□□
瞬く間に年月は過ぎ去った。曹騰が劉宏の目の前からいなくなり、劉宏に会おうとする名士がいなくなった頃。
劉宏は自室に篭り、今日も日々を静かに過ごしていた。
齢15歳。既に女も酒も知っていておかしくない年頃ではあるが、劉宏はそう言った事には眼もくれず日々を部屋の中で過ごしていた。
外に出る事はほとんどなく、体の調子も崩しがちであった。若い頃に時折覗かせていた峻烈さは、なりを潜めて、柔和で穏やかな人間に変貌していた。
「劉宏様、お食事はいかがしましょうか」
「……食べるけど、量はいらない」
「かしこまりました」
宦官が退室する。その宦官には一瞥もくれずに劉宏はただ宙を眺めていた。
これがもしも昔の彼ならば、何処か剣呑な目をしながら睨み付けてしまっていたかもしれない。昔の劉宏は感情をあまり隠すような人間では無かった。
それは若さもあったのだろうが、自らの正義感に依った生き方をすると決めていた頑なさもあったのだろう。だが、今はそんな事はしない。
彼は果たして良い方向に向かったのだろうか。それとも待つのに耐え切れなくなって全てを捨てるように生きる事にしたのか。
もしかしたら自問自答を繰り返しているのかもしれない。例えば先ほど出て行ったのは良い宦官なのだろうか、悪い宦官なのだろうか。権力に近しい宦官であるのか、そうでは無いのか。
そもそも良い悪いなど誰が決めるのか。どの目線で話すのか。世界は変動し、価値観を変えて生きている。生きるとは変化する事であり、国が変化すると言うのは価値観が変化する事だ。
劉宏と言う目線で話すのか。それとも国と言う目線で話すのか。変革がもたらされるべき時期に変革を起こさないのは悪なのでは無いか。そんな自問自答。
答えは出ない。出ないが、問いかける事には意味がある。ただ、ふとした瞬間に彼の表情から伺い知れるのは少なくとも激しさではない事だけは確かだった。それは過去の劉宏とは別の何かである。
「お食事をお持ちしました。毒見も済んでおります。どうぞお食べ下さい」
幾人かの宦官が運んできたのは豪勢な食事だった。とてもでは無いが少量ではない。
劉宏はこれを目の前にしてほんの少し食べ、そして残した。彼の少量と宦官の言う少量の価値観の違いが引き起こした事であろうか。
「もう下げて良いよ」
「ですが、その様な食事量では体に障ります。医食同源と申しますように、食べる事と体を保つ事は切って切り離せぬ関係です。どうかお食べ下さい」
「いや、無理。正直これ以上食べられる気がしない。大丈夫だよ、水飲んでるだけって訳じゃないんだからさ。心配せずにさ」
「……わかりました。そこまで言うのならばお下げします」
カチャカチャとかなり残された食事を宦官を引き上げさせて、一礼してから退出した。劉宏はそれに一瞥する事なく、机に座って竹簡を読み込んでいた。内容は兵法書である。
宦官達は劉宏が兵法書を読むのに関して思うところがあった。普通、王族たるもの四書を読むものであるのだが、昔から何処か変り種であった劉宏は四書に関しては一読しただけでやめてしまったのである。
皇帝候補としては失格な態度なので多くの宦官は安心はした。一部の宦官はあまり良く思わなかった。
このいずれもが劉宏と言う人物を見誤った。前者は暗愚であるとして、後者も暗愚であるとして。宦官の中で劉宏は暗愚であると言う一定の見識を得るに至った。
前者の理由は簡単である。暗愚であれば組み易し。皇帝になる事は無いだろうが、これで劉宏を反乱分子としては格が低く、誰と結託してもすぐにわかるだろうと判断されたからだ。
要するに現在、政治の中心にいて、自らが脅かされないかどうかだけを心配している人間である。
後者の理由は複雑である。仕事に真面目であり、王族としての自覚や気品を持って欲しいと願う人間にとって劉宏と言う人間ははっきり言って面倒なのだ。
特に教えてもいないのに自らの価値観を持ち、それに従って生きている。それは決して儒教的な考え方や行動では無い。
宦官の仕事は身の回りの世話であり、そんな事は仕事に入っていないのだが真面目であるが故にそういう方向から見てしまう。
故に宦官全員の共通認識として劉宏は暗愚なのである。
「劉宏様、今日のお散歩はいかがいたしましょうか」
「あぁ、行くよ。たまに城下に下りないと民の事がわからないからね」
最近になり、ようやく劉宏は外に出られるようになった。実に13年間近くを後宮の中だけで過ごして居た事になる。
劉宏の父と母が同時に他界して、その時の葬儀の折、墓所へと出たのを皮切りにお供をつけて外に出る事が許されるようになった。
そもそも皇族が外に出るのに許されるも何も無いのだが、一時期は次代の天子候補として見られていたほどの人物だったので、その扱いは過保護で自由の利かない状態であった。
それは今は亡き桓帝の子供、劉法が小帝として君臨してからも同じような扱いを受けていた。
劉宏は外に出ると、まずは庭をじっくりと眺め、存分に愛でてから宮殿から出る。
とは言っても、劉宏が通る事が許されるのは南の皇族や王族の血縁者、洛陽で大きな官位を持つ一部の人間の居住区だけであり、その他のいわゆる市を営んだり、技術者などの一般市民が住むような場所には行けない。
理由はもちろん安全の確保が難しいからというのが大きな理由である。特に西方面の貧民街に関しては絶対に行かせないように近衛兵は注意している。
劉宏もわざわざ、自ら貧民街の方へ行きたいなどと我が儘を言う事は少なく、少し外に出るとすぐ宮殿内部に入ってしまう。
そして側近も含めて全ての人間を立ち入り禁止にして自らの部屋の中に篭り、翌日の朝まで出てくる事は無い。
宦官や彼を守る近衛の多くは劉宏の生活態度をわざわざ叱り付けるような真似はしない。近衛兵に関しては宦官とその親族に癒着している者も多く、今の天子に不都合があった時の代替としての劉宏に特に不満を持たないからだ。
当然、宦官にしても生活態度に難があろうが無かろうが政治的に価値の無い皇族に一々構っている暇は無い。名士と結託する素振りも見せないし、保険として彼に近づいて来て決起を企みそうな外戚は既に排除済みである。
「趙忠様、劉宏様に関する報告をお持ちしましたが」
「いりません。どうせ、今日も兵法書を読んで少し外に出ただけなのでしょう?」
「はっ、その通りです」
「まったく、どうしたら一年中似たような行動が取れるのでしょうか。理解しかねます。劉宏様に関しては良いです。それよりも、最近また一部の名士が怪しい動きをしているそうです。情報を集めなさい」
「はっ」
「……ふぅ、外戚をこちらに取り込んだけでこの慌てよう、やはり名士とは言っても朝廷の政治がわからぬ者の集まりですね。
まぁ、良いでしょう。天子の勅という天。洛陽と言う地の利。宦官の親族を使っての各地域への官位による人の和。全てが揃っています。何をしようが、もうどうにもならないでしょう」
そう言って趙忠は立ち上がる。静寂に満ちる朝廷。この盤面を引っ繰り返すのは、果たして。
■■
ガタリと竹簡の山が崩れた。横目に見るとどうだろうか。立てば俺の腰にも達しそうなほどだった。それだけの数を書き写したはずなのに、俺の頭は白く濁っていて何を書き写したのかあまり覚えていない。
あまり寝ていないせいだろう。チカチカと目の前で弾ける赤色の花火。目の中心に向かって放たれる数々の火花が、世界を埋め尽くしていくかのよう。ただ、時折窓から覗ける風景が季節の移り変わりを示すだけ。
心は乾いた。それでも手だけは動いている。心の機微と体の行動を切り離されている。ただ待つと言う行為の中で俺が唯一見出した娯楽はひたすら学ぶ事だけだった。それも、そろそろ限界に近い。
……味方がいない朝廷。腐りかける思考を推しとどめる。俺に与えられた試練。それは……。
軟禁だ。いや、最近ようやく外に出れるようにはなった。ほんの少しの気分転換。たった一つの気分転換は、しかし耽溺すれば毒となる。俺に見せられる場所は限られている。狭い世界で、綺麗な人たちが暮らしていて、幸せそうに笑っている。
これは、宦官から俺への洗脳だ。世は乱れていない。世は安定している。あなた方の近くの人たちは笑顔で満ちている。政治は我々に任せて欲しい。あなたの存在のおかげで私達は笑顔でいられるのだと主張する。
俺の祖先を讃える言葉。誇りある歴史。それによって築かれた治世。喜ばしく思う民。高貴なる者。連なる連鎖。その次代を担うのが、俺……?
褒められる。敬われる。尊ばれる。持ち上げられて、大抵の物が手に入る。望めば女も、酒も、俺が今手にしている、この添削の入った勉強機材だって。何だって手に入る。それはきっと、宦官の利益を脅かさない限り全てが許される甘い甘い蜜。
あぁ、そうだ。だからこそ……ここには何もない。
怒られる事がない。俺のする事にミスが無い。堕落の許容された地。正解しかない場所。桃源郷。耽溺は罪ではない。曹騰がいなくなってから、俺は多くの罠に浸された。
季節が幾度か移り変わる。季節ごとに数々の花々が彩る見事な庭園がある。その度に王朝を讃える楽奏者と、それに合わせて見事な詩を読む文人がいる。だけど……ここに俺はいない。
虚無だ。ここは夢幻の世界。全てが許容される地。全ての堕落が許される地。全ての蒙昧が許される地。ここは、俺が明日死んでも一切の狂い無く堕ちる世界。理想郷。
衰退とはこれだ。これが衰退だ。何物も矛盾なく、全てが許された地で、一体どうして清廉な人物が生まれるのか。一体どうして、これが繁栄に繋がるのか。
この世界が素晴らしければ素晴らしいほど、完成された箱庭であればあるほど虚しい。ここには、天子と言われた人形とそれに群がる亡者しかいない。
俺を激情が焦がす。もしも俺に武があれば今すぐにでも飛び出して現在政治の中心にある宦官を殺して回りたいくらいの怒り。
しかし、激情が俺を冷ます。この数年で、俺という人間は本当に政治的な価値を失った。名士は俺に会えない。いや、俺が会わない。多くの名士が俺を頼ったが、その全てを跳ね除けた。
理由は常に宦官に見張られながらの会見になるからだ。そんな事は分かりきっていた。もしもいなくても、影で耳を済ませているだろう。故に、俺は名士を犠牲にしないように全てを退けた。
宦官は俺の態度に安心したのか。既に警戒は解いた。そして俺を制御化に置き、どうにかしようとする人物は宦官からも名士からも消え去った。制御出来ないが、とにかく毒にも薬にもならない存在。俺を評価するならば、それだろう。
激情は俺を焦がし、冷ます。冷めた激情は跳ね返って熱く燃え滾る事もある。一体、幾度この様な事を繰り返したか。それでも諦めないのは信じる物が二つあるからだ。
一つは俺の意志。一つは曹騰と言う唯一の援軍。朝廷というの闇より深く、俺の策はある。合図は簡単。きっと同じ事を考えていただろう。
凶報が吉報となり、不義が大義と化す。お互いに確認したわけではない。確認したわけではないが、その策はそういう方向でしか成り立たないのだ。全ての毒の向こうに、俺の策はある。
その毒を飲み干せるか否かは、曹騰が注いだ意志による。
この決意から1年後。作戦開始の合図が鳴り響く。曹騰の死によって。
■■
曹騰の死が俺に与えた物は果たして何なのだろうか。曹騰と俺が交わした盟約。その中身を俺たちは確認せずに信頼だけで承認し合っていた。
長い年月を共にしたわけでは無かった。ただポッカリと穴の開いた場所に何かを入れたくて、その時に近くで最もまともそうな人間を探した。
その当時、多くの人間は俺を劉宏ではなく天子になり損ねた子供としか見ていなかった。
当時、俺にとって周りは全て政敵であった。全てが信用ならざる物。裏切りに満ちた世界。そんな状況で夥しい泥の中から一粒の砂金を見つけたかのような喜び。それが曹騰であった。
一緒にいた時間は一年ちょっと。その間の時間は濃密ではあったが、果たして本当に信頼に足りる人物だったのか、今の俺にはもうわからない。
その時、確かな感触を抱いたとしても、人と言うのは後々変わったりするものだ。曹騰がそうならないと言い切れるだろうか。そして俺が変わり、彼の信頼を裏切る事にはならないだろうか。
「……いや、未練だな、それは」
未練。そうだ。未練だ。あの時、俺が王朝を救うなんて大きな事を考えないで曹騰とずっと一緒に居たらという未練だ。曹騰という逸材を誤魔化すのは恥ずべき事だった。
信頼は、あったのだ。曹操という大器もあったのだ。そして曹騰も俺も答える努力をし続けてきたのだ。ここで曹操を大器と論ずるのは、未来の知識として曹操が稀代の傑物だから言うのではない。
曹騰の眼力を評価して言うのだ。会った事も無い者を信用するのは本来愚かな事だ。しかも、ここは俺の知る後漢王朝ではないのだから、曹操が本当に大器かどうかなんて分かるわけが無い。
それでも、曹騰の言う事なら信じられると思うから言う。曹操という名士の芽。必ずや大きいと信じよう。利益によって繋らない、最後の人間なのかもしれないのだから。
「劉宏様、到着しました」
「わかった」
騎車から降りる。洛陽から少し離れたところにある墓所。既に葬儀は終わっている。まばらに見える人影がポツポツと帰り支度を始めているようだった。
「あぁ、少々遅かったようですな……失礼になるといけません。また後日改めて」
「良い。遅参を詫びて来る。待っていろ」
最後まで声を聞かずに歩いていく。兵士には下がるよう伝えて、墓所に入る。中に居た一人に遅れた詫びをしてから廟へと案内された。
中では壮大な葬儀が行われた形跡が残っていた。親を盛大に送る事は考であると考えられている。だから、官職に付く者は、身分はほとんど関係なしに葬儀は盛大に行われる。
ましてや、それが四代の皇帝に仕えた存在ならば、なお更だろう。その魂はこの時代の人間の手で、その全身全霊を持って送られるべきなのだろう。
辺りを見渡す。静寂がこそばゆい。俺も一度死んだ身なので、何となく己を振り返ってしまう。いずれ、こんな風に再び送られる日が来るのだろうか。
それは寂しくもあり、もしも目標を達成していたのならば誇らしくもあるのだろう。少なくとも、彼は目標を達成して逝った……はずである。
「逝ったか……盟友」
廟の前で感慨に耽った。廟はよく曹騰を模れている。よほど腕利きの者に頼んだのだろうか。一朝一夕で出来た物ではない。
俺は元は死者なのに、死者の残り香を感じる事は出来ない。俺が死者から生きる者になったからだろうか、それともやはり俺だけが特別で死んだ者は消えてしまう運命なのか。
「貴方が、劉宏殿?」
物思いに耽っていると後ろから声をかけられた。振り返る。白い装束を身に纏い、一人の少女が立っていた。髪は金色。鋭い視線には強い意志が宿っているように思える。
そして目の前に立っているだけなのに、この俺を飲み込もうとするが如き覇気。もしもこの少女が曹操ならば、確かまだ11歳の少女である。その11歳の少女が俺を圧倒するほどの何かを持っているのだとしたら……。
「あぁ、そうだ。俺が劉宏だ。君が曹操殿かな? 初めまして、曹操殿」
一言で表現するのならば、彼女の周囲は熱い。彼女自身から出る凄い熱気が、こちらに押し寄せてくるかのようだ。
それは、曹騰からも、数多の近衛兵からも、ましてや腐った宦官からは一切感じ取れなかった物である。
曹騰は曹操を大器と表現した。そして俺は意志を注げと言った。その結果がこれならば、最高の出来。これ以上ない化け物。俺の人を見る目は節穴も良い所だが、それでもなお俺に傑物と表現させる。
「えぇ、初めまして。それにしても、よく私が曹操とわかりましたね」
「曹騰が大器と呼び、曹騰に意志を注がれた少女。そう言う意味では、君は曹騰に似ても似つかない。その激烈さは曹騰には無い凄みだ。
だが、曹騰は頭が良く、漢に必要な物がわかる男だった。君のそれは、漢にとって最も必要な物だった。俺も曹騰もやはり同じ事を思っていたようだ」
「……お爺様を盟友と仰られていましたが、その意味は」
「おや、聞いていたのか?」
「えぇ、しっかりと。それを聞いたから貴方が劉宏殿であると思い声をかけました」
「そうか。それなら久しぶりに心の思いを吐露して良かった」
曹騰。君がこの少女に俺を会わせた。君の死は呼び水であったが、俺が持っていた君への思いもまた彼女に対しての呼び水だったようだ。
……凄いクサい台詞だ。口に出しては言えそうも無い。人の死で感情が高ぶっているのか? こんな思いはここ5,6年無かったな。
「曹騰と俺の間には、ある約束があった。今の王朝を蝕む宦官達を一掃するため、苦しみもがく民を救うため、そして、死んでいった数多くの名士に報いるため。
それら全てを成し遂げる英雄を、育て上げて俺と会わせるように盟約を交わした。そして、その約束は君と出会い、確かに果たされた。だから、曹騰を盟友と表現した」
「……貴方は、私と出会ってどうしようと言うのですか」
「簡単だ。曹騰により意志を注がれた英雄、曹操。お前はこの俺を使え。余すことなくだ。
俺の才、立場、出自、その他一切に至るまで、俺を使いきってくれ。俺は、君に使われるためにここまで来たのだ」
「随分勝手な言い様ですね」
「あぁ、勝手だ。そもそも曹騰に君を任せた所から勝手だし、それに期待して待っていたのも勝手。
さらに俺の考えを君に押し付ける俺はものすごく自分勝手であくが強い。君からしたら良い迷惑だっただろう」
「えぇ、本当に」
「……だが、君はとても嬉しそうな顔をしている」
その笑顔は、花が咲いたように艶やかで、子供らしさを残す笑顔なのに、何処か曹騰を思い出させるのだ。
「お爺様から聞かされていた変り種。どうやら本当だったようね。どう育っているか楽しみだとお爺様は常々言われてたわ」
「水と土が悪くて枯れる心配はしていなかったかい?」
「枯れていたら私がこの手で殺している所だわ。お爺様は常々、貴方に仕えて見たかったと言っているのだから」
「曹騰は大げさだな。だが、君を大器と論じた事は見事だ。君は、本当に大きい」
齢11。一体何をすればここまでになるのか。しかも、恐らくはまだ成長途中。若い頃の熱気に包まれ、果たしてどの辺りまで上り詰める事が出来るのか。
「曹操、俺の真名を受け取ってくれないか」
「それは、盟約の証としてかしら?」
「命を預ける証としてだ。俺の全身全霊、全てを使い切り、この腐った世を砕くと誓ってくれ。俺だけでは……恐らく届かない」
「……心して受け取ります、劉宏殿」
「ありがとう。俺の名は劉宏、字を子卿。真名を『鴆元』と言う、どうかよろしく頼む」
「私は曹操、成人してないので字はありません。真名を『華琳』。我が覇道にて、貴方の全てを使い切りこの世界を引っ繰り返して見せます」
「あぁ、君の覇道。俺に見せてくれ」
堅い握手。ここに、再び契約は成った。
ほんの少し前。俺と曹騰の間に盟約は交わされた。俺は、名士の芽に出会うと言った。彼は、俺の予想を超えて大きな結果を渡してくれた。
少女は、芽と言うには大きく、既に確固たる自らを持っていた。強い意志が、そこにはある。ならば、俺はそれに応えなければいけない。
盟約は交わされる。祖父から孫へと、覇道を行く道は確かに繋げられたのだ。
全ては、絆がため。