・Scene 42-1・
快速艇。
文字通り、快適な速度で空を飛ぶ船である。
ジェミナー由来の技術でもって制作された同サイズの小型貨物船の平均飛行速度の数倍の速度で飛翔可能であり、普通に考えれば”高速”艇とでも言うのが相応しいのだろうが、製作者であるアマギリにとってはこの世界の船は遅すぎて、自身の設計、制作したこの船で漸く快適と言えなくも無い飛行速度と呼べるらしい。
製作者によって適当に命名されたその小型の貨物船は、ジェミナーでは良く見られる、海に浮かべる艦船をそのまま空に浮かべたような外観とは一線を画した構造をしている。
通常の艦船であれば船体下部、局面で構成された外殻に沿って航行、姿勢制御も兼ねる重力制御リングを設置し、それをそのまま船の推進力とすると言う造りとなるのが一般的だ。
しかし、この快速艇は見た目からして異様である。
製作者曰く、三筒連結型の貨物航宙船をたたき台にして制作したらしいその外観は、魚の頭を思わせる操縦席から真っ直ぐ後方に伸びる魚の骨のような胴体と、その尾部に設置されたコンテナ保持用のアームからなる。
胴体下部に一機の聖機人のコクーンを保持できるように円形の保持腕が大小三つ備わっており、それがそのまま機体を浮かせる重力制御リングを兼ねる。
そしてその重力制御リングがそのまま推力を生む―――訳ではなく、細長い本体の上部に二つの円筒形の物体―――熱核タービンエンジンなる冗談を形にしたような産物が据付けられており、それが推進力を生み出す。
二本の筒を括りつけた細長い棒の両端に頭と尾びれをつけて、ついでに下に卵を抱える。
明らかに空力を無視した構造であるが、発生する慣性の中和や姿勢制御及び方向転換に関しては全て重力制御リングによって行われると言う無茶な構造である。
日頃、亜法技術は胡散臭いと言って憚らない割りに、都合よく便利な所だけは利用している辺り、設計者の意地の悪い性格がよく出ている。
「そういえば、船の性能を説明していた時は随分と楽しそうだったな」
「殿下もアレで、相当マッドですからねー」
四月の頭ごろに初めて快速艇を見た日の事を思い出して呟いたアウラに、船体後部に保持したコンテナのハッチを開いて機工人を搬入していたワウアンリーが答えた。
装甲列車後部、貨物室を改造したカタパルトデッキ。発射体制に入れば壁面が全開となって快速艇を乗せている電磁レールが外に向かって回転、進捗する仕組みとなっているのだが、今現在は壁は閉じられたままで、作業灯の薄明かりが明滅する何処か陰鬱な気分を呼び起こす空間だった。
突入部隊に配置される事となったアウラは、ワウアンリー、そしてリチアと共に船体後部の貨物コンテナの中で待機する事となっている。
そもそもこの船自体が”とりあえず作ってみた”的な物体なので、前部の操縦席も、メインの操縦席に予備の補助席一席のみと非常に狭い。ギリギリ二人座るのが限界と言う粗雑な作りであり―――何より、率先してアウラは操縦席の側に乗りたいとは思えなかった。
後部コンテナの前に居るアウラには角度的に伺う事が出来ない操縦席には、剣士と、そしてキャイアが座る事となった。
既に乗り込んでいる二人が今どのような状況なのか、考えるべき事ではないというのに、色々と想像せざるを得ない。
―――悪い予感しか、浮かばないから。
「良くないな」
自身の言葉に微苦笑を浮かべて、アウラは首を払うように振った。
悪い予感とは得てして悪い現実を引き寄せるものだと、自らの思考を強引に振り払おうとする。
「―――キャイアさんたちの事?」
しかし、壁際の椅子に腰掛けていたリチアが、その言葉を拾ってしまった。
振り返りその表情を伺えば、何処かアウラと似たようなものだったから、考える事は一緒だったとそういう事なのだろう。
「気にならないほうが、嘘ですよねぇ」
一つ高い位置にある機工人の操縦席から降り立ったワウアンリーが、やはり苦笑いを浮かべていった。
機工人はコンテナの中で確りと固定済みだった。一先ずは準備完了と言う事らしい。
何時でも、戦場へと向かえると言う訳だ。
―――だと言うのに、会話の内容は殆ど休み時間に教室の片隅で繰り広げられるようなゴシップトークに近いものだったから、少女達の顔には苦笑いしか浮かんでこない。
「些か趣味の悪い、しかし楽しいには違いない会話となる場面なのだろうが、今後を考えると流石に、な」
男女の不和がもたらした心の迷いを戦場に持ち込む可能性が高いというのだから、笑い話ばかりでは済まされないとアウラは苦い顔で言った。
「アマギリは野生動物に任せておけって言ってたけど……」
平気なのかしらと、色々と情報の整理が終わったお陰で精神状態が通常に復帰し始めていたリチアが、不安顔になる。
「殿下の剣士への信頼って、割と半端無い感じがありますしねー」
「ああ、あからさまに目上の人間を立てるような態度をとるな、確かに」
やれやれと首を振るワウアンリーに、アウラも確かにと頷く。リチアが眉根を寄せて呟いた。
「結局、アマギリとあの野生動物ってどういう関係なのかしら?」
思い出してみれば、アマギリは初めから剣士に対して謙るような態度を示していた。
そもそも、同級生、ほぼ同格といって差し支えないダグマイアに対してでさえ”君”付けしかしない男が、表向きはただの使用人に過ぎない剣士に対しては常に―――周りの目を憚る事無く―――”殿”と敬称をつけて呼びかける。
ただの使用人に対して外聞を気にせずに王家の人間が敬称をつけて呼びかけていれば要らぬ不審を呼ぶことは確実で、それが解らないアマギリでもないだろう。
それが剣士の秘めた真実―――異世界人と言う真実を明かしてしまう一端になりかねないと言うのに、アマギリは剣士に対して敬意を示すのを止め様としない。
そもそも、アマギリが本気の敬意を向ける相手が居ると言うことそれ自体が、リチアにしてみれば驚愕の真実とも言えた。
「少なくとも、お互い顔見知りと言う訳では無さそうだがな」
初対面の二人の様子を思い出して、アウラは言った。
「親戚か、それに近い関係なのだろうが……ヤツの態度からして、剣士の方が立場が上の家と言う事なのか?」
「の割には、礼儀作法に関してはアマギリの方がしっかりしてないかしら」
アマギリの宮廷儀礼は、日頃の何処隠棲的な面からは意外なほど洗練されたものだった。剣士も作法自体は一通り納めているようだったが、本人の性根によるものか、何処か背伸びをした庶民染みた空気が滲み出ている。
二人を並べて、どちらが”偉そう”に見えるかといえば、自然とそういう空気を纏っているアマギリの方を指し示す人間が多いだろう。
顔も見た目も、背格好自体は、二人とも似たり寄ったりのジェミナーでは庶民に選り分けられるような容姿だったが。
「そういうの、本人に聞いた方が早いですよきっと」
首を捻る二人の上級生達に、ワウアンリーは簡潔にそんな事を言った。
「一応自分の雇い主の事なのに、同でも良さ気ね?」
「あの雇い主と一緒に居ると、それこそ一々解らない事を悩んでも仕方ないって割り切らないとやってられないですから」
リチアの言葉に、雇い主の真似のつもりなのか肩を竦めてワウアンリーは応じた。
そのに合わない態度にアウラは苦笑しながら言う。
「しかし、ヤツに直接聞いたところでどうせ何時もどおり”覚えてない”ではぐらかされる事になると思うんだが?」
「あはは、アウラ様とリチア様なら、お願いすれば全部話してくれると思いますよ」
あたしは無理でしょうがと笑いながら言うワウアンリーに、リチアは眦を寄せた。
「―――でも確か、あいつアレで一応記憶喪失みたいなものでしょう? 野生動物との関係なんてあからさまに過去に係わり合いがありそうなこと、あいつ自分でも覚えてないんじゃないの」
冷静に思い起こせば”アマギリ・ナナダン”と言う彼の名前とて本名ではないのだ。
覚えていた単語を組み合わせて自分でつけた名前を、更にフローラ女王が適当に練り合わせてつけた名前だと、何時だかアマギリ自身が笑いながら言っていた事をリチアは思い出す。
しかし、ワウアンリーはその言葉にきょとんと目を丸くした。
「そんな事無いですって、だってあの人……」
「あの人?」
途中で言葉をやめたワウアンリーに、アウラが眉根を寄せて尋ねる。しかし、ワウアンリーは瞼を閉じて数度息を吐いた後、首を横に振った。
「いえ、何でもないです。とにかく、お二方は気になるんだったら殿下に直接尋ねてみるのが良いと思いますよ」
明後日の方向を見て苦笑いをし、これで終わりとばかりに言い切るワウアンリーの態度に、アウラは何か感じる所が合ったらしい。なるほどと頷いて微苦笑を浮かべた。
「―――それにしても、ワウは落ち着いているな」
あからさまな話題の転換だったが、ワウアンリーとしてはありがたい気分だったのでそれに乗った。
「何がですか?」
「余り良い状況とも言えないだろうに、慌てている様子も見えん」
チラ、と操縦席の方を見やりながら言うアウラに、ワウアンリーも同様に視線を動かした後で頷いて応じた。
「信頼しする事にしてますから」
「―――野生動物を……じゃ、無いわよね話の流れ的に。と言うか、あの野生動物も、その……こういう話題? に関して力を発揮できるとは思えないし」
純朴な人の良い少年である事はリチアも疑う事は無かったが、その純朴すぎる部分があるからこそ、こういう泥沼の男女関係から滲み出た問題を解決する事が可能とはどうしても思えなかった。
「それはあたしもそう思いますけど―――でも、剣士に任せておけばキャイアさんは平気だと思いますよ、ホント」
絶対に。リチアの気持ちに賛同しながらも、ワウアンリーは持論を曲げなかった。
「何故言い切れる? ―――正直、今回ばかりはヤツも人選をミスした気がするんだが」
言葉の端に、実際は言いたい事は解っているがと言う気分を乗せながらも、直接ワウアンリーの口からそれが聞ければ面白いだろうなと言う思いから、アウラはあえて解りやすい言葉で尋ねた。
ワウアンリーは手品の種が明かされてる事を察していたが、それでも自信たっぷりに応じた。
「あたしはあの人に身請けされた立場ですもの。主人を信頼しない筈がないでしょう?」
―――予想以上に面白い言葉が出てきたな、と言うのがアウラの感想で、脇で聞いていたリチアは頭が真っ白になっていた。
「……みうけ?」
「固まってるな」
「固まってますねー。予想通りですけど」
呆然と呟くリチアを眺めながら、ワウアンリーとアウラはしみじみと言った。
ワウアンリーの言葉に自覚的な意味を確認したアウラは、好奇心を抑えることが出来なかった。
「それで”身請け”などと言う単語は何処から出てくるんだ? 信頼関係にある主従であるのは前から解っていた事だが、流石にそういう言葉で括る関係とは違っただろう」
身請け、と言うのは一般的な用法で言えば事情があって娼館等に送られた女性を、客が金を払って、その稼業を止めさせて引き取る行為を意味する。
引き取った女性はそのまま妻や妾に据える事が殆どだから、その言葉を引用する男女の関係は艶やかな物と思えるのが当然だろう。
しかし、アウラの見ている限りではアマギリとワウアンリーの主従関係は良好では合ったが、そう言った部分が含まれているようには見えなかった。
尤も、アウラの経験地不足のせいでそういう風に見えなかっただけで実際は……と言う可能性も否定できなかったが。
「いえいえいえ、こう見えても清い体が売りですから、あたし」
そんな考えが出てしまっていたのか、ワウアンリーが苦笑して首を横に振った。
「正解は、コレです」
ワウアンリーは作業着の裏ポケットから一冊の手帳を引き出して、アウラに見せた。因みに、リチアは固まりっぱなしで反応が無かった。多分、正気に戻ったら会話の内容を忘れていると思われる。
「―――生徒手帳か?」
出されたものは聖地学院の生徒が所持する生徒手帳だった。無論、今この場に手元には無いがアウラも保有している。
しかしそれが”身請け”などと言う単語と何の関わりがあるのかと言えば―――その疑問に応じるかのように、ワウアンリーは手帳の皮製のカバーの折込に挟まれていた一枚の便箋を取り出してアウラに手渡した。
「これは……自由れんあ―――なにぃ?」
四つ折にされていたそれを開き、アウラは書かれた内容を長し読み、そして驚愕の表情を浮かべた。
自由恋愛許可書。
箇条書きに幾つ物条項が記されたその便箋の主題ともいえる一行目に、堂々とその文言は刻まれていた。
つまりその意味は読んで字の如くである。
本来義務が課せられて恋愛の自由もままならない女性聖機師に対して、その義務を免除して行動の自由を認めるものである。
「……実在するんだな」
アウラは呆然とした口調で呟いた。
そういうものが存在する、と言うのはアウラも聞いたことがあったが、実際に見るのは初めてだった。
幾つもの目覚しい功績を上げた聖機師に所属国家が教会の承認を受けて発行する”事もある”ついでにそこに”らしい”と付け加えねばなら無いほど、一種都市伝説に謳われるような存在なのである。
そもそも発行の条件からして矛盾していて、功績を上げるような優秀な聖機師に国家が自由を認めるはずも無く、功績を上げればその分だけ恋愛―――その果てにある婚姻、出産は厳然と管理されるようになる。
だからと言って特に目立った功績を上げる事も無い一般の聖機師にわざわざ労力を払ってまで与えるような書面ではなく、それ故にこの証書は幻の存在に成り果てていた。
書面の最後には、ハヴォニワ王家と教会の証印が押されており、この書類が本物であろう事を告げている。
「手配したのは、やはり……」
「そりゃ勿論、殿下ですよ」
ワウアンリーは困ったように笑って頷いた。
「まぁ、ヤツらしいと言えばそうか……」
フローラ女王がわざわざ自分から用意するようなものとも思えなかったから、アマギリが時に無駄なほどに発揮される気遣いで用意したものなのだろう。
見える部分では傍若無人に振る舞い、見えない部分にばかり気を回す。その辺り実にアマギリらしい。気遣われる側が意図してない部分にまで気遣って見せるのは、時に重荷になると気付かない辺りが特に。
「しかしこの書面は……同じ女性聖機師としては、羨ましいと言う部分なの……か?」
ワウアンリーの顔と手渡された便箋を交互にみながら微妙な顔で首を捻るアウラに、ワウアンリーも曖昧な表情を浮かべる。
彼女達は果たすべき義務を当然のように受け入れる立場にあったが、だからといって自由な恋愛と言うものに心惹かれない訳ではない。
リチアの百面相を見てたまに羨ましいと感じる部分も、彼女達には当然存在していた。
だからこの書類を受け取れたのならば、それは望外の幸運を手にしたと同じ―――筈なのだが。
やはり、素直に喜べない部分があるらしい。
「その心は?」
解らない事は悩む前に尋ねた方が早いと、明らかに何処かの男に毒された理論でもって尋ねるアウラに、同じように毒され気味のワウアンリーも頷いて応じた。
「あたしってば、殿下の御傍付きなんですよね」
「だからこそのコレではないのか?」
ワウアンリーの言葉に便箋を指で叩きながらアウラは首を捻る。ワウアンリーはアウラの疑問に更に深く頷いた。
そこにあったのは諦念交じりで、少しの照れも混じったような笑みだった。
慈愛に満ちている、と表現しても良かった。
「だからそれなんです。殿下―――アマギリ・ナナダン、ハヴォニワの皇子、そして男性聖機師が、自身の従者に手ずから用意した”自由恋愛許可証”を手渡す。自身の従者に女性聖機師としての妊娠、出産の義務の免除を与えたんです。―――周りから見たら、どう見えると思いますか?」
「―――ああ」
アウラはぼうっとした顔で頷いてしまった。
考えれば当然の話だ。王族が自身の近侍に義務の放棄を”命じる”。
即ちそれは、男性聖機師と交わる機会を奪うと言う見かたも出来る―――そう、”自分以外の”男性聖機師と交わる事を禁じるとも。
寵愛し、独占しようとしている。
そう見えるだろう。
「なるほど、身請けされたようなものだな、確かに」
アウラは得心入ったと、苦笑した。
「そういう部分に気付かない辺りが、あの人も異世界人なんだなーって思い出させてくれるトコではあるんですけどねー」
ワウアンリーはアウラの手から取り戻した便箋を丁寧にたたんだ後で生徒手帳に挟みなおして、胸ポケットのうちに恭しい手つきでしまい込んだ。
しまった後で、ぽんと胸元を撫でた後、ワウアンリーは笑った。
「そんな訳なんで、あたしは今後一生、殿下のモノとして生きる以外に道は無いですから。―――唯一絶対の主様のやる事ですから、信頼して上げないと、ね?」
長い付き合いになりそうですしねと、困ったように笑うその目に、まるで嫌そうな素振りが見えない事はアウラにとっては以外でもあったし、納得が行くものでもあった。
ワウアンリーにとってアマギリは唯一の男―――アマギリはまるで意図していない事なのだろうが、厳然たる事実である。
そもそもこの主従は何だかんだで相性が良いから、ワウアンリーにしてみればそれを受け入れる事も吝かではないと言う事なのだろう。嫌々というよりも楽しんだ方がマシと言う、現実的ながらも楽観的なワウアンリーの気質にも拠る所が大きいだろうが。
「しかしそれと全肯定するというのも何か違くないか?」
「別に全肯定なんてしませんよぉ。でもホラ、あの格好付けが素直に甘えたトコ見せるのってあたしの前だけですし、それは他の人にはない―――些か有り難味には欠けますけど、貴重な特権みたいなものですから。―――良い女を自認するあたしとしては、こう言う時は広い度量で寄りかからせてあげようかなーって前から決めてたんで」
あの人、甘えたがりの割りに人に甘えるの下手な人ですから。
固まったままのリチアに悪戯っ子のような視線を送りながら、ワウアンリーは言った。
「ですからあたしとしては、殿下が剣士の裁量に任せるって我侭言った時点で、キャイアさんのことに関してはもう終わった話題ですから」
その結果がどういう状況になろうと、是として受け入れる用意があるとワウアンリーは言い切った。
身内を危機に巻き込むような行動は取らないと言うアマギリの性質を信じているからこその言葉でもある。
ある意味、もうずっと前からリチア以上にアマギリに近い位置にワウアンリーは居たのだと、今更ながらにアウラは気付いた。そして恐ろしい事に、アマギリがそれを当然と受け取って―――その意味に気付いていない、気付かせていないのだ。
「見ていて飽きないな、あの男は」
気付けばアウラはそんな風に言って苦笑しているのだった。
「周りばっかり見ていて、見られている自分に無自覚ですからね、あの人」
「ああ、確かに。一歩引いてるつもりなのか知らんが、自分が輪の一員で居るという自覚に欠けているところがあるな」
剣士が主役。
アマギリはそんな風に評していた。
しかし、その男を中心に出来上がった歪で賑やかな、誰も彼もが好き勝手な方向を向いているような、輪とも言えない輪を、一歩離れて観察しているアウラから言わせてもらえば―――。
「名付けて”異世界の龍機師物語”、と言った所だな」
それが、正解。
正答を祝す号砲の如く、貨物室に今までにない振動が走った。
線路を鉄輪が軋ませる音ではない、横に揺れる、強い反動と轟音を伴う振動。
砲撃の音。
「―――始まったか」
真剣な顔で呟くアウラに、ワウアンリーも頷いた。
「みたい、ですね。まずは撃ちあいからですけど……リチア様、そろそろ起こしましょうか」
雑談の時間も遂に終わり、戦いがこれより始まるのだ。連続して響く砲火の響きは、少女達に否応なくそれを実感させた。
始まるのだ。戦いが。
物語が。
誰の?
それは―――勿論。
※ 最近かなりじめっとした展開が続いていたので、箸休め的に。
本人の居ない所じゃないと出来ない本音トークみたいな、もしくは内助の功。
……と言うか無自覚に自分の墓場行きの切符を切りまくっている現実ががが。