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No.15675の一覧
[0] 魔法少女リリカルなのはThe,JINS『旧題・魔法少女と過去の遺物』{魔法少女リリカルなのはとオリキャラ物}[雷電](2012/12/08 18:27)
[1] プロローグ・改訂版[雷電](2011/06/20 19:29)
[2] 無印 第1話・改訂版[雷電](2011/06/20 19:35)
[3] 無印 第2話・改訂版[雷電](2011/09/14 08:43)
[5] 無印 第3話 改訂版[雷電](2011/05/03 23:14)
[6] 無印 第4話[雷電](2011/05/03 23:17)
[7] 無印 第5話[雷電](2011/09/14 08:44)
[8] 無印 第6話[雷電](2011/06/20 19:53)
[9] 無印 第7話[雷電](2011/07/17 16:19)
[10] 無印 幕間1[雷電](2011/07/17 16:27)
[11] 無印 第8話[雷電](2012/03/10 00:36)
[12] 無印 第8話・2[雷電](2012/03/30 19:37)
[13] 無印 第9話[雷電](2012/03/30 19:39)
[14] 無印 第10話[雷電](2012/11/07 21:53)
[15] 無印 第11話[雷電](2012/11/07 21:55)
[16] 無印 第12話・前編[雷電](2012/12/08 18:49)
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[15675] 無印 第1話・改訂版
Name: 雷電◆5a73facb ID:5ff6a47a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/06/20 19:35




なんだ?・・・・真っ暗だ、何も見えない、なにも聞こえない。ここはどこだ?
あの爺さんに会った後から、変なことばかりだ。これが『死』というものか?それとも、これは夢なのか?
・・・・・・解らん、解らんことは解らん。俺は死んだのか、ただ夢を見ているだけなのか。
もしや米軍の新兵器か?いやいや、それなら目も耳もダメにするんじゃなくて殺した方がいいだろう。
じゃこれはなんだ?これが死?死後の世界?あの世か?それともただの夢か?それとも走馬灯?

―――気味の悪い走馬灯もあったもんじゃないか、俺の方はもっといいもんだったぜ。

・・・・なんだ?幻聴か?走馬灯を自慢するバカの声が聞こえるぞ。

―――なにおう!?てめぇ俺をバカだと!!

バカだろうがこのすっとこどっこい、走馬灯は自慢するもんじゃないだろうが。
もしかしてこの真っ暗闇はお前のせいじゃないか?
お前のせいでどれだけ酷い目にあったか・・・・走馬灯もそのせいで消えたんじゃないか?

―――そんなに怒らなくてもいいじゃねぇかよ。

お前のせいで散々だったんだ、勝手に変な事吹き込みやがって。

―――そして次の出撃では見事3機撃墜して帰ってきましたとさ。

うるさい。だいたい非常識なんだ、俺は陸戦隊なんだぞ、陸兵だ陸兵。
なんでよりにもよって腕の錆ついてた俺を引っ張り込むんだ?ぇえ?

―――いいじゃねぇか、垣根を越えた共闘だぜ。

越え過ぎだ馬鹿野郎。航空と陸戦のどこが垣根だ、垣根どころか文字通り天と地の差だぞ。

―――腕良かったのになぁんで兵科転換したのかねぇ?

・・・・・うるせー。

―――初心だね~~

貴様、後で覚えておけよ。

―――はははは、そんな口きけるんなら心配無用のようだな、いやーー心配してたんだぜーーー

・・・・・・

―――そんな怖い顔するなよ、無言で拳を握るなよ。心配してたのは本当だぜ。
べつにいいじゃねぇか、どうせお前の兵科なんてあってないようなもんなんだし。

そういう扱いにされるのが少し悲しい。俺はモノか何かか?

―――うんにゃ、人間型決戦兵器。お前に使えない兵器もうほとんどないじゃん。そのくせ戦闘能力半端じゃないし。

ぶち殺すぞ飛行隊長。誰のせいだ誰の。

―――DAMARE☆半分は自分のせいだろ、お前の兵器好きは筋金入りだし。
戦利品とか言って迫撃砲持って帰ろうとしたのどこのどいつだよ。
   兵器の取り扱い説明書をどこからか手に入れてきては読み漁ってたのはどこのどいつだよ?
   俺に九七艦攻の説明書ちょろまかして来いって言ったのどこのどいつだよ!!

もう半分はお前達がいろいろ変なこと頼んでくるからだけどな。十分な対価だろう。

―――ま~人手が足りなかったんじゃしょうがなくね?。

まったくどいつもこいつも・・・・おかげで後輩からまで色々言われたんだぞ?どうしてくれる。
しょうがないですまされる問題じゃないぞ。

―――いいじゃねぇか。お前にとっちゃ天国だったんじゃねぇか?

否定はしないがな。

―――おうおう顔がにやけてるぜ。やっぱ根っからの兵器好きの変わりもんだお前。

・・・・良いことばかりじゃないぞ、あんなのはもうごめんだ。

―――海兵隊2個小隊を一人で潰したヤツとは思えねぇセリフだな。

仕方ないだろう、あの時はおれしか戦えなかったんだから。お前も見たいか?あんな悪夢。

―――金輪際ごめんだな。F6Fの大編隊だけでお腹いっぱいだ。

だろうな。お前今どこに居るんだ?どうやら眼もやられたらしくてな、なにも見えない。

―――お前が来れない場所さ。

行けない場所?悪い冗談はやめてくれ、こちとら本当に全盲になったんだ。なにも見えないんだよ。
喋ってるんだから近くに居るだろ、手をかしてくれ。っていうか、死人も全盲になるんだな。はじめて知った。

―――なに寝ぼけてんですか隊長、こっちに来れないってことは死んでねぇってことですよ。

穴山、お前か?どこなんだ?まさかみんないるのか?

―――居ねぇな、俺とこいつだけだ。

―――そうですねー。あっ、山本長官なら居ますね。

―――あ、ホントだ。今まで静かだから気が付かなかったぜ。

―――また漫画読んでますよ。新しいの入荷したんですかね?

―――いや、ありゃJ○J○だ。第2部。

―――ってな感じですかね。

薄情者め。というか長官、あんたなに読んでんだ?○O○Oってなんだ?

―――ま、あんな戦いして生きてんのもお前らしい言っちゃお前らしいがよ。人間辞めかけてるお前らしい。

辞めてねぇよ。

―――うんにゃもう辞めてるね。

―――『弾幕が必要だ。』とか真面目な顔で言ってカービン二刀流とかやりますしね、この人。

辞めてない!ったく、目が見えないんじゃ殴れもしない。
それにあの時は軽機も重機も短機関銃もなかったんだからしょうがないだろ!

―――落ち着け落ち着け、ほら息吸って~~~吐いて~~~もう一度吸って~~

落ち着いてる!!

―――相変わらずいじりやすいね~~~

―――落ち着いて深呼吸してください、ヒッヒッフー。

穴山、それなんちゃら呼吸法じゃないか?いいから説明を頼む。

―――あいよ、ってまぁ簡単に言っちまえばお前は死んでねぇってことだ。
俺はそっち系にはさっぱりなんだがよ。どうやらそういう意味らしいぜ。

・・・・・・すまん、もう一度頼む。変な雑音が入って聞こえなかった。

―――だから、お前は生きてるんだっての。

御冗談を、自分で言うのもなんだがありゃ致命傷だぞ、肺に大穴開いたぞ。

―――所がどっこいそうはいかなかった、あの爺さんはほんまもんの魔術師なんだとよ。ついでにお前もお前だし。

・・・・・おちょくるのもいい加減にしろ、そろそろぶん殴るぞ。それを言っていいのは爺さんだけだ。

―――言いながら拳を振り回すのもどうかと思うぞ。お前の拳痛いから、人殺せるんじゃないか?

―――殺せますよ、みた限り海兵隊6人殴り殺してます。

―――・・・・そんなもんなおさら受けたくない。進化してるじゃねぇか。

ちっ、眼さえ見えていれば・・・・

―――お前はまだ死んでないんだよ、今のこれは・・・まぁちょっとした特典ってやつらしい。
   俺だって魔術やらなんやらには詳しくないんだ。起きたらそっちの専門家にでも聞いてみろっての。

魔術ねぇ、そんな非科学的なモノがこの世にある訳が無いだろう。シェイクスピアの世界じゃないんだぞ。

―――信じるも信じないもお前の自由さね。そろそろお目覚めの時間みたいだぞ?復活に偉く時間が掛ったな、お前らしくない。

酷い言い草だな。まるですぐに生き返るような言い方だ。

―――だってお前、どんな傷でも大抵すぐ復活するじゃねぇか。

運がいいのか悪いのか・・・・・ってうぉぉぉぉ!!?

―――どした?

なんか、襟を引っ張られてる・・・・目が見えないと結構怖いな。いやはや、驚いた。

―――おおぅ、お迎えってこいつかよ。人手不足ったってこれはねぇぞ。

―――相変わらずサボってたんじゃないですか?

なんか物凄い力に襟引っ張られてる。なんかどんどんお前が遠くなってる気がするぞ。

―――現在進行形で遠くなっとるがな。

・・・・ちなみに俺を引っ張ってるの何?

―――頑張ってこいよ~~~あと教えん、知りたければ全力で生きてから来るがよい。いっひっひっ。

殺してやる、絶対に殺してやるぞ!




第1話『未知との遭遇、子狐と遭遇、そして兵器だらけのトンデモ空間。』




「くそ茅野め。いつもいつもあいつってやつは!」

斎賀洞爺は固い洞窟の地面に大の字で寝転がりながら毒ついた。
まったく、えらい夢を見た。気分はまずまず、最悪である。

「良いだろう、あの世にいったらまず最初にあいつの顔面が見るも無残になるまで殴り続けてやる。」

こうなったもう長官だろうと止められないぞ、今宵の拳は血に飢えておるわ。
洞爺は笑いながら拳を握ったり開いたりする。茅野とは旧知の仲であり一番の親友だ、遠慮はいらないのだ。
二人そろって気のすむまで殴り合いになるだろう。やや子供っぽく笑った洞爺は、意識を切り替えて辺りを見回す。

{洞窟か・・・お?}

上半身を起こして見まわして解ったのは、さっきと変わらずここは洞窟であるという事、脇に子狐がいることだ。

「引っ張ってたのはお前か。」

「く~~?」

やや痩せた子狐は小さくない鳴いて首をかしげると、かわいらしい声とともにこちらによって来た。
洞爺は顔をほころばせて何気なく顔を近づけた。

「くーー!」

「こら、そんなに舐めないでくれ。くすぐったい。」

嬉しそうにじゃれついてくる子狐を静止し、洞爺は辺りを見回した。
自分のいたのは洞穴の入り口付近のはずだが、今居るのは洞窟の奥らしい
どうりで、先ほどまで蒸し暑かったのに今はとても涼しいわけだ。どうやら爺さんがここまで運んでくれたらしい。
という事はこの子狐は爺さんの飼い子狐だろうか。

{可愛いの飼っているじゃないか。}

頭を撫でてあげようと洞爺は小さな手を伸ばし、子狐の小さな頭を優しくなでる。
子狐は少しくすぐったそうにしながら両目を細め、自ら擦り寄ってきた。和む、非常に和む。

{・・・・だめだ。}

「はい?」

自分が伸ばしている手は子供の手だった。
まさかこの手が自分の手か?まさかそんなはずは無い、自分で言うのもなんだが自分の手は大きい。
なにしろ小銃だのなんだの使いまわしてきた手だ、傷だらけでゴツゴツしてて大きいのだ。
しかし、動かしてみると自分の意志の通りに指が曲がる。

「やぁ!僕くろちゃんだよ!!一緒に遊ぼうよ!!」

「くぅ~~!!」

「いや飛びかかるな、これ影絵だから。」

「くぅ?」

「影絵、ほらくろちゃん。」

「く~~~♪」

犬の影絵を作って言ってみた、影絵は自分の思った通りにできた。
さらに直立してみればかなり背が低い、いや子供の視線になっている。
自分の服装を見れば、ハイカラで高級そうな子供服であった。もちろん、海兵隊にやられた銃創や裂傷なども見当たらない。
服をめくりあげるとそこにあるのは昔受けた銃創やら切り傷やらの傷跡だけだった。

「ど、どうなってんだ?」

すぐに銃剣のある腰に手をやるが何もなく、少し探して落ちていた銃剣を鞘から引き抜く。
きらりと光る磨かれた白刃の銃剣に自身の顔が映し出された。

「うそだろ・・・・」

そこに映し出されたのは昔の自分・・・・だと思う。なにしろ昔のことでほとんど覚えてない。
程よく日焼けした健康的な肌と白髪が増えた髪の毛は変わらないが、顔全体は子供そのものだ。

「あは・・・ははははは・・・」

がっくりとうなだれ、もう空笑いするしかなかった。



数十分後・・・・・・・



なってしまったものは仕方がない。洞爺はとりあえず気持ちを落ち着かせて、今の状況を確かめて所持品を見ることにした。
自分は軍人である、この程度では慌てない。慌てない慌てない慌てない、自分に言い聞かせながらバックを開く。
服は子ども服と替えが2着、下着も同様。今まで愛用していた陸戦隊の服もリュックサックにあった、なぜか新品同様で。
ボストンバックはまだ開けていないが、重さからしてかなりの量が入っているだろう。
さらにポケットに入っていた、封筒に入った手紙が数通。何枚かは一通以外は白紙だった。

『斎賀中尉、これを読んでいるならうまくいった証拠じゃろう。
いいか?今あんたがいるのは何年後かはわからんが未来の日本じゃ、昔の常識が通用せんかもしれんから心してかかるのじゃぞ。
体のことじゃが、本来ならばそのまま送ってやりたい所じゃがあんたの体の傷が深くて無理じゃった、
だから代わり体に魂を移させてもらった。その身体は人体研究が本業の魔術師に頼んで一緒に作った代物でな。
性能は折り紙つきじゃよ。だが、魂をよりうまく定着させるためには幼年期の姿が一番なのでな、
いたしかたなくこういう形になってもうた。本当に済まぬ、借りを返すと言っておきながら苦労かけるかもしれん。
だが―――――――{中略}あと、その物入れには他にもいろいろなものを入れておいた。
これで借りは返したぞ斎賀中尉、これからの無事を祈っておるよ。Vom magischen Lehrer des nahen Freunds.』

「爺さん・・・・本物だったのか、驚いたな。いったいどんな手品だ?いや、それともこれも夢、いや幻覚か。
はっ!まさか新手の科学兵器か!?・・・いやいやいや、ないないない。」

軍服から取り出した『朝日』を口に咥えながら呟き、紫煙を燻らせて手紙に目を落とす。

『追伸、煙草と酒は平気じゃが控えめにな。絶対に無理はするなよ。』

「こうまでされると、嫌でも生きなけらばならないじゃないか。」

本当におかしい、おかしくて笑いが止まらない。涙が出る。
くくく、と微笑みながら手紙を見返す。いわく、この体は自分の細胞を使ってあの爺さんと知り合いが作った人造の体らしい。
つまり魂の無いもう一つの自分の体、無傷の死体のようなものだ。
生まれ方が違うだけで人間と全く変わらず、普通に生活できるし成長もするし子を成すこともできる。
それと同時にこの体には『りんかーこあ』なるものがあるらしく、自分自身も鍛錬すれば魔術も使えるようになるそうだ。
もっとも、その道には全く関心が無いが。

「ちょっと試してみるか。」

だが、ちょっと好奇心で試してみたくなるのも性というものだ。
手紙をポケットにしまい、脇のボストンバックから魔術書を一冊引き抜く。

「武器もそうだが、ずいぶん気前がいい・・・・うむ、これは、なかなか面白そうだ。」

中身は案外普通に読める独逸語の本だった。だがみた限り普通の法則は通じなさそうにも見える。
魔術書の解説通りに手のひらを広げて上に向けた。その時、洞爺はある事に気が付いた。

「・・・・魔力って、どう扱うんだ?」

生まれてこのかた魔力なんていう不可思議な力なんか使った事がない。
銃なら狙って引き金を引けばいい、刀なら振るえばいい、だが魔力はそんな簡単なものではないだろう。
どうやるんだ?と首をかしげて魔術書に視線を落とす。しかしいくら読んでも理解できない。

「・・・・・だめだ、要領を得んな。精神統一のようにか?それにしてはえらく抽象的な表し方だな。」

魔術書を閉じると、もう一度掌を開いて上に向け、そのまま精神を集中させる。
すると体の中に熱い何かが通る感覚が起きた。同時に沸き上がる不快感、どうやら魔力のせいらしい。
魔力は自分の意志で制御できるらしく、何とか制御して熱いモノを手のひらに集めて行く。
この作業もまた一苦労だ、なにしろ制御しようとするたびに不快感が体のそここから沸いてくる。
この手の不快感には慣れているがこれは今までの物とは違い複雑、というよりもカオスであった。
まるで水が体中の血管を循環しているような寒気もあれば、締め付けられる圧迫感、頭痛や吐き気などが交互にもしくは同時に襲いかかってくるのだ。
この分だとより本格的な使い方をしたらもっと恐ろしいことになるに違いない。
正直ごめんこうむりたいな、と思いつつ洞爺は意識を集中させる。

「!」

すると、手のひらから白色の球が現れ、フヨフヨ浮遊してすぐに霧散した。

「ははは・・・本当にできたよ、世も末だな。」

魔術書をしまい『朝日』の紫煙を口から吐き出す。

「さて、次は持ち物か・・・・」

すぐ確かめるべきだったが今の今まで気が付かなかったのだからしょうがない。
とりあえず、リュックサックとボストンバックから中にを取り出す。

「魔術書。7.7ミリ小銃弾。十四年式拳銃。八ミリ弾。戦闘糧食。チョコレート。ブドウ糖。
懐中電灯。『朝日』二カートン。{中略}水筒。九九式短小銃。銃剣。・・・・意外とあるな。」

こんなでかいもんよく入ってたな、と懐中電灯を一瞥する。
吸いがらを捨てて、水筒の栓を抜いて水を飲んでから身の回りを見渡した。

「・・・・しかし、これは嫌がらせか?」

そこには嫌がらせともとれるようなほどの武器の山また山。全力で適当に集めまくりましたと言外に言っているようなありさまだ。
文字を読む程度には明かりはあったが外が暗くなり始めたらしく、だんだん暗くなっているようであたりは闇に包まれつつあった。
こんな所でまた真っ暗になってはたまらない、洞爺は懐中電灯のスイッチを入れた。
電球が明るく光り、辺りを明るく照らし出す。海軍の使っているでかくてクソ重いものだが、無いよりはマシだ。

「陸軍の一式中戦車、九七式中戦車、八九式中戦車。零式艦上戦闘機二一型、天山艦上攻撃機、
九九式艦上爆撃機、一式陸上攻撃機。榴弾砲に野戦砲、迫撃砲に対空機銃に銃器諸々・・・・
ここはどれだけ広くてどれだけ並んでいるんだ?」

目の前には兵器が文字通りゴロゴロと並んでいた。種類はバラバラだが、ひとまとめにするととんでもないことになりそうだ。
中にはどうやって運びこんだのか知らないが四発飛行艇『二式大艇』などの大型機や
双発攻撃機である『一式陸上攻撃機』おそらく『B-29』らしいボロボロの残骸まで無造作に置かれている。
両翼が吹っ飛んで胴体のみの残骸は、復元は無理そうだが比較的状態は良いようだ。
子狐と一緒に武器の隙間をすり抜けながら、一つの木箱を開けてみる。それは手榴弾だった。
使い慣れた九七式手榴弾に九九式手榴弾、ドイツの柄付き手榴弾を模した九八式手榴弾に
旧式の九一式や十年式手榴弾、それだけでは飽き足らずアメリカのMK2破片手榴弾やイギリスのミルズ型などまである。
しかもその箱も山積みだ、合わせれば三ケタではすむまい。

「軽く手榴弾の博物館が開けるな。」

さらに、ガソリン入りのドラム缶まであった。しかもアメリカ製の純度の高い物、これなら何でも動かせるだろう。
軍需物資の山また山だ、これだけも物資があれば後は人員をそろえて米軍を押し返せるだろう。

「ほぉ、ガーランドにカービンM1短小銃、ん?M4シャーマンにM3か。・・・ドーントレスまであるのか。」

ほとんどが日本のものだが、アメリカの戦闘機や戦車などの海外製の兵器も多く見受けられる。
新型はすぐには無理だが、見たことのあるものならすぐに使えるはずだ。
M4シャーマンやM3スチュアート戦車も鹵獲して使った事がある。無論飛行機など言わずもがな。
どの兵器も見た所ちゃんとしてるし、少し手をかけてやればすぐに飛べるようになるだろう。
洞窟は異常に広いし地面も平坦だから、整理してやればここからでも飛ばせるかもしれない。

「M1919、モシン・ナガンM1891/30、MP40、BAR、M1A1、M1バズーカ・・・・これだけの武器があるなら心強いな。」

小火器にしても、小銃に機関銃、重機関銃に軽機関銃とかなりの数が揃っている。
小銃や拳銃なら何とかこの身体でも扱えるだろうし、無理なものなら何かで補助して使えばいい。
バズーカなら化け物だろうが木っ端みじんに違いないだろう、鋼鉄の戦車を鉄クズにする代物なのだ。
そんなモノをどうやって手に入れたのか気になる所だが、気にした所でしょうがないだろう。
どうせ戦場をほっつき歩けば落ちている。

「ほぅ、九六式15センチ榴弾砲にラインメタル37ミリ、こいつは?・・・・なんと、M115 203ミリ砲。こんなものまで・・・・」

次に見つけたのは古今東西の野戦砲や重砲に速射砲などの類、これまた無数に陳列されている。
一発の威力はただの戦車砲とは比べ物にならないほど強力だがそれ故に扱いにくい兵器たちだ。
その分融通の効かない所もあるが、どんな兵器にも弱点はある。それはそれでいいのだ。
どうやってこんなものを手に入れたか本当に気になるものだが、もう気にするのも無駄だろう。

「整備用具、これは戦車用か、戦闘機用のもある、予備部品も多いな。
・・・というか、見た事もないのが並んでいるな。パンジャンドラム?」

見ただけでも『ゲテ物です』と笑顔で言っているようなタイヤ型兵器に苦笑いする。
外縁に取り付けられたロケットと木製タイヤ型の構造からして、ロケットの噴射を利用してゴロゴロ転がすのだろう。
付属の部品や説明書からしてイギリス製らしい、おそらく試作兵器だ。当たればいいが、十中八九まず当たらないだろう。
イギリスは紳士の国だがどこにでもどこかネジの吹っ飛んだ技術者はいるものだ。

「牽引車にクレーン車、ふむ、しかしショベルとドーザーはどこで使えと?まぁいいか。
砲弾、各種勢揃いか。化け物でも粉砕できそうだ。もはや何でもありだな、ほかには・・・・・はぁ。」

本日何度目かもわからぬ異常な光景にため息、もう驚くのも飽きた。
武器や補給品の山を抜けたその向こうには、水路とともに最上型重巡洋艦が鎮座していたのだ。

「嘘だろう・・・」

洞爺はもう諦めの視線で重巡洋艦を見つめる。錨は下りている。武装も異常は見当たらない。
そこで洞爺は気が付いた、目の前に広がる水路がやけに広く、自然の洞窟にしては整い過ぎていると。
改めて地面を見ると、地面はいつの間にか洞窟のごつごつしたそれではなく見慣れた人口建築材だった。

{これは・・・・}

「地下ドック、基地か。」

何故今まで気付かなかったのだろうか。いや、もはや異常過ぎて脳が勝手に現実から目を背けてしまったのかもしれない。
かなりの量の武器弾薬や航空機などで埋もれているが、水路脇には小屋や中型クレーンなどの設備が設置されている。
水路も整備拡張され、重巡洋艦一隻は収容できる大きさがあった。もっともそれでもギリギリだが。
基地としてはかなり偏っていてお粗末だが、見かけにこだわらなければかなり良い基地だろう。
なぜか指令室などが存在せず全てお粗末な小屋なのは謎だが、クレーンなどは今だ現役のようだ。
そのクレーンもドイツ製だったりアメリカ製だったりとめちゃくちゃなのがまた謎だが。
うまく使えばこのごちゃごちゃな洞窟を整理するのに役立ちそうだ。かなり奇妙だが立派な設備を持った小規模基地、いや元基地の方が正しいか。
ここが元基地だとするなら巡洋艦が洞窟の水路に停泊しているのは決して不思議なことではない。

「う~ん?」

不思議なことではないが、問題はその停泊している巡洋艦の型にあった。

{最上型?最上型は全て沈んでしまったはずだが・・・海軍が新造したのか?記憶違いか?}

重巡洋艦を新造するのはいささか時代遅れだと思いながら洞爺は重巡洋艦に近づく。
水深がかなり深いらしく、重巡洋艦か擦るか擦らないかの近さで停泊していた。ご丁寧にラッタルまで下りている。
どうやら改装後の物らしく主砲は大口径の二連装型、おそらく20.3センチ砲だろう。
現場からは以前の15.5センチ三連主砲の方が良かったと言われ不評だった砲だが、これはこれで使い勝手の良い砲である。
対空砲も多いから、おそらく熊野のように対空防御を重視したのだろう。

「・・・・まあ、嬉しいのだがな。野宿しなくて済みそうだ。」

艦内には居住区があるし、士官用の個室や厨房もある。
海の上で寝ることになるがそんな事は慣れているし、このまま洞窟で寝るよりはだいぶマシだ。

「く~~~?」

「済まんなキツネっこ。変なところを見せた。」

子狐を抱き上げ頭をなでる。子狐は洞爺にすり寄って頬を舐めた。

「一緒に来るか?今日はここで一晩明かす。」

「くーーーー!」

嬉しそうに尻尾を振る子狐を洞爺は抱き抱えながら、ふと外につながる穴を見つめる。

{ここが未来だというのなら、外はどうなっているのだろうか。}

今の世界はいったいどんな世界になっているのか、大戦はどうなったのか、日本はどうなったのか、知りたいことは尽きない。
だが、同時に怖くもある。当然だ、何せ洞窟の一歩先は未知の世界かもしれない、怖がるなという方が無理だろう。
自分は兵士だが、恐れを知らない訳ではない。怖い物は怖いし、嫌な物は嫌だ。
下がっていたラッタルを上って甲板を歩き、ハッチを開いて重巡洋艦に乗り込む。
中は比較的きれいだったが、やはり兵装の弾薬や武器庫はすべて満載だった。
倉庫内にも物資は満載、だがその内容はちぐはぐだった。搭載されている物資の木箱の生産地がバラバラなのだ。
中身は一応同種の物で固まっているのだが、産地は日本だったりイタリアだったりアメリカだったりとバラバラ、
厨房のフライパンはなぜかイタリア製だし冷蔵庫に至ってはドイツ製だった。さらに珍妙だったのは陸戦隊なじみの武器弾薬庫だ。
武器庫に保管されていた小銃が全てイギリスの『リー・エンフィールド』だった。
軽機関銃に至ってはドイツの『MG34』がほとんど無理やり並べられており、
『MP18』通称ベルグマン機関短銃が保管されているはず木箱の中身は一〇〇式機関短銃だった。
辛うじて普段の様相をとどめていたのは手榴弾くらいだろうか、あまりに無節操な内容に思わず絶句した位だ。

「どこのバカだ?武器庫に鹵獲品詰め込んだのは。」

まるで余り物をそのままでたらめに突っ込んだような艦内に呆れてものが言えず洞爺は額に手を当てる。
これは日本の巡洋艦なのだから日本の銃でなければいけないのだ、とお堅い事を言う訳ではない。
元々海軍は艦に予算を取られて陸戦装備は陸軍のお下がりの物が多かった。
三八式が配備されると言う話だったのにいざ届いてみれば木箱の中身はイタリア製のイ式小銃だったという事も多い。
しかしこれはいくらなんでも酷過ぎである。せめて制式採用品にしてほしい、訓練していない銃火器など使える訳ないのだ。

「この船の艦長は何を考えている・・・しかたあるまい。おい、何人か引き抜いて本部に行って来い。残りはこっちで片付け・・・・」

そう言いかけて洞爺は口をつぐんだ。整理しようにも艦には艦長も海兵も自分の部下も、人っ子ひとりいないのだ。
もちろん自分の周りにも誰もいない。それを思い出した途端、洞爺の頭から呆れがすーっと抜けていった。

{何やってんだ俺は。}

あまりに非現実的な事が起き過ぎて冷静さを欠いていたようだ。
本当にここまでする必要があるのかいまいちよくわからなかったが、少しして気にするのも無駄だと悟り、そのままの足で艦長室に向かう。
艦長室もやはり無人だったが、不自然なほどに綺麗で埃もほとんど溜まっていなかった。まるで最近掃除したばかりのようだ。
机は新品同様で、備え付けのベットはすこし湿っぽいがカビの匂いもせず清潔感あふれる状態。
まるでまだ誰も使っていないような状態だ。

{不思議な物だな。}

ベットに横になり、無機質な天井を見上げながらふと思い返す。
魔術だのなんだのと、もはや驚くものは何もないと思っていたが、ここまでくれば頭痛がしそうだ。
いったい俺に何が起こったのか?あの爺さんは本当に俺を未来に送ったというのか?
手紙ではそうだと書いてあったが、ここは洞窟の中で周りに有るのは目新しくもない{見たことのない物はあるが}武器兵器ばかり。
ここは本当に未来なのか甚だ疑問だ。もしかしたらからかわれてるんじゃないのだろうかとすら思える。
しかし今の自分は子供の姿、それもいわば人造人間?の体になっている。
今の科学でそんなことは可能だったのだろうか?いやあり得ない。ウェルズの世界じゃあるまいし。
だとしたら本当に魔術なのか?だがこれは・・・・

{駄目だ、まったく埒があかない。・・・考えるのは明日にしよう。}

洞爺は思考を中断し、大きく背伸びをしてから静かに瞳を閉じた。




◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




疲れのせいか泥のように眠った洞爺は、翌日の午前5時{自分の懐中時計では}に目を覚ました。
外は相変わらず暗い、洞窟だから当然だ。だが海の方の入り口からは光が差し込んでいるから少なくとも日中だろう。
起きると一通り体をほぐし、まずい戦闘糧食で朝食をとるとベットに座って一通りかき集めた必要な物資を確認した。
今日は洞窟の外に出て周囲の散策をし、出来れば町に行く予定だ。町に行けば今がいつなのか解るだろう。
だが外の様子はどんななのか解らない、いざという時のための準備は必要だ。

「ん~~?新品同様だな。劣化も見られない。」

洞爺は艦長室の机の引出しにしまわれたままだったブローニングM1910を整備しながらつぶやく。
本来なら使い慣れている十四年式の方が良いが、小型で携帯性のあるこっちの方が隠し持つには良い。
弾薬の再装填に手間取るだろうが、それ以外は良い銃である。戦場で持とうとは思わないが。
小型なら九四式拳銃という手もあるが、あれは暴発されると面倒だ。

{そういや、隊長もこれ使ってたっけなぁ・・・}

弾倉に32口径拳銃弾を込めながら昔を思い出す。
自身は国産好きで士官でもないのに自費で拳銃を買いこんで新米の時から使っていた位だ。
だが新米時代の配属場所である上海、その時の隊長はこのM1910を愛用していた。
確かに国産の拳銃は重いし嵩張る、その上不格好でとても高い。
それに比べてM1910は安くてかっこよくて小さい、選ぶならこっちという訳だ。
大らかで面白い人間性であった隊長はその銃をとても好んでいた。
整備の時にいたずらしてはこっぴどく怒られたっけ、昔を思い出して洞爺はにやけた。
そんな洞爺を、足元から不思議そうに見上げる二つの瞳。
なにやってるの?といいたそうな視線で子狐は洞爺を見上げていた。

「どうした?さっき食べたのにもうお腹空いたのか?」

「くぅ~~?」

「これか?こらこら、これは危ない物だから触っちゃ駄目だぞ。」

「くぉん!」

「言ってる傍から転がすな。」

ベットの上に転がっていた九七式手榴弾をまるで毛玉を転がす猫のように、転がす子狐から手榴弾を没収して自分の傍らの置く。
すると、非難するように子狐が唸った。遊び道具を取られたのだから当然なのだろうが、手榴弾で遊ぶのはいただけない。

「だめだめ、これは危ない物なんだ。下手すると爆発するんだぞ。」

「くぅ~~~~」

「あ~~だからダメだって。」

せめて毛糸でもあればと思うが生憎そんな平和的な物は手元にないのである。
しぶとく手榴弾を転がそうとする子狐を抑えながら、リュックサックに必要そうなものを詰めていく。
一通り詰め終えると、リュックサックの口を閉めて背中に背負った。
M1910をズボンに挟みMP18をスリングで肩にかけて、足元に座っていた子狐を抱き上げる。

「今日はちょっと外に出る、一緒に行くか?」

「くぉん!」

「よしよし。」

子狐が元気良く返事するのを聞いて、洞爺は微笑んだ。
巡洋艦から陸地に降りて雑多に安置されている武器の隙間を通り抜け、出口に続いてるらしい上り坂に入るとまっすぐ上り始めた。
だがしばらく歩いて、洞爺は徒歩で来たことを非常に後悔した。

「長い・・・出口が見えん。」

長いのである、この洞窟とんでもなく長いのである。これは計算外だった。
出発してから二時間、ずっと歩いているのだが全然出口が見えない。
迷ったのかと懸念したが、曲がっているとはいえ分かれ道なんてものは無かった。
しかも足場はゴツゴツとしているし、微妙に急だから体力もどんどん削られる。
延々と歩き、懐中時計で時間を確認してはまた歩く。
しばらくすると光も満足に来なくなって足元が見え辛くなってしまった。
懐中電灯をもってくるべきだったかと後悔したがもう遅い。
洞爺は手のひらを上に向けると、魔力を集めて球体を作った。

「便利なものだ、電気いらずだな。」

少しだが明るくなった周囲に、左掌の純白の魔力球をちらりと見て洞爺は苦笑する。
またしばらく歩くと、ついに子狐がもう疲れ果ててリュックサックから首だけ出してる状態になった。
洞爺は子狐が入って余計に重くなった荷物を背負い、魔力の所為で気分も心なしか悪くなってきた。
長い長い上り坂を延々と上って、5時間後、ようやく森の中に身を投じた。
しかし、彼が望んだ日の光は降り注いでこなかった。代わりに降り注いだのは月の光だった。

「月の傾きからして、午後8時か。」

どうやら時計は物凄くずれていたようだ。だが永遠と洞窟の中を歩いていたせいか、夜空はとてもきれいに見える。
夜空を見上げながら洞爺は煙草を取り出すと、一本咥えてマッチで火を付けて味わうように吸い、紫煙を吐き出す。

{うまい。}

単価が高いだけある、洞爺は『敷島』を吸いつつ周りを見渡す。どうやら今度は元飛行場に出たらしい。
長年放置されているらしく草木は生え放題でほとんどの建築物は原形をとどめておらず、残っているのは格納庫と滑走路のみ。
格納庫は作りはしっかりしているが古いことに変わりなく、滑走路はアスファルトの隙間からちらほらと草が長々と伸びていた。

{こりゃ『元』じゃなくて『廃』飛行場だな。}

アスファルトや格納庫の劣化を歩きながら調べて結論付ける。
歩き回って解ったがここは山の中腹のようだ、この山は町の裏山みたいな立ち位置なのだろう。
かつてはここに通じる道があったようだが、今となっては草木の伸び放題で既にけもの道だ。
『Publikation Knall飛行場』と辛うじて読める古い看板が立っている飛行場の端っこに行くと町がよく見えた。

「次は森か、もう少し・・・・なんだがなぁ?」

木々の向こうに見える町の光は近い、だが徒歩だと遠い。しかもこの時間帯だ、こんな時間に子供がうろついてたら嫌でも目立つ。
警察や憲兵に職質、もとい補導を受けたらどうなるか解らない。なにしろ今の自分は家も両親も、戸籍すらないかもしれないのだ。
そうなれば厄介なことこの上ない。最悪実力行使になってもならなくても自分には助けてくれる人間などいないのだ。
出歩くのなら、子供が遊び呆けるであろう夕方が一番良いだろう。ともかく、今日は町に行くことは出来ない。

「・・・・・」

しかし、町への関心は見れば見るほどに高まってくる。なぜなら、町の様子はとても発達しているように見えたからだ。
洞爺はリュックサックから双眼鏡を取り出すと、木の上によじ登って町を覗きこんだ。
そこから見えたのは、まさに未来の、いや未知に光景だった。
見えたのは大きなビル、煌びやかな街頭、そして住宅地を明るい光、控え目に見ても戦前の日本より発達している。
日本の面影が色濃く感じられたが、まるでアメリカのような街並みだ。
もし学校と思われる建物の校庭のポールに国旗が吊るされていなかったら日本とは信じられなかっただろう。
その時、上空を何かが轟音を立ててとびぬけていった。

「あれは、ジェット戦闘機!」

やや低空で飛行する三機の戦闘機は市街の上で旋回すると、町の上を旋回し始めた。
敵機の迎撃に見えたが、飛び方からしておそらく夜間飛行訓練のようだ。
双眼鏡を使っても僅かにしか見えないが、形は『橘花』やドイツの『Me262』のような、
発動機を二つ主翼につるした型ではなく後部に搭載した型のようだった。
おそらく『秋水』の流れをくむ、機体後部に発動機を積んだ型なのだろう。
ジェット発動機『ネ20』の後継だろうか?相当性能がよさそうに見える。
こんな戦闘機がとんでいる時代だ、自分の居た時代から何年たったのかさっぱり分からない。
やはり行ってみようか?と思いやや悩みながら町を見ていると、突然背後からザザァ・・・と雑音が聞こえてきた。
その音に驚いて子狐が悲鳴を上げてリュックサックから飛び出し、器用に洞爺の頭の上に乗っかる。
雑音は止まらず次第に大きくなり、やがて声が混じってきた。

≪こちら――部、イエ―――ーグル1、応答――。≫

{むっ?日本語?これは・・・}

リュックサックを開くと、声の元である米軍の小型無線機を取りだした。
何かの役に立つと思って入れておいたが、どうやら予想は当たったらしい。
何かの拍子にスイッチが入っていたらしく、偶然にもどこかの無線を傍受したようだ。
洞爺は無線機を取り出すと周波数を調節して無線の受話器に耳を傾ける。
調節しても雑音がひどく聞けたものではないが、確かに声が聞こえてきた。

≪―――指令部、――ローイー――1、状況――告せよ。
依然として、こ――の無線――はジャミングが確認――ている。≫

≪こちらイエローイーグル1、――地に異常――。繰り返す、市街地に――無し。
ですが、レーダー―――――機に異常―――られます。≫

「これは・・・無線通信か。」

これは軍の無線だ、若い男の声はおそらくあの戦闘機で初老の男性の声は所属基地の指揮官だろう。
暗号などを用いていないのは今が平時だからだろうか?だがそれにしてはおかしい。
それ以前にこのような無線をこんな携帯無線機で傍受できるのは明らかに異常だ。
無線はまだ続いている、電波が強くなったのかより明瞭に声が聞こえてきた。

≪指令部よりイエローイーグ―1、今無――回復した。そち―の計器―どうだ?≫

≪―――ーイーグル1より――部。良く聞こえません、もう――お願いしま――≫

≪今、こちらの無線機は回復――。そちらの計―はどうだ?エンジンに異常は?≫

どうやら向こうに異常があるらしい。

≪エン――に異常は見――ませんが、依――して、――ダーが一部にジャ――グを確認しています。無――も、―――不調です。≫

≪了解イエローイーグル1、任務を後続機に引き継ぎ帰還せよ。≫

≪良く聞こえません、―う一度お願いします。≫

≪哨戒任務を後続機に引き継ぎ基地に帰還せよ、不調機で飛ばし続ける訳にもいかん。≫

≪了解、帰還しま―――――・・・≫

無線が途中で切れた、周波数を弄るが聞こえるのは騒々しい砂嵐ばかり。
無線機の故障だろうか?洞爺はそう思って無線機を調べるが異常は見当たらない。
戦闘機が去っていく、しばらくして発動機の音も聞こえなくなった。

{ジャミング、電波障害の事か。町に異変?}

大方整備班がサボって適当な整備をしたのが原因なのだろうが、洞爺はなぜかパイロットの言葉が気に掛った。
実は目に見えないだけで何かとてつもなくまずい事が起きているのかもしれない。洞爺はもう一度双眼鏡を覗き込んだ。
その時、視線の先で突然町の一角で爆煙が上がり、電信柱が電線を引き裂きながら倒れた。
次いで、さっきまで明かりをともしていた『槇原動物病院』と書かれている看板が空を舞う。

「・・・・撤退だな。」

一瞬本当にまずい事が起きてしまったのかと思ったが、あの爆発は爆弾などではないだろう。
おそらく何か事故が起きたのだ、あの規模なら警察や消防が大慌てで動きだす。
そんな中にのこのこ歩いて行けば、確実に警察の目に留まるだろう。

{どっちにしろ、今日はいけないと。}

残念無念、だがここで欲張って全てをおじゃんにする訳にもいかない。
洞爺は双眼鏡をしまうと、木を飛び降りた。ぎりぎりまで吸った煙草をもみ消して捨て、洞窟の中に再び戻っていく。
巡洋艦に帰り付いたころには、精神的に疲れてもう何もする気が起きなかった。
辛うじて残っていた気力は無駄に長い洞窟の道に完全に削りきられ、もう一歩も動きたくない。
だが腹は減る。洞爺はベットに寝っ転がったまま手を伸ばしてベットの下から木箱を引きずりだす。
その蓋を開け、英語でレーションと書かれた紙箱を取りだした。

「町に行く前に、洞窟の対策練らなけりゃならんな。無駄に長い。」

うまい飯をよこせと唸る腹にまずい戦闘糧食を飲み込みながらつらつらと考える。
しかし妙案というものは案外すぐには思いつかないものだ。
味が酷くゴムみたいな食感の肉をもぐもぐやりながら考えるだけ考えるが、飯がまずけりゃ思考も鈍るということか。
あの無駄に長い洞窟だけはいかんともしがたいのだが名案が全く浮かばない。

「・・・・だ~めだこりゃ。」

結局なにも思いつかず、真水入りのドラム缶を開けて濡らしたタオルで体を拭いた後、子狐を抱いてベットに身を投げた。
子狐の抱き心地は最高でモフモフだ。子狐の方も悪く思っていないのか心地よさそうに腕の中に収まっている。
中身はゴツイ男だが動物は割と好きなのだ。こうやって抱いているだけでも癒される。
子狐をモフモフしながら眠気に身を任せてうつらうつらとしていると、

「・・・・ぉ?」

唐突に思いついた。




◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




青い青空の下、足の不自由な少女、八神はやては今日も図書館に来ていた。
一日中家に居るのも退屈なので買い物のついでの読書もいいだろうと思って本を見に来たのだ。
もっとも、何もなくてもふらふらと来る事があるのでどっちかついでだか解らないのだが。
図書館に入ると今日の気分で本を選ぶ。電動車いすの操作レバーを巧みに操り本棚を見ていると、彼女は一冊の本に気を惹かれた。

「う・・・高い。取れるかな~~~?」

その本がある場所は少し高い場所にあった、取ろうと彼女は手を伸ばしてみる。
しかしもう少しというところなのだがかすれる程度で掴むことができなかった。
彼女は足が悪く、車いすでの生活を余儀なくされているため否応にもとれる範囲が狭い。
しかし何かと不自由し、少し前まで手押しの車いすだったせいで腕力だけは人一倍だ。
故に多少重い本でもたいして重荷にはならないが、届かなかったら意味がないのである。

{しょがないなぁ、誰かに頼んだ方がええか。}

「えぇっと・・・あっ!」

図書館の人に少し頼もうを思ったその時、もう一人の手がその本を取った。
先を越されたのだ、運が悪いと思いつつはやてがしょげて退散しようとすると、

「君が読みたいのはこの本かい?」

彼女の前に読みたかったがさっきとられた本が差しだされた。
程よく日に焼けた肌をした白髪だらけの黒髪の少年がその本を差し出していた。
よく見ると目が少し赤くなっている。

「あ、どうも・・・けどいいん?」

「かまわんよ、元々君が取れなさそうだから取ったんだ。」

少年の言葉に、はやてはその本を受け取る。

「ありがとうな~~取れへんから図書館の人に言おうと思ってたとこだったんよ。」

「む?それはすまなかったな、いらぬお節介だったようだ。」

「いいんよ、ありがとう。」

「そう言ってくれると助かる。俺はそろそろ行かなくては、失礼する。」

少年はそのまま図書館を去っていった。その去り方といい、どこか歳の行った大人を思わせる。

「あの子、目が赤くなってたけど・・・泣いてたんかな?」

本を抱きながら首をかしげるはやてはふと手に取った本を見る。『ガタルカナルの日記』、
第二次世界大戦時の旧日本軍兵士が書いたノンフィクションの物だ。
車いすを席まで動かし、その本を開いて中身を読む。

『――――戦闘の最中、砲を指揮していた上官が倒れた。さらに銃撃が続き仲間がまた一人やられた。その時彼がやってきた。
小銃を手にした飛行服を着て首元に傷がある男が狙撃手を倒した。
彼の名は『斎賀洞爺』といい、海軍陸戦隊の中尉だった。彼は指揮官を失った自分たちを鼓舞して砲撃に当たらせた。
驚くべきことに彼は砲戦を理解していて敵に的確な砲撃を指示した。かれ――――』

「あ、リアルチートの人か。」

簡単に言えば嘘にしか思えない事を普通にやってのけて、それが事実として公式に認められて人物の事である。
例を出せばスツーカの悪魔『ハンス・ウルリッヒ・ルーデル』の馬鹿げてる上にまだまだ上があるらしい戦果とか、
ボルトアクション式ライフルで1分間の内に16発連射できるフィンランドの狙撃手『シモ・ヘイヘ』が有名だ。
その経歴はまさに人外であり誰もが『あり得ない』と言うが、それが事実であるという非常識さを持つ。
面白い言葉で表すなら、存在自体がギャグの人、と言えるだろう。
この本の人物もその中の一人、知名度は低いがやってる事はバカと冗談の総動員だ。
彼女には珍しい戦争録を読みながらふと先ほどの少年が思い出された。

「あの子にも、首元に怪我の跡があったような・・・・」

それも一時の事、再び彼女は本に夢中になっていった。




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