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No.15675の一覧
[0] 魔法少女リリカルなのはThe,JINS『旧題・魔法少女と過去の遺物』{魔法少女リリカルなのはとオリキャラ物}[雷電](2012/12/08 18:27)
[1] プロローグ・改訂版[雷電](2011/06/20 19:29)
[2] 無印 第1話・改訂版[雷電](2011/06/20 19:35)
[3] 無印 第2話・改訂版[雷電](2011/09/14 08:43)
[5] 無印 第3話 改訂版[雷電](2011/05/03 23:14)
[6] 無印 第4話[雷電](2011/05/03 23:17)
[7] 無印 第5話[雷電](2011/09/14 08:44)
[8] 無印 第6話[雷電](2011/06/20 19:53)
[9] 無印 第7話[雷電](2011/07/17 16:19)
[10] 無印 幕間1[雷電](2011/07/17 16:27)
[11] 無印 第8話[雷電](2012/03/10 00:36)
[12] 無印 第8話・2[雷電](2012/03/30 19:37)
[13] 無印 第9話[雷電](2012/03/30 19:39)
[14] 無印 第10話[雷電](2012/11/07 21:53)
[15] 無印 第11話[雷電](2012/11/07 21:55)
[16] 無印 第12話・前編[雷電](2012/12/08 18:49)
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[15675] 無印 第10話
Name: 雷電◆5a73facb ID:b3aea340 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/11/07 21:53



Side,月村すずか

お腹が痛い、笑い過ぎて痛い、腹筋が捩れるっていう言葉がよくわかる位痛い、私はそれはもう大笑いしてお腹を押さえて転げ回っていた。
たぶん女の子としての何かもどっかにほっぽっちゃってるような姿になってるだろうけど、そんなことは些細な事。
なんでこんなことになっているのか、それは宴会も終わって部屋で一緒に遊んでた時まで遡る。
部屋で持ってきたボードゲームや斎賀君主導の大人な雰囲気抜群のポーカー、ブラックジャックなんかをしながら遊んでた時にアリサちゃんが昼間の罰ゲームの事を思い出したの。
その罰ゲームで斎賀君がノエルさんに連れられて外に出て少しして襖が開いた瞬間、私はもう笑いが止まらなくなった。
だって、金髪がなびいて・・・だめ、目に入っただけでお腹が、だって、だって・・・

「さ、斎賀君、それ、あは、あはははははっ!!」

「うぐぅ~~~~」

だって、斎賀君が女装して最近話題の魔法少女のコスプレしてるんだもん!しかも黄色、全然似合って無い!!

「お、お似合いですよ、洞爺君。」

「ファリンさん、眼を背けて言っても全く説得力ありませんよ。」

「あひゃ、あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!こりゃ、こりゃ予想以上に傑作だわ!似合わねーーー!!」

畳みをバンバン叩きながら爆笑するアリサちゃん、自分が書いた罰ゲームなのに笑い過ぎだよ。確かに、予想外の威力だけどさ。

「アリサちゃん、自分で書いたのに笑い過ぎ――――」

「かいたのくおん~~ありさおねーちゃんにまねしてほしかったのにざんねんだよぉ。」

はい!?てっきりアリサちゃんが書いたのかと思ってた。まぁ、確かに金髪だけど・・・・服を用意したのノエルさんだよね?

「ぷっくくくくっ、ごめん洞爺君。くっはははは!!!」

「うふふふっ、似合ってるわよ。」

士郎さんも我慢できなくなったのか笑いだした。桃子さんも一緒になって笑ってる。

「あはははははははははははははははっ!!」

足をばたつかせてバカ笑いするなのはちゃんはちょっと壊れてる。この頃様子が変だったから少し心配だったけど、大丈夫なんだね。ちょっと安心。
でもちょっと騒ぎ過ぎかな?これだけ騒いでも大丈夫なのは、他の大部屋で軍隊さんが色々やってる所為かもしれないけど。
他の部屋もなんやかんやで大騒ぎしてるっぽいし。ちょっとうるさいけど、みんな楽しんでるからいっか。

「ひ、ひっく――――あひゃ、あひゃひゃはは・・・・いじるのおもろい、ほんとだった・・・あひゃはは・・・・」

「くひっ―――あ、こぇ―――」

あ、美由希さんとお姉ちゃん死んでる、声が出なくなる位笑い死んでる。恭也さんは・・・・あれ?見当たらない。

「恭也さんは?」

「あそこです。」

笑いをこらえるのに必死なノエルさんが指さすのは・・・・部屋の隅?

「あ。」

いた、確かに恭也さん・・・のはず。体育座りで顔がモアイっぽいけど罰ゲームの猫耳付けてるし。

「恭也さん?」

「あぁ、すずかちゃん。どうしたんだい?」

モアイと喋ってるみたいで怖い。視界いっぱいの猫耳モアイ像って、すごい迫力あるよね。

「う、ううん、なんでもないです!」

「そうかい、しばらくほっといてくれ。」

うわぁ、浴衣を着た猫耳モアイになっちゃった。床から生えてるように見えるよ。

「いいだろう・・・」

なんだかいつもより低い斎賀君の声が聞こえてきた。
あ、あれ?なんだかすごい寒気がしてきた。振り返ると、斎賀君の目つきが凄い据わってた。

「と、洞爺?なんか目が据わってるわよ。」

「うふふふふ・・・・ご主人様♡なんなりとご命令を。」

膝を折って決めポーズ、女性みたいにしなを作った声、そしてウィンク。空気が凍った。うん、みんなの思考が凍った。
だって、斎賀君って筋肉質だし、男声だし、そんなポーズ取られると服が引き締まってむちむちだし、なんか、オカマっぽい。
というか斎賀君、それメイド服だと思ってるんだ。確かにそう見えない事もないんだけど・・・なんか違うな~~

「き、筋肉、筋肉・・・・」

な、なのはちゃん!?なんで頭を抱えてがたがた震えてるの?トラウマ発動っぽくなっちゃってるよ!?

「いや、これないわ。うん。」

アリサちゃん!?なんでいきなり冷静に評価してるの!?至って真面目な評価しちゃうの!?

「うふ、うふふふ・・・」

斎賀君、泣いてる。涙は流して無いけど、きっと泣いてる。可哀そうだな。

「斎賀君、大丈夫、面白かったよ。」

「月村・・・・」

斎賀君、大丈夫、大丈夫だよ?

「すっごい似合って無いし、気持ち悪いけど、我慢して頑張ってるって解ったよ。」

私知ってるからね!斎賀君は本当はかっこよくて男らしいのは知ってるから、だから大丈夫だよ!

「うふ、うふふふふ・・・あははは、そうだよ、もう怖くない、もう何も怖くない・・・」

あ、あれ?私、ちゃんと慰めたよね!?でもしっかり真似してる?いや、これはマジ!?

「すずか様、素晴らしいとどめです。」

「ノエルさん、なんでそこで親指を立てるの?私何か変なこと言った? 」

慰めたはずだよ?あれ?私へんなこと言った!?

「無自覚、いえ、すずか様も混乱しておられる――――おや、洞爺様の様子が?」

何?ふりかえると洞爺君が荷物を探ってなんだか大きい、二つ折りの鉄の筒を取り出しているところだった。
黄色?ベレー帽?って、その肩に担ぐそれは!?

「ちょ!?あんたそんなもん持ってくんな!!」

「洞爺君!冷静になれ!!」

「何を言ってる?これが望みだろう?やってやる、やってやる。」

正気に戻った士郎さんとアリサちゃんが止めに入る。だって、斎賀君がバズーカ砲を構えてるんだもの♪

「バズーカ砲まで持ってたんだぁ。」

「すずかちゃん!?っていうかお爺様もそれはだめですよぉぉ!!」

うん、とりあえずこんなの家に置いて行った前の持ち主さん死んだ方がいいよ。ファリンさんもそう思うよね?
久遠ちゃんは凄い目を輝かせてるけど・・・・今私たちすごいピンチだよ。だってバズーカだよ?対戦車ロケット弾が詰まってるんだよ?
死んじゃうよ、いくらなんでも死んじゃうよ。

「おっはようございまぁぁぁぁす!!」

斎賀君は半狂乱で笑いながら引き金を引く。その瞬間、軽い破裂音と同時に私の視界はカラフルな色に染まった。
あれ?これってクラッカーによく入ってるあれ・・・じゃなくて細く裂いた色つきすずらんテープ?うわ、部屋一面カラフルになっちゃった。

「これとうやがよるのえんかいとあさのどっきりようにつくってたくらっかーばずーかだよ。」

「く、クラッカーバズーカ?」

アリサちゃんが変に絡まったのかもがきながら久遠ちゃんに問いかける。久遠ちゃんはテープまみれのままコクコク頷いた。
だから久遠ちゃん怖くなかったんだね。

「うん、よきょーにつかえるだろうって。」

「余興って・・・むしろこれまさにフィナーレ用じゃないの。」

「再装填、再装填ッ―――――――」

アリサちゃんがげんなりする。だよね、部屋が大変なことになっちゃったよ。

「かみふぶきなしだからかたづけかんたんだって。」

「どこが!?」

「こーなってるの。」

久遠ちゃんがバズーカを指さす。あ、これバズーカの砲口から伸びてる。全部中で繋がってひとまとめになってるんだ。
途中で切れたのを除けば、ほとんどは根元から手繰れば簡単に回収できるってわけだね。

「これ、どうやって作ったのよ。」

「む~~~そんなのとうやにきいてよ~~~くおんはてーぷぴりぴりしただけだもん。」

そうだ、斎賀君!そろそろ暴走を止めないと!!

「あわわ、やっちゃったぁ・・・・」

あれ?さっきまで斎賀君がいた所に美由希さんがいる。斎賀君はどこに?

「せかいがまわる?いやおれがまわる?ぐるぐるぐるぐるぐるるるる・・・・・」

足元から声が聞こえた、美由紀さんが反射的に殴り倒しちゃったみたい。大の字で横たわる姿と痙攣が凄い生々しい。あ、下着まで女物になってる。
とりあえず男のパンチラって凄くうれしくなかった。凄い食いこんでる、盛り上がってる。
あとアリサちゃんにちょっと教育が必要だって解った。アリサちゃんが教えたんだよね?こういうの。
うふふふふふふふふ・・・あとでこれ、借りようっと。




第10話




夜、宴会とそれに続くドンチャン騒ぎもひとまず終わりを見せ、夜はこれからというところだが子供は寝る時間である。
ファリンの昔懐かしい小話を聞きながら布団に入る洞爺は懐かしさとともに何ともいえない気持ちになっていた。
酷い目にあった、変なコスプレをやらされたり、その姿のままでゲームをやらされてまた負けたり、そしてまた罰ゲームやらされたりと散々だ。
もちろん子どもたちと遊んだのは非常に楽しかったと言えるが、やはりあの罰ゲームはいかがなものだろうか?と首を捻らざるを得ない。

{ワレ、イマダニネムケナシ。トクベツショチモトム・・・・・}

ちょっとした小話を子供たちに話すファリンへ薄く聞こえるよう畳みを叩いてトン・ツーモールス信号を送るが、相手が理解できないのは先刻承知だ。
ちなみに寝る前、悪あがきで瞬きの通常モールスを忍に送った所すぐさま両手を合わせられた。
ああいう仕草は遺伝なのか親友そっくりで、懐かしいと感じながらとても悲しい気持ちになったのは言うまでもない。
きっと大人たちは酒盛り、恋仲は二人で適当な理由と場所を見つけて秘め事の真っ最中だろう。
実に悔しい、酒盛りをしながら会話で盛り上がる事も出来ず、若い連中の初々しい姿を肴にも出来ない。

{あぁ、酒が飲みたい、煙草が吸いたい、若い奴らを弄りたい。
頃合いを見て便所と偽って布団を出よう、あの二人がいなければ冷やかしに行こう。どうせ目星は付いてる。}

他の者が眠りに入り洞爺も一応寝たふりをしながら腐る気持ちを抑え込む。
寝付いたのを確認し、ファリンはさりげなく洞爺の布団にナイフを押しこむと部屋を静かに出て行った。
眠っていないのは洞爺だけではない。なのはも起きている。ユーノは眠れるはずがない。
なぜならアリサにがっちり鷲掴みされていているのだ。これで寝れたら相当な猛者である、もしくは変態だ。

≪ユーノ君、斎賀君、起きてる?≫

≪なん・・・とかね。≫

≪起きている。≫

ユーノは息も絶え絶えに、洞爺は余裕の声色でなのはに返す。どうやらユーノはノーマルらしい。

≪昼間の人、この間のこの関係者かな?≫

≪そうだね。その点についてはサイガの方が詳しい。≫

≪斎賀君が?≫

洞爺はなのはの問いに肯定する。

≪俺は彼女と交戦している。≫

≪いつ!?≫

≪君が交戦した後すぐだ。君の撤退の時間稼ぎに俺が残った。≫

洞爺はなのはに簡潔に月村家での戦闘の時のことを話す。なのははその話を聞いて、とても悲しそうに表情をゆがめた。

≪あの女はアルフというらしい。金髪はフェイトと呼ばれていた。本物の名前かどうかは知らんが、どちらも強敵だ。
かなり手の込んだ戦闘訓練を受けているのだろう、見たことの無い型だっただがほぼ間違いない。
その上火力、機動力、装甲、航空戦力においては全て破格の能力を備えている。戦艦が空を飛んでるようなもんだ。≫

≪君はどこまでハイスペックなんだ?≫

ユーノがあきれた様子でため息をつく。こいつの無駄に高いスペックはある意味慣れてしまったのだ。
そもそも生身で魔術師や魔導師をボッコボコにするだけでも十分異常なのである。例え結果的には痛み分けでもだ。
それでも何度も見せつけられれば慣れる、絶対に慣れたくないが慣れてしまうのだからしょうがない。
そんな自分にもちょっと呆れながら、アリサの手の中から抜け出してなのはの枕元に立つ。

≪また、こないだみたいなことになっちゃうのかな?≫

ユーノは無念そうに肯定する。なのはの心に何か重いものが落ちる。

≪なのは、考えたんだけど・・・これからは僕が一人で―――≫

≪ストップ!≫

ユーノの話を遮って、なのはが怒ってますという様子でユーノをじっと見つめる。

≪そこから先言ったら・・・・怒るよ。≫

ユーノの頭をなのははなでながら言い続ける。

≪『ここからは僕が一人でやるよ。これ以上なのはを巻き込めないから』とか、言うつもりだったでしょ?≫

≪ああ・・・≫

≪ジュエルシード集めは、確かに最初はユーノ君のお手伝いだったけど今は違う。
私、斎賀君にやめろって言われた時、言ったよね。これは私が自分でやりたいと思ってやってることなんだよ。≫

なのはの笑顔にユーノは呆然とする。

≪だから私を置いて、一人でやりたいなんて言ったら、怒るよ。≫

≪ユーノ、負けだよ負け、高町はかかわるのをやめんようだ。しかし、俺としてもここら辺で引いてくれたらありがたいんだがね。≫

≪斎賀君までそんなこと言う。ほんとに怒るよ!≫

≪別に止めるなんて言っておらん、俺に君を止める権利は無いよ。≫

洞爺も面白そうにくすくす笑いながらなのはを援護するように言った。
なのはは優しい、ユーノは改めて彼女に感謝しながらうなずいた。

≪高町、今は眠ったほうがいい。戦闘は体が資本なのだからな。明日もまた色々ある。≫

≪そうだね、少し寝よっか。≫

≪そうだね、じゃあサイガ、おやすみ。≫

≪ああ、おやすみ。≫

なのはは布団にもぐり、ユーノは改めてアリサの腕の中にもぐりこむ。
二人が眠りにつき、さらに大人たちも寝静まった頃、洞爺はひとり目を開けた。

{警戒するにこしたことはない。悪いな、二人とも。}

静かに起きあがり、荷物を手に最低限の明かり以外消された廊下に出る。何かあるかもしれない、その懸念が洞爺を眠らせない。
そして自分から眠らない、神経を巡らして外の気配に集中する。今の所怪しい気配は無い。
あるのは大部屋から僅かに聞こえる男共の大鼾の大合唱と、かすかに匂う栗の花の匂い。

{これが若さか、俺には真似できんな。}

聞こえてるぜ二人さん、親父丸出しな笑みを浮かべながら障害者用トイレの前を通り過ぎ男子便所へと入った。
芳香剤の匂いが僅かに香る清潔なトイレの一番奥、清掃用具が収められている小部屋を開けてあらかじめ運び込んだ装備を入れたバックを取り出した。
中身を取り出して素早く森林迷彩の手製長袖野戦服を着こみ、釣り用ベストを戦闘用に改造したタクティカルベストを着る。
厚手の靴下を履いて改造登山用ブーツを履き素早く編み上げ、2度強く足を振ってしっかりと履いたことを確かめる
着替え終えると若い二人の夜を聞きながら、ばらして荷物に紛れ込ませた銃の部品を取り出して組み上げに掛った。
スライド、銃床、引き金、ファイアリングピン、マガジンキャッチ、バネなどの部品を次々と手に取っては組み合わせる。
その手付きに迷いはない、似たような部品の中からまるで決められた場所にあるかのように手にとっては丁寧に組み上げる。
小銃、サブマシンガン、ショットガンの三丁の小火器を手早く組み上げ、一丁づつ不備がないか調整しつつ弾薬を手に取った。

{鈴音、お前の孫は良い相手を見つけたようだぞ。}

銃身を極限まで切り詰めて銃床も斬り落としたショットガン『イサカM37ソードオフ』の組み上げを確かめ、フォアエンドを静かに引く。
紙製の12ゲージショットシェルを下部の給弾兼排莢口から、チューブマガジンに込めながら便器に座って盛った二人のお楽しみを聞きながらうんうんと頷いた。
いざという時には、友人代表としてこのショットガンウェディングを華々しくあげてやるから安心してほしい。
彼の性格なら絶対に無いだろうが、その時は誠心誠意新郎の後ろでショットガンを構えてニコニコ笑ってやるのだ。

{やらなかったら恨まれそうだしな。}

こんな世の中だ、天国から現世に強行突破してくる可能性もないではない。つくづく現実離れした現実だ。
彼女ならばやりかねない、そしてきっとおまけが付いてくるだろう。閻魔にも嬉々として喧嘩を売りそうな戦友たちだ。

{・・・・・・・って、そういう俺もこんな考えが出る時点で染まってきたか。}

ショットガンとマシンガンをリュックサックに差しこみ、そのリュックサックを背負う。
マガジンパウチ代わりのウェストポーチを巻き、左腰のポーチのベルトに信号拳銃を収めたホルスターを取り付ける。
ベスト裏のポケットに拳銃用弾倉を差し込み、裏地の裏に仕込んだ防弾装甲に欠落が無いか確かめて前のボタンを閉める。
最後に二式テラ銃の銃身がしっかりと固定されているのを再確認して、ボルトを引いて機関部の組み合わせを確認した。
この銃は空挺作戦用に製造された九九式短小銃のバリエーションの一つであり、なかなかユニークな機能がある。
銃自体は九九式短小銃と大差のない長さだが、銃身と機関部の境目に接合部が設けてあり、その部分から文字通り二分割することができるのだ。
おかげで収納が楽なのだがその影響で命中精度と堅牢性に難があり、普通の九九式短小銃と同じ感覚で使えばエラい目にあう。
沖縄で使った際、それを考慮せず遠距離戦で使ってしまい当たらない、接近戦では簡単に折れて壊れやすいで死にかけたほどだ。
そんなこんなで、よほどではない限りあまり使いたくない小銃にカテゴリーされる銃だ。
しかし携帯性の高い騎兵用の四四式騎兵銃や三八式騎兵銃の6.5ミリ小銃弾では威力に欠けて有効弾を撃ちこめない。
アメリカ製の銃には惹かれるものがあったが、M1ガーランドもM1カービンも最適とは言えない。
前者は自動小銃ながら九九式と同じ位大きく、全体的に太めで重量があり取り回しが辛い。
後者は折り畳みストックの空挺モデルがあり威力も申し分ないが、今回ありうる状況には合わないため持ち込んでいない。
一通り扱いを心得ていて、かつ現状有力であり、使い慣れている銃に近い形の中ではこれしかなかった。

「幸せになれよ、お二人さん。」

森林迷彩色の垂れ布付き略帽を被って自動販売機で購入した栄養ドリンクを一気飲みし、空瓶をゴミ箱に放り込みながらまだ終わることの無さそうなラジオにさよならを告げる。
ここから先はいつもの日常ではない、いつもの戦場だ。完全武装した洞爺は物音を極力立てないようにトイレの窓から外に出る。
静かに夜闇の陰に身をひそめながら林に駆け込み、闇に身を顰める感じ慣れた感覚に思わず手を握り直した。
部隊を連れていないため身軽だが、その分周りに注意を払わなければならずまったく気が抜けない。

{変なのに出くわさないのを祈るだけだな。}

密林ほどではない日本の森林をたった1キロ進むことなど造作もないことだ。
だが気は抜けない、この辺りはまだ月村家勢力下といえど油断は禁物だ。
頭の中の地図と作戦を思い返す。目的は敵部隊への奇襲だ。彼女が姿を現したのだ、捕捉されたのなら捕捉し返す。
就寝前に宿の部屋を調べて回ったが彼女の姿は無かったのだ。フロントに問い合わせたところ、どうやら日帰りらしい。
意外な事に、ここ最近偶に姿を見せているそうだ。さらに大抵は小学生くらいの金髪少女も連れていたのだという。
さりげなくに聞き出した髪型から人相まで完ぺきに合致した。
奇襲や威嚇ではなく、今回の遭遇は本当にただの偶然だったのだ。
このあたりはキャンプ場やコテージなど、他の宿泊施設は無い。という事は、どこかで野宿しているという事だろう。
そしてそれに適した場所は地図の限りでは宿からそう遠くない地点に一つだけあるだけだ。
経営不振でかなり昔に潰れたキャンプ場跡、ここ一帯で数少ない野営適した場所だ。おそらくそこが拠点だ。
あまりに単純だが、彼女達は十中八九そこに拠点を構えている。既に月村の情報部から裏付けを取っているのだ。
裏付けは簡単だった、出入りの目撃証言はともかく不法占拠の疑いで警察にすらマークされていたのだから怪しすぎる。
彼女達は戦う事は出来ても所詮は子供でどこかぬけているのだ、それは今までの行動傾向に如実に表れている。
それ故に今の今まで月村家勢力、サーシャや祝融と言った元軍人と元傭兵もいいように翻弄されてしまったのだろう。
相手は子供なのだ、大人や経験者には全く出来ない思考や突飛な案が簡単に出てしまう。
予測しやすいという反面、下手に追い詰めたりすると予測が全くつかないのだ。
そしてその突飛で無茶苦茶な案を現実に実現してしまう、これまたすさまじい才能と力を彼女は持ち合わせている。
まったくもって最悪の相手と言っていいだろう。

{だが、まだまだ経験が足りない。}

いくら相手が魔法を使えるとはいえ、眠っているのではただの人間とは変わりない。
永遠に行動することはできないし、いずれ食事や睡眠をとる必要がある。
食事の時、特に寝ている時の奇襲は、例えベテランでも即座に対応することは難しい。
故にどこか安心して休める場所を確保するのは当たり前だ、それは最前線もこの世界も変わりない。

{見つけたぞ。というか、隠す気無しか。}

木の陰から双眼鏡で河原に組み上げられたオレンジ色の市販大型テントを覗き見て思わず苦笑する。
観察した限りテント内や周囲に動きは無い、眠ったのか、それとも今はいないのか。
あたりに罠が仕掛けられていないか注意しながら進みつつ、二式テラ銃をスリングに肩を通して掛け、
リュックサック側面に括りつけたサブマシンガンを取り外して静かにコッキングし初弾を装填する。
サイレンサー付きのイギリス製サブマシンガン『ステンMkⅥ』愛用していたベルグマン1920と同口径の9ミリルガー弾を使用するタイプだ。
防弾性抜群のバリアジャケットを装備する魔導師に拳銃弾を使用する短機関銃はほとんど無力だが、今回はその性能が必要なのだ。
サイレンサーがしっかりと取り付けられているのを確認したステンを胸に抱えて、月の光で影を作らないようにほふく前進でテントの入り口まで進む。

{札の反応は無し、結界や罠の類は張られていない。ワイヤートラップや地雷が仕掛けられた形跡も無し、随分無防備だな。}

うまくいきすぎて逆に怖い、あまりの順調さに逆に神経が逆なでされる。順調なのはいいことだが、それだけに泳がされているとも考えてしまう。
それが明確になった時の感覚はとんでもなく最悪だ、中国大陸での戦いで初めて感じた恐怖を今でも克明に思い出せる。
与えられた部隊を率いて敵陣に向かい、いざ作戦が始まれば待ち構えていた中国軍の一斉掃射の中を突撃させられる。
あの時の絶望感はまさに悪夢だ、その恐怖に一心不乱で突撃すれば気付けば自分ひとりだったなんて事もあった。
両軍の夥しい死体で埋まり、地面は血と雨で沼のようになった塹壕の中で見た地獄は今でも鮮明に思い出す。

{落ち着け、罠にかけられている様子は今のところない。大丈夫だ。行くぞ!}

こんがらがり始めるを思考を追いだし、数度息を整え、素早く片膝立ちになると入口を跳ね上げて銃口を突っ込む。
小細工を確認している暇は無い、相手は魔導師だ。少しでも隙を与えて魔術やら魔法やらを使われる訳にはいかない。
鍛え上げた筋力と瞬発力で地面に転がる寝袋に一連射し、跳ねあがる銃身を押さえこみさらにその奥にも一連射。
装薬を減らした亜音速弾の銃声はサイレンサーによって完全にかき消されて、僅かに空気の漏れるような音を響かせる。
9ミリの鉛玉で瞬く間に穴だらけになる寝袋から僅かに舞い上がる真っ白な綿に洞爺は首を傾げた。
警戒しながら素早く寝袋に近づき、穴だらけになった寝袋を触る。誰も寝ていない有名ブランドの寝袋はとても冷たかった。
感づかれてたわけではない、今までこの寝袋に包まっていたなら僅かでも体温が残るしテント内に体臭の残り香が籠るはずだ。
なんの匂いもしないテントと、その場に脱ぎ捨てられて冷たくなった青の横ストライプ模様の下着はそれを証明している。

{罠ってわけじゃないな、留守だったか。しかし無防備だな、罠も留守番も無しとは。殺してくださいと言っているようなものだぞ。}

異世界人の考える事は解らない、罠無し守備兵無しとここまで無防備だと逆に感心してしまう。
ここが戦場ならば真っ先に制圧されてしまう事間違い無しだ。拠点が制圧される事が怖くないのだろうか?自分はとても怖かった。
今はサーシャがいるから少しは気楽だが、それ以前、特に月村と遭遇したあの夜から気が休まる時間は無かった。
痛くない腹を探られるのは気に障るが、何も無いんだから別に堂々としていれば問題ない。しかし理由がどうあれ殺されるのはごめんなのだ。

{ふぅむ・・・まるで家族の食卓を見ているかのようだ。}

ガスコンロとその脇に寄せられたバーベキュー用の炭型発火剤と墨の段ボール箱、片づけられた紙皿などの食器を検分しつつ意味も無く比較する。
少なくとも数時間前に彼女達は夕飯をガッツリ食べてここを出ている、おそらく炭火焼肉だ。
ゴミの中にあった牛肉のスチロールパックと野菜のカスから逆算して、おそらく大人4人分、一人当たり大人2人分は食べている。
普段の生活をするためにしてはカロリーの取り過ぎだが、しかしこれから何か大仕事をするというのならば話は別だ。

{何かやらかす気だな、いったい何をするつもりだ?もう少し調べてみるか、何か解るかもしれん。}

テントの中を漁り、荷物をひっくり返して見慣れないものや役に立ちそうなものを探す。
危険だが、異世界の装備は何かの役に立つかもしれないのだ。できるなら鹵獲しない手は無い、月村家にも分ければ喜ぶだろう。
その中に、見たことのない文字が彫られた長方形の筆箱型で部品入れのような機材を見つけた。
ポーチから手帳を取り出し、ミッドチルダ語のページを開く。手帳の文字と意味を照らし合わせると、この端末の正体が解った。

{モデル990、最新型携帯式デバイス簡易整備及び改修端末か。}

ユーノによるとミッドチルダで話題の新機種で、スクライアの中でも人気らしい。いい物を見つけた、これは良い物だ。
思わず笑みをこぼしながら触れると、端末が僅かに振動し空中にディスプレイとキーボードが映し出された。
突然の光景に目を疑った、こんなSFチックな道具は現代でも小説の中でしかあり得ない。どうやらスイッチを間違えて押してしまったようだ。
目の前に展開された空中投影ディスプレイに目を白黒しながら、読めない文字の羅列した画面を拙い手つきで触れてスクロールさせる。
まだ全ての文字は読めないが、画面に投影されたバルディッシュの画像と注釈文からあらかた予想が付いた。これはバルディッシュの整備目録だ。
残りの予備部品の数や現在の消耗などが書かれている文面をスクロールさせる。完全に読めないのが悔しい、これは情報の宝庫だ。

{何というか、暗号もないとは驚きだ。これだけ情報があれば戦況は変わるぞ。}

試しに部品の取り出しを選択して予備フレーム一式の項目に指で触れると、端末の引き出しが自動で開く。
中には角が丸い正三角形の形をした金色のアクセサリーが入っていた。
おそらくバルディッシュの待機形態なのだろう。手に取ってみるととても軽い、メガネ一つ分ほどの重さだ。
予備フレームを引き出しの中に戻して、ディスプレイに表示された収納の項目に触れると引き出しが閉じる。
収納完了と表示させると今度は引き出しを開けるだけの項目を選択する、引き出しを開けると中には何も無かった。
おそらく『収納』されたのだろう、デバイスにも搭載されているらしい不思議な空間にだ。

{素晴らしい。}

引き出しを閉じ、部品の項目から戻ってもう一度過去ログの項目に画面を戻す。
現在バルディッシュにインプットされている術式の特徴から弱点、バリアジャケットの構成比率、何から何まで残っている。
それも更新日時は昨日、まさに最新の情報だ。さすがに完全分解整備、オーバーホールと俗に呼ばれる記録は無いが、重要性計り知れない。
また残っている行動記録や通信ログも非常に有力な情報だ、彼女の行動傾向や思考傾向の推察に使える。

{ん?この魔術術式、連動するのか?んで次は集束系に繋がって・・・・本人はご丁寧に自爆覚悟か。しかも相当えげつないな。}

魔術とはこんなことまで可能にするものなのか、思わず頭を抱えそうになった。
現れたのは複数の魔術を連動してありったけの魔術をばら撒きながら自身のリンカーコアを暴走させ、周囲300メートルを焼きつくす人間爆弾になる自爆魔術だったのだ。
表示されるスペックが事実なら爆心地付近にいる人間は骨一つ残さず吹き飛ぶだろう、そして本人も塵一つのこらない。
さらに彼女を中心に半径150メートルは高濃度魔力に晒された汚染地帯と化す、えげつないことこの上ないはた迷惑な術式だ。
スパイ映画に有りそうなずいぶんと気合を入れた仕様である、それなのにこの整備器具には何も無いのが抜けているのか天才なのか解らない。
妙な脱力感を感じながらディスプレイに羅列された項目の中の一つをタッチすると、突然音声が流れ始めた。

≪あ~あ~、こちらアルフ、例の白いのを見てきたよ。≫

≪どっち?髪の方?服の方?≫

≪どっちも、服の方は大したことないね。フェイトの敵じゃないよ。≫

{これは、通信?傍受か?いや、保存された通信、通信ログか。}

確か今の時代は音声の録音を他の機材に『複製』して予備を取って別に保存する『バックアップ』と言う保存方が一般的だと聞いた。
これもその類だ、おそらくバルディッシュに保存されていた通信のバックアップだろう。保存日時は今日の夕方、最新だ。

≪髪の方は?≫

≪ヤバいね。相当ヤバい。あいつは服と比べて格が違う。≫

≪どうして?≫

≪戦い方がうますぎる。記憶力もいい、こっちの名前を覚えてやがった。それに、あいつは・・・・・≫

≪あいつは?≫

≪匂いがするんだよ。血と火薬の両方の匂いが体にこびりついてぷんぷんさせてる。≫

≪血と火薬?・・・・まさか・・・≫

≪そうだよフェイト。あいつはすでに人殺しさ。それもかなりの・・・≫

{なかなか良い勘しているじゃないか。}

≪殺人鬼?≫

≪そうでもないね。度合いは違うけど風呂場にいた『かいへいたい』だっけか?それと同じ匂いがするよ。≫

≪つまり・・・軍人?この世界の?でも・・・・私と同じくらいの年だよ?≫

≪そこまでは分からないけど・・・・ただあいつは魔導師じゃないのは確かだ。気を付けたほうがいいよ、あいつは普通じゃない。≫

≪・・・・解った。アルフ、そっちはもう良いから少し休んだら戻ってきて。ジュエルシードの場所はつかめたよ。今晩には封印できる。≫

≪さっすが!あたしのご主人さまだ。でもあいつら、どうするんだい?≫

≪・・・まだ、様子を見よう。こっちから仕掛けるのはあまり良くなさそうだし。それまでは体を休めて。≫

≪あいよ~。≫

通信が終わり、再び沈黙が流れる。音声再生のディスプレイを消し、別のデータを探しながらぼそりと呟く。

「なるほど、ジュエルシードか。これを狙っていた訳か。」

拙いタッチで新たなディスプレイに表示された地図の川に、記されたマーカーとジュエルシードの画像が映し出されていた。
あいつらはこれが狙いだったのだ。ここからだと旅館付近の古い公園、距離的に先回りは車両でも無い限り無理だろう。

{くそっ、やはり罠だったのか?だが、それにしてはこの情報の塊はあまりにも不可解だ。やはりよくわからんことが多い。}

あの子はジュエルシードが封印直前に発する魔力にきっと気付く、気付かれる前に始末しなければならないが時間的に猶予がない。
ディスプレイを閉じ、端末をリュックサックに入れてそれを背負う。
未知の機械を鹵獲するのは危険が伴うが、これはその危険を冒すにふさわしい情報の塊だ。持って行って損は無い。
取るべきものは取った以上爆破してしまいたいところだが、宿には本職がうじゃうじゃといる。
自分も本職だがここで目立つ行動は絶対にまずい、自分は本来ここには存在するはずの無い人間だ。
とりあえず取るべきものは取ったのだ、これで良しとしよう。
テントに転がる残り物をもう一度一瞥し、テントを出て茂みに身を隠しながら無線機を取り出して摘みを回す。
月村から借り受けた携帯無線機だ、近距離から長距離通信まで可能な最新型である。

「こちらシルバー、コード1897、クローバー、アクセル、フォックストロット、323。シルバーより756、応答されたし。」

規定された周波数を指定し暗号を名乗り、近隣の山中の秘密基地に駐屯しているらしい月村守備部隊に問い掛ける。
聞こえるのは砂嵐、電波が悪いのだろうか?試しに予備チャンネルに切り替え、もう一度問いかける。だが、応答は無い。

{無線機の故障か?仕方ないな。}

摘みを再度回し、月村邸の通信室につなげる。

「こちらシルバー、コード1897、クローバー、アクセル、フォックストロット、323。シルバーより通信室、応答されたし。」

反応はない、ただむなしく砂嵐が流れるのみ。おかしい、砂嵐から無音に変わった無線機に違和感を感じて切った時、微かに足音が聞こえた。

{足音、戻ってきたのか?いや少女にしては重たい音だ、それにこの擦れる金属音は・・・}

かすかに聞こえる息使いと足音に耳をすませる。違う、女の息使いではないし数が多い。
男だ、足運びからして訓練を受けた兵士だろう。人数は4人、足音の重さからしてそれなりの装備をしている。
距離は近い、下手な物音一つ立てれば一瞬で気付かれてしまう。
仕方が無い、洞爺は小さく息を吸うと近くの林まで戻り夜闇に沈む草木の合間に姿を紛れ込ませ静かに息をひそめた。
月明かりが薄く周囲を照らす、その月明かりに自動小銃を構えて周囲を捜索するような動きを見せる人影が映った。
小銃は陰からしておそらく機関部がグリップの後ろに来るプルバップという型のサプレッサー付きアサルトライフルだ。
4人とも同じアサルトライフルを携え、一人だけスコープを付けたでかい対戦車ライフルのような狙撃銃を背中に担いでいる
その人影の頭部は隙なくライフルを構え、見慣れない機械のゴーグルを頭部に装備している。

{噂に聞くサバイバルゲームか?違うな、身のこなしが素人とは思えないくらい戦闘慣れしているし、銃はどう見ても本物だ。
人種は欧州系白人揃い、少し雑多な所を見るにロシア人のようだ。妙に肌白い奴が多いのが気にかかるが、日系人はいない。
元軍人たちの連中が無可動実銃の中身をエアソフトガンに入れ替えて使っている可能性、それもなし。
そもそもそこまで金を掛けるほど現用のエアソフトガンの出来は悪くない、改造も金と手間が掛りすぎて成果に見合わない。
月村の哨戒部隊?そんな話は聞いていないし装備が変だ、FAMASもどきにロシア軍の森林迷彩か。
見た目はロシア政府軍のようだが、FAMASもどきは形状からしてグローザーではないな。
AKの機関部をフレームごと持ってきたような銃床の形状、確か中国のやつのあんなのがあったはずだ。
装備もありゃ完全に戦闘用、奴らの目もこれからドンパチする気満々だぞ。それにあの対戦車ライフルみたいなのはダネルNTW?
マウザーの20ミリ対空機関砲弾を基にした弾を使うアエロテクCSIR社の対戦車ライフルじゃないか。
当たれば体半分軽く吹き飛ぶ代物だ、こんなのが必要な相手というと・・・嫌な予感しかしないな。}

気配を殺しつつ相手の装備を検分しながら脅威と所属の解明を図る、まずわかるのは月村の部隊ではない可能性が極めて高いということだ。
基本的に装備は私物などの一部を除けばほとんどが月村重工製であり、また自衛隊や米軍型装備で固められているからだ。
これは場合によっては自衛隊や在日米軍に偽装して行動をしやすくし、また政府軍との弾薬供給も視野に入れているためだ。
そのため日本の海鳴で活動する部隊が使用するのは89式か、M16系列であり基本的にプルバップ式アサルトライフルは使用していない。
それにあんな装備をした部隊がここにいるという事前情報は聞いていない。
高町家もいるという手前、もしかしたら不意を突いた訓練かもしれないが、この時期にそれはまずあり得ない。
そんな余力があるとは思えないし、そうだったら自分に位は教えているはずだろう。
この状況下で奇襲されれば訓練ではない実戦と誤認してしまう可能性は大いにある、味方に味方を殺してほしくないはずだ。

{ロシア軍じゃないな、いくら今の日本が平和ボケしているとはいえそう簡単に警戒網を抜けられるとは考えにくいし、そもそも戦争をする理由が無い。
領土問題があるとはいえあのKGB上りがわざわざ同盟国という蜂の巣を叩くか?あり得ないな、絶対にあり得ない。}

地面を這うようにして進行方向から避けつつ、連中の装備を検分しながら断言する。

{暗視ゴーグルか、サーマルで無いだけマシだが厄介なことには変わりない。やはり罠か?いや、それだとおかしいな。
あの子達が仕掛けた罠なら何故俺がなぜテントの中に居るうちに何故包囲しなかった?それに、こいつらの進軍方向は旅館だ。}

周囲を警戒しながら旅館に向けて進軍していく敵の背後にゆっくりと回り込み、腰の鞘に納めたサバイバルナイフの柄を握る。
だがすぐに襲いかかるような真似はしない、敵は4人間隔を開けて進んでいるが互いをカバーし合っており中々隙が無いのだ。
これでは一人に手を掛けた瞬間、襲撃に感づいた別の敵にハチの巣にされてしまう。

{隙が無い、結構場数を踏んでるな。あのダネル持ちを中心に互いを意識しつつ周囲を警戒している、一人では無理か。}

ナイフの柄から手を離し静かに過ぎ去るのを待つ、地面に伏せ身動きせず周囲に同化するような感覚でただじっとする。
他にできることはない、今はかすかに聞こえる足音と自身の鼓動が聞きながら気づかれないのを祈るだけだ。
敵の足音で距離を見極め、呼吸すら届く距離に近づいたところを息を止めてわずかに敵の姿が見える程度に視線を反らす。
幸い、連中は気付かないで歩いて行った。
足音が遠くなるのを確認し、静かに匍匐前進でゆっくりと彼らが歩いてきた足跡を逆にたどりながら進む。少し進むと草が生え放題になった古い駐車場に出た。
おそらくこのキャンプ場の駐車場だろうが、洞爺はその駐車場を見て眉をひそめた。
荒れ果てた駐車場には場違いな車が3台と中型トラックの荷台にレーダー設備をとってつけたような車が3台、先ほどの連中と同じような武装をした部隊が展開していたのだ。

{中型トラック一台に、米軍のハンヴィーが二台、荷台にアンテナをつけた大型トラックが3台、おそらく無線か妨害装置を積んでる型だな。
歩哨6名と、作業中なのが8名、手持無沙汰が3名、車内は気配なし。所属を示す特徴なし。何なんだこの部隊は?こんな情報聞いて無いぞ。}

明らかに何かある、洞爺はそう確信しつつ視線を2台あるハンヴィーに向けた。武装は無いが、手入れは行き届いているらしい。
エンジンが掛っている所を見ると燃料も入っているだろう、騒音もほど良く響いている。
敵は17名、光源は月明かりと車のライトのみ、乱雑に置かれたゴミと廃車、適度に生えた草は視界を否応なしに狭めている。
十分制圧可能な状況といえるだろう、少なくとも米軍の物資中継施設よりは手薄だ。

{この通信障害はこいつらが仕掛けたジャミングか?そうだとすると見た感じ小説の挿絵から出てきたような車のどれかが本元だな。
まったく、未来だな。あのサーマルゴーグルといい、暗視ゴーグルといい、電波妨害装置まで・・・・とことん便利になってやがる。}

拳銃一丁だけをとっても時代の差を感じるというのに、こうやって見てしまうともうたまらないのはなぜだろうか。
自分の知っている戦場とは何かが違う、無機質で無駄を省いた機械のような感じがしてならない。
一つスイッチを入れてしまえば、後は機械達が何でもしてくれるオートメーション化された戦場、空想が現実となった時代。
照準、仰角修正、偵察任務、砲弾装填、信管調節、着弾観測、今まで生身の人間が行っていた行動が機械に置き換わる。
それがひどく恐ろしく、むごいものに感じる。なぜなら人間はたった一つスイッチを押すだけで、機械が自動的に人間を殺すのだ。

{反政府組織の前哨基地だったら、ここに作られたらあとが面倒だ。調べる必要があるな。}

顔を隠すためガスマスクをかぶり、静かにナイフを抜いて逆手に持ち替え、中腰で物音を立てずに周囲を警戒している歩哨に近づいて行く。
こいつに手を掛けたら、後は時間との勝負だ。一人始末すれば、異変に気づかれるまであまり時間は無い。
もし敵なら異変に気づかれる前にほぼ全員を始末する必要がある、ガタルカナルでやったのと同じように物音を立てず、消えるように殺す。

{まずは、一人。}

誰も見ていない、誰も気にしていないタイミングを見極める。相手は警戒しているとはいえ、先ほどの4人組ほどではない。
隙はすぐさま訪れた、近くで作業していた兵が持ち場から離れて談笑している兵の輪に入った。
誰も見ていない隙を突いて接近しで歩哨の膝裏を蹴り、膝をついた歩哨の口を押さえる。
驚いて抵抗も出来ない歩哨に手慣れた動作でナイフを喉仏に突きつける、一瞬の動揺の後両手を上げる彼を暗い林の陰に引き摺りこんだ。




◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




嫌な感じだ、薄暗い森を眺めながら彼は中国製アサルトライフルのグリップを握る手のひらに出る嫌な汗に、予感めいたものを感じていた。
母国イタリアの仲介屋の紹介で仕事を受け、日本にやって来てからずっと感じているこのなにか引っかかるような違和感。
それが今になってより形を持って感じられるようになった。この薄気味悪い森の奥から誰かに見られているような気配が、ほんのかすかに感じるのだ。
だがそのかすかな気配は常にゆらゆらと揺らめく蜃気楼のように捉えどころが無い、まったくもって気味が悪い感覚だ。

「なぁ、月村の哨戒部隊は本当に来ないのか?こんな目立つ所で待機してたら狙撃の的だ。」

「連中は町のごたごたに付き合っててそれどころじゃない、町中でドンパチして忙しいんだ。見ただろう?警戒網に穴があいてるのを。」

「それくらい俺だって知ってるぜ。確か流れのガキ二人組に手柄を掻っ攫われて面目丸つぶれって話だ。だがありゃマジか?あの月村が?」

「さぁな、あの件の情報は今も錯綜しててどれが本物か解らねぇ。政府や政府側組織も本気で隠ぺいしに掛ってるからな。
ただ確実なのは、デカイ化け物の木が町を破壊して町中が木のゾンビみたいなのであふれかえって、巻き込まれた市民を大量に虐殺した。
その時月村はまともな対応を出来ておらず、無駄に時間が経過し被害は確実に拡大しつつあった。
だが狩猟用ライフルで応戦する子供が幼い妖怪を連れて脱出した直後、謎の魔術によって異変は一発で収まった。これは事実だ。」

まるでバイオハザードだったな、彼は裏ルートで手に入れた当時の町の状況を克明に写したビデオ映像を思い出しつつ相槌を打つ。
休日でにぎわう中心街が一瞬で惨劇の町に変わる瞬間と、撮影者が死に耐えるまでを取ったまさに衝撃映像だった。
突然町中に巨大な木が出現し町を破壊しながら膨張を続け、その木の根元から人型の木の化け物がワラワラと現れて市民たちを次々と殺害していく。
逃げる撮影者は応戦する警官の指示に従ってとあるビルに逃げ込んだが、応戦も虚しく警官は殺され化け物はビルに逃げ込んだ市民を残らず殺し尽くした。
撮影者もその時正面ロビーで殺され、カメラは録画状態のまま開かれたドアから外に転がり出て道路に転がったままビルの入り口を写すアングルでしばらく撮影を続行。
あらかた殺し尽くしたのかロビーから化け物が出ていってから少しして、町から逃げてきたと思しき少年が幼い妖狐の手を引いてビルにやってきた。
持てるだけの物資を突っ込んだらしいリュックを背負い、狩猟用ライフルで化け物に応戦しつつビルの中に入ってシャッターを下ろす。
その数分後映像は唐突に終わるが、その内容故に今年に流れた映像の中ではトップクラスの衝撃度だ。

「それに例の事件前にも結構派手にやっては被害ばかり増やしてたってのが俺の情報屋の話だ。いつもとは状況が違う。」

自分の後ろに立つ隊長格の熊のようなでかく太い体系のロシア人傭兵がロシア語で外見通り熊のような太い声色で言葉少なに断言する。
彼は傭兵の間ではそこそこ名の知れた中堅の腕利きだ、情報網も自分よりは当てになるだろう。
くそ、やっぱりこんな依頼を受けるんじゃなかった。いくら前金が良くても、もう少し警戒すべきだった。
今日何度目かの悪態を懲りずに履きながら、自前の中国製アサルトライフルを握り直す。
長年の相棒である86式自動歩槍の整備は万全、特注のサプレッサーも付けており抜かりは無い。
自分達傭兵にとってこの手の仕事はいつものことだ、金をもらい、厄介な仕事を遂行するのが自分達。
今日のお仕事はちょっと強引なエスコート、依頼人は珍しい事に十字軍を名乗る革新派の反政府人種差別組織。
前金だけでも日本円でゼロが6つ、前金としては十分以上でまさに破格だがそれでもこの仕事は受けるんじゃなかった。
しかしここで文句を言っても始まらない、彼は86式を握り直すとハンヴィーのボンネットに腰を下ろした。
恐ろしい、いつどこから敵が来るのか、どこに敵がいるのかこの夜闇で支配された森林では予測が効かない。
夜の戦闘は嫌いだ、いつ不意打ちが来てもおかしくないし、見通しが効かないから反撃もうまく出来ないのだ。
ナイトビジョンを掛けようか、ふとヘルメットに取り付けた暗視装置に意識が向くが、今使えば旅館での行動で使用する際に電池残量に不安が出来る。

{くそが、しかも相手はよりにも寄って月村重工とは・・・}

月村重工といえば魔術側において、昔から色々と話題が尽きない有名な月村一族の政府側についた一族だ。
前当主を失い少々組織内でのごたごたが見えるとはいえ兵士たちの各々の能力は最高、装備も自前の工場で作った最高級品をそろえている。
魔術戦だけでなく現代戦にも長けた月村重工警備部の力は侮れず、その組織力や戦闘能力はかの国の精鋭部隊にも匹敵する。
月村重工所有のビルや施設を警備する警備員たちは、派遣部門に所属する表の民間人でさえ屈強な軍人もどきばかり。
しかも武装は自家生産した最新式の暴徒鎮圧用低殺傷兵器をはじめとしたあらゆる武装をそろえている。
そして自分たちの相手にする裏を知る警備隊はその上を行くベテラン揃いの兵、ありとあらゆる最新兵器を巧みに操る兵士たちだ。
構成員は魔術を使えない人間や力のない妖怪がほとんどだが、戦闘になれば巧みな戦術と数を生かした作戦、現代火器の瞬間火力を生かして戦い、並みの魔術師ではまず歯が立たない。

{やっぱ、ばっくれちゃおうかな。}

正直無理、いくら旅行中で護衛が少ないといっても誘拐なんてできそうにない。
月村重工で一番恐ろしいのは何か、と問われれば大抵は全てと答えるが、一番ヤバいのは前当主だという声が大きいのは有名な話だ。
資金は潤沢、人脈多し、家は要塞、武器は自家製、部下達は精鋭、側近は血の繋がりがないとはいえ思いっきり技術を継いでいるリアルチートの子孫。
それを統括する当主たる彼女はまさに女傑、前当主は一たび戦場に出れば何もかも壊して更地にするといわれる人型戦車。
組織のでかさでは上はたくさんいるが、とにかく中身が異常に濃ゆい連中なのだ。
その後釜である現当主はその戦闘力はないがトップとしては合格、さらに近々結婚してあの御神流の後継者を婿養子にするらしい。
しかも政略結婚かと思えば普通の恋愛結婚でだ、まともに相手したら命がダース単位であっても足りやしない連中がさらに手に負えなくなったのである、無理だ。

{かといってここで依頼反故にしたら傭兵としての信頼がた落ちなんだよね、傭兵は信頼が命だし。でもなぁ・・・}

「おい、逃げようとか考えるなよ。」

「・・・・・・」

「あからさまにそっぽ向くんじゃねぇ・・・」

どんだけ勘が鋭いんだ、隊長格の顔をまじまじと見つめてると彼は小さくため息をついてハンヴィーのトランクの方へ足を向けた。

「どこ行くんだ?」

「何か飲むものとってくる、お前が思う通り月村は強敵だ。何か飲まなねぇとやってられんっての。」

「作戦はあるけど、アレだからねぇ・・・そういや時間は?」

「後40分、あと20分したらスタンバイだ。柄にもなくドキドキしてきたぜ。まさか米軍の輸送車列に潜り込むなんて思いもしなかった。」

「思いつくがやろうなんて普通は考えないさ、前時代的だし中東でこれやった組織は反撃されて壊滅したんだ。偽装は完璧なんだろうな?」

「あぁ、元が米軍横流しだ。ナンバープレートかなにまでしっかり偽装済み、連中に中をのぞかれない限りバレやしない。
向こうの方も工作完了、予定通りもぐりこむ部隊の車両を誘導し秘密裏に始末したって報告があった。
もちろん隊の連中は幻術でごまかしてる、今のところ車両が予定より2台少ないのに気づいていない。
あとはその減った車列にさりげなく俺たちが合流するだけだ、道を間違えたとか理由をつけてな。」

今回の作戦は至極単純だ、まず各4名10組の囮部隊が旅館に接近し、我々が潜り込んだ米軍輸送隊が旅館前を通過する時を見計らって5組が攻撃を開始、護衛を出来る限り引きつける。
本当は内部にひそんでいる情報収集班が加勢するはずだが、奴らは昼間にドジってしまい無力化され、今は監視付きで拘束されている。
この戦闘ではとにかく派手にやる、民間人を巻き込むのもお構い無しだ。むしろ気を引くためにわざとやれとすらいわれている。
ターゲットと護衛を引き離した所で残り4組が米軍と自衛隊を攻撃、最初は手加減し対応させるよう仕向ける。
これは月村の護衛を動きにくくし、かつターゲットと分断させる作戦だ。
裏を知らない連中からすればターゲットとその護衛はただの民間人、武器を手に戦闘中の護衛は自分達と同じ正体不明の武装集団の一人に見えるはずだ。
つまり三つ巴になる訳だが、人数で勝るこちら側とさらに勝る日米連合との間に挟まれれば月村の護衛や御神流とてどうしようもない。
日米連合の連中が対応し反撃の態勢を整えた所から本気で掛り、最後の1組の狙撃と迫撃砲で戦線を混乱させる。
その真っ只中に自分達がこの偽装ハンヴィーで乗り付け、本隊を投入し数の少ない護衛や障害を排除してターゲットを確保。
こっちの本隊は9名の少数精鋭、とにかく静かに、素早く目標を達成し、後は敵の追手を撒いて尻尾を巻いて逃げる。
もちろんこの格好もそのためだ、上手くいけば中国とロシアに濡れ衣を着せられる。政府側の関係にも打撃を与えられるまさに至れり尽くせりの作戦だ。

「んで、後はセーフハウスで尋問だよな。」

「それはクライアントの方でやるそうだ、俺達は引き渡したらそこで現地解散、しばらくは遊んで暮らす。」

「金払ってくれるかね?」

「それに関しては信用できる、しっかり払うモノは払う変な所で律義な連中だ。」

「・・・俺達が言う事じゃないけどな。やっぱどっちが悪魔かって言われると、断然連中なんだよなぁ。」

ガサゴソとトランクを漁る隊長格の言葉にふと彼はターゲット達の尋問風景が思い浮かんだ。
映画にありそうな拷問部屋、その中央で両手を鎖で繋がれ椅子に座らされたターゲットとそれを取り囲む黒ローブの集団。
今日のクライアントは反政府側の人種差別主義者の集まりだ、神に仕えて魔術を使える自分たちが特別な存在だと信じて疑わない連中である。
きっと尋問も容赦ない事だろう、死なない程度に何でもやらされるはずだ。
それこそ口に出すのもはばかれるような事や、あんな事はこんな事まで、ソレを考えた瞬間彼は背筋が寒くなるのを感じずには居られなかった。

「・・・どこだ、飲み物。」

「ミニガンの隣、少し奥。」

確か切り札のM134ミニガンの横にある段ボールに紙パックのリンゴジュースがあるはずだ。
それにしても、何にミニガンなんて何に使う気だろうか?やけに連中が勧めるから仕方なしに積んできたが、これが必要になる敵ってのはどんな奴だ?
ふと浮かんだ疑問に、今まで戦ってきた人外や化け物どもの姿が頭に浮かぶ。必要じゃない、とは絶対言えない。
むしろあると助かる、非常に有用な武器だ。7.62ミリNATO弾を分速約6000発で文字通りばら撒けるこいつはあって損ではない。
しかしそれでも釈然としない。確かに火力はとんでもないし、さすがの御神流でも弾幕に捕まればひとたまりもないだろう。
近距離から撃たれた拳銃弾を刀でたたき落とし、一気に肉薄してぶった切るような連中だがミニガンの弾幕までは捌けない。
ただの銃弾でも毎分6000発から7000発の速度で撃ち出されるのだ、これを防ぐのはたとえ一流の魔術障壁を持つ人間だとしても難しい。
撃たせてくれればの話だが、それでもいい。何しろ重火器はこれだけじゃない。
対戦車兵器のハリウッドスターといえそうなくらい軍民問わず知名度の高いソ連製対戦車擲弾発射機『RPG-7』をはじめとし、
陸自でも使われている『パンツァー・ファウスト3』に、一発だけだが支給された『ジャベリン対戦車ミサイル』まで用意されている。
大火力を越えた超火力だ、旅館ごと吹き飛ばせと言わんばかりである。
さらには囮部隊にも5連発型リボルビング・グレネードランチャー『アーウェン37』を弾薬もろともゴロゴロ持たせている。
携行するアサルトライフルやライトマシンガンと一緒に撃ちこまれるグレネードの嵐は派手過ぎだ。

「なぁ、俺達は誘拐に行くんだよな。戦争やる訳じゃないよな?」

必然的に疑問は募る、これでもし誘拐では無く戦争に駆り出された時には目も当てられない。
自分が受けた仕事はあくまで誘拐であり、戦争をする契約を結んだ訳ではないのだ。
月村家と事を構えるだけでも綱渡りなのに、ましてや戦争をするなどまっぴらごめんなのである。

「なぁ、もしこれで戦争やるって話になるんなら俺は降りるぜ。」

返事が無い、口では裏切るなといいつつ彼も可能性を考えていたのだろうか?それなら話は早い。
なぜなら彼も傭兵だ、傭兵としての流儀は身についているだろう。クライアントが仕事内容を偽ったのならそれ相応の対応をするのが普通だ。
傭兵は金を貰って人を殺す、金に折り合いがつけばどんな作戦でもやる、一般的にそう思われているし間違いではない。
ただ傭兵も仕事の選り好みはするし、どれだけ金を積まれてもやらない仕事は絶対にやらない。傭兵も自分の命は惜しいからだ。

「悪いが月村と事を構えるのは、俺個人としてもプラスになる事が少な過ぎだ。これ以上はいくら金を積まれてもやりたくない。
あんただってそうだろ?わざわざ自分の首絞めるような真似するなんて、俺は絶対に嫌だね。」

傭兵としてそこは譲れないね、と断言した彼はそこでふと疑問に思った。やけに静かだ、さっきまでごそごそと探す音がしたはずなのに全くしない。
いくら車のエンジンが掛っているからとはいえ、やけに静かすぎる。

「おい、聞いてんのかよ?」

問いかけても返事は無い、どうやら何かトラブったようだ。仕方ない、彼はロシア人を手伝うため車の後部に回った。

「何やって――――」

車体後部を覗き込んだ瞬間、目の前の惨状に言葉を失った。喉から大量の血を流し、さっきまで話していたはずのロシア人が倒れていたのだ。
見間違える訳が無い、大の字に倒れ白眼を剥いた彼に血の気は無く完全に死んでいる。
彼に抵抗の痕跡はまったくない、首筋に背後から一撃で延髄を切られ全く出来なかったのだろう。
血の気が引くとはまさにこのことだ、こんな光景は前にも見たことがある。この世界ではこんなことは日常茶飯事だ。
妖怪や魔術師、日本ではさらに巫女や忍者、侍など歴史に消えた連中がうじゃうじゃと生き残っているのだ。
そんな連中と年がら年中殺しあっていれば見慣れてしまう、だから断言できる。
ここに敵が忍び込んでいる。それもかなり経験のあるベテランだ、しかも珍しいことにおそらく軍人上がりだろう。
首に残る切り口は軍用のサバイバルナイフ、魔術などを使用した形跡はなく背後から一撃と手際の恐ろしいほどよい。

{くそが!!}

気だるげに感じていた退屈が吹き飛び、緊張に神経が研ぎ澄まされた瞬間背後に僅かな人の気配を感じた。
近い、なのに遠く感じるあまりにも希薄な気配、だが一度捕まえれば感じ間違える訳が無い。

「Oh, Muove.{おおっと、動くなよ。}」

86式の安全装置を外し振り、スライドを引きながら向きざまに構えようとした直後、何かを向けられる気配と共に後ろから声を掛けられた。
異様な深みを持ったやや低い男の子のくぐもった声、しかもご丁寧に母国語であるイタリア語だ。

「こっちを見るな、まず武器を捨てろ。銃は弾倉を外し、チェンバーの弾を抜いてからトランクの中に放り込め。
他の武器も同じようにして放り込むんだ。下手な真似するな、したら撃つ。解るな?傭兵。」

くそったれ、傭兵は彼の言葉から感じる本気の気配に内心毒ついた。彼は本気で撃つ、経験すれば本気かどうかなんて声を聞けばわかるのだ。
警告する彼の声には迷いもためらいも無い、下手なことをすれば確実に彼が構える銃が火を噴く。
ここは従うしかない、初弾と弾倉を抜いた86式をトランクに放り込み、次いでレッグホルスターに納めておいたスターム・ルガー『P89』も同じように弾倉と初弾を抜いて放り込む。
ベストに結わえつけておいたM1手榴弾やナイフも外して放り込んだ。

「よ~し、聞き分けの良い子は好きだ。両手を上に挙げてこっちを向け、ゆっくりな。」

彼の言う通り両手を頭の上に挙げて、ゆっくりと後ろに向き直る。やはり子供がいた。
ただし背丈に合わせた迷彩服を着て改造釣りベストを着こみ、リュックサックを背負ってガスマスクで顔を隠した、サイレンサー付きワルサーPPKを構えた子供だ。
だが油断はできない、この手際の良さと言葉の節々から感じられる威圧感はそう簡単に出せるものではない。

「こいつを動かせるな?できるなら頷け・・・よし、運転席に座れ。妙な気は起こすな、座るだけだ。」

子供の言葉に頷き、彼が運転席をまたいで助手席に座ってから運転席に座る。

「おい、どうするつもりだ?」

「車を出せ、旅館近くの森林公園まで行ってもらおう。」

「正気か?そんな事すれば、周りに気付かれるぞ。上手く忍び込んだのに、ここで目立つ真似するのかよ?」

「どうかな?早く出せ、それとも拾える命をここで落とすか?」

PPKの引き金に掛った人差し指に僅かな力が入る。彼の言葉には微塵の動揺も無い、まるで目立つことは無いとでも言うように。
良いだろう、傭兵はハンドルを握りブレーキとアクセルを一度確認してから、サイドブレーキを下ろす。
アクセルを踏むふりをしてブレーキを強く踏み、そのままに大きくエンジンをふかした。
これで周りの連中も異常に気付くはず、だが奇妙なことに周りからは物音ひとつ聞こえない。まるで誰もいないかのように静かだ。

「どうした?早く出せ?」

「お前、まさか・・・」

「気づいて無かったのか?鋭いのか鈍いのかわからん奴だな、ここには俺とお前以外の人間はいない。あとはみんな死体だよ。
他の奴よりも気を張っていたから最初に始末しようかと思ったが、後回しにして正解だったな。」

物音一つしない周囲に、ようやく思い至った傭兵は愕然としながら少年を見つめ直す。
彼は自分以外のここに居た傭兵をいつの間にか皆殺しにしてしまったのだ。
気づいてしまった途端、傭兵は目の前の少年に対して言葉にできない強烈な違和感を覚えずには居られなかった。
明らかに異常、いくらなんでもこんな技量を持った少年兵が生まれるか?答えは否だ、彼のその技術は天性によるものではない。
彼から感じる雰囲気はまさに百戦錬磨の軍人のモノ、どこで戦っていても少年兵が纏える空気では無いのだ。
突きつけられたPPKを一瞥し、傭兵はアクセルを僅かに踏んでハンヴィーを発進させた。
ウィンカーを出して駐車場の出口で一時停止し、車が来ないのを確認してから左折し旅館へと走らせる。

「なにもんだ、あんた。月村の新顔か?」

「答える必要が?作戦は失敗だ、傭兵。お前がまだ生きてるのは価値があるからだ、傭兵ならそれ位解るだろう?」

「くっ・・・」

「公園まで少しかかる、その間に俺の質問に正直に答えてもらおうか?」

「嫌だね、傭兵にもルールがあんだ。雇われた以上、雇い主が契約に違反しない限りは従うし、守秘義務があるんでね。」

「・・・なるほど、ならこういうのはどうだ?」

彼は一拍遅れて返答すると、なぜか突きつけていたPPKの銃口を上に向けてあからさまに安全装置を掛けた。

「お前は傭兵だ、俺に雇われろ。報酬は引き渡す際弁明の機会を設けさせること、前金として俺はお前を殺さない。変なことをしなけりゃな。」

「なに言ってやがる、二重契約しろって言うのか?ふざけんな。だいたい話が見えないぞガキ、気でも狂ったか?」

「二重?バカなこと言っちゃいけないな、この作戦は失敗したんだ。すでに月村へは君たちの無線機を通して連絡済、既に対処がなされている。
今から俺を殺して、先に行った連中に合流するか?わざわざ死にに行くのかね?しないだろう?君は傭兵なのだから。
君は金で雇われただけで、君を雇った組織に思い入れがあるわけじゃない。組織の存亡に命をかけるなんてことはしないな。
つまりお前はもう用済みのフリーという訳だ、そして今お前はこうして生死の狭間をウロチョロしてる。
しかもかなり高い確率でおまえは死ぬな、7割ってところか。だが、俺に雇われればそれをもう少し現実的な数字にできるぞ。」

「そんな与太話を信じるとでも?寝言は寝て言うんだな、おまえはスーパーマンじゃねぇんだぜ?
それに月村現当主はまだ若手だ、性格も人並み、ごまかしちゃいるが精神的にもまだまだ青い。そう簡単に殺せと命じられる人間じゃない。」

「信じたくなければ信じなきゃいい、証拠という証拠は残念ながらないし確かめさせるわけにもいかん。
だが言ったはずだ、お前が生きているのはまだ価値があるからだ。価値が無くなれば、生かしておく理由は無くなるだろう?」

「後で俺を殺すってか?月村の名に傷か付くぞ、俺の知っている情報も手に入らない。」

「俺が月村に所属してるなんて誰が言ったんだ?誰がお前の価値が情報だと言ったんだ?」

何気ない彼の言葉に心臓が締め付けられるような感覚がした。明らかな恫喝、ハッタリだという可能性は高い、だが思考に新しい可能性を弾きだすには十分な言葉だ。
彼は月村ではなく別の組織の人間かもしれないという可能性、非常にあり得る話だ。月村重工と同盟関係にある政府側組織、あるいは政府の人間かも知れない。
そうなると話は変わってくる、月村と同盟関係にある組織はともかく、政府となると命令に容赦は存在しない。
PPKを膝の上に置き、自信と余裕を見せる少年は良く研がれたサバイバルナイフを抜いてちらつかせる。
それであそこに居た傭兵達を皆殺しにしたのだろう、柄の部分に僅かな血が残っている。
マズイ、なんだかよくわからないが早く返事をしないと非情にまずい気がしてきた。

「誰だって死にたくは無い、今ならまだ生き残れる確率を上乗せできるぞ。どうだ?俺に雇われないか?」

「ふざけんな。」

「断るか。まぁまだ時間はある、その間に考え直してくれればいいんだ。」

「時間?」

「公園まであと3分くらいか、少し速度を上げろ。時間が押している。」

口の中がカラカラになる感触を傭兵は戦場以外で初めて感じた。気が付けば車を走らせてから十分近くたっている。
ちらつくナイフと少年の不気味な威圧感のある言葉が、思考の中を駆け巡り冷汗がにじみ出るのを感じる。
殺される、自分はここで殺される。価値とはこのことだったのだ、彼は傍から自分の持つ情報は当てにしていない。
必要としていたのは労働力、ハンヴィーを動かしてこの公園まで乗せてくる人間を必要としていたのだ。

「速度を落とすなよ、止まっていいのは曲がるときか赤信号、公園に着いたときだけだ。俺は急いでる、時間がない。」

後どれくらいだろうか、きっともう2分残っていない。もう公園の目の前だ、着いてしまえば自分は用済みだ。彼はきっと見逃さない。

「駐車場に止めろ、頭から突っ込んどけ。」

駐車場の端に車を止めさせられる。止めた瞬間、彼はナイフを逆手に持ち替えた。
肝が縮んだ、無言振り上げられるナイフが脳裏に浮かび、振り下ろされる瞬間まで鮮明に想像できる。
彼が振り下ろすナイフを胸に受けて一撃のもとに死ぬ自分、血しぶきを受けて自分を静かに見下ろす彼、その光景から感じる恐怖に傭兵はなりふり構わず叫んだ。

「わ、解った!あんたに雇われる!!今回のクライアントとの契約は破棄―――」

全て言い切る前に、顎下から固い何かに突き上げられる。揺らぐ意識の中、最後に見たのはナイフを振りかぶる少年だった。




◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




{少し脅し過ぎたか?脅しの腕が鈍ってないのが解ったからよしとするが、少々悪い事をしたな。}

運転席で白眼を剥いてあんぐり開けた口から泡を吹くイタリア人傭兵を見下ろして洞爺は内心唖然としていた、どうやら脅しが効き過ぎたらしい。
元々こういう交渉ごとはあまり得意というわけではない。力加減が難しく、どうしてもやりすぎてしまうところがある。
自主的に気絶してしまった傭兵に振り下ろすつもりだった拳を下ろし、ナイフを鞘に戻すと洞爺は傭兵の体をビニールテープで縛った。
両足もきっちりそろえて足首と膝をテープでがっちりと縛り、背もたれに体を預ける傭兵を座席にテープでぐるぐる巻きにして固定する。
最後に口をふさいで完成、どこからどう見ても反政府ゲリラか何かに捕まった正規兵の出来上がりだ。

{さて、急がないとな。}

がっちりきっちりと縛り、生半可な力や技では抜けないようにしてから後部座席に置いておいた二式を手にハンヴィーから降りる。
降りた途端、入口の柵から強烈な突風が吹いた。まるで来るなと言っているかのような風に、昔見た光景が重なって見えた。
暗い、先の見えない公園の入り口、鈴音にひっぱりまわされて首を突っ込んでしまったある事件のときとそっくりだ。

{あの時と同じだな、こんな風が吹いてきた。とても不気味で、言葉にできない違和感を感じる。}

二式の安全装置を外し、右腰に掛けた鞘から三十年式銃剣を抜いて二式に装着する。
閉められた柵を乗り越え、遊歩道に降りた。暗く、どこか忌避感を感じる暗闇はあの山道とそっくりだ。
引き返せ、引き返して何事もなかったことにしろ、思考の隅からそんな言葉が出てくる。
まるで誰かに囁かれているようだ。馬鹿馬鹿しい、以前は一蹴していたが今回は違うだろう。
この囁きはおそらく人除けの結界によるものだ、つまりこの奥には結界を張った誰かがいるということ。
間に合ったな、解れてくる思考と重い足に活を入れて歩みを進めながら洞爺はほくそ笑む。
しばらく行くと、遊歩道は広場の端に出た。端に出た途端、気分が晴れて足が軽くなる。
この公園の目玉である滝を間近で見ることができる桟橋の上、その橋の中心部に二人はジュエルシードを手に立っていた。
一人は黒いマントにレオタードのような衣服を身に纏い、金髪をツインテールにした赤い瞳の少女、フェイト。
もう一人は豊満な体を見せつけるような以前と同じスポーティな服装の犬耳女性、アルフ。
普遍的な世界にはおおよそそぐわない異様な二人に、洞爺は軽く眩暈を感じながらため息をついた。
ジュエルシードの光はすでに収束しつつある、ぎりぎりで間に合ったようだ。

「遅かったじゃないか、お仲間はどうしたんだい?」

予想していたのか驚いたそぶりもなくアルフは芯のある強気な口調で問いかけてきた。

「俺一人では不満かね、残念ながら一緒じゃない。あの子は旅行でここに来たのでな、ジュエルシード探しはお休みだ。今は布団の中でぐっすりだろう。」

「いいや、そのほうが楽さ。」

アルフはフェイトを庇うかのようにして前に立つ。洞爺は手製のサプレッサーを装着した二式テラ銃を肩に預け、挑発的に笑みを浮かべた。

「いつぞやとは逆だな、ジュエルシードから離れろ。」

「お断りします。」

フェイトはジュエルシードから目を離して洞爺を一瞥する。子供の表情とは思えない、されど子供の純粋な決意の表情だ。

「当然か。しかし解らんな、なぜそれほど危険なものに固執する? そいつは確かに願望を現実にする力はあるが、とても使いこなせるものではない。ただ暴走する魔力の塊だ。
もし君が何かを叶えたくて集めているなら、もう止めておけ。良いことは何も無いと断言できる。それとも祭壇にでも飾ってイアイアと崇めでもするのか。馬鹿馬鹿しい。」

「いあいあ?」

「正気とはおもえん、とても扱える代物じゃない。俺が言う事じゃないだろうが、その力はあまりにも不安定過ぎる。何故そんなモノに拘る?」

「私からも問わせて下さい。なぜあなたはジュエルシードを集めるの?」

なるほどそう来たか、ここで答えなければ自分が答えないのも正当化できると彼女は踏んだのだろう。
しかし逆に答えてしまえば彼女達の沈黙は受けが悪くなる、洞爺は少し考えるそぶりをしてから答えた。

「質問に質問で答えるのは褒められた事ではないが、まぁいい。それが危険なものだからだ。
ジュエルシードは単体でも凄まじい破壊力を発揮することはこれまでの事からして明白だ。
もし下手に利用されるなんてことになれば、最悪世界が滅ぶ。まるで小説みたいにな。
そんなことは認めない、だから集め、元の持ち主にさっさと返すのだ。今のところはそれが一番の良策だからな。」

「騙されているという可能性は?元の持ち主を騙って接触してきたその人物が偽物という可能性は?
その持ち主が本物だとしても、その人が悪用するという可能性は考えないのですか?」

ありうる話だ。ユーノがそんなことをするとは思えないが、今までの行動や言動は全て演技という可能性は否定できない。
ユーノ・スクライア、遺跡発掘を生業とする部族の出身というが、地球人から見れば『エイリアン』に他ならない。
自分達は彼の言う次元世界などというものは知らない。彼の言っている事でっちあげだとしてもそれを見分けられないのだ。
なのはもまた同様、彼女が嘘をつく人間とは思えないが、それでも反証することができるのは事実だ。
彼女は子供だが彼女の出身は普通の家庭とは言い難い、無論彼女はそんなこと知りもしないようだがそれも怪しいものだ。
また洗脳や暗示などで操られている可能性、もしくは何も知らないで都合のいいことだけを聞かされて動いている可能性もある。
何より自分は『高町なのは』という少女の事を深く知っている訳ではない。ほんの一か月前に知り合ったばかりなのだ。
ただ解る事は彼女は歳に似合わず頑固者であり、自分が正しいと思うと止まらなくなる節があることだ。
これは長所だが、同時に短所である。どんなことがあってもぶれない、曲がらないがそのぶん順応性が無い。
また彼女の精神は歪であるという点も挙げられる。傍目は温和でどこにでもいる少女だろうが、やや献身が過ぎる所がありほんの僅かに違和感がある。
それを加味すればなのはもまた十分に怪しいのだ、なにより彼女の登場も自分と同じく都合が良い。
偶然助けられて、襲われてまた偶然出会って、またまた偶然彼女には魔法の素質が天才的にあったなど自分よりも偶然のオンパレードではないか。
だが、それがどうした?それを考えた所で今は何も解らない、判断材料が少なすぎる。故に今は考えない、解らない以上考えても時間の無駄だ。

「無いではない。だが、集めることはかわらん。」

「何故ですか?あなたは騙されているかもしれません。」

「君たちを信用することもできないぞ、君たちとて俺からしてみれば正体不明の異世界人なのだからな。
次元世界、魔法、時空管理局、どれもこれもまともに信じていたなら病院行き確実なことばかりだ。
だが現実である以上仕方のないことだ、なら俺はやるべきことをやるまでの事。今まで通りだ。
俺がする事のは、ジュエルシードを収集して無力化し、この町の安全を確保する事。もしあいつが騙していたとしても、簡単な話だ。」

そう、簡単な話だ。いつも通り、やるだけの話。洞爺は煙草を咥えて火をつけながら、平淡な口調で続ける。

「俺とあいつの関係は利害の一致、今はその程度の間柄に過ぎんよ。俺には護らなきゃならんものがある、そのために戦っている。」

全ては己の信念と約束のため、護りたいものを護るため。
そのためならなんだってやってやる。恨まれても、憎まれても構わない。それで護れるのなら構わない。
今は平和なのだ、例え敗戦を迎えても、これが仮初めの平和だとしても、平和は変わらない。
そしてそれを壊すモノはなんであれ許さない。
あの子達の笑顔が悲しみに変わらないためなら、どんな相手だって戦おう。何でも背負おう。
それがこの国を護る、軍人として、大人として、男としての責務だ。

「所で、俺の質問には答えてくれないのか?君は何のために集める、いったい何が目的だ?」

「教える意味はありません。したところで、あなたとは解り合えない。」

「無駄な争いは避けたいところなのだがな。その口ぶりだと、相容れぬようだ。」

なら話は終わりだ、洞爺は肩に預けていた二式を構えてフェイトの胸に狙いをつける。
トリガーガードにかけていた指を引き金に掛けて、紫煙を吐きだす。

「動くな、武器を捨て投降しろ。素直に従ってくれれば命までは取らん。」

「お断りします。バルディッシュ!!」

「yessir.」

世界の色が一変し、グレーに染まる。フェイトはジュエルシードからいったん離れるとバルディッシュを構えた。
それに従うようにアルフも彼女の右隣で突撃の構えをとった。形勢は圧倒的不利、しかし少なくとも戦闘には持ちこめた。
後は隙を見てジュエルシードを奪取し撤退するか、あるいは二人を返り討ちにして何とは拘束するか、この二つだ。




◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




同時刻、草木も眠る丑三つ時。
身を震わせるような邪悪な魔力になのはとユーノの二人は目を覚ました。アリサとすずかそして久遠が眠る中で飛び起きる。
洞爺の方に目をやるもすでに彼はいない、荷物の方に目をやれば無くなっていた。

≪斎賀君!?≫

≪たぶん、先に行ったんだ!≫

≪急がなぷべッ!?≫

なのはは部屋を飛び出そうとして、寝ぼけたアリサに右足をムンズとつかまれ転倒した。
足を掴んだままアリサは、左手で目をこすりながら顔を上げて眠そうになのはを見つめる。

「どぉこに、いくのよ?」

「ト、トイレだよ。」

酔っ払いのような口調のアリサに内心ドキドキしながら、なのはは咄嗟に嘘をついた。
どこからどう聞いても嘘にしか聞こえない古典的な言い訳だったが、眠気に思考が支配されているアリサは数秒間をおいて右足を離した。

「いってら~~ぁ・・・」

そして軽く手を振るといつの間にか布団に紛れ込んでいた久遠を抱きしめて寝息を立て始めた。
寝像が悪い久遠はしきりにもぞもぞと動くが、アリサにがっちりホールドされて動けなくなっている。
寝像が相当悪いことは前もって聞いていたがここまでとは思わなかったなのはだが、今回はこの寝像の悪さに感謝した。

「はむぅぅ~~~・・・・」

「うぇへへへ・・・」

久遠にハムハムかじられて右袖をよだれだらけにされながら、これまたよだれを垂らしながらオヤジ笑いするアリサはいつも通りだなを感じながら、部屋を出て抜き足差し脚で廊下を渡る。
鼾の煩い大部屋を通り過ぎ、男の呻きと腹の音が漏れ聞こえる障害者用トイレの前から全力疾走でロビーへ駆け抜ける。
玄関ロビーは明るかったが幸い人影は無い、なのははすぐさま靴箱から自分の靴を出して履くと浴衣姿のまま外へ駆けだした。
感じる膨大な魔力をたどり、駐車場を抜けて道路を渡り、向かいの森林公園へ続く遊歩道を走り続ける。
途中結界を抜けた時、森の奥から聞き慣れた爆発音が響いてきた。始まってしまった、間に合わなかった。なのはは悔しさのあまり歯噛みする。
肌に感じるジュエルシードの魔力が強くなるたびに閃光と爆発が煌めいて響く。間違いなくあの時の少女と洞爺だろう。
この頃大雑把にだが違いが解るようになった魔力は以前感じたあの子と同じであり、銃声や爆音の元は考える必要が全く無い。
夜空に明るい照明弾が上がるのを見て、なのははレイジングハートを起動させてバリアジャケットを装備して飛び上がると低空を駆けた。
さらにもう一発、照明弾が上がり、一際大きな爆音が夜空に響いて真っ赤な光が地上で光る。
爆発音と魔力光が大きくなり、照明弾直下の森林公園跡へと辿り着いた時唐突に感じた鼻先を押しつぶすような異物感になのはの足が止まった。

「痛ッ!!」

「くそっ、2重結界か!地上に降りて、解析して穴をあける。」

肩から飛び降りたユーノが結界に手を触れる、その向こうにあの時の少女、フェイトとオレンジの体毛を持つ狼と戦う洞爺がいた。
迷彩服に武器弾薬を詰め込んだリュックサックとウェストポーチを身につけ、その重量をものともせずに軽やかな身のこなしで魔力弾をかわし、
噛みつこうとする狼を回し蹴りで蹴り飛ばし、小銃で銃撃し、軽く後ろに引きながら銃剣で魔力ブレードを防ぎ流す。
爆音で声がかき消されたのか、彼らがなのはに気付いた気配は無い。
その戦いはなぜかとても異様なモノに見えた。それが二人の戦い方の違いの所為であるという事になのははすぐ気付く。
フェイトとアルフの戦いは言うならとても可憐、魅入ってしまうような美しさを持ちそして非常識なまでに強力。
洞爺のそれは無骨、恐れを知らないように強大な力に立ち向かう雄々しくとても勇ましいがとても非力。
前者は非常識で理解できない故に感じる異常、後者は常識で理解できる範囲故に解る異常。

「ハーケンッ!セイバー!!」

宙を駆ける金色の魔力刃に、洞爺は手榴弾を投げつけ爆風で相殺しながらバックステップ。
その背後に回り込んで噛みつこうとするアルフの顎を脇の下から銃床で突きあげ、前足を掴み盾のように扱いつつアンダースローでフェイトへ投げつける。

{これが、斎賀君の実力。}

日常的に父や兄達の鍛錬を見てきたからこそわかる彼の持つ戦闘技術の凄さが目に見えて解る。
もつれあって倒れる二人に、容赦なく小銃を速射する洞爺の動きには一切の迷いが無く生き生きとしている。
いつも凄いと思っていた恭也や美由紀の動きが霞んで見えるほどにキレが良く、行動に無駄が無い。
その姿はまるで父親のようだ、普段は柔和な彼だが鍛錬の時に見せる一人の武人としての姿に彼は似ている。
しかし似ているのであって同じではない。父親から感じる雰囲気と彼から発せられる雰囲気は全くの別物だ。
彼はおそらく父親以上に殺しに慣れている、殺し合いという観点ではきっと士郎以上だ。
ボディガードとして世界を駆けまわっていた士郎も当然『人殺し』の経験はある、それはもう知っていることだ。
だが所詮は守ることが仕事の『ボディガード』だ、紛争地帯が仕事場で殺し合う事が仕事の『傭兵』とは違う。
士郎はこれまで何人も人を殺しただろうが、それ以上に多くの敵を殺さずに鎮圧してきた。それができる人間であったからだ。
御神流という剣術を会得し、壁走りをはじめとした人間業とは思えない技を得た彼にはそれができたのだ。
しかし彼にそんな力は当然ない、厳しい訓練と紛争地帯で鍛え上げられた戦闘技術は達人だろうがそこまで隔絶した技ではないのだ。
ほんの少しの気の緩みやミスが死につながることもあれば、ただ運がないだけで簡単に死んでしまう。
士郎のように瞬間移動まがいの技や、銃弾を刀で弾いたり刀で衝撃波のようなものを出せるわけではないのだ。
それでも生き抜いた、あらゆる殺意と死線を潜り抜けた。それだけの技術を会得したのだ。

「させるか!」

狼は飛び起きると同時に見覚えのある人間の姿に変身してシールドを張り、銃弾を弾く。
その背後から、彼女をシールド事飛び越えて突っ込むフェイトが洞爺に向けて襲いかかった。

「あの人、昼間の!」

「昼間のって、まさか人違いでからんできた変な人って・・・そうか、使い魔か。」

「使い魔?」

「うん。簡単に言うと、魔導師によって作られた作り主の魔力によって生きる魔法生命体だ。」

「強いの?」

「はっきりとは言えない、造り主の素質やその素体などの要素で使い魔は個体差が出る。
たぶん彼女は狼を素体にしてるんだろう、戦闘能力はかなり高いはずだよ。2対1は無理だ。」

ガキン!という音と共に亀裂が走る銃剣とその亀裂を入れたバルディッシュが交差し火花を散らし、銃剣が砕け散る。
ついで銃声。銃剣が砕け取れた銃口から発射された銃弾がフェイトの耳元を通りすぎ、彼女の動きが僅かに鈍る。
銃弾に体を固くした彼女に銃口で突きを繰り出し追撃する洞爺に、フェイトはそれから距離を取る。そこに狼がシールドを張って突撃する。
劣勢、なのはの目にはそう見えた。彼は確かに強いが、魔法は使えないし、この世界にあるらしい他の技も使えない。
力が強くても普通の人間とそう変わらない彼に、魔法をバリバリ使う二人との戦闘は荷が重いのだ。
だが同時に疑問に思う、本当に彼は劣勢なのだろうか?元から力の差は彼も知っていたはず、劣勢になると解っているはずなのだ。
そんな疑問を抱いていると、洞爺がウェストポーチから模様のある手榴弾を取り出した。ピンを引き抜き、銃床に先端を叩きつけて狼に投げつける。

「アルフ!」

「あいよ!!」

狼、アルフは目の前にシールドを張った腕に力を入れ、手榴弾の爆発に備え一度足を踏ん張る。
シールドが爆風と破片を弾き、爆風を突き破ったアルフは右手で洞爺の首を掴み取って覆いかぶさるように地面へ押し倒した。
洞爺は小銃でアルフを押し返すそぶりを見せたが、アルフの拳がその小銃を中間点から真っ二つにへし折って拳を振りあげる。

「ユーノ君!急いで!!」

「もう少しだ、準備して!解れた部分に魔力弾を撃ちこんで!」

「う、うん!」

なのははレイジングハートを構え、結界の解れ掛った部分に向けて魔力のチャージを始めた。が、突然魔力が霧散した。
彼の雰囲気が突然一変したのだ。唐突に、鳥肌すら感じないほど強烈な悪寒を感じるほどに。
それは言うなれば無言のプレッシャー、ただそれだけ。それだけで胸が締め付けられるように痛み、足ががくがくと震える。

「もらっ―――」

彼女の言葉は小銃とは違う銃声に遮られた。二人が銃声の方を見ると、アルフが自分の腹に至近距離から突き付けられたそれを見て言葉を詰まらせているのが見えた。
それはショットガンの銃口だ。ゲームで出てくるようなポンプアクション式ショットガンの銃身を極限まで切り詰めたそれを、
彼はまるでそれを狙っていたかのように、とどめを刺される寸前よどみなくリュックサックから抜いたのだ。
ガシャコッという特徴的な音にアルフの表情がこわばり、押し倒していた彼から飛び退こうとする。その一瞬の隙を彼は見逃さなかった。
銃声銃声銃声、至近距離からの散弾3連射は身を引きかけたアルフの体を正確に捉えた。

「がぁぁッ!!!」

耳をつんざくような悲鳴になのはの飛び出そうとした足がすくんだ。
散弾によって過負荷の掛ったバリアジャケットが光と共に剥ぎ取られ、銃弾がバリアジャケットという守りを失った彼女の体を抉ったのを見てしまった。
跳ねるように立ちあがった洞爺は体中切り裂かれたような裂傷を負ってぐらりと揺れるアルフを蹴り倒し、倒れた彼女の胸を踏みつける。
ジャコッ!と銃身下部の木製フォアエンドを引いてショットガンを額に突きつけると、その銃口を跳ね上げて空中に向けた。

「アル―――」

銃声、彼女を助けようとした上空から飛びかかったフェイトの体に素早く狙いを変えた洞爺の銃撃が突き刺さる。
まるで映画の中の光景だった。斬りかかる直前だったフェイトは散弾の威力に姿勢を崩されて池の浅瀬に水しぶきをあげて墜落した。
池の浅瀬で悶えながらも立ちあがるフェイトの胸に何かが回転しながら突っ込んだ。それは軍隊が使うような、柄の短い携帯用スコップだ。
フェイトを撃った直後、洞爺はリュックサックからスコップを抜きながらブーメランのように投げつけたのだ。
声は無かった。ただ唖然とした表情でフェイトはスコップと一緒に池の中へと倒れ込んだ。
洞爺は懐からショットガンの弾薬を素早く取り出すと二発だけ込めて、その銃口を身をよじってもがくアルフに突きつける。

「ヒッ!?・・・ぁ・・・・・・・」

終始無言だった彼が、僅かに唇の端を釣り上げて冷たい笑いを浮かべる。なのははそれを見てようやく我に返った。
彼は殺す気だ。本気で、アルフを殺すつもりだ。すくんでいた足に力が戻り、自然と足が動く。行くのは怖い、だがここで動かないでいることはできなかった。

「斎賀君、やめて!!!」

結界の解れた部分を体当たりで突き抜け彼に向って走り、驚いた彼のショットガンに縋りつくと銃口をそらす。
乱暴に振り回されて引き金が下りたショットガンから撃ち出された銃弾は、アルフの顔の真横に着弾しアルフの顔をひきつらせた。
地面を抉ったのは散弾ではなく、ライフリングが施された1発の巨大な銃弾だったのだ。
冷たかった彼の雰囲気に動揺が混じる。なのはは力に任せて彼をアルフの上からどかすと、二人の間に入った。

「高町!?」

「どうしてこんなことをするの?みんなやめてよ!!」

洞爺が表情をゆがめる。見られたくない所を見られたような、気まずさが滲む表情だ。

「話し合いで何とかできるよ!!だからやめて!!」

「それはできない。私たちはジュエルシードを集めなければいけない。あなた達も同じ目的なら、私たちは敵同士ということになる。」

池から這い上がったフェイトがなのはの言葉を否定し、濡れたままでバルディッシュの切っ先を彼女に向ける。
その切っ先をまっすぐ見つめ返し、なのははそれに強く反論した。

「だから、そう言うことを簡単に決めつけないために、話し合いが必要なんだと思うの!」

なのはの言葉に洞爺は首を横に振る。フェイトは二人を見つめ、アルフを見て表情を歪ませた。

「話しあうだけじゃ、言葉だけじゃきっと伝わらない。」

「だから―――」

「あなたには分からない!!」

フェイトはバルディッシュを構えた。瞬間、舌打ちと共に洞爺がショットガンを空に向けて発砲した。再び轟く銃声と排莢音に二人は思わず身をすくませる。
洞爺は弾切れのショットガンを左手に持ち替えると、素早くジャケットの裏からサイレンサー付きワルサーPPKを抜いてフェイトに向けた。

「待ちたまえ。取引だ。」

「取引?」

「君はこいつを放置して戦うことができるかね?」

洞爺は血まみれで横たわるアルフを顎で示す、その声に動揺はすでに無い。
ショットガンを棍棒のように左手で握り、右手でPPKを構える洞爺は冷静で無感情だ。

「彼女は今危険な状態だ。鉛の散弾は胴体を中心に広く浅くめり込んで出血を強いている。
俺が使ったこいつは本来土塀に隠れた敵を、壁ごと吹っ飛ばすために作った炸薬増量型をさらに強力にしたものでね。
至近距離ならば人間の胴体程度はズタズタにして真っ二つにしても有り余る位威力がある特製のホットロード弾だ。」

威力は知っているだろう?という彼の問いかけに彼女は苦渋の表情でうなずく。

「正直に言えばこの散弾を喰らってこの程度の負傷で収まっているのが驚きだよ。
だがそれでも危険な事には変わりない、今からでも治療しなければさらに危険になるんだぞ。血を流し過ぎればいずれは死ぬ。」

「あなたがやったんでしょう!!」

フェイトの言葉に怒りが混じる。当然だ、この傷を負わせたのは洞爺なのだから。頷く洞爺は装備から赤十字の書かれた袋を取り出してアルフの脇に置く。

「治療具だ、大抵の傷は癒せる量と種類の薬品と器材を入っている。今日の所はこれで引きさがってくれないか?
ジュエルシードはすでに君の手にあるも同然だ。ならばここは引くべきではないかね?」

「あなたが逃がすんですか?」

「こちらにも都合が出来てな。今日のところは見逃そう。」

「本当ですか?」

「嘘はつかんよ、治療具も渡そう。それで引いてくれるかね?」

フェイトは迷う。ジュエルシードは手に入れたがアルフが危険な状態、相手は追撃しないと言っている。
ここまで好条件だと疑いたくもなるだろう。この展開になのはは感情的に洞爺に食って掛かった。

「斎賀君!!」

「君は黙っていろ。」

なのはの言葉に洞爺は平坦な言葉を返す。その声に込められた厳しさに、なのはは口をつぐんだ。洞爺はフェイトをにらみ、もう一度言う。

「どうするかね?乗るか、反るか。あちらが立てばこちら立たず。今回はそちらを立てようと思うのだが?」

「くっ・・・分かりました・・・」

「それでいい。高町、下がりたまえ。」

洞爺はなのはを連れて後ろに下がる。フェイトがアルフに近づいてかがみ込んだ。

「アルフ、しっかりして!」

「フェイト・・・・ごめん、またやられちゃったよ・・・・・」

アルフの消え入りそうですまなそうな声を聞いてフェイトは洞爺を睨みつける。その視線が自分にも向けられている気がして、なのはは俯いた。
もう一度顔を上げると、フェイトが転送魔法陣を展開した。おそらく転移術式、数秒もすれば彼女達はここから居なくなる。なのはは勇気を出して、術式の中に居るフェイト達に問いかけた。

「まって!あなたの名前は!!」

フェイトは一時戸惑い、なのはをじっと一度見つめてから答える。

「フェイト、フェイト・テスタロッサ。」

そう言ってフェイトとアルフは消えた。二人と一匹はそれを見送るしかできなかった。
名前が聞けたという喜びの反面、なのはは彼女達と戦った事が辛かった。
自分は実際に矛を交えなかったとはいえ、洞爺は彼女達と戦ったのだ。
何食わぬ顔で折れた小銃を苦い顔で回収する洞爺にユーノが怒りをむき出しにして怒鳴った。

「サイガ、何で一人で行ったんだ!」

「君たちを煩わせたくなかったのでね。先に始末しようと考えた。・・・くそ、こりゃ破棄だな。」

「始末って・・・バカじゃないのか!?君一人でなんてイカレてるにもほどがある!狂ってるぞ!!」

ユーノが愕然とした様子で洞爺を見る。彼は自嘲の笑いを浮かべる、その笑顔になのはは声を失った。
その笑顔は壮絶で見覚えのあるモノだった。笑顔なのに、あまりにも空虚で、狂気さえ感じるような哀しい笑み。
だがそれは一瞬で消え、いつもの優しげで大人の雰囲気あふれる笑みに変わる。その過程もまた記憶に深く刻まれたものだった。
今よりも昔、ずっと昔、だけれど今でも思い出せるありのままの自分を見せられた頃の記憶。
あの時間だけは我慢しないで我儘も言えた時間、自分を全部さらけ出せる友人もいた、もう戻れない過去だ。

「高町は考え込みすぎていたからな、折角それを忘れられて楽しめていたのに水を差したくなくてね。それに休暇中なのに呼び出されるほど忌々しい事は無い。」

「だからって、あんな無茶しないでくれ。そっちの方が心臓に悪いよ。」

「そうか?すまなかった。」

「まったく、手は大丈夫かい?」

ユーノはその笑顔が見えなかったのかやれやれと言った口調で首を横に振り、心配そうに問いかける。
拳銃とは比較にならない反動があるショットガンを連射したのだ、怪我をしているかもしれない。
洞爺は自身の両手を見つめ、ポーチから紙箱を取り出して短い注射針とアンプル容器が合体したようなモノを取り出す。
プラスチックの蓋を取り外して右腕に注射し、何度か閉じたり開いたりしてから首を横に振った。

「問題無い。」

「そう、よかった。」

「心配させてすまんな。あぁそうそう、出るときにちょこっと見かけたが、君の兄と忍さんがよろしくやっていたぞ。」

「よろしく?」

頭の上に?マークが浮かびそうな表情でなのはは首を傾げる。その様子のどこがおもしろいのか、くすくす笑い洞爺は続けた。

「まだ子供には早い話題か、解らなくて良いんだよ。そうだな、明日の朝二人にこっそり言ってみろ。」

「なにを?」

「昨晩はお楽しみでしたね、ってな。きっと面白いものが見れるぞ。」

あの二人にも教えてやりな、いつものように大人びていてどこか遊び心ある表情で洞爺は振り返った。
その表情の暖かさは、さっきまでの表情とは全く違って見えた。いつものような穏やかで慈愛に満ちながら少々浮世離れした笑みだ。
あの鋭くかつ凶暴、冷酷で無慈悲な笑みをたたえていた彼と同一人物とは思えないくらい違う。

「盛り上がってるところ悪いんだけど、旅館に戻らない?」

「いや、もう少し待て。あと少しだ。」

「え?どうして?」

ユーノの指摘に洞爺はかぶりを振って否定する。その言葉になのはは率直に疑問の声を上げた。
偽装のための言い訳などもなく、あわただしく飛び出してきたしまったため早く戻らないとまずいと思ったのだ。
だがそれを告げても彼はゆっくりと首を横に振る。なぜ?ともう一度問い掛けると、洞爺は小さくため息をついてから告げた。

「現在魔術勢力に雇われたかあるいはどこかの連中に雇われた傭兵の陽動部隊が旅館へ奇襲攻撃を掛ける可能性がある。
予定通りなら擲弾筒による牽制砲撃を始まってもおかしくない時間だ。」

一瞬彼が何を言っているのか分からなくなった、まるでこれから戦争が起きるような口ぶりはこの日本にはそぐわない。
何より自分たちの家族が狙われるとはどんな冗談だろうか?いくらなんでも笑えない。

「えっと、冗談だよね?」

「冗談ならどれだけ良かったか、残念ながら事実だよ。すでに対策部隊が行動を開始しているが、何分急なうえに人数が多い。
もし何も聞こえなければ制圧作戦は秘密裏に成功したとみていうわけだが、少しばかり時間をくれ。制圧が完了次第、無線連絡が来る。っと、噂をすればだ。」

着信音を鳴らす無線機を取り出し、旅館の方に祈るような眼を向ける彼の至極真面目な言葉になのははようやく真実だと理解した。
脳裏に爆睡していた久遠や、寝ぼけ眼でニヘラと笑うアリサ、酒盛りで盛り上がっていた両親や兄と姉の姿がよぎる。
助けに行かなければ、なのはは秘密も何もかも忘れ旅館に飛び帰ろうと足を踏ん張り、今度こそ足が竦んで動けなくなった。






あとがき
まず初めに、遅くなりました申し訳ありません。では今回のあとがきを始めます。
短いですが温泉編終了、なんとか終わらせました。地球勢力が好き勝手動くんだもの、これが困りました。
でもこの絶好の機会に動かないというのも変なので、地球側敵勢力には傭兵部隊による奇襲作戦をやってもらいました。
今回の戦闘は地球側敵魔術勢力所属歩兵の殲滅とフェイト戦。
地球勢力との戦いは隠密無双状態。ガ島で米軍相手に戦い抜いた技術は異常の域、ばっちりリアルチートです。
フェイト戦ではアルフ再度撃沈、フェイトとも見た目互角にやり合ってますが、これはフェイト達の戦略ミスなのでそう見えるだけです。
二人がかりとはいえまた近接戦を仕掛けてしまったため、乱戦の経験豊富な洞爺に反撃のチャンスを与えてしまっています。
今回は旅先という事もあり持ち込める装備も限られているため、今回は遠距離戦に持ち込まれればほぼワンサイドゲームなんですよね。
距離を取ってしまえばあとは煮るなり焼くなり好きにすればいいし、相手にしない手もあります。
というか相手にしない方が一番安全かつ確実です、思いっきり空高く飛んで転移してしまえば何も出来ませんから。
洞爺をどっかに転移させてしまうのもありですね、考えれば考えるほど安全で確実な対応策は出てきます。
ですから洞爺にまず勝ち目無し、なのにこういう痛み分けな結界に終わったのは相手が未熟だから、ですかねぇ?

そして今回はショットガンを使わせてみました。ショットガンいいよね、名前つながりで今まであんましつかって無かったですが。という訳で解説、作中の連射について。
今回作中で使用したショットガン『イサカM37』はバイオハザードなどでもお馴染みのスタンダードなポンプアクション式です。
手動装填方式でフォアエンド{あのガショガショするヤツ}を用いて手動で排莢、装填を行います。
現用のガス式オートなどのオートマティックと違い連射出来ません、ゲームではそれにイライラしたり酔いしれたりする人もいるはず。
しかしながら実は、古いタイプのポンプアクション式ショットガンは引き金を引いたままポンプアクションをすると、素早く次弾が発砲できます。
エアコッキングガンでも『ラピッドファイア』という名前の仕様で昔ありましたね、ご存知でしょうか?
引き金を引いたままスライドをジャコジャコすると弾が連射できるあれです、あれの実銃バージョンというのが簡単な説明でしょう。
実銃での原理としては暴発と大差ないのですが、意図的にできる上に実戦で非常に便利なため意図的に搭載されていました。
この連射機能は本来鳥撃ちの時に、当時ポピュラーであった水平二連式散弾銃に対抗するための機能だったそうです。
ちなみにこれは現用のポンプアクション式{レミントンM870など}では出来ません。
前述の通り構造上の暴発と同意義で、扱いの慣れない人には危険なため九〇年代までに廃止されたのです。
しかし今回使用されたM37はあの武器洞窟から持ち出した物ですから、その機能をバリバリ生きてます。
37年初登場の本銃は、大戦時はまだ最新型な訳ですから粗削りな所はあれどばっちりです。

無印は初期制作品を基にしているため速足ですが、どうかご容赦ください。これからもこの未熟な作品をよろしくお願いします。by作者



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