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No.1480の一覧
[0] 孤剣異聞[鞘鳴り](2006/01/26 04:12)
[1] 孤剣異聞 第一話 剣客、異世界との出会う[鞘鳴り](2006/02/02 23:40)
[2] 孤剣異聞 第ニ話 剣客、異世界と雑談(情報収集)[鞘鳴り](2006/02/10 01:14)
[3] 孤剣異聞 第三話 エルフ娘と槍男[鞘鳴り](2006/02/14 15:49)
[4] 孤剣異聞 第四話 剣客と集合した皆さん[鞘鳴り](2006/03/10 23:08)
[5] 孤剣異聞 第五話 剣客と不定形な物体[鞘鳴り](2006/03/24 22:53)
[6] 孤剣異聞 第六話 剣客と騒動の結末[鞘鳴り](2006/04/07 19:35)
[7] 孤剣異聞 第七話 剣客と厄介な旅の始まり[鞘鳴り](2006/04/14 00:43)
[8] 孤剣異聞 第八話 剣客と王都一歩手前[鞘鳴り](2006/04/24 00:29)
[9] 孤剣異聞 第九話 王都その1[鞘鳴り](2006/04/30 23:08)
[10] 孤剣異聞 第九話 王都その2[鞘鳴り](2006/05/05 03:08)
[11] 孤剣異聞 第十話 剣客と―――――[鞘鳴り](2006/06/06 00:00)
[12] 孤剣異聞  第十一話 未熟[鞘鳴り](2006/07/07 21:04)
[13] 孤剣異聞  第十ニ話 開戦[鞘鳴り](2006/07/10 19:48)
[14] 孤剣異聞  第十三話 戦闘[鞘鳴り](2006/07/14 17:41)
[15] 孤剣異聞  第十四話 決着[鞘鳴り](2006/07/21 22:41)
[16] 孤剣異聞  第十五話 剣客と生き方の問題[鞘鳴り](2006/07/27 01:16)
[17] 孤剣異聞  第十六話 剣客とその斬撃は反則だろ[鞘鳴り](2006/07/27 21:31)
[18] 孤剣異聞  第十七話 剣客と傷男[鞘鳴り](2006/07/29 13:56)
[19] 孤剣異聞  第十八話 雪月花、一つの終わり[鞘鳴り](2006/08/04 23:00)
[20] 孤剣異聞  第十九話 ところであの人は…………[鞘鳴り](2006/09/18 17:52)
[21] 孤剣異聞  第二十話 『烈風』と『神剣』[鞘鳴り](2006/09/03 09:10)
[22] 孤剣異聞  第二十一話 剣と剣[鞘鳴り](2006/09/14 00:11)
[23] 孤剣異聞  第二十二話 開戦日[鞘鳴り](2006/09/18 19:21)
[24] 孤剣異聞  第二十三話 予選開始、刀儀 その1[鞘鳴り](2006/09/24 00:19)
[25] 孤剣異聞  第二十四話 第2区画・あの人は今[鞘鳴り](2006/10/03 00:22)
[26] 孤剣異聞  第二十五話 『漆黒』、第一区画・刀儀 その2[鞘鳴り](2006/10/05 18:22)
[27] 孤剣異聞  闇と三日月、刀儀 決着[鞘鳴り](2006/11/13 20:23)
[28] 孤剣異聞  第二十七話 裏舞台[鞘鳴り](2007/01/14 23:17)
[29] 孤剣異聞  第二十八話 予選終了[鞘鳴り](2007/02/27 01:44)
[30] 孤剣異聞  第二十九話 第2区画の真相[鞘鳴り](2007/02/27 19:17)
[31] 孤剣異聞  第三十話 未知との遭遇[鞘鳴り](2007/04/11 23:08)
[32] 孤剣異聞 第三十一話 知り合い?[鞘鳴り](2007/05/29 23:39)
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[1480] 孤剣異聞  第十八話 雪月花、一つの終わり
Name: 鞘鳴り 前を表示する / 次を表示する
Date: 2006/08/04 23:00
 埃が舞い、降って来る月の光を反射する。

 それは深々と降り積もる雪のような情景

 身じろぎすらなく対峙する二人の男の足元には、ぽたり、ぽたり、血溜まりの華

 ―――『雪月花』

 連想させるのは、そんな言葉。

 そのあまりに、静かで美しい光景を見ることが出来たのは

 この世でたった三人。

 精霊に護られたエルフ、癒しの力持つ僧侶、偉大な剣士の血を継ぐ少女。

 その全てが、この完成された世界の姿に魅入られている。

 ……しかし、彼女等が幸福なのかは判らない。

 眼前の光景は、全てから遠ざかり、終わりの姿を幻視させていた…………。









孤剣異聞  第十八話 雪月花、一つの終わり







 

 ―――――――ふと気付くと、自分の背後で少年が剣を振り抜いていた。

 「……………………」

 「……………………」

 血が吹き出す。

 お互いに、言葉は無かった。

 とても信じられないほど穏やかで……、寂しい光景だった。

 ―――――チャッ

 もう一度だけ、剣を構える。

 鎧ごと、体を斜めに切り裂かれた痕から、際限無く血が吹き出す。

 が、もう構わないだろう。

 少年も、どうやら応じてくれる様だ。

 感謝したいが余力が無い。

 …………なにせ、いま思い付いた技がある。

 なら、残りはこれに込めるべきだ。

 そうだろう?

 だから、最期はこれに付き合ってもらう事にしよう。





* * *





 力の入らない体は、もう捻ることも出来ないらしい。

 故にただ、その身の内だけで、力を溜め込んでいる。

 静かな姿は、先ほどまでの自分に、どこか通じるものが在る。

 …………終の秘奥、『無葬』

 時の潮流に埋もれ、時雨坂夜一の手により再び世界に戻り、完成された技法。

 『無意』『無拍子』の果ての果て

 刀儀は居合にそれを込めたが、理想は全ての行動とそれに伴うものを無へと葬り去る事。

 それを体現したのは夜一のみだが、ただ一刀のみなら刀儀にも体現できる。

 そして、今のスカーの立ち姿は、『無葬』の精神面とも言える『無意』に近いものが在る。

 「…………最期、まで、やらんと、な」

 構える。

 最後の力。

 もはや言葉も無く、微笑むだけの男の意志に応えるために。

 薄暗闇の先では、男がただ笑う。

 死域の果てにありて、苦痛も焦燥も無くただただ純粋に……。

 ならば応えん

 この身、満身創痍なれど、その所作に一切の淀みはなく

 ゆらり、軌跡を虚空に刻む。

 呆れるほどに美しく、そのくせ、軌跡以外の一切を残さない

 変幻自在にして無、無にして殺、総じて一切、全て無也

 我が道ここに定まらん、後はただ歩むのみ――――――





* * *





 スカーが動く。

 ひゅっ、と

 右から左へ、小さく小さく風を裂く音。

 すっ、と

 刀儀が刀を振るう。

 もはや威力など感じさせない、脆弱な剣閃、ふたつ。

 交錯する。

 刃が触れ合い……―――――――――

 ――――――――――刀儀の手から、刀が弾け飛んだ!

 (ッ!?)

 『刻印』を持って溜め込んだチカラ。

 その全てが、加速ではなく、刀儀の刀を弾く事に使われた。

 ここに来て……! この間際でスカーの剣技が進化する!

 (うぉ……ッ!)

 同時に、スカーの剣閃が、反対側からもう一つ出現する――!

 (! おぉ―――――!?)

 反動を使った斬り返し! 超高速の――――!!

 (―――――――――――――)

 刀儀の姿が微かにゆれて―――――

 ―――――――――その胸元を、皮一枚だけ切り裂いて、スカーの剣が疾り抜ける。

 この後に及んで、スカーが間合を外す事は有り得ない。

 刀儀は……躱したッ!

 認識すら超える反応!

 その速度は鈍速、だがそれこそは―――『無』!

 ―――――キリキリ

 振りぬいた反動!

 解放されたチカラが、スカーの剣を一瞬で上段に振り上げさせる―――

 ―――――チィィッ

 そこから疾る剣閃! 再び……ッ! 超高速の斬り返し!!

 真っ向から唐竹、ただ、ただ真っ直ぐに――――

 刀儀は応える。

 覚醒した意識と、認識する世界。

 いつの間にか振りかぶった両手は開かれ、されど刀が在るかのように振り下ろされる。

 そうして二つの姿が交錯し

 一つの姿が血に沈んだ。

 ―――――

 ―――――

 倒れたのは、スカーであった………………。





* * *





 「………………」

 『無刀捕り』その変化にして進化形。

 それが、技法の名。

 ………最後の一刀、その交錯の刹那

 スカーの剣に合わせて両手を振り下ろしながら柄を捕り、奪った剣で刀儀が勢いそのままに、交差法でスカーを斬った。

 どれほどの技量が必要なのか推測すらも許さない、無刀の神技。

 ………スカーは、自分の左肩から胸まで引き裂いた自分の剣を見る。

 そして……、逝った。

 最期にどんな事を思ったのか? 確かめると言っていた事は確かめられたのか?

 それは彼だけ知っていれば良いし、確かめたかったものも、言葉にすればひどく陳腐だったかもしれない。




 ………………でも、その死に顔は、わりと満足していたような気はした――――――。






* * *





 それは随分と、アッサリした幕切れだった……。
 その場にいた誰も……、刀儀ですらも、交錯した一瞬を捉えきる事は出来なかった。
 だから、剣客は呟いた…………。

 「終わって……もうたなぁ」

 刀儀の声。

 声に……、祭りが終わった後のような寂しさが滲んでいるのは気のせいではないだろう。

 穏やかでありながら、臓腑を抉るように……哀しい。

 「…………なあ、なんか言うてや、寂しいやん」

 スカーは応えない。
 応える事など有り得ない。
 彼はもう……、満足そうに眠っている。

 だから―――――――

 その静寂は、千年も凪いだまま在った湖面のようで

 叫びたくなるほどに、穏やかで優しくて

 雪のように舞う埃も

 今も荘厳な月の光も

 流れて描く紅い血花も

 その、息を呑むような美しささえも――――――――

 『雪月花』、それさえも――――
 
 …………軽く風に流してしまう。

 ただ、静かな……………………。






* * *





 立ち尽くす剣客の後姿。

 それは、闘いの余韻と言うには寂しすぎて………。

 「鎮魂の、祈りを捧げましょうか……?」
 
 近づいてきた人影、アリーシャがそんな風に言った。
 
 しかし、刀儀は静かに首を振る。

 「いんやー、……鎮める必要は無いやろ……。こんな風に逝けたなら」

 屍拾う者無し、とは言ったものだ。
 こんな風に逝かれたら、魂鎮めなど無粋に他ならない。
 風流など気取るつもりも無いが、死に様を穢すのは趣味ではない。

 「…………なあ、ミリア」

 ふと、思いついて、刀儀は後ろに来ていたミリアに声をかける。

 「………………あ、えっと、なんですか?」

 「ミリアはこいつと話したんやったよな?」

 「は、はい」

 「…………こいつ、スカーってのは、本名とちゃうやろ? ホンマの名前、聞いてないか?」

 そう言えば、自分はこの男についてなにも知らない。
 その事に刀儀は気付く。
 なぜだか、自分とスカーが随分と親しい間柄のように思えていた―――――

 「いえ……、ボクも聞いてません。でも、きっと必要ないんじゃないですか? 少なくとも、トウギさんとの間には」

 ミリアの答え……、それはおそらく正しかったのだろう。
 だからこそ、刀儀も名すら置き去りにした男の名を、殊更知ろうとは思わなかった。

 「そやったら……、ええな………………………………あら」

 その瞬間、ストン、と膝から力が抜けた。
 無論、体捌きとしての“抜き”ではなく、単純に疲労と出血多量のツケが来たのだ。
 刀儀は横倒しに倒れていく。

 「「あっ……!」」

 アリーシャとミリアが声を上げる。

 しかし、声を上げた理由は、刀儀が倒れたのと別の理由だ。

 「……って、あら、ラエリさん」

 ぽすっ、と
 ラエリが刀儀を抱きとめていた。





* * *





 「泣いていいぞ」

 まず、ラエリはそう言った。
 そのまま、膝枕の体勢に移行する。

 「……なんで?」

 一呼吸おいて、刀儀は聞いてみた。

 「泣きたいんだろう? ……寂しくて」

 そう言ったラエリは…………なんとも言えない表情で

 哀しいような、辛いような、刀儀には出来ない表情で

 見つめていた。

 「…………ラエリさん」

 喋ろうとするが、言葉を紡ぐのが億劫だ。

 血と一緒に生命が流れる。

 それがもたらす寂々とした空虚と

 また独りになってしまったという実感が

 心の中のどこかで、滲むように湧いて出ている。

 「ラエリだ」

 そうして、いつもの訂正が入る。
 今日ばかりは素直に従おうと、刀儀は思う。
 
 「―――ラエリ」
 「ん……」

 ラエリは、小さく小さく頷いた。

 それを確認してから、刀儀は気付いた事を口にした。

 「俺の心……見てるんか?」

 そう、囁き掛けるように問う。

 ―――それは歪んだ鏡。

 なぜなら、彼女の瞳に映っている自分は、自分の知らない顔をしていた気がしたから……。

 「……なぁ?」

 刀儀は思う。

 きっと、ラエリが映しているのは刀儀が気付けない刀儀の心の一部なのだろう。

 彼女の“心”に映りこんだ、彼女だけが知っている刀儀の真実、その断片。
 
 「ああ……だから泣け、泣けなくても」

 そして言う。
 ラエリは言う。
 寂しいのならそう言えばいいと、泣きたいなら泣けばいいと

 しかし

 「…………」

 「…………すまん」

 刀儀は泣かなかった。
 泣く筈が、無かった……。

 それは、いつか剣を握らない日が来た時にすればいいと

 その日までは、ずっと、ずっと……。だから――――――

 ………………。

 「いまは……、技を……、剣を極める以外の事は考えられへん……」
 
 後戻りできない覚悟、それも――『業』

 それを告げる。

 ラエリは無言で、刀儀の頭を頭を包み込むように、ぎゅっ、と抱き締めた。

 そうして一滴、見えないけれど確かに、静かな涙が降って来た。

 それは刀儀にとって、本当に、それこそ……本当に、泣きたくなるような気分だっただろう。





* * *





 「よっ……と」

 「あっ」

 刀儀は体を起こす。

 本日最後の仕事をするために。

 「アリーさん……魔法で血だけでも止めてくれんか、こいつ、運ばなあかん」

 「あ、はい、でも……なんで」

 そう言いつつも、治癒魔法は発動させている。

 「……もう、死者はいてない。ここには死体だけしか無いかもせぇへん。そんでも、一人の剣士としてのこいつの人生を否定されたくないんや……」

 刀儀は、そう答えてスカーを抱え上げる。

 「うっ……重」

 体格と鎧を着込んでいる事が災いし、重さに負けて刀儀がよろめく。

 ―――がしっ

 と、それをミリアが支えた。
 彼女も、スカーと言う男に関った一人だから

 「ボクも、手伝わせてください。…………だってこいつ、きっと悪い奴じゃなかった」

 不器用だった。
 それを知っている。

 それで許される事では無いかもしれないが、それでも

 「もっと……ちゃんと話してみたかった気がする」

 そして刀儀も

 「俺も…………そう思ってた」

 静かに同意した。

 そして









* * *









 いま居るのはラドクリフ老の屋敷。
 刀儀ににあてがわれた一室。

 あのあと、スカーの埋葬が終わり、ミリアとも別れた。
 どうやらあっちはあっちで色々大変な事情があるらしい。
 忙しなく駆けていった。

 ………………。

 ………想像しようとすれば、以外と想像できそうな安易な事情な気がするけど、やめといた方が無難だろうと思う。
 まあ、明日また会う約束をしたので、嫌でも関わる事になるし…………。

 結論。とりあえず、今は置いとこう。

 「まずはこっちや」

 兎に角、やるべき事が他にある以上そっちを優先。
 刀の外装を変える為、白鞘を割って刀身を取り出す。
 拵えは以前の刀のを流用する。
 元々、あれはこの刀を使うまでのつなぎ用なので、拵えもこれ用として使えるようにしてあった。

 「ん……?」

 なにかある?

 手紙だ、それも二枚。

 柄の部分に折りたたんで、仕込まれてる。

 「?」

 好奇心に駆られ、手紙を開いた。

 そこには―――

 『よぉ! 楔ぃ、元気か? こいつが見つかったって事ぁ、お前も憑かれちまった口だなぁ。
 ああ、それはそうと、お前の刀、俺の落日に銘はつけたか? つけてないならさっさとつけろよ?
 こいつはテメェの振るう刀だからな!! っと、最後にこいつについて、安心しろ、きちんとコーティング済み、イオンコートだ、すごいだろ! 伝統技法から現代科学、そんで俺のありったけ、全部つぎ込んでやったぜ! へっ…………きっちり最期まで、お前に付き合ってやれるようにな……。

                                真兼鉄心 』

 「………………」

 いなくなった人からの手紙……気分的に、結構堪える。

 思い出が溢れ返りそうになる。

 ……もう一枚の方も開く。

 なかには―――

 「………………一万円札?」

 なぜか一万円札。
 なぜに一万円札?

 「……あ、なんか書いてる」

 どれどれ…………。

 『 こづかい
           仁斎 』

 簡潔明瞭。

 「………………」

 どうやら、最後のこづかい……らしい

 ………………らしい

 使えねぇ

 「………………はっ」

 ちょっ、やばっ

 「ははっ…………くっ、はは……ははは」

 あかんて

 「ははははははははははははははははははははははははははははははは」

 あかん

 「――――――――――――――――――――――――――――――――――――」

 泣きそうになるやろ――――――

 ―――――――――――――――――――――――
 
 ―――――――――――――――――――――――

 ―――――――――――――――
 
 その日の真夜中、なぜか屋敷に大笑いする声が響いた。
 驚いてラエリたちが見に来たが、刀儀は笑うのを止められなかった。
 
 そして、笑いすぎて、疲労で倒れた。

 どうやら、この世界に来てから、気絶で一日を終える癖がついたようだ―――。
 

 


 ぱたん、きゅー

 

 


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