どうも、世界を渡る旅人と化している杏です。
私達はなのはさんの、
「せっかくだから出来るだけ地球から遠い世界に行ってみようよ」
という発言により、どんどん地球から離れて現在、第144管理世界『フラミア』に来ております。遠いです。
地球からどれほど離れているのかは判りませんが、とりあえず管理局で使われているシステムを使わないと地球からの念話も届かない程らしいです。
勿論私達のデバイスにはそんなシステムを搭載していないので、結果的に向こうからすると音信不通な状況です。
とはいえ管理世界なので危険な事は殆どありません。管理外世界だと何か問題もあるかもしれませんが、それ以前に管理外世界は行ったらダメですしね。
なので危険な場所に行くとすると、なのはさんの目的である秘境に行った時か、同じ理由で立ち寄る無人世界くらいです。
まあ私は秘境には行きませんし、無人世界でも能力を使って安全確保しているのでまず怪我もしないんですけどね。
私達が今いるここフラミアは、一度文明が滅んでから再興した世界らしいです。
そのせいか魔法はミッド式やベルカ式に似たプログラム的な魔法なのですが、生活は剣と魔法のファンタジー世界に似た感じです。
魔法を使う時にデバイスを使う人も滅多に居ないみたいですし・・・一応輸入しているみたいですけどね。
「それにしてもこの果物、暗い極彩色というヤバイ見た目に反して甘くて美味しいですね」
「うぅ・・・こっちのイチゴっぽいの、果物だと思ったら魚介類だって・・・」
「私はお米みたいなの見つけたよ。・・・一粒が5cmくらいだけど」
始めは結構面倒でしたが、異世界の食料事情が面白すぎるので楽しくなってきています。死んでも切っても動くエビとかどういう事なんでしょうか。
とりあえずそんな不可思議食材がたっぷりなのでフェイトさんのお料理コーナーも充実していて、かつ面白い調理方法も色々見ているので腕前も上達していってます。
最早今のフェイトさんはパティシエではなく、料理全般の修行をしている状態です。おかげで美味しいものが食べられるのでなのはさん共々幸せな食生活を送っています。
しかし、肉のムースとか本当に魔法を使わないで作っているんでしょうか・・・到底信じられないんですが。
「それじゃ私はちょっと写真撮ってくるね」
「わかった。晩御飯は今回は食材レポートも兼ねて私が作るね」
「なのはさん出来るだけ早く帰ってきてくださいね。最近はお店で食べる事が多かったので楽しみなんです」
「うん、私も楽しみだからささっと行ってくるね」
そういってなのはさんは空を飛んで行きました。
・・・ああいってましたが、大抵初めての世界で写真を撮りに行ったら結構時間がかかるんですよね。秘境や絶景以外に街の風景とかの写真も撮ってるみたいですし。
でもまあ、なのはさんが楽しそうにしていますし、何より旅の目的でもあるので仕方がありませんか。
「さてフェイトさん、なのはさんが戻ってくるのは遅いでしょうし、ちょっと付き合ってくれませんか?」
「いいよ。何処に行くの?」
「実は願いの叶うという泉があるらしいので、ちょっと行って調べてみようかと。そしてあわよくば願いを叶えてもらおうかと」
「身長?」
「身長はもうどうでもよくなってきました。ユニが居れば大きくなれますし・・・本当にユニ最高です」
『ありがとうございます』
まあ、どうせそういった伝承があるだけで願いが叶ったりはしないと思いますけどね。ただ周囲の植物から何か面白い話を聞けそうです。
何せ植物達から他人の願いを色々聞き取れるわけです。面白い願いから昼ドラ的なドロドロした願いまで選り取りみどりの筈・・・ふふふ、暇潰しにはもってこいです。
それに、もしかしたらロストロギアの効果で本当に願いが叶う泉になってたりするかもしれませんしね。
あ、ちなみに今は連続ユニゾン時間数一週間を突破しています。たまには解除してメンテしないといけないのでずっとしている訳にもいきませんが、それ以外では四六時中ユニゾンしています。
ユニゾンを解いて観光したら確実に小学生程度年齢の間違われるので嫌なんですよね・・・
まあそんな事はどうでもいいので、さっさと向かいましょう。
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一人の女性が自らの生みの親に命じられていた調査を完了させて研究室へと報告に向かうと、中からは生みの親の笑い声が聞こえてきていた。
ここ最近はずっとこんな感じだ。数年前からミッドチルダにて販売され始めた自動人形を少し前に一体手に入れて、それを暇つぶしだといいながら解析し始めて以来、彼は今まで進めていた管理局に反旗を翻す計画をも放り捨てて楽しそうに解析に没頭していた。
今回の調べ物もその自動人形に関わるものだと思われる。販売元の情報や、そこに居る人間の情報の調査。そして理由は判らないが、発見されている各世界を網羅した地図を作って欲しいと言われていた。
情報の調査はともかくとして、地図の作成には地味に時間がかかってしまった。次元世界は果てしなく広大な為、地図はほぼ確実に一部を切り取ったものを使用しているのだ。
管理局のサーバーに地図が無いかと探ってみたものの、やはり一定の間隔で区切られた地図しか存在していなかった。おかげで女性はそれらを集めて差異が無い様に繋ぎ合わせる羽目になったのだ。
彼女が純粋な人間だった場合、もっと時間がかかっていた上に疲労困憊になっていた事だろう。
「ドクター。ローウェル貿易の調査、並びに次元世界地図の作成完了致しました」
「うん?あぁウーノご苦労様。こちらもついさっきプロテクトの解除に成功した所だ!」
ドクターと呼ばれた男の発言にウーノは驚愕を露にした。
自分達姉妹を作り出したドクターは紛れも無い天才である。その彼が、ただプロテクトを解除する事だけにここまで時間をかけてしまうものなのかと。
「ほぅ、やはりプレシア・テスタロッサ。それに・・・アリシア・テスタロッサ!!まさか完全なクローンの作成に成功したか、いや、この自動人形のプロテクトから考えると・・・アルハザードへ至った可能性が高いかな?」
「アルハザードというと、死者蘇生や時間の逆行すら可能としたという御伽噺の世界ですか?確かドクターのオリジナルがその世界の出身だと聞いた事がありますが」
「いや、少しだけ違うよウーノ」
調査結果を読み進めつつ、ドクターと呼ばれている男性はウーノに返答する。
「研究者の間ではアルハザードという言葉には二種類の意味がある。一つは先程君が言った御伽噺の世界。そしてもう一つが、発達しすぎた超高度技術文明によって崩壊した世界の総称だ」
「世界の総称ですか?」
「ああ。古代ベルカも現在ではアルハザード文明の一つであり、私のオリジナルが存在したのもまた別のアルハザード文明の一つだ」
解説しながらも調査結果を読み進め、次に巨大な次元世界地図になにやら計算式などを書き記しながらも彼は話を止めない。
「現在では再現しようの無いあまりに高度な文明技術。まさしく魔法と言うべきロストロギア。それらに敬意を評して御伽噺の世界であるアルハザードの名前を用いてアルハザード文明と呼ばれているのだが・・・この自動人形に使われているプロテクトは、現在の次元世界の技術力ではそう簡単には作れそうも無い代物。まさにアルハザード文明のものなのだよ」
「自動人形にそんなものが!?しかし、再現不可能なものが何故こうも・・・」
「再現不可能といったが、あくまで一から作るには不可能というだけでね。お手本となるべきものが存在して、かつ時間をかけてそれを解析する事が出来れば不可能ではない。とはいえ、生半可な事では無いが・・・」
「では、プレシア・テスタロッサはアルハザード文明の遺産を手に入れた可能性があると?」
「これだけならそう考えたんだけどね。一応地図の作成を頼んでおいて助かったよ・・・くくくっやはりそうか・・・」
地図に線や計算式を大量に書き記していき、何らかの計算を終了させた彼は自らの勘が当たった事をほぼ確信した。
「プレシアの娘であるアリシア・テスタロッサは遥か昔に死亡している。しかし今そのアリシア・テスタロッサが生きているという事は、本人が蘇ったか、完全なクローンの製作に成功したという事だ」
「その事がどうかしたのですか?」
「彼女の研究している姿を見た事があったが、アレは狂気に取り憑かれていた。あの状態だと僅かな差異ですら許容出来ずにクローンを作り直していただろうね。完全なクローンの製作など不可能だというのに」
「不可能なのですか?」
「ああ。クローンではどうしてもオリジナルとの差異は出てしまうものだ。何せどれだけコピーしたとしてもそれは他人なのだからね。そして彼女はその差異を許容出来る状態では無かった。・・・しかし彼女は再び娘のアリシア・テスタロッサと暮らしている」
くっくっく、と抑えきれる歓喜の笑いがドクターの口からこぼれ始める。ウーノはまた始まったと内心考えながらも、ドクターの言った内容について考えていた。
クローン技術では完全な同一人物を作る事が出来ないとドクターは言っていた。アルハザード文明の人間のクローンであるドクターがそこまで言うのならば、それは事実なのだろう。
ならばプレシア・テスタロッサはどの様にして娘のアリシア・テスタロッサを再び生活出来る様になったのか。クローンで不可能ならば・・・
そこまで考えたところで、ウーノは到底信じられない一つの可能性に思い至った。
「まさか、プレシア・テスタロッサが至ったのはアルハザード文明ではなく、その名の通りの御伽噺の・・・」
「そう!死者の蘇生すら可能とする奇跡を可能とする伝説の世界!そして・・・私のオリジナルの記憶によると、全ての世界の大本となった始まりの世界!」
「始まりの世界、ですか?」
「ああ。次元世界の存在する世界は始めはアルハザード一つだったらしいのだよ。そこから新たな世界が生まれ、作られ、そして次元世界が広がっていた・・・そう私の記憶には残っている」
それが事実だとするならばとんでも無い事だろう。何せ御伽噺の世界と言われていた世界が、全ての世界の始まりだというのだ。次元世界の歴史が根底から覆されかねない。
「私はてっきりアルハザードも既に滅んでいたかと思っていたが・・・文明が滅んでいても、世界は残っていた様だね」
「・・・成程、次元世界の地図はアルハザードの場所を特定する為だったのですね」
「ああ。おかげでかつてアルハザードと呼ばれていた世界は特定出来たよ。いささか予想外の世界ではあったがね。・・・ウーノ、ドゥーエを除くナンバーズ全員に伝えたまえ!これより私達はかの世界へ赴き調査を行う!至急準備を済ませたまえ!」
「了解しました」
指令を受けたウーノはドクターの研究室を出た。そして室内にただ一人残ったドクターは再び笑い始める。
研究者としての欲望をこれ以上無い程に擽られる世界。次元の海に存在しているあらゆる世界の配置、その中心であるX軸0.Y軸0.Z軸0の世界。
そして、恐らく現在使われている魔法とは違う、それこそまるでフィクションの世界の様な存在が存在しているかもしれない世界。
その世界を想い、ドクターは笑い続ける。
「楽しみだ、実に楽しみだよ・・・第97管理外世界『地球』!!」