いきなりで何ですが、私こと松田杏はとてもめんどくさがりです。あ、杏はあんずって読んでください。あんちゃんはだめです。
まず、朝起きた時点で布団から出るのが嫌になります。一日の始まりが憂鬱なんです。学校とか本当に面倒で嫌になります。
休日ならまだ目覚めようとも思えるのですが平日は、それはもう面倒で仕方がありません。勉強なんていいですって、最低限だけで。理科とか必要無いですよ。
でもちゃんと学校に行かないと学校からうちの両親に電話が行ってしまうので休む訳にはいきません。
両親は私が当てた宝くじのお金で世界旅行に行ってます。私は面倒なので行ってません。
小学三年生の子供を置いて超長期旅行とか頭おかしいんじゃないかと思われがちですが、両親は私が一人でも何にも問題が無いと知っています。だからこそのこの状況です。知ってても普通は行きませんけどね。
「・・・起きなきゃ」
十分ほど未練がましく愛しの布団とのひと時を過ごした後、誠に嫌々ながら起床して着替える事にします。
でも着替えを出したり自分で着替えるのが面倒なので、着替えにお願いして自分で着させて貰います。
・・・いえ、別に頭がおかしいわけではありません。ただ、実際そんな状況なだけなんです。
しいて言えば、超能力的な何かでしょうか?私は物心ついた頃には既に、物や植物等の『無機物・又は強い意志を持たない生物の声を聞いて、自在に操る』という不思議な力を持っていました。
この能力のおかげで私がどれだけ堕落した生活をしても、なんだかんだで何とかなってしまいます。ちなみに両親は「すごいなぁ」で済ませてました。流石は子供を放って旅行にいける両親です。普通じゃありません。
先ほどの『着替えに着替えさせてもらう』のもこの能力のおかげですね。
着替えた後は学校に持っていく弁当と朝ごはんを作らなければならないのですが、これも食材や調理道具に指示を出して全自動にします。
宙を浮きながら勝手に斬り分かれていく食材達、そしてそれを勝手に炒めたり揚げたりする鍋・・・そしてそれを横目に見ながら、私はソファーに座って優雅にコーヒーブレイクです。砂糖とミルクたっぷりですが。
朝ごはんが出来るまで、とりあえず私は朝のニュース番組を見ます。別に世間の情報は気になりませんが、朝はそれくらいしか見るものが無いから見ているだけです。
時々テレビ越しに能力を使って悪戯してみたりもしますが、それは流石に余程暇じゃない限りしないようにしています。あ、勿論生放送以外はそんな事不可能ですよ?
ちなみに以前やった悪戯は生放送のホラー番組で、後ろのセットにあった電球がいきなり割れるという悪戯でした。あの時の騒然としたスタジオの空気は中々良い感じでしたね。
朝ごはんと弁当が出来上がったので早速食事にします。今日の朝ごはんはベーコンエッグとトーストです。オーソドックスですね。
台所の方では既に汚れが落ちている調理器具が棚に戻っていて、ゴミ箱には寄せ集めた汚れや油が入っています。この能力は掃除にも使えて本当に便利です。
さて、結局起きてからまともに動いたのが『自室から居間への移動』だけだった朝のひと時ですが、此処から先は能力の使用を自重しなければなりません。
そう、学校です。面倒です。歩きたくないです。でも歩かないで能力を使うともっと面倒な事になります。嫌な世の中ですよね。
まあこっそり靴とか制服に力を貸してもらって最低限の労力で歩いているんですけどね。
「行ってきまーす」
学校が割と近くなので五分程度で到着。疲れました。もう帰っていいでしょうか?ダメですよね。
そんなことはさておき、私が通っているのは私立聖祥大付属小学校。そう、私立です。両親の母校だからという事で通っています。
天然ボケな父と、しっかりしている様で密かに父よりもボケている母が通っていた学校で、更に私という奇妙な能力を持っている子供が通っている・・・漫画か何かだと、まず確実に色々厄介な生徒が居そうな環境です。
というか通っています。同じクラスだけでも三人も、そういったお話の世界でヒロイン級な子が居ます。
教室に入って席に座り、いつも通りだらーっとしていると目に入る仲良し三人娘の姿。
この三人が件のヒロイン級少女達だったりします。
一人目、アリサ・バニングスさん。なんとあの世界的企業であるバニングスグループの後取り娘でツンデレという、いかにもなキャラクターの持ち主です。
その勝気な性格に寄るリーダーシップとカリスマ性はかなりのもので、学校行事などでは役員でもないのに大抵彼女がクラスを率いていたりします。
まさしくトップで下を率いる存在。バニングスグループは安泰ですね。
二人目、月村すずかさん。ここ海鳴の大地主だとか、名家だとか、何か色々言われててどれが本当か分かりませんが、とりあえず誰がどう見てもおしとやかなお嬢様。
優しげな雰囲気を裏切らずにとても優しく穏やかな性格の持ち主ですが、なんと意外にも運動神経があり得ないほどに抜群。
まさか現実にこんなパーフェクトな感じの大和撫子が存在するとは誰も思わないでしょうね。まだ幼いですけど。
最後、高町なのはさん。
前の二人と比べると平凡な感じがする外見ですが、それは仮の姿。実は結構凄い子です。
何でしょう、先ほど言った様に平凡なのですが、何故か人を惹きつける力を持っています。これも一種のカリスマでしょうか?
算数のテストでは毎回満点らしく、両親の仕事は海鳴で知らない人は居ないとも言われている大人気の喫茶店。
何だかこの子の場合はヒロインというより、主人公的な感じがしますね。
この三人は同じクラスはおろか他のクラス、果ては上級生下級生にも人気があります。でもその事に気付いてるのは多分バニングスさんだけ。
月村さんはたまに目線に気付くみたいですが、そんなに頻繁ではないと思います。
そして高町さんは全く気付きません。これはもしかして、主人公が持つという噂の鈍感スキルなんでしょうか。
そんな益体も無い事をつらつらと考えていたらチャイムが鳴りました。面倒ですが授業の始まりです。
「で、ここの3が---」
「(眠い・・・)」
授業はノートを取るのが面倒なので、手に持ってるだけの鉛筆にお願いして勝手に書いててもらってます。
シャープペンもあるのですが、芯が細いので手を引きずってもらうと折れてしまいます。なので鉛筆です。
そんな私の手はよ-く見ると不自然な動きをしていますが、そこまで私の手を気にして見る人なんていないので特にバレません。実際小学校に入学して三年間バレていませんし。
そしてノートを自動筆記任せた私がやる事は特に無く、毎回その時思いついた暇つぶしをしています。
例えば教室の床に落ちているホコリを一箇所に集中させてみたり、球状にした消しゴムを転がして教室内を旅させてみたり・・・
でもいい加減やる事が無くなってきているので最近は眠くて仕方がありません。いっそ眠りたいです。でも授業中に眠って怒られるのはとても面倒なので眠る訳にもいきません。嫌になります。
「はい、それではここまでにします」
知らず知らずのうちに半分意識が飛んでいた私がはっと意識を取り戻すと、丁度お昼休みになった時間でした。とてもいいタイミングです、流石私。
お昼は移動するのが面倒なのでそのまま自分の机で食べます。時々隣の席の子と一緒に食べたりもしますが、基本的に一人です。
一緒にお話しながらお昼を食べると楽しいんですけど、ちょっと面倒なんですよね。隣の子はそんな私の性格を知っている数少ない人なので、そう頻繁には誘ってきません。
というか友達がその子しか居ません。それ以上はほら、面倒じゃないですか。唯一の友人である遠藤さんは空気が読めるいい人ですし、それだけで満足です。
弁当を食べ終わったら寝ます。運動?面倒です。読書?眠くなければ読みますが今日は面倒です。勉強?面倒です。
教室の中には他にもクラスメイトがそれなりに居ますが、先ほど紹介した遠藤さん以外は私に話しかけてきません。
恐らく私ほどクラスメイトとのつながりが薄い生徒はそうそう居ないのではないのでしょうか。担任の先生にも色々聞かれました。面倒だと正直に答えたら呆れられました。
そのままお昼休みが終わって授業が始まり、そして放課後になりました。
掃除は面倒ですが、ちゃんとやらないともっと面倒な事になるのでしっかりやります。能力を大っぴらに使えれば早く終わらせられるんですが、面倒ですね。
さて、登校時と同じ様に靴や制服に協力してもらって必要最低限の労力で下校します。帰って早くダラダラしたいです。
「・・・ん?」
そんな感じで帰宅後のひと時について思いを馳せていると冷蔵庫に食材が少ない事に気が付き、仕方が無いので買って帰る事にしました。
なので帰宅路から少し道を逸れて商店街へ向かい・・・そしてその途中で何やら道端に青い宝石のような物を発見しました。
何となく気になったので手元に引き寄せ---ようとして屋外なのに気が付き、仕方が無いので自分で拾いました。面倒です。
「ふーん、結構綺麗な・・・宝石なんでしょうか」
まあ本物の宝石ならこんなところに野ざらしで転がってる筈が無いだろうと思い、そのまま『声』を聞いてみようとすると---
「あの、それ、渡してもらえませんか?」
「え?」
いつの間にか目の前に、赤い瞳と金色のツインテールが印象的な、何処か儚げな雰囲気を纏う女の子が居ました。
儚げなのですがしかし、その目が「絶対に手に入れる!」と口に出さず叫んでいます。これは間違いなく面倒事。さっさと渡して買い物に戻りましょう。
という訳でこの子に渡してしまう事にしました。平和が一番ですからね。
しかし、世の中そう簡単にはいかなかったようです。
「え!?きゃっ!?」
「っ!発動したっ!?」
突如光を放ち始めた青い宝石。そして何ともいえないゾワゾワした感覚。嫌な予感しかしない展開です。方向性はファンタジー。
これが選ばれし者に力を与えるクリスタルだとしても、持ち主に呪いをかけるアイテムだとしても、とにかく面倒な展開が起こる事は必須です。
そんな事はお断りです。私は日々ダラダラ過ごしたいのです。なので---
「何が起きてるのかよく分かりませんが、静かにしてくださいね」
そう宝石に命令すると、途端に光が止んで大人しくなりました。どうやらファンタジックな物でも私の能力は通用するみたいです。
ともかくこれで落ち着いたので、目の前の金髪の少女に宝石を渡そうとしてそっちに目をやると---
「・・・へ?あ、え?」
その少女は大きく目を見開き、物凄くあり得ないモノを見た様な顔で私を凝視していました。
・・・おぉう、これはまさかやってしまったんでしょうか。ファンタジーな宝石の発光を見て事情を知ってるような反応をしていたので、能力を使っても同じファンタジー的な意味で問題ないかと思いましたけど・・・
ううむ、面倒ですね。今の内に帰っていいでしょうか。
-----あとがき-----
チラ裏の「ふと思いついた~」内で連載していた作品を分離して移動しました。
これからよろしくお願いします。
・こっそり追記
HOMEリンクが無くなって作者のSSを纏めてるブログに来れなかった方が居たので・・・
『猫好きSS作家のアレ』というブログです。興味があればググってどうぞ。