秋になり、稲の収穫が始まった。早朝から夕方まで里人はせっせと鎌を振るう。
私が風刃で刈ればあっという間に終わるのだが、そこまでしてやる事は無い。人間にあまり楽を覚えさせるとろくな事にならないのである。
しかしいつも供物として野菜やら餅やらコケシやらをどっさり貰っている訳で、何もしないのも気が咎めるのでいつものお返しとしてコソコソ稲を狙う害鳥退治をやっていた。幻想郷には鳥類による食害を防ぐ反射テープなどない。
今日も私は大人が一人入る大きさの麻袋を片手に分社に転移し里の外の田圃に向かう。空はまだ白みはじめたばかりで里の家々は静まり返っていた。
気配を消し、里の入口で寝ずの番をしていた門番の横をすり抜けて外に出る。
冬が近付いて冷え込んできた朝の空気を吸い、口笛を吹きながら畔道を歩いた。一人の散歩も悪くない。遠目に見える山々の紅葉が目を楽しませてくれる。
まだ収穫が済んでいない田圃に着くと、案の定雀がワラワラ集まって稲穂を啄んでいた。いつものように追い払う。
「(「・ω・)「 がおー」
軽く威嚇すると半数は逃げて行き、残り半分はその場で気絶して落ちた。フフフ、神のプレッシャーの前では鳥公なんざこんなもんよ。
妹紅に渡して焼き鳥にしてしまおうと痙攣している雀を拾い集めた。そのための麻袋である。冬に向けて脂肪を蓄えている鳥共は丸々太って美味しそうだ。
せっせと雀を袋に詰めているとミスティアが落ちていた。口から泡を噴いて痙攣している。
「…………」
一応拾っておいた。
三反回ると袋が一杯になったので撤収する。いつもは四反回れるが今日はデカいのが取れたから仕方無い。
ホクホクと重くなった麻袋を担いで里に戻った。人々が起き出す音を聞きながら里の外れの慧音の家へ向かう。
で、気配を消すのを止め、戸をノックする直前にミスティアが起きて騒ぎだした。
「え? 何これ……えーとんーと……む!? あんたは近頃噂のバードハンター! 私を袋に詰めてどうする気!?」
「油でカラリと」
「揚げるの!?」
頷いてあげるとがっかりしてメソメソして泣き出した。
まあ妖怪を焼き鳥にするの趣味は無いので冗談だと言って開放してあげた。すると鳴いて喜ばれる。
しばらくチュンチュン鳴いていたが袋の中の雀の群れに気付くと顔を青ざめさせた。
「この子達も返してあげて!」
ドゲザされた。鳥類のよしみか? まあ同じ雀だからなぁ。
「でも害鳥だしさ」
「そこを何とか!」
「そもそもなんで米を狙うの? 今年は山の実りも悪くなかったと思うんだけど」
「いや、人間の米は美味しくて。それに汗水垂らした苦労の結晶を横からさらうの所になんとも言えない優越感が」
「…………」
「…………あ」
「有罪」
「ごめんなさい!」
軽そうな頭をガンガン地面に叩き付け始めたので焼き鳥は勘弁しておいた。いい加減通行人の視線も痛くなってきたしね。
今度屋台で奢ってもらう約束をしてミスティアを開放した。鳥頭ですぐ忘れそうだから覚えていたら御の字だと思っておく。
さて分社から転移で戻ろうと大通りを歩いていくと対面から成人男性ぐらいの大きさのロボットを担いだにとりがカパカパと駆けて来た。今日は光学迷彩の調子が良いのか完全に透明になっていた。私からしてみれば妖力駄々漏れの丸見えだけど。
「にとり、それ何?」
「ん? おお! 誰かと思えば頼れる河童の技術アドバイザー、白雪じゃないか!」
「ああうん。最近開発会議に顔出して無いけどね。お父さん元気?」
「元気も元気、三徹して全自動油虫捕り機の図面引いてるよ」
にとりは快活に笑った。
にとりの父は河童技術開発部のリーダーを務めている。優秀なエンジニアで、光学迷彩の原案を作ったのも彼だ。
そんな親父さんの遺伝なのかにとりも役に立つのか立たないのかイマイチよく分からない発明を乱発している。のびーるアームとか高い枝に実った柿をもぐために作られたんだぜ? それぐらい飛んでとれよと思うのは私だけだろうか。
「で、そのロボットは?」
質問するとにとりの顔がよくぞ聞いてくれたと輝いた。
「収穫用ロボット電撃伐採ビジリアン二号さ!プログラミングした特定の作物を認識して自動で収穫してくれるスグレ物! 今日は稲の収穫実験をしようと思ってね」
「二号って、一号は?」
「爆発した」
にとりはあっけらかんと言った。おいおい大丈夫かよ……
「まあそういう事ならさっさと行こうか。傍目からすると私は空飛ぶロボットに話し掛ける怪しい神になってるから」
私はにとりの背を押して再び里の外へ向かった。今日はよくよく変な目で見られる日だ。
ロボはガンダムに草刈り鎌を持たせたようなデザインだった。背中のスイッチを入れるとガシャッウィーンガシャンとカクカク動き、目を光らせて田圃に入って行った。そして唸る草刈り鎌! すげぇ刈り速度だ! 稲の束がどんどん積み上がっていく。
「ゆっくり刈っていっあ"あ"あ"!」
「あれ? 今何か稲穂の間から飛び出して真っ二つにされた様な」
「気のせいでしょ」
「そうかなぁ……」
ビジリアンの足元に目を落とせば藁に紛れて白い綿と黒い布の残骸が飛び散っていた。
魔法の森からはるばるここまでやってきたのか饅頭もどき。しかし台詞も言い切れず両断とは哀れな。とりあえずここから見える範囲に居たのはこの一体だけのようだが、なんとなく他の個体もこんな感じで殺られている気がした。
可哀相に……ゆっくり絶滅していってね。
軽快に稲を刈っていたロボだが、五分でバッテリー切れを起こして動かなくなった。再充電には五時間かかるらしい。河童の発明は七割欠陥品ができる。今回は爆発しなかっただけマシかな。
にとりは実験結果に満足すると農作業に乱入したロボにやんややんやと歓声を送っていた野次馬に手を振り、ロボを担いで飛んで行った。にとりは終始光学迷彩をオンにしていたので里人の目にはロボしか見えず、活動限界時間が来て帰って行くウルトラヒーローに見えなくもないだろう。
……さて、そろそろ私も変な噂が立つ前に朝ご飯を食べに帰ろうか。
今日も幻想郷は平和です。
幻想郷のゆっくりは魔理沙種のみ。
……秋姉妹の出番? ごめん誰の事か分からない