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No.16642の一覧
[0] 【習作】金髪のジークフリート    Dies irae 〜Acta est fabula〜二次[宿紙上座](2010/08/08 13:35)
[1] Die Morgendämmerung_1[宿紙上座](2010/02/21 20:56)
[2] Die Morgendämmerung_2[宿紙上座](2010/02/26 15:02)
[3] Die Morgendämmerung_3[宿紙上座](2010/02/21 20:59)
[4] Die Morgendämmerung_4[宿紙上座](2010/03/13 18:32)
[5] L∴D∴O_III.Christof Lohengrin[宿紙上座](2010/02/22 12:13)
[6] L∴D∴O_IV.Kaziklu Bey[宿紙上座](2010/02/23 11:26)
[7] L∴D∴O_V.Walkure[宿紙上座](2010/02/24 11:57)
[8] L∴D∴O_VII.Goetz von Berlichingen[宿紙上座](2010/02/25 08:05)
[9] L∴D∴O_VIII.Melleus Maleficarum[宿紙上座](2010/02/27 12:15)
[10] L∴D∴O_IX.Samiel Zentaur[宿紙上座](2010/02/28 11:39)
[11] L∴D∴O_X.Rot Spinne[宿紙上座](2010/03/01 10:50)
[12] L∴D∴O_XI.Babylon Magdalena[宿紙上座](2010/03/02 11:50)
[13] L∴D∴O_XII.Hrozvitnir[宿紙上座](2010/03/03 11:27)
[14] L∴D∴O_null.Urlicht Brangane[宿紙上座](2010/03/04 10:58)
[15] L∴D∴O_ I & null.Heydrich[宿紙上座](2010/03/05 11:09)
[16] L∴D∴O小話、椅子破壊活動[宿紙上座](2010/03/01 11:02)
[17] L∴D∴O?_VI.Zonnenkind[宿紙上座](2010/07/11 11:22)
[18] Durst_1.eins[宿紙上座](2010/07/11 11:53)
[19] Durst_2.zwei[宿紙上座](2010/07/17 11:10)
[20] Durst_3.drei[宿紙上座](2010/07/25 12:04)
[21] Durst_4.vier[宿紙上座](2010/08/01 11:50)
[22] Durst_5.funf[宿紙上座](2010/08/08 13:33)
[23] 巻末注、あるいは言い訳【度の軽重問わずネタバレ注意】[宿紙上座](2010/07/17 11:08)
[24] 小話IF 和洋折衷[宿紙上座](2010/03/08 11:53)
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[16642] Die Morgendämmerung_2
Name: 宿紙上座◆c7668c1d ID:767d7c12 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/02/26 15:02



 別段メルクリウスと契約した事を後悔した訳じゃ無い。
 どうせなら叶えたい願いだってあったし、どうしても諦められない業だってあった、そもそもに修羅道の世界なんて絶対ゴメンだ。
 だからエイヴィヒカイトを駆る才能が俺に無かった事も、今お前を吹き飛ばしたくて仕方無くてもそんな詰まらない事は後悔の対象にはなら無い。

「試して見たって良いわよ? 絶対に無理だと思うけど、活動じゃあね」

 そう言うといつもと変わらずに彼女は余裕を見せた。確かに未だ永劫破壊を得て日が浅いとは言え活動位階を脱しない半人前の俺では彼女を傷付けるのは無理だろう。

「ベルリン侵攻も近い、早く形成位には届かせたいんだが」

 で無いと赤軍兵は愚か、友軍や無辜の民まで手当たり次第に殺してまわりかねない。複合魔術の毒に呑まれ癒えない血の飢えは余りにも狂おしい。
 外は既に来るべき侵略の日に住民達も戦々恐々としておりほんの僅かな混乱でも有っと言う間にモラルハザードが起きてしまうだろう、あるいはもう起きているかも知れないが。

「だから我慢して無いでやっちゃいなさいってば。あなた、今更人殺しは悪い事だーとか、俺は悪い事したく無いんだーとか、言っちゃう程甘ちゃんな訳じゃ無いでしょ?」

「確かに俺は必要ならホロコーストだって厭わない人間、のつもりだけどね。"俺はお前らとは違う"って方針だから極力殺さないよ」

 で無いと大義名分が立たないだろう?

「何考えてるのか、あえて聞かないわ。だけどあんまり私に面倒掛けないで欲しいんだけど?」

 思えば彼女は初対面以降ずっと俺に面倒事を押し付けられている様な気がする。魔女の定めだろうか、こう見えて案外面倒見の良いやつだからしばしば割を食っている姿を見掛ける。

「まぁ、これからも助けてくれアンナ・マリーア。これも欠乏のルーンを担う人間の宿業なんだよ、多分」

 まだ殺戮に手を染めた事は無いが、たまに止まらなくなった時、彼女が居れば何とかなる。そう言った理由で俺は彼女と良く会って居た。

「ルサルカって呼びなさいよ良い加減、まぁ良いわ。昔馴染みと言うには少し若いけど、そのよしみだしね、面倒見て上げるわよブランゲーネちゃん」

 損な奴だ。


 彼の日からライヒハートとは思ったよりも意気迎合してそれなりに仲良く友人付き合いが出来た、とは言え単なるサボリ仲間と言った風合いで、この御時世では早々許される事でも無かったため自分の性分には合わない程自重を求められた付き合いでは会ったが、この時代での顔見知りとしては十二分に仲の良い友で有ったと言える筈だ。

 それだけに彼が死ぬと分かっている彼の出征を見送る事しか出来なかったのは痛恨の極みだった。
 死ぬなよ、じゃああんたも元気でな、そんな他愛無い最後で有ったが内心は忸怩たる、あるいは腹の底が煮え繰り返りそうな思いを顔に出さずに済んだのは僥倖で有っただろう。

 とかく、その時の繋がりでルサルカとは顔馴染みで有った。既に知っていた顔とは違う、匂い立つ様な程良く熟した花のかんばせが、俺の顔を見る度に何か嫌なモノを見たと言わんばかりに歪む様は中々の見物で有ったが。黎明を越えた後も俺が聖遺物を得た後も付き合いを維持してくれているのは彼女が人情豊か、と言うか人間臭いからだろうか。
 ただ単に俺の器を見切って居るだけかも知れないが。


 さて、ルサルカはなんとも得体の知れない本を読み始めたので俺も活動の訓練を始める事にする。至急、形成に至り聖遺物の舵取りを行う必要があるこの時に魂を消耗するのはあまり賢しい行いでは無いだろうが、どうやら事象展開型と思しきこの聖遺物は出来る事の拡張性が非常に高いので訓練は欠かせ無いだろう。

 もちろん、下手をすると件の飢えが襲うわけで、暴走対策にもっぱらルサルカを頼んでいる。こいつが居たならば一発で俺を止められるだろうからだ。
 大抵は不思議と燃費の良い自分の魂の存在が一役買って安定した活動の行使が可能になってはいるが。

「Assiah-- 活動」

 この言霊に意味は無い、無い筈なのだが聖遺物のその特性上イメージをしやすくなるので言い始めたところ忘れ去った十四歳ソウルが震え出した結果、霊性が向上してしまったと言う経緯があった。
 どうせ後々形成Yetzirahとか創造Briahとか言うんだからここで慣れてしまえと言う実益と言い訳を兼ねた気持ちも無いでは無い。

 あとこう言う癖付けて置かないと後々活動位階の存在を忘れそうだ。

 おおよそ小細工が済んだところで実験開始。

「ルサルカたん大好きー!!」

 ここでルサルカを見る、反応無し。あんまりにもあんまりな台詞に凍りついて居るだけかも知れないので念のために確認をする。

「なんか聞こえた?」

 今度は霊性を乗せてそう言葉を発したが彼女は美人のクセに可愛らしく小首を傾げて目を見開いて

「何か言ったの?」

と問うばかりで有った。
 成功。
 再び霊性を乗せて今度は言葉を発さずに音だけで礼を伝える、何れにせよ霊的な音でなければ、遮音結界とも言うべきモノを周囲に張り巡らせた今のルサルカには届かない筈だからだ。
 邪魔をするな、とだけ言って再び本の虫になってしまった彼女には今は本当に何の音も聞こえて居ないだろう。あまり細かい操作に自信は無いのでその程度でしか無いが。

 聖遺物、智泉の号砲。
 わざわざ戦車撃破王ルーデルの愛機からちょろまかして来たユンカースJu87、通称スツーカに搭載されていた悪魔のサイレンはその出自に恥じず他者に恐慌を与える音を出す、と言う特性を持っていた。

 今やっている事は恐慌を与える、を拡大解釈して寧ろ音が聞こえない事で恐慌を与えたり、どこからともなく声が聞こえてくる事で恐慌を与えたり、と言った所だ。
 その気になれば凄まじい轟音で物体を爆発四散させる事だって出来る筈なのだが、残念ながら何れも創造位階にあると思しきルサルカには大した痛痒にも成らないだろう。まだまだ宴会芸の枠を超えないものに過ぎ無い。

 今の俺に出来る事は精々「アンナアンナアンナぁぁぁあああん、くんかくんかもふもふもふもふ」と(聞こえないところで)嫌がらせをするくらいだ、聞かれたら枯らされる、色んな意味で。
 地獄耳も真っ青なこの能力を得て本当に良かった。



 そこそこ平和な俺の活動時代は僅か半年にも届かず終わる事になった。
 ベルリンの戦い、既に知っている歴史上ではそう銘打たれている筈のこの事件、戦災は死者数でも陵辱された人間の数でもその地獄の姿を物語っていた筈だ。

 幸か不幸か、正式な黒円卓メンバーでは無かった俺はスワスチカを開かなくても良いが代わりに邪魔だけはするな、とヴィッテンブルグ少佐より釘を刺されベルリンの街に放逐された。

 仕事でも戦場を渡り歩いていたのも有って慣れる事は無いにせよ今さら地獄の一つや二つ、歩く死者たる我が身にはどうと言う事は無いものの、いざ目の前で消え行かんとする命を無感傷に放置するのは、そう簡単な事では無い。
 周囲では悲鳴轟々、銃火の音、砲火の音が絶えない。
 そしていくつか聞いて回った魔人どもの哄笑と断末魔は聴くに耐えなかった。
 だからこそ死者の最後を看取る。
 ひたすらもう救われぬ死者を看取って行った。
 敵も味方も老若男女関係無く、英雄の様に生きて、そんな風に死んだモノばかり選んで居たと思う。

 そして彼らを食らう。
 食らう度に魂魄の髄に流れ込むその魂が刻んだ生死の歴史が今の俺の在り様を厳しく糾すが、止まっても居られない。
 噎せ返る様な死の香りに、聖遺物に呑まれつつあった俺は魂すら半ば歓喜して人々を食らっている。自制はまだ利いていると脳髄では判断しているが心は殆ど殺人鬼だ。
 今、銃撃でも受けようものなら間違いなくピンと張った細い糸の様な理性は容易に千切れ飛び、嬉々として殺戮を始めるだろう。しかしその一方で未だ活動位階の、総量が二桁にも及ばぬ霊的装甲では砲撃は耐えられない。無反動砲でも当たれば木っ端微塵とは言わずともスプラッタ死体位は出来上がるだろう。

 だから一所に留まり誰かの目に付く訳にも行かない。
 看取り、食らい、逃げて、また食らう。
 俺は人間なんてとっくに辞めてるのに、無力な人間と変わらず戦闘終了区域と思われる場所を渡り歩き、ひたすら逃げ惑っていた。


 「助けて……」

 そんな声が聞こえて来たのは聖遺物の特性上、俺が常人を遥かに超えた聴力を持っているからに違いない。あるいはそんなモノが無くても、この地獄では聞こえたかも知れないが普通ならば間違い無く銃声に掻き消された様な小さな声はしかし間違い無く俺の耳に届いた。
 まだ生きる力を感じさせる声は致命傷を負って居ないらしい事を示している。

「待ってろ、今助ける」

 殺しに酔っていた俺は冷や水を浴びせられた様に醒めて、すぐさま音源に向かって駆け出した。
 か細い声と、地面に横たわるその姿から決して喜ばしくは無い事態を想起したが幸いにも幼くは無いが大人とも言えないその少女には一見して致命傷を負っていない様に見受けられる。

「大丈夫か? すぐ助ける」

 この地獄が始まってより助けられたヒトは彼女が最初だと心の底から喜んで泣きそうにながら、地獄より助け上げようと手を差し出そうとした。

「ありがとう」

 と言う小さな声が醜悪な槍衾に覆い尽くされるまでは。

「ああん? 活きの良いガキが二人居ると思って来て見りゃジーク、てめえかよ。ったく無駄足踏んだぜ、って事はこっちのメスはてめえの獲物か、済まねえついやっちまった」

 いつの間にか白に染まる、闇の寵児とも言うべき獣の牙がそこに立って俺を嗤っていた。束の間、幻視した邪悪の樹は既に消え去っている一方でそれに貫かれたモノは消え去る事も出来ず無惨な屍骸を晒している。
 間違い無く今の俺は血を浴びた真っ赤な顔に成って茫然としているだろう。心が何も考えられて居ない、と言う事を考えている状態で脳髄だけがガツンガツンと内側から殴られる様な熱に襲われていた。

 譲ったつもりなのか、下手人に肉の器を奪われしかし彼には食われず行き場を無くした魂が、もはや助かるどころか死に顔さえ定かでは無いその少女が、ほぼ無意識的に死を啜る俺に流れ込んで来て彼女の歴史、ひいては死の間際の感謝とも恨みとも知れぬ感情にすら触れて、
 意識が白熱した。
 魂喰いはこんなにも狂ってる、一片の疑問の差し挟む事の出来ない悪魔の所業だ。なのによくもお前はそんな無感傷に殺して貪って楽しそうな顔をして、

「エーレンブルグ、おまえ」

 だから教えてやらなければならないだろう、魂の価値を。この地獄に落ち損なった哀れな悪魔共を、自らの醜悪な有様すら棚上げして怒り狂う程に傲慢なこの魔人が。
 義憤に燃える英雄となるために。

「ああん? なんだ怒ったか、怒っちまったか、済まねえな仔犬ちゃん。テメェの沸点はよく分からねえわ、成り損ないがよぉ」

 成り損ないに成り損ない等と呼ばれる筋合いは無いとか、てめえのその薄汚い喋りはイライラするんだよとか、狂犬病の犬もどきが誰に向かって仔犬ちゃんだ八つ裂きにするぞとか、そんな事はどうでも良いが。

「黙れよ二号ちゃん、正直手前の姉ちゃん犯して焼くような典型的に愛に飢えたシスコンのマザコンに理解されるとか、流石に俺でも無いわ」

 お前なんかと一緒にするな、吸血鬼。

「ジーク……テメェ、ブッ殺すぞ。あぁダメだわ、ブッ殺してバラして埋めてやるよクソがぁああぁ!!」

「こっちのセリフだ、シスコン野郎ッ!!」

 この義憤は誰にも汚させない。


 義憤が鍵だったか、心の何処でも無い、魂に触れんばかりの無意識の領域で一つの邂逅を見た。その聖遺物そのものを象徴する高次の魂は無く、その主体は感じられない。
 しかし言葉では言い表しようも無いただ識る事のみ出来る"それ"との邂逅は間違い無く俺に一つの問を投げ掛けた。
 もちろんだとも、必ずこの世界は終わらせて見せる。たとえ--そうたとえ刺し違えてでも。


『Yetzirah--形成』


 聖遺物との対話など当に済んでいた筈なのだ。才能が無いなどただの欺瞞、それこそ魔人錬成された時には既に形成位階に到達していたのかも知れない。
 これまで現れなかったのは純粋にそこが戦場で無かったため、俺に戦場に立つ覚悟が無かったため。ならばこれより、常在戦場の覚悟を決めよう、この第三の生は勝つまで永劫と戦い続ける為にあるのだから。


「Des Knaben Wunderhorn 奇しき調べ、響き渡れ」
 

 戦争を始めよう、号砲を鳴らせ。


そして、何も起きない。
正確にはエーレンブルグの方は形成によって五体からクリフォトが生い茂り、しかし俺の方では何も起こらなかった。

「ああ?」

 エーレンブルグは如何にも拍子抜けしたと言わんばかりの表情だ、恐らくハッタリで祝詞を言ったとでも思ったか、人器融合型を期待していたのかも知れない。
 が間も無く躾の行き届いて居ない狂笑を浮かべ剰え笑い声を上げ始めた。

「か、はっ、はーっはっは、ひゃははははは、テメェブチ切れて形成出しやがったんだから人器融合型(お仲間)かと思わせておいて、実は事象展開型(インテリ)ですってか? 笑わせやがるクソが、下らねえ。おいジーク、テメェまさかここから巻き返しがあるなんて思って無えわな!?」

 戦士の勘か、腐っても狂犬か、見極めは早く若干のブレこそあれ警戒は瞬時に帰ってきた。
 あの油断した一瞬に仕留められれば良かったのだろうが、それ程の威力は俺の魂の数もあって攻撃力に優れた人器融合型なら兎も角、事象展開型では出せないだろう。もちろん、エーレンブルグも其処は織り込み済みに違いない。
 どだい、情報屋と戦争屋ではぶつかり合いなど無理な話しと言うものだろう。

「ああ、だから逃げる」

 で有れば、三十六計逃げるにしかず。わざわざ殴り合いに付き合う必要も無い。

「ハァ? テメェ逃がすとでも、あぁいや、そいつが狙いか。 マレウスもそうだがテメェら(事象展開型)はやり方が惰弱だなぁおい?」

 あぁそう思っておくが良い、お前がそう思って居る間こそ俺の勝ちにとって都合が良いんだから、だからこそ挑発に乗るつもりも無い。

「知らんな、悪いが俺は逃げるぞ」

 そう言って一歩下がる、次の瞬間には逃げ出せる態勢を取りしかしエーレンブルグもまた追う姿勢を取り、


 爆発した。


 ほんの先まで立っていた廃墟の地面ではかつてドラクル公が突き立てた様なキリングフィールドを再現するが如く一面覆い尽くさんばかりの槍杭が突き立てられ、元の面影などどこにも残っていない。
 ただし現象を克明に記すなら、僅かに残った廃材は全て俺の離脱の際に生じた強烈な衝撃波に吹き飛ばされたために面影など残っていなかった、と言うべきだろう。戦火に晒され火が廻りつつあった瓦礫は炎諸共吹き飛ばされ一瞬で鎮火されている。

「チィ、面倒臭え!!」

 出来損ないの散弾の如く爆ぜた瓦礫や木切れは狂犬の視界を奪い、完全に予想を上回られた事による驚愕の声を出させた。
 加えて直後、遥か上空から風を切る様なサイレン音が聞こえて来た。その不気味な風斬音は大戦当初空爆に不慣れで合った者達の恐慌を誘ったと言う悪魔のサイレンであり、

「この音……スツーカか!!」

 上古の昔、その妙なる調べで城壁を砕いたと謳われるジェリコのラッパの再臨、で、あれば"音に気付いて"回避を始めた所で間に合う訳も無いし、音遣いの攻撃が音より遅い訳もない。
 先程の比にもならぬ爆発。
 音の壁を突き破り、亜音速でその場を離れた俺とは違い一瞬その場に釘付けにされたヴィルヘルムにはこの急降下爆撃を避けられる由も無い。瞬時に一ダースは降り注いだ戦艦さえも撃沈し得る一発千ポンドの炎の雨はソニックブームすら引き連れ彼を覆い尽くす。

 咄嗟に前に出て避ける、と言う曲芸じみた発想からか間一髪で直撃を交わし俺を追い始めるヴエーレンブルグだったが彼我の間には既にかなりの距離が開き、とうに薔薇の杭の射程ギリギリの距離は稼いでいた。

「舐めやがって、これでも食らってミンチに成りやがれチビ犬がぁぁぁ!!」

 一波で収まる筈も無くいつ止むとも知れぬ炎を掻い潜りながら、そんな事に構ってなど居られないとばかりに奮い立つ串刺し公は凄まじい勢いで走り抜け、合わせて放たれた薔薇の杭が視界を埋め尽くさんばかりに飛び来る。なかば破れ気触れに放った様にすら見受けられるそれは、しかしその物量のために幾つかが直撃のコースを取っていた。あまりにも多過ぎるそれらを軽率にかわせば今度は周囲の他の杭に襲われるだろう。僅かコンマ数秒の間にこの様な詰め将棋を組み立てる手際は戦争屋と呼ばれるに相応しいものであった。
 が、無論、無抵抗に受ける訳には行かない。

 「撃てぇ!!」

 同時、掌中の引き金を引き絞る様なイメージで差し向けた腕から放たれる仮想の機関砲、それによる弾幕は多くは槍衾を砕きそして少なからず杭の主に牙を剥いた。

「なんだとぉ!?」

 騎士団員からすれば豆鉄砲とは言わずとも小さな鉛玉の範疇に過ぎないとは言え、7.92mmの霊弾は聖遺物として呪詛を受けた機関砲、その砲口から飛び交う数は秒間60発の縛りを大幅に超えている。
 必然、そこから齎さられる厚い弾幕はしばしば獣に例えられるエーレンブルグをして回避を許されず猛進の途上から弾き飛ばした。猛進していたからこそ、と言う一面が無いでは無いが上から降り注いだ炎から、砲撃は上からしか来ない等と多寡を括ったが何よりも悪かろうと言うもの。

「クソったれ!! やりやがったな、何が事象展開型だボケが。特殊発現だと? てめえの面には似合わねえんだよジークフリートォ!!」

 漸くその異常性に気付いたか、まるで騙された被害者みたいな事を言って罵倒を浴びせるエーレンブルグ。
 彼の言う通り、どうやらこの"笛"は特殊発現型に限り無く近い様だ。さながら武装具現をするかの様に爆弾を降らせ、しかしこの身を爆撃機と化し弾丸を放たせる人器融合型にも見える。
 実態は間違い無く事象展開型であるが、対峙する側から見るのであれば特殊発現型と思って対向するのがもっとも組し易いだろう。

 事象展開型は一筋縄では行かない、そこを見失って居たエーレンブルグは既に命運が尽きていた、と言っても過言では無い。予想しないカウンターに吹き飛ばされ体勢を崩した所に二千ポンドでも降り注ごうものなら如何に既に創造位階にあるエーレンブルグでも大打撃は避けられなかった筈だからだ。しかし、

「いってえ」

 俺は機関砲で砕いた薔薇の杭の破片を浴びて痛みにもがいて居た。戦場に立った事があっても矢面に立った事の無い俺に死に至る様な痛みを受けて平気な顔をして居られる訳も無く、まして魂を削られ、吸い上げられ、毒に満たされる、そんな痛苦は如何な経験があっても慣れる事は無いだろう。

 ここで追撃など出来る訳が無い。俺は戦士じゃない、兵士でも勇者でもない俺に痛みを無視して戦い続ける事は出来ない。
 痛い。
 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い、熱くて辛くて痛くて堪ら無い。
 痛がっている場合かと、今すぐあのもどきに炎と硝煙を浴びせてやれと心は語るが、かつて経験した事の無い様な苦痛はまさに魂が悶え苦しむ毒だった。

「あぁん? あぁ、あーあーあー。なるほどそう言う事か」

 何故、致命の炎が降り注がれ自らを焼かなかったか理解出来無いとばかりに首を傾げ、俺を睨み付けて居たエーレンブルグは一人合点が言ったとばかりにコクコクと頷き、直後、嘲笑い始めた。

「ハッ!! ぎゃははははは、まさかテメェ今まで痛い目にあった事が無えのかよ、ジークフリートォ。なんでそんな坊ちゃんが戦場に立ってんだ、あぁ!? 今すぐ家に帰ってお部屋にでも籠もってろ仔犬ちゃん、お帰りはあちらってなァ!! オラァ!!」

 瞬時に間合いを詰め、茨に覆われた毒手で一撃必殺を狙うエーレンブルグを俺は痛みに霞む目で捉えていた。
 痛くて何もしたく無い。 
 だが


 だが死の苦悩に比してどうと言うものでも無いじゃないか……。


「うるさいんだよ、野良犬がっ!!」

 瞬く間に目と鼻の先まで差し迫った薔薇杭に、間一髪、合わせてクロスカウンターの様な形で常識外れの高射砲が放たれる。

「がぁああぁ!!」

 本来地上で戦車同然に設置されて放たれるべき凶悪な大口径の霊弾をStuka(急降下爆撃)で放つ、と言う狂気の沙汰。これを前にしては装甲の差も問題にならずまるで紙切れの様にエーレンブルグは吹き飛ばされ、瓦礫の山にその身を沈めた。
 反面こちらも無傷とは言えず置き土産と言わんばかりに左腕は杭によって穿孔され、半身が破片に覆われている。思わず舌打ちして幾つかの破片を抜き捨て、瓦礫の山に向かって高射砲と耳をつんざく轟音の声を打ち込み始める。

「痛え、畜生マジで痛え、痛えッ!! 来いよエーレンブルグ、どうって事無いんだろ? 生きてるんだろ? 何回でも吹き飛ばしてやるから掛かって来いよ、まだまだ洗って無い犬の匂いがするんだよ!!」

 死の苦悩がどうのと格好付けても痛いモノは痛い、戦争童貞の俺が吸魂の槍に貫かれるなど噴き出したアドレナリンとエイヴィヒカイトの力が無ければ泣き叫んで居る所だ。 
 霊性を持って打ち込まれた轟音の罵声に応えるかの様に瓦礫の山は火山の様に猛毒の杭を伴って噴火する。
 吹き飛ばされた瓦礫を抜けて、急造の塚から土埃を伴い所々風通しの良い銃痕から血を噴き出させて這い上がって来たエーレンブルグのその姿は、何か得体の知れない鬼気とでも言うべきものを纏っていて、知らず俺は脊椎に氷を詰められたかの様な緊張を感じた。

「あぁ、済まねえな。……正直舐めてたわジークフリート。悪い悪い、だから、本気で行くぞクソガキ」

 ……創造、か。
 これは不味い、今は夜だから成り立ての俺に二重の夜は絶対の死地だから


 「かつて何処かで--


 これは何としてでも阻止し無いと


「ジークぅ、ここなのー? ボーッとしてると置いて行っちゃうぞー」

 しかして魔女の、あまりにも場違いに聞こえるセリフが致命的に水を注した。
 エーレンブルグも鬼気を乱され、詠唱も中断してしまった様だ。彼も成り立てとは言えずとも熟達の聖遺物遣いとは言えない、と言う事が功を奏したか。渇望を磨き上げた魂の力で呼び覚ます複合魔術の奥義とも言える創造は並大抵の集中では成し得ないだろう。

「あれー、ベイも一緒だったの? 探して損しちゃった。はぁ、とにかくここは離れましょう、私疲れちゃったし」

 彼女のそのセリフに毒気を抜かれた様な顔をしてまずエーレンブルグが形成を解いた。いや、そこには打算が多分に含まれているだろうか、彼の触れれば刺さる様な性格からして彼女と良い関係性をこの時期に確たるものとしているとは考えられ無い。一つ間違えれば一対二となるリスクと、まだ何も始まって居ないのに此処で正当な団員を倒し黒円卓を欠けさせる訳には行かないと言う傲慢、その両面。これが正解だろう。

「もう良いのか」

 読み切っているだろうとは言え不利な俺は当然、それで一切の警戒を解く事も出来ず問いかける。

「白けたわ、テメェ自分の女くらい首輪掛けとけやクソったれ」

 そう言ってエーレンブルグは背を向けた、また何処かで誰か殺しに行くんだろう。俺の目の届かない所で有れば勝手にすれば良いと思う。
 ちょっとー誰が誰の女ですってー、等とつまらない事で盛り上がるルサルカを傍目に漸く俺は肩の力を抜く事が出来た、正直エーレンブルグの姿が"見えなく"なるまで安心は出来ないが奴の性格上、白けたと言っておいて騙し討ちは無いだろう。
 未だ銃火が飛び交い砲火が爆ぜて戦火に喘ぐ第二の故国の深紅い空を見上げた。
 先ずは、形成。


 どうでも良いが、こんな女に首輪を掛けるほど俺はかっ飛んだ趣味はしていない。


「随分と良いタイミングだったじゃないか、魔女殿?」

 比較的安全そうな区域に移動しながら話す。
 後ろからは未だ銃声と爆音が聞こえるが幸いルサルカにも俺にもそんな音は届いていない。

「なによ、折角助けてあげたのにお礼も言わないなんて紳士の行いとは言えないんじゃない?」

 この言い方を察するに矢張り覗き見られていた様だ、別に見られて困る事など無いが何かあらぬ嫌疑が掛かって居るのか、純粋に心配して居たのか。そのくせ、半ば暴走していた俺を放置する辺りに矛盾も感じる、200年そこそこの長生きさんでは頭の中も一枚岩では居られないんだろうが。

「まぁ感謝してるよ、お陰で形成も出来たし悪い発作も収まった」

 わざとズレた感謝を示して見たがルサルカは意にも介していない様だ。

「感謝してよね、あんなにベイのテンション上げちゃってさ。もう少し粘れなかったら邪魔する間も無く殺されてたんだから」

 悪い悪い、等と微塵も反省して居なさそうなセリフで軽く請け合いながら思う。一体こいつはどう言うつもりだろう。
 何故助けるのか、助ける割に暴走の危機に際して放置はする辺り純粋に俺の意向を尊重するつもりでもあるまい。であるからと言って教育的愛の鞭を気取っているつもりでも無いだろう。
 そんな軽い疑念に気が付いたか、ルサルカはため息を一つついて

「あんたね、ベイとシュライバーに目を付けられてるのよ」

 といまさらの様なネタばらしをした。
 なるほど、目を付けられる様な心当たりならいくらでもある。特にあの二人はラインハルトのシンパだから、俺がラインハルトを恐れていない事が気に食わないんだろう。
 流石にもう一回ブサイクハガル発言をする積もりも度胸も無いが。

 目を付けられていると言うのは本来聞きたかった何故俺をわざわざ助けたかの理由にはなっていないが、こうも真っ向から忠告されると今更聞きなおす気にはなれない。黎明以前の知り合いがもう俺しか居ないから、とか冗談でも言われたら背中が痒くなって死ぬ。思わずメルクリウスが居るじゃ無いかなどとバラしてしまっても驚かない。

「なるほどね、シュライバーに目を付けられてるのはお互い様だと思うけど、まぁ気を付けるとするよ」

 あそこで俺と対峙したのがシュライバーだったとしても助けに入ったんだろうか、もしあれを説得出来るつもりで居るんならそれは重大な死因にしかなり得ないからやめとけ。ライヒハートのよしみで、忠告しておいた。恐らく彼女に忠告するのは61年後の展開次第ではこれが最後だろう、すなわち61年間忠告する程の会話をする事も無いかも知れないと言う事だ。

「はあ、覚えとくわ。忠告どうも」

 まともに取り合ってもいないらしく、既に俺の方を見てもいないルサルカのすらりと伸びた背を見ながら61年後の展開に思いを馳せた。
 あの美人が61年後にはロリババアか……。
 振り向いて睨まれた、これが女の勘か。


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