「それで、結局なのは達に囃されてやった事って何かあったの?」
「アリサさんのノートパソコンにたまたま映った文字を見てやってみたくなった事をこっそりやっておきました」
「こっそり・・・何をしたの?」
「アリサさんの家の車を一台改造してナイトライダーのアレみたいにしました」
「古いネタだね・・・あ、でもデバイスと連結する車とかも作れそうだし、今ならありえない訳でも無いのかな」
「そういえばそうですね」
仕事も終わった夕方。私と杏はのんびり歩きながら家に向かいつつ今日の事を色々話していた。
あの後仕事を再開した私に杏も着いて来て、今度はペース配分を考えながらすぐに疲れない様に手伝いをしてもらった。結局数時間でへばっちゃったんだけどね。
その後杏はのんびりと店内で休んでたみたい。アリサとすずかは大学に戻ったみたいだったけど、なのはとユーノも一緒にのんびりしてたみたいだから暇ではなかったと思う。
それにしても、杏が自分の力だけで普通に歩いているのを見ると違和感が凄い。もう慣れてもいい頃じゃないかと思ってるけど、そんな簡単に認識は変わらないって事が良く判った。
今の杏は素直だったり甘えてきたり可愛かったりで凄く、凄くイイんだけど・・・やっぱり私はいつもの杏が好きかな。
うん、家に帰ったらアリシアに頼んで催眠を解いてもらおう。催眠解いたら杏がどんな反応をするかちょっと心配だけど・・・
「とりあえず今日催眠解いて貰おうと思ってるけど、それまでに何かしておきたい事ってある?」
「そうですねぇ・・・」
歩きながらボーっと宙を見つめる杏。転ばないかちょっと心配になったけど、流石に大丈夫だよね?
「あっ」
「っと、大丈夫?」
「す、すみません・・・」
大丈夫だと思ってた先から杏が転びそうになった。注意してたから何とか支えるのが間に合ったけど・・・やっぱり完全に自分の力で歩くのに慣れてないのかな?
今更だけど結構問題だよね。催眠を解いた後でも何とか自分で歩く様に言ってみる方がいいかな?
「フェイトさん」
「なに?」
「その、いつも色々とありがとうございます」
え?どうしたのいきなり?
「ほら、今までこうやってちゃんとお礼した事ありませんでしたから」
そうだったっけ?でも、別にお礼なんてされる様な事はしてないと思うけど。
むしろ杏のおかげで私はアリシア・・・姉さんと母さん、リニスとアルフの皆と一緒に居られるから、感謝するのは私の方だと思う。あの時に何度もお礼を言ったけど、今でもその感謝の気持ちは変わらない。
「いえ、私もあの時フェイトさんと出会わなければ今みたいにはならなかったと思うんです。それに一緒に生活する様になってから毎日美味しい御飯とかも作ってもらって・・・そもそも私はフェイトさんと友人にならなかったら、こんなに楽しい人生を歩む事は無かったと思います」
「うーん・・・出合った事に関しては私にお礼を言う必要は無いよ?友達になったのは、私も嬉しかったからお互い様だし」
「でもお世話になってるのは確かです。・・・ほら、私って面倒くさがりな上にあまり素直じゃない部分もありますから。今のうちに今日までの事でお礼を言いたかったんです」
「杏・・・ふふっ、確かに、面倒だって言って誤魔化したりする事もあったもんね」
「フェイトさんには殆どバレてると思いますけどね」
そうだね。ずっと一緒にいるから、何となくわかるよ。今の杏はいつもより素直すぎてちょっとわからない部分もあるんだけどね。
そういうと、今は仕方ないです、と杏は笑った。
空を見上げると綺麗な夕日。何時の間にか杏の家がもう見える所まで来ていた。
もうすぐで今の素直な杏とはお別れだなぁって考えながらそのまま歩いていると、杏は私の名前を呼んで立ち止まった。
「で、その、これからも色々と迷惑かけたりすると思いますけど・・・これからも一緒に居て下さい」
今まで見た事の無い程に優しく穏やか微笑みを浮かべている杏。夕日に照らされているせいか、それとも別の理由からか、その顔は赤く染まっていて・・・それでも杏はしっかりと顔を上げて私の目を真っ直ぐに見つめてくる。
普段は幼い子供にしか見えない杏が、この時は少しだけ大人っぽく見えた。
「・・・杏、それってプロポーズみたいだね」
「えっ?・・・あ、いえ、違いますよ!?そういう意味じゃ無いですからね!?」
「あはは!冗談だよ。ちゃんとわかってるから」
「フェイトさぁん・・・そういうのは止めてくださいよぅ・・・」
何だかちょっと恥ずかしくなって、冗談で誤魔化してしまった。それくらいさっきの杏は綺麗に見えた。
「・・・一緒だよ」
「え?」
「これからも一緒だよ。勿論、誰か好きな人が出来たりとかしたらどうなるかわからないけどね?」
「あー・・・でも、私もフェイトさんもそんな人は出来ない気がします。なのはさんとユーノさんはともかく・・・」
「・・・うん、そういえばそうかも」
それはそれでどうなんだろうと、ちょっとだけ微妙な気持ちになった。私達って全然出会いの無い生活してるもんね。私はまだ翠屋で働いてるからともかく、杏は全然だし・・・
でも杏はそういうのにあまり興味が無いみたいだから、気にしなくてもいいのかな?
「・・・とりあえず、帰って催眠解いて貰おっか」
「そうですね」
そして私と杏はゆっくりと歩いて進み、自宅のドアを開いた。
その後の事。
アリシアに催眠を解いて貰った杏は今までの事を思い出して軽く悶えた後に、アリシアに報復と称して色々とイタズラをしていた。
当然ながらアリシアは逃がして貰えずに擽られたり変な踊りを踊らされたり足の小指を刺激されたりで大変そうだったけど、私はとりあえずスルーして夕飯の支度を開始。
そして母さん達も帰ってきて、気が済んだらしい杏と疲れきった杏を見て状況を理解したらしく笑っていた。
さあ、皆揃ったし、晩御飯を食べよう。
「うん、やっぱり美味しいですね」
「ありがと杏」
「・・・ねえ、杏の催眠は解いたのよね?」
「アリシアちゃんがきちんとやったなら解けてるはずですよ?自分ではわかりませんが」
「ちゃんと解いたけど・・・何で杏お姉ちゃんはフェイトの膝の上に座って食べてるの?」
「あっ・・・そういえば」
「ぜ、全然違和感を感じてませんでした・・・」
催眠、解けてるよね?