ニューカッスル城門前にウェールズ率いる一個中隊が現れた。
城は岬の先端に位置するため、後方からの大量の軍が投入される心配のない天然の要塞だった。
城門から二十リーグ先まで切り立った平原になっていて、さらにそこから森が広がっている。
さらに十リーグ先には城下町があるが、そこは完全に落とされ、所狭しと陸上部隊が立ち並んでいる。
空にはロイヤル・ソヴリンが浮かび、さらにそれを囲むように50騎程の竜騎兵が浮かんでいる。
あくまで陸上で決着をつけたいため、牽制するように居を構えている程度だった。
まさに陸上の兵たちは圧巻で、各国のレコン・キスタに組みする貴族達が集まり全体の4割を占めている。
残りは勝ち馬に乗るための寄せ集めのアルビオンの傭兵軍団だった。
身分の高いものや艦を操るもの、または後方支援を除く三万五千にも及ぶ兵が平原を埋めている。
各隊では士気を高めるための演説が執り行われる。怒号のような声が響いている。
それらがまるでうねりのような風となってウェールズに降り注ぐ。
対するウェールズは、五十に満たない早馬にまたがった歴戦の兵たちだ。
ジェームズに忠誠を誓うまごうことなき強者をお借りしている。
誰をみても臆した面がなく、堂々とした面持ちだ。
ウェールズは何か印のたくさんついた羊皮紙を片手に頷く。
「よくぞここまで付き従ってくれた。敵の数は膨大なれど我々はけして負けない。
名誉ある敗北ではないかもしれない、しかし……しかしだ!
明日へつなぐ希望の道を示そうぞ、……アルビオン万歳!」
「アルビオン万歳!ウェールズ陛下万歳!!」
口々に叫び剣や槍を掲げる。
勝利条件はウェールズが生き残ることだ。
そのため、あのトリステインの賢人と評せるサイトと入念な計画を練ってきた。
彼の打ちたてた作戦は、そのどれもが斬新で恐ろしいものだった。
もしサイトがいなければ、犬死もいいところだったであろう。
サイト監修の元でウェールズが命令をだし、残りの全軍を使い全て滞りなく準備した。
一日でよくぞここまでお膳立てが出来たものだ。
全員の目には、以前と違い自暴自棄ではなく希望の光が見えている。
正午の鐘が鳴り、決戦の合図が鳴り響いた。
割れんばかりの喊声が響く陸上軍隊を軍艦の中から見下ろしている人物がいる。
オリヴァー・クロムウェル、貴族連合レコン・キスタの総司令官だった。
上空から見る平原は正に圧巻の一言であった。
「圧倒的ではないかね、我が軍は」
全軍が歩兵で構成されレコン・キスタの旗を掲げている。もはや籠城している城も防衛機能が殆どないため歩兵のみで十分だった。
対する王党派軍は籠城ではなく、いくつかの兵を従え立ち並んでいた。
城門は破壊されたまま開ききり、攻め込めば圧倒的物量の一捻りで終わってしまうだろう。
軍の上層部が寝返り、付き従うように殆どの兵が貴族派に従っているからこその戦力差でもあった。
「これが、王党派の最後とは、いっそ哀れじゃないか」
約束されている王の地位に、今まさに手が届いている。
それを思うと顔がにやつくのがおさまらない。
「進め進め!踏みつぶせ!!私にアルビオンの王冠をもってこい」
愉悦に浮かんだ歪んだ笑みを浮かべ呟いた。
正午の鐘が鳴り、兵が足並みをそろえて進もうとする。
開戦すぐに最初に攻撃を仕掛けたのは、なんと王党派だった。
驚くことに射程範囲をはるかに超えた超長距離から、矢や投石器の襲撃が繰り広げられる。
雨霰のように降り注ぐそれは、風の魔法で無理やり射程の範囲外からやってくる。
平民の武器と魔法を組み合わせるそれは誰も考えつきもしない案だったが効果は絶大だった。
少しも進むことなく数百の兵が絶命する。
高低差に加え魔法で加速された大きな礫は、味方に挟まれて逃げ場さえ持たない傭兵達を、問答無用に薙ぎ倒し轢き潰していく。
「落ち着け、隊列を揃えろ!敵の攻撃なぞたかが知れてる。
こちらの勝利にゆるぎはない、殲滅戦だ全軍進め!!」
浮足立った隊列を即座に揃え突き進ませる、上空では竜騎兵が露払いに向かい始めた。
超長距離攻撃も尽きたのか、怒涛の攻撃も止んでいる。
ウェールズ達の隊は少数で素早く動き既に平原の中央までたどり着いていた。
羊皮紙を片手に何もない平原をくねくねと不思議に動きながら進んでいる。
そして、中央にたどりつくなりいきなり右の森へ向かって進路を変え始めた。
「王族ともあろうものが臆したか!右舷の兵は森を囲め。
素早く森を囲み蟻一匹通さぬようにし討伐しろ、逃げられてはかなわぬぞ。
ウェールズ皇太子の首をもつものには報酬を渡すぞ」
一万程の兵が逃げ道がないように森を取り囲み、プレスするように王党派の兵を追い詰めていこうとする。
しばらくして深い森の中報奨金目当てに徒党を組んで追い詰めてる一隊に一人の兵士が逃げてきていた。
「王党派だ、王党派に追われている。俺らの隊はやられた。
奴ら手練ぞろいだ。すぐそこまで近づいてきている頼む」
所属を確認しようとしたが追討してきている一隊がいきなり攻撃を仕掛けていた。
「くっ、此処が正念場だぞ、これに勝てば凱旋だ。ものどもかかれ!!」
広い森の中のそこかしこでつばぜり合いの音が聞こえる。
逃げてきた兵士は、にやりと笑うとまた別の隊に向かって走り出した。
おかしいと感じている兵もいたが、なんにせよ出会いがしらに攻撃してくるのだ。
暗い森の中ということも災いし、次々と同志討ちを始めた。
その頃、ウェールズを追わずに平原へ向かおうとする陸上軍隊も大変な目にあっていた。
隊列を組んで城へ向かって行進する軍隊が平原に差し掛かるといきなり足元で爆発し鉄球などが飛び出してきていた。
足を負傷し動けなくなる傭兵や飛び出した鉄球で絶命していく兵士が多数。
平原に足を踏み入れると、予測もしない場所で地面が爆発するのだ。
聞いたこともないような恐ろしい戦法に、軍に動揺が走った。
それでも軍上層部からの命令で突撃をしなくてはならない。探知魔法にも反応がなかった。
貴族達は魔力温存も考え仕方なく傭兵を盾にして進軍をはじめさせた。貴族ではない兵の使い道は露払いぐらいしかない。
傭兵からするとたまったものではない。勝ち戦で報酬がよかろうと命は一つしかないのだ。
しかも戦って死ぬわけではない、歩いているだけで死んでしまうのだ。こんな戦い聞いたことがない。
また爆発した所から、卵の腐ったような異臭がし始める。
火の秘薬でもあるそれは、傭兵たちにはなじみがあまりない硫黄独特の匂いだ。
普通であれば臭気をけして加工するが、今回の爆弾はむしろ臭気を強めてある。
すると匂いも届きそうにもない後ろの方から大声がする。
「この匂い毒だっ!!こんな戦やってられるもんか、俺は命が大事だ逃げるぞ!」
そして一目散に大声で喚き散らしながら逃げ出す傭兵の一人を見ると、もう後は止めようがなかった。
もちろん王党派の仕込みである、文句なしのタイミングだった。
「毒の煙だ!死にたくねえ、逃げろ!!」
「このままじゃ、爆発の盾にされるだけだ、やってられるか」
まるで蜘蛛の子を散らすように逃げていく、それに同調するかのように傭兵のほとんどが逃げ始めた。
陸上軍隊の上層部は苦い顔でそれを眺めるしかなかった。
無理に止めようとすれば、それこそ同志討ちになりかねない。
幸い貴族が残っているのだ、フライなりレビテーションでなり進めば問題ない。
しかし、それも無理だった。
浮かびながら平原を進もうとするといきなり地面が爆発しはじめた。
なんと城の城壁から火のメイジが様子を伺い、タイミング合わせて爆破させているのだった。
牽制の竜騎兵も重りに縄が括り付けられている武器(アチコ)を風の魔法で投げられ、
なかなか思うように攻められない、羽に縄が巻きついたり重りで羽を撃たれ迎撃されている兵もいるほどである。
「ゴーレム隊を先行させろ!一直線に道を作れ!!」
魔力温存など言ってられないメイジは土ゴーレムを先行させていく。爆発に巻き込まれるも次々にゴーレムが作成され城までの道を作成していく。
悪夢のような出来事だったが、もうすぐ城まで到達できそうだ。まだ一万近い兵が残っている。
そこへ陸上軍の上層部に、右舷の森を包囲していた一部隊が報告にやってきた。
「報告します、ウェールズ皇太子を追った部隊がいきなり同志討ちを始めました」
本当に頭を抱えたくなるような出来事だ。
数刻も立たず一捻りできるような戦とも呼べないような戦いじゃなかったのかこれは?
アルビオン軍隊の長所といえる部隊は、空軍で空での戦いを非常に得意としていた。
そのため、空を得意とする生粋の軍人達は今回の陸上での殲滅戦には参加しなかった。
なにせ、オーダーは「殲滅せよ!殲滅せよ!」のそれだけ、赤子でもできる簡単な戦のはずだった。
圧倒的な戦力差だったが、数が多すぎたのも災いした。
連携もなく功ばかり欲しがる業突く張りの烏合の衆だ。それをまとめ上げられる主だった軍の上層部は空の上。
軍人としては下の下の能力のものばかりだった。それでも圧倒的な戦力差に負けることがないと軍上層部は考えていたのだ。
しかし蓋をあけてみれば……聞いたことないような戦法で翻弄されている。
射程外からの攻撃、浮足立ったところでの戦力の分担、視界の悪い森での同志討ち。
戦場を歩けば足元が爆破し、異様な匂いが辺りに立ち込めている。
一つ一つ冷静に対処できていれば打破できたろうか?
いや……これだけの大群で伝達速度も遅く、連携もままならない、加えて傭兵が逃げ出してしまったのも痛い。
未だに目に見える形でつばぜり合いを行っていないのだ、私たちは何と戦っているのか、そんなことも分からなくなるような状態だった。
名ばかりの陸上部隊の総指令は頭を抱える。
いったい上にどのように報告すればいい、これはもう責任を取るどころの話にはならないだろう。
何処で何を間違えてしまったのか分からなかった。
そこへ、先ほど報告をしに来た一部隊からいきなり風の魔法が飛んできた。
「なにをする!」
間一髪で風の魔法を避けると、慌てた陸上軍司令部を守る兵隊がその混乱した部隊を殲滅した。
何がどうなってるいるのか混乱の極みだった。
そこへまた一部隊が右舷の森から戻ってくる。
一瞬杖を構えるも、報告を確認するため警戒するのみで先を促した。
ところが、今度は話をする前に一人がいきなり攻撃魔法を打ってくる。
戻ってきた部隊もその一人を止めようと思ったが、守備部隊に攻撃され訳も分からず敗走しながらも攻撃を返した。
それからは地獄だった、三度目はなく右舷から戻ってくる部隊は問答無用で殉滅されていく。
少なくない抵抗にあい更に兵が減っていた、今や六千程になっていた。
百倍以上いた兵が、いまや十倍程度しか残っていない。
「馬鹿な、なんでこんなことに……まだ城に到達していないんだぞ」
極度の疲弊と疑心暗鬼に軍全体が苛まされていた。
せめてもの救いなのは、竜騎兵が上空を制圧しゴーレム部隊が城まで到達していたことぐらいだ。
城門前に陣を敷くと約五百ずつの兵に分け、城内を進行させることにした。
一気に攻め込むことにより、何かの罠にかかるのを恐れたのだ。
五百とはいえ王党派全体と同等以上であり、兵を分け時間差をもって攻めることによって完璧に追い詰めることにした。
そして第一部隊が城内へ先行することになった、全てが貴族で構成された部隊だ。
しばらく進むと三方向に別れた道に出た、しばらく見ないうちに城内も完璧に様相が変わっていた。
「よし、慎重に左へ進むぞ」
通路はせまく薄暗かった、壁には四角い穴が所々に空いていて薄明かりが差しこんでいる。
三列に立ち並び隊を進行させることを決定させた。
足元や壁などに罠がないか探知魔法で確認しながら進むと、いきなり壁の四角い穴から槍が突き出された。
「敵襲!かまわず進めっ」
走りながら進む先にはつっかえ棒のようなものがあり何人か転び、それにつられるようにまた転ぶ兵も出た。
それらを踏みつぶしながら兵は進んでいく。
しかし到達した先は行き止まりだった、錬金する間もなくまた四角い穴から槍が突き出される。
「転進!全軍戻れ、このことを総指令に伝えろ」
ここで犬死は出来ない、この情報一つで戦局が変わるか分からないが
この卑劣な罠を伝える必要がある、倒れた仲間の屍を乗り越えつつ戻る。
そして、来た道を戻ってまっていたのは絶望だった。なんと大胆にも通路が壁で行き止まりになっている。
一本道で来て戻ってきたのだ、抜け出せるはずが行き止まり、信じられないことだったがこれが現実だった。
「馬鹿な、このことを伝えなくては……」
そう嘆きながら最後の兵が息を引き取った。
断末魔の悲鳴を聞いて、第二部隊がやってきた。
二つに道が分かれ右とまっすぐへ進むことが出来る道がある、
慎重に慎重を重ね右に進むことを伝令に伝え進むことにした。
結果は左の道と同様の結果に終わった。
そして三番目の部隊が、分かれ道にやってきた。
「前の部隊は右へ向かったと聞くが……」
見ると右に通路はなく、左とまっすぐのみの道である。
「いったいどういうことだ?……戦場で恐怖し耄碌したか!?」
そう鼻で笑った第三部隊を率いる隊長は、まっさきに貴族派についた上昇志向の高い人間だった。
「よし、まっすぐ進むぞ。左は敵の罠にはまったようだな、軟弱な奴らだ。
ということは、この道が正解というわけだ、ふふふっ」
そういってにたりと笑うと怒声を上げる。
「我と思うものは続け!この先の玉座に聖地を目指すレコン・キスタに仇なす王党派がいるぞ。
始祖ブリミルに反旗を翻す輩どもに変わり、我らがアルビオンを支配するのだ。正義は我らにあり、ものども進め!!」
そして奮闘むなしく無残にも他の部隊と同様の結果になった。
第四部隊が到達したときには、右と左の分かれ道になっていた。
左の道は戦いの跡があるものの死体もなく狭い道が続いている。
右の道にはおびただしい死体が敷き詰められている。
「右に行ったものは全滅か…まっすぐ進行した部隊はどうなった?
先に進んだ道にまた枝分かれする道があるのだろうか?」
こうなっては、左に進むのみである。伝令に左に進行することを伝える。
狭く暗い道を進むにつれて嫌な予感しかしなかった。そして誰も帰ってこなかった。
「どういうことだ!!!」
兵を分散したのが間違いだったのか?
しかし狭い城内でそんなに大軍を率いて侵攻できるはずがない。
「くっ、全軍だ、全軍を集めろ」
「よろしいので?」
「かなわぬっ!なにか、からくりがあるはずだ。
数で押せばそれも物ともないわ、押し切るぞ!」
ならば、最初からそうしろと誰もが思ったが口にできなかった。
誰だって死にたくはなかったし、部隊をいくつかにわけることはそう悪手であるとは思えなかった。
しかし玉座を目前とし、これだけの被害をだして成果をださないわけにはいかない。もう進むしか道は残されていないのだ。
全軍を率いて進路を進ませる。もう兵は三千程度しか残っていない。
問題の分かれ道に到達すると右とまっすぐの二つに分かれた道しか残っていない。
「伝令では、右と左と真っすぐと聞いていたが……」
まっすぐの道にはおびただしい数の死体が敷き詰められている。
報告と違うことと目の前の異様な光景に動揺する部隊。
そこへ一人の貴族が声を荒立たせる。
「卑劣な罠だ!貴族の風上にもおけん奴らだ、ここは軍を二手に分け進行すべき」
するともう一人の貴族が驚き叫んだ。
「指令!!この分かれ道の壁の材質がどうもおかしいです」
「なにっ!そうかでかした。だれか急いで調査しろ」
探知魔法をかけ何もないことを確認すると、今度は錬金を掛けて壁を崩した。
壁が崩れた先には、薄暗い通路と真新しい死体が並んでいる、それを見た皆が息を飲んだ。
「五十名ほどで兵を率いて、三方向を調査しろ。
怪しい個所を発見次第、急いで戻れ、絶対に攻略するぞ」
そういうと三方向に調査隊を派遣した。
進む先で断末魔が聞こえる、固唾をのんで帰還をまつ。
それぞれの通路から、命からがら数名が帰還した。
「報告しろ!」
「はっ!左側の通路は罠が張られていました。
侵攻先の通路の穴からいきなり槍が突き出され……、
最終的には行き止まりでした。戻り際にも攻撃されましたが何とか帰還できました」
「右側も同じです。進んだ先は行き止まりでした」
最後に報告しようとした男は、顔を真っ青にしている。
「真ん中の通路も同様でした……」
総指令は顔を朱に染め激昂している。
「ふざけるな!虚仮にしおって、これが王のやることか!
三部隊に別れろ、穴は潰せ!行き止まりは錬金を掛けて道を開け」
そして三部隊がたどり着いた先は開けた玉座のある部屋だった。
玉座には老体のジェームズが座っている。そのかたわらにパリーが立っていた。
進行している全ての兵に囲まれ、剣や槍を構えられている。
「のう、パリー。この光景圧巻ではないか」
「誠に言葉もありません」
「げに恐ろしきは、トリステインの賢人よ。これほど敵に回したくないと思った人物は初めてだ。
これは名誉ある敗北ではないかもしれん。しかし、それも次の世代に道を残してこそぞ」
「はっ」
「初めに目にした時から、朕には分かっていた。
あの者には何者もあらがえぬ、鎖をつけることもできぬ。
しかし、我が新しき王を気に入ってくれたようだ。その先はあやつにまかせよう」
パリーは涙している、最後の最後で王家の血を絶やすことはなかった。
憂いもいくらか此処で払うことが出来た。
あとは未来に任せるのみである、先は暗いかもしれない。
だが絶望ではなかった、我らの希望が生きているのだから。
「アルビオン万歳!!」
二人のその言葉と共に、ニューカッスル城のどこかで小さな爆発音がし、城を支えている支柱が崩れた。
たび重なる錬金と何度も受けた攻撃により城は耐えきれなくなり、ジェームズが事切れるのに合わせるように崩れ全ての兵が生き埋めになった。
戦争は終結し振りかえると死者はなんと二万にも及んでいた。他はすべて逃走し残っている陸上部隊はいない。
百倍近い戦力差をひっくり返し相打ちとなったその戦は、正しく伝達され広く語り継がれることとなる。
またウェールズの死体もなく森の中から行方がしれなかったため、アルビオンの何処かに潜んでいると噂が流れた。
ワルドとの死闘を繰り広げたサイト達は、難民船「イーグル」号の一室の部屋に招待された。
部屋にたどり着くとある人物がサイト達を迎え入れたのだった。
「皆無事にたどり着いたようだね」
ウェールズ皇太子、いや今や冠を受け取った最後のアルビオンの王であった。
「はっ、無事全ての任務を完了しました」
そう一礼するサイトとウェールズを交互にルイズは見つめた。
「ウェールズ様!?戦場に向かわれたのでは?」
「あれはスキルニルでね。こうして生き恥を晒しているわけだ」
悲しそうにウェールズは笑った。
「父上は上手くやってくれているだろうか……」
「ええ、貴族派に大きな打撃をあたえていることでしょう、
それはアルビオンの未来に、ひいてはトリステインの未来につながります」
陸上軍隊は全滅であることを知ったら驚くだろう。
ウェールズは厳しい顔で頷く。
「きみには感謝の念をつくしても尽くしきれないよ」
サイトは首を振る。そして静かに言葉を続ける。
「トリステインに亡命なさいませ、ウェールズ王」
今度はウェールズがゆっくり首を振る。
「いや、それはできん!散って行った者たち、散らせてしまった者たちに顔向けできん。
かならずや、かならずや王家を復興する。何年かかってもかならずだ!!
だから……手伝えとは言わん、せめて助言をもらいたい」
サイトは悲しそうにうなずく。
「分かりました、出来うる限り協力しましょう。
しかし、アンリエッタ姫に一度お会いしてください。それが条件です」
「そうだな、きみをアルビオンまで使わしてくれたアンリエッタ姫にもお礼をいわねばなるまい。
正式的な挨拶は出来ないだろうが……いたしかたあるまい」
ウェールズは微笑むのだった。
ルイズは嬉しそうにサイトの手を握った。
またこの使い魔はやってくれたのだ、全ての約束を守ってくれたのだ。
サイトはにこりと微笑んで、ルイズの手を握り返した。