教会へ行く途中。
俺たちはこんな序盤から、最強の敵と逢いなすことになる。
「ねえ、お話は終わったの?」
白い髪に赤い瞳。
まるで妖精のような少女と―――その後ろにそびえる、鋼色の巨人。
「はじめまして、リン。
私の名前はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
この意味―――分かるわよね」
「アインツベルン―――?」
その名前に、かすかに遠坂がゆれた。
しかしそれもつかの間。
挨拶は終わりとばかりに、それまで隠れていた殺意が剥き出しとなった。
『くっくっく。一日にサーヴァント二体と遭遇とは、運がいいんだな、シロウ』
◆
エミノート
◆
「やっちゃえ、バーサーカー!」
「■■■■■■―――!」
巨人が咆哮する。
岩の塊のような剣を握ったまま、バーサーカーと呼ばれたそれは、こちらへと突進してくる。
「逃げるぞ、遠坂!」
「あ、ちょっ!」
それを見て、俺は遠坂の手を引いて走り出した。
背中を見せる形にはなったが、セイバーが即座に迎撃してくれるのを感じ取り、躊躇なく逃げ出すことができた。
◆
剣戟の音が、こちらにまで聞こえてくる。
戦いの中心から、離れた位置で、電柱を盾に俺と遠坂は観戦していた。
「やばいわね……あのサーヴァントのステイタス。
明らかに常軌を逸してるわ」
「そうなのか……」
しかし、体系的にもそれは見れば見るほど感じられる。
セイバーの三倍近くの身長を持っていると見ていい。
別に背丈が強さに比例するわけではないが……しかし、あの大きさは異常だ。
史実に基づいたタイプの英霊というより、神話系だろう。
セイバーも戦えてはいるが、あの様子では―――いずれ。
「ちょっ! やばいわよ、どうしよう。
アーチャーを呼び戻そうかしら……!」
テンパッている遠坂とは逆に、俺は冷静だった。
遠坂……聖杯戦争の定石を忘れているな。
あんなデカブツを相手にするよりも、剥き出しの弱点を狙うべきだ。
―――マスター殺し。
……ポケットには、デスノートの切れ端がある。
さっき家に戻った時、念のためにボールペンも入れておいたが、功を奏したようだ。
あの少女の名前を、デスノートに書く。
馬鹿正直にさっき自己紹介をしたようだが、それが運のつきだ。
あんな幼い子供を殺さなければならないのは、少し胸が痛むが……しかしあんな凶暴なガキ、放置したらとんでもないことになる。
見過ごすことはできない。
この俺に名前をさらしたその意味を、とくと知るがいい。
『イリヤスフィール・フォン・アインツベルン』
発音からして、こんな感じだろう。
「ちょっと、この馬鹿!
敵の名前をメモってる場合じゃないわよ!」
遠坂が横で切れてたが、しかしそんなことはどうでもいい。
これで戦いも終わりだ。
『くっくっくっくっく』
リュークが笑っている。
その笑いは、さっきのランサーのときと似たような声質だった。
◆
そして思い出す。
さっきのランサーのとき。
何故デスノートが効かなかったのか。
その、理由。
理由を、俺は、気づきそうなところまで、いったが。
―――あの、明らかに異国の少女の名前を、カタカナで書くことで。
ようやく理解するに至った。
◆
ようやく、リュークが笑っているその意味を理解できた。
この死神は、俺のことを馬鹿を見るような眼で見ている。
くそ。
本当に屈辱的だったが、そう思うのも納得だった。
『くっくっくっく』
リュークに笑われるのも癪になってきた。
俺の考えの、間違いを正そう。
「(分かっているよ、リューク。
これはギャグだ。
これでは―――あの少女は、死なない)」
『お?
なんだ、分かってるじゃないか』
「ああ。
さっきのクー・フーリンといい、デスノートの基本中の基本を忘れていたよ。」
この聖杯戦争自体が、日本国内で行われていることから、俺は少し思い違いをしていた。
ぼけていたと言ってもいい。
そう、デスノートに書く名前は―――。
「その人間の、生まれた場所に左右される―――言語が、重要となる。
つまり……!」
『そうだ。
今回の場合、耳であの少女の名前を聞いてもまったく意味がない。』
「適応する言語において。
あの少女の、本来の名前の綴り―――スペルが、分からないと駄目なんだ」