国王の病が深刻だという噂が流れ始めてから間もなくして、国王が崩御した。
葬儀は国全体をもって壮大に行われた。
もっとも、俺はまだ子供と言う事で、そこへ直接赴く事はなかったが、屋敷の中で黙祷を捧げさせられた。
これでこの国の王族はマリアンヌ太后と、アンリエッタ王女殿下のみ。
太后の方は即位を拒否して喪に服し、王女はまだ6,7歳でとても政治ができる歳じゃない。
そこでマザリーニ枢機卿が宰相として、政治を切り盛りしていくと言う、原作通りの展開になった。
今はまだ“鳥の骨”とは揶揄されていないが、いずれそう呼ばれるほどに過労で痩せ細って行くのだろう。
俺は心の中でマザリーニ枢機卿にも黙祷を捧げた。
しかし、当然ながら王が死んだからと言って政治活動が停止するのは許されない。
父様もいつもと変わらずにモンモランシ領を統治していたのだが、ここでいつもとは少し変わった事を父様は言い出した。
「グラムとモンモランシーも杖との契約に成功した。もう二人とも領を見て回ってもいい歳だと思う。そこで二人を明日の領の視察に連れて行く事にする」
そう言われたのが昨日の朝。
そして今は、モンモランシ領で一番大きな街であるフラン街に行く為に馬車に揺られながら、森の中の道を進んでいる。
俺の隣にはモンモランシーが座っていて、窓から馬車の周りで馬を駆る護衛達を眺めている。
子供も来るので万一の事があってはならないと、いつもより多くの護衛をつけ、その数十数人。
皆モンモランシ私設軍の者らしい。
正面には父様が座っている。
フラン街は屋敷から一番近い街でもあり、馬車を使えば10分程度で着く事ができる。
逆に言えば、そんな近い街にも5歳になるまで行かなかったという訳だ。
前世の記憶で言えば、どんな引き籠りだよと言いたくなってくる。
俺も何度か屋敷の外に出てみたいと思っていたのだが、家の人は皆「屋敷の外は危ないから」と俺やモンモランシーに何度も口酸っぱく言ってきていた。
モンモランシ領は人の手が入ってない所は基本森なのだが、その中の一部には凶暴な獣が住んでいる事もあるらしい。
中にはガリアから流れてきた浮浪者が、そのまま賊になって潜む事もあるのだとか。
そんな訳で街には出れなかったが、貴族の付き合いで他の家に訪問する機会は何度かあった。
グラモン家やらラ・ロッタ家やら、他に知らない家にも親と一緒に行かされた。
当然その際にギーシュやケティに会ったのだが、やはりまだ唯の幼い子供だった。
そんな事を考えているうちに馬車が止まった。どうやら到着したらしい。
窓から様子を窺ってみると、街の門番と家の護衛が何やら話しており、それが終わると門が開き、その横で門番が姿勢を正して馬車を迎えた。
門を通ると、街に入ってすぐの所にある、馬車を止めるための空地らしき所に来て馬車が止まった。
護衛の一人が馬車の扉を開け、父様に続く形で俺とモンモランシーは馬車から降りた。
「うー……ん」
とりあえず体をほぐす為に伸びをする。
「うーん!」
モンモランシーも俺の真似をして両腕を天に突き上げる。
この街はラグドリアン湖に面しており、今俺達がいる所は街を挟んでその反対側だ。
それでも広大な湖はここからでも確認できる。
この空地には俺達以外は誰も居ない。
街からは賑やかな声や物音が聞こえてくるが、そこから俺達を出迎えに来る人はいなかった。
父様曰く、父様の視察はいつも抜き打ちらしいので、誰も俺達には気付いていないのだろう。
ここは街の通りからは死角になっているし。
馬車に護衛を数人残し、俺達は街に向かって歩き出した。
護衛を引き連れたモンモランシ伯爵が現れると、周囲の人たちは低頭した。
街の通りは狭く、人がごった返していたのだが、父様が通ろうとすれば人混みは見事に割れていく。
街の景観はと言うと、レンガ造りの建物や露店が多く、売っている物も食べ物から装飾品まで様々だ。
「あ!あれ美味しそう!あのガラス細工も綺麗だよおにぃさま!」
モンモランシーが俺の手を引いてあちこち見渡している。
子供は元気一杯である。
初めてみる物にキラキラ目を輝かせて本当に楽しそうだ。
「モンモランシー、そんなに走り回るとコケるよ?」
もっとも俺達の周りはガッチリと護衛がガードしてるから、逆に言えばコケる以上の惨事が起きる事はないだろうけど。
モンモランシーの動きに合わせて、護衛もあっちへオロオロこっちへオロオロしているので中々シュールな光景だ。
……護衛ども、俺達を護るのはいいが兜の下の顔が緩んでるぞ……
……確かにモンモランシーの可愛さは天下一品だろうが立場をわきまえろ……
「護衛さん達、笑顔が怖いですよ?」
黒いオーラを背に纏いながら満面の笑みでそう言ってやると、護衛達は顔を引き締めるどころか青くなって姿勢を正した。
おそらく今、彼らの心は(お前の笑顔の方が怖ぇよ!)と一つになっている事だろう。
父様の方を窺ってみると、露店の店主と何か話している。
俺達の事は護衛にまかせっきりのようだ。
父様、大丈夫なのこの護衛達?
なんかちょっとアブナイ趣味ありそうな上に子供の笑顔にビビッちゃってるよ?
「ほら、おにぃさま!あっち行ってみよ!」
「え?あ、ちょっと!」
モンモランシーが俺の手を引いて人混みの中に突っ込み出した。
あんまりここから離れるのはマズイと思いながらも、思いの外モンモランシーの力は強く、俺はそれに引きずられるように走るしかなかった。
子供のうちは、男女の間に力の差はほぼ皆無なのである。
それに暇さえあれば遊びまわっているモンモランシーに対し、俺は部屋で図鑑や歴史書などを読んでのインドア派。
ここでモンモランシーに力負けするのは仕方がない。
そう、仕方がないのだ。と自分の中で必死に言い訳を作っている自分に対し情けなく思いながらも、俺は成す術もなく手を引かれるしかなかった。
5歳の体は小さく、通行人の足の間を縫うようにスイスイと走って行く。
違う店を覗く度に、楽しそうにはしゃいでいるモンモランシーを見て、俺は前世での子供の頃に行った祭りを思い出し、少し懐かしさが込み上げてきた。
……女の子と一緒に祭りに行く事なんて一度もなかったが。
あっちの露店を見て、こっちの露店を見てとしている内に、俺達は人が少なめの通りに出た。
通行人は少なくて動きやすいが、その分露店の数も少ない。
その代わりと言っては何だが、店の向こう側には畑が広がっていた。
「おにぃさま!あっちの地面がたくさん盛り上がってるよ!モグラの通ったあとかな?」
「いや、あれはそんなんじゃなくて畑だよ」
「畑?へぇー!あれがそうなんだ!」
……そういえば畑も見た事がなかったのか。屋敷に引き籠ってた弊害だな。
そう言えば護衛はどうしたんだろう。
後ろを見てみると……それらしき人影は全く無い……
まぁ、彼らは大人だから、俺達が通行人の足の間をスイスイ走るのに対し、人混みを掻き分けていかなければならない。
俺達の動きについて来れる訳ないか。
体の大きさの差があるとは言え、ダメだなあいつら。
その時、ふと視線を感じた。
誰だと思い周囲を見回してみると……その場にいたほぼ全員の人が俺達を見ていた。
そりゃ貴族の格好した子供二人が、護衛も付けずにこんな所をうろついてたら目立つか。
モンモランシーはそんな事も意に介さず、何が楽しいのか畑の方を眺めている。
その視線を追ってみると、畑で作業をする一人の平民の男性にそれは注がれていた。
「おにぃさま、あの人何をしてるの?」
「うーん、僕にも分からないな」
実際農業についてはからっきしだった。
しかし、ここでふと思い立ち、俺は続けて口を開いた。
「モンモランシー、僕達が屋敷で不自由なく暮らしていけるのは、ああやって平民の人達が一生懸命働いてくれているお陰なんだ」
「あの人たちのおかげ?」
「そうだよ。僕達じゃ畑で作物は作れないし、今着ている服を作る事もできないでしょ?そんな僕達の生活を平民の人達は支えてくれてるんだ。じゃあ、僕達はそのお礼に、何をしなくちゃいけないと思う?」
「うーん、えっと、お金をはらったり、とかかな?」
「うん、それもしなくちゃいけない事の一つだよ。他にも、彼らが仕事をしやすいように手助けしたり、時には外敵から守ってあげたりしないといけない。その為に僕達貴族には魔法があるんだ。確かに僕達は身分が高いし、魔法っていう平民達よりも強い力が備わっているけど、僕達を支えてくれている人達を絶対に虐げちゃいけないよ。僕達は平民を傷つけるためじゃなく、守るためにいるんだから」
「わかった?」と言って、俺はモンモランシーの顔を覗き込んだ。
さすがに少し難しかったのか、モンモランシーは「うーん」と唸ってしばらく考えてから、
「うん!わかった!」
元気良く頷いた。
「よし、えらいぞ、モンモランシー」
「えへへー」
俺が笑って頭を撫でてやると、モンモランシーは嬉しそうにはにかんだ。
平民によって貴族が在る。
原作を見た限り、この考え方はこの国の貴族のほとんどが忘れてしまっている。
だが、それが貴族の本来あるべき姿であるだろうし、モンモランシーにも将来こういう考えを持って欲しかった。
そうして妹への教育が上手くいって満足していると、
「貴様!貴族の服を汚してただで済むとは思っていないだろうな!?」
そんな声が聞こえてきた。
声のした方を見てみると、一人の中年貴族とその護衛数人が平民の母子を取り囲んでいた。
「お願いします!どうかこの子だけは勘弁してください!私ならどんな罰でも受けますから!」
母と思しき人はそう言って女の子を庇い、蹲っている。
そのそばには桶が転がっていて、その周りの地面が濡れていた。
おおかた女の子がよろめいて、あの貴族に水をかけてしまったとか、そんな所だろう。
通行人はその様子を見て見ぬふりをしている。
無理もない。平民が何か言った所で彼らも同じ目に遭うのがオチだ。
「ならん!そこの小娘が私にぶつかり、あまつさえ水までかけてきたのだ!この場で処刑にする」
「この子だけは見逃してください!お願いします!」
「ええい、うっとおしい!」
そう言うと貴族は母親を蹴り上げた。
母親が悲鳴をあげて倒れる。
「何をしてるんですか!?」
見ていられず、俺は大声を出しながらその貴族の方に走って行った。
モンモランシーも後ろについてくる。
その貴族の前まで来た俺達に周囲の視線が集中した。
俺達の方を向いた貴族は、俺達が子供だと分かると明らかに見下したような顔になり、しかし貴族相手だからか体面だけは礼儀正しく対応し始めた。
「いや、お二人方、この小娘が私の高尚な服を汚してくれましてね、少し罰を与えようと思っていたのですよ」
両手を広げ、さも当然のようにそいつは言ってのけた。
悪びれた様子は微塵も感じられない。
まるで自分が正しい事をしているとでも思っているかのようだ。
この国がここまで腐っているとは思っていなかった。
ここの貴族は平民を家畜か何かかと勘違いしているのか?
目の前の貴族がその底辺であるよう願わずにはいられない。
「服なんて少し洗って乾かせば元に戻るでしょう。その程度の事で人一人の命を奪うのですか?」
「そうですとも。平民一人の命が私の服よりも重いと言うのかね?」
本当に屑だなこいつ。
俺が思っていたよりもずっとトリステインの現状は深刻らしい。
他にもこんな奴が居るのかと思うと憂鬱になってくる。
ゲルマニアとかならもっとマシなんだろうか。
だとしたら正直そっちに移り住みたい。
落胆のあまり言葉が出ない俺を見て、何を勘違いしたのかその馬鹿貴族は自慢気に言葉を続けた。
「それはそうと、お二人はどちらの方ですかな?私は旧くからモンモランシ家にお仕えするド・ケルディンと言う者ですが」
その言葉だけは聞きたくなかった。
こんな奴が家に仕えているとはモンモランシ家の恥だ。
家の名誉とかは、まだあまり実感が沸かないが、そんな物よりはこんな奴を家臣に加えている方が重大だろ。
「どうしました?名乗る事も出来ないような家柄なのですかな?」
俺の沈黙を、俺の身分が低いと言う事だと思ったのか、その馬鹿貴族は勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
と言うか子供相手に権力振りかざしてる時点で論外じゃないのか?
まぁいいか、お望みとあらば名乗っておこう。
「申し遅れました。私はグラム・ルシッド・ラ・フェール・ド・モンモランシ。モンモランシ家の二男です。以後お見知りおきを」
「なに!?」
俺の名前を聞いて、そいつが護衛含めて動揺しだした。
「あぁ、こちらは妹のモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシです」
ついでに後ろに居たモンモランシーを紹介してやった。
馬鹿貴族の顔がみるみる内に青くなっていく。
一家臣とその主の子息では力の差は歴然だ。
それがわからない程目の前の貴族の頭は悪くなかったらしい。
「た、たしかに濃い金髪に翠眼と、薄い金髪に碧眼……!」
しばらくそいつは俺達を見て呆然としていたが、はっと我に返ると姿勢を正した。
「は、伯爵様の御子息様であらせられましたか。大変失礼をいたしました。行くぞ、お前達!」
馬鹿貴族は俺達に一礼すると、護衛を引き連れて足早に歩き出した。
その後ろ姿が段々と小さくなっていく。
根本的な解決にはなっていない気がするが、今の俺がああいう奴に何を言っても無駄だろう。
本当なら奴をモンモランシから追放したいところだが、生憎奴は領内の平民を一度蹴っただけだ。
残念ながらそれだけの理由では、父様に忠言したとしても何もできないだろう。
ハルケギニアの身分差意識はそれだけ根強い。
そこまで考えると、母親がうぅっと呻き声をあげた。
「大丈夫ですか?」
俺はその母親に近づいてしゃがみ込み、安否を確認した。
「はい、大丈夫です。ありがとうございました」
大丈夫と口では言っているが、蹴られた脇腹を押えて苦悶の表情を浮かべている。
相当強く蹴られたのだろう。
俺は懐から杖を取り出すと呪文を詠唱し、“治癒”の魔法を発動させて怪我を治しにかかった。
「き、貴族様!おやめください!私には治療代を払えるようなお金など持っておりません!」
母親の眼が怖いほどに見開かれる。周りで様子を窺っていた人達も同じような顔をしている。
「代金なんていりません。僕が治したいから治してるだけです」
「ですが……」
俺が無償でいいと言っても、この女性は恐れ多い様子だ。
「なら、僕がただ魔法の練習をしているだけ、と言う事にすれば問題はありませんね?」
そう言うとその女性は折れてくれた。
だが、俺の『水』の実力は最近ようやくドットに届いた程度。
中々怪我は治って行かない。
そこで俺は、後ろで何をしていいか分からず立っているだけのモンモランシーに声をかけた。
「モンモランシー、手伝って」
「え?でも、平民さんとなかよくしちゃダメって、おとうさまが……」
モンモランシーがそんな事を言って渋っているが、逆に俺にとっては、モンモランシーの平民への差別意識を薄くさせるチャンスだ。
俺は安心させるようにできるだけ優しく微笑んで、
「大丈夫だよ。ほら、一緒にこの人を治そう?魔法の練習だと思ってさ」
「いっしょに……うん、わかった!」
“一緒に”の部分が効いたのか、モンモランシーも俺の隣に座って“治癒”を唱え始めた。
さすが純粋な『水』メイジなだけあって、俺よりも強力な“治癒”は、どんどん女性の怪我を治して行った。
「よし、これでもう大丈夫ですね。君の方は怪我はない?」
俺は母親の怪我が治ったのを確認すると、今度は傍で心配そうに見守っていた女の子にそう言った。
いきなり声をかけられた女の子は、ビクッと体を強張らせただけで、何も言わなかった。
あんな体験をした後すぐに貴族に声をかけられたのだから無理もない。
見た所ひざを少し擦り剥いただけのようなので、モンモランシーと協力して素早く治療してやった。
「本当に、ありがとうございました。何とお礼も言っていいのかもわかりません」
母親が何度も頭を下げてお礼を言ってくる。
俺はそれに笑顔で答えた。
「気にしないでください。こちらとしては当然のことをしただけですから」
当然の事、と言ってのけた俺にその人は目を見開いた。
しかしすぐに笑顔になると、今度はモンモランシーの方を向いて頭を下げた。
「そちらのお嬢様も、ありがとうございました」
「え、あ、その……」
モンモランシーは、顔を赤らめてもじもじしている。
褒められたり、可愛がられたりはするものの、お礼を言われた経験は殆どないので戸惑っているのだろう。
「ほら、モンモランシー、何か言ってあげなよ?」
「えと、どういたしまして……」
俺が促すと、モンモランシーはそう言った後、恥ずかしかったのか俺の後ろに隠れた。
それを見た女性は顔を綻ばせて、再度「ありがとうございました」と礼を言うと、女の子を連れて去って行った。
「誰かを助けるってのも、悪くないでしょ?」
俺は歩いていく母子の後ろ姿を見ながら、俺の背中から顔をのぞかせてその二人を見送っているモンモランシーに訪ねた。
するとモンモランシーは「うん」と頷いた。
「わーい!お母さん、こっちこっちー!」
すると、今しがた母子が去って行った方から、俺達と同じくらい小さな女の子がこっちに向かって走ってきた。
その後ろには“お母さん”と呼ばれた女性が困ったような笑顔を浮かべて付いて来ている。
親子共に燃えるような綺麗な赤髪を揺らしており、日光に反射してキラキラと光る髪は、まるで火の粉が舞っているような幻覚を見せた。
瞳も同じように済んだ赤色をしている。
母親は20代前半位だろうか、とても綺麗な女性だ。
「早くしないと先にいっちゃうよー!」
女の子が走りながら後方の母親に向かってそう言う。
後ろ向きながら走ったら転ぶぞ?
ズシャアアァー
転んだ。
「う、ひっく、うえええええええええぇぇぇ」
泣き出した。
“走る+転ぶ=泣く”と言うのはもはや子供専用の方程式だなー、と思いながら、俺はモンモランシーを連れてその子に近づいて行った。
母親がその女の子を宥めているが、一向に泣き止む気配がない。
色んなところを擦り剥いている。
俺は杖を取り出して、その女の子に“治癒”をかけ始めた。
モンモランシーもそれを見て、すかさず杖を取り出し魔法を詠唱する。
女性がさっきの母親と全く同じ反応をして、俺も同じ言葉を返した。
女の子の方はいきなりの事に驚いたのか、既に泣き止んで俺達二人をぼーっと見つめている。
やがて女の子の傷は完全にふさがり、女の子は「すごーい!」と俺達を見て瞳を輝かせた。
「ありがとう!」
その子はそれだけ言うと、元気良く走り出して行った。また転ばないか心配だ。
母親も俺達に礼を言うと、その子を追いかけて行った。
そろそろ父様達の所に戻った方がいいかなーと思っていると、いきなりモンモランシーが俺の手を引いて歩き出した。
「ほら、おにぃさま、他にも怪我した人がいないか探しに行きましょ!」
満面の笑みでモンモランシーはそう言った。
どうやらお礼を言われたのが相当嬉しかったらしい。
その後引っ張られるままに街を回り、精神力が尽きるまで治療活動をして廻った。
その後父様に見つかり、勝手に離れた事をこっぴどく叱られたのは言うまでもない。
その日以降モンモランシーが治療活動を気に入り、頻繁に俺を引き連れフラン街に行って“治癒”をして回るようになった。
そして俺達が街の住人から“癒しの双子”と呼ばれるようになり、住民達から結構な人気を誇るようになるのは、もう少し先の話。
2010.06.13 初回投稿
2010.06.27 文体修正