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No.18214の一覧
[0] 片腕のウンディーネと水の星の守人達【ARIA二次創作】[ヤオ](2012/02/28 02:05)
[2] Prologue 『アクシデント』[ヤオ](2012/02/24 01:44)
[3] Prologue 『守人達のデブリーフィング』[ヤオ](2012/02/24 01:39)
[4] 第一章 『スタートライン』 第一話[ヤオ](2012/02/24 01:41)
[5] 第一章 『スタートライン』 第二話[ヤオ](2012/02/28 00:56)
[6] 第一章 『スタートライン』 第三話[ヤオ](2012/02/24 01:41)
[7] 第一章 『スタートライン』 第四話[ヤオ](2012/02/24 01:42)
[8] 第一章 『スタートライン』 第五話[ヤオ](2012/02/24 01:42)
[10] 第一章 『スタートライン』 第六話[ヤオ](2012/02/24 01:42)
[11] 第一章 『スタートライン』 第七話[ヤオ](2012/02/24 01:42)
[12] 第一章 『スタートライン』 第八話[ヤオ](2012/02/24 01:43)
[13] 第一章 『スタートライン』 第九話[ヤオ](2012/02/28 00:57)
[14] 第一章 『スタートライン』 第十話[ヤオ](2012/02/28 00:58)
[15] 第一章 『スタートライン』 最終話[ヤオ](2012/03/10 22:21)
[16] Epilogue 『そして始まる、これから』[ヤオ](2012/03/02 00:09)
[17] Prologue 『One Day of Their』[ヤオ](2012/03/02 00:13)
[18] 第二章『ある一日の記録』 第一話『機械之戯妖~前編~』[ヤオ](2012/03/22 21:14)
[20] 第二章『ある一日の記録』 第一話『機械之戯妖~後編~』[ヤオ](2012/03/24 02:45)
[21] 第二章『ある一日の記録』 第二話『23世紀の海兵さん ~前編~』[ヤオ](2012/03/28 02:39)
[22] 第二章『ある一日の記録』 第二話『23世紀の海兵さん ~後編~』[ヤオ](2012/04/22 02:42)
[23] 第二章『ある一日の記録』 第三話『Luciferin‐Luciferase反応 ~前編~』[ヤオ](2012/09/20 19:45)
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[18214] Prologue 『守人達のデブリーフィング』
Name: ヤオ◆0e2ece07 ID:797c0df7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/02/24 01:39
アンネリーゼ・アンテロイネン(Anneliese・Anteroinen)中尉
『AQUA Coast Guard』第7管区所属
『AQUA』第七管区基地中央整備ドッグ



AQUAコーストガードは基本的に貧乏だ。
理由は多々あるが、その中でも大きいのが国際的―――太陽系的―――な軍縮だろう。
ここ百年ほど人類の歴史の中でも類を見ない平和な期間が続いている。
その結果が軍事関係の予算の削減である。当然、AQUAの数少ない軍事的組織であるコーストガードもその影響を受けた。
SAR(捜索救難)任務やAQUA周辺のごみ(デブリ)掃除、また、安全なシーレーンの確保や海賊の討伐。
その他もろもろの平和を維持するのに必要なことは数多く、それらを実行するにはそれなり以上に金が必要だ。
そのため軍縮のため予算が減ったことはコーストガードにとって悩みの種といえた。今では、コーストガードの上層部から最下層の一端まで毎日の資金繰りに予算とにらめっこする毎日だ。
それは第7管区も例外なくそうで。
彼らは前回の救助任務―――カールステッド家の船舶事故―――の際に傷ついた哨戒機を前に頭を悩ませていた。

―――A14~C9までの装甲は全て交換だ!F1~F8もだ!急げ!

―――チェック項目の80~110まではカットしろ。このコーストガードじゃ、大型目標攻撃関連の装備なんてどうせ使わないからな。

―――回路が分断されていた!? だったら別の回路をバイパスして繋げ!マニュアルばっかじゃなくて、ちったぁ考えろ!!

―――ランプドアはもうだめだな。替えもってこい!

―――の銃身を交換するぞ!道を空けろ!

―――こりゃエンジン内部に破片が入り込んでんな・・・・・・。よし、ばらすぞ!

第7管区にある哨戒機整備用の無重力ドック内では、整備員達が上へ下へ、右へ左へと奔走していた。
彼らが群がるのは、カールステッド家船舶事故の際、最後脱出した直後に爆発した船の爆風をモロに喰らい、ぼろぼろになった哨戒機である。
そんな彼らにフヨフヨと近寄る中尉の階級章をつけた、一人の妙齢の女性仕官。
彼女は整備班の中央で指揮を取る曹長を呼び出した。

「整備班長! この子、どうにかなりそう?」

「かなりきついですね!こいつの機体寿命を考えれば、新しい機体を買った方が良いぐらいでしょうな、この損傷度じゃ!」

耳元で怒鳴られた整備班長の返答は周りの音に押されないようとても大きかった。
その返答に鼓膜が痛いのと言われた内容の二つの意味で、第7管区のSAR任務部隊の隊長であるアンネリーゼ・アンテロイネンは頭を抱えた。
たしかにこの哨戒機、コールサイン『フーケ』―――19世紀初頭の小説『ウンディーネ』を書いたドイツの作家から―――は古い。
マンホームのアメリカ航空宇宙軍で使われていた奴のお古で、ここに来たときには既にだいぶ草臥れていた。
それでも長いこと運用していて愛着もある。
それに新型に変わったとしても、その向上した性能はコーストガードには役不足なのだ。今のままで十分以上に対応可能だ。
なによりあまりお金がないのだ、われわれコーストガードには。

「う~ん、それでもどうにかならない?」

「しかし、こいつは軍にいたときに実戦を経験しているぐらいお古ですよ!ちょいと無理だとおもいますがね!」

さらに、と曹長はそこで言葉を区切り言った。

「古い機体を運用し続けていたせいで救助活動に失敗したなんてことが起こったら、目も当てれませんよ。」

そうだ、例えお金がないからと節約して助けられる命を助けられなかったとしたら・・・・・・ダメだ。
だとすれば、やはりそろそろ換え時なのかもしれない。
だが、軍縮により削減された予算では、哨戒機一機新規購入するだけでも一苦労なのだ。

「う~ん。でも、予算が通るかなぁ・・・・・・。」

「通るにきまってますよ、上も分かってくれると思います。むしろ、通さざるを得ないというか。ま、今のところはごみ掃除の方に予算が回されると思いますがね。」

今回の事故は宇宙を漂うデブリを除去しきれていなかったことが大きな原因の一つだとされている。
公式的にはあそこは安全区、競技区として定めていた宙域だ。このAQUA周辺の宙域の中でも、多くの競技があそこで行われている。
なのに、今回の事故が起きた。つまり、デブリ除去が完璧ではなかったようだ
そのことをマスコミに指摘された。まぁ、マスコミも宇宙のゴミを100パーセント除去するのは不可能なことは百も承知だったから、そう強く批判的ではなかった。
だが、事故が起きたのは事実だし、そもそもコーストガード当局が安全だといってしまった地域での事故なので、しばらくデブリ掃除に力を注ぐと公式に発表したのだ。
今頃、各管理区の手漉きの部隊および、工作活動を中心とする後方支援部隊はそれぞれにあてがわれた宙域のデブリ除去に総動員されているだろう。

「しかし、機体がない状態でどう配置につくんです?」

「しばらく私の隊は配置にならないみたい。たぶん直に休暇が出されると思う。」

「どうして?・・・・・・ああ、隊長ご自身の、その骨折のせいですか。」

班長の目が私の腕、方から包帯で吊っている右腕を見ながら言った。
私は、そうよ、と苦笑いしながら言った。この骨折はある意味自業自得なのだから。

「その間、ほかの隊がカバーしてくれるそうだから、今度ほかの隊長さんにあったときにお礼を言っておかなきゃ。」

「そうですね、そのほうがいいでしょう。」

―――班長ぉー!ここなんですがー!

「おっと、では自分は指揮に戻ります。」

「うん、がんばってね。」

「もちろんですとも。あなた方がここに再び戻ってくるときには完全な状態であいつを渡しますよ!」

「毎度毎度ありがとね。」

「礼には及びません。あいつらも俺も・・・・・・俺達整備班にとって、この仕事は生きがいにもなっているのでね、全力を尽くさせてもらいますよ!」

整備班長はそう言い残し、ビシッと敬礼して、混沌とした彼らの戦場へ戻って行く。
私も一回伸びをして、整備ドックから離れ、居住区への通路に出るとその居住区のある方向から見知った顔がやってくる。

「アンネリーゼ隊長!話は終わりましたか?」

そういいながら、接近してくるのは彼女が最も信頼を置いている軍曹。
今回脱出法を私を含めた隊の全員の命を救った脱出案を提示した今回の事案で最大の功労者でもある。
しかし、一応上官に敬礼もせずに近づいてくるのはいかがなものか。一応敬語で話しかけてきてははいるが。
・・・・・・でも、現場に出ている時間は私よりもはるか長い軍曹だ。多少はいい。
それにコーストガードはあまりそういうことに頓着しない部隊も結構あるらしい・・・・・・まぁ、平時限定だが。

「ええ、おわったわ。」

「哨戒機の状態は?」

「少し厳しいみたい。とりあえず新しいのを貰えるように上と交渉しようかな、と。そっちはどうなの?」

「隊員16名、全員精密検査終了しました。みんな怪我こそしていますが、とりあえずは異常無しです。重傷者は隊長だけですよ。なんでまた、機内に滑り込むときに減速しないんだか。」

「なはは・・・・・・。」

そう、この骨折の原因は速度の出し過ぎで減速できずに天井に高速でぶつかったときにできたのだ。
無意識にとっさに防御したので腕ですんだが、もしもそのまま頭から突っ込んでたら首の骨を折っていたかもしれない。
急減速するための装置があることをあのときなんでか忘れていた。それを使わずに普通に減速しようとしていたから、速度を殺しきれなかったのだ。
恥ずかしいので、報告書には脱出直後の爆発で哨戒機が弾き飛ばされたときに怪我をしたと書いてある。
・・・・・・報告書の改ざん、立派な軍規違反である。

「あ、あれはしなかったじゃなくて、できなかったの、軍曹。」

「まったく、アン。お前は昔から妙なところで変な事やらかすな。」

軍曹はまるで昔なじみの友人のように言った・・・・・・まるでもなにも、実際、ハイスクールでは同級生だったし、というかそれ以前の幼少期のころからの友人、つまり幼馴染なのだが。

「仕方ないじゃない、焦ってたんだから。」

「まぁ、な、わかる。俺だってあの場面じゃ、盛大に吹かしていただろうから人のことは言えないしな。しかし仮にも小隊指揮官がそれでどうするよ。」

「うう・・・・・・。」

「そこがほかの古参連中に小娘ってからかわれる理由だと思うぞ。まぁいいさ、同じ失敗を繰り返さなきゃな。で、体のほうは大丈夫なのか?」

「うん、大丈夫。一ヶ月間は任務に付けないけどね。怪我が治るまで療養よ。」

「で。その間、俺たちはどうすれば?」

「う~ん、そこまではちょっとわからないかな。」

「フムン。だったら、俺としては休暇をもらいたいところだけど、な。久しぶりに故郷の友人に会いに行きたい。」

「そうね・・・・・・私も久しぶりにネオヴェネチアの空気を吸いたいなぁ。」

私と彼はネオヴェネチア出身だ。家が隣同士の典型的な幼馴染という関係。ちなみにもうまたまた隣家に仲のいい男の幼馴染がいるのだが、それは余談である。
ゲームの好きな友人が言うには、それなんてマンホームの乙女ゲー?とのことらしい。
乙女ゲー?マンホームのゲームのジャンルのようだが、意味がわからない。
しかしまぁ、ここ最近は訓練に訓練、デブリ除去に今回の救出作戦にとずいぶんと働いたもので、ネオヴェネチアでゆっくりできるほどのまとまった休暇をとれていなかった。
ここ数ヶ月間は少しでも休暇を取れれば、連日の訓練の疲れを癒すか、隊員たちと繁華街に繰り出して飲んだり食べたり歌ったりと騒いだりしていた。
長い休暇じゃないと、せっかくネオヴェネチアに戻っても大して疲れが取れないからだ。あそこはゆったりとした時間がなければ、あの雰囲気の中で過ごせない。
いや、無くても過ごせそうな気がするのだが、やっぱりあそこは時間の流れがゆったりとした場所なのだ。
短い時間でタイムスケジュールと睨めっこしながら過ごす場所じゃない。そう考えて戻っていなかったのだ。
だから、だろうか。あのゆったりとした時間の流れを持つネオヴェネチアの空気がとても懐かしく感じられる。
目を閉じると、ネオヴェネチアの風景が呼び起こされる。
あの煌く水面を切っていくゴンドラたち、白煙を黙々と出す浮島、大空を縦横無尽に行きかうエアバイクの群れ・・・・・・最後に見たのはどれぐらい前だろうか。
おもわず久しぶりにやってみたいことが言葉となって、どんどん口から出て行く。

「それでトラゲットに乗って、なじみのレストランに入って・・・・・・で、アドリアーノと会いたいな。」

ほかにも色々・・・・・・と言おうとした時、彼が憮然とした顔をしているのに気づいた。

「ん? どうしたの?」

「おまえなぁ・・・・・・元彼の前で現夫の話を普通するか?まぁ、元彼って言ってもかれこれ10数年前の話だけど、な。」

「あっ、ご、ごめん」

「気にしてないから、いい・・・・・・どうした?何がおかしい?」

思わずちょっと笑ってしまったようだ。彼が本当に気にしてないなら、あんなしかめっ面しないのに・・・・・・と、思う。
彼とはハイスクール時代、恋仲だった。まぁ、甘い関係というわけではなかった( はず )が、彼と一緒に飲んだり騒いだり遊んだりするのはとても楽しかった。
友人いわく『 どこが甘いのよ、ボケ。まるで砂糖たっぷりの紅茶を飲ませられる見たいだったわ 』とのこと。
しかし、私が大学に入ると彼もどこかへ消えてしまい(後からわかったことだが、コーストガードに入隊していた)、自然解消した仲だった。
ちなみに彼のほうが長い軍歴を持つというのは、彼がハイスクール卒業後すぐにコーストガードに入隊したからだ。
私が入隊したのは今からだいたい8年前。大学を中退して士官学校へ入り、卒業してSAR任務の資格を何とかとって、隊に配属された時にはすでに中堅の域に達していた。今ではもうベテランにも片足を突っ込んでいる。
それにしても、あんな顔をするということはまだ結構その気があるんだろうか。

「ううん、なんでもない。」

「ならいいんだが、まったく。」

しかし、あのちょっと拗ねたような顔は少し、可愛いと思ってしまった・・・・・・お互い三十路を超えているのに、何てこと考えているんだろうか。
と、思っていると彼は任務中とはまた違った真剣な顔をしていた。この顔をしたときは大抵・・・・・・

「ところで、だ。彼女の様子はどうなんだ・・・・・・?」

「・・・・・・アッリ・カールステッドのことね。」

そう、自分達が助けた人間のことを聞いてくるのだ。

「ああ・・・・・・で、どうなんだ?」

「目は覚めたらしいんだけど・・・・・・やっぱりと言うかなんと言うか。PTSD(心的外傷後ストレス障害)の兆候が見られるみたい。医師や看護師以外の面会も拒絶している。」

「そう、か・・・・・・当然と言えば、当然だが・・・・・・やるせないな。」

「救出しに行ったとき、彼女、自分で救難信号出したり、酸素ボンベを引っ張り出したり、手当てしたりしてた。そのときは冷静に行動していたから、私は大丈夫かなって思ったけど、やっぱり無理していたのかしら。」

「そりゃそうだろう・・・・・・両親が目の前でずたずたになったんだぞ。PTSDにならないほうがおかしい。それでも、なってほしくないと思っていたがな。」

「一度おった心の傷は、現代医学でも直せない・・・・・・たとえ足や腕がなくなったってすぐに生体義肢がつけられる時代なのに、いまだ人類はその手の傷を治せない。」

「今は病院のほうで、見てくれている。悪い言い方をすれば、監視している。だが、・・・・・・退院した後、薬に逃げなけりゃいいがな・・・・・・。」

PTSDに陥り、周りに誰も支えてくれる人がいなかった場合。薬、麻薬に逃げてしまう場合があるのは私も知識として知っていた。
麻薬取引は22世紀初頭の撲滅運動で、20~21世紀ほどの勢いはない。だが、あるところにはあるものであるところは一緒である。患者はそういったところから多額の金で購入する。
使っている間は、事故のことを忘れていられる。だが、だんだんと体が薬に馴れ、その効き目が薄くなっていく。そして、事故の恐怖を忘れられなくなってしまい、さらに多くの麻薬を・・・・・・その循環。
最後には・・・・・・まぁ、言わずもがな。体が壊れ、死ぬ。そこも昔と一緒。

「まったく、ままならないな・・・・・・。」

「はぁ・・・・・・。」

「・・・・・・なぁ、お前のほうで彼女預かれないか?少し調べてみたんだが、彼女身寄りが無いみたいなんだ。」

「・・・・・・はい?なんですと?」

突拍子も無い発言で思わず聞き返してしまったわけだが・・・・・・もし、本当に身寄りが無いのなら、確かに私が保護者となったほうが良いかもしれない。
まぁ、でも私だけに限らず大人なら誰でもいいと思うのだが。

「ちょうど今、お前のところに彼女と同世代の女の子を下宿させてるんだろ?」

「ええ、マンホームに住んでいる従姉妹の娘だけど?」

「友達ができりゃ、多少はましだろ、たぶん。」

「・・・・・・そう簡単だとは思えないけど。」

彼はどうやら友人が出来れば、薬に手を出しにくくなると考えているようだが・・・・・・。
果たしてそう上手くいくだろうか。

「で、今預かっている女の子はどんな子なんだ?」

「えっと、それは、その・・・・・・あ、あはは・・・・・・。」

「前から言っていたよな・・・・・・ちゃんとメールのやり取りぐらいしとけ、いくら忙しいからってそれを怠っているようじゃ保護者失格だぞ。」

件の女の子は現在ミドルスクールに入っている。
つまり、アッリ・カールステッドと同年代だ。だが、それ以外のことはよく知らない。
定期的に向こうからメールが来るが、あまり彼女の私生活までは書かれてないし、私自身も聞いていないので、彼女が具体的にどんな学校生活を送っているか全くわからない。
どんな友達がいるのとか、食事はどうしているとか。

「まぁ、とにかくだ・・・・・・カールステッドの娘を預かってほしいわけだ。」

「私は別にかまわないけど・・・・・・彼女自身がどう思うか分からないし、それにいきなり公的に預かるなんて無理でしょ?法的にも。」

「その点は問題ない。こっちのツテで話をしておいた、いつでも準備できる。後はお前と彼女の承諾だけだ。」

「・・・・・・準備良いね。」

「当然だろ?」

それにしても、何で彼は今回こんなに拘っているのだろうか。いままで助けてきた人の数も相当いたが、ここまで入れ込んだ例は見たことがない。
まさか・・・・・・

「惚れた?」

「・・・・・・俺が?誰に?」

「アッリ・カールステッド。」

「馬鹿か、そういう訳じゃない。ただ・・・・・・いや、なんでもない、気にするな。」

彼はそう言うと黙りこくってしまった。こうなると、絶対に口を割らない。

「まぁ、いいか。分かった、一度会ってみる。彼女が私の家に来るならそれもよし、来ないは来ないで彼女の人生・・・・・・それで良いよね?」

「ああ、かまわん。・・・・・・ああ、それともし預かることになったら、時期を見計らってこれを渡してくれないか。」

そう言いながら、彼は何の変哲もない小さな黒い箱を手渡してきた。

「これは・・・・・・?」

「遺品、だと思う。アルマ・カールステッドの・・・・・・いや、おそらくカールステッド夫妻の。たぶん、アッリへのプレゼントだったんだろう。」

「何で分かったの?」

「開けてみろ。」

「・・・・・・オールの形をした、イヤリング・・・・・・?」

中に入っていたのは、ピアシングを必要としないタイプのイヤリング。
形はまさしく、ネオヴェネチアを行きかうウンディーネ達が使うオールの形状。カラーリングから、モデルは最近勢力を伸ばしてきている新興水先案内店のようだ。
それが保護クッションにちょこんと乗っていた。
入れてあった箱の内蓋には三人の名前と写真が張ってあった。
そして一行の文字列。

『私達のウンディーネ、アッリへ。』

たった数グラムもなさそうな物なのに、なんて重いのだろうか・・・・・・。
思いが重い。まるでマンホームの古典芸能とやらを彷彿とさせる言い方になってしまうが、これに関しては正しいかもしれない。

「このイヤリングのカラーリング・・・・・・オレンジぷらねっとの物、かな?」

「ああ、そうだろうな。彼女、その会社に内定が決まっていたらしい。おそらくそれはそのことに対する祝いなんだろう。ちなみに会社のほうはミドルスクール卒業と同時にシングルへの昇格試験も考えていたようだ。」

「それって・・・・・・。」

「相当な水先案内人に、『 もしかしたら 』トッププリマにだって『 なれたかもしれない 』な。」

「『もしかしたら』『なれたかもしれない』・・・・・・?」

「彼女、ミドルスクールのゴンドラ部じゃ相当な漕ぎ手だったらしい。なんでもネオヴェネチアにある全ての水路を頭に叩き込んであるとか。」

「それでなんで『もし』、ifなの?」

おかしい、そこまでの技量、知識を持っていてなぜ『 なれたかもしれない 』なのか?

「・・・・・・左腕は彼女の利き腕だったはずだ。そして、あの傷じゃおそらく生体義肢をはめることになるはず。」

生体義肢―――医療複製技術の発達した今、生来の腕とまったく同じ腕を義肢としてつけることが可能になった。
だが、神経リンクの成功率は7割だ。高いような気もするが、残り3割は以前のようには動かなくなるか、あるいはまったく動かない場合もある。
それ以前に、移植された腕を精神は自らの腕として認識できるのだろうか。

「たとえ移植に成功しても、その腕を拒絶する人もいる。」

「ッ、それって・・・・・・。」

「ゴンドラの操船も今までのようにはできなくなるだろう・・・・・・最低でも『オレンジぷらねっと』の内定は消されるな。彼女をお前に預かるように頼んだ理由のひとつにそのことがある。」

両親が死んだ上に、さらに未来への希望も破壊される。大人ですら耐えれるか分からない。
それをわずか14歳の少女が受け止めなければならないのだ。あまりにも酷な話だ・・・・・・。

「・・・・・・ねぇ、それじゃあさ。その箱渡さないほうが良いんじゃない?」

ふと、そう思った。退院してすぐに渡したのでは、もしかしたら、いやきっとその事故のことを思い出してしまうのではないだろうか。
そして、明日へ向けて生きる気力も奪ってしまうのでは。
ただでさえ打ちのめされボロボロになってしまった心に、とどめの一撃を与えてしまうのではないだろうか。

「さっきも言ったろ?時期を見計らって渡せとな。彼女が自信のトラウマを克服したときに渡してやってくれ。あるいは克服しようとしている時に。」

「それって、責任重大だね。」

「そうだな。」

箱を手が白くなり痛くなるほど握り締める。そのせいでよりいっそうはこの存在を意識してしまう。その思いも。

「分かった、任せて・・・・・・けどさ、彼女が私を拒絶する可能性もあるんだけど。そうしたら、これどうするの?」

「・・・・・・まぁ、大丈夫さ。お前のところに転がり込む、勘だがな。」

「あなたの勘がよく当たるのは知ってる。ネオヴェネチアに関係する事柄では特に、ね。じゃ、その間を信じる方向で退院したら早速会ってみる。」

「任せたぞ。」

「ところでさ、私にこの話を持ちかけた時点で私に拒否権無かった?」

「そんなことはない」

その『当然だろう?』的な顔をしていってもなんら説得力を持たないんだけど・・・・・・それにしても拒否権が無いというのはどういうことか。訴えてやろうか。

「勝つ自信があるならな、受けてたつぞ。」

そう澄まして言う軍曹の顔はにやりと笑っていた。





















SSって難しい・・・・・・。


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