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No.15675の一覧
[0] 魔法少女リリカルなのはThe,JINS『旧題・魔法少女と過去の遺物』{魔法少女リリカルなのはとオリキャラ物}[雷電](2012/12/08 18:27)
[1] プロローグ・改訂版[雷電](2011/06/20 19:29)
[2] 無印 第1話・改訂版[雷電](2011/06/20 19:35)
[3] 無印 第2話・改訂版[雷電](2011/09/14 08:43)
[5] 無印 第3話 改訂版[雷電](2011/05/03 23:14)
[6] 無印 第4話[雷電](2011/05/03 23:17)
[7] 無印 第5話[雷電](2011/09/14 08:44)
[8] 無印 第6話[雷電](2011/06/20 19:53)
[9] 無印 第7話[雷電](2011/07/17 16:19)
[10] 無印 幕間1[雷電](2011/07/17 16:27)
[11] 無印 第8話[雷電](2012/03/10 00:36)
[12] 無印 第8話・2[雷電](2012/03/30 19:37)
[13] 無印 第9話[雷電](2012/03/30 19:39)
[14] 無印 第10話[雷電](2012/11/07 21:53)
[15] 無印 第11話[雷電](2012/11/07 21:55)
[16] 無印 第12話・前編[雷電](2012/12/08 18:49)
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[15675] 無印 第3話 改訂版
Name: 雷電◆5a73facb ID:5ff6a47a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/05/03 23:14






学校に通うようになってから3週間が過ぎた。まぁ、大した事もなく普通に平和だ。
朝起きて、一通り訓練をして、飯を食って、学校に行って、聞く必要のない授業は聞いたふりして、
いつの間にか集まる奴らとバカみたいに騒いで、家に帰って、訓練して、飯食って、風呂入って寝る。
ここ3週間本当に平和だ、うん平和だ。
テストで手を抜き過ぎて補習になったり、バニングスに絡んできた生意気な中学生にお灸を据えてやったり、
近所の爺さん婆さん達と一緒に囲碁大会や将棋大会に行ったり、ベンと一緒に将棋したり、
月村が誘拐されそうになってたので先回りして車のタイヤを手製サプレッサーをつけた狙撃銃で狙撃してやったり、
追いついてきたバニングスとその執事に狙撃支援してやられている誘拐犯を眺めて笑ったり、
高町が持ってきた手作り菓子の味見させてもらったり、栗林にサッカーについて熱く語られたり、図書館に行ったり、
お灸を据えた中学生が不良の兄貴と取り巻き連れて来たので全員指導してやったり、
お笑い番組見てもう腹が捩じ切れそうだったり、爺さん達と訓練したり、小学生を狙う不審者を討伐しに行ったり、
孫の影響でゲームに夢中になってる爺さんの扱いに困ったり、夕食を何にするかで婆さんと一緒に井戸端会議したり、
高町達とかくれんぼする話しになって軽く穴掘ってその中に伏せて土被っていたら後でブツブツに言われたり、
木の枝を体中に巻き付けて木の上でじっとしていたら月村が最新式の熱感知ゴーグル持ち出してきたり、
あぁ、久遠と遊ぶのも忘れてはいけないな。まったく、どうしようもないほど平和だ。
ん?誘拐があるのが平和か?・・・・まぁ上海の治安の悪い所ではいつものことだったしあいつの家系だし。
空襲を気にする必要もない、狙撃や襲撃を警戒する必要もない、本当に平和な時間だ。
そんな平和が続いている今日、俺は栗林達に誘われて午後は近くの公園に足を運んでいた。
将棋と囲碁をしようとのお誘いでな、別にやる事もないから行くことにした。
家に居てもラジオを聴くか、迫撃砲を磨くくらいしかやること無い。久遠はどっかの猫と遊びに行ってるし。

「はい、詰みだ。」

「また負けた~~~・・・」

向かいに座る栗林明人が悔しそうに唸った。栗林と俺の間にある机の上には大将棋セットがある。ついでに言えば栗林が詰んでいる。
現在5戦5勝、負け無し。しかし珍しいもんだ、俺の時代でも大将棋ができる奴は少なかったのに。

「お前強過ぎ。」

「いやいや、そんなこたねぇって。」

くかかかかっ、年期が違うんだよ年期が。こちとら散々上官に絞られた身だからな。むしろ、手加減してるんだぞ。

「どうして負けるんだ?なんでお前はそんなに強いんだ?」

「ははは、図書室最強も形無しだな。次は俺と囲碁だぜ斎賀!今日こそは勝ってやる。おい栗林そこをどけ!」

今度は水戸が栗林に変わって俺の前に座る。そして将棋セットをどかすと今度は囲碁セットを並べだした。
・・・・前々から思ってるんだが、どうしてこいつらはこんな重そうな道具を一式持ってくるんだ?確か学校にも持ってきてたぞ。

「斎賀って人気者だニャ~~」

「ははは、まったくこいつらは。」

隣の席に居た虎柄頭{恐ろしいことに地毛だ}の宇都宮もまたやれやれという風に、俺が先だいや俺だと口論する二人に視線を送る。
俺が学校に通うようになってからしばらくして、自然と仲良くなったのが三人だ。
なんというか、趣味が合うというか、一緒に居ると落ち着く。向こうもそんな感じらしい。

「にゃ~にゃ~?斎賀~~これこんな感じか?」

将棋をちらちら見ながらスケッチブックに絵を描いていた宇都宮が描いた絵を俺に見せてくる。
ちなみにこいつの場合はチェスが好きだ。かなり強い。

「砲塔が小さいよ、これじゃ三式中戦車だ。三式砲戦車はもっと砲塔部がでかい。」

「なるほどなるほど。」

「後間違えてはいけないが、三式は固定砲塔だ。」

俺は水戸を相手に囲碁を始めながら宇都宮に説明する。

「なるほどにゃ~~しかしよく知ってんな。三式は全部破棄されたんじゃなかったっけ?」

まさか持ってるなんて言えないな。走行・戦闘全部可能な完全稼働状態で。

「世界中の博物館回ってみろ、バカかヤンキーが持ち出したのが残ってるぜ。―――っとここだ。」

実際ソ連、おっと今はロシアか。そこの博物館にあるらしいからな。
実地試験のために送られたのか、満鉄の倉庫に野ざらしだったらしい。本当に何でもあるな満鉄よ。

「んなろ!?ここだ。」

「水戸、俺の分も戦え!」

栗林の声援にこたえるかのように水戸の石が置かれる。ほほぅ、腕を上げたな。

「やらせないよ、ここ。」

「むぅ、防がれたか。」

水戸が黒石を置くのに続いて俺は水戸の石からやや離れた位置に白石を置く。

「ならここだ。」

「ん~~?でもそんな簡単に行くもんかにゃ~~?」

「大方運用試験用に戦地に送られたのを接収したんじゃないの?案外そう言うので帳簿外の車両はあるし。
だいたい四式自動小銃とかしっかり鹵獲されてるじゃないか。
実地試験とかで送られて、そのまま向こうに置いてけぼりになってそのまま忘れられたのさ。」

「そんなもんか?」

「そんなもんだよ。――――ここだ。」

というか沖縄で元気にM4をぶっ壊してたぞ、艦砲射撃の直撃もらって跡形もなく吹っ飛んだが。

「相変わらず痛い所を打ちやがる。しかしお前がまさか宇都宮に並ぶ兵器マニアだったとはな、意外だぜ。」

「ははは、うるせーぞ水戸。そういう君にはプレゼント。」

「ちょっ!?お前そこに打つか、油断大敵だぜ!!ここだ。」

「あ、バカそこは。」

栗林は気付いたか、だがもう遅い。

「はいここ。」

「ぬぁにぃぃぃ!!お、俺の石が・・・」

「やっちまった。」

「うほ、良いトラップ。」

陣地と黒石、ごっそりいただきました。本当にありがとうございます。あと罠なんて張って無い、陽動しただけだ。
これでも手加減してるんだがな、ガキ相手に本気になる気はしない。それでも負け無し状態だが。

「ここ。」

パチンっとな。

「・・・ここだ。」

はいここ。

「・・・・・・こいつでどうだ。」

「さて俺の番っと?」

むむ、なるほど。

「早いな、良いやり方だ。」

「ふっふっふ・・・・」

「だが甘いな。」

「なっ・・・・・」

水戸の持っていた石が滑って下に落ちた、カツンと音を立てて地面に転がる。
勝負ありだ。整理しなくても解る、俺の石の方が断然多い。

「またかよ~~・・・」

「ひやりと来たのは多いが、まだまだ詰めが甘い甘い。」

おじさんは何でもお見通しだよ、驚いた?
がっくりと肩を落とす水戸の代わりに俺が拾おうとすると、その前に誰かの手が石を拾い上げた。

「あんたらま~たそんな爺臭い事やってんの?良く飽きないわね。」

バニングスだ、どうやら彼女たちも公園に来ていたらしい。ふむ、なかなか可愛い服を着ているじゃないか。

「いいじゃねぇかよ、俺たちの趣味だぜ。」

「そんなんだから爺臭三人組って呼ばれんのよ。あ、今は四人組ね。」

「・・・近頃はパワフルな爺さんも多いけどな。」

恨み事のように愚痴る水戸。すまん、それは俺のせいなんだ。健康について話してたらこんなことになったんだ。
所で囲碁と将棋と絵のどこが爺臭いんだかさっぱり分からないんだが・・・・まぁ今の若いもんはで済むんだろうな。

「んでなんの用?一回やるか?」

俺はサイダーを飲みつつバニングスに言う。バニングスは興味なさげに言った。

「別に用なんて無いわ。ただ公園に来てまで爺臭いことやってる連中を見に来ただけよ。あとやんない。」

「ああそうかい、なら静かにしててくれ。こっちは結構ピンチなんだぜ。」

水戸が碁盤を見ながらうんうん唸りながら言う。もう勝負ありなんだが諦めきれないようだ。
それを聞くとバニングスは少し呆れたように息をついた。

「なにがピンチよ。本当にもう、公園にまで来て囲碁やってるってどこの爺だあんたらは。」

君の後ろで隣の坂下さん{89歳}が孫{4歳}を腹に乗せてブリッジして歩いてるなんて俺は言わんぞ。

「こういうのは気分なんだぜ。ここだ!」

「そうはイカのキンタマ。」

「ぐがぁ!?」

「・・・・・その感性は解らないわ。」

のけ反る水戸にアリサは奇異の目を向ける。
確かにのけ反るのは少しやり過ぎだと思うが、こういうのは体に出やすいんだよな。

「うぐぐぐぐぐ!ここならどうだぁ!!」

「ここ、詰みだな。」

「ダディィィィィィィィ!!」

「叫ぶがよいよ、水戸義一。」

「何故に父親?」

バニングスが倒れる水戸に首をかしげる。知らん、俺は首を横に振る。

「おのれ、こうなれば火炎瓶をお前の家に・・・・」

「はいはい、その洒落解んないから。」

「原材料が酒だけに。」

「寒い、10点。」

どこから取り出したのか栗林は水戸の頭をハリセンでぽんぽん叩く。

「畜生・・・・」

「もう何度目だろうな~~こんな風に負けてんの。んでさ、なんでバニングスはここに居るんだニャ?」

宇都宮が問うとバニングスはこともなげに言う。

「だから遊びに来ただけよ。あんたたちと違ってアウトドアの遊びをしに来たの。」

バニングスが指さす方を見ると、そこには例のブリッジお馬さんごっこに唖然としている高町と月村の姿がある。
なるほど、三人で遊びに来たってことか。

「あんたたちも爺臭い事じゃなくてもっと別なことしなさいよ。」

「公園で囲碁をして何が悪い!!」「公園で将棋をして何が悪い!!」

「インドアは室内でやるべきでしょうが!!」

「「なにおう!?差別すんじゃねぇ!!」」

「・・・・ハモってるにゃ~~斎賀。」

「・・・・そうだな。」

二人とも声が同時だ。どんだけ息があってればこうなるんだか・・・・

「あ、そうだ。ねぇあんたたち、そんなことやってるんだから暇なんでしょ?良かったら一緒に来ない?」

「どこにだにゃ?」

「この先に廃工場よ。」

廃工場?と俺は首をかしげる。栗林と宇都宮も同じように解らないらしい。
俺も何の事だから知らないので黙っていると、水戸が何かを思い出したように言った。

「あの人面犬が出るって言うあそこか?お前ら、肝試しにしちゃ早すぎねぇ?」

「人面犬?」

「そうそう。」

俺が胡散臭そうな声を上げると、バニングスがやけに詳しい説明を始めた。
要約すれば、この先に有る噂の廃工場のちょっとした噂を調べに行くらしい。
まったくこいつらときたら、やってる事が女の子のやる事じゃない気がする。

「・・・にゃ~~栗ちゃん、それってなんか別の意味で危なくにゃい?」

「確かそこって、昔機械工場だったんだろ?あの手の会社だから、たぶん色々置きっぱなしだと思うんだけど。」

「なら猶の事面白そうじゃない、宝探しみたいでさ。」

行く気だな、どうあっても行く気だ。まぁ子供のころはこれ位やるものだが、君は女の子だぞ。

「どうするよ?」

囲碁盤をしまっていた水戸が、何かありげに俺に問いかけてきた。

「どうするよってお前。」

俺は残りのサイダーを一気に飲んで、空き缶をゴミ箱に投げる。よし、入った。

「行くに決まってるだろ?」

本当なら止める所なんだろうが・・・・うわべだけで絶対にやめたりしないだろうしな。
いっそのこと付き添って、適度の制止してやる方が有効だろう。まったく・・・・・退屈しないな。





第3話『とある休日、廃工場探検隊。』





今日も今日とて廃工場は無人でとても気味の悪い雰囲気を漂わせていた。
別に薄気味悪いうわさが過去にあったという訳ではない、それが出来たのはほぼ最近の事だ。
ならなんで取り壊されてないのかと言われれば、それは単に運が良すぎたというよりほかないだろう。
この廃工場はアリサ達が生まれる前に閉鎖になったらしい、もちろん最初は取り壊しの計画があったようだ。
だがその計画が中止になり、それ以降区画整理にも引っかからず住民からも苦情がなかったことからほとんど無視状態。
そんな状態が今なお続いていて、その工場は閉鎖されたままの姿をとどめているのだそうだ。

「―――って言う訳よ。」

「その話どこから持ってきたんだ?」

洞爺のややため息交じりの言葉にアリサは意地悪そうににんまりと笑った。

「企業秘密。」

「そうかい。」

やれやれ、とありありと表情に浮かべながら彼は金網越しに廃工場を覗き見る。
その仕草はまるでどこぞの軍人のようだ。あの鋭い視線に見られたら逃れられる物はいないに違いない。

「敵影なし、俺が先行するから合図したら君たちは後ろについて来い。」

「なんでよ?一緒に行けばいいじゃない。」

「誰かいるかもしれないだろ?こういうのは先に斥候を出すべきなのさ。そう言うのは俺たちの役目。水戸、一緒に来い。」

「へぇへぇ。」

「栗林と宇都宮は周りの警戒、誰かに見られたらそれでも終わりだからな。
怪しまれたらすぐ立ち去る事、その時の合流場所はさっきの駄菓子屋。」

「合点だニャ~」

「よし、行くぞ。」

洞爺は慣れた調子の匍匐前進で穴をくぐると、水戸を連れて工場の方に消えた。
いつもながら足運びが尋常じゃない。音も無く走って、まるで忍者のようだ。
海外でいったい何をしてきたのかかなり気になる。数分後、水戸が金網まで戻ってきた。

「誰もいないみたいだぜ。」

「よし、じゃぁ行くわよ。」

「さっさと来い、洞爺が待ってる。」

水戸は再び工場の方に消えた。宇都宮と栗林が先に金網を潜り抜ける。
アリサも廃工場の周りを囲っている錆びた鉄格子に空いた穴を潜った。
下手すると服が汚れてしまうのが難点だがしょうがない。
この先にはそれ以上のモノが眠っているかもしれないのだから釣り合いはとれる。
潜り抜けた先には、既に先に通っていた爺臭4人組が廃工場の入り口を前に立ち往生していた。

「ねぇ、本当に大丈夫なの?」

「大丈夫よ、早くこっち来なさいって。」

しぶしぶ、という表情で潜り抜けてきた高町なのはと月村すずかは目の前の廃工場を見てやや驚いた。

「結構大きいんだね、近くで見ると。」

「昔は機械工場だったって話だしね。」

アリサはうろ覚えの知識を披露しつつ、自身でも予想外の大きさに驚いていた。
それに不気味だ、昼間なのに背筋が寒くなるような感じがする。
男どもが立ち往生している扉は、錆ついた看板によればこの扉は事務室に繋がっているらしい。
アリサを先頭に、3人は扉と格闘する4人組の方に駆け寄った。
栗林によれば、どうやら南京錠がかかってる所為で中に入れないらしい。

「どっかに鍵隠してたり・・・は無いわよね。」

「映画じゃねぇんだから。」

「ん~~やっぱり無理なのかな?」

どうしよう、割れた窓からでも入ろうか。アリサは洞爺達を見つつふと思いつく。
最近まで海外に居て筋肉ムキムキな洞爺を始め、趣味が異様に爺臭いインドア野郎3人組は筋肉質でかなり体格がいい。
こいつらに頼めば大抵のことは出来るんじゃないだろうか。っていうか、そのために連れて来たようなものである。

{やっぱりどっかの窓から入るしかないわね。割れてる窓ならいくらでもあるから、こいつらに足場を頼めば・・・}

そう考えていると鍵を注意深く観察していた洞爺が気付いたのか苦笑いした。

「そんなこと言っても、君は行くんでしょうに。」

「ありゃ、ばれてた。」

相変わらず少々おかしな言葉遣いの洞爺は肩をすくめながら言う。

「顔出てたよ、解らないでどうするのさ。ったく、ちょっと離れてな。」

「どうするんだ?もしかしてピッキングでもやんのか?」

「あほ、できるわけねーだろ。」

「じゃどうすんのよ?」

洞爺の言う通りに少し離れた水戸が興味ありげに問う。すると洞爺は鍵をつつきながらにやりと笑った。
我に策あり、と言いたげな笑みだ。

「見た限り、これは相当前にかけられて以来誰も触って無いんだ。
南京錠っていっても元は鉄だぜ、雨風にさらされて長い間ほったらかしにされりゃ―――」

洞爺は肩にかけていた少し大きいバックを下ろすと、おもむろに足をほぐし、突然右足で回し蹴りを放った。
まるで空手家のような鋭い蹴りは正確に南京錠を捉える、すると錆びだらけの南京錠はあっけなく壊れて吹っ飛んだ。
策でも何でもないただの蹴りであった。

「経年劣化と錆で脆くなってんだろ。しかもこれは安物だ、中の細かい留め金まで錆び錆びだ。」

「すげぇ、なんつー観察眼。そして蹴り。」

バラバラに砕けた南京錠の残骸を覗き込みつつ水戸は感心したように言った。
確かに中の部品も完全に錆びてしまっている。
驚いた、まさか彼がこんな特技までを持っているとは知らなかった。
中に入ると、そこはドアの横に掛けられた錆ついた看板の通り事務室らしい。
埃を被ったデスクや、時代を感じる黒電話などが色々放置されていた。

「昭和50年度、材料搬入・・・かすれて読めね。」

「それ書類だね。なんで放置して言っちゃったんだろう?」

宇都宮がデスクから取り上げた書類を見てすずかが呟く。

「お仕事の都合だろうにゃ~、それにほっとくんだからそんなに重要な書類ってわけでもねぇんだろ?」

書類を捨てると、宇都宮はいろいろと物色し始める。

「何やってんの?あんたも手伝いなさいよ。」

「はいはい。」

アリサのせかす声に、入口に背を持たれてこちらを見ていた洞爺はやれやれと言った調子で従う。
しかしこいつら、一部を除けば本当にノリノリである。
そのすぐ後ろで、宇都宮はデスクの上にある黒電話の埃を払って受話器を取った。

「にゃ~、この黒電話通じるぜぃ。電話線と電気はまだ生きてるみたいだにゃ~~」

「それって意味あるの?」

棚から去る洞爺と入れ替わりに宇都宮の後ろに来たなのはが問う。
どうやらあまり見たことのない黒電話に興味があるらしい。

「意味ありあり。電気が付く部屋もあるだろうし、あと危険度も大幅アップだぜ。」

「・・・・なんか嫌な感じしかしないの。」

返答を聞いたなのはは表情を曇らせる。
それを見て栗林は励ますように言った。

「まぁまぁ、もう悩んでもしょうがないよ。当たって砕けろだ。」

「いや砕けちゃ駄目だと思うけど。ねぇ、すずかちゃん何か見つけた?・・・って斎賀君何やってるの?」

振り向くとそこには台座にされた洞爺の背の上に乗って棚の上を探っているすずかの姿があった。
立ったまま腰から90度くの字に折ってお辞儀状態の背にすずかが平然と乗っている。
いくら彼が慣れると異様に絡みやすいと言ってもこんな合体技は予想外である。ついでに当人も予想外であったようだ。

「なんか気が付いたらやらされてた。」

「あ、なにこれ?奥に何か・・・・」

「痛い痛い痛い!ほこっ、埃の塊が目にっ!!落ちてきてる落ちてきてる!!」

「さ、斎賀君大丈夫?あ、とれた。」

悲惨な悲鳴を上げても揺れない洞爺の上で、すずかが棚の上にあった引き出しの中から鍵束を一つ引っ張り出した。
埃を被っていたが、劣化はそれほどでもなく錆もほとんど浮いていない鍵だった。
全員の視線が洞爺から降りたすずかの手に集中する。その後ろで壁に手を当てて荒い息を吐く洞爺などガン無視である。

「でかしたわすずか!」

「あれ?俺は?」

「これで奥に進めるわよ!!」

「・・・・・・なけるぜ。」

鍵束についていた名札みたいなものを見て、アリサは目を輝かせてすずかを褒めちぎる。当然洞爺は無視である。
どうやらこの工場の鍵らしい。つまり、この鍵が合う部屋であれば入れるようになった訳だ。
正直あんまり乗り気じゃなかった部類のなのはは、それを聞いて思わず嫌な顔をした。

「うぇぇぇ、まだ行くの~~?」

「大丈夫よ、幽霊とか絶対いないから。」

「え~~でも~~」

なのはの歯切れの悪い声に耳を貸さず、アリサは早速事務所の奥に通じる扉の鍵を使って扉を開けた。
扉の向こうは作業場だった。操業を止めてから長い間放置されていた機材が屍をさらし、
整備用オイルを入れたままのガラス瓶が数本無造作に転がっている。
天井には穴があいているらしく、明かりが木漏れ日のように差していた。
これじゃホームレスの家にもなりそうにないわね、そう思いながら錆ついた機械の方に歩み寄った。

「機材を撤去するお金がなかったのかしら、置き去りじゃない。」

「そんなもんさ、廃工場なんてな。」

機械の質こそ違うが廃工場は廃工場だ、この独特な雰囲気は変わらない。
洞爺はやや寂しそうな表情をしながら言った。
たぶん海外の廃工場にも入った事があるのだろう、死んだ友達と一緒に。
放置されている機械に興味を引かれてアリサは手を触れようと手を伸ばした。
すると、横合いから洞爺の手が伸びてその腕を掴んだ。

「無暗に触んない方がいい、危ないよ。」

「大丈夫よ、これ壊れてるわ。」

アリサは大して気も止めず洞爺の手を振り払う。だが、洞爺はさっきよりも強く彼女の腕を掴んだ。
振り払おうとしてもがっちりと掴んでいて払えない。

「止めとけ。」

「大丈夫だって、壊れてるんだから。」

「だからだよ、壊れてるから危ないんだ。今でも電気通ってるんだし、変に動いて爆発でもされたら最悪だ。
昔それで友人が一人死んだ、止めておけ。」

至極真面目な瞳の洞爺の言葉にアリサは表情を引きつらせた。こういう話になると、洞爺の言葉は現実味がやたらと帯びる。
そうなると目の前の錆ついた機械がとても危険に思えてきた。
確かに、大きな機械なのだからきっと大きな部品か何かを作っていたに違いない。そんな機械が爆発したら確かに危険だ。

「解ったわよ。次行きましょ次。」

「それで良い。出来ればもう帰った方がいい。」

「それは却下。」

機械に触るのを諦め、アリサはそここにある扉の一つを指さして言った。

「よし、なら次はこっちよ。すずか、このドア開けて。」

「へ!?え、なになに?」

アリサは奥に続く鉄製の扉を指さして言うと、すずかがやや素っ頓狂な反応をした。
どうやら別のモノに気を取られて話を聞いていなかったらしい。

「ドアよドア、ドア開けて。」

「あ、ああうん。解った。」

すずかはポケットから鍵束を取り出して、鍵束から今度に合う鍵を選び始める。
少しして、すずかは鍵を開けて扉を内開きに開けた。
やや重苦しい音を立てて開いた扉の中からは、やや鼻にくる匂いが漂ってきた。

「こいつは、機械油の匂いだな。ここは倉庫だぞ。」

「でも向こうにドアがあるわ。たぶん、荷物起きっぱだからそう見えるだけじゃない?」

なるほどね、と洞爺が納得する声を聞きながらアリサはもう一つの扉に手を掛ける。
扉を開くと、そこはほとんど真っ暗闇だった。どうやら窓が無いらしい。
アリサは手探りで壁を探り、扉の脇にあったスイッチを探しだしたが無情にも壊れていた。

「あちゃ~、ここ電気がダメだわ。」

「しょうがないな、そらよ。」

「懐中電灯!あんたどこにそんなの持ってたのよ。」

「ちょっと道具屋で買ったんだよ。」

洞爺はバックから取り出した真新しいLライトを掲げて言う。
懐中電灯が照らす室内は、さまざまな箱が置かれた倉庫だった。
箱を開けてみると、そこには腐食して穴の開きかけた一斗缶が入っていた。
室内に充満している匂いからして、おそらく何かの燃料だろう。

「あんまさわんなよ、たぶんそれ灯油か何かだぜ。」

「解ってるわよ、水戸そっちは何があったの?」

「ろくなもんはねぇよ。一斗缶に穴があいて灯油が漏れてるだけだ。辺りに染み込みまくってるぜ。」

「・・・・みんな、ここ火気厳禁よ。」

アリサの言葉に全員の意思が一致する。誰だって火ダルマにはなりたくない。

「それにしても、不気味だな、ここは。」

「そうね、こんな昼間なのにね。」

「壁の染みがまるで人の顔だ。」

「怖いこと言わないでよ・・・解るけどさ。」

洞爺の言葉に同意しつつアリサは奥に続くらしい扉に手を掛ける。
案の定鍵がかかっていたが、どうやら劣化が進んでいるようだ。ドアの鍵穴が錆びて埋まってしまっている。

「斎賀、任せたわよ。」

「早速こいつをマスターキー扱いかよ。」

「というか、さすがに無理があるぞ。」

扉をコンコン叩いて音を聞いていた洞爺は首を横に振る、さすがに無理らしい。
しかしここで諦めるような彼女ではない。踵を返して戻ると、今度はほかの道を提案した。

「うわっ!?なんだこれ・・・・?」

「くせぇ、ひでぇ匂いがプンプンするぜ。こいつはなんだ?」

「酷い臭いだぁ、吐きそうだんね。」

「タオルだな、マジで臭ぇぞ!なんで洗わないで放置したんだよ。」

途中とんでもない匂いを放つ古いタオルの山が放置された部屋を抜けながら、アリサを先頭に工場の2階に全員は足を運ぶ。
そこも一階に劣らず酷い有様だった。渡り廊下は錆つき、各部屋もゴミだらけ残骸だらけ。
どうやらこっちは小型機械を主に作る部屋らしい、この工場は複数の機械を生産していたようだ。

「ん?」

その時、アリサは隣の部屋に人影を見た気がした。
だが隣の部屋に人影はない、気のせいだろうか?

{ま、いっか。}

軽く考えるとアリサは全員に呼び掛けて再び奥に足を進め始めた。
そんなこんなアリサを先頭に御一行は中に進んで行くが、人面犬なんて言う妖怪?は一向に出てこない。
そうこうしているうちにどんどん時間が過ぎ、やがて皆の興味も別な方向に移っていく。
別方向に話題が向き始めた連中に、アリサはふと眼を向けた。

「初めは、まぁ正直言って甘く見てたぜ。本の影響で始めたって言ってたからな。だけどそれがまたとんでもなく強いんだ。」

「ふ~ん、お前にそこまで言わせるのか。そりゃますますそのベンって奴と一度やってみたくなるな。」

「なら来週の土曜に家に来いよ、紹介してやる。」

「そりゃ楽しみだな。」

「お前となら気も合うだろうぜ・・・・でもあの趣味だけはいただけんがね~~」

へんてこ白髪と囲碁魔人は探索そっちのけで雑談に夢中、何でも今度は洞爺の友人も招くらしい。
こいつらはどこまで爺臭いのだろうか、実は中身は爺なのでは?と疑ってしまう。こいつらなら胸張ってゲートボールをやりそうだ。
今度家に行ってやろう。彼の家はすでにリサーチ済みだ、乗り込んでやればさぞ驚いてくれるだろう。

「んにゃ~~~にゃ~にゃ~~」

面白口調の東北人は携帯電話を取り出してメール中、歩きながらだとこけそうだ。

「・・・・」

親友であるなのははさっきから無言、なにやら考え込んでいる。この頃こんな風に悩むことが多い気がする。
そんな表情をされると、アリサは親友としてどうしてもイライラした。だが決して表に出さない。
彼女は親友なのだ、きっと相談しに来てくれる。その時に気づいてたわよ?と得意げに笑って相談に乗ってあげよう。

「出てこないわねぇ、人面犬。」

「ね~、もう帰ろうよ~~」

「あは~ん摩訶大大将棋~~♪」

「何でもって来てんだこいつ?」

「・・・・・・知らん。」

「ノーコメントだニャ~~~」

先ほど娯楽室跡で拾った摩訶大大将棋フルセットを抱いて、至福の笑みを漏らす栗林にすずかが若干引く。
外を見ると、確かに日が傾いてきたようだ。時計を見ると、相当時間が立っている。
どうりで余計に不気味な工場に見えてくる訳だ、これで夜になったらお漏らしモノになりそうだ。
なんの収穫もなく帰るというのも若干悔しい気がするが、あんまり遅くなると後でいろいろ大変なことになるのも事実だ。
もう少しで夕暮れである、まだ明るいがここで撤収するのが定石だ。

「ま、しょうがないか。暗くならないうちに帰りましょ。総員駆け足!!」

「ちょっとまて。」

「うぐぇ!?」

早速走ろうとしたアリサの襟を容赦なく洞爺の手が掴む。
軽くむせるアリサに、洞爺は自身の後ろを親指で軽く指した。

「非常階段だ、こっちの方が楽だぜ。」





◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆





廃工場から出た後、全員は現地解散という事になった。
まぁ帰る方向もバラバラであることだし、それは致し方の無いことだろう。
日が傾き辺りが夕焼けから夜闇に染まり始めるを見ながら洞爺は未だに廃工場の前に立っていた。
ここは夜になると人気が少なくなるが、洞爺はまだここから去る気は無かったのだ。

{あのおてんば娘たちの事だ、こっそり戻ってくると思ってたんだが。}

最後の一本となったサイダーを飲みつつ、洞爺は辺りの人気を探る。
なにやら慌てて駆けて行った高町はともかく、やや不満足気味のバニングス辺りは戻ってきそうだと思っていた。
だが、辺りに人気は全くなかった。もう少し粘ってみよう、洞爺はそう思いつつ空を見上げる。
夕闇が空を彩るが、辺りの街灯が明かりをともし始めていて見え辛い。

{平和だな。}

既にぬるくなったサイダーを飲みながら洞爺は思った。
夜の廃工場に一人で入るのは昼間に大勢で入るよりも危険である。
だから、戻ってくる奴がいないか少し見張っていたのだ。戻ってきたら止めて家に帰らせるためだ。
近頃奇妙な事件が起きていると連日ニュースでやっている、それを考えれば危険だ。
だがどうやら考え過ぎだったらしい、さすがの彼女たちももう帰ったのだ。戻ってくる事は無いだろう。
そろそろ帰らないと久遠が寂しがりそうだ、洞爺はそう思いつつ家の方に足を向けた。
街灯が照らす寂れた住宅街を出て、明るい表通りに出る。
昔から表通りは夜でも明るかったが、今となってはまるで真昼のように思えた。
人通りの多い街並み、活気あふれる商店街、往来する人々の明るい声。
こうやって夜になるというのに、まったく危険を感じる事が出来ない。
変な事件があるというのに、その危機感でさえ虚ろになってしまう。

{本当に、平和過ぎるな。}

冷たいサイダーがぬるくなる位、サイダーの甘味と炭酸を心行くまで味わえる位、
いつ敵が来るか解らない中で飯を食わなくて良い位、どこから狙われているのか気にしないで良い位、
平和過ぎておかしくなりそうなくらいに、ここは平和だ。

{まったく、おかしなものだ。}

心の中で感じる矛盾に、洞爺は小さく嗤いを漏らした。解ってしまうこの矛盾が、自分はとても可笑しかった。
それに気づけないほど未熟じゃない自分が恨めしいとさえ感じる。

{みんなが居れば、この平和ももっと違うように感じられたのだろうか?}

だが、その声をもう一度聞く事も見る事も今はまだ叶うまい。
何度願っても、何を代償にしても、その願いはまだ叶う事は無いのだ。
夕闇が迫る、また夜がやってくる、もう時間はなさそうだ。

{夜か・・・・}

夜は好きだ。敵を見つけにくくて、敵に見つかりにくくて、敵に殺されやすくて、敵を殺しやすい。
夜は嫌いだ。一人ぼっちの時を思い出すし、みんなの事を思い出す。

「あ、そういや買い物してない。」

しばらく歩いたころ、洞爺はふと思い出した。ケチャップを切らしていたのだ。
ここからならスーパーは近い、だが向きは反対方向だ。
正確に言えば、元来た道を戻って廃工場の前を通ることになる。
早く帰りたいという思いはあるが、買って帰らないと後々困ることになってしまうだろう。

{ま、もう一度確認ついでにもなるからいいか。}

洞爺は踵を返し、スーパーに向けて歩き出した。
廃工場の前を通りがかると、夜の廃工場は昼間以上に気味の悪い建物と化していた。
まったく不気味だ、昼間もそうだったが本当に気味が悪い。まるで邪気か何かが廃工場を取り巻いているかのようだ。
もしかしたら本当に妖怪が居るのかもしれない。
常々、本当にとんでもない世界を知ってしまったものだ。当時の若かった自分の行動力には感心する。
そう思いながら丁度廃工場には居る金網の裂け目に差しかかった時、廃工場の中に誰かが入っていくのが見えた。
これがもし赤の他人だったら無視して通り過ぎていただろう。
だが、廃工場に入っていく人間の後ろ姿は見覚えのある少女の物だった。

{・・・・魔術師って、本当に厄介事に巻き込まれやすい体質なのか。俺は魔術師じゃないんだがな。}

以前読んだ魔術師用の教本『魔術師入門・初級編』の一文を思い出す。
魔術師というのはほとんどの場合『厄介事に巻き込まれやすい体質』であるらしい。
彼女はどうやら好奇心に負けて戻ってきてしまった、どうやらその節は結構有力のようだ。
追いかけて連れ出さなければいけないな、洞爺はやれやれと思いながら彼女の後を追って夜の廃工場に入って行った。






あとがき
どうも、雷電です。第3話といろいろ書き直してみました。
アリサが扱いやすかった、こういうのって引っ張り役に良いですね。
それに比べこの主人公的な役割ときたら・・・・猫かぶりもあってやや動かしづらい。
元々キャラの設定が魔法少女の設定ではなく戦争物の設定だけにまた・・・
中身が中身だからしょうがないんですけどね、何しろあの中身はオヤジ。
しかもそっち系の人じゃないからなかなか・・・やっぱ小説って難しい。



今後とも、未熟な自分の作品をどうかよろしくお願いします。by作者




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