春――桜の花が咲き誇り、新しい試みを歓迎する季節。
溌剌とした新入社員や新入生が新しい人生のステージを迎え、活躍と研鑽の場に向かっている。
ここ高笠市にある星霜学園高等部でもつい先日入学式を終え、新学期が始まろうとしていた。
新入生達は真新しい制服に袖を通して、クラブを見学したり、学校内を歩き回ったりして新しい環境へ慣れようと必死だ。
しかし、大学受験ほどの慌しさはないとはいえ高校受験を戦い抜いた新入生達の顔には開放感が見て取れる。
笑顔も自然とこぼれ、中学のときからのなじみの友達とグループで談笑している姿もある。
いずれ新しい友人関係が構築され、廃れていく関係もあるかもしれないが同じ高校を選んだ者に対しての近親感が彼らを必要以上に接近させているのもこの季節だからだろう。
窓際の自分の席からそういう光景を眺めながら、俺はあまりやる気のしない古文の授業を聞いていた。
言い忘れていたが俺は篠崎公明。漸くここの二年生になったところだ。
星霜学園は県内で言えば、まぁ上位の学校。
世間では有名な進学校ということにはなっている。
しかし、そういう学校だから授業は結構難しい。
というより、これがどうして人生の肥しになるのかが今のところはわからない。
もしかしたら、大学で古典を学びたくなるかもしれないし、実はまったく役に立たないのかもしれない。
あるいは視野を広げるという意味で役に立つかもしれないし、教養として心の平穏だとかに貢献してくれるかもしれない。
でも、こういうことは予めどういう役に立つのか伝えてくれていた方がいいと思う。
だって、とても大切なことなら居眠りするのももったいないし、ためになるのなら聞くべきだ。
なのに、それが大切なことだとそのときに分かっていなければとても損をした気持ちになると思う。
「篠崎、徒然草の最初のページを読んでくれ」
古典の三原晴彦、60代のベテランでもうすぐ定年という我がクラスの担任でもある先生だ。
白髪頭のどこか愛嬌のあるお爺さんという風貌。
「はい……あの、読みますよ」
席をひいて立ち上がると、真新しい教科書をめくって「徒然草」のページを開いた。三原先生が首を振って合図したので、本文を読み始める。
「……徒然なるままに、日暮、硯に向かいて心に移り行く由無し事をそこはかとなく書き綴れば、あやしゅうこそものぐるおしけれ……」
「よし、そこまで」
席に着くと、吉田兼好がこの文を書いた解説が始まった。
必ず喋るときに『え~、』と入れる先生の癖が面白くて前に数えたときは100を超えたのだが、今日は割りにスムーズだ。
やる気がないことは確かに問題だが、どうにも眠いな。
欠伸をしながら、ふと教室を見回す。
そういえば、このクラスには学園一の有名人がいた。
あまりにも異質だから目立つのは当然だが、その人となりもどこか変わった人。
ドイツかどこかの人間らしい金髪碧眼の女生徒で、ここの生徒会長をしている二年生、たしかシュリンゲルといった。
話したこともないし、話しかけられる雰囲気じゃない相手。
そんな話題もないし……。
少なくとも日本語は流暢だし、こっちが話しかければ答えてはくれるのだろうが、モデルのような外人に話しかけ、仲良くなるだのは映画か小説の世界の話だろうな。
今も教科書を開いて、授業を聞いている相手はどうしてこんな大昔の文学を簡単に飲み込めるのだろう?
俺にも外国語にしか見えないのに……。
因みに、彼女に話しかけたくない理由もないわけではない。
オカルト研究会だとかいう不気味なクラブの長をやっているからだ。
やっぱり日本人が部長をやっているよりも、外国人が部長の方がずっとオカルトっぽいのだが……あまりにもそれらし過ぎて、正直不気味なものがある。
そういうわけで、あの研究会は浮きまくっている。
呪いの儀式だとかをやっているのではないかという噂が真剣に立つくらいだから、その存在はある意味で都市伝説。
部長が生徒の絶大な支持を受けていなければ、その維持すら困難だったと思うのだが……オカルト研究会の部長としての彼女ではなく、生徒会長としての彼女の支持が圧倒的なので誰もアレを廃部にしようなどとは提案しないし、その運動さえない。
確かに彼女は生徒会長としては有能だ。
というよりも、あまりにも無茶が多く、誰もそれを止めない上、たまたまそれがうまくいっているだけのように思えるのだが。
例えば、昨年度の生徒会費の残りを学校側と交渉の末、株や先物取引とかで運用することを許可してもらったとかで、今年は予算が十倍にもなったとか。
倶楽部の部費も十倍になったわけだ。
生徒会費の残りとはいえ、株取引などという危ない橋を渡ったとの批判がおきそうなものだが、部費が十倍にも増えれば結果オーライと考える人が多いのだ。
そのため、彼女の人気は部活動を行っている生徒を中心にとても固い地盤に支えられている。
それに実務はちゃんとこなしているし、備品や施設の運営は見事としか言いようがない。
壊れていた備品がすぐに修理されたり、交換されたりするようになったのは彼女の代になってからというのは最早常識。
だから、対抗馬が出ても勝てるわけがないのだ。
しかし、本当にそれでいいのか?
どんなに有能な会長が贔屓にしている倶楽部でも、あんな不気味な活動をしている研究会を解散しないなんて、どうかしてるだろ?
そうなのだ、あそこに入る人間などいるわけもない! そう思う。
というより、幽霊部員とはいえ部長以外に部員が二人もいる時点で生徒会長の裏工作でもあったのでは? と疑いたくなる。
そう考える俺は少数派……おかしいぞ、それ。
世間がおかしい、それ以外に理由がないくらいにおかしいだろ。
「よし、それじゃあ、今日の授業はこれまで」
この退屈空間から解放される声が教室に響き渡った。
思わず、大欠伸が出た。
とりあえず、退屈で仕方のない時間が終わりだ。
そのまま、学校の授業は順調に消化され、全てが終わると、ようやく帰宅の途につけた。
しかし、今日は退屈だった。
何故か、退屈していた俺は見学や新入部員達で賑わっていた友人達のクラブを遠めに見ていた。
中学のときに同じクラブにいた友人は高校でもそれを続けていて、俺は辞めていた。
今なら負けるかもしれないな……そう思いながら、道草を終える。
そのとき、忘れ物を思い出して教室に一度戻ることになった。
誰もいない教室で、机を探すがそこには置いてなかった。
ロッカーを捜索したとき、そこで探し物は見つかった。
カバンに収めると、廊下を歩いて三年生の教室の前を通り過ぎる。
教室には勉強中の先輩達――受験生なんだな、そう思い出される。
自分は進学校にいながら、あまりやる気はない。
クラスメイト達もすごく頑張っているようには見えないのだが、陰でやっているのだろう。
そのまま、階段を下りていると口論する声が聞こえてきた。
女生徒同士の会話――両方とも俺の知っている相手だった。
一年生のときのクラスメイトと近所の幼馴染。
「浅海、今日は満月ね……この前の夜みたいな舐めたことしてくれたら、今度は絶対に貴女を殺しますから、おわかり?」
白川綾音……近所に住んでる昔馴染みで、黒髪の美しい生徒会の書記。
気の強いところが合って、長い髪をした令嬢然とした清楚な印象の美少女。
「アヤネ……うるさいのよ、貴女。そこをどきなさい。それに、アデットに言われて止めたんじゃなかったの?」
一年生のときのクラスメイト……浅海玲菜。
セミロングの茶髪、碧の瞳のハーフの少女。
どちらかといえば、綾音によく似た我の強そうな相手。
話したことはほとんど無いが、生徒会長とは違ってまだ日本人っぽくも見えるので現実的に人気がある少女。
綾音と人気を分け合うとか何とか。
そんな学園のアイドルみたいな二人が『殺す』だの、危ないことを口にしている。
その言葉の重みは日常会話で聴くのとはまったく別だ、あれはふざけて言っているいい方じゃない。
完全に殺意がある言い方だ。
身を潜めて、その会話に耳を傾ける。
「言うのね、でもあの人は余所者でしょう。それに、ここは我が家代々の……? まぁ、いいわ。一応、伝えたから」
「? ……そうね、それじゃあ。さようなら、白川さん」
「ええ……こちらこそ御機嫌よう、浅海さん」
俺の存在に気がついたのか、二人は会話をやめるとすぐにわかれた。
どちらかがこっちに来る。
別に隠れるようなことでもなかったのだが、アイドル二人が『殺す』なんて物騒なことを言っている場面を見たすぐあとに出会うのは気が引けた。
すぐに隠れようとしたが、階段だから逃げ道は上か下しかない。
すぐに上に駆け上がろうとしたとき、後ろに現れた少女に呼び止められる。
「コーメイ――貴方、今の聞いていた?」
その声は綾音のもの。
キミアキという本名をそう呼ぶのは昔馴染みでも彼女くらいのものだ。
何でも『そっちの方が賢そうに聞こえるから』だそうだが、失礼だと思う。
俺は確かに天才でもないが馬鹿でもない、それくらいは理解して欲しいものだ。
振り返ると、令嬢然とした彼女の姿、色白で華奢な体つき、病弱そうな印象も受けるのだがそんな見掛けとは違ってものすごく活動的な少女は胸の前で腕を組んだまま、階段の途中にいた俺を見上げた。
「……いや、久しぶりだな」
「ええ、家が近いにしては久しぶりね……で、お元気?」
「まぁ……な。それより、らしくなく本気で喧嘩か?」
言われる前に言ってしまった、その方がダメージは小さいだろう。
「いいえ。別にそんなことはありませんけど、彼女とは馬が合わないのによくよく縁があるものだから。ああいうことがあるのは仕方のないことでしょう?」
クラスが同じ、幽霊部員とはいえ倶楽部も同じ、確かに縁はある。
顔を合わせたくない相手とよくよく会うのは気分のいいものじゃない、それは俺にもわからないではないからとりあえず頷いておく。
「それは……そうだろうけど、夜中に浅海と喧嘩? おかしなことでもやってるのか?」
「この私が夜中に出歩く? そんなことは言っていません、聞き間違いよ。それも失礼な聞き間違いだわ」
「? そうだったかな?」
自信家の綾音に力強く断言されると俺の自身はすぐに消え去った。
確かに聞き間違えだったかもしれない、そう思うようになる。
「ええ、そうでした。それよりコーメイ、貴方はあの吸血鬼女と友達なの?」
「吸血鬼女って……浅海? いや違うけど、何で吸血鬼?」
「吸血鬼みたいな顔をしているでしょう? だからです!」
よくわからない悪口だが。
「吸血鬼顔っていわれてもなぁ……俺も会ったことないし。でも、とりあえずお前らの仲が悪いのはわかった。でも、女が殴り合いの喧嘩だけはするなよ、女は顔が命だから」
「ご心配なく。私はそんな野蛮人じゃありませんから。それより、これから帰るのなら途中にいい店が出来たから一緒によらない?」
本人がどこまで自覚しているのか……幼馴染とはいえ学園のアイドルの一人とそんな風に店に行くのはデートと思われないだろうか?
別にそれ自体は気にならないが、周りの人間の視線は痛いほど感じるからな。
「ああ、いいけど」
何故だろう? そう誘われると断れない俺の性格。
「よかった……それと、あの女には近づかない方がいいわ。あれはとんでもない暴力女だから」
階段を下りながら、ひたすらに浅海の悪口を言う綾音。
不思議なことに彼女の言い方は聞いていて気分の悪くなるものではなく、まるで彼女自身のことを言っているようにも聞こえて面白くもある。
あの二人の性格は似ているから。
人の悪口をいわない綾音がこうまで言うのはしかし、珍しい。
二人で寄ったのは最近オープンしたばかりの若者向けの喫茶店、近所の大学生や近くのOLが多い。
そこで最近のお互いの近況報告などを語ったり、世間話をしたり……そのまま、六時くらいにお互いに別れた。
○○○○○
春の六時はわずかに薄暗くなり始めている――そのまま、歩いて自宅に帰る。
単身赴任中の父親は当分帰らないし、母親は昔亡くなった。
兄弟もいないからこの家は一人暮らしの俺には広すぎる気がする。
一人暮らしが始まった当初は友達を家に呼んで飲み明かしたりしたものだが、片付けも面倒だし、ドンチャン騒ぎを何日も続けていたせいで近所から苦情が来たから今はそんなことはしていない。
まったく、面倒だ。
そう思いながら、簡単な食材で夕食の準備を始め……適当に食事を済ませる。
料理本を見て研究するほど食に拘りがあるわけでもないから食事はあっという間だった。
そのあと、テレビをつけニュースを見ていると、突然電話が鳴った。
携帯電話の方で出てみると、相手は学校の友達だった。
「……ああ、なんだアキラか。なんか用か?」
『いや、悪い。俺、明日の宿題が終わってなくてさ……終わってたら、貸してくれない? この前買った格ゲーがあるから勝負もしたいし、な?』
「ん~、でもお前の家って自転車だと滅茶苦茶遠いじゃないか。お前が来いよ」
『いいだろ、そっちは門限もないんだから。こっちは門限ありで、うるさいんだよ。それにどうせ一時間くらいだろ?』
「お前は……一時間もかかる場所に住んでて人を呼びつけるなよ。他な奴はいないのか?」
『いないよ、俺友達少ないし。それに今のクラスの友達ってお前だけだし』
「……そういうことをマジトークするな、断れなくなるだろうが」
『よし、なら来てくれるな?』
「ああ……わかったよ、面倒だけどいってやる。ったく! そっちが一人暮らしなら、ビールの一本でも出してくれないと割が合わないぞ。今日は特別に菓子と茶でも出してくれれば、来週提出のやつも持ってってやるから用意しとけよ」
『悪いな、恩に着る……じゃあ、早く来てくれよ』
携帯電話を切る……時計を見れば、7時前。
普通に考えて、高校生を呼び出す時間じゃないだろう。
この分だと、アイツの家に着くのは8時だっていうのに……面倒だな。
だが、そう思いながらも俺はアキラの家に自転車を走らせていた。
自分しか友達がいないといわれれば、無碍に断るわけにも行かない。
ああ、本当にお人よしだな、俺は。
○○○○○
アキラ、清水明の家は街の外れの田園地帯――こんな場所から学校へ通学しているのは正直、あの男くらいのものだろう。
隣町の学校の方がはるかに近いのに無理をしてより偏差値の高い学校を選んだというのだが……それなら宿題くらい自分で何とかして欲しいものだ。
だがアイツも毎日こんな通学路をよく通う、それだけは尊敬してやる。
春の風が冷たく、足が疲れてくる。
周りはすっかり暗くなってしまったし……そう思っていると、ようやくアキラの家に着いた。
宿題を渡してやると、そのままゲームや菓子で体力と精神力を蓄える。
門限に厳しいという親なのに、友達が来るのはOKで、その友達の帰りが遅くなるのは許容するというのはどういう基準なのだろう?
「よし! サンキュー、とりあえず全部終わったよ。そのゲーム、なかなか面白いだろ?」
「まぁ、な。ただ、技が簡単なのは別にいいけど……グラフィックがイマイチだな。派手にしろとはいわないけど、正直ゲームの趣旨からすれば迫力不足。それよりお前って、何で宿題なんかに必死になってるの?」
隣に腰を下ろしたアキラは菓子をつまみながら、コントローラーを手に取る。
アキラとの戦いが始まった。
「いや……俺は別にこだわりたいわけじゃないんだけど、推薦枠って少ないからな。俺の志望校って普通に入るの難しいから」
「何だよ、そんなことか。おっ! なんだ、お前強いな」
「当たり前だろ、何時間やりこんだと思ってんだよ」
二人の対戦はアキラの圧倒的な勝利で終わった。
もう少しすれば勝てると思うのだが、10時を過ぎれば流石に門限がなくても明日の授業に差し障りが生じるから帰らないわけにも行かない。
「じゃあな、今度は俺の家に飲みに来いよ」
「まあ、親がいないときになら……じゃあ、今日はありがとう」
○○○○○
自転車を走らせ、バカみたいに遠いアキラのいつもの通学路を走る。
とんでもなく面倒に感じてきた、辺りには水田や畑のある家が多く、山も近い。
流石にこの辺りはとても静かで、春だから虫の鳴き声さえほとんど聞こえず寂しくもある。
まるで世界に自分しかいないような錯覚を覚えるが、時間が着実に過ぎていっていることを考えると明日の授業に出るのも憂鬱だ。
10分くらい走らせたときだった。
アキラから聞いた近道である人通りの少ない林道を通ったとき、まるで狼の遠吠えのような獣の唸り声がどこからか聞こえた。
思わず、自転車を止めて周囲を見回した。
アキラ曰く――この辺りは熊が出る。
流石に熊が実際に出てきたら、まぁ逃げるしかないだろう。
素手で戦って勝てるわけも無く、武器になるものもないのだから逃げ切れなかったときは俺の死亡記事が夕刊を飾っているだろう。
そう考えると自然と汗をかく、次第に心臓の鼓動が高まっていく。
それにしても、今のが熊の声か?
いや、そんなまさか、嘘だろ?
熊どころか、あれは狼そのものじゃないか。
普通に考えれば日本に狼は現存していない、だが野良犬とは迫力が違った。
だが、とりあえず辺りにその気配はない……あれは割りと近く聞こえたものだったが、いつ移動してくるかわからないのは怖かった。
仮に熊でなくて、狼だとすればその足の速さの点でなお性質が悪いことにさえなるではないか。
逃げられないのではないかと考えると流石に怖くて、そのまま自転車で全力疾走してその場から離脱しようとした。
しかし、その直後、自転車が走る道を少し入った脇にある別荘風の山荘の壁が吹き飛んだ。
「え……?」
俺は逃げ出すタイミングを逃して、その場に自転車を止めていた。
山荘の壁がまるで翼のある鳥のように俺の前を飛び、道路上に降り立った。
それはスローモーションのようで、あまりにも非現実的な光景――口が開いたまま、自転車の上で呆然としていた。
壁が吹き飛ばされた山荘……わずかに明かりが漏れるその場所を見つめると、思わず俺は絶叫していた。
その壁をぶち壊して出てきたのは、三メートル近い巨体に銀の体毛を生やし、血のように赤い瞳をした二足歩行の狼。
いや……狼などという生易しいものではない、ゴリラのように発達した上半身、細長くも筋肉が盛り上がっている下半身、本来は前肢と形容すべきその場所は人の手のようになっており、指先の爪にはナイフか包丁のような鋭さと長さが与えられていた。
だらしなく口から涎を零し、牙をむき出しにした銀の怪物……映画の撮影か?
ありえない化け物は俺を、獲物を襲う肉食獣の眼で睨み付けた。
鋭く、殺意というよりは食欲に支配された怪物の瞳は俺の体から自由を奪っていく。
現実が遠くなっていく……こんなありえない光景に俺は道の上に尻をついて倒れこみ、腰が抜けていた。
化け物が、人の頭など一飲みにしてしまいそうな大口を開けて、ものすごい雄叫びを上げた。
身が竦む、殺されると思った。