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No.18488の一覧
[0] 恋姫†無双  外史の系図 ~董家伝~[クルセイド](2011/01/08 14:12)
[1] 一話~二十五話 オリジナルな人物設定 (華雄の真名追加)[クルセイド](2013/03/13 10:47)
[2] 一話[クルセイド](2010/05/04 14:40)
[3] 二話[クルセイド](2010/05/04 14:41)
[4] 三話[クルセイド](2010/05/24 15:13)
[5] 四話[クルセイド](2010/05/10 10:48)
[6] 五話[クルセイド](2010/05/16 07:37)
[7] 六話 黄巾の乱 始[クルセイド](2013/03/13 09:36)
[8] 七話[クルセイド](2010/05/24 15:17)
[9] 八話[クルセイド](2010/05/29 10:41)
[10] 九話[クルセイド](2010/07/02 16:18)
[11] 十話[クルセイド](2010/09/09 15:56)
[12] 十一話[クルセイド](2010/06/12 11:53)
[13] 十二話[クルセイド](2010/06/15 16:38)
[14] 十三話[クルセイド](2010/06/20 16:04)
[15] 十四話[クルセイド](2011/01/09 09:38)
[16] 十五話[クルセイド](2010/07/02 16:07)
[17] 十六話[クルセイド](2010/07/10 14:41)
[18] ~補完物語・とある日の不幸~[クルセイド](2010/07/11 16:23)
[19] 十七話[クルセイド](2010/07/13 16:00)
[20] 十八話[クルセイド](2010/07/20 19:20)
[21] 十九話[クルセイド](2012/06/24 13:08)
[22] 二十話[クルセイド](2010/07/28 15:57)
[23] 二十一話[クルセイド](2010/08/05 16:19)
[24] 二十二話[クルセイド](2011/01/28 14:05)
[25] 二十三話[クルセイド](2010/08/24 11:06)
[26] 二十四話[クルセイド](2010/08/28 12:43)
[27] 二十五話  黄巾の乱 終[クルセイド](2010/09/09 12:14)
[28] 二十六話~六十話 オリジナルな人物設定 (田豫)追加[クルセイド](2012/11/09 14:22)
[29] 二十六話[クルセイド](2011/07/06 10:04)
[30] 二十七話[クルセイド](2010/10/02 14:32)
[31] 二十八話 洛陽混乱 始[クルセイド](2013/03/13 09:44)
[32] 二十九話[クルセイド](2010/10/16 13:05)
[33] 三十話[クルセイド](2010/11/09 11:52)
[34] 三十一話[クルセイド](2010/11/09 11:43)
[35] 三十二話[クルセイド](2011/07/06 10:14)
[36] 三十三話[クルセイド](2011/07/06 10:23)
[37] 三十四話[クルセイド](2011/07/06 10:27)
[38] 三十五話[クルセイド](2010/12/10 13:17)
[39] 三十六話 洛陽混乱 終[クルセイド](2013/03/13 09:45)
[40] 三十七話[クルセイド](2010/12/16 16:48)
[41] 三十八話[クルセイド](2010/12/20 16:04)
[42] 三十九話 反董卓連合軍 始[クルセイド](2013/03/13 09:47)
[43] 四十話[クルセイド](2011/01/09 09:42)
[44] 四十一話[クルセイド](2011/07/06 10:30)
[45] 四十二話[クルセイド](2011/01/27 09:36)
[46] 四十三話[クルセイド](2011/01/28 14:28)
[47] 四十四話[クルセイド](2011/02/08 14:52)
[48] 四十五話[クルセイド](2011/02/14 15:03)
[49] 四十六話[クルセイド](2011/02/20 14:24)
[50] 四十七話[クルセイド](2011/02/28 11:36)
[51] 四十八話[クルセイド](2011/03/15 10:00)
[52] 四十九話[クルセイド](2011/03/21 13:02)
[53] 五十話[クルセイド](2011/04/02 13:46)
[54] 五十一話[クルセイド](2011/04/29 15:29)
[55] 五十二話[クルセイド](2011/05/24 14:22)
[56] 五十三話[クルセイド](2011/07/01 14:28)
[57] 五十五話[クルセイド](2013/03/13 09:48)
[58] 五十四話[クルセイド](2011/07/24 14:30)
[59] 五十六話 反董卓連合軍 終[クルセイド](2013/03/13 09:53)
[60] 五十七話[クルセイド](2011/10/12 15:52)
[61] 五十八話[クルセイド](2011/11/11 14:14)
[62] 五十九話[クルセイド](2011/12/07 15:28)
[63] 六十話~ オリジナルな人物設定(馬鉄・馬休)追加[クルセイド](2012/11/09 14:33)
[64] 六十話 西涼韓遂の乱 始[クルセイド](2013/03/13 09:54)
[65] 六十一話[クルセイド](2012/01/29 16:07)
[66] 六十二話[クルセイド](2012/02/23 15:07)
[67] 六十三話[クルセイド](2012/03/22 14:33)
[68] 六十四話[クルセイド](2012/04/21 10:41)
[69] 六十五話[クルセイド](2012/05/25 13:00)
[70] 六十六話[クルセイド](2012/06/24 15:08)
[71] 六十七話[クルセイド](2012/08/11 10:51)
[72] 六十八話[クルセイド](2012/09/03 15:28)
[73] 六十九話[クルセイド](2012/10/07 13:07)
[74] 七十話[クルセイド](2012/11/09 14:20)
[75] 七十一話[クルセイド](2012/12/27 18:04)
[76] 七十二話[クルセイド](2013/02/26 19:07)
[77] 七十三話[クルセイド](2013/04/06 12:50)
[78] 七十四話[クルセイド](2013/05/14 10:12)
[79] 七十五話[クルセイド](2013/07/02 19:48)
[80] 七十六話[クルセイド](2013/11/26 10:34)
[81] 七十七話[クルセイド](2014/03/09 11:15)
[82] 人物一覧表[クルセイド](2013/03/13 11:02)
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[18488] 七十一話
Name: クルセイド◆b200758e ID:bc2f3587 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/12/27 18:04





「悪い、遅くなった」

 未だ兵達の喧噪が絶えることなく、右へ左へ伝令が走り回っている間を縫って、俺は小綺麗にされた天幕の中へと馬超を伴って脚を踏み入れる。
 慌ただしくも剣戟の音が響いている訳では無い筈なのだが、天幕の中は未だ戦場にいるかのように張りつめたまま沈黙していて、戦いがまだまだ終わらないことを静寂に示していた。


 西涼連合軍――韓遂軍との緒戦は終結へと向かっていた。
 衝突初めの一合で先鋒を束ねる梁興を馬超が討ち取ったことは元より、それによって指揮統率の崩れた残党軍を董卓軍三千で散々にすりつぶすことに成功したのだ。
 馬超を筆頭に騎馬隊で一気に敵軍中を駆け抜け反転、後に後方より追いついた歩兵との挟撃。
 元々の予想通りに賊徒崩れのような兵達はそれに対抗することは敵わず、ついには敗走することになったのである。

「追撃の方はどうなってるの?」
「そっちの方は子龍殿に任せてきた。深追いはしないように厳命してるから、少しすれば戻ってくると思う」
「そうですか……馬超さん、お怪我はありませんか?」
「あっ……い、いや、別に」
「ふむ、さすがは音に聞こえた錦馬超ということだな。うむ、頼りにさせてもらおう」

 そうして。
 敵軍の敗走後、その追撃を趙雲に任せた俺は本隊にて陣地構築後に董卓の天幕に軍議のために集結していた董卓軍武将の面々に合流した。
臨時で築かれた陣地ながら反董卓連合軍との戦いで培われた技術は用いられており、賈駆からの要請の下に派遣した郭嘉と程昱が構築指示した陣地は、戦場の最中においても安心感を抱くことが出来る。
 さすがは二人だ、なんて視線を送ってみれば、こほんっ、と何処か遮るような賈駆の咳に促されて彼女が拡げた地図へと視線を送った。
 
 暴れに暴れた馬超に労わりの声をかける董卓とそれに若干慌てる馬超、その武勇に感心している華雄などに、少しだけ肩の力が抜けた。

「さて……じゃあ、状況を整理するわね」
「梁興の先鋒は梁興自身を馬超が討ち取ったことにより瓦解、残兵は今現在追撃中。そして、今俺達は情報収集、状況把握、そして休息のために陣を張っていると」
「当初の予定通りに、ですな。もっとも、戦もすぐさまに終わったことですし、もう少し進んでも良い気がしますが」
「援軍の可能性が無いとも言えないのですよー」
「もっと言えば、早急に安定を陥落させた西涼軍が押し寄せないとも限りません。一日二日ほどは余裕があるでしょうから、休めるうちに休んでおきませんと」
「……ご飯は大事」

 何処か物欲しそうに呟く呂布に苦笑しつつ、飛び交う情報の中から俺は現状を頭の中で整理していく。
 今ここ長安の外れにいるのは董卓を始めとした董卓軍でも古参の主将――徐栄と徐晃は洛陽の警戒に残っている――と、俺の副官級である趙雲と郭嘉、程昱の三人に西涼馬騰軍から馬超と馬岱の二人である。
 梁興の軍勢と戦ったことで幾分かの損害はあるものの、それでも兵数は三千前後という数に留まっている。
 同数程度の騎馬隊を相手にそれだけの損害で済んだことは僥倖であったが、馬超の活躍や敵軍が賊徒崩れの統率が緩い隊であったことなど、色々な幸運が重なったことも含めてまず及第点であった。
 それと同時に、賊徒崩れの兵が先鋒であったということ――それは最精鋭の本隊が別にいるということを推測するに十分なもので。
 そんな俺の推測に、軍師達は一斉に眉を顰めた。

「お兄さんの言うことももっともですかねー」
「……その可能性もあり得ますが……いえ、これだけあっさりと敵軍が瓦解したことからも、そちらの可能性の方が大きいかもしれませんね」
「確かにご主人様の言うとおり、梁興が率いてた兵達はならず者上がりみたいなのが多かったけどさ……」
「馬超さんが言うのならその可能性を想定して動いた方が良さそうですね……どうかな、詠ちゃん?」
「んー……まあ、想定しておいても問題は無いでしょうし、それでいくとしましょうか。……六千が安定、四千が石城、こんなところかしら?」
「もう千ずつぐらいは多いやもしれませんね……総兵力は二万ほど、で間違いなかったでしょうか、馬超殿?」
「う、うん」
「稟ちゃんの言う通りぐらいでしょうかねー。囮とでも言うべき役に韓遂さん自身が出てたんです、乾坤一擲で来てもおかしくはないでしょう」

 一を聞いて十を知る――この場合は十を考えるとも言うが、さすがは権謀術数を極めた軍師達と言うところか。
 本隊が後ろにいるかもしれない、との俺の言葉から推測して即座にその兵力を導き出すとは思っていなかった。
 それでも、ああでもないこうでもない、と韓遂軍の兵力戦力の検討を始める軍師達から視線を外すことなく俺は軍師の交わりに混ざっていない陳宮へと口を開く。

「本隊がいる可能性を検討してもらえるのは策を取り入れられた時みたいで嬉しいんだけどさ……なんでそこから兵の数が出てくるんだ?」
「そんなことも分らないですか?」
「……大体の予想は出来る」
「はぁ……いいですか、韓遂が率いることの出来る総兵力は二万程度、韓遂自身が出ていることも考えれば一万五千程度は今回のことで動員していてもおかしくは無いのです。その内、三千近くの兵は先立っての戦で蹴散らしたのです」
「残りは一万二千ほどってことか……ただ――」
「……石城は董卓軍にとって本拠に近く堅固、ならば勢力下になってまだ日の浅い安定を攻めるならば勝機は十分でしょう――が、石城に籠るは李確殿なのです」
「なるほど……足止めか」
「精鋭たる李確殿の兵を石城に押さえつけ、さらには石城を囲んだ後に安定を目指すことによって伝令や情報の伝達を防ぐことにもなるです。石城には抑え込めるだけの兵で囲み、安定に注力して先に落とそうとするのは理に適っているのですよ」

 さらには攻め落とすことの出来る安定を先に落とすことが出来れば、董家の根拠地でもある石城を攻め落とすには十二分な時間を稼ぐことができ、より大きな損害を与えることが出来る。
 ふふん、と胸を張りながらそう述べる陳宮の頭を呂布が撫でると、陳宮がさらに威張るように胸を張る。
 それに――わずかばかりの感情を抱きながらも――苦笑して視線を地図へと戻せば、どうやら軍師達の意見は纏まったらしい。

 安定に七千ほど、石城に五千ほど――それが、西涼韓遂軍の全貌。
 その事実に、ごくりと喉を鳴らす。
 三千程度の兵を討ち散らしたとはいえ、今だ健在であるそれだけの兵力に思うところが無いといえば嘘になる。
 だが、こちとら五千の兵で二十万の前に立ったこともあるのだ。
 とりあえず、あの時と同じ状況では無いだけ運がついているのだと思うことにして、俺は董卓の言葉を待った。

「それでは、私達は明朝までここで陣を張り待機。陽が明けた後に再度進軍、まずは安定を目指します」
「か――北郷は三交代での見張りの段取りをした後に後日の野営地候補を選出しておいて。華雄と恋、ねねは兵の統率。安定と石城を囲んでいると想定したとはいえ、敵がどう動くかは分らないわ。警戒だけは絶やさないようにしておいて」
「ああ」
「うむ、心得た」
「では、私達は斥候からの報告を纏めることにしましょう」
「そうですかねー。忍者さん達は?」
「すでに放っているわ。多分だけど、もうそろそろ第一陣が帰ってくる頃じゃないかしら」
「ではそちらの方の取り纏めもしましょうかねー」
「うん、頼む、風。それに奉考殿も」

 そうして、指針が決まれば行動が早くなったのは戦いを潜り抜けてきた故か。
 自らが生まれ育った街である石城、自らを頼りにしてその下に下った安定、そのどちらもが戦火に巻き込まれようとしているのに――既に巻き込まれていてもおかしくないというのに、董卓はてきぱきと指示を下して賈駆を話し込む。
 どくんっ、と胸の奥底が鈍く痛む。
 俺が――俺の生まれ育った地は遥か遠くで、守りたかった日は過去のものだが、それでも、それをまた失ってしまうかもしれないと考えればどうしようもない不安に駆られてしまう。
 董卓もまたそうであろうというのに、それを表に出すことはなく指示を下す表情に、俺は一度だけ深く息を吐いた。

 守りたい場所、守りたい人達――それは過去にではなく、現在にある。
 以前のそれを守りきれなかったことに言い訳を並べるつもりはないし、かつてあった日を忘れたこともないし、振り向かないと決めた訳でもない。
 けれど、今また――守りたい人達のそれが侵されようかとしている時の中で、後ろを振り向いたままでいるか、前を向いて対処するかと言われたら、俺はもちろん前を向きたい。
 そのことを考えて、いかんいかん、と心の中から要らぬ思考を振り払って、俺は一度だけちらりと董卓を見てその天幕を後にした。

 一度だけ虚空に吐いた息は、白く染まっていた。





  **

 
 


「――よーし、やぁっと着いたなぁ」

 ふわり、と地に人影が舞い降りる。
 音を立てるは木製の履物で、その身体は軽やかな衣服に纏われている。
 ひんやりとした夜気がさらし越しに肌に染み入るが、ぶるりと身体を震わせながらもその人影はにやりと口を歪めた。

「……人の姿は確認できませんね」
「そらそうやろ。安定の救援戦でこの村は一度放棄しとるからなぁ。一回捨てたんは中々に元には戻らん。……一刀の奴も、その辺は分かっとる筈や」

 夜を迎えたばかりだというのに、空にはすでに星々が主張を始めており、まるで草に代わる草原のように夜空を満たす。
 それを満足そうに見上げて、人影――張遼は大きく息を吸い込んだ。

 胸一杯に程よく冷えた夜気が入り込んで、戦を前にした高揚感を静かに押さえつけていく。
 さらしに覆われたたわわな胸が張り出されて、張遼の横にいた副官たる男がせき込みながら視線を外した。

「……安定と石城、救えると思いますか?」
「救えるとちゃうで。救う、やろ?」
「……は。しかし、この数では――」
「――」

 ぶるる、と馬の嘶きが無人の村に響き、それを抑えるかのように数人の人影が蠢く。
 ゆらりと空気が――時が揺れた。
副官たる男はそんな錯覚に落ちた。
 深々とした夜において、それは異質であったと言っていい。
 そしてそれが、見た目のんびりと夜空を見上げている女のものであることに身が震えて、そして納得した。

 神速の騎将――張文遠。
 目の前にいる人物はまさしくその将なのだと納得させるように副官たる男もまた、夜空を見上げた。

「――愚問でしたな。我らは二十万の中を駆け抜けた。如何な西涼軍といえど物の数では無いかと……」
「油断は禁物や。……もっとも、うちらは正面切ってぶつかるんやないけどな」
「ふむ……左様でしたな。まあ……もとより我々が得意な戦いではありますが」
「そうやろそうやろ。騎馬隊の本領発揮や……めっちゃ楽しみやねん、うち」
「反連合軍との戦いでは満足に騎馬の足を活かせませんでしたからな」

 にぱっ、とまるで童女――どちらかというと童だが――のように瞳を輝かせる張遼に、彼女の纏っていた気がゆらりと霧散する。
 その瞳は本当に楽しみにしているようで、今が戦に赴く前だとは副官には到底思えなかった。
 だが――。

「……油断は禁物、だろう?」

 ――ぴりっ、と。
 先ほどまで張遼が纏っていた気とは違う、まるで研ぎ澄まされた刃のような気を纏わせて、男の声が辺りに満ちる。
 それに合わせて、細身の人影が脚を進め、土を鳴らした。

「……忍の配置は済んだん?」
「問題無い。もとより安定周辺は我らが領域、西涼軍から姿を隠すことなど容易いことだ」
「……まあ、白波賊ちゅうたら石城の辺でも結構手広いって有名な賊軍やったしなぁ。馬に船、何でもござれって聞いたで?」
「まあ、貴白(楊奉の真名)が来る者拒まずだったからな。戦乱に辟易した奴が集まったのが白波賊だ、変に突出した賊軍が出来上がるのも無理はない」
「……その纏め役はあんたちゃうんか?」
「さてな」

 まるで空気が実体を伴ったと言えるような風貌の男が夜影から姿を現す。
 黒い衣服に身を纏いし男――韓暹は、苦笑するように肩をすくめた。
 どうやら、自身が白波賊――今では忍だが――の纏め役であると半ば理解しているらしい。
 様々な苦労――主に上役である楊奉が原因のそれでそのように見られていることは、韓暹にとって苦笑するようなものであったらしい。

「それらの突出した最たるが貴白だからな、必然として取り纏めは俺になる。……苦労したことなど、手足の指では足りぬよ」
「そのお気持ち、良く分ります」
「……どういうことや、それ?」
「無論、言葉通りの意味で」
「ぶぅー」

 だが。
 当の韓暹自身はそれを苦笑はしながらも嫌な顔もせずに語っている。
 その事実が彼自身の中で納得いくものとして、理解でき迎え入れているものであると張遼は理解して、楊奉に向ける韓暹の信頼のようなものが垣間見えた気がした。
 男女のそれとは少しだけ違うような、けれども何処か温かいと思える信頼。
 それにほっこりと胸の内を温めて、ちらりとだけ副官たる男を見てみる。
 
 彼との付き合いはそれなりに長い。
 石城を治めていた董家の先代に仕え始め、女などと馬鹿にされて叩きのめしたのが出会い。
 それから色々と紆余曲折を経て副官へと収まった男との信頼関係を期待した張遼は――続いた副官の言葉に頬を膨らませていた。

「……それにしても、いささか驚いたぞ」
「ん……まぁ、その辺は一刀や月っちの先読みやなぁ」
「それだけでは無いだろうが……神速将軍の名は伊達では無かったということか」
「いややわぁ、照れてまうやん」

 しなっ、と妙な動きを始めた張遼へ視線を一度も向けることなく、韓暹は続けて口を開いた。

「……さて、部下を配したとはいえ警戒するに越したことは無いだろう」
「ふむ……では斥候の手配に移ります」
「おう、頼むで。情報はいつぐらいに届く?」
「天候と状況によるだろうが、明日には」
「そっか。ほなら四隊に分けて二刻ずつでいこか」
「はっ」

 副官たる堂々とした声で周囲の兵を集め始めた男の背と影に溶けるように消えていった韓暹の姿から視線を外しながら、張遼はぐるりと周囲を見渡す。
 がちゃがちゃと金属が重なり擦れ合う音が響く村は無人で、あまりにも静かすぎていた――静かであるということがあまりにも自然であった。
 それもその筈である。
 張遼率いる董卓軍騎馬隊が駐するその村の位置は、安定の街より程よく離れた地点――かつて、黄巾賊が駆け抜けたその途上。
 ――北郷一刀が策によって囮とするために廃棄された村、その一つなのだから。

「……ふぅ」

 張遼は、月を眺めながら白い息を一つ吐いていた。

「間に合わせる……それがウチの役目や」

 戦いの時は近い。
 そう思わせる声色で、張遼はぽつりと呟いていた。





  **





「ああッ?!」
「なんだよ、このッ」
「……止めてくる」
「うむ、任せたの」

 はぁ、と吐息を一つ零して、郭汜は眉を潜ませる。
 石城の李確から急使が届き安定が西涼軍に包囲されて、すでに結構な日数が経過した。
 日数が経過したにも関わらずこうして思考出来るということは未だ自身の身が健在である証拠なのだが、それを僥倖と喜ぼうにも戦況は芳しくない――正確を期するのなら、動きはまるで無い、と言ったほうが正しいか。
 安定の街を包囲したは西涼軍およそ二千ほどだが、これらが一向に動きを見せないことこそが問題であると言って正しかった。

 現在、安定に詰めるは二千程度の兵である。
 安定救援の折に勢力下に入った安定の軍兵は董卓軍への感謝や諸々からその士気こそ高いものの、練度はお世辞にも精鋭とは言い難い。
 主力となりうる兵達を先代の安定太守が連れて行ったためだが、それでも、新兵同然だった兵もどうにか賊徒を打ち破るぐらいまでには育ってくれた。
 だが、精鋭と謳われる西涼軍相手には未だ荷が重いのも、また現実である。
 それを考えてこそ、無暗な兵の減少を抑えるがための籠城、防衛という戦であったが、まさかここまで相手側に動きが無いとは思わなかった。

 攻める様子も気配もなく、包囲の陣内にて鍛錬等に明け暮れる――そう思いきや、討ち散らそうとこちらが動きを始めれば即座に体勢を整えて迎え撃ち、痛手を与えようと動く。
 そもそもの練度は向こうが上である、有効な手立てもないまま戦う訳にはいかず、さしたる戦果も損傷もないままに撤退を繰り返しては出陣し――そして現在に至っていた。

「むぅ……これはやられたのぅ」

 防衛戦、その戦果だけを見るのならば、この戦いは上々も上々、これ以上ない戦果であった。
 何しろ目立つ損傷が無いのだ、守り切れていると言い切っていいものであった――だが、籠城戦として考えるのであれば、今現在の状況が非常に不味いことに、郭汜は焦りをにじませていた。
 
 ――要は士気の問題だ。
 練度は低いものの士気が高い安定の軍兵ならば、西涼軍相手と言えど負けぬ戦――十二分以上の戦いが出来るものだと郭汜は確信していた。
 郭汜が軍略戦略戦術を構築し、樊稠が敵を討ち果たす。
 練度がいくら低いとはいえ相手は同数、相手の動きを見極めて機会を逃さなければ勝てる――そう思っていたのだ。
 だが、勝敗は決着することなく時が過ぎてしまった。
 いっそ高すぎると言っても良いほどだった士気は戦によって発散されることなく内へと向かい、次第に不満へと変じていった。
 ひとたび内へ意志が向いてしまうと、後は坂を転げ落ちるように士気は低下していったのである。

「さらには糧食の問題もある、か……」

 そして、第二の問題が兵糧である。
 戦時であるならば、と協力してきた商家の面々は戦の長期膠着化からによる財政圧迫を恐れてすでに数が少ない。
 この辺は勢力にして時が経っていないことが多いに関係あるのだが、今はそんなことを論じている場合ではなく、そして意味も無かった。
 ともすれば、兵と商家――安定という街が近すぎたこそが問題でもあった。
 商家が離れていった――それはすなわち戦時からも離れていったと独断で判断した兵達が湧き出したのである。
 戦時であるからこそ少ない食事で耐えていた兵達は、商家が離れた途端に浪費を増やした。
 もともと戦経験も少なく、また戦果が無く不満を向け始めていた時期だったのがさらに災いしたのだろう、浪費は速やかに兵に浸透していった。

「どうにかして締め付けてはいるが、全てを見渡すこと能わず、無理矢理にでもすれば兵と民の両方から反感を受けるか……なかなか、どうして……」

 安定を助けたというのはついこの間であるというのに――などと郭汜は言わない。
 戦うのも人であれば生きていくのも人である、人の機敏など悟れるものではないし善手を打てない自らの責は重々に承知しているつもりであった。

「かといって討って出るは愚策、籠り続けるのも愚策。はてはて、打つ手無しとはまさにこのことかのぅ……」
「……嬉しそうに言うな」
「おや、終わったのか?」
「うむ。黙らせておいた」

 言葉を放ちながら手のひらを気遣う 樊稠に、殴って黙らせたのかと視線で郭汜は問う。
 その視線に悪びれる様子もなく、樊稠は口を開いた。

「……忍から報告があった。山の向こう、影に隠れる形で西涼軍の別隊が見つかった」
「ほう……?」
「その数は五千ほどらしい」
「それが全てなら、総数七千といったところか? こちらの三倍以上ではないか」
「兵達には知られていない――が、ただ事ではないことは理解しているらしい。騒動の数は日に日に増しているからな」
「……こちらの準備不足が見透かされておるようだのぅ」
「……一つ言わせてもらうが」
「うん?」

 樊稠が地図に記していく西涼軍の兵数や配置、忍の動向、包囲している西涼軍の動きなどを視界に収めながら、郭汜は腕を組む。
 さらり、と上質な布が滑る感触を幾分か楽しみながら、それと並行して思考は高速で動いていく。
 西涼軍の兵数――おそらく、七千が全軍だろう。
 西涼軍の策略――動きの無いまま包囲、戦果の無いことと兵糧の減少からの士気低下が目的だろう。
 西涼軍のこれからの動き――士気が最低限まで落ち切ったところで全軍による攻撃、或いは撤退に見せかけて戦果に逸った出陣を誘うか。
 石城の動向――李確ならば問題無いとは思いたいが、同時攻撃ならば援軍の期待は出来ぬであろう。
 洛陽、董卓軍本隊の動向――未だ急使として放った忍は辿り着いていないだろう、そもそも距離が距離である、到着までにあと数日は要することは明確であった。
 となれば、洛陽から――長安からの援軍でさえ到着するまで十数日以上はあることが確実であって、その期間、如何にして西涼軍を防ぐかが今戦の肝と言えた。

 そんな考えが顔に出ていたのだろう。
 動きのないまま――その実、心底憐れむような声色で、樊稠が口を開いた。

「そんなに嬉しそうな顔をするな。兵が見ている」
「む? 笑っておったかや?」
「にやけておるぞ」
「あや、そうか。まぁ、いや何、心底楽しいからこそ笑っておるのよ」
「……楽しむのは良いが、今は目の前を打破することを考えてくれ」
「分っておる、分っておる。……ふん、策を練るにはまず情報じゃ。忍を呼ぶとしようかの」
「呼んで来よう」

 やれやれ、といった態度を隠すことなく立ち上がった樊稠に歯を覗かせたまま笑みを送って、郭汜はどっかりと椅子に深く腰掛ける。
 安定の先代太守が用いていたらしい背もたれ付きの華美すぎる椅子であるが、こうやって身を休ませるのには実に役に立つ――脂肉たっぷりだったその男とは違い、幼子な容姿ながらも威厳のある郭汜が脚を組んでいるのは凄まじく不釣り合いに似合っているのだが、本人は知る由も無い。
 


 ――顔や動きには出さないが、郭汜自身もそれなりに疲労の色が濃くなっているのを自覚している。
 先の見えない籠城戦、不安定な状態となった安定の街に兵、数え上げればきりがないほどに積み重なっている不安要素に、否が応にも疲労は強くなっている。
 目を瞑って身を任せた安堵のままに気を抜けばすぐにでも眠りへと陥ることが出来るだろうが、樊稠が帰ってくるまでそんなに時間は無いだろう。
 であるからこそ、目と頭を休める程度に休んでおくとしよう――今だけは。

 だが。
 郭汜のそんな思惑は、まったくの無駄に終わらされることになる。

 ――珍しくも慌てた様子で樊稠が連れてきた忍の一人が矢継ぎ早に放った報告に、郭汜はあまりの驚きに空いた口を閉じることが出来なかった。



 ――董卓軍三千、安定の街より数里にてこちらの救援の機を窺っている由。
 
 
 
 あまりにも早すぎる援軍に、戦況は郭汜の思惑とは擦れ違いながらも加速するのであった。





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