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No.2045の一覧
[0] 家族ジャングル【TOA性格改変】[スイミン](2006/07/23 04:22)
[1] 0-1・切れない髪と血染めの木刀[スイミン](2006/04/02 16:23)
[2] 0-2 鼻血にティッシュといぶし銀[スイミン](2009/09/20 02:32)
[3] 0-3 海兵式稽古と歌うは母音[スイミン](2007/08/28 21:52)
[4] 0章までの登場人物紹介[スイミン](2006/04/04 21:15)
[5] 1-1 美人の甘さと夜の海[スイミン](2009/09/20 02:35)
[6] 1-2 大きな借りと思わぬ失言[スイミン](2009/09/26 20:37)
[7] 1-3 裁判もどきとお忍び導師[スイミン](2009/09/26 20:38)
[8] 1-4 女王の咆哮[スイミン](2009/09/26 20:42)
[9] 1-5 冥府に眠れ[スイミン](2009/09/26 20:45)
[10] 2ー1・連行されて戦艦、頼まれるは仲介[スイミン](2009/09/26 20:49)
[11] 2ー2・突然の孤立、向かうは艦橋へ[スイミン](2009/09/26 20:54)
[12] 2ー3・届かない夜[スイミン](2009/09/26 20:56)
[13] 2-4・零れ落ちた絆[スイミン](2009/09/26 21:05)
[14] 2-5・対峙する鏡像、漂うは死臭[スイミン](2009/09/26 21:11)
[15] 2-6・通り過ぎる言葉、決戦は屋上で[スイミン](2009/09/26 21:16)
[16] 2-7・囁き声[スイミン](2009/09/26 21:20)
[17] 2-8・貫け、カイザーディスト![スイミン](2009/09/26 21:26)
[18] 3-1・帰リ着キテ、王都 (閑話:公爵家の人々)[スイミン](2009/09/26 21:32)
[19] むかしむかしのおはなし 第一夜[スイミン](2006/05/17 21:18)
[20] 3-2・雨、降リシキリ[スイミン](2009/09/26 21:50)
[21] むかしむかしのおはなし 第二幕[スイミン](2006/05/24 19:28)
[22] 3-3・踏ミ越エル、熱砂[スイミン](2009/09/26 22:00)
[23] むかしむかしのおはなし 第三幕[スイミン](2006/05/28 00:17)
[24] 3-4・暴カレル、世界 ─前編─[スイミン](2009/09/26 22:10)
[25] 3-5・暴カレル、世界 ─後編─[スイミン](2009/09/26 22:20)
[26] むかしむかしのおはなし 終幕[スイミン](2007/01/03 17:01)
[27] 4-0・泡沫の夢 《改訂版》[スイミン](2006/06/14 22:58)
[28] 4-1・〝ルーク〟の誓い[スイミン](2006/06/14 23:34)
[29] 4-2・予期せぬ再会[スイミン](2009/09/26 22:26)
[30] 4-3・闇の胎動[スイミン](2009/09/26 22:28)
[31] 4-4 漆黒の闇 ─ソリスト─[スイミン](2009/09/26 22:33)
[32] 4-5 交わされる砲火[スイミン](2009/09/26 22:39)
[33] 4-6 紛い物の存在意義[スイミン](2009/09/26 22:49)
[34] 4-7 猛り狂う焔の宴[スイミン](2009/09/26 22:53)
[35] 4-8 紅蓮の焔 ─クインテット─[スイミン](2009/09/26 22:59)
[36] 5-1 受け止める者、抗う者 《改訂板》[スイミン](2009/09/26 23:02)
[37]  聖なる哉、聖なる哉 ─白の聖都─《改訂、追加版》[スイミン](2006/08/18 02:59)
[38] 5-2 それぞれの贖罪[スイミン](2006/08/28 03:41)
[39]  聖なる哉、聖なる哉 ─緋の御柱─[スイミン](2006/08/27 16:59)
[40] 5-3 朝焼けに染まる海[スイミン](2006/11/29 02:41)
[41]  聖なる哉、聖なる哉 ─銀の追憶─[スイミン](2006/11/05 19:20)
[42] 5-4 紅の饗宴[スイミン](2006/09/23 16:10)
[43]  聖なる哉、聖なる哉 ─黒の禁書庫─[スイミン](2009/09/20 03:11)
[44] 5-5 鼓動、鳴り響き[スイミン](2006/10/01 03:08)
[45] 5-6 覚醒する闇 《改稿版》[スイミン](2006/10/29 03:14)
[46] 6-1 闇から始まり[スイミン](2006/11/05 18:44)
[47] 6-2 地を伝い、風に揺らぐ[スイミン](2007/01/03 16:57)
[48] 6-3 水に浸かり、火と踊る[スイミン](2006/12/14 01:48)
[49] 6-4 果てに降る光 ─前編─[スイミン](2006/12/03 22:54)
[50] 6-4 果てに降る光 ─後編─[スイミン](2006/12/16 06:19)
[51] 6-5 音色は途絶え、そして刻は動き出す[スイミン](2009/09/20 03:03)
[52]  ──ある怪物の話し──[スイミン](2006/12/14 03:20)
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[2045] 4-5 交わされる砲火
Name: スイミン◆8b7cb1e2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/09/26 22:39


「マクガヴァンさん! みんな! 大丈夫かーっ!」


 セントビナー上空に停止したアルビオールからの呼び掛けに、建物の中に居た人々が続々と外に出る。
 誰もが一様に空を見上げ、今まで見たことも無い音機関の登場に呆然としている。

 上空から見る限り、ヒビ割れた大地は間断なく地響きを上げ続けている。
 それでも沈み込むスピードは緩やかなもので、この分なら完全な崩落までまだまだ時間はありそうだ。

 なんとか間に合った。その事実に俺は安堵する。
 そのままセントビナーを見下ろしていると、アルビオールの異様に騒めく人々をかき分け、マクガヴァン老が姿を現した。


「おお、あんたたちか! しかし、この乗り物は……?」
「元帥。話は後にしましょう。とにかく乗って下さい。みなさんも早く!」

 ジェイドの促しを受け、それもそうだと全員が慌ただしく動き出した。


 一時的に広場の部分にアルビオールを着陸させて、住民を乗り込ませる。
 その間も、いつ完全な崩落が起こるかわからない以上、気を抜くことはできない。
 なんとか残された住民全員をアルビオールに乗り込ませ、再び離陸できた段階になって、俺達もようやく緊張を解くことができた。


「ふぅ。どうにかなったな」
「ああ。だが……問題が無いわけでもないけどな」

 沈み行くセントビナーを見据えながらつぶやかれたガイの言葉が、俺の頭に妙に残った。
 その後、少しの休憩を挟んでから、ブリッジに街の代表者を集めて話をすることになった。

「まずは助けていただいたこと、感謝しますぞ」

 マクガヴァン老が頭を下げると同時に、他の街の有力者達も一斉に感謝の言葉を述べる。

「しかし、セントビナーはどうなってしまうのか……」

 暗い表情になって思わずといった様子でつぶやいたマクガヴァン老に、ティアが言い難そうに答える。

「今はまだ浮いているけれど、このまましばらくするとマントルに沈むでしょうね……」
「なんと! どうにかならんのか!?」
「ここはホドが崩落した時の状況に似ているわ。その時は結局、一月後に大陸全体が沈んだそうよ」
「ホド……」

 その言葉を口にした後、マクガヴァン老はどこか不自然な程表情を無くし、口を閉じた。

「そうか……これはホドの復讐なんじゃな」

 小さくつぶやかれた言葉に、俺は思わず顔を向ける。

 ホドの……復讐? 復讐という言葉で、俺の頭に浮かんだのはヴァンの姿だった。
 他の連中にはマクガヴァン老の言葉は聞こえなかったようで、今後どう行動するかの話を進めている。
 俺は静かにマクガヴァン老の隣に並んで、そっと尋ねる。

「ホドの復讐って……どういうことですか?」
「……君は?」
「俺はルークと言います。キムラスカのファブレ公爵の……」

 息子、と続けようとして、言葉を止める。

 よくよく考えてみれば、それもあんまり正確な表現じゃない。
 そもそも俺に血のつながりがある人間は存在しないわけで、オヤジ達は俺の育ての親ってことになるかもしれないが……俺の真実を知った二人が、それで俺をどう思うかまでは、わからない。

 難しい顔で黙り込んだ俺を不思議そうに見返す相手に、とりあえず現時点で確かな事実を告げておく。

「まあ……関係者です」
「ファブレ公の関係者ということは、キムラスカのお人か。君たちは……ホドについて、どう聞かされているかね?」
「……ファブレ公爵が攻め込んだ後、崩落したと」

 俺の答えに、マクガヴァン老は皺の刻まれた顔に複雑な感情を過らせる。

「……機密に属するため、詳しくは言えん。だから、これは老人の戯言と思ってくれ」

 深い悔恨の思いを浮かべながら、マクガヴァン老はその言葉を告げる。

「ホドの崩落は、わしの背負った罪だ」

 マクガヴァン老の洩らした懺悔に、俺はそれ以上尋ねることができなかった。

 マクガヴァン老はかつてマルクトの元帥だったと言う。
 かつてそれほど軍の上層部に居たなら、教団からなにがしかの情報を受け取っていてもおかしくはない。
 ホドの崩落がスコアに詠まれていたなら、教団はそうなるべく誘導しただろう。
 それを受けて元帥がどう行動したか……改めて考えるまでもない。


 口を噤んでしまったマクガヴァン老と俺の間に重苦しい空気が降りる。
 こういうドンヨリした空気は、なんとも耐え難いもんがあるだけどなぁ……。

 俺は小さくため息をついて、マクガヴァン老から仲間達に視線を戻す。

 今後どうするかについて話し合っていたはずだが、向こうは向こうで難しい顔して首を突き合わせている姿が目に入る。どうやらかなり煮詰まっているようだ。

「本当になんともならないのでしょうか?」
「住む所がなくなるのは可哀想ですの……」
「大体、大地が落っこちるってだけで常識外れなのに、なんにも思いつかないよ~。超無理!」

 お手上げと騒ぎ始めるアニスを宥めるように、ジェイドがまぁまぁと手を掲げる。

「とりあえず、ユリアシティに行きましょう。彼らはセフィロトについて我々より詳しい。ルーク達の話を聞く限り、協力を申し出るのは難しそうでしたが、セントビナーは崩落しないという預言が狂った今なら……」
「そうだわ。今ならお祖父様も力を貸してくれるかもしれない」

 ティアも同意し、ひとまずユリアシティに行くことで意見がまとまったようだ。

 しかし、俺としてはうまくいくかどうか疑問だね。

「ユリアシティに行って相談か……本当に、協力してくれんのかね?」
「お祖父さまも……そこまで話のわからない人だとは思わない。今はスコアから外れた現象が起きているわけだし……」
「……悪い。そうだな。確かに、今なら話を聞いてくれるかもな」

 顔をうつむけるティアの姿に、俺は自分の考えの足りなさを思い知らされる。
 どんな考え持った相手だろうと、テオドーロ市長はティアの肉親だ。信じたいって気持ちは……俺にもわかる。

 俺達の会話を黙って聞いていたノエルが、操縦席から身を乗り出して確認を取る。

「では、ユリアシティに向かうということで、よろしいですか?」
「ええ。お願いします。おそらく旧アクゼリュスの崩落部分から、魔界に降下できると思います」

 大佐の言葉を受けて、ノエルがアルビオールの操縦桿を握る。

「わかりました。──それではアルビオールを発進させます!」

 アルビオールの銀影が雲を切り裂き、蒼天を駆け抜けた。




              * * *




 ユリアシティのドックにアルビオールを停泊させる。
 セントビナーの住民を誘導し、ひとまず市長に挨拶しようと街の入り口付近まで移動したところで、思いがけぬ人物に遭遇する。


「お祖父様!」
「来ると思って待っていたぞ」 

 港から街に続く部分に佇み、テオドーロ市長が深刻な顔で俺達を出迎えた。


「お祖父様、力を貸して! セントビナーを助けたいんです」
「それしかないだろう。よもやこのような事態になるとは。預言から外れし行動……恐ろしいものだ」

 市長が協力すると約束してくれたのを見て、イオンが前に進み出る。

 憔悴したセントビナーの住民の様子を気にしていたイオンは、次のような提案を告げた。

「お話の前に、セントビナーの方たちを休ませてあげたいんですが」
「そうですな。こちらでお預かりしましょう」
「……お世話になります」

 テオドーロ市長の指示を受け、セントビナーの住民が街のある方に案内されていく。

 これで当分の間はなんとかなったってことだが、崩落がどうにかならない限りセントビナーの住民に本当の意味での安息は訪れない。

 残された俺達は改めて市長に向き直り、本題に入る。

「市長、崩落は……本当にどうにもならないんですか?」
「……ひとまず、会議室に移動しましょう」

 疲れ切った表情の市長に促されるまま、俺達は会議室まで移動した。

 やはり、市長としてもセントビナーが崩落するなんて事態に動揺が大きいんだろう。
 たとえそれが……どんな考えから来たもんであろうとも、な。
 少し冷めた思いで市長を見据えていると、俺の考えを読み取ったのか、ジェイドが小さく囁いた。

「アクゼリュスの預言については聞いています。ですが、個人的な感情は抑えて欲しいものです。今は協力を取り付けることが重要ですからね」
「……わかってるさ」

 少しふくれっ面になって応じた俺に、ジェイドは肩を竦めて見せた。

 俺だってそこら辺のことはわかってる。気に入らない相手だろうと、多少の我を押さえることぐらいはできる。
 もっとも今後の話の展開次第じゃ……俺もどう出るかわからねぇけどな。

 内心で不穏なことを考えていると、いつのまにか会議室に到着していた。
 縦長の机が部屋の中心に据えられた部屋で、俺達はさっそく話し合いを始める。

「単刀直入に聞きます。セントビナーを救う方法はありませんか?」
「……難しいですな」

 渋面になって、市長が現在セントビナー周辺を支えるセフィロトに何が起こっているか説明した。

 それによると、現在セントビナー周辺のセフィロトを制御するパッセージリングから、外郭に向けて伸びるはずのセフィロトツリーが確認できなくなっているらしい。
 仮にセフィロトツリーを復活させたとしても、一度勢いを失くしたツリーでは崩落を停めることはできないという話だ。


「崩落すること自体は停められないってことか……」

 専門家から告げられた自体の深刻さに、俺達としても頭が痛い。
 そう言えば、と不意に市長がなにかを思い出したように顔を上げる。

「ユリアが使ったと言われるローレライの鍵があれば或いは……とも思いますが」
「ローレライの鍵? そいつは何ですか? なんか聞いたことがあるような、ないような……」

 おぼろげな記憶を探り、なんだったか思い出そうと頭を捻っていると、ジェイドが説明してくれた。

「ローレライの剣と宝珠のことを指してそう言うんですよ。確か、プラネットストームを発生させる時に使ったものでしたね。ユリアがローレライと契約を交わす際に用いられた触媒のことを指していると聞いたことがありますが」
「そうです。ローレライの鍵はユリアがローレライの力を借り受ける為に作られた第七音素限定で力を発揮する響奏器と言われています」

 二人の話を聞く内に、俺の記憶が刺激される。
 ──脳裏に浮かぶのは一本の剣。
 剣は音叉のような形状をしている。

「ローレライの剣は第七音素を結集させ、ローレライの宝珠は第七音素を拡散する。鍵そのものも第七音素で構成されていると言われているわ。ユリアは鍵にローレライそのものを宿し、ローレライの力を自在に操ったとか……」
「その真偽はともかくセフィロトを自在に操る力は確かにあったそうですな」

 俺がアクゼリュスを崩落させたとき、剣は周囲から第七音素を集束させていた。
 ヴァンやアッシュはあの剣のことをなんて呼んでいた? そう、確か二人はあの剣のことを──

「……鍵だ」

 唐突な俺の発言に会話が止まり、皆の視線が俺に集中する。

「そうだ、鍵だ。バチカルの廃工場を抜けた先で、アッシュが俺に預けた剣を……俺がアクゼリュスを崩落させた時に周囲から第七音素を集束させていた剣を、ヴァンの奴は鍵って呼んでいたぜ」

 あの剣が俺の放った超振動の威力を後押ししたのも、第七音素を結集させるローレライ鍵だったからって理由なら、理解できる。アッシュの奴も、俺に対して鍵を預けるべきじゃなかったとか吐き捨ててたっけな。

「……その剣は今どこに?」
「今はアッシュが持ってるはずだ。セフィロトを自在に操る力があるんなら……そのローレライの鍵があれば、セントビナーの崩落もどうにかなるのか?」

 市長の顔を見つめ返す。市長としても鍵の話はとりあえず話しに出してみるかぐらいに思っていたんだろう。動揺したように眉をしかめながら、必死に事実を整理しようとしている様が見て取れた。

 ティアが俺の出した鍵の話題に、なにかを思い出しながら途切れ途切れ口を開く。

「ローレライの鍵は確か……プラネットストームを発生させた後、地核に沈めてしまったと伝わっていたはずだけど……」

 ティアの出した新たな情報に、市長が辛うじて口を開く。

「確かにそう伝えられている。ルーク殿が仰られた剣がローレライの鍵のことであり、鍵が現存していたというなら、それは驚くべき事実です。事実なのですが……先程述べたように、一度崩落したセントビナーを外殻大地まで再浮上させるのは、どちらにせよ無理だと思います」
「……いったい、どうして?」
「仮に鍵が現存しているにせよ、今も正常に機能しているかどうかはわかりません。セフィロトを自在に操る力があったというのも、ローレライとの契約があった上でのこと。地核に沈められた際にローレライは鍵から解放されたとも聞いています。再び契約を結ぼうにも……契約に必要となる大譜歌も、今では第七譜歌が失われており、再現することは難しい」
「そうですか……」

 ようするに、アッシュの持ってる剣が鍵であったとしても、話しに伝わっている程の力を発揮できる可能性は薄いってことか。確かにアッシュの奴も、なんだか鍵の機能が正常に作動してなさげなのを気にしてたような気がする。俺に剣を握らせて何かを確かめようとしてた節があったっけな。

「それにしても、大譜歌ですか? ……そういえば、譜歌には何個か種類があるんだったけか?」

 市長から視線を移し、俺は譜歌に詳しいティアに問いかけた。

「ええ。ユリアの譜歌は全部で七つあるの。今のところ私の扱える譜歌は第一と第二だけ……。譜歌はたとえ旋律を知っていても、そこに込められた意味と英知──『象徴』を正しく理解しなければただの歌でしかないの」
「譜歌ってのは、随分と厄介なもんなんだな」
「そうね……私も第三と第五の象徴は未だわからない。それと、先程お祖父さまの言った大譜歌とは、七つの譜歌を連続して詠うことで発動する譜歌のことよ。これは象徴を知らなくても機能するの。歌が契約の証そのものだから」

 もっとも七番目の歌詞はわからないけれど、と最後に付け加えた。

 どうやら、ますます鍵があってもどうしようもなさそうだ。
 さっきの話しには出て来なかったが、そもそもローレライが存在するかどうか自体も証明されてないとか、キャッツベルトの船上でジェイドが言ってたもんな。
 そして仮に存在したとしても、契約に必要な七番目の譜歌がわからないと。


「う~ん。結局、どうしようもないのかなぁ」

 アニスがこれまでの話しを踏まえ、なんとも簡潔にまとめてみせた。
 一同を重苦しい空気が包む中、市長が不意につぶやく。

「……いえ、もしかしたら、液状化した大地に飲み込まれない程度なら、或いは……」
「方法があるんですか!?」

 思わず立ち上がって問い詰めた俺に、市長が少し考えをまとめるように瞼を閉じながら提案する。

「セフィロトはパッセージリングという装置で制御されています。パッセージリングを操作してセフィロトツリーを復活させれば泥の海に浮かせるぐらいなら……」

 なんとかなるかもしれません、と少し自信なさげに締め括った。
 俺達は顔を見合せ、さらに詳しい話を聞いてみることに決めた。
 どれほど可能性が低くても、それ以外に対策がないなら、かけてみるしかないだろうな。

「具体的には、どうすれば?」
「セントビナー周辺のセフィロトを制御していたパッセージリングがある場所へ赴き、直接操作する以外にないでしょうな」

 なんでも件のパッセージリングがある場所はシュレーの丘と呼ばれており、イオンによると、自分がタルタロスからさらわれた時に連れ行かれたのも、そこだったって話だ。

「後は問題となるのは、パッセージリングの操作を封じていた封咒に関することでしょうな」
「封咒……っていうと、あのイオンが解除させられてた奴みたいなのですか?」
「ええ。それもあるのですが……問題はセフィロト内部にあるものでして……」

 市長によると、封咒はパッセージリングの防衛機構全体のことを指し、大きく三段階に別れているらしい。
 第一段階がセフィロトへの出入りを不可能にする「ダアト式封咒」。
 もう一つはホドの第八セフィロトとアクゼリュスの第五セフィロトによって、すべてのセフィロトのパッセージリングを操作できないようにした「アルバート式封咒」。
 最後は、パッセージリングの制御そのものを規制する「ユリア式封咒」。

 これらのうちアルバート式封咒に関しては、かつてのホド消滅と、俺の起こしたアクゼリュスの崩落によって完全に無効化されている。
 ダアト式封咒に関しては、イオンが拉致されて解かされた場所が無数存在する。

 そして問題となっているのが、最後のユリア式封咒だ。
 驚くべきことに、これをヴァンの奴がいったいどうやって解除しているのか、市長とイオンどっちにも検討すらつかないらしい。


「本来、ユリア式封咒は約束の時まで解けるはずがなかったのですが……」


 なんというか、どこまで行っても問題ばっかだな。
 新たな問題にますます頭が痛くなってきたところで、ひとまずジェイドがまとめに入る。


「ともかく、今はグランツ謡将がどうやってユリア式封咒を解いたかは後にしましょう。テオドーロ市長、パッセージリングの操作はどうすればいいのですか?」
「第七音素が必要だと聞いています。全ての操作盤が第七音素を使わないと動きません」
「それなら俺たちの仲間には三人も使い手がいるじゃないか」
「私とティアとルークですわね」

 ガイとナタリアの言う通り、操作する人材に関しては心配する必要なさそうだな。

「あとはヴァンがパッセージリングに余計なことをしていなければ……」

 自分の孫が仕出かした事態だ。さすがに焦燥した様子で市長がつぶやく。
 だが、それに関してはここで言っていても始まらない。

「……それは行ってみないとわからないわね」
「シュレーの丘はセントビナーの東辺りか。それならたぶん街と一緒に崩落してるよな」

 とりあえず行ってみるしかないか。俺達は今後の方針を決め、シュレーの丘へ向かうことになった。


 去り際になって、市長が今思い出したといった様子で、ティアを呼び止める。

「ああ、それとティア。レイラが探していたぞ。第三譜歌の象徴に関して、何かわかったらしい」
「レイラ様が? わかったわ」

 そのまま会議室を出たところで、ひとまず準備のために一時解散することになった。
 それぞれ装備を整えに、街へ別れていく。
 そんな中、去り際の市長とティアの会話が気になった俺は彼女に近づく。

「第三譜歌って、さっき言ってたティアがまだ使えない譜歌のことだよな?」

 不躾な俺の問い掛けに、ティアは少し意外そうに瞳を揺らした後で、こくりと頷きを返す。

「ええ。私が外郭に行っている間、レイラ様に頼んで第三譜歌の象徴について調べて貰っていたのだけれど、なにかわかったのかもしれない。……これからレイラ様のところに行くけど、ルークも来る?」
「一緒に行ってもいいのか? なら、お願いするよ。譜歌について、少し気になってたんだ」

 アッシュが持ってた剣が鍵なら、譜歌についてより詳しく知っておくのは無駄にならないはずだ。
 自分の考えに沈んでいると、そうした俺の様子になにかを察してか、ティアが俺の顔を覗き込む。

「アッシュのことが気になる?」
「……まあな。あいつが鍵って呼んでた剣を、俺も少しの間持ってた訳だからな」

 ローレライとの契約が無理だとしても、あの剣に第七音素を集束させる力があるのは確かだ。アクゼリュス崩落の際……身をもって思い知ってるからな。

「しかし、いったいヴァンの奴は何がしたいんだろうな……」

 アクゼリュス崩落直後は、事態の深刻さに頭がよく回らなかった。
 だからこそ単純に世界に復讐しようとしてるのかと考えていられたわけだが、こうして時間が経って、いろいろと情報が集まった中で改めて考えてみると、どうにも復讐だけを狙ってるようには思えなくなってきてしまった。

 ガイから聞いた話からも、大地の崩落が地核から記憶粒子を引き出した結果起きる副産物的なものだとかって話だしな。

 まあ、目的は何にしろ、厄介な事態に違いはないわけだが、それでも気になるものは気になるわけだ。

「今のところわかってる情報すり合わせて考えてみても、やっぱ最終的な目的がなんも見えて来ないんだよなぁ……。ティアはその辺、どう思うよ?」
「そうね……大地を崩落させ、世界に復讐する。それだけが兄の考えだとは、私にも思えない。……リグレット教官が言っていた『スコアから解放された世界』が意味するものが……私は気になるわ」

 確かに、ヴァンの奴もアクゼリュスのセフィロト内でスコアについていろいろと言ってたな。あのときは単なる戯言と聞き流してたが、けっこう重要な事を言っていたのかもしれない。

「このままヴァンの起こした行動に対処するだけじゃ、正直まずいと思うんだけどな……」

 俺達の起こした行動は全て、後手に回っているのが現状だ。
 このまま相手の目的もわからんまま場当たり的な対処を繰り返していては、そのうち目的に気付けたとしても、そのときには既に取り返しのつかない事態になってそうで、俺としては落ち着かない。

「……ディストがセントビナーを襲撃した理由も気になるわね」
「ああ……確かに。なんかマクガヴァン邸から奪って行ったっけな」

 家宝とか呼ばれてた槍が盗み出された光景を思い出す。
 その際、ディストの乗ってた譜業兵器の残骸に、どこか見覚えのある杖が残されてた訳だが。

「この杖も何なんだろうな……」

 道具入れから杖を取り出し、改めて見据える。

 手に入れた直後は奇妙な鼓動を繰り返し、異様な雰囲気を放っていたが、今では大人しい限りだ。普通に店で売っているような杖と変わらない。

「ガイの話を聞く限り……アッシュは兄さんが響奏器を集めさせているとも言っていたそうね」

 響奏器って言うと、鍵と同じように、集合意識体を使役するってやつだよな。
 
 ……ん? 話の流れから考えると、ティアはこの杖を疑ってるってことか?

「この杖が……響奏器だっていうのか?」
「まだわからないわ。でもシュレーの丘から帰ったら、響奏器に関して調べてみる必要がありそうね」

 確かに……今のところわかってる限りでも、かなりの部分で響奏器が関係している。
 アッシュのもってた剣も突き詰めれば奏器の一種だ。
 ディストがマクガヴァン邸を襲撃した際、奪って行った槍も響奏器である可能性は高い。
 そう考えると、響奏器ついて調べてみるのは無駄じゃないだろう。


 そんな風に話してるうちに、目的の場所に到達した。


 巨大な譜石が安置された空間。
 なにやら機械が設置された部分で作業をしていた女性が部屋に入った俺達に気づき、顔を上げる。

「待っていたわ、ティア」
「レイラ様。第三譜歌の象徴について、何かわかったと聞いてますが……?」
「ええ。ヴァンの残した本があったの。本自体はどこにでもある譜術の研究書よ。ただ、一番最後に隠されたページを見つけたの」

 席を立ち、レイラが一冊の本を手渡す。

「これが写しよ。私には意味がわからないんだけど、あなたなら……」
「これは……!」

 開かれたページを見据えていたティアが急に声を上げた。同時に、音素の光が彼女を中心に集束する。

「ヴァ・レイ・ズェ・トゥエ……。母なる者……理解……ルグニカの地に広がる……壮麗たる……天使の歌声……」

 目に見えるまで強まった音素が、光の粒子となってティアの周囲を舞い踊る。

「な、なんだ?」

 突然目の前に広がった光景に思わず間抜けな声を洩らした俺に向けて、レイラが注意を促す。

「静かに。ティアは瞑想に入ったわ。……やっぱり、これは譜歌の象徴だったのね」

 茫洋とした瞳でトランス状態に入っていたティアだったが、しばらくするとその瞳に光が戻る。

「……わかったわ。これが第三譜歌なのね」

 音素の光も既に収まり、ティアもすっかり普段の様子を取り戻している。

「それで、隠されたなんとかってのを理解できたのか?」

 ちょっとオドオドしながら、ティアに肝心の譜歌が習得できたのか尋ねると、彼女は静かに頷き返す。

「ええ……」
「おめでとうティア!」

 うおっ! 俺とティアの間に割って入り、どこか興奮した様子でレイラがティアの手を取る。そんなレイラの様子に、ティアもまた表情をほころばせて応じる。

「ありがとうございます、レイラ様。それと……この象徴の写し、もらっていってもいいですか? ここには他の象徴についても記述されています。ただ……」

 少しいい難そうに、その先の言葉を続ける。

「私の理解力では、まだ使いこなすことができないけれど……」

 しかし、レイラは特に拘るでもなく、ティアの肩に両手を添える。

「もちろんよ。いつか役に立つわ。あなたの力がもっと強くなったときに、ね」

 優しい瞳を向けるレイラに、ティアもまた力強く頷きを返す。

「はい! ありがとうございます」

 こうして、ティアは第三譜歌の力を手に入れた。

 しかし……なんというか、俺って場違い?
 感動した二人から離れた場所にポツンと佇み、俺はひとり疎外感を味わう。
 ま……まあ、別にいいけどな。




              * * *




 シュレーの丘は入り口が譜術によって隠されていたが、それ以外に障害らしい障害はなにもなかった。
 これまで行く先々で六神将に邪魔されてたのを考えれば順調そのものといった感じで、俺達はセフィロト内部のパッセージリングがある箇所まで呆気なく到着した。
 淡い音素の光が立ち上るパッセージリングを見上げ、どう操作したものかと皆で首を捻る。


「ただの音機関じゃないな。どうすりゃいいのかさっぱりだ」

 音機関に詳しいガイもさすがにお手上げのようだ。

「……おかしい。これはユリア式封咒が解除されていません」
「どういうことでしょう。グランツ謡将はこれを操作したのでは……」

 パッセージリングを見上げていたジェイドの思わぬ言葉に、俺達としても途方に暮れてしまう。

 ユリア式封咒が解除されてないなら、俺達にも操作はできない。

「え~ここまで来て無駄足ってことですかぁ?」
「何か方法がある筈ですわ。調べてみましょう」

 パッセージリングの周囲を歩きながら、なにかしらの反応がないもんかと皆で調べて回る。

 俺が見る限り一番怪しいのは、やっぱ入り口から見た正面にある操作盤らしきもんだろうな。どっかそれらしき部分はないものかと、目を凝らしながら制御盤らしきもんに近づく。


 思考に、ノイズが走る。


 ────■■■を据え■■世界■■■し繰り返されし■■地獄■■解放────


「ぐっ……」

 いつも電波が飛んで来るとき感じるような激しい頭痛に襲われ、俺はその場に膝をつく。

 俺の様子に気付いたガイがいち早く駆け寄って来る。

「ルーク、大丈夫か?」
「……大丈夫だ」

 額に浮かぶ脂汗を拭い取って答えながら、俺は脳裏に焼き付けられた一つのイメージについて考える。

 闇色の杖をパッセージリングに向けてかざす男の姿。

 あのイメージが、かつてこの場で起こった事を示しているなら……どうにかなるかもしれない。

 俺は道具袋の中から、ディストの落としていった杖を取り出す。杖は暗い燐光をまといながら、一定間隔で鼓動を繰り返している。ユリアシティで確認したときと異なり、今は確かな力を感じさせる。

「ルーク、なにを?」

 怪訝そうに呼び止める声には答えず、俺はヴァンがアクゼリュスのパッセージリングでしていた行動を思い返しながら、杖を制御盤に近づけてみる。

 劇的な反応があった。

「こいつは……?」

 閉じられた本が開かれるように、制御版らしきものがゆっくりと左右に別たれていく。制御盤に杖を近づければ近づける程、杖が発する鼓動の感覚が早まり、制御盤の動きも活発なものになっていく。動きが活発になるにつれ、制御盤から杖に向けてなにかが流れ込むのがわかった。

 しばらくの間、そうして杖を突き付けていると、制御盤は完全に左右に開かれた。同時にパッセージリング上空に文字が浮び上がる。

 因果関係はわからないが、どうも解除できたようだ。

「……これがユリア式封咒ってやつか? なんか、よくわからん内に解けたっぽいけど」
「そのようですね……しかし、ディストの奴、いったいなにを……」

 ジェイドが杖とパッセージリングを見比べ、しきりに首を捻っている。

「ともかく、もう杖はいいか……って、あれ?」

 もう大丈夫かと思って杖を制御盤から離した途端、左右に別たれていた制御盤がもとに戻り始める。完全にもとに戻ってしまう前に、俺は慌てて再び杖を突き付ける。すると、制御盤が再び左右に開かれていった。

「……どういうことだ?」
「……わかりません。しかし杖を突き付けている間は、確かに解呪されているようですね。とにかく、これで制御できるはずです。ルークはそのままの体勢でお願いします」
「あ、ああ。わかったぜ」

 ま、確かに原因とか詮索するよりも、今は操作するのが先決か。

 大佐としても原因が気にならない訳じゃないだろうが、ひとまず操作に専念することに決まった。

「あ、この文字パッセージリングの説明っぽい」

 アニスの指摘に見上げてみると、パッセージリングの上空に浮かんだ一部の文字が点滅している。

「……グランツ謡将やってくれましたね」

 虚空に浮び上がった文字を確認していたジェイドが、低い声で呻く。

「兄が何かしたのですか?」
「セフィロトがツリーを再生しないように弁を閉じています」
「どういうことですの?」
「つまり暗号によって操作できないようにされていると言うことですね」

 うーむ。深刻な事態だってことはわかるんだが、杖を掲げ続けてるってのも、けっこう腕が疲れるもんだ。少し蚊帳の外に置かれてるのを感じながら、俺はぼけーっと皆が話し合ってる内容を耳にする。

「暗号、解けないですの?」
「私が第七音素を使えるなら解いて見せます。しかし……」

 言葉を濁すジェイドに、俺もその事実を思い出す。

 そういや、さすがのジェイドも第七音素だけは使えなかったよな。

「ならさ、暗号自体はどんな感じなんだ?」
「……なかなか複雑なものですよ」

 どういうこった? よく意味がわからない返事に、さらに詳しい話を聞いてみる。

 なんでもジェイドの話によると、この場にいる第七音素の使い手じゃ、このレベルの暗号を解くのは難しいらしい。まあ、学術書とかまで出してるジェイド以上に、音素の扱いに通じているような奴が居るとも思えないけどな。

 しかし、第七音素で書き込まれた暗号ねぇ……。

 パッセージリングの上に浮かぶ文字列を見上げる。市長からも、基本的にパッセージリングの操作はすべて第七音素をもって制御されてるだろうって話は聞いていた。実際、ジェイドが見た限りでも、間違いはなさそうで、暗号が施されている部分も第七音素が集まって構成されてるそうだ。

 ん? 第七音素で構成ってことは……どうにかなるかもしれないな。俺は一つの解決策を口にする。

「俺が超振動で、暗号とか弁とかを消したらどうだ? 超振動も第七音素だろ?」
「……暗号だけを消せるなら、なんとかなるかも知れません」

 俺のかなり乱暴な提案に、ジェイドが慎重に言葉を選びながらも、同意した。

 しかし、それにティアが真っ先に反応する。

「ルーク!? あなた、まだ制御が……」

 俺が超振動制御の訓練をしている間、いろいろと面倒見てくれていたのは彼女だ。俺の制御の未熟さは、誰よりもわかってるんだろうな。

 だが、それでも俺は……ここで立ち止まるわけにはいかない。

「俺にやらせてくれねぇか、ティア。制御がまだ甘いのは……俺だってわかってる。だけどよ、ここで失敗しても何もしないのと結果は同じだろ? なら、やるだけやらせてくれねぇか?」

 真剣な表情で見据える俺の瞳を受け、ティアが迷いに視線を彷徨わせる。

「……そうね。その通りだわ」

 少しの逡巡を挟んだ後で、ティアも最終的には同意してくれた。

「……ありがとな」

 俺はパッセージリングに向き直る。集中しようと身構えた所で、手にした杖をどうしたものかと考える。杖をかざしたままにしとかないとパッセージリングは操作できないが、集中するには邪魔すぎる。

「あー……ティア、杖を頼むぜ。さすがにこの体勢だと集中出来そうにないからな」
「ええ。わかったわ」

 ティアに杖を渡す。そのとき、彼女と視線が交わる。不安そうに揺らめく瞳に、俺は最大限の信頼を示すために、力強く頷き返す。彼女もそれ以上余計なことは言わず、ただ一言をもって俺を送り出す。

「ルーク……気をつけて」
「任せとけって」

 たいしたことではないと軽い口調で請け負って、俺は改めてパッセージリングに向き直る。

「それでジェイド、どこ消せばいいかわかるか?」
「第三セフィロトを示す図の外側が赤く光っているでしょう。その赤い部分だけを削除して下さい」
「わかった」

 気分を落ち着かせ、大きく息を吸い込み──意識を研ぎ澄ませる。

 体内のフォン・スロットを感じる。周囲を漂う微細な第七音素の存在を意識する。

 第七音素は数ある音素の中でも異質な音素だ。確たる属性を持たず、制御もまた困難を要する。

 だが同時に、俺のようなやつにとっては、なによりも身近な存在だとも言える。

 ジェイドから聞いた話だと、レプリカの身体は第七音素と元素が結びつき構成されるらしい。つまりは、俺たちは第七音素から生まれたとも言えるわけだ。

 そんな第七音素の申し子とも言える俺が、この程度の制御で失敗する道理はない!

「行くぜ!」

 気合一喝、フォン・スロットを解放──超振動を放つ。

 頭上を見上げ、浮かぶ上がる文字列に意識を集中。セフィロトを示す図の一部分にのみを削り取る。細かい作業に、手の甲に汗が滲む。

 周囲が固唾を飲んで見守る中、セフィロトを示す図の一番外側で光っていた紅い部分が、すべて俺の超振動に消し去られた。

「……」

 ジェイドがパッセージリングの様子を検分している。

 しばらくの間、緊張の沈黙が続いた後で、ついにジェイドが俺達を振り返る。

「……起動したようです。これでセフィロトから陸を浮かせるための記憶粒子が発生しましたね」

 ジェイドの言葉で、場の空気が一気に弛緩する。

 緩やかな空気が流れる中、俺は自分の両手を見下ろす。かつて血に塗れた両手を見据え、アクゼリュスに想いを馳せる。

 俺の仕出かしたことは、今更何をしようが……決して取り返しのつかないことだってのは、十分わかってるつもりだ。

 それでも……こんな俺でも、誰かの助けになることができたんだ。

 これが、嬉しくないはずがない。

「い──やった! やったぜ!!」

 俺は急激に沸き上がる歓喜の衝動に流されるまま動く。

「──ティア、ありがとなっ!!」

 一番近くに居たティアに飛びついて、感謝の言葉を告げた。

 彼女は珍しく動揺したように、ぎこちなく答える。

「わ、私、何もしてないわ。パッセージリングを操作したのはあなたよ」
「そんなことねぇって! 俺が制御できたのもティアが制御する方法とか教えてくれたおかげだろ? ほんとありがとな! 他のみんなもありがとな!」

 自分でもテンションが上がってるのを感じながら、感情の赴くまま声を上げた。

「……いつまで、そうして抱き合ってるつもりですの?」

 ナタリアの妙に迫力を感じさせる声で、ふと我に返る。

 俺の腕の中で、硬直するティアの姿があった。

 ……あれれ? 俺、なんで、ティアに抱きついているのでしょうか?

「ルークのやつも、いろんな意味で成長してるんだなぁ」

 しみじみと呟かれたガイの言葉に、俺達は慌てて身体を離して、距離を保つ。

「やれやれ。いいですねぇ、若い人達は。所構わず行動できて」
「大佐も十分若いじゃないですか。でも、さすがに人目のある場所で取る行動じゃないですよねぇ~」
「別に、僕は恥じるような行動ではないと思いますけど……」

 周囲から集まるてんでバラバラの講評に、俺達二人を急激に羞恥心が襲いかかる。

 ぐっ……他人事だと思って、好き勝手言いやがって!

 俺は自分でも顔が赤くなってるのを自覚しながら、せめてもの反抗とばかりに周囲の連中を睨む。

「あーっ!」 

 突然、アニスの甲高い声が場を貫いた。

 な、なんだ? ビクビクしながらかなり挙動不審な動作で音源に視線を向けると、アニスが顔色を変えて、パッセージリングに浮かぶ文字列の一部を指差していた。

「待って下さい。まだ安心しちゃだめですよぅ! あの文章を見て下さい!」

 アニスの指し示した先を見ると、なんだか危なげな警戒色で一部の文字が点滅している。

「……おい。ここのセフィロトはルグニカ平野のほぼ全域を支えてるって書いてあるぞ。ってことはエンゲーブも崩落するんじゃないか!?」

 ガイの読み取った事実に、俺達を緊張が走る。

 ルグニカ平野のほぼ全域って……いったい、どんだけの地域が崩落すると思ってるんだ? パッセージリングを操作したヴァンの思惑を測りかねて、冷や汗が俺の掌を濡らす。

「ですよねーっ!? エンゲーブマジヤバな感じですよね!?」
「大変ですわ! 外殻へ戻ってエンゲーブの皆さんを避難させましょう!」

 確かに、マルクトとキムラスカが緊張状態にある今、アルビオールで移動できる俺達以外に動けるような人手はないか。アニスやナタリアの言葉に俺達も同意し、さっそく動き出す。


 こうして、俺達は成功の余韻に浸る間もなく、慌ただしく外へと駆け戻り、そのまま外に待機していたノエルと合流し、セントビナー崩落部分から外郭大地に帰還を果たす。




 ───そして、俺達は衝撃的な光景を目の当たりにすることになる。




 ルグニカの大地に展開されるキムラスカとマルクト……激突する両軍の姿が、眼下には広がっていた。

 俺達は預言に導かれし事象の流れに、預言に支配された世界の姿に、言葉を失くし───

 ただ交わされる砲火を、呆然と見据え続けた。





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