・Scene 34-3・
解らないものは解らないと、諦めも時に肝心だ。
もし、その日の事を日記に記す事があるのなら、キャイアは間違いなくその一言だけを記すだろう。
「キャイアぁ、これでもう三件目だよぉ?」
「次こそ、次こそ大丈夫だから安心なさい! ……ホントよ?」
目を潤ませた小動物のような態度で後をついてくる少年―――柾木剣士を、キャイアは無理やりの笑顔を作って宥める。
あくまで、笑顔で。頬が引き攣り眉根を寄せていても、笑顔は笑顔。
何しろ、泣かせているのはキャイア自身だったから。それがたとえ過失だったとしても、責任をもって宥めなければなるまい。
「でも此処、確かワウの工房だよね?」
上層庭園部から階段を下り、聖地管理設備の存在する下階層の一角にある観音扉を見上げて、剣士は不安そうに言う。日頃のワウアンリーの言動を知っている彼にしてみれば、この場所では自分の望みが果たされる可能性は薄いだろうと思っているらしい。
「ワウアンリー・シュメはあれで父さん―――結界工房の優秀な聖機工の弟子なんだから、細かい作業は得意なのよ」
「でもユライト先生だって駄目だったのに……」
だから平気だと言うキャイアに、剣士は先ほど一人のところを見かけて、偶然出会い相談したこの学院の教師であるユライト・メストの名前を出して不安げに呟く。
その名前を出されると、キャイアも微妙に反論が難しかった。
ユライトは古くよりシトレイユで聖機工を生業としてきたメスト家の人間に相応しい、優秀な聖機工だったからだ。そんなひとかどの人物が無理だと言った事柄を、例えキャイアの父であるナウア・フランに師事しているとは言え、見習いに過ぎないワウアンリーに何とかしてもらおうと言う考えが無理に過ぎると言う意見は至極尤もである。
だがキャイアの少ない伝手の中では頼れる人間がもうワウアンリーくらいしか残っていないのだ。
「大丈夫よ。大丈夫な筈よ……多分。入ってみれば解るわ」
それ故キャイアは、自分でもまるで信じていない言葉を口にしながら、剣士を引っ張って工房に踏み込むことしか出来なかった。
「おや、珍しいお客様だね」
うめき声を上げずに済ませた自分を褒めてやりたいとキャイアは思った。
思わず後ずさり、入り口の標識を確認しなかった事など、軌跡としか思えない。
それほど、予想できない―――予想したくなかった人物が、そこにはいた。
「アマギリ様。こんにちわっ!」
何処か特徴のかけた、装いが違えばそれこそ使用人の一人にしか見えないような少年に、キャイアの背後に立っていた剣士が礼儀正しく頭を下げる。
「やあ、剣士殿。こんにちわ」
微笑と共に剣士に礼を返した少年は、キャイアの方を向いた。その瞳は、何処か面白がっているように見える。
只の使用人にしか見えない朴訥な顔が、その目だけで、そうではないと告げていた。
「アマギリ殿下、どうして……」
どうしようもなく苦手な視線に見つめられ、キャイアは逃げるように視線を逸らしてそんな言葉を口にしていた。少年は肩を竦めて応じた。
「ジャイアニズムって知ってる?」
「は?」
惚けたような物言いに、キャイアは互いの立場から言って不敬とも取れる言葉を漏らしてしまった。
しかし少年はそれを少しも気にした風も無く、キャイアの背後に居る剣士に視線を移した。剣士が頬を引き攣らせる。
「ひょっとして、俺のものは俺のもの、お前のものは俺のものってヤツですか?」
「流石剣士殿、博識だね」
「いえ……むしろアマギリ様がその言葉を存じてらっしゃる事が以外なんですけど」
「異世界人と言うのは新たな文化風俗の運び手って事さ。―――まぁ、この単語は何故だか昔から知っているような気がするんだけど」
ようするに、異世界人が伝来した折に広めた単語らしい。
そんな、知っている人にしかわからないような例えは、是非とも私と会話する時には持ち出さないでくれとキャイアは思う。
本当に、こういうところが苦手なのだ。
「それで、ドカンの空き地でリサイタルの人がどうしたんですか?」
何時ものように態度に参っているキャイアを他所に、剣士は何処か楽しそうに、またキャイアには理解できない例えを持ち出して少年に尋ねていた。この素直さは貴重である。少年も素直に応じている。
「うん。ようするに出っ歯の子分の物は須らく親分のものって例えさ。それをこの工房に当てはめてみれば良い」
「―――つまり、ワウは出っ歯って事ですね」
「なるほど、鋭い返しだ」
「変な嘘広めないで下さいよ二人とも!!」
工房の奥から、つなぎ姿のワウアンリーが歯をむき出しにして飛び出してきた。
その形相に驚くキャイアと剣士を尻目に、少年は一人泰然とした態度だった。
「あれ、居たの?」
「今気付いたみたいな顔止めてくださいよ!! さっきまで一緒に図面広げてたでしょうが!! っていうか何時の間に居なくなってたんですか……」
「ま、そんな事よりもお茶入れてくれる。お客さんだから」
「それは見れば解りますけど、多分あたしのお客様ですよね、この人たち……」
「だからこそのジャイアニズムじゃないか」
笑うアマギリに対して、もう慣れましたけどと項垂れるワウアンリーの姿に、同業者としてキャイアは涙を禁じえなかった。
「あ、お茶だったら俺入れますよ」
「ああ、この間のお弁当も美味しかったしね。期待させてもらおうか。じゃ、とりあえずむさくるしい所だけど奥へどうぞ。歓迎するよ、剣士殿。キャイアさんは―――」
元気良く宣言する剣士に頷いた後で、少年は再びキャイアのほうに視線を合わせた。
「な……何か?」
思わず後ずさるキャイアに、少年は苦笑と共に一言告げた。
「―――とりあえず、今後も王族の護衛役の仕事を続けるためにも、表情を取り繕う事を覚えた方が良いと思うよ?」
別に責めるつもりも無いけれどと、笑いながら奥へと誘う少年の態度に、キャイアは嘆息していた。
油断大敵。主であるラシャラが言ったとおりである。何気ない風、見ていない風を装いながら、その実しっかりと全てを視界に納めている。
『向かい合うのであれば決して油断なぞするでないぞ。一瞬でも気を抜いたが最後、紙突かれて骨までしゃぶり尽くされるわ。特におぬしのようなものにとっては、噛みあわせは悪かろう』
事実としてラシャラの言葉どおり、キャイアはアマギリの事が苦手だった。
その真意を読ませない態度が、苦手だ。それでいながら場のの全てを察しているような視線が、苦手だ。
一人何も差し出さずに、全てを手に入れようとしているようで、彼のいる空間はとても居心地が悪い。
アマギリ・ナナダンと言う少年に対して抱く、キャイアの想いはそれに尽きた。
出来れば会いたくない人物であり、正直な所、キャイア自身が職務のために飛び級した事によってクラスが別になったこともありがたいと思えていた。
見たくないものは、なるべく見ないようにすると言うのがキャイアの処世術だったから、遠く視界に入らない位置に居てくれる状況はありがたかったのだ。
遠くに置き過ぎて、ワウアンリーの主であると言う事実を忘れていたのは問題だったなと、キャイアは今更この場所に来た事を後悔していた。
どうせ無理なのだから、手早く要件を告げて断りの言葉を貰って場を辞そうと、キャイアは工房の奥まった場所にあるこじんまりとした休憩スペースに通されるや否や、目的のものを繰り出した。
「……ペンダント?」
「どっちかって言うと、千切れてる飾り紐のがメインなんでない?」
ハンカチに包まれたそれを示された見たままに言葉にするワウアンリーに、その背後を推察したアマギリが続けた。
そうでしょ、と目線で尋ねてくるアマギリに、キャイアは視線を逸らしながら頷いた。これは彼の視線が苦手だったからではなく、単純に後ろめたかったからだ。
「はぁ、ポッキリ逝っちゃってますねぇ」
ワウアンリーがしみじみと言った口調で呟いた。
不思議な光沢を放つ水晶を、綺麗な金細工で装飾したペンダント。
ペンダント本体と同じように首にかける紐の部分もやはり同様に精巧な金細工で作られていた。
しかし、一級品の芸術品と呼んで差し支えない拵えのそれは、今はワウアンリーの言葉どおりに首にかけるという機能を失っていた。
紐の部分が、折れて二つに割れていた。
「キャイアが引っ張って壊しちゃったんだよ。酷いだろぉ?」
「ワザとじゃないわよ! だいたい、元はと言えばアンタが紛らわしい……いえ、何でもないわ」
よほどこのペンダントに思い入れがあるのか、それとも単純に根に持つタイプなのか、ぼやくようにのたまう剣士に、キャイアは声を荒げそうになったのを何とか押し留めた。
「ようするに、剣士殿の私物をキャイアさんの過失で壊してしまった、と」
なるほどねぇなどと、少しも感心していない口調で解りきった事実をわざわざ口にするのはやめて欲しいとキャイアは思った。流石に口には出せないが。顔には出ているかもしれないが、どうしようもなかった。
「それでワウ、直せそう?」
アマギリの言葉に一々懊悩に揺れるキャイアを放って、剣士が身を乗り出してワウアンリーに尋ねる。
しかしワウアンリーは眉根を寄せて首を横に振った。
「あたし機械の溶接なら得意だけど、装飾品の修復は専門外かなぁ」
「……そっかぁ」
ワウアンリーの言葉に、剣士は、しゅん、と犬のように残念そうに肩を落とす。
そんな剣士とは対照的に、キャイアは何処か安堵を覚えていた。
ワウアンリーは不可能と言った。―――ならば、もうこの場所に用は無い。
手間を取らせた謝辞を述べ、速やかに場を辞してしまおう―――キャイアはそう考えて、実際既に、少し腰を浮かしかけていた。
だがしかし。
「殿下ならどうですか?」
ワウアンリーが余計な言葉を口にした。
「ん―――……」
その問いにアマギリは、意味があるのか無いのか解らないような声で答えた。
いやそんな、他国の王族方にお手間をたらす訳には行きませんとキャイアが口を開こうとするよりも早く、剣士が期待に目を輝かせていた。
「アマギリ様、直せるんですか!?」
「この人こう見えてもあたしよりも優秀な技師だからねぇ。案外何とかなっちゃうかもよ?」
テーブルの上に置かれたペンダントを睨んだまま言葉を返さないアマギリに変わり、ワウアンリーが剣士に応じた。その言葉にキャイアは思い出した。
アマギリ・ナナダンは―――
「そっか、ラシャラ様が、アマギリ様は異世界人だって……」
「馬鹿っ!」
止めるには遅い。既に剣士の言葉は紡がれた後だった。キャイアは慌てて向かいに座るハヴォニワの二人の顔を伺うが、二人は共に、何を慌てているのかと苦笑しているだけだった。
「あの、今のは聞かなかったことに……」
「ま、今更だからね」
「ですよねー。っていうか、そろそろ後輩を見習って隠す努力を思い出しましょうよ」
その余りにもあっさりとした態度に、常識を弁えているキャイアとしては言葉に困るのだが、隣に座った剣士にとってはそうではなかったらしい。
本人の口から確定的な言葉を聞かされて、更に勇んで身を乗り出す。
「あの、ホ、ほんとに異世界人なんですか!? どうして、いやどうやって!? じゃなくて、えっと、ええ~~っと」
「まぁ、少し落ち着きなって」
聞きたい事は幾らでもあるという態度を隠しようもしない剣士を、アマギリはやんわりと押し留める。
「でも、俺! その……」
俺も、異世界人ですから。
それでもその言葉だけは言わないようにしているのは、自省が効いているのか、躾が効いているのか。
とにかく剣士の口から決定的な一言が出なかった事にキャイアは安堵して―――その数瞬の間もなく、無駄な事だと悟った。
アマギリが教師のような顔で口を開いたのだ。
「僕が異世界人と言うのは正しい。けど、剣士殿が聞きたいようなどうやって”此処から帰る”のかとか、”どうして自分が此処に居るのか”とかいう質問には残念だが答えられないかな」
「どうしてですかっ!」
アマギリの淡々とした口調に、剣士はバンと、テーブルを叩き身を乗り出す。
その顔は必死そのもので、キャイアは衝撃を受けた。
この場に居る自分という立場そのものに理不尽を感じていると、有々と示していたから。
そして、それが当然の話だと今まで考えもしなかった自分を、キャイアは恥じた。
剣士は異邦人なのだ。此処とは違う何処かから、自分の意思ではない何かによって引き寄せられ、そして使われ、今も使われている立場自体は何も変わらない。
日頃どんなにお人よしで気弱で、気楽で能天気な態度に見えても、状況に理不尽を感じる感情が無いわけじゃないのだから。
むしろ、今まで良く何も言わなかったと言える。
「アマギリ殿下、私からもお願いします。出来ればこの子に、殿下の知りうる限りの事をお聞かせ願えませんか?」
剣士の表に出ない心のうちにあるものを今更ながらに理解した身として、キャイアは彼の希望に沿うならと自身もアマギリに願い出ていた。
しかし、キャイアの真摯な頼みも、それに感動してる風の剣士の顔も見えているだろうに、アマギリの言葉は単純だった。
「無理」
「あんたねぇっ!!」
「どぉー、どぉどぉどぉ、キャイア落ち着いて!」
断腸の思いからの言葉をあっさりと否定され、感情のままに激昂しかけたキャイアを、ワウアンリーが押し留める。そしてワウアンリーは、そのままアマギリのほうに言葉を飛ばす。
「殿下! そう言う人をおちょくるような事ばっかり言ってるからマリア様に愛想つかされるんですよ!!」
「此処でそれを言うのかよっ!?」
「言われたくないなら、少しは反省してくださいよ!」
「テメッ……客の前だからって妙に強気だなチクショウ」
ワウアンリー”が”アマギリ”を”叱ると言う、想像を絶する光景にキャイアは怒りを削がれて唖然としてしまった。
王と従者のやり取りと言うよりは、どちらかと言えばそれは仲の良い兄弟のようなやり取りに見えたからだ。
そして、驚いているキャイアの横で、剣士が余計な言葉を口にしていた。
「アマギリ様、マリア様と喧嘩でもしてるんですか?」
「ちょ、お馬鹿! そういう事は思っても口にしちゃ駄目でしょ!!」
それこそ姉の態度で剣士を怒鳴りつけるキャイアだったが、自分の言葉のほうが地雷だったとは気付けなかったらしい。
「つまりキャイアさんも気になるわけね」
「あ……」
アマギリの刺す様な言葉に呻くキャイアに、ワウアンリーはいっそ気楽に言い切った。
「そりゃ、殿下にしては珍しく痛恨のミスって感じの状況ですしね。攻められる時に攻めないと、やってられないじゃないですか」
「その前向きな態度は買ったぞ従者。次の給料日楽しみにしとけよ……」
「優しいお兄ちゃんは、口ばっかりで今まで一度もゼロを引いた事も無いこと、あたし知ってますしー」
キャイアならば絶対に恐れて引き下がる言葉にも、ワウアンリーは全く意に介していなかった。アマギリのほうがいっそ悔しそうである。
「てめぇ……」
「はいはい、後で幾らでも八つ当たりに付き合いますから、今は剣士の質問に答えてあげましょうねー」
「あの、何でしたら私たちはお暇しても……」
「ああ良いです良いです。殿下ちょっと妹にかまってもらえなくて拗ねてるだけですから」
想像の中では絶対にありえないようなやり取りを繰り広げるハヴォニワの主従に完全に腰が引けていたキャイアを、ワウアンリーはからからと笑って留めた。
アマギリも、不貞腐れた顔をしているが何もいう事はなかった。その事がまたキャイアには恐ろしかった。
「ええと、じゃあ話を戻すけど、だ。まず僕は異世界人。で、剣士殿が知りたいのは此処から此処じゃない場所への帰還方法と、何故此処に居るのかと言うことで良いんだっけ?」
「あ、はい。でも、それよりマリア様と喧嘩してるんなら早く仲直りした方が良いですよ」
「うん、まぁその件に関しては前向きに善処すると言うか剣士殿の意見もぜひお聞かせ願いたいと言うか。―――とにかく、僕は剣士殿の質問に無理と答えた。此処までは良いよね」
「良いですよ。俺、姉ちゃん達がしょっちゅう喧嘩してるの見てましたから、アドバイス出来ると思います。―――ウチの一番下の姉ちゃんとかもそうですけど、あの位の歳の子って結構尾を引きますしねー」
「―――とりあえず、話す内容をどちらかに限定しなさいよ」
天然何だか狙ってるんだか良く解らない会話の応酬に、キャイアも本音で突っ込んでしまった。
「殿下の最近の一番の悩み事ですから、今更形振りかまっていられませんもんねー」
「五月蝿いよ。ええと、それでだ。単純に覚えていない事は答えようが無いのさ、残念ながらね」
「覚えてない、ですか」
「そ。覚えてないの」
あっさりと正答を口にするアマギリに、剣士も驚きも見せずになるほどと頷く。
両者共に、話の流れの中で当然と受け取っているやり取りなのだが、聞いているキャイアとしては、此処まで引っ張っておいてなんでこいつらこんなに無感動で重要な事実を流せるんだろうと眦に皺を作らざるをえなかった。
やはり異世界人のメンタリティはジェミナーの人間と違うという事なのだろうか。単純に、この二人のものを考える上での尺度、スケール感が似通っているだけかもしれないが。
因みにワウアンリーは、既にこういう常識から一歩か二歩外れた展開にも諦めと言う処世術を身に着けていたので、何も言わずに呑気にお茶を啜っていた。二年の経験は伊達では無いらしい。
「じゃあ、仕方ないですね。すいません、無理に聞いちゃって」
「いやいや、気にしないで。気持ちは解るから」
「いえ。人の答えに頼ってばかりじゃ成長しないって姉ちゃんも言ってましたし、自分で頑張って探してみます」
「ははは、微妙に耳が痛いな、もう」
「この場にユキネさんがいたら、きっと自業自得って優しく言ってくれますよ」
「でも妹と仲良くするって難しそうですもんね。俺も兄弟はみんな、上しかいないから、きっと妹とか出来たら苦労しそうだな。―――あ、そう言えば上の姉ちゃんが、一番下の姉ちゃんと喧嘩した時は二人の母さんに頼んで仲を取り持ってもらったって聞いたことがあるかも」
「剣士はこの人と違って素直だから、妹なんて何人出来ても平気っしょー」
「お前本当に後で覚えとけよ……ってか、剣士殿と姉君方は母上が違うのかい?」
「あ、俺は母さんは父さんの再婚相手の人なんです。それで、姉ちゃんたちは―――兄ちゃんの嫁さん……で、良いのかなぁ?」
「おや、兄君もいらっしゃるのかい?」
「ええ、何時も何時も姉ちゃん達に振り回されて―――」
「っていうか剣士。異世界って一夫多妻だったっけ?」
その後は、実に和やかなムードで会話が進んでいった。
余りにも予想と違う和やかな空気過ぎて、キャイアはいつの間にか緊張が解けて安堵の息を漏らしていた。
―――実際に話してみないとわからないものだな。
そんな風に思う。
剣士の気持ち。アマギリの態度も。そうかもしれないで決め付けていた今までの自分にキャイアは反省を覚える。
これからは、もうちょっと。これに気付けたなら、次からは―――。
そんな風に前向きな気分になったキャイアとアマギリの視線が絡んだ。アマギリが笑顔で尋ねてくる。
「キャイアさんは、誰かに想いを―――まぁ、どんな思いでも良いんだけど」
「とりあえず殿下の場合は謝罪からですもんね」
「五月蝿いよ。―――とにかく、想いを告げるなら、どんなタイミングが良いと思う?」
キャイアは今度は、気後れする事無くアマギリと視線を合わせて、笑顔も作れて―――。
「そう、ですねぇ。私なら―――何かイベント毎でもあれば契機付けにはなると思いますけど」
「イベント、か。バレンタインとやらも新年祭とやらも遠いからなぁ。うん、ありがとう参考になった。―――ところで」
キャイアの言葉に笑顔で頷いたアマギリは、思い出したように、今や会話の彼方に忘れられていたテーブルの上に置かれたペンダントを示して言った。
キャイアは何の疑問も感じるでもなく、会話のリズムに引かれてなんでしょうかと笑顔で尋ねた。
アマギリが頷く。
「このペンダントを構成する金属部分は、見た感じ素材を粒子レベルで分解してこの形に再形成している可能性が高い。ジェミナーじゃ到底出来ない超技術の産物だね。―――こんな物を誰彼かまわず見せびらかして歩いてたら、その持ち主が異世界人だって言いふらして回っているようなものだと思うよ?」
「……へ?」
安心しきった瞬間に、間隙を突くように。
アマギリの言葉は抉るようにキャイアの懐を刺した。
※ ワウはきっとアレですよね。FDでルートが追加されたけど、肝心のシナリオが微妙とか言われるタイプ。
まぁ、この二人は本当に対等な関係って感じでしょうか。所謂悪友とか?
それこそジャイア(ry