・Sceane 26-2・
語られた物語は、おおよそこんな内容だった。
森の妖精への生贄に捧げられた少女。
森に迷い込み、偶然に少女に出会ってしまった何処かの国の王子様。
二人は惹かれあい、そして共に暮らそうと誓い合う。
―――しかし、森の妖精が二人を引き離す。
少女を返せと叫ぶ王子に森の妖精は言う。
少女は最早生きては居ない。我の力が無ければ存在すら出来ないのだと。
信じられぬと激昂する王子に、しかし妖精は自らの分身とも言える、森の奥にある最も大きな木の洞の中を覗かせる。
そこには、樹液に沈められた、少女の姿―――。
王子と共にそれを見た少女は自らの真実を思い出す。
少女は、役目を終えて旅立つ筈だった妖精の代わりとなるために、自らの意思で森へと赴いたのだ。
妖精になりきる刹那、人としての最後の意志が、果たせなかった恋を望み、その想いが王子へと届いたのだと。
貴方と出会えて嬉しかったと、そう述べて少女は消える。
一人残された王子の嘆きがこだまし、流した涙が深い霧となって森を覆う。
霧の覆う森、取り残された王子の耳元に、居なくなった筈の少女の声が聞こえる。
少女は森の妖精となった。森と、一つになったのだ。
此処に居る、此処に在る。
最早霧で封ぜられ、外界から閉ざされた森の中で、二人の想いは永遠となった。
「所謂悲恋モノ―――ですか? 残念ですが、やはり聞き覚えはありませんが」
めでたしめでたしと、少しも目出度いと思っていないといった風に語り終えたアマギリに、マリアが首を横に振る。それなりに書籍に目を通す機会もあったが、全く初耳の話だった。
「有名だって、聞いたんだけどなぁ。―――まぁ、僕が聞いたヤツもだいぶ脚色してるって聞いてたから、ホントの話はもっと違うのかもしれないけど」
「誰に―――聞いたのですか?」
首を捻るアマギリに、マリアが目を細めて尋ねた。
誰に、何時。
その言葉にアマギリは、諦念を込めた笑みを浮かべ、再び視線を窓の向こうへやった。
「……お兄様?」
目の前にいるはずなのに、何処か遠くへ行ってしまったかのようなその姿に、マリアが声を漏らす。
それに答えることもせず、一人何処かへ沈んでいくかのような顔で、アマギリはポツリと呟いた。
「さっきからずっと、それを考えていた」
それで、暗く沈んでいるように見えたのかもしれないと、晴れない笑みを浮かべて続ける。
「何時か何処かで、誰かに聞いた―――まったく、顔も思い出せないのに、居た事と言われた事だけは忘れられない」
「……それで、それは思い出せたのですか?」
マリアには問わずに要られなかった。
それとも、本当は忘れてすら居なかったのですかと、本当はそう問いかけたかったのかもしれない。
アマギリは答えもせず、再び追想に浸る。
―――凍えるような霧雨の降り注ぐ、深い森のを背に。
女は微笑みの一つも無く、彼に語った。
似ているといってもね、坊や。
坊やとあの方ではその能力は雲泥の差だ。
全てを見て、聴き、知り、そして語る事すら可能だったあの方の力に対して、坊やのそれは精々聴く事が出来る程度で、理解する事など以ての外。知ろうとすれば、脳がパンクして即死するだろうよ。
だから、別のアプローチで理解を求めようという坊やの判断は決して間違っては―――いや、今はそれは良い。
とかく、坊やの力はあの方の力を人間に相応しいように上手くデチューン、いや機能制限したものだと言いたい所だけど―――それでも、人が持つには過剰な力だ。
現にその力に圧迫されて、坊やの人としての機能は悲鳴を上げている。
もう、指一本動かす事すら辛いんだろう?
―――しかも悪い事に、あの方と違って坊やには、坊やを支えてくれる筈のパートナーが存在しない。
折角辺境から此処までやって来たのだから、見つけてくれれば良かったのだがね、それもう、間に合わない。
いやそもそも、此処に来たせいで、坊やは押しつぶされるようになったのか。
断言しよう、坊や。近日中にキミは死ぬ。キミはもう―――持たない。
故に、選べる選択肢は酷く少ない。だから私は、せめて提案だけはしよう。
決めるのは無論、坊や自身だ―――。
降り注ぐ雨が、やがて地を叩く音が響くほどに強くなった頃。
連れ出されて、朦朧とした意識の底で、何時か誰かに、そんな御伽噺をされた。
―――そう、今のような曇天の空を眺めながら。確かに聞いたのだ。
アマギリは郷愁の念を隠そうともせずに、呟く。
「昔は、体が丈夫じゃなかったんだ。だから、戦うための業を身に付けるのはそこそこにして、あまり自分の体を動かさずに出来る作業ばかり覚えるようにしたんだ。車両とか船とか、そういうのの動かし方とかね。後はひたすら、今みたいに椅子に座って本を読む事が多かったかもしれない。―――そう言えば、何処行っても頭を使うよりも体を動かすほうが得意、みたいな連中ばかりに囲まれてたから、こういう雨の日は、公然と何もしないで済んだから好きだったな」
聞きたいことは幾らでもあった。
それは何時、何処で、誰との話しをしているのか。マリアはそれを問い質したくて仕方が無かった。
しかし、出来なかった。
問えば最後。この男はきっと、自分の言った全ての言葉を忘却してしまう。
だから、話をあわせて続けさせる事しか、マリアには出来る事は無かった。
「身体……弱かったのでしょう? それが解っているのなら、普段から何も言われないと思いますが」
「生体強化とそれに付随する遺伝子治療を施しておけば、病弱なんて言葉とは一生無縁で要られるってのが常識的な話だからね。ただ、私の場合は確か人としての機能を支える器と言う意味でのアストラルの容量に致命的な……なんだったかな。専門家じゃないから良く解らないけど、とにかく下手に生体強化も施せないような体質だって聞いたけど」
事も無げに答える言葉も、マリアには理解が及ばない世界のものだった。
「せいたいきょうか、と言うのは一体……?」
「文字通りだよ。外的手段を用いて人間を強化させる―――まぁ、有触れた技術だけど……それにしても」
夢を見ているかのような空ろな瞳で質問に答えていたアマギリが、突然眉をしかめて言葉を濁す。
「……お兄様?」
じっと黙って、顔を歪めるアマギリに、マリアは心配そうに声を掛ける。
だがそれにアマギリは答えを返す事は無く―――少しの間が経ったあとで、大きく息を吐いた。
「―――やっぱり、無理か」
アマギリは吐き捨てるように呟いた。
「記憶喪失―――喪失して無いんだから、そうじゃないなやっぱり。記憶と知識を結び付けようとすると、いや、固有名詞が問題なのか……?」
「……あの?」
「―――ん? ああ、ごめん。少し考えを纏めようとしてたんだけどね」
マリアの呼びかけに漸く答えて、アマギリは視線を窓から外して微苦笑を浮かべた。
それは、何時も見かけるアマギリの顔だった。夢から覚めたかのような、現実に引き戻されたかのような、疲れた顔。
「昔の事を覚えてないって、何時だか話しただろう? でも最近、曖昧だった部分が何となく思い出せる事が増えてきてね。多分、仕込まれてた誘導催眠が僕の精神状態が健全化しているって認識し始めて、緩んできたって事なんだろうけど、いやでも、コレ多分催眠暗示だけじゃなくてナノマシンキャリアーを脳に置いて常時チェックとかしてるよなきっと。特定の記憶を引き上げようとすると心理ブロックが掛かるようになって……いやそれにしても、インフォームドコンセント無しにナノマシン仕込むのって犯罪なんじゃ―――ああ、ごめん、それは良いか。―――とにかく、最近はきっかけがあれば記憶が浮かび上がってくるようになったからさ、それを上手く利用して、全部引き上げられないものかって考えてたんだけど」
駄目みたいだねと、アマギリは肩を竦めて笑った。
「記憶なんて切欠があれば直ぐに取り戻せると思って放置してたんだけど―――最近中途半端に思い出せることが多くて、帰って苛々してくるからねぇ」
「生憎、私は記憶喪失に罹患した事が無いのでお気持ちを理解する事は出来かねるのですが―――あの」
額を押さえてアマギリの言葉を聞いていたマリアは、躊躇いがちに口を開いた。
なに、と視線で促すアマギリに、マリアは頷いて続けた。
「それで、上手く思い出せた場合―――その場合、お兄様はどうなさるお積もりなのですか?」
「どう……する? どうするか。―――どう、するべきなんだろうね。最近一番の悩み事だよ」
アマギリは、望まぬ言葉を口にするかのように、続ける。
「私としては―――面倒だな。僕としてはどうあっても帰るつもりはある。と言うか、帰らざるを得ないと思う。だけど、女王陛下は帰るなと言ったし、僕は結局、それを断る事が出来なかった。今の所は、せめて選ばなければいけない時までは、出来る限り女王陛下にお付き合いしようと思って、だから今もこうして此処に―――って、ちょっと!?」
「どうしました?」
言葉の途中で突然ぎょっとした顔で腰を上げるアマギリに、マリアは首をかしげて尋ねた。
「いや、どうしたって―――」
立ち上がり、テーブルに手を付き―――それで何ができるわけでもないと、どうにも混乱したかのような態度でアマギリは言葉を濁した。
それから、酷く気まずそうな顔で、視線を逸らしながら言った。
「―――なんで泣くかな、このタイミングで」
泣く?
マリアは言われて、意味が理解できなかった。
泣く。つまり涙を流す行為だ。主に悲しい時に。
では悲しい時は何時で、誰が涙を流しているのか―――マリアは、自身の頬が濡れている事に気付いて、驚いた。
「なんで、わたくし……?」
「そりゃ、僕が聞きたい事だよ……」
取り合えずといった仕草でアマギリはポケットからハンカチを取り出し、マリアの頬を撫でるように拭う。
必然、互いに至近距離で向かい合うようになる訳だが、互いの眼に映る互いの顔は、頬を赤らめ照れたもの―――と言うよりは、どちらもどうしようもないほどに迷いと戸惑いが入り混じったものだった。
「何で、泣いてるんでしょうね、私」
どうしようもなく不思議そうに、マリアはアマギリに尋ねた。アマギリも何処か惑いが混じった苦笑で応じた。
「葬式も控えて、空気が重くなっているからね、この街。気疲れで普段より心が弱ってるのかもしれない」
「こういう時は、普通、僕が帰ると言ったからじゃないかとか、聞くべき場面では無いのですか?」
皮肉と言うよりはただただ確認するだけのような口調で、マリアは言った。本当に、自分の感情が理解できなかったのだ。
悲しいのだろうか、自分は。彼が帰ると口にした事が。
じっと目の前の、自身の頬を拭うアマギリの顔を注視する。
困ったような―――ただ、この場を凌ぐにはどうすれば良いかと迷っている、苦い顔。
「解っている事を、今更悲しんだりはしないだろう? キミは―――賢いから」
本人の口から、今さっき。遂に帰るという言葉を聞いた。―――そしてそれは、初めから解っていた事だ。
何時か目の前から居なくなると、初めてあったその時から、マリアは正しく理解していた。
「それは……いえ、そうですわね」
だからそれは、改めて言われたからといって悲しい事ではなく―――。
「貴方は、結局そうやって、何時まで経っても私のことを見ては居ないのですね」
「それは―――」
「私はお母様の付属品。それ以上でもそれ以下でもない。違いますか? それとも、解っていないとでも思っていましたか? ”賢い”私が、まさか気付いていないとでも?」
ポツリ、ポツリと己の身を切るよう冷たさを込めて、そんな風にマリアは言った。
兄と思い妹と呼ばれ―――その実際、それは全て誰かに要求された演技に過ぎず、彼と彼女は、未だに自分たちで関係を構築していない。
周りからそうと望まれて、その結果―――幸か不幸か、二人ともそれをこなせてしまうだけの器用さがあったのが災いした。
だから何時まで経っても、お互いに向き合いきれて居なくて、近くに居る筈なのに、それはどうしようもなく遠くて―――だから悲しいの、だろうか。
マリアは自分の思考に嘆息して呟いた。
「よく、解りませんわね、自分の心と言うのは」
「ああ、哲学っぽくて好きだよ、そういう言葉。大人になってから言うと恥をかくって聞くけど―――痛っ!」
問答無用で、いつの間にか頭の上に載っていた手を、叩き落とした。
「少しは反省してください」
困ったと苦笑するアマギリにマリアは目を細めて追求する。
「―――何をさ。いや、言いたいことは解るつもりだけど」
「……本当に、解っているんでしょうね?」
「そりゃあ、ね。確かにキミとは、それなりに長い事居るのに、まともに”会話”をした事は無かったかなとは、最近反省している所だけど。夏にハヴォニワに帰った時そこら中から突っ込まれたからね、その辺り」
でも、それはお互い様じゃないかと、疲れたように言うアマギリに、マリアはバツが悪そうに視線を逸らした。 確かに、彼が自身を語らないのと同様に、マリアも当たり障りの無い会話しかしていなかった。
いやそれでも、少なくともコイツよりは歩み寄る努力はしている。
こういう強がりが悪いのかもしれないけど。
「解ってくれるなら、今後は少しは―――いえ、私もこんな無様を見せないように反省するつもりはありますけど」
「はは。ま、可愛らしくて良かったけど。―――じゃあ、折角だから一つだけ良い?」
反省感ゼロのアマギリの態度に、マリアはもう一度引っ叩いてやろうかと思いつつ、収拾がつかなくなりそうだったので、顎で先を促す。
「僕がキミと、あんまり向かい合わないようにしていたのはキミが思っているように女王陛下を間に挟んでいたから適当に相手にしていただけとか、そういう理由が一番じゃない。―――それを否定できないのも申し訳ないけど、それは今後の課題としよう―――で、だ。まぁ、何ていうか、また曖昧な思い出話になるけどね。僕、結構大家族の生まれなんだよ」
「……はぁ」
いきなり何を言い出すんだコイツはと言う態度で頷くマリアに、アマギリは曖昧に笑って先を続ける。
「父や母、実の兄や姉、ついでに親戚連中は数知れず―――よくもまぁ、名前が全然思い出せないのに個性的な記憶に残る人たちばかりなんだけどさ、妹だけは、居なかったと思う」
「………はぁ?」
「あ、そういえば因みに、一人だけ名前が思い出せた人が居るんだ。僕には雪音と言う名前の姉が居た。これは絶対だ。間違いない」
「そんな事は誰も聞いていませんけど―――いえ、と言うことは貴方がユキネにばかり妙に甘ったれた態度を取るのはそういう理由ですか―――ではなくて。……とにかく、つまり、どういう意味ですか」
後で思い返せば割と普通に衝撃の事実であろう事を聞き流しながら、マリアは先を促す。
アマギリは自嘲する様に笑いながら続けた。
「少なくとも僕自身が自覚できる僕の年齢って、精々見た目と変わらない十数年程度なんだよね。―――覚えてないだけで千年くらい生きてるのかもしれないけど、まぁ、覚えてないから僕自身は十代だって思ってる訳で」
「―――それが、何か?」
唐突に関係の無い話が始まったと首を傾げるマリアに、アマギリは肩を竦めた。
「―――人生経験の足りない十代の人間にしては、僕は随分と世慣れしているようにみえない?」
「―――それは。いえ、確かに」
問われて、そういう部分があるなとマリアはアマギリの言葉を否定できなかった。
確か今年で、十六歳と言っていた、目の前の兄。しかしその態度も、穿ったような物言いも、とても年齢相応には見えない。
「でも、それは私も変わらないと思いますけど」
自分たちのような立場の人間では、珍しい話ではないだろうというマリアに、アマギリも頷く。
「そうだね。キミもラシャラ皇女も歳の割りに弁が立つ。それはでも、そういう風に教育されているからであって―――それに何より、そうするべきと言う、誰かを見本にして演技をしているからでも、あるだろ?」
「それは、そうです。余り見本にしたいとは思いませんけど、母が優秀な為政者である事は事実ですから―――それで、ですがそれも貴方も同様でしょう?」
「うん、ようするに、そういう事」
アマギリは、マリアの言葉にあっさりと頷いた。
「僕がこういう場でも落ち着いていられるのは、そういう態度を示していた人たちの真似をしているからで、そういう経験まで忘れていたら、本当に僕はただの何も出来ない子供だろうね。―――慣れてるんだよ、偉い人とか年上の人とやり取りするのは。ホンモノを、間近でずっと見続けていたから。それだけは忘れられずに、記憶に染み付いている。だから、演じるだけなら自分でも出来る……でも」
妹と上手くコミュニケーションを取っていた記憶だけは、無い。
そんな風に、アマギリは言葉を括った。
「……未経験だから、つまり、ボロが出ないように避けていたと」
「まぁ、そう言う事にして置いてくれると助かるかな」
「助かるかな、じゃないでしょうが、もう……。要らない理由で頭を悩ませていた私の時間をどうしてくれるんですか」
額を押さえて、眦を寄せてマリアが呻いた。
アマギリは肩を竦めるだけで、それ以上は口を開かなかった。つまり、そう言う事だ。
「何か、疲れましたわね」
何が悲しくて、こんな場所まで来てくだらない話をしてしまったのだろうか。
馬鹿馬鹿しい。何より馬鹿馬鹿しいと思うことは、何処かで安堵している自分が居るという事実だ。
語られた言葉が事実であれば、アマギリも一応はマリアの事を身内として認識していると言う事実だけは確かだと言える。
だからこその、距離感。
全く持って、馬鹿馬鹿しい。幾らか悩んだ覚えがある自分が、尚の事馬鹿馬鹿しい。
くだらない事で焦燥感を覚えて、涙を流して―――ええい、こんな嫌な記憶など、雨に流されて消えてしまえ。
「―――そういえば」
マリアは、一つ聞き逃していた事があったことを思い出した。
「なんです?」
「いえ、大分話を戻すのですが」
首を傾げて問い返すアマギリに、マリアはそう断った後で先を続ける。
「霧の封印と言う言葉の意味は先ほどの話で解りましたけど、雨の契りと言うのは、どういう由来の言葉なんですか?」
問われてアマギリは、そういえば話してなかったっけと頷いた。
「ああ、二つとも別の話だからね、確かに。霧封の伝承についてはさっきの通りだけど―――雨契に関しては、どんなだったかな。結構曖昧な記憶しかないけど」
「キリト……霧封、と言うのが先ほどの話ですわよね。それで”アマギリ”ですか。……雨、契?」
雨契。
それは目の前の少年の名前そのものだった。
偶然にしては出来すぎていると呟くマリアに、アマギリも困った風に笑った。
「まぁ、それに関しては本当に偶然なんだけどね。で、肝心の内容だけど―――よくある話しだと思うよ? 雨の日に交わした男女の契約が一度途は切れるけれど、でも最後には結びついて、それは永遠になるとか、そんなんだったと思う」
「―――先ほどに比べて、随分曖昧ですわね」
「こっちは聞いた話じゃなくて、自分で本か何かで読んだ内容だったと思うからね」
普通自分で調べた話のほうが記憶に残りそうなものだが、アマギリは違うらしい。単純に、語って聞かせた人間のインパクトが記憶にこびりついているからかもしれない。
「永遠へと変わる、契約―――ですか。雨に流され溶けて消える、では無く」
「雨が降り、そして大地に溶け、つまり”一度消え”しかし再び天へと上り雨として降り注ぐ。その循環を指して永遠性を象徴してるんじゃないかな」
推測だけど、と語るアマギリに、マリアは納得して頷く。
それから、悪戯っ子のように笑みを浮かべて、挑戦的に問いかけた。
「でしたら、せっかくですから私たちも今ここで、正式に兄妹の契りでも交わしますか?」
そうすれば永遠に、そうで居られるかもしれません。
貴方は、そうと望みますか?
それとも雨露に流して、この会話の思い出も、何処かに消してしまいますか?
”いもうと”の問いに対する問いに対する、アマギリの答えは―――。
・Sceane 26:End・
※ 初めは、どっかの銀河でトップクラスに偉い人の青春時代の話を使って一ネタ、くらいの軽い内容にする筈だったんですが、
何をどうしてこうなったのか、スーパーネタバレタイムに。
まぁ、親の目のないところで、兄妹の本音トークと言う事で。