どういうことだ!
何故死なない!?
ちゃんと名前は書いたし、明らかに45秒たった!
何故だ!
まさか……偽名!?
ここまできて……偽名!?
この男が、自分から名乗っておいて、偽名を使うか!?
そんなこと、ありえるのか?
いや……でも、こうなってくると、名前が間違っているとしか……。
『くっくっくくっ。
やっぱ、お前っておもしれーな。
偽名とかもそうだが、おまえはそれ以前の問題なんだぜ、シロウ』
リューク!?
どういうことだ。
やはりデスノートはサーヴァントに効かないのか。
『いや、殺せるな。
俺の眼には、この男の寿命や名前が見えている。
俺の眼に、名前が見えているということは―――それは、デスノートで殺せるということだ』
そんな馬鹿な!
じゃあ、なぜ殺せない!
くそが!
どうなってる!?
『学がないとこうなるのか。
無様だな、シロウ』
◆
エミノート
◆
「色々あったが、これで仕舞いだ。
じゃあな、小僧」
何故だ、何故殺せないんだ!
くそ!
くそおおおおおお!!
『デスノートの基本中の基本さえも忘れたお前の負けだ。
ま、おもしろかったぜ、シロウ』
既にバイバイ宣言のリューク。
負けるのか?
この俺が、デスノートを使っても、負けるというのかあああああ。
うわあああああああああああああ!!
◆
しかし、奇跡は起きた。
土蔵に偶然あった魔方陣。
じいさんが作ったのか、遺産ともいうべきそれから、召喚されるものがあった。
サーヴァント。
セイバーのクラスが、この聖杯戦争の最後の参加者として現れることになる。
「問おう―――あなたが私のマスターか」
◆
現れたセイバーは、ランサーへと相対する。
一振りで外へと吹き飛ばすと、そのままランサーと剣戟を繰り広げる。
俺は、黙って見ていることしかできなかった。
『くっくっく、危なかったなあ、シロウ。
あと少しで、俺は死神界に帰るところだった』
「……。」
今でも、心臓の鼓動が耳に聞こえる。
荒れた呼吸が、収まらない。
死ぬところだった。
……危うく、死ぬところだった。
今、あのサーヴァントを俺が召喚できていなかったら、俺はここで死体になっていただろう。
この、絶対の正義となるはずの、俺が、あっさりと。
聖杯戦争……なめていた。
◆
「ゲイ……ボルク―――!」
「ぬ……ああ……!」
「かわしたな、セイバー。我が必殺のゲイボルグを―――」
「っ―――!? ゲイボルグ!? 御身はアイルランドの光の御子か―――!」
俺がへこんでいる間にも、聖杯戦争はどんどん進んでいく。
しかし……どうしてデスノートが、あの男に通じなかったんだ。
ゲイボルクということは、アイルランドの英雄、クー・フーリンであることはまず間違いないはずだが……。
待てよ……。
アイルランド……?
『おい、シロウ。
お前のサーヴァント、やばいんじゃないのか?』
「ん? ああ……」
セイバーを名乗った少女は、青い男の宝具による致命傷は避けたものの、受けた傷は深いようだ。
苦しそうに、胸を押さえている。
「まあ、いざとなったら令呪を使えばいい……」
そんなことより、あの男の名前だ。
少し、真実に近づいた気がする。
◆
いざこざがあった後、ランサーは逃げ出した。
ここは助かった、と喜ぶべきだろう。
しかし何を思ったのか、セイバーが奴を追いかけようと身を乗り出した。
「バ……ま、まて!」
見れば、少女のダメージは見た目より深刻だ。
血が、とめどなく胸からあふれ出している。
「待て! 今奴を追うのは得策じゃない!」
セイバーの肩をつかむ。
今、ここでこの少女に死なれては困る。
サーヴァントは、俺のこれからの戦いに必要だ。
少しの討論があった後、セイバーは外に他のサーヴァントがいると言い出し、俺の意見を無視。
俺の叱咤の声も聞こえないふりで、塀の外へと飛んで行った。
なんだ、こいつは……テンぱってるのか?
◆
外にいたのは、遠坂だった。
遠坂は、セイバーによって押さえつけられ、剣を突き付けられている。
遠坂……遠坂だと!?
では、あの青い男は遠坂のサーヴァント……いやその割には、主の窮地に青い男が現れない。
別件か……サーヴァント同士の戦いを察知し、見に来たのか……?
とりあえず、どうしたものか。
このままセイバーに……。
いや、まだだ……まだ、状況が把握できていない。
仮に遠坂がマスターだったとしても、流石にこの女のフルネームぐらいは分かる。
何かあっても、すぐにデスノートには書きこめる。
問題はない。
『くっくっく。何かあってからじゃ遅い気もするけどな。
お前、本当は女はなるべく殺したくないんじゃないのか?』
うるさい死神を無視し、俺は二人の間に割って入った。
「待て、セイバー!」
◆
どうやら遠坂のサーヴァント・アーチャーは、既にセイバーによって切り伏せられた後らしい。
それでも気丈に遠坂は振る舞い、俺自身のことについてやたらと切り込んできた。
「あなたは、魔術師でも何でもない、ただの一般人なの?」
「ああ、そうだ。
本当に偶然、セイバーを召喚してしまって……正直、何がなんだかわからない」
俺は、何も分からないふりを決め込む。
それがきっと、一番いい。
下手に親父が魔術師だった、などと言っても、彼女は喜びはしない。
俺が聖杯戦争のことを知っているのも矛盾が生じる。
ここは、彼女の庇護欲を書きたてるような性格を演じたほうがいい。
セイバーは黙っていた。
何を思っているのかは、その表情からはうかがい知ることができない。
◆
遠坂の提案で、教会に行くことになった。
言峰綺礼。
遠坂の後身人であるという彼に会って、聖杯戦争のことを教えてもらうために。
正直、余計なお節介だった。
が、教会の人間というのは見ておきたかった。
教会の理念と、自身の理念は通ずるところがあったからだ。
『おいシロウ―――いつまでこんな茶番をやるつもりだ?』
周囲には、俺と遠坂と、カッパを着たセイバー。
しかし、俺の視界にのみ映る4人目は―――今の俺に、不満のようだった。
「(リューク……何のことだ)」
『明らかに、この女を生かしておく理由がないだろう。
今は敵意がないにしても、いずれは倒すべき敵だ。
ここで始末しておくのが一番いいんじゃないのか……?』
「……」
「どうしたのよ、シロウ。
急に黙りこんで。前から思ってたけど、あなたって顔色悪いわよ」
こうして話すようになって、1時間ほどしかたっていないのに、既に名ざしになっている少女―――遠坂、凛。
俺がそう演じているとはいえ、一般人に対してここまで世話を焼く敵というのも、珍しい。
魔術師とは、思えない。
俺の聞いた魔術師というのは、利己主義で自分のためなら他人の命を奪うことも厭わない冷徹な機械、そういったイメージを抱いていたのだが。
この少女から、そういったものは見えない。
なんていうか、ただのいい奴だ。
『……情がうつったか』
「―――」
いや。
まさか。
俺は、この世界の秩序を担う、正義の味方になると決意した。
そのために、障害となるものは消す。
それがたとえ―――遠坂でもな。
ただ今は、そのときではないというだけだ。
「(違うよ、リューク。よく考えてみろ)」
『?』
「(この先、さっきの青い男―――ランサー以上の強敵が現れてみろ。
セイバーじゃ勝てない、デスノートも効かない、そんな相手と戦うにはどうする。
そうだ、これがバトルロワイヤルの重要なところ―――共闘だ。
明らかに目立った敵に対しては、他の敵と一時的に手を組むことも必要になってくるかもしれない。
そんなとき、一番とっつきやすい相手は―――遠坂じゃないのか?)」
『へーえ。何だ、ちゃんと考えてるんだな』
……。
当たり前だ。