)
[60] 其の六十一 俺と奴の命日。[兄二](2011/02/14 22:46)
[61] 其の六十二 俺と奴の命日は終わったはずだ。[兄二](2011/02/17 22:28)
[62] 其の六十三 俺と弦楽器。[兄二](2011/02/20 22:04)
[63] 其の六十四 俺と心は侍。[兄二](2011/02/23 22:33)
[64] 其の六十五 じゃら男には友達が少ない。[兄二](2011/02/26 22:56)
[65] 其の六十六 俺と紅茶。[兄二](2011/03/04 21:49)
[66] 其の六十七 俺と小豆洗い。[兄二](2011/03/04 21:48)
[67] 其の六十八 俺と百合。[兄二](2011/03/10 22:55)
[68] 其の六十九 俺と妾。[兄二](2011/03/10 22:55)
[69] 其の七十 俺と手繋ぎ日常。[兄二](2011/03/13 17:12)
[70] 其の七十一 俺と貴方の近距離恋愛。[兄二](2011/03/16 21:49)
[71] 其の七十二 俺と日記。[兄二](2011/03/19 22:17)
[72] 其の七十三 絶対霊障祟神[兄二](2011/03/21 21:47)
[73] 俺と鬼と賽の河原と。絶対霊障祟神「一」[兄二](2011/03/23 21:01)
[74] 俺と鬼と賽の河原と。絶対霊障祟神「二」[兄二](2011/03/25 21:05)
[75] 俺と鬼と賽の河原と。絶対霊障祟神「三」[兄二](2011/03/29 22:29)
[76] 俺と鬼と賽の河原と。絶対霊障祟神「祓」[兄二](2011/04/01 22:35)
[77] 其の七十四 俺と事件の裏側で。[兄二](2011/07/17 15:56)
[78] 其の七十五 俺と手繋ぎ。[兄二](2011/04/07 23:19)
[79] 其の七十六 俺と構ってにゃん子。[兄二](2011/04/10 21:41)
[80] 其の七十七 俺と婆。[兄二](2011/04/14 23:01)
[81] 其の七十八 俺と更に。[兄二](2011/04/18 00:46)
[82] 其の七十九 俺と睡眠。[兄二](2011/04/20 22:28)
[83] 其の八十 俺とツンデレ。[兄二](2011/04/23 21:44)
[84] 其の八十一 俺と未知との遭遇。[兄二](2011/04/27 22:02)
[85] 其の八十二 俺と白いワンピース。[兄二](2011/04/30 23:59)
[86] 其の八十三 俺とお悩み相談。[兄二](2011/05/03 22:49)
[87] 其の八十四 俺と父親度。[兄二](2011/05/06 22:19)
[88] 其の八十五 俺と謎の李知さん。[兄二](2011/05/09 22:16)
[89] 其の八十六 俺と覇気。[兄二](2011/05/13 21:46)
[90] 其の八十七 如意ヶ嶽由壱は焦らない。[兄二](2011/05/16 22:07)
[91] 其の八十八 俺とお前の恋の駆け引き。[兄二](2011/05/20 22:33)
[92] 其の八十九 俺と死亡遊戯弐。[兄二](2011/05/22 22:29)
[93] 其の九十 俺と鍛錬。[兄二](2011/05/25 22:08)
[94] 其の九十一 俺と厠を行ったり来たり。[兄二](2011/05/29 22:01)
[95] 其の九十二 俺と山崎春の山崎祭り。[兄二](2011/06/02 21:44)
[96] 其の九十三 俺と既知との遭遇。[兄二](2011/06/05 21:58)
[97] 其の九十四 Dances Under The Half Moon.[兄二](2011/06/09 21:29)
[98] 其の九十五 Dances Under The Full Moon.[兄二](2011/06/12 21:42)
[99] 其の九十六 Dog Fight.[兄二](2011/06/16 21:54)
[100] 其の九十七 俺と狐に化かされて。[兄二](2011/06/19 22:41)
[101] 其の九十八 俺と死亡遊戯参。[兄二](2011/06/24 21:17)
[102] 其の九十九 俺と贈答品。[兄二](2011/06/27 22:04)
[103] 其の百 俺とあの子。[兄二](2011/07/03 20:23)
[104] 其の百一 山崎愛の一人劇場。[兄二](2011/07/07 21:41)
[105] 其の百二 俺と飼うとか飼われるとか。[兄二](2011/07/17 15:55)
[106] 其の百三 俺と道端の煙草。[兄二](2011/07/14 22:14)
[107] 其の百四 俺と年上の女性。[兄二](2011/07/17 22:27)
[108] 其の百五 俺と二重衝撃。[兄二](2011/07/21 22:13)
[109] 其の百六 私と夏。[兄二](2011/07/24 23:01)
[110] 其の百七 ああ素晴らしき夏。[兄二](2011/07/27 20:38)
[111] 其の百八 俺と写真機という名のカメラ。[兄二](2011/07/31 21:23)
[112] 其の百九 俺と祭る夏。[兄二](2011/08/04 22:02)
[113] 其の百十 俺とフワジャン。[兄二](2011/08/07 22:24)
[114] 其の百十一 俺とエプロン。[兄二](2011/08/17 22:40)
[115] 其の百十二 夏は甘くない。[兄二](2011/08/17 22:39)
[116] 其の百十三 俺とひんやりとした。[兄二](2011/08/17 22:38)
[117] 其の百十四 俺とぬか喜び。[兄二](2011/08/21 23:12)
[118] 其の百十五 俺の知らないところで千日手。[兄二](2011/08/25 22:10)
[119] 其の百十六 俺と愛沙と閻魔。[兄二](2011/08/29 22:31)
[120] 其の百十七 俺と不真面目な件について。[兄二](2011/09/01 22:09)
[121] 其の百十八 俺とSとM。[兄二](2011/09/04 21:45)
[122] 其の百十九 俺と敗北。[兄二](2011/09/11 22:27)
[123] 其の百二十 なんと単純な。[兄二](2011/09/15 21:47)
[124] 其の百二十一 しろがねの錬金術師[兄二](2011/09/18 22:20)
[125] 其の百二十二 快速スタンピード[兄二](2011/09/23 22:19)
[126] 其の百二十三 ハートフルボッコ。[兄二](2011/09/28 21:00)
[127] 其の百二十四 大体三十九度。[兄二](2011/10/02 22:09)
[128] 其の百二十五 俺と飲まれないでくれ本当に。[兄二](2011/10/05 22:24)
[129] 其の百二十六 俺とハニーバイト。[兄二](2011/10/09 21:20)
[130] 其の百二十七 俺と飲まれないでくれ本当に2。[兄二](2011/10/13 22:14)
[131] 其の百二十八 俺とベアー。[兄二](2011/10/18 23:24)
[132] 其の百二十九 俺と女子力。[兄二](2011/10/24 22:37)
[133] 其の百三十 俺と温かい手。[兄二](2011/10/28 21:34)
[134] 其の百三十一 生温ハロウィン。[兄二](2011/10/31 22:36)
[135] 其の百三十二 俺と熱と看病と。[兄二](2011/11/04 23:23)
[136] 其の百三十三 俺と回転。[兄二](2011/11/09 22:16)
[137] 其の百三十四 俺と赤い青い。[兄二](2011/12/04 22:27)
[138] 其の百三十五 俺と呪いの藁人形。[兄二](2011/12/04 22:27)
[139] 其の百三十六 俺と思い出の地。[兄二](2011/12/04 22:26)
[140] 其の百三十七 俺とサービス過剰。[兄二](2011/12/04 22:26)
[141] 其の百三十八 俺と飲まれないでくれ本当に3。[兄二](2011/12/04 22:26)
[142] 其の百三十九 俺と生首と事件。[兄二](2011/12/04 22:25)
[143] 其の百四十 俺と女の強さについて。[兄二](2011/12/08 20:53)
[144] 其の百四十一 乙女と言う名の男前。[兄二](2011/12/12 22:42)
[145] 其の百四十二 俺と首。[兄二](2011/12/15 21:51)
[146] 其の百四十三 俺と長さ約10.6メートル、幅約30センチメートルの布。[兄二](2011/12/23 22:44)
[147] 其の百四十四 俺と家事手伝い兼湯たんぽ。[兄二](2011/12/28 01:00)
[148] 其の百四十五 俺と聖誕祭。[兄二](2012/01/03 21:40)
[149] 其の百四十六 俺と大掃除。[兄二](2011/12/31 10:34)
[150] 其の百四十七 俺と彼女は店主。[兄二](2012/01/03 22:05)
[151] 其の百四十八 俺と怒り変換。[兄二](2012/01/09 22:25)
[152] 其の百四十九 俺というべきか私と言うべきか。[兄二](2012/01/15 22:34)
[153] 其の百五十 俺か私か、それともわたしか。[兄二](2012/01/19 21:44)
[154] 其の百五十一 彼女と俺の平行線。[兄二](2012/01/23 22:30)
[155] 俺と彼女の恋の行方。[兄二](2012/01/25 22:21)
[156] 其の百五十二 俺と棒が。[兄二](2012/01/29 22:24)
[157] 其の百五十三 俺とまさかの客。[兄二](2012/02/04 01:24)
[158] 其の百五十四 俺と襟巻き。[兄二](2012/02/05 22:41)
[159] 其の番外編「馬鹿」[兄二](2011/01/01 22:08)
[160] 其の番外編「身勝手だからこそ」[兄二](2011/01/01 22:05)
[161] 人物設定[兄二](2010/09/02 21:53)
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[20629] 其の百十三 俺とひんやりとした。
Name: 兄二◆adcfcfa1 ID:383300f2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/08/17 22:38
俺と鬼と賽の河原と。生生世世










「夏」

「まぁ、一応な」


 銀子はまあ、唐突だ。

 まあ、頭のいい奴ってのは、人より一個手順すっ飛ばして物事を進めるような奴だから唐突も仕方ないのかもしれないが。


「こんな話、知ってる?」

「ん?」


 やっぱり、唐突だ。

 そして、なんか神妙な顔をするから、俺も特に何も言わなかった。


「とあるカップルがドライブしてたんだけど」

「おう」

「それで、そこの道には老婆の幽霊がいるっていう噂があったの」

「ああ」

「それで、カップルはふらふらしてるお婆さんの影を見つけた」

「ん」

「そして、そのカップルは、アレが噂の幽霊? 面白いから突っ込んでみようって言って、アクセルを踏み込んだ」


 しかし、これって。


「ぐしゃ」


 怪談か。


「そのお婆さんはただのお婆さん。徘徊癖があるだけ。轢いちゃった。それから、本当にそこの道には、幽霊が彷徨うように……。おしまい」

「……で?」

「……で? って。何か、ない?」

「何が」


 俺が聞き返すと、銀子はこれ見よがしに溜息を吐いた。


「これだから貴方は……」

「なんだいきなり。つか、怖いの苦手なくせにいきなり怪談ってどいうこった」


 すると、銀子は口を尖らせて返す。


「たまには私じゃなくてやっくんが怯えてる姿みたかったんだもん」

「だもん、ってお前さん」


 そう言われても、というやつだ。


「切った張ったの世界じゃなぁ。内臓びろーんくらいじゃ驚いてらんねーし。妖怪の世界だから透けた人間が押入れの隙間から見つめてくるくらい日常茶飯事だからなぁ」

「なにそれこわい」


 そりゃあもう、自分の方が幽霊側だしな。


「昔、半透けの女が襖とかとにかくあれこれと隙間から覗いてきてたけど一ヶ月ガン無視したことあるぞ」

「……」














其の百十三 俺とひんやりとした。












 居間で、何故か二人立ちながら会話を続ける。

 座ればいいのだが、どちらも言い出さないので立ったままだった。


「で、俺を怖がらせたくて怪談を用意してきたわけか」

「夏だし」

「まあ怪談の季節ではあるが」


 そろそろ涼しくなり始め、ってとこだといいのだが。

 立秋が暑さが最大の日だとすれば、そろそろ涼しくてもいいはずだと思う。


「ところで銀子」

「なぁに?」


 無表情のまま、銀子は首を傾げてみせた。


「こんな話知ってるか?」

「……?」

「俺が昔住んでた場所……、まあ、山なんだが。その時俺は、天狗の集落に向かって歩いてた。丁度夕方だったか。木が繁っててまあ、薄暗かったわな。んでだな……、聞いてるか? まだ怖いとこ入ってないぞ」

「……ぇ、大丈夫」


 蚊の鳴くような声が返ってきた。

 まあ、本人が言ってるのだし大丈夫だろう。

 俺は話を続ける。


「するとだな……、感じるんだよ。視線をな」

「……いっ」


 ……本当に大丈夫か。肩が大きく飛び跳ねたぞ。


「さて、ここですぐ振り返るのは素人のやることだ。まず俺は風で気配を探って、そこに何か居ることを確定させた」

「う……」

「いる。間違い無くだ。だから、俺は歩幅を調節してできるだけ自然と距離を詰めた」

「こ、怖くない。怖くない。怖くない」


 無表情で小刻みに震えるお前さんのほうが怖いよ。


「そして俺は一気に振り返った――、が。いない。いないんだ。何処にも見えない。仕方ないから俺は前を見た」

「ほ」

「そしたら前に居たんだよ!! 首を吊った女がこっちを見て笑っているのさ!!」

「ひにゃあああああ!!」


 奇声を上げて、銀子が抱きついてきた。

 ぎゅっと全力で俺の胸辺りに顔を埋めて、小刻みに震えてる。


「銀子さーん? 大丈夫か?」

「そ、のあとどうしたの……?」


 幾分かくぐもった声が俺に届いた。

 やりすぎたか、と俺は、できるだけ明るく答える。


「あー、暖簾をくぐるように、失礼しますよっと、腕でのけて通り抜けさせてもらった」

「ぴぃっ!」

「いや、怖いかそれ」

「正気じゃない、それ。……漏れちゃう」

「さいで」


 正気を否定されてしまった俺はどうすればいいのやら。


「んで、お前さん、離れてくれないのかね」


 ただまあ、俺の正気を論ずる前に、抱きつかれたままではなにをするにしたって動きにくいのだ。

 だから、離して貰おうと、銀子の肩に手を置くが、しかし。


「……やだ」

「やだじゃなくてな」

「やだもん」


 やだもん、と来たか。

 突如駄々をこねるのはいかがなものかと思うのだが。

 まあ、こういう場合は、逆に少し怖がらせれば離れてくれるもんだろう。


「お前さん、もしかしたら顔を離して俺を見たら俺じゃなくなってるかも知れんぞ」

「……」


 篭る力。

 ……余計に離れなくなった。

 どうすっかなこれ。


「離れてもらえんかなー」

「やだ、怖い」


 ……。


「でぇい、何が来たって俺がぶっ飛ばしてやるから安心しやがれ」

「……ほんと? 守ってくれる?」

「おーよ。例え億の妖怪が攻めてきたって絶対守ってやる」

「ほんとにほんと?」

「ああ。必ず守る」


 そう言って、ぽんと銀子の頭の上に手を置く。

 するとやっと、抱きついたままながら、銀子は俺に向かって顔を上げてくれた。


「……信じる」

「そうかい」

「ところで」

「なんだ」

「……おトイレ行きたい……」

「大丈夫か」

「あっ……」


















 そうして、時間は経ち、夕方。


「どこ行くの?」

「……厠」

「私も行く」

「ねーよ」

「行く」

「ちょ、戸くらい閉めさせろ」

「やだ」

「何故」

「ドア閉めて、また開けたらいなくなってるかも」

「出るモノも出んわ」


 よしやめよう。切羽詰まるまではどうにか耐えよう。

 それより、このひよこか鴨の雛のような銀子をどうしたもんだか。

 昼間の話から、ずっと銀子はこうだ。


「貴方を怖がらせるために色々調べた。怖い」

「そりゃ自爆だ」


 居間まで歩いて、ソファに座る。

 銀子も当然のように俺の隣に座った。


「……しかし暑いな」


 夕方は西日がすごい。そろそろ涼しくなる時間帯だが、今この瞬間が暑いのは確かだ。

 ぽつりと呟いた言葉には、ひんやりとした声で返事が返ってきた。


「水風呂に入るべき」

「なんだいきなり」


 だが、確かに暑かったのだ。













 だが、どうしてこうなった。


「……」

「もっと嬉しそうにするべき」

「……なんでお前さんまで風呂に入ってるんだ」

「お風呂入りたかった」

「なぜ」

「冷や汗と汗と老廃物が」

「……言うな。察した」

「大丈夫、老廃物は大丈夫。多分。掛け湯もした。大丈夫……、ふぁみ通の銀子だよ?」

「それは信用を零にまで引き下げる魔法の言葉だ」


 確かにまあ、温い風呂は涼しくていい。

 それに、うちの風呂はやたら広いから二人入ろうがなんら問題は無いのだが。


「しかし、なんで一緒に入ってんだ」

「貴方は分かってない」

「なにが」

「頭を洗って、お湯で流すときに感じる背後の気配の恐怖を」

「……そーかい」


 半眼で返して、俺は立ち上がった。

 体を洗ってとっとと出よう。

 あまり良くない流れだ。これ以上の乱入者が現れる前に逃げたい。


「……照れる」

「知るか」


 そうして体を洗おうと俺が上がると、銀子もまたついてきた。

 俺は椅子に座り、手ぬぐいを取る。


「えい」


 すると、唐突に、銀子が背後から抱きついてきた。

 ふにふにとした、柔らかいような、どこがとは言わんが、さほど柔らかくない感触が伝わる。


「……なんの用だ」

「当ててる、程のモノがない」

「自虐か」


 俺の顔の横から、銀子が顔を出して来た。


「控えめな乳」

「自己主張も肝心だ」

「……いじわる」

「へいへい貧乳素敵ですね」

「えっち」

「ぶん殴るぞ」

「きゃん」

「まだ殴ってないぞ」

「背中、流す」

「いきなりだな」


 だが、まあここまで来て断ることも無い。黙って俺はそれを受けた。

 そうして、恙無く体を洗い、髪を洗う。

 すると、まあ、銀子の番だ。


「背中、お願い」

「……あー」


 先にされてしまった以上はやらないわけにも行かない。

 銀子の自分用のスポンジを握って、背中を擦る。

 そして、しばらく擦り続けると――。


「前もどうぞ」


 椅子の上をくるりと回転して、銀子がこちらを向いた。


「あんまり見ちゃダメ、すけべ」

「でい」

「め、めが、目が――」


 スポンジを顔にぶつける俺。

 人間調子に乗ってはいかんという一例である。


「阿呆なこと言ってないで自分で洗え」

「むむぅ……。守ってくれるって言った」

「それが今と何の関係があるんだ」

「汚れから守って?」

「人間、汚れもそこそこ必要だから問題ない」

「なんと。汚れているほうが好みなマニアック。汚銀子さんがいいの?」

「洗剤とタワシで汚れ落としてやろうか」

「むぅー……」


 ぶーたれながら、銀子は自分で体を洗う。

 俺は、明後日の方向を向いて待つことにした。

 そして、銀子が風呂桶で体の泡を落とし、頭を洗い始める。

 俺が待つこと数分。


「ね、やっくん」

「なんだ。変な頼みは聞かんぞ」


 流石にこれ以上銀子の遊びには付き合いきれない。

 そう先に釘を刺してみたのだが。

 しかし。


「……手、握ってて」


 要求は無駄に可愛らしいものだった。

 怖いのか。そうなのか。


「おー、そうかい」


 それくらいならいいだろう。

 差し出される銀子の手を握る。

 そして、銀子は水の入った風呂桶を持ち上げた。

 ただし、手がぷるぷると震えていた。


「おら」


 見かねて俺が、空いてる手で風呂桶を持ち上げる。


「ありがと」

「そい」

「にゃっ」


 想定外のところで水をかけられ驚く銀子を無視して、銀子の頭の泡が落ちるまで、同じ手順を繰り返した。


「きちく。どえす」

「なんとでも言うがいいわ」


 銀子の頭についた泡を完全に落として再び浴槽へ。

 なんだかんだ言って、温い風呂は気持ちよかった。


「出たくねーなー」

「じゃあ、ずっといる?」

「飯は食いたい」

「運んでもらう」

「……まあ程ほどで」





















 とりあえず、ちゃんと風呂からは上がる。

 夕飯も食った。

 そしたら、後は適当にして寝るだけだ。

 しかし、未だに銀子はちょろちょろとついてきている。


「やっくんの部屋くんかくんかしていい?」

「駄目」

「……写真立てになんで藍音の写真。しっとまっくすいぇー。私のも今度置いとく」

「こうしておいたら藍音が恥ずかしいんじゃないかと思ったんだが効果はいまひとつだった」

「じゃあ、私の写真置かれたらすごい恥ずかしい」

「まんじゅうこわいかこの野郎」


 勝手に、銀子は俺の部屋を見て回っている。

 たまに勝手に入ってくるし珍しいものも無いはずだが。

 そんな彼女は、要らんもんまで見つけ出す。


「丸まったティッシュ……、えっち」

「それ鼻血出たときの奴だ」

「えっち」


 まあ、しかし、困ることも無い。そんな銀子は無視して、俺はテレビを点ける。

 別にテレビ番組を見たいわけではないが。


「エロ本、探す」

「ねーよ」


 ゲーム機の電源を点けて、俺はコントローラーを握る。

 すると、銀子がふらりと俺の前に現れた。


「どした」


 聞くが、銀子は何も答えずに。


「……おい」


 ――背を向けて俺の膝に座った。


「満足」


 仕方ないから、下敷きにされた手を銀子の下から抜いて、銀子の太腿の上に乗せてコントローラーを安定させる。


「まったく、邪魔くせー」


 それだけ言って、俺はゲームを始めた。

 銀子は、体を捻るように後ろを向いて、俺を見上げてくる。

 無視して、俺はゲームを操作する。

 そして、しばらく立った時。

 不意に。


「やっくん」

「なんだ」


 ゲームをしながら、俺もちらりと銀子を見た。


「なんだかんだ言って」

「おう」

「――こうやって付き合ってくれる貴方はすき」


 俺はゲームの手を止めて、銀子を見た。


「……そーかい」


 ちなみに、ゲームのジャンルはスプラッタホラーアクションである。











 震えたり奇声を上げたり俺に抱きついたりしていたが、結局銀子は俺の膝を退かなかった。


「……腰が痛い」


 が、まあ。動くわけにもいくまい。


「呑気な顔して寝やがって――」


 いつ布団に入ったもんだか。





















―――
と言うわけで水風呂は銀子さんにやってやったぜ。




返信。

ズトラ様

まさかの二連裸エプロンでした。素晴らしい。
裸エプロンってつまり主婦のクールビズだったんですよ、きっと。
裸Yシャツは、薬師が基本Yシャツ装備だから、チャンスは多いんですけどね。
討伐されて剥ぎ取られて装備されるしかないですね、ええ。


奇々怪々様

ストッキングとガーターは必須アイテムです。わかってます。まあ、もう不能で問題ないんじゃないですかね。
それとも極限までマニアックなフェチでも持ってるんですかね……。変態的な。
そして、自分からは見せないよう装うけど、ちらちらと表情が見え隠れする藍音さんがジャスティス。私も顔色判断検定を取ってくるしか。
とりあえずかき氷を被ったら藍音さんにぺろぺろされるフラグで、逆もまた然りと。


七伏様

あの後は、体全体で薬師を冷やすことにしたようです。
ただしまたすぐ火照ることとなったようですけれども。
そして、薬師が起きると着衣の乱れが発見されるという流れでまず間違いないです。
明らかにメイドと主の爛れた現場ですが、目撃者がいたらさよならです。


SEVEN様

流石にリアルで幼子に裸エプロンされちゃ、最悪通報されますって。まあ、リアル幼女は普通に微笑ましいです。
全裸、そして通常裸エプロンよりも露出面積は小さくなるはずなのに、エロスは上がる。これが布面積反比例の法則……!?
そして、その言葉、リクエストとして受け取ってよろしいですね!?
という冗談はともかく、次銀子で怪談話でも書こうかなと思った矢先でオロナミンCが口から零れ落ちかけました。


黒茶色様

これからも、飽きるまでお付き合いくだされば、それで十分ですよ。
藍音さんはロマンの塊です。思い入れが強い一人です。
しかし、履いていない時は毎回、いやあえて履いているほうがいいのではないかと悩みます。そして自分が正気じゃないことに気が付く。
まあ、夏が暑いので露出が増えるのも仕方ない。もっとも最後に脱ぐべき布が無くても仕方ないんです。


通りすがり六世様

誤字、あとで直しておきます。ありがとうございました。と、言いつつ直そうと思ってうっかり忘れてることがあるのですぐ直しに行きます。
ブライアンと結婚すると、薬師の不幸にちょっとだけうっぷんが晴れるかもしれません。
しかし、藍音さんの浴衣は季節的に、次の順まで間に合うのか……、どこかでチャンスがあればいいですが。
とりあえず、相変わらず薬師のためならえんやこら。大根のように氷をおろします。無表情で。


wamer様

出てきていない、と言うことは、充電していると言うことなのです。AKMさんは発電量がちょっとあれですけど。
とりあえず、暑いからって藍音さんに裸エプロンさせたりかき氷作ってくれたり、裸で抱きしめてもらったり、銀子と水風呂入ったりするみたいですね茹蛸になれ。
これはもう、暑くも寒くもなく、痛くも快適でもない空間に放り込むしかないですね。
……雪女。新キャラ出したくなってくる病。





最後に。


資料としてホラー話をネットで漁ってるとつい読みふける罠が張ってあった。


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