やや時間をさかのぼり、停電が起こる前の地上本部内部。公聴会を開いていた大会議室では、とても外部には聞かせられない言葉が飛び交っていた。
「ゲイズ中将、全てを説明してもらおうか!」
「説明も何も、今配布した資料がすべてだ。もっと細かい情報もあるが、この場で開示するには膨大すぎるからな。」
「ねつ造ではないのか!?」
「そうでない事ぐらい、貴様自身が一番よく知っているだろう?」
「侮辱するのか、犯罪者!」
静かな表情で淡々と返すレジアスに対し、鬼の首を取ったように責め立てる非主流派の老人達。その様子を見て、思わずため息が漏れるカリム。
「まるで、厚顔無恥の見本市、ですね。」
「人間、年をとると図々しくなるものだからな。」
「ああはならないように、気を引き締めませんと。」
「私も人ごとやあらへんしなあ……。」
あまりの見苦しさに、苦い顔でため息を突くしかない聖王教会幹部と管理局幹部候補生。だんだんわめく声が大きくなり、レジアスもグレアムも口をはさめなくなってくる。複数の人間が同時にわめくものだから、もはや収拾がつかない。弾劾の場は、全く発展性の無いわめきあいの場になりつつあった。
「少しは黙れ!」
あまりに発展性の無い会話が続き、いい加減頭に来たのか、非主流派の中では唯一、今まで一言も口を開かなかった男が雷を落とした。ウィルフレッド・インプレッサ提督。レジアスより十ほど年上で、主に後進の教育・指導を担当している。現場からのたたき上げで、上層部に入ってからは目立った功績は無く、こういった会議でもほとんど発言をしないいため、グレアム・ゲイズ派以外からは昼行燈と見られている男だ。
「まず、アコード提督。貴様が過激派のミッドチルダ人至上主義団体「ホーリー・ヴェイル」とつながっている事ぐらい、私のもとにも証拠付きで出てきているぞ。ついでに言えば、いくつかのテロに消極的ながら加担していた事もな。」
「冤罪だ!」
「それは、司法の場で言え。」
わめき声をにべもなく切り捨て、次々に証拠となるデータや書類のコピーを提示しながら、わめいている連中を淡々と断罪していく。アコード提督と言えば、かつて第三管理外世界からの侵攻を撃退した英雄であり、決して無能でも無ければ汚れても居なかった男だ。それが、英雄となってから三十年で、ここまで見事に腐り落ちるとは予想もできなかった。
他にもこの場にいてインプレッサに名を呼ばれ弾劾された者達は、確かにエリートコースからスタートしてはいるが、基本的に何がしかの功績を持って、実力でのし上がってきたものばかりである。幹部クラス全体の人数からすれば一握りとしか言えない人数だが、実力を持って昇進してきた彼らが見事にこれほどまでに腐ってしまった管理局のシステムは、やはり命を賭けてでも改革しなければいけない。その思いを新たにするグレアムとレジアス。
「よくもまあ、これだけ出てきたものだ。ゲイズ中将が可愛らしく見えるな。」
「犯罪は犯罪だ。言われんでも責任は取る。」
「ゲイズ中将一人が司法の場で裁かれたところで、責任をとった事にはならないと思うが?」
「こいつらを全員道連れにし、内部から犯罪組織・過激派組織への資金・情報の流れを完全に断ち切るつもりだ。それが出来るだけの証拠は持ち合わせているし、可能な限り健全な組織を次代へ継承すること以外に、年寄りがすべきこともなかろう?」
「本心か?」
「誓って。」
正面から睨みあうレジアスとインプレッサ。十秒ほどの睨み合いの末に、ふっと表情を緩める。
「どうやら本気らしいな。ならば、私は貴官らに協力する事にしよう。」
「ありがたい。」
「さしあたっては、この後の人事を教えてくれんか?」
「私の後任にリンディ・ハラオウンを、グレアムの後任にレティ・ロウランを、そして両名の補佐にオーリス・ゲイズをつける予定だった。もっとも、私の副官を長年続けていたオーリスを起用するのは拙かろうから、そこは考え直さねばならんだろうがな。」
レジアスの言葉に、一つ頷くオーリス。正直なところ、いくら緊密に連携を取っているとはいえ、リンディもレティも地上本部の事はそこまで詳しくは無い。そういう意味では陸の内部でキャリアを積み、方々に顔が聞くオーリスを使えないのは痛手どころではないのだが、今回ばかりは組織の浄化が優先される。リンディにもレティにも、苦労してもらうしかない。
「異議あり!」
「何かね?」
「リンディ・ハラオウン、レティ・ロウラン両名とも、長年にわたりギル・グレアム提督とともにレジアス・ゲイズに手を貸していた! それはすなわち、彼女達も犯罪に加担していた事に他ならない!」
先ほどインプレッサに黙らされた非主流派の一人が声を上げる。一見もっともに見える言葉に対し、インプレッサは首を横に振る。
「残念ながら、グレアム派の人間は、犯罪組織とのつながりは一切ない。せいぜい幾人かが捜査のために、一時的に正体を隠して組織に身を置いたり、司法取引でいくつかの犯罪をお目こぼししている程度だ。それを犯罪だと摘発すればほとんどの部署は仕事にならないだろうし、管理局情報部などは丸々解体する事になるが?」
「信じられるか!」
「そちらにとっては残念で理不尽な結果かもしれないが、少なくともリンディ・ハラオウン、レティ・ロウランの両名に関しては、経歴の面ではその種の汚点は一切ない。大きな失敗を一度もしていない、とは言わないが、そんな人材は管理局のどこにもおらんよ。」
「ゲイズ派が提出した資料など、当てになるものか!」
「次期トップとして内示されていた人物だ。少なくとも、我々や情報部も、独自の情報網で調査をしている。三つ以上の部署、及び情報系統から上がってきた資料が白と示しているのだから、捏造すると言うのは難しいだろう。先に言っておくが、管理局情報部が、紙の資料だけで判断する、などと言うぬるい真似をする訳がない事ぐらいは、諸君も理解しているだろう?」
インプレッサの指摘に、大声で喚き散らしていた幹部の一人が黙る。
「それに、リンディ・ハラオウンおよびクロノ・ハラオウンは、夜天の書再生プロジェクトの初期に置いて、全く対策を取らずに永久凍結封印を行って問題を先送りにしようとしたギル・グレアム提督に対し、修復可能だと証明できるだけの準備をしたうえで、真正面から反対意見をぶつけて翻意させた、という実績もある。上司が犯罪行為を行っていたからと言って、唯々諾々と従うような人材ではない事は、この一件だけでも明らかだ。」
グレアム派が管理局本局で圧倒的な勢力を持つにいたった、そのきっかけともいえる大プロジェクト。その中の、間違っても公表できない種類のエピソードを語られ、多少居心地が悪そうにしているリンディ。正直なところ、修復可能だと言えるほどの準備を整えたのは優喜であり、グレアムを説得したのも優喜とクロノだ。正直、リンディがやったことなど、グレアムが旗印になるまでの間、責任者として余計な横やりを受けないようにのらりくらりと逃げ回った事ぐらいである。
「それだけで、そんな事が判断できるものか!」
「闇の書とハラオウン一家、およびギル・グレアムの因縁を知らないとは言わせない。確かに、闇の書の永久凍結封印は、プレシア・テスタロッサを引きずり込み、ユーノ・スクライアの手によって無限書庫がデータベースとして機能するようになる前の段階では、取りうる手段としては最もましなものだっただろう。だが、そこに全くの私怨が入っていなかったとは言わない。違うかね、グレアム君?」
「認めよう。」
「グレアム君ほどの人物がそうだと言うのに、リンディ・ハラオウンは自身の憎しみにとらわれず、最適な手段を提示して上司の説得に当たった。実際に説得したのが当時代理人だった少年とクロノ・ハラオウンだったとしても、実行の許可を出したのはハラオウン君だ。それほどの人物が、目先の欲望に目をくらませて、犯罪組織とつながる、などと言う事は無いだろう。」
インプレッサに持ち上げられ、とことんまで居心地悪そうにしてしまうリンディ。犯罪組織とはつながっていないが、プレシアとフェイトの犯した犯罪を勝手に証拠不十分扱いして一部無かった事にしたり、紹介された後のドゥーエを使い倒したりと、犯罪者に全く便宜を図っていない、と言う訳ではないのだ。清濁併せ飲む、と言えば聞こえがいいが、ダブルスタンダードと言われても反論できない。
「人の事を犯罪者呼ばわりする前に、自身の事を省みる事だな、アコード。グレアム派とゲイズ派から一切人を出さない、と言うのであれば、君達の部下から一切犯罪組織と接点が無く、犯罪者と司法取引した事すらない人物を出してくればいい。言っておくが、こちらには誰が表向きどんな理由で誰と何を持って司法取引しているか、詳細な履歴を持っている。嘘は通じないぞ?」
とうとうと語るインプレッサの姿に、思わず目を丸くして顔を見合わせるグレアム派の面々。正直、非主流派の人物から救いの手が差し伸べられるとは思いもしなかった。しかも、別ルートでこちらがつかんでいるのと大差ないレベルの情報を手に入れているらしく、見苦しい反論に対して、一切引くことなく淡々と相手の主張を潰していく。
「世の中、奥が深いですね……。」
「昼行燈と呼ばれたお人が、こんなすごい逸材やったとは……。」
「ウィルフレッド・インプレッサは、昔は鬼の名で知られた男だからね。当時を知る者たちからすれば、むしろ今の昼行燈という評判の方が、不思議でしょうがなかっただろう。」
「レジアス・ゲイズの性急な改革論についていけなくなって、いろいろ面倒になっただけだ。それに、全員が表に立って主張してもろくなことにはならんし、そいつらとは違った形で、主流派以外の立場からブレーキをかける人間は必要だろう? こう言っては何だが、私の目には、ギル・グレアムもレジアス・ゲイズも、やろうとしていることが最高評議会の連中と同じように見えたのだからな。」
「ふん。貴様の危惧は分からんでもないが、それにしても十年も陰に隠れるとか、いくらなんでもサボりすぎだろう?」
レジアスの苦情を、苦笑してごまかすインプレッサ。すでに大勢が決したためか、随分と互いの物言いが砕けている。
「インプレッサ、貴様!」
「違う派閥などと良くもぬけぬけと!」
「私は、今でもグレアム派でもゲイズ派でもないが?」
「なら、その慣れ合いはなんだ!?」
「目的が同じならば、違う派閥が協力する事はおかしくなかろう? それに、もともとこの資料は、ゲイズ派およびグレアム派が、最高評議会になり替わり、管理局を私物化する兆候があった時のために準備したものだ。単に、その刃が貴官らに向いただけにすぎんよ。元々私は、この場にいない他の部署の代表としてここにきているのだからな。」
委任状の束を取り出しながらしれっと言ってのけるインプレッサの言葉に、老人達の目が危険な光を帯びる。
「むっ?」
「どうなさいましたか?」
「通信が入ったようだ。少し外す。」
「分かりました。」
「いろいろきな臭い空気になっている。連中のなかには、小口径だが拳銃を持っている奴もいる。いつでもインプレッサ氏にシールド魔法を張れるように、準備をしておけ。」
「了解や。」
竜司の言葉に頷き、とりあえず一般的な口径の銃弾を弾ける程度の魔法を準備しておく。いちゃもんをつけている老人達は、自身の言葉にヒートアップし始めており、護衛が一人席を外したことなど、気にもかけていない。
「なあ、カリム。」
「どうしました?」
「予言に、今わめいてるおっさんらの話ってあった?」
「……難しいところですね。元々、結構ぎりぎりまで文章が安定していませんでしたし、それに、今回は解読できなかった言葉もたくさんありましたし。」
「そっか……。」
今年の予言が、今現在の状況を指し示していたのはほぼ確定だろう。だが、途中で大幅に予言内容が変わった後は、小規模にちょこちょこ内容が変わる程度だったため、それほどしっかりとは確認していなかったのだ。
「……カリム、はやて。」
「どうなさいました?」
「えらい怖い顔してるけど、悪い知らせ?」
「ああ、とびきりにな。」
二人の質問に重々しく頷くと、ヴィヴィオとギンガが拉致された事を伝える。その言葉が耳に入ったらしい。ポーカーフェイスを維持しながらも、グレアム、レジアス、リンディ、レティの新旧派閥トップが、視線を数秒ほどはやて達の方に向ける。
「ちょっと待って、どういう状況で?」
「例のなのは達のクローン、あれの命を盾に取られる形だったそうだ。その上で見事に飽和攻撃をされたらしくてな。ヴィヴィオやギンガの転移を防ぐと、どうしてもあの三人の死が避けられなかった、との事だ。」
「……怖いなあ……。」
「……どうしてこう、特大の死亡フラグを進んで立てるような真似をするのでしょうね……。」
プレシアと優喜の反応を想像して、内心で頭を抱えるはやてとカリム。もはや、それをやらかした四番を生贄にするしか、平穏無事に事態を軟着陸させる手段は思い付かない。
「とりあえず、会場の方には俺が連絡しておく。何が起こるか分からんから、少しばかり警戒の度合いを上げておけ。」
「分かってる。とうの昔に夜天の書のセットアップは準備しとるよ。」
「私の場合、警戒したところで特に出来る事がある訳ではありませんが、心構えだけはしておきます。」
「うむ。」
話がまとまったところで、とりあえず待機組の二人に通信を入れる。どうやら同じ場所にいたらしく、一つのモニターにシグナムとヴィータの姿が現れる。
「なあ、カリム。」
「なんですか?」
「今回の事件、穏便に話が終わるやろうか?」
「……祈るしかありませんね。少なくとも、地上部隊の犠牲者ゼロ、という奇跡は難しいでしょうし。」
隅っこの方でデカイ体をブラインドにして通信を始めた竜司を横目に、ため息交じりの会話を続ける。
「それにしても、公聴会前半の有意義な時間は、一体どこへ行ってしまったのでしょうね……。」
「流石にこれはあかんで。なんぼなんでもこれは、体張って闘ってる現場の人らには、どう間違ってもお見せ出来へん……。」
あまりにも見苦しい会話が続く光景に、もはや蚊帳の外に立たされた若い二人は、ただただひたすら呆れてため息をつくしかない。
「全くもって、恥ずかしいな。」
「正直、私達が引退するときに無様を晒してくれてよかったよ。」
「間違っても、こんなものを次の世代に残す訳にはいかん。」
しみじみと言ってのけたグレアムとレジアスに、連中のなかで何かが切れた。
「貴様らが、それを言うのか?」
「言うとも。我々とて、所詮同じ穴のむじな。老害は等しくこの場で去るべきだ。」
「レジアス・ゲイズ! 貴様がスカリエッティなどとつるむから!」
「それと貴様らが犯罪者とつながっている事には、何の因果関係も無いぞ。それとも、スカリエッティが暴露しなければ、貴様らの罪は表に出なかった、とでもいい張るつもりか?」
レジアスの至極もっともな指摘に対し、どことなく焦点があっていない目を向けることで返事の代わりにする老人。その様子を見て、思わず眉をひそめるはやて。
「拙いかもしれへん……。」
「追い詰め過ぎましたか?」
「多分……。」
そう囁きあい、はやてが念のために準備しておいたシールド魔法を発動させようとしたところで、ビル全体の照明が落ちた。
クラナガン中心街の管理局地上本部近辺。シグナムとヴィータは、突撃ステージ・クレイドルが退却を始めると同時に現れた有象無象を、それぞれ別々の場所で迎撃していた。二人はコンサート会場にこそいたものの、シャマルとリインフォースがこちらにいなかったため、コンサートそのものには出演していない。最初から彼女達の不在が決まっていたため、二人はいざという時に即座に動く人員として配置されていたのである。
「ツヴァイハンダーフォルム!」
突如転移してきた超大型のレトロタイプに対し、プレシアの魔改造によって追加された新フォルムを持って対応する。シュベルトフォルムではパワーが足りず、シュランゲフォルムでは敵の砲弾を払うのに不便だ。そのため、適性としてはその両方の中間に当たるこの姿の出番ではあるが、さしものシグナムといえども、たかが三メートルやそこらの長さの両手剣では、二十メートルオーバーの大物を一刀両断するには少々刃の長さが足りない。
ゆえに、一緒に仕込まれた新たな力を効果的に使わなければいけないのだ。とは言えど、訓練でテストはしたが、いまだに実戦で使った事は無い新技。新しい相方・アギトと組んでの戦闘もこれが初めて。どこまでやれるかは未知数である。
「行くぞ、アギト!」
(任せとけって!)
「シュピーゲルング・バイセン!」
掛け声とともにカートリッジを撃発。レトロタイプの足元に巨大な魔法陣が描かれ、相手の動きが止まる。動きを止めたレトロタイプに切りこんで行くシグナム。その突撃が魔法陣の影響範囲に入った瞬間、軌跡こそ違えどほぼ同じモーションで突っ込んで行く、無数のシグナムが出現する。
「終わりだ!」
すれ違いざまに一閃し、構えを解かずに吠える。魔法陣を抜けた瞬間、一人を残してすべてのシグナムが消え、同時に無数の切り込みがレトロタイプに入る。そのままコアの部分まで切り裂かれたレトロタイプは、機能を維持できずに自壊する。
シュピーゲルング・バイセン。それはいくつかの並行世界から複数のシグナムをコピーし、多数の斬撃を同時に発生させる荒業である。コピーする位置と数を確定するため、魔法陣には相手の位置を固定する術式も含まれており、発動した時点で余程でない限りは、普通は外す事は無い。シグナムやヴィータの大技としては珍しく、デバイスの形態に関係なく使う事が出来るが、射程や効果範囲の問題で、シュツルムファルケンを相手を囲むように叩き込む、と言う真似は厳しい。また、あまり大規模な並行世界からのコピーは次元震につながりかねないため、叩き込める相手のサイズは、せいぜい百五十メートルが限界である。
もっとも、世界に対する干渉力が強い相手だと、魔法陣の固定の機能がうまく働かない上、コピーが済んでしまうと相手はフリーになる。そのため、優喜や竜司が相手だと固定出来ず、また、フェイトほどのスピードになると、コピー終了後に振り切られてしまうこともある。基本的には、それほど足の速くない大物を、砲撃を使わずに仕留める手段だと考えていい。
「どうやら、辛うじて実用範囲ではあるようだな。」
(なかなか悪くねーじゃん。どうして嫌がってたんだ?)
「この技だけならいいのだが、な……。」
アギトの疑問に、歯切れの悪い回答を返すシグナム。アギトにしてみれば、確かに一撃必殺がカラーのシグナムにシュピーゲルング・バイセンは微妙に違うとは思うが、炎という特性と蜃気楼や陽炎と言う現象は、決して相性が悪い訳ではない。それにそもそも、実用範囲にあるものを自分のカラーと違う、などと言う理由で嫌がるほど、烈火の将は子供でもなければ懐が狭い訳でもない。
プレシア達の魔改造で追加されたものは四つ。新フォルムが一つに新技が三つである。その新技三つのうち、まだアギトが見ていない残り二つが、シグナム的には大問題なのだ。特に追加されたもう一つの大技がカラーにあわないだけでなく、どう贔屓目に見てもふざけているとしか思えない性質を持っているのである。
「正直なところ、他の技を使わずに済む事を祈っているのだが……。」
適当に空戦型の雑魚を切り捨てながら、そんな事を呟く。その様子に余程嫌なのだろうと、思わず心底同情してしまうアギト。だが、世の中そうはうまくいかない物で……。
「くっ! 一機取りこぼしたか!」
シュランゲフォルムによる攻撃の隙間をすり抜けた小型が、一目散に地上本部の建物に向かって突撃をかける。シュランゲフォルムはある程度の広域を一気に攻撃できるのが強みだが、所詮は斬撃である。衝撃波で薙ぎ払ったり、高熱をドーム状に広げたりと言った攻撃に比べると、どうしても攻撃力がない空間と言うのができやすい。そして、現在進行形で敵を殲滅している最中である以上、すり抜けた小物を粉砕するなどと言う事は出来ない。少なくとも、レヴァンティンが改造される前のシグナムでは。
シグナムは基本的に、白兵戦の距離でしか戦闘が出来ないタイプだ。もちろん、シュランゲフォルムやボーゲンフォルムの存在があるため、中距離や遠距離の相手に対して何もできない、と言う訳ではない。だが、ボーゲンフォルムは火力過多で、単に距離がある相手を殴る事には向いておらず、シュランゲフォルムは攻撃が地味に大味だ。そのため、一対一ならともかく、今回のような状況に置いて、単独で防衛するにはあまり向いていない。同じように白兵戦寄りのフェイトやヴィータと違い、こういう状況で小物に追撃をかけるのに向いた、出が早くて軽い、小回りの利く射程が長い技が無いのだ。
もっとも、あくまでもそれは、レヴァンティンが改造される前ならば、である。プレシアとすずかの手によって好き放題改造されたレヴァンティンは、見た目はともかく中身は完全に別物だ。多少ネタに走っている部分があるとはいえ、シグナムの弱点をある程度カバーするための芸ぐらいは仕込んである。
『ブーメラン。』
レヴァンティンが、主が何かを言う前に追加機能を起動する。くの字に鞘が変形し、猛烈に回転しながらブーメランとしてはあり得ない軌道を描いて、すり抜けたガジェットをすさまじい勢いで追撃する。そのまますぱっと相手を一刀両断し、行きがけの駄賃でシグナムの攻撃範囲外にいた連中を全て切り裂いて、また元の鞘に戻る。
(なあ、今の……。)
「あまり使う気がない機能の一つだ。」
(便利なのは分かるけど、ブーメランって発想はどっから出てきたんだ?)
「詳しくは知らん。ただ、主はやてに紹介された、地球のインターネット動画サイトを漁って参考にした、とは言っていたが……。」
あまりにあまりな出展元を聞き、思わずあいた口がふさがらなくなるアギト。索敵をしながら数秒間コメントを探し、ようやく絞り出した台詞が
(持ち主とかに無断でそーいうのをパクって人様の武器を改造するのって、どうなんだろうなあ……。)
である。ヴィータのトゲ付き鉄球などと併せて考えると、当然と言えば当然のコメントかもしれない。
「私に言うな。それにな。」
(それに?)
「あの人たちの場合、下手にまともな発想からプランを練って改造させるより、好き放題やらせた方が強力で使い勝手のいいものを作って来る。」
(頭のいてー話だな、おい。)
アギトの言葉に頷くイメージを送って同意し、まだまだ湧いて出てくるガジェットやレトロタイプを始末する。正直なところ、これだけの数を管理局の諜報部やドゥーエに知られずにどうやって生産したのかが気になるところだが、そんなものは後から首魁を締め上げて吐かせれば済む話だ。まずは目先の事に集中すべきである。そう考えて、出てくる端からひたすら殲滅していく。夜天の書のバックアップがあるため、魔力切れの心配は特に必要なく、雑魚はカートリッジを使わなくても、十分始末できる。
が、全てが小型や中型、と言う訳ではない。時折超大型が出てきては、その都度二発、三発とカートリッジと体力を削ってくれる。地上本部の電気が落ち、内部からの通信が沈黙してからそろそろ十数分。はやてと竜司が中にいるのでそれほど心配はしていないが、いい加減何がしかのアクションはあっていいはずだ。カートリッジの残量も心もとなくなってきた事だし、どっちに転んでもいいからとっとと自体が動いて欲しい。
などと、余計な事を考えたのがいけなかったらしい。小物の集団に手を取られているうちに、超大型の出現に対応するのが遅れる。どうにか新手を殲滅して超大型に向かったタイミングで、必死になって足止めをしていた地上局員、それもギンガやシャーリーと変わらぬ年頃の若い娘が、踏みつぶされかけているのを目撃してしまう。
「拙い!」
(どーする!? シュピーゲルング・バイセンじゃ、あいつが残骸の下敷きになるぞ!?)
「四の五の言ってられん! もう一つを使う!」
とりあえず、一瞬だけ相手の動きを止めるために、ツヴァイハンダーフォルムで思いっきりどつく。一瞬とはいえ動きが止まった瞬間を見計らって、剣閃による衝撃波を放って局員を安全圏に弾き飛ばす。このままシュピーゲルング・バイセンに入れないかと考え、即座に考えを却下する。
安全圏と言っても踏まれないで済むと言うだけで、解体した超大型の残骸に潰されずに済むかと言うと、いささかどころではなく疑問だ。それに、地上本部の建物に近すぎて、自分の攻撃が本部を破壊しかねない危険性も孕む。結局、かなり気は進まないが、当初のプラン通りに行くしかないだろう。
「ブラッディ・ハウリング!」
何故かベルカ語ではなくミッドチルダ語、と言うより英語のまま技名がつけられている、シグナム的には出来るだけ使いたくなかった技を発動させる。シュベルトフォルムに戻した刀身と鞘を十字になるように交差させ、カートリッジを二発撃発。その時点でプラズマのような光が交差したポイントに収束し、瞬く間にシグナムの全身より大きくなる。
あっという間に大きくなった光がびっくりするようなスピードで飛び出して行き、超大型レトロタイプを完全に包み込んで、そのまま空の彼方に運んでいく。物凄い勢いで小さくなり、肉眼で見えなくなったあたりで一つ、「キラン」と言う擬音をつけたくなるような輝きとともに、空の星となって消えるレトロタイプ。その様子を例えるなら、古き良き時代のアニメのレギュラー悪役が、各話のラストで落ちとして吹っ飛ばされる姿そのものだ。
(なんかこう、懐かしいものを感じさせる必殺技だな……。)
「私に言わないでくれ……。」
周りの建物や人員に被害を与えないよう、器用に隙間を縫ってレトロタイプを空に運んだプラズマっぽい光に対し、何とも言い難い気分で感想を述べる。とにもかくにも、手持ちのカートリッジは残り三発程度。次に超大型が来たら、対応は出来るにしても時間がかかってしまう。どうしたものか、と思案し始めたところでビルの内部から轟音が聞こえ、それと同時にアースラが視認できる距離まで寄ってくる。
『こちらアースラ。今からアンチテレポートを設置するから、広報部は残りを始末したら、一旦こちらへ戻って。』
「ヴォルケン01、了解した。」
『こちらヴォルケン03、掃除は完了してっから、今から戻る。』
どうやら、仕事は終わりのようだ。見ると、立て続けに轟音が聞こえたビルの内部から、竜司とはやてが出てくる。察するに、多分内部で何かを粉砕しながら出てきたのだろう。
「さて、残りは最後に出てきた大型が三機。さっさと片付けるぞ!」
(任せとけって!)
微妙な技を使わざるを得なかった鬱憤晴らしも兼ねて、残り三体を華麗に切り刻むシグナムであった。
「停電か……?」
「電力施設に破壊工作でもあったか? だが、それにしては静かすぎる……。」
不自然な状況に表情を硬くしていると、非常用電源による暗めの照明がつくと同時に、不意に室内で妙に軽い破裂音が起こる。少し遅れて、ビル全体に地響きが響き渡り、部屋の外から、おそらく隔壁が下りているであろう軋んだ音が聞こえてくる。
「愚かだとは思っていたが、ここまでとは……。」
破裂音が聞こえた方向に目を向けると、小口径の拳銃を構えたアコードが、血走った眼でインプレッサを睨みつけていた。その様子に、思わず天を仰ぐグレアム。運よく狙った相手はレジアスだったらしく、礫よけの護符に阻まれて、天井に弾痕を刻むだけにとどまっている。
「最初は気が進まなかったが、やはりこれしかないようだな……。」
「貴様らが居なくなれば、全ての罪はレジアス・ゲイズの命で精算できる……。」
「カリム・グラシアや護衛の諸君には悪いが、時空管理局の繁栄のために、ここで死んでもらおうか……。」
その言葉と同時に、部屋の中を、いや、ビル全体を高濃度のAMFが覆い尽くす。魔力の気功変換をどうにかものにしたはやてはともかく、リンディやグレアム、カリム、果ては使いから護衛にいたるまで、他の人間はどうやっても魔法の発動など不可能な濃度だ。しかも、A2MFやA4MFが明らかに機能していない。どうやら、ロストロギアが絡む、AMF対策システムが未対応の方式らしい。更には、通信システムも完全に沈黙している。
「これは、もしかして!」
「ロストロギア・縛めの霧!?」
「縛めの霧と言うと、俺がカリム達を救助した時のやつか?」
「そうです。どうやら、A2MFもA4MFも対応していないようですね。」
「前にもそれが絡んだトラブルがあったと聞く。いい加減、破壊してはどうだ?」
竜司の指摘に、苦笑しながら頷くしかないはやてとカリム。実際のところ、管理局に存在する縛めの霧に関しては、カリムが襲撃された事件をきっかけに対策が取られているため、本来は無効化できるはずなのだ。それが出来ないと言う事は、同じ系統の別のロストロギアが噛んでいるのだろう。
「まあ、いい。とりあえず、豆鉄砲といえど、あまりあちらこちらに無秩序に飛ばれると鬱陶しい。制圧するが、問題ないな?」
状況を考えれば聞くまでもない事ではあるが、基本的に竜司は逮捕権を持ち合わせていない。迂闊な真似をして、後で罪に問われてしまうのは面倒だ。一応、念のために確認を取っておく。
「もちろんだとも。」
「愚か者どもを黙らせてくれ。」
「了解した。」
その言葉とともに、瞬く間に制圧されてしまう反逆者一同とその護衛官。その姿を憐れみのこもった目で見降ろしながら、グレアムが言葉を漏らす。
「この状況で私達が死ねば、真っ先に疑われるのは自分達だと言う事も分からないほど耄碌したのかね?」
「グレアム派の人間が証拠隠滅を図ったと言えば、誰も疑わん。違うか?」
「どうやら、本当に耄碌したらしいね。」
「儂らが、この場で暗殺される可能性について、何の対策も取っていないとでも思ったのか?」
レジアスの言葉に、棒でも飲み込んだかのような表情になる反逆者達。その顔を見ながら、そのまま言葉を紡ぐ。
「最初から、この公聴会で何か大きな事件が起こった時の準備ぐらいはしておるさ。」
「この場で儂らが不審な死を遂げるようならば、管理局を一度解体し、トップや幹部を全て解雇した上で部門を整理し、別組織として立ち上げなおす事を全ての管理世界の政府及び公的機関に内密に通達してある。」
「現状、中枢をはじめとしたいくつかの部門さえ切り離してしまえば、大部分は健全な組織である事は証明されて居るからな。ならば、頭を挿げ替えて看板を掛け替えれば、それほど業務に支障はあるまい?」
「それに、どちらに転んだところで、管理局外部の要人が居る会議で、その会議の出席者に多数の死人を出すような警備しか出来ん組織が、まともに存続できる訳がなかろう?」
「ついでに言えば、先ほどのスカリエッティの断罪の時点で、すでに聖王教会をはじめとしたいくつかの公的機関に、儂の事も貴様らの事も全て証拠付きで送りつけてある。言うまでも無く、証拠保全のためにな。」
その言葉に、顔が真っ白になる反逆者達。どちらに転んだところで、彼らの運命はきまっていたのだ。その中で、アコード提督だけが立ち直り、不敵に笑ってみせる。
「なるほど。我欲に負けて組織を食い物にした時点で、この終わりは必然か。」
「ああ。お互いにな。」
「だが、貴様らの派閥も、どちらにせよここで終わりだ。トップが通信も出来ん状態で監禁され、身を守る手段も持たずに足止めをされているのだからな。」
「さて、それはどうかな?」
「強がるのはいいが、ここはすでに避難路も含めて隔壁で隔離されている。もう一つ言っておくと、我々の行動が不発に終わった時のために、コントロール系統は全て握ってある。そのうちマスタングの最高傑作とやらがこのビルを粉砕するだろうから、結局は貴様らも終わりよ。」
アコードの言葉を聞いた竜司が、苦笑交じりに質問を飛ばす。
「要は、外に出られれば問題ない、ということだろう?」
「出られると思っているのか?」
「ご老体。別段、隔壁を破壊するのは構わんのだろう?」
「ああ。緊急避難だ。存分にやれ。」
「馬鹿な事を。今は魔法は使えず、生身の人間が素手でどうこうできるほどやわな隔壁でもない。爆破などすれば、この場の人間は全員無事では済まんぞ?」
アコードの戯言を聞き流し、グレアムの許可を得て、会議室をふさぐ隔壁をパンチ一発であっさり粉砕する。その様子に、空いた口がふさがらないと言う風情で凍りつく反逆者達。
「残念だったな。俺は、魔法や爆弾なんぞに頼らねば何も出来んほど、軟な鍛え方はしていないのでな。」
「鍛え方の問題なのか!?」
「噂には聞いていたが、予想以上だな、グレアム君。」
「そうだろう? 人間、魔法などに頼らずとも、案外いろいろな事が出来るものだ。」
あれを人間のくくりに入れるな、などと内心で突っ込みつつも、とりあえず物凄い轟音を立てながら景気よく隔壁をぶち抜いて行く竜司について行くはやてとカリム。先ほどのアコードの言葉ではないが、広報六課の指揮官がこんなところで足止めなど、許されることではない。
「さて、諸君。」
「使い魔は、AMFでも能力が落ちない、と言う事を覚えているかね?」
竜司と言う化け物が去った後も、グレアムとレジアスの恫喝により、結局アコードたちの反乱は失敗に終わった。
「チッ! 数が異常に多い!」
「手も火力も足りん! 広報部の連中はまだか!?」
『彼らは今、地上本部近辺に現れた集団を相手している! もうしばらく持ちこたえてくれ!』
「畜生! こっちに援軍をよこしてたら、頭を潰されて詰みだったってか!?」
予想以上の状況の悪さに悪態を突きながら、それでも湯水のようにカートリッジを使って対処していく地上部隊。現在、辛うじてクラナガン外周部分にまでは到達させてはいないが、その代わり相手の絶望的な数が嫌というほど目についてしまい、気を張っていないとすぐに心が折れそうになってしまう。
何しろ、地平線を覆い尽くさんばかりの数の小型レトロタイプが、プルァプルァなのなの言いながらにじり寄ってくるのだ。しかも、なのなの言ってるやつはドラム缶型のボディになのはの顔写真が張られており、それだけでやたらと気合が抜けそうになる。そのくせ、攻撃の威力は大型の物を除けば最高クラスで、ディバインバスターなの、とか気の抜けるような口調でぶっ放してくるロケットパンチは、平均的な地上部隊隊員が直撃を受ければ、一撃でよくて戦闘不能、悪ければ即死すると言う物騒な代物である。
その上微妙な工夫を施されているからか、A4MFがちゃんと効果を示していると言うのに、妙に魔法の発動が重い。相手の頑丈さもあってか、プロトタイプの一番もろい奴ですら、弱点に直撃しても行動不能にならない。正直、分が悪いとかそう言う次元の話ではなくなってきている。
「大型の出現確認! 奴の攻撃は洒落にならん! すぐに対処を!」
「無茶言うな!」
「くっ! ダメージが通らん!」
「カートリッジを使いきった! 一旦後退する!」
「限界だ! 戦線を下げるぞ!」
少なくない被害を出しながら、それでも必死になって侵攻速度を削り取る地上部隊。そこへ。
「地上一一五部隊、援護する!」
「援軍だと!?」
「持ち場はどうした!?」
「広報部の船が、行きがけの駄賃で掃除して行った! ここは我々に任せて、一旦下がって体勢を立て直せ!」
「ありがたい!」
アースラが掃除を済ませた区画を防衛していた部隊が、援軍としてフォローに入る。相手の数が数ゆえに、本来なら主砲で掃除した程度ならすぐに他所から穴埋めが現れるのだが、ついでに大量の強化傀儡兵を下した上で特殊な攻性防壁を張って行ったため、しばらくは必要最低限の人員を残していくだけでカバーできる態勢になったのだ。
とは言え、援軍もあくまで陸では一般的な、平均ランクDの部隊にすぎない。カートリッジ補充とデバイスのクールダウンのローテーションに多少の余裕ができる程度で、劇的に状況が改善する訳ではない。超大型に分類されるレトロタイプが攻撃を飛ばしてくるだけで、あっという間に劣勢に立たされてしまう。
「があ!」
「パサート!?」
「怯むな!」
「あれを見て、よくそんな事言えるな!」
圧倒的な火力に押され、同僚をやられてもなお怯むななどと口走る男に、先ほどのスカリエッティとレジアスのやり取りなどでたまっていたうっぷんが、ついに破裂する。
「犯罪者とつながってた連中のために、何で俺達が命をかけにゃいかんのだ! 大体、こいつらがこんなに戦力を蓄えたのは、腐った上層部のせいだぞ!」
「言いたい事はそれだけか? だったら、それを本人達にぶつけるために、とっとと戦線に戻れ!」
「お前、馬鹿か!? そんな事しても、連中が喜ぶだけだぞ!」
「貴様こそ馬鹿か! 俺達の後ろに、何があると思ってるんだ!」
砲撃の手を休めずに一喝する男に、文句を言っていた男がうっと詰まる。
「後ろにあるのはクラナガンだぞ! あそこに住んでいるのは、腐った上層部の連中だけか!?」
「っ!!」
「間違えるな! 確かに戦力を増強したのは上層部の責任かもしれん! だが、事を起こしたのはあくまでも犯罪者どもだ! 前々から裏でつながっていたという情報があり、連中の活動がじり貧になっていた以上、いずれ似たような事はやらかしていたはずだ! それにな!」
砲撃を終え、使い切ったカートリッジを入れ替えながらクラナガンを指さし、最後にもう一声吠える。
「あそこには俺の女房と子供が居るんだ! 貴様がうだうだ言っていたおかげであいつらに何かあったら、どう責任を取ってくれる!?」
「守るのが嫌だっつってんじゃねえ! 腐った爺どもを喜ばすために戦うのが嫌だっつってんだよ!」
「だったらデバイスを置いてとっとと立ち去れ! 貴様のようなヘタレでも、俺達は守らなきゃいけないんだからな!」
「ヘタレだと!?」
「馬鹿にされるのが嫌なら、魔力弾の一発でも撃て! 俺は正義だ金だ割にあうあわんで戦ってるんじゃない! 平和なんぞ、治安なんぞ、女房子供のついでに守ってるだけだ! 腐った爺どもが喜ぼうが知った事か!」
大型のガジェットドローンを三発カートリッジを撃発して粉砕しながら、さらに吠える。今の一撃でオーバーヒートし、砲撃のノックバックで致命的なダメージを受けたデバイスを放り出し、予備のデバイスをセットアップする。その姿を見て、へたれた事をほざいていた局員も、この場はしょうがなしに戦闘に参加する事にする。
「後十五分で、海からも応援が来る! それまでは手足がもげようが頭を砕かれようが連中を止めるぞ!」
「糞爺ども! 後でぶんなぐるから、覚悟しやがれ!」
「魔力とカートリッジがある限り、砲身が砕けるまでぶっ放し続けてやるさ!」
腹をくくって、自棄を起こしたかのように限界以上に力を振り絞る。この後の事など、知った事ではない。どれだけ奮戦してもじり貧なのは変わらない。そう遠くないうちに戦線を下げねばならないだろうが、それまでに一体でも減らさなければ、海からの援軍が到着するまですら持たなくなる。そう自らに言い聞かせ、補給以外は魔力が枯れるまでぶっ放し続ける。
後にクラナガン防衛戦と呼ばれる大事件。その事件における接触初期においては、特に珍しくもない一コマ。この時の彼らの命をかけた奮闘が報われるのか無駄になるのか、この時はまだ、誰も知らない。
あとがき(というか補足)
シグナムの追加技は、全部スパロボ関係です。