道中宿儺は数百年の空白を埋める様に喋り続けた。酒虫の品種改良に成功しただの、着物はやはり人間製に限るだの、行きつけの酒場の店主が代代わりして時代の流れを感じるだの、よくもまあ息が続くもんだと思う。
私は宿儺の四方山話を聞いている内に段々と懐かしさが込み上げて来た。ああ地底行きてぇ。鬼連中と居酒屋梯子してぇ。出店冷やかして回りてぇ。一度火がつくともう止まらなかった。どうにもこうにも地底に行きたくて行きたくて。しかし……
「くそ、彼の地はあくまでも私を拒むと言うのかッ!」
orzを作って床を叩くと諏訪子はのんびりお茶をすすった。
「別に行っても良いような気がしないでもないけどね」
「え、なんで?」
「要するにさぁ、怨霊を地上に出すな! 私らも地底に行かないから! って契約で地底へ行けなかったんでしょ? 怨霊地上に出てるじゃん。向こうが契約反故にしたならこっちも守ってやる事無くない?」
「……おお」
確かに言われてみれば。お、お燐ちゃんが先に約束破ったんだもん! 私悪くない! みたいな! ちょっとセコい気もするけど。
「やだなケロちゃん、それ先に言ってよ。私が出ればこんな異変三分で解決したのにさ」
「まーいーじゃん。早苗の良い経験になるし」
「そう? 経験値稼ぎならメタル狩りでもしたら? 幻想郷にメタル系居ないけど」
「えっ、居ないの?」
「えっ、居ると思ってたの?」
『白雪、聞いておるか』
「聞いてる聞いてる。聞いてるよ」
ごちゃごちゃ話している内に地霊殿に着いた。でけぇ屋敷だなぁとモニター越しに眺めていると玄関から勇儀が出て来る。勇儀は欠伸をして首を鳴らしていたが、霊夢達を――正確には宿儺を見て目を見開いた。門の前に着地した宿儺に心底驚いたような声をかける。
『なんだい、まさか大将まで負けたのかい?』
『それこそまさかよ。負けてはおらんが白雪の頼みでな』
『ああなるほど。今日は千客万来だねぇ』
勇儀は満足気に腕を組んで頷いた。強調された勇儀の胸と宿儺の胸を見比べ、早苗が幻想郷の鬼は化け物か、と呟いている。大丈夫。ロリと美人で均せば普通だから。
「勇儀は誰に負けたの?」
『黒い奴さ。今日はゴロゴロ強い奴が来る。いやはや地上も捨てたもんじゃないねぇ』
負けた割に勇儀は嬉しそうだった。名残惜しそうに霊夢(陰陽玉=私)を振り返る宿儺を引っ張って帰って行く。去り際に今度遊びに行くよ、と声をかけると大喜びしていた。
「白雪、次は覚り妖怪だっけ?」
「そそ」
『さとりさんは良い妖怪ですよ。話せば――――話さなくても分かってくれます』
『なんでもいいから行くわよ』
霊夢は御祓い棒で肩を叩き、玄関をヤクザキックで蹴り開けた。またそれか!
『霊夢さん!?』
『玄関は蹴って開けるものなのよ。幻想郷では常識よ』
『あ、なんだ。そうだったんですか』
おい早苗! そこであっさり騙されるな!
『`相変わらず扱い易いなぁ´ですか。早苗さん、気をつけた方が良いですよ』
破壊音を聞きつけたのか廊下をひたひた歩いて現れたさとりが第三の目をギョロつかせていた。出たよさとりん。意外に身長高いな。少なくともロリじゃない。
『およ? 出たわね黒幕! ……の飼い主!』
『`ペットぐらいちゃんと管理しときなさいよ´ですか。すみませんね放任で』
さとりは反省した様子も無く言った。あまり表情が変わらない奴だ。
『早苗さん、お久し振りです……ええ、お茶菓子は用意していますよ。そちらの方は……そうですか。博麗の巫女。では異変の解決に……あら違う。温泉目当てですか』
さとりは心を読んで勝手に話を進めた。こいつぁ楽だ。説明の手間が省ける。
「さとり、ウチの巫女が悪いね。玄関は弁償するから」
『おや、心にも無い事を言うのですね……違う? ……そう、地上に居る神と話しているのね…………流石に地上は遠すぎてその神の心は読めないわ』
「会話要らずだねー。楽だ。直接会おうとは思わないけど」
「第三の目で心読んでるらしいからアレ引き千切れば安全だよ」
『止めて下さい』
「読まれた!?」
『口に出ていましたよ……漫才は良いから早くしろ? そんなに急かさずともご案内しますよ。灼熱地獄は中庭から行けます』
さとりは踵を返して静々と廊下の向こうに歩いていく。その後ろに霊夢と早苗が続いた。話通ってると無駄な争い無くていいな。地底に入ってからまだ二戦しかしてない。
「そういや二人はさとり怖く無いの?」
『会話が要らないなんて楽じゃない』
『小学校の先生は人の気持ちが分かる優しい人になれって言ってました。さとりさん優しいです』
霊夢単純。早苗馬鹿正直。二人共思った事を素直に口に出すからなぁ。さとりはどんな妖怪怨霊からも恐れられてるって聞いてたけど早苗も霊夢も宿儺も勇儀も全然恐れて無い……あれ? もしかして誰からも恐れられてない?
「諏訪子、やましい事考えてなくても心読まれるって怖いよね?」
「大丈夫、私も怖い。白雪の感性は正常だよ」
良かった。
地霊殿の廊下にはさとりのペットらしき妖獣がウロウロしていた。猿もいればイグアナもいる。足を生やしたクロマグロが平然と歩いているのを見た時にはお前それは色々とどうなんだと思ったが、さとりを見るとどいつもこいつも嬉しそうにぞろぞろ後に続く。懐かれてるならいいのかな……哺乳類(燐)に鳥類(空)に魚類、節操が無い。
「諏訪子が入れば……いやなんでもない」
「どうせ両生類もコンプリートとか考えてたんでしょ」
「何故バレた」
「白雪の心読むのに第三の目なんて必要無いよ。顔に書いてあるから」
顔に書いてあるそうです。演技力上げないとそんなものかね。
早苗は陸亀が甲羅に乗せて持って来たまんじゅうを食べながらさとりと楽しげに話している。裏表の無い早苗はさとりにも心地良いのだろう。仲良くなったのも頷ける。
『既に先に行った方がいますが』
中庭に出てからさとりが言った。
『誰よ』
『黒い方でした』
魔理沙かな。普通の魔法使いは今日も絶好調だ。
『でも心は比較的白かったですね』
流石白黒、やりおるわ。
霊夢達はさとりに見送られて灼熱地獄へ続く穴へ飛び込んだ。さてさて魔理沙が既に空を倒しているか、黒焦げにされているか、それとも。
さとりは書くのが楽です。会話させる必要が無くトントン拍子に話が進む。でも会話が無いとそれはそれで寂しいジレンマ……字数も稼げないしなあ……