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No.18488の一覧
[0] 恋姫†無双  外史の系図 ~董家伝~[クルセイド](2011/01/08 14:12)
[1] 一話~二十五話 オリジナルな人物設定 (華雄の真名追加)[クルセイド](2013/03/13 10:47)
[2] 一話[クルセイド](2010/05/04 14:40)
[3] 二話[クルセイド](2010/05/04 14:41)
[4] 三話[クルセイド](2010/05/24 15:13)
[5] 四話[クルセイド](2010/05/10 10:48)
[6] 五話[クルセイド](2010/05/16 07:37)
[7] 六話 黄巾の乱 始[クルセイド](2013/03/13 09:36)
[8] 七話[クルセイド](2010/05/24 15:17)
[9] 八話[クルセイド](2010/05/29 10:41)
[10] 九話[クルセイド](2010/07/02 16:18)
[11] 十話[クルセイド](2010/09/09 15:56)
[12] 十一話[クルセイド](2010/06/12 11:53)
[13] 十二話[クルセイド](2010/06/15 16:38)
[14] 十三話[クルセイド](2010/06/20 16:04)
[15] 十四話[クルセイド](2011/01/09 09:38)
[16] 十五話[クルセイド](2010/07/02 16:07)
[17] 十六話[クルセイド](2010/07/10 14:41)
[18] ~補完物語・とある日の不幸~[クルセイド](2010/07/11 16:23)
[19] 十七話[クルセイド](2010/07/13 16:00)
[20] 十八話[クルセイド](2010/07/20 19:20)
[21] 十九話[クルセイド](2012/06/24 13:08)
[22] 二十話[クルセイド](2010/07/28 15:57)
[23] 二十一話[クルセイド](2010/08/05 16:19)
[24] 二十二話[クルセイド](2011/01/28 14:05)
[25] 二十三話[クルセイド](2010/08/24 11:06)
[26] 二十四話[クルセイド](2010/08/28 12:43)
[27] 二十五話  黄巾の乱 終[クルセイド](2010/09/09 12:14)
[28] 二十六話~六十話 オリジナルな人物設定 (田豫)追加[クルセイド](2012/11/09 14:22)
[29] 二十六話[クルセイド](2011/07/06 10:04)
[30] 二十七話[クルセイド](2010/10/02 14:32)
[31] 二十八話 洛陽混乱 始[クルセイド](2013/03/13 09:44)
[32] 二十九話[クルセイド](2010/10/16 13:05)
[33] 三十話[クルセイド](2010/11/09 11:52)
[34] 三十一話[クルセイド](2010/11/09 11:43)
[35] 三十二話[クルセイド](2011/07/06 10:14)
[36] 三十三話[クルセイド](2011/07/06 10:23)
[37] 三十四話[クルセイド](2011/07/06 10:27)
[38] 三十五話[クルセイド](2010/12/10 13:17)
[39] 三十六話 洛陽混乱 終[クルセイド](2013/03/13 09:45)
[40] 三十七話[クルセイド](2010/12/16 16:48)
[41] 三十八話[クルセイド](2010/12/20 16:04)
[42] 三十九話 反董卓連合軍 始[クルセイド](2013/03/13 09:47)
[43] 四十話[クルセイド](2011/01/09 09:42)
[44] 四十一話[クルセイド](2011/07/06 10:30)
[45] 四十二話[クルセイド](2011/01/27 09:36)
[46] 四十三話[クルセイド](2011/01/28 14:28)
[47] 四十四話[クルセイド](2011/02/08 14:52)
[48] 四十五話[クルセイド](2011/02/14 15:03)
[49] 四十六話[クルセイド](2011/02/20 14:24)
[50] 四十七話[クルセイド](2011/02/28 11:36)
[51] 四十八話[クルセイド](2011/03/15 10:00)
[52] 四十九話[クルセイド](2011/03/21 13:02)
[53] 五十話[クルセイド](2011/04/02 13:46)
[54] 五十一話[クルセイド](2011/04/29 15:29)
[55] 五十二話[クルセイド](2011/05/24 14:22)
[56] 五十三話[クルセイド](2011/07/01 14:28)
[57] 五十五話[クルセイド](2013/03/13 09:48)
[58] 五十四話[クルセイド](2011/07/24 14:30)
[59] 五十六話 反董卓連合軍 終[クルセイド](2013/03/13 09:53)
[60] 五十七話[クルセイド](2011/10/12 15:52)
[61] 五十八話[クルセイド](2011/11/11 14:14)
[62] 五十九話[クルセイド](2011/12/07 15:28)
[63] 六十話~ オリジナルな人物設定(馬鉄・馬休)追加[クルセイド](2012/11/09 14:33)
[64] 六十話 西涼韓遂の乱 始[クルセイド](2013/03/13 09:54)
[65] 六十一話[クルセイド](2012/01/29 16:07)
[66] 六十二話[クルセイド](2012/02/23 15:07)
[67] 六十三話[クルセイド](2012/03/22 14:33)
[68] 六十四話[クルセイド](2012/04/21 10:41)
[69] 六十五話[クルセイド](2012/05/25 13:00)
[70] 六十六話[クルセイド](2012/06/24 15:08)
[71] 六十七話[クルセイド](2012/08/11 10:51)
[72] 六十八話[クルセイド](2012/09/03 15:28)
[73] 六十九話[クルセイド](2012/10/07 13:07)
[74] 七十話[クルセイド](2012/11/09 14:20)
[75] 七十一話[クルセイド](2012/12/27 18:04)
[76] 七十二話[クルセイド](2013/02/26 19:07)
[77] 七十三話[クルセイド](2013/04/06 12:50)
[78] 七十四話[クルセイド](2013/05/14 10:12)
[79] 七十五話[クルセイド](2013/07/02 19:48)
[80] 七十六話[クルセイド](2013/11/26 10:34)
[81] 七十七話[クルセイド](2014/03/09 11:15)
[82] 人物一覧表[クルセイド](2013/03/13 11:02)
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[18488] 六十九話
Name: クルセイド◆b200758e ID:bc2f3587 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/10/07 13:07





「梁興様ッ」

 狂態の宴――その後の殺戮から一夜明け。
 西涼韓遂軍の将、梁興は手勢二千五百を率いて長安を目前としていた。
 荒野の先に未だ長安は見えないが、あと数刻も駆ければその城壁を遠目に確認出来るほどになるだろう。
 陽は未だ中天には達しておらず、このままいけば長安に一当て出来る頃合いだ。
 長安に務める将は誰だったか――など、梁興は気にも留めない。
 長安の城壁が高いことは知っているし、その硬さは漢の中でも比類無きものだろう。

 であるからこそ、梁興は長安について考えることを良しとはしなかった。
 ――ただ喰らい尽くすのみ、であると。
 騎馬の突進力のままに長安へと一気に突撃し、暴れ回り、将を討ち――暴虐と狂態の宴を再び現世させる。
 そのためには小賢しい細工など必要ではない、と梁興は感じていた。
 否、小賢しい細工などを弄すれば自分では太刀打ち出来ない、と本能で感じ取っていた。
 元々考えることは苦手である。
 頭を使うことなどは馬玩や楊秋、成宜に任せておけばいいのだ。
 自分はただひたすらに馬を駆り、武を振るうだけである。

「何だッ?」

「この先にて少数の軍勢を確認したと斥候より報告が。董と馬の旗印も見えるそうです」

「ほう……? 馬はどれだ?」

「恐らく、馬超と馬岱であると」

 であるからこそ、梁興は明確な敵がいたということに背筋を振るわせた。
 それは精鋭と名高い董卓軍と錦馬超を一度に相手とした恐怖――からでは、当然無い。
 それは純粋な喜悦。
 それは純粋な昂ぶり――武人としては当然ともいえる、武を震えることへの興奮によるものだった。

 それに伴って、自身の内側でぐずぐずと燻っていた熱に炎が灯るのを梁興は感じていた。
 壊したいと思っていた獲物が自ら懐に飛び込んでくるとは。
 滾る、高ぶる、昂ぶる――本能が獣性に満ちていく。
 知らず獣性に満ちた吐息が零れるが、それすら受け入れながら梁興はさらに口端を歪めていく。

「くっくっくっ……おいお前等ッ、馬超は俺の獲物だが馬岱はくれてやるッ」

 敵――董卓軍がここに姿を現したということは、恐らくではあるが、韓遂の目論みは失敗に終わったと思っていいだろう。
 この段階で長安付近にいるということは、行動を起こした直後に鎮圧――最悪、死んだということも有り得た。
 とすればこれ以上戦を長引かせることなく西涼へと撤退し、董卓軍との協議の末に落としどころを見つけなければいけないのが将としてであるのだが――梁興としては、そのようなことは知った事ではない。
 
 敵がいれば武を振るい、殺す。
 女がいれば犯し、壊す。
 実に単純で、そして真理でもあった。

 そもそも、梁興としては楊秋に長安陥落の指示を受けているのだ。
 指示を受けたのなら成さねばならぬし、中止の指示は未だ受けていない――距離を考えるにそれがどんなに不可能であっても、だ。
 それに、韓遂が死んだ――あるいは失敗したのだと決めつけることも梁興は放棄することにした。
 うだうだと考えていてもしょうがない、と一切の思考を放棄した。
 
 ――ただそこにあるのは武人として武を振るい、男として女を犯すという、本能のみ。

「馬岱は好きにしていいんで?」

「ああ、構わねえ。犯すも良し、孕ますも良し、壊すも良し……存分に好きにしろッ」

「ひゃっはッ。俺、前からあいつ気にくわなかったんだよな」

「俺もだぜ。落とし穴に落とされた恨み、ここで晴らしてやるッ」

「ちぃとばかし貧相な身体付だが、そりゃおめえ、まだまだ青い果実ってことだよな、おい」

「はっはっ。青くてまだ固いってか」

「固いのはおめえのもんだろうがよ」

「違いねえ」

 がはは、と荒々しい声が風の中に響く。
 これこそが戦場、これこそが時代――これこそが武人と男としての性なのだと宣言するように響いた笑い声は、いつしか獣性溢れる叫びへと変わっていった。
 兵達の瞳には狂気と狂喜が渦巻き、自然、馬を駆る手に力が籠もってその速度を上げていく
 
 このまま進めば直に董卓軍――そこにいる馬超とぶつかることは明白である。
 董卓軍の規模は未だ報告に上がってこないが、余りにも大規模であるならば撤退も視野にはいれるが、その規模故に動きが目立つ大規模な軍勢という報告が無いのであれば、それほどでは無いのだろう。
 であるならば、自分達の敵ではないと梁興は感じ取っていた。
 何より、自らが率いるは精強精鋭の西涼騎馬隊である。
 いくら暴れる名目である主たる韓遂と肩を並べる馬騰、その娘である馬超が相手とはいえ、涼州も端である董卓軍の兵を率いているのであればそれほどではないだろう。
 馬超自身にしても同じである、自らに敵うほど武力が高いわけではない。

 となれば。
 梁興の思考は自然にその後へと移り変わっていった。

「長安で散々に犯してやるとするか……そうだな、壊れた馬岱の目の前でってのもいいなぁ。良い声で鳴いてくれそうだ」

 ずくんっ、と獣性が身体の中で一気に燃え上がる。
 吐息に熱が籠もり、自然に吊り上がる口端から獣の匂いが溢れ出ていく。
 そうして、我慢出来なくなったのか――。
 ――荒ぶる熱を放出するかのように、梁興は槍を掲げて声を荒げた。


「お前らァッ、このまま一気に突撃するぜェッ! 力、女、金ッ。手にいれたい奴は付いてこいやァッ!」
 

 総勢、二千五百。
 まるで一体の獣のように蠢く梁興率いる西涼韓遂軍は、今まさに董卓軍の喉笛へと噛み付かんとしていた――――。




 
  **





「……見えてきたようですな」

 規則正しいように見えて不規則な、それでいてどこか統制が取れているなどと相反の感情を抱く足音に混じりながら、趙雲の呟きが耳に届く。
 長安から安定、果ては石城まで駆けようかという董卓軍三千の中において、先頭を行く騎馬三百の最中において、俺は趙雲の言葉に視線を巡らせた。

「……見えないんだけど」

「ここからであれば砂煙ほどしか確認出来ぬほどでしょう。……こう言っては何ですが、一刀殿では確認は難しいかと」

「……そうですか」

 凄い視力が良いんだな、なんてことではなくどうも武人としての力量で見える見えないが分かれるらしいと趙雲の言葉で何となく納得しつつ、俺は再度視線を前方へとやる。
 じぃ、っと視線を凝らして、目を細めたり開いてみたり。
 結局の所、人の形どころか、砂煙の姿形すら確認出来なかった。

 しかし。
 並ぶように馬を並走させる趙雲の横顔には、いつもの飄々とした余裕は若干確認出来るものの、色濃い緊張がまとわりついていた。
 その引き締まった横顔が綺麗だ、なんて感情を抱くまでもなく、俺は彼女の言葉が正しいものだと――西涼韓遂軍の先鋭が目前にまで迫っているのだと理解した。

「……あの砂煙では二千は固いでしょうか。こちらの三千よりは小勢になるとはいえ精鋭名高い西涼の騎馬を主力としているのであれば、戦力としてではあちらの方が上でしょうね」

「加えて言えば、こっちの騎馬さんが三百程度なのも関係しますねー。このまま風達だけで進んでいけば、あっという間に負けちゃうと思いますよー」

 郭嘉と程昱の言葉に彼女達もまた砂煙が確認出来ているのだと何処か納得しつつ、俺はその言葉に意識を傾ける。
 郭嘉の言葉で敵軍はその多少はあれど二千程度であると知れた。
 こちらの兵三千からすれば数的優位はあると言えるが、しかして、西涼連合の一画を担ってきた騎馬隊が多分に含まれている予想からすれば、戦力的優位はあちらに分があると言えるだろう。
 二千のうち半分は騎馬である可能性も考えて下さい、との郭嘉からの言葉に、三百程度の騎馬隊ではどうにも太刀打ちできないと理解させられる。

 それと同時に、ふと思い立つ。
 韓遂の暗殺未遂の件から俺達は西涼連合の韓遂軍が反旗――正確に述べれば違うのだが――を翻したという可能性を考慮して、軍勢を発している。
 韓遂と肩を並べていた馬騰の確信、韓遂の最後の言葉などからほぼ確実なものとしたからだ。
 だが。
 今こうしてその軍勢を捉えようかという段階になって、それは本当に正しいものなのか、と微かな感情が脳裏をよぎる。
 もしやすれば、ただ韓遂を慕って追いかけてきた兵達なのかもしれない、などという有り得そうにない予想が首をもたげる。
 このまま討っても良いのだろうか、と――。


「気を引き締めろよ、ご主人様」


 だが。
 そんな俺の不安も、ついに口を開いた馬超の言葉に払拭されることになる。
 普段は愛嬌のある眉を強張らせて歪めたまま、続いて馬超は口を開く。

「……この進行上に、村はあるのか?」

「あ……ああ? 確か、小さな村があったと思うけど……」

「――――ッ」

「……翠?」

 俺の言葉に、歪んでいた眉をさらに歪ませて――その瞳に明確な怒りを滲ませながら歯ぎしりする馬超に、俺はふと疑問を抱いた。
 見れば、いつもは飄々としている馬岱ですらその表情に憤怒を滲ませて砂煙を睨み付けている。
 一体何が――そんな疑問は、ふと生じた予感と予想に変わり、それらは程昱の言葉に一気に表面化した。

「……まさか」

「うん……お兄様の考えたとおりだと思うよ」


 村の人達は、多分、みんな生きていない。


「――――ッ」

 ぞわり、と。
 馬岱の言葉に誘われるように、背中が一気に寒気だつ。
 興奮か恐怖か、はたまた不快感からか。
 拒絶反応を起こした身体が喉元から胃液を逆流しようとするのを必死でこらえる。
 チカチカ、と。
 確固たる現実とかした予想――寂れた村の地が血に濡れて、そこに転がる幾多もの骸と狂態に塗れたであろう女子供の骸が、実際に見た訳でもないのに視界に浮かんでは消えていく。
 それは、ある日見たアスファルトの上の光景に似ていて――。
 そこまで考えて、俺は自身を落ち着かそうと肺と胃に溜まっていた空気を一息に吐き出した。

 村を襲おうとした黄巾賊とは戦ったことがある。
 彼らは皆一様に生きるために――その過程上において村を襲おうとしていた。
 だが、今回はそのような話ではない。
 ――ただ、殺した。
 例えば、武を奮いたいがため。
 例えば、逆らわれたため。
 例えば、ただ人を斬りたいから。
 例えば、それは陵辱の後始末。
 今はもう誰もいないだろう村で起こったと思わしき顛末を馬岱が語ると、自身の中で黒い何かがざわりと波打つ気がした。
 
「……あの『梁』の旗の将、それほどの人物ということか?」

「……梁興。韓遂のおじさんとこでも、一、二を争うほどに残虐な奴だよ」

 何かを押し殺したような極めて冷静を振る舞った趙雲の問いに、馬岱が答える。
 その声色だけで人が殺せそうなほど重々しく呟かれた馬岱の言葉に、それでも、俺は深く呼吸をして身体と思考を静める。
 西涼連合は韓遂の下でも残虐な部類に入るということは、その性格は置いても、武勇は優れていると言っていいのだろう。
 そんな将を相手に心身を乱していては勝負になりはしない。
 であるからこそ、俺は少しばかり冷静になった頭を使って、さらに冷静になるためにと呼吸を整える。
 今すべきことは憤怒に塗れることではなく、ただ勝利を掴むのみである、と。

 そう冷静になってくれば、次に考えるべきは対応策だ。
 数はこちらが上でも兵力とすれば向こうが上、それを率いる将は残虐ながらも武勇に優れているときている。
 冷静に対応出来れば問題ないだろうが、先の村のことを考えるとそれがどこまで出来るかどうか。
 辺りを見れば、趙雲も郭嘉も程昱も、皆が噴き出そうとする怒りを無理矢理に抑え込んでいるかのようである。
 それは無論、西涼韓遂軍と共に戦ってきた馬岱と――。


「――――ハァッ!」


 ――と考えたところで、それまで考えていた人物である馬超が空気を切り裂くかのように声を上げる。
 裂帛の気合いと言うのだろうか。
 照れに顔を赤らめて慌てる可愛らしい少女の眼差しは、触れれば全てを切り裂くような冷たい視線へと変化している。
 それはまるで槍の穂先のようで。
 そんな感情をままに表して、馬超は馬腹を蹴って一気に駆け出した。

「ちょッ、お姉様ッ?」

「す、翠ッ?! 待てっ、待てってッ!」

「おやおや……錦馬超殿はえらくお怒りのご様子ですなぁ……」

「左様で。……ただまあ、お気持ちは理解出来ますが」

「これまで一緒に戦ってきた人達がしたことだから許せない、ぐらいですかねー。或いは、裏切られた立場で裏切った人達を目の前にしたことで我慢が出来なかったのでしょうか?」

「ちょッ! そんな落ち着いてる場合じゃないだろッ?!」

「左様ですな……であれば、指示を頂きたい、指揮官殿。それが無ければ勝手に動くこともままならぬもので」

 馬の勢い十分なままに、馬超の背がみるみる内に砂煙へと肉薄していくのに慌ててみると、実際に慌てているのは俺と馬超の従妹である馬岱なだけで、趙雲達はさして驚いた様子も無く周囲を見渡している。
 その表情にこそ緊張が見られるものの、常と変化の無い口調についつい声を荒げてしまえば、返ってきたのは冷静で正確な趙雲の言葉――言葉の取り方によって独断で動く許可を求めている気がするのはこの際無視しておく、時間が勿体ない。
 
 簡単にさっと郭嘉と程昱に視線を巡らせば、一度だけコクリと頷くあたり、趙雲と同意見なのだろう。
 現状、馬岱は俺預かりなので異を言えない立場であることを考えれば、他の三人から指示を求められて迷う訳にはいかない。
 そもそも、馬超の独走によって戦況は否が応にも動き出してしまっている。
 このまま迷っていては董卓軍は――趙雲達の言葉を借りるに、怒りに任せたままの馬超の身が危ぶまれるのだ。
 
「ッツ!? ああもう、くそッ! 奉考殿と風は後方の本隊へと連絡ッ、騎馬隊は先行、本隊は臨機の応対を求める! 子龍殿、蒲公英、俺達は翠の援護だッ!」

「馬超殿の独断先行を咎めないので?」

「そんなものは後だ、後ッ。命が無いと怒ることすら出来ないだろッ」

「ふふ、確かに。……では、馬超殿と合流後は騎馬隊を二手に分けて敵軍を駆け抜けて下さい。その後は本隊の華雄殿と呂布殿に敵騎馬隊を押しとどめて頂きますので」

「その後には反転してきたお兄さん達と本隊による前後挟撃ですかねー。一度動きを止めてしまえば、騎馬最大の利点である速度と威力は軽減出来ると思いますのでー」

「よし、分かったッ! じゃあ月達に頼むッ。子龍殿、蒲公英、行くぞッ!」

「応ッ」

「わわっ、ちょっと待ってよ、お兄様ッ?」

 何を馬鹿なことを、と馬超を怒るのは後でいい。
 真っ直ぐな性根の彼女のことだ、先ほどの程昱の話のように裏切りに近いものを受けた怒りというのもあるだろうし、今は亡き村で行われたであろう残虐への怒りもあるだろう。
 何より、馬超自身は共に戦ってきたということもあって梁興なる人物をよく知っているであろうから、その残虐は容易に認められるものだったのだろう。
 故の、独走。
 自分の手で討ってやる、などと考えているに違い無いと俺は感じ取っていた。

 だが。
 もし仮に梁興を討ち取ることが出来たとはいえ、その後に控えるは韓遂軍二千――近くなってきて思ったが三千ぐらいはいそうである――だ。
 いくら馬超が武勇に優れているとはいってもそれだけの数を相手にするのは大変であろうし、なにより、梁興を討ち取らないままにその数に囲まれてしまえば脱出とて困難になるだろう。
 そして、もし囲まれて無力化されてしまえば小さな村を残虐の渦に陥れた将のことだ、馬超自身を残虐にもてなすであろうことは容易に想像出来た。

 一瞬想像してしまった光景に、ぶるりと身体を震わせる。

「……しかしなんですかな。一刀殿の下で戦うと、否応無しに不利なのですが……先祖の供養が足らないのでは?」

「反董卓連合軍との時も凄かったんだって?」

「左様。数千の兵で二十万の中を駆けろと命じられた時には、さすがの私も度胆を抜かれたもの。生きた心地がしませんだな」

「……よく言いますね、子龍殿。子供のように瞳を輝かせて指示を受け入れた人の言葉とは思えませんよ」

「いやぁ、お恥ずかしい」

「いや、褒めてないでしょ」

 だと言うのに。
 眼差しは緊張のままに口元を笑みに歪める趙雲と馬岱に、がっくしと俺は肩を落としそうになる。
 まあ、趙雲の言い分は確かにもっともで、俺が来てから――かどうかは分からないが――の董卓軍の戦いは、あまりにも不利な条件というものが多すぎる気がした。
 安定救援戦や反董卓連合軍との戦いの折には色々と前準備が出来ていたのでそのまま不利という訳では無かったが、それでも、有利な条件という戦自体が俺の記憶に無い。
 ――もしかしたら本当に俺の影響か。
 なんてことに思考が働きそうになるが、とりあえずは今考えなければいけないことはそれではないと意識を集中させて、俺は目前に迫りつつあった西涼韓遂軍へと視線をやった。

「騎馬隊への対応策は?」

「正面からぶつからないことだと思うよ、お兄様。この軍の騎馬隊も凄いけど、西涼の騎馬はこれどころじゃないから」

「とはいえ、馬超殿が突出している現状においては一人だけ残していなす訳にもいかぬがな」

「うぅ……ごめんなさい」

「蒲公英が悪い訳じゃないさ……そうだな、翆には後でお仕置きでも受けてもらうとしよう」

 とりあえずは溜りに溜まっている文書仕事を手伝ってもらうとしようか。
 俺の左手がこんなんだし、身の回り諸々をお願いするのも悪くない――服屋にメイド服なんて無いだろうか、それともいっそのこと作ってしまおうか。
 いやいや、最近遊んで欲しそうな視線を向けてくる呂布の相手でも任せておこうか。
 そんな色々なことを考えつつ、にやりと歪みそうになる口元を引き締め直して、俺は馬腹を蹴った。

「翆を捕えた後、そのままの勢いで一気に離脱するぞッ! 後にちょっかいを出しつつ本体と挟撃するッ」

 怪我した左手で馬を駆れないため、必然的にいつもは剣を握る右手が塞がってしまう俺は、周囲へ届くように顔を向けながら声を発する。
 もはや西涼韓遂軍は指呼の間まで迫っており、そんな俺の声に合わせて趙雲と馬岱が速度を上げて斜め前の辺りへと馬を進めた。
 進行方向上の敵を切り伏せてくれる算段なのか、多勢に突っ込む形としても非常に心強い前衛である。
 その後背――俺の横を固めるように布陣を変えていく周囲の騎馬隊にこれまた頼もしさを感じつつ、俺は一気に声を張り上げた。


「いくぞォッッ!」





  **





 己が武勇を誇り、董卓軍など恐れるに足らずと考える梁興。
 西涼の騎馬隊を十分に恐れ、残虐とされる梁興の武勇を警戒する北郷一刀。

 奇しくも、今まさに激突の時を迎えた西涼韓遂軍先鋒と董卓軍先鋒を務める二人の将は、ほとんど同じ理解の元にいた。
 西涼の騎馬隊、その威力を如何にするか。
 梁興はそれを十二分に発揮して董卓軍を撃破しようと考えるし、北郷一刀はそれを十二分に発揮出来ないように意識を働かせる。
 まさしく、一撃の下に全てが決着する、そんな戦い。
 それだけ、西涼の騎馬というものは多くの将兵によって恐れられていたと言っていい。

 だが、梁興も北郷一刀もただ一つだけ忘れていた――北郷一刀は知識こそあったものの、暗殺未遂から怪我に至るまでの混乱で思い至らなかっただけだろうが、それでも、忘れていたことに変わりはない。



 ――最精鋭と名高い西涼の騎馬隊、その中で、錦と呼ばれるほどに苛烈な戦人は誰であったのかを。





 勝負は、ただ一瞬だった。





  **





 獲物が来た。
 どくんっ、と身体中の血液が多いに滾り、生じた熱が逃れようと自然に口端を醜く歪めていくの押しとどめるまでもなく、梁興は獣性の笑みを深めていた。
 梁興の視界の先には、緑を基調とした衣服を馬の速度になびくままの女将、馬超の姿があった。
 自身が放つもので散々に汚したい顔と髪は煌びやかに流れ、母に似た豊満な肉体は馬の揺れに合わせてゆさりと震える。
 短い腰布から覗く太腿は健康的ながらも年若いままに色白く、今すぐに貪りつきたい衝動に駆られてしまう。

 だが、と梁興は思いとどまる。
 馬超を組み伏せるのはまだ先の話だ。
 董卓軍を打ち破り、長安を攻め落とし、馬岱を兵達に嗜虐させ、その馬岱の目の前で悦楽と快楽を与えて壊す。
 そのためには、ここで馬超に見惚れている訳にはいかないし、何より早く長安に入るためには早々に馬超を倒して董卓軍を討たなければならない。
 となると、ここで一騎駆けに近い形で突出してきた馬超には早々に倒れてもらうに限る――後で十分に愉しむためにはここで要らぬ怪我を与える訳にもいかないこともあった。

 さらには兵達への恩賞――長安の女や財宝のこともある。
 元々、梁興は韓遂ほどに漢王朝に忠誠を誓っている訳ではない――否、忠誠などという言葉がある筈もない。
 ただ武を存分に震える機会あり、そして、漢民とみなさない異民族をいくら殺そうが、どれだけ犯そうが問題が無かったからこそ、梁興は韓遂に従ってきたと言っていい。
 それも韓遂が討たれたというのなら、いざここで長安に起つのも悪くはないかもしれぬ。
 そう口端を吊り上げようとして――戟を合わせる距離にまで馬超が近づいていたことに気付いて、梁興は槍を掲げた。

「ぐはっはっはっはっ、馬の娘よッ! 今ここで許しを請うならば命だけは助けてやらんことも無いぞッ」

「……黙ってろよ」

「……くく、いいぞ、そうでなくてはな。ただ黙って受け入れられては詰まらんからな。精々、抗ってもらわんと困る。嫌がる娘を犯す方が愉しいからなあ?」

「……」

「はっはっはっ! ではいくぞ、馬の娘よッ。我が豪撃、耐えられるかなッ?!」

 真っ直ぐにこちらを射抜く馬超の視線に、生来の残虐さが滲みでそうになるが、それよりも強い武人としての性がそれを押しとどめ、代わりに身体の中に熱を発する。
 ぶわっ、と身体の穴が広がっていく感覚、意識と知覚が研ぎ澄まされていく感覚の中で、梁興は馬超が思ったよりも強いであろうことを理解した。

「はァァァァァッッッ!」

 だからこそ、梁興はそれまでの油断慢心などは微塵も感じさせることもなく、槍を己が出来る最高の一撃のままに振るった。

 まさしく豪撃。
 
 その名に相応しいであろう一撃は馬超が繰り出したであろう一撃とぶつかり合って、甲高く鈍い鉄の音を響かせた。

「ぐわっはっはっ、一撃で終わっては面白くないとは思っていたが、まさか、これ、ほどと、は……」

 そうして、一撃で馬超が仕留めきれなかったと感じた梁興は、そのまま馬を半回転させて馬超へと振り向いた――しかし、馬超はこちらへと振り向くことなく後続の騎馬隊へと斬りかかっていく。
 途端、やられた、との思いが梁興の中に湧き上がる。
 指揮官たる自分を無視して後続の兵へと斬りかかってその勢いを殺し、本隊で討つ策のつもりであるか。
 確かに、こうして梁興自身が脚を止めてしまった時点で策は半ば成功しており、馬超が次いで騎馬らへと斬りかかったがために、勢いを殺がれてしまったといっていい。
 小娘のくせによくやる……だからこそ、虐め甲斐のあるというもの。

 この後に待つであろう残虐の宴ににやりと口端を歪めて、けれど将としてこのまま策を行われるのを待つ訳にはいかない梁興は、再び馬超に戟を合わせようと馬を駆ろうと――。



 ――――そこで、手綱を握る役目を負った自らの腕が半分ずつになった槍を両手に握ったままに地に落ちているのを視界に収めた。

 ――――否、自らが転がっていた視界の中に腕が落ちてきたと言った方が正しいか。



 落ちてきた腕の先、首と腕の無い自らの身体であったモノが馬の振動によって地にずり落ちるのを視界に収めて――。
 梁興は、自らの首が斬り落とされたと理解して信じられないという表情のままに、その意識を闇に沈めた。





  **





 一合。

 馬超と梁興、武将同士のその激突はたったそれだけで馬超勝利という結果をもたらすこととなり、その結果は総じて梁興が率いていた騎馬隊の脚を少しだけ鈍らせることになった。
 歴戦の騎馬隊にとってそれはとても見られない現象であるが、指揮官を討たれたということ、それがたった一撃であったということ――それを成したのが、西涼連合軍内でも錦と名のついた将によるものだとようやく理解したことからだろうか。
 ある者は驚愕、ある者は呆然、ある者は――恐怖。
 多様に表情を彩ながらも脚を止めてしまった騎馬隊の面々を前にして、錦馬超は声高に吠えた。



「西涼の民の名、裏切りでそれを汚したこと、この錦馬超が許さないッ! 死にたい奴からかかってこいッ」







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