11月25日 PM 18:43 時空管理局本局 医療局
ユーリは病院の待合室で、ソファに腰をかけ、ティアナに面会できる時を待つ。
本局へ移送する途中で、既にティアナは意識を回復していたのだが、「大丈夫ですから」と未確認の捜査に行こうとしたのを無理やり止められ、無理やり検査をさせられる流れになった。
彼女が、医務室に入った後、フェイトは少し考え込むと「あとよろしくね」とユーリをその場に残し、少し思いつめた表情でその場を後にした。
申し訳なさと、自分が赤の戦士になれなかったことへの苛立ちで、その場にじっと座っていることすら苦痛に感じる。
みっともないと分かっていても、貧乏ゆすりがとまらない。
俯き、整理しようのない感情に頭を悩ませていると、女性が言い争っている声が聞こえた。
「ランスター執務官!駄目です!その怪我では…」
「大丈夫です!それに、ただ調べたいことがあるだけですから!」
“ランスター執務官”という単語にユーリは顔を挙げ、声がした廊下を見る。
廊下の向こうから、上着を整えながら歩くティアナと、若い看護師が心配そうに付き添ってこちらに歩いて来ていた。
「それでも許可できません!回復魔法と身体の治癒能力の経過を見るためにも最低でも明日の午後までは絶対安静に…」
「大丈夫ですから…!」
看護師は何かを言いたそうに口を大きく開けたが、これ以上は無駄なのだろうと、諦めて踵を返してしまった。
トボトボと寂しそうに帰る彼女の背中に、申し訳なさそうにティアナは一礼をし、再び歩き出そうとした。
そこで、彼女の動きは止まる。
「あなた…」
ユーリに気付き、驚くような、少しホッとするような…そんな微妙な表情の後、いつものように凛々しい顔に戻り、彼に構わずに早足で歩いていく。
「なんのつもり?」
突き放すように一言。
彼女の歩く速さに合わせながら、少し後ろからユーリは彼女に声をかける。
「すいませんでした。あの時、俺…上手く戦えなくて」
ティアナはユーリの方を見ようともせずに、エレベーターの下の呼び出しボタンを押す。
「分かったでしょ、あなたは武装局員じゃない。
これからのことは私達に任せて、管理保安部で自分の仕事をしていればいいの」
「でも…!」
ティアナは喫茶店の時同じ、それ以上の力でユーリの胸倉を掴みあげ、壁に叩きつけた。
バシン、という派手な音に、そのフロアにいる人間は皆ティアナとユーリの方を見るが彼女はそんなことには構わない。
「あなたが力を手に入れたと思うのは勝手…でもね、市民や力ない人々を守るのは私達、武装局員の仕事なの!」
「でも…!」
「でも、じゃない!
私、気付いたのよ。貴方が武装局員を辞めた理由が…」
「え?」
「第3号との戦闘中、あなたがアイツを思いっきり殴った時、追い討ちをせずにそのまま引きさがったわよね?
あなた、本当は戦いたくなんかないんじゃないの?」
「…っ」
ユーリが黙り込み、その反応でティアナは確信を得る。
それは今朝、ユーリの病室での出来事とはまるで正反対の状況だった。
少しティアナは悲しそうな、優しそうな表情を一端に見せ、そしてまたいつもの表情に戻る。
「戦いたくない人間が、私達のそばにいられても迷惑なの!
中途半端にかかわらないで!」
彼女はそう言い放つとユーリを力任せに押しのけ、エレベーターへと入り、問答無用でその扉を閉じる。
下の階へと移る表示灯を見ながら、ぼんやりとだが彼はある一つの事に気がつく…
「もしかして…俺に戦う気持ちが足りてないから…赤の戦士になれなかったのかな…」
まだ輪郭がはっきりと出ないほどに曖昧ではあるが、解は出た。
しかし、そこまでの辿りつき方が彼には分らない。
深い森に一人取り残され彷徨い続けているような、そんな孤独感と絶望感を彼は感じていた。
執務官の事件簿 2話 “変身” (後)
11月25日 PM 19:30 ミッドチルダ西部公道 車中
ユーリは待ち合わせギリギリでゴリスを拾うと、早速、管理局の転送ポートを利用しミッドチルダ西部へ飛んだ。
その後は昼間に彼が通った道を通り、スミソニアン教会へ向かう。
本来、こういった儀式は昼間に粛々と行われ、夜には死者の魂を弔うためにちょっとした会食のようなものを開くらしいのだが、
今回は遺族の都合、そしてなにより、彼らがそんな気になれないのが大きな理由により夜に葬儀を行い、そこで終了という形になっているらしい。
それもそうだろう、あんな無残な形で遺族を亡くしているのであれば、とてもじゃないが呑気に会食なんて出来るはずもない。
(そう言えば、俺、葬儀の雰囲気って苦手なんだよなー…)
むしろ、得意な人間なんていうのは少数だと思われるが、今更ユーリは自分が今から行こうとしているところの確認を改めてしていた。
不思議な感覚だった、今から自分が参加する行事なのにもかかわらず、どこか他人事のようで現実感がなかった。
ずっと“自分に足りない気持ち”というのが分からずに、自身に対してむしゃくしゃしていた先程までの感覚が嘘のようだ。
ゴリスを車で拾う所から既にユーリの心は此処にあらず、といった感じで、車中では、乗車時の
「行き先確認したか?」
「うん」
と転送ポートの利用のための手続き云々の会話しかしておらず、非常に息苦しい空気となっている。
そんな中、教会までもう少し、という所でゴリスが話を切り出してきた。
「どうした、考え事か?」
「え?」
葬儀の礼節を頭の中で復唱している中で、突如飛んできた問いかけ。
それにユーリは少し動揺を見せる。
どうも駄目だ…自分がしっかりと立って歩いている感じがしない、彼はそんな居心地の悪さを感じながらもゴリスの問いに答える。
「考え事っていうか…そうだなー、探し物かな?」
「探し物?」
「うん、自分に足りない物は何かって…ずっと悩んでて」
「へぇ」
へぇ、とは言っているものの、声からは予想通り、といった感情が手に取るように分かる。
むしろ、ゴリスはそれを隠そうとしていない。
「おやっさんはわかる?俺に足りないってところ…」
「んぁ?さぁねぇ…ただ…」
「ただ?」
「足りないって分かってるんだったら、もう1歩なんじゃないのか?
きっと何かの拍子に見つかりもするだろ」
「そか」
「まぁ、しっかり決断しろよ。自分の大切なもんを誤魔化すんじゃないぞ」
「うん」
最後の「大切なもんを誤魔化すんじゃない」の所はよく意味が分からなかったが、ユーリはとりあえず頷くことにする。
自分はそれを聞いてるのに…これじゃあ禅問答じゃないか…
途中で、パトカーとすれ違った。もしかしたら、さっきの第3号との件でいろいろと調査があるのかもしれない。
赤いヘッドランプを見てると、再び自分が白い戦士にしかなれなかった光景が蘇る。
自分の気持ちが中途半端だったから…だということは何となく分かる。
でも、自分はあの時戦おうとした。
アイツらと戦える力を持っているからこそ、今自分がやらなければいけないと思い、第3号に挑んだのだ。
(どうして…)
「おい、そこ右だ」
どうやらまた自分は世界にトリップしていたらしい。
ゴリスに促され、駐車場に入って行った。
「神よ、この者達を生前の苦しみ、恐怖から解放し…」
神父が、死者を弔うお祈りの言葉を告げる。
それを各々のロザリオや、持ってきた花束を胸に抱き、俯き聞き入る参加者達。
やはり、急な死であることもあってか葬儀への参加者は多く、複数の棺の前には人だかりができていた。
彼らもその中に加わり、大人しく神父の言葉を聞いていた。
咽び泣く声や、鼻をすする音、泣くのを我慢しようとし嗚咽の喉を鳴らす音が聞こえた。
神父の祈りの言葉も終わり、胸に十字をきる。
参加者達も同じようにきった後、地中に棺がおかれ、そこに花束が投げ入れられる。
もちろん、ユーリ達もその中に加わっている。葬儀に参加するのが遅れてしまったためか、列の後ろの方になってしまってはいるが…
先頭の人間が花を手向け終わり、もといた場所に帰ろうと、こちらに戻って来る。
よほど親交があったのだろう、ボロボロに泣き崩れ、その瞳に光は見えなかった。
少しの付き合いで、建前上来ている自分達が申し訳なくなるほどにそれは痛々しい光景だった。
それを直視できずに、目を逸らし、横にいるはずのゴリスを見ると、彼は亜麻色の色をした長髪の若い、自分よりも5つか6つくらい年上の男性と話していた。
その姿を見て、ユーリはその男性に駆け寄った。
「ユーノさん!!」
「久しぶりだね、ユーリ。相変わらず元気そうだ」
「ハイ、もちろん!」
ユーリと話している男性はユーノ・スクライア。
管理局本局にある無限書庫の現司書長だ。
無限書庫…簡単に言ってしまえばいくつもの世界の歴史を本といった媒介にして納めてある場所である。
数年前までは、その管理は乱雑に行われ、資料を探すには何年も必要だったとされておりデータベースとして使い物にならなかったが、
それが現司書長の卓越した検索魔法によって今のように機能するようになった。
管理局の第2の頭脳を作ったと言っても過言ではないだろう。
そんな彼とユーリとはゴリスを通して知り合い、ユーリは配属当初の頃から色々教わってきた。
今度仕事で行く遺跡の設立年代や、民族風土、どんなマナーがよくて反対にどれがご法度なのか、などなど…
ユーリは彼を兄のように慕っており、また教え好きのユーノもユーリを可愛がっていた。
ちなみに、ユーリがユーノを現司書長と知ったのは、仲良くなってからだったりする。
2人は最近ユーリが行ってきた次元世界の土産話をしながら、今回の被害者との関係、遺跡で見つかった古代文字の謎云々に話題は移って行った
特に後者では考古学者の家系の末裔であるユーノにとって非常に興味深い題材であるらしく、(不謹慎ではあるが)彼は目を輝かせていた。
そんな中、先頭集団がざわついている声が聞こえた。
何事かと、ユーリは背伸びをする…目を細めると10歳程度の女の子が母親らしき女性の手を振り払い、森の方へ走っていく光景が見えた。
母親は彼女を追いかけようとするが、せっかく花束を手向けに来てくれた参加者を無下にすることはできずに、女の子が走って行った方向をチラチラ見ながらも参加者に礼をしていた。
「あぁ、あれは今回の調査団の教授の娘さんだなぁ…」
ゴリスが列の横からその状況を見て、呟く。
「可哀そうに…娘さん…お父さん子だったっていうしなぁ」
「そう…ですね…」
辛そうに顔を歪めるゴリスとユーノ。
ユーリにとっては自分も理不尽に父親を失うことの辛さは知っているので、決して他人事ではなかった。
女の子が走って行った森を見つめる。木々の影は辛うじて見えるが、その奥まではとてもじゃないが見えない。
近くで大人数が葬儀を行っているとはいえ、女の子一人が入って行くのには危険な場所だろう。
「大丈夫かな…」
父親を失った直後の壊れそうな心、そしてそんな前後不覚な精神状態で森に入っていくことにユーリは少し不安を覚えた。
そうこうしている内に、ついに彼らの番が回って来た。
花束を棺のそばに投げ入れ、目を閉じ黙祷する。その後、涙で顔をぐしゃぐしゃに歪ませた遺族にも一礼をする。
「ユーリ、どうしたの?」
礼の後、その場から動かないユーリを不思議に思いユーノが声をかけた。
その後、列の最後尾の方まで戻るのがマナーではあるのだが、ユーリはやはり森の方へ走って行った女の子の事が気になるらしい。
突っ立って、じっと向こうを見つめている。
「スイマセン…ちょっと先に行っててください…」
「え?ちょっと!?」
こちらの制止も聞かずにユーリが本来のルートとは逆方向、森の方へ走りだす。
こちらを一回も振り返らずに一心不乱に走り去る背中に、ユーノは昔からよく知っているある一人の女の子の事を思い出した。
「たしか、こっちの方だと思うんだけど…」
夜の暗闇、森の中、そして葬儀用の彼女が黒い喪服を着ているために居場所がさっぱり分からない。
パーク内に街灯もあるにはあるが、森の中まではその光は遮られてしまう。
「大声出して探すってのも違うよなぁ…」
もう一度辺りを見回す。
さっきよりも暗闇に目が慣れてくれたせいか、遠くにある木々の輪郭がボンヤリとだが見え始めた。
すると一番遠くに見える木陰にもたれかかる様にして、少し震えている影を見つけた。
(もしかしたら…)
そーっと近づいていく…なんて言葉をかけていいかは分からない。
ただ、「一緒に戻ろう」くらいしか言えないだろう。でも、とりあえずこんなところで一人で放っておくよりかはマシなはずだ。
そのまま、なるべく静かに近づいていく。すると
「どこー!?ルビアちゃーん!いたら返事してー!」!
と、少ししゃがれた女性の声が聞こえる。
その声に少し驚いたのか、ビクっと肩を震わせて、辺りを見回す“ルビア”と呼ばれた少女。
どうしていいかも分からずに声をした方向を向いてオロオロしている。その際に足元の枝を踏んでしまい、何かが弾けたような乾いた音が静かな森の中に響いた
「あ!ルビアちゃん!」
その音で、場所を特定することができたのか、声の主が走ってやって来る。
それは先程まで遺族列にいた、壮年の女性だった。
おそらくはルビアの祖母なのだろう。彼女はルビアを見ると、一目散に駆け寄り彼女を抱きしめた。
抱きしめられたルビアは最初は驚いているようだったが、段々と声をあげ、泣き始める。
「おとう…さんが…おとうさん…」
何度も亡き父親を呼び、祖母の胸の中で泣きじゃくる少女。
きっと彼女も遺族列で参加者に礼をするだけでなく、大声で泣き喚きたかった。
しかし、それを我慢し大人と同じように今までやってきたのだ。
10歳の少女にしては立派すぎる振る舞いだろう。
祖母と自分以外誰もいないこの場所で、我慢などせずにようやく泣くことができる。
祖母の方もそんな彼女の姿を見て、慰める声が震えていた。
そんな光景をみて、ただ力一杯に拳を握り、それを静かに自分の身を隠している木々に叩きつけるしかないユーリ。
ただ、腹立たしかった…今まで中途半端な義務感で戦おうとしていた自分が…
ただ、悔しかった…この泣いている姿をただ見ることができない自分が…
そして、許せなかった…こんな涙を、悲しみを作り出す連中が…
深呼吸をする。冷たい空気が体の中に入り込み、自分の思いあがった熱を冷ましてくれるかのようだった。
そして、前を見つめる。
その瞳に―――――もう迷いはなかった――――
11月25日 AM 4:05 セントカルラエ教会付近 居酒屋街
もう朝も近いというこの時間、ティアナは夜の街を駆けずり回っていた。
彼女には一点、不確実だが、今の情報が少ない現状では信用に値する手掛かりを探して、痛む傷を我慢しながら歩き回っている。
さっきから彼女が探しているのはただ一人の男。
フェイトから聞いた“朝陽をみて逃げ出した”という情報の提供主だ。
身長はないが肩幅があり、口ひげが濃いことも相まってその姿は熊を彷彿させた。
名前はトニー・G・ラリーと言うらしい…あくまで酔った状態で事情聴取したためにこの情報も定かではないらしいが…
さっきから、店に入っては彼が出入りしてないか聞き、そして大した情報も得られないまま店を出るといったことが続いている。
「今日はいないのかな」
そろそろ朝だ。
残念な結果を予想せざるを得ない時間が近付いてきている。
体の疲労もピークということもあり、マイナス思考が頭をちらついてきた。
自動販売機で缶コーヒーを買う。
ブラックの苦みに顔をしかめつつ、それで脳を覚醒させようとしたその時だ。
屋台に一人の男が入って行くのを見かけた。
「もしかして…!」
苦さも忘れ、一気に缶コーヒーを飲み干す。
あとからむせかえる様な香ばしさが鼻をついたが、そんなのを気にしていられない。
屋台まで駆けより、一気に暖簾を捲る。
「トニー・G・ラリーさんですね?」
開口一番、客席に座っている男に声をかけた。
いきなり、自分の名前を呼ばれた男は何事かとティアナを振り返り、彼女の姿を頭からつま先まで何度も見る。
どうやら、彼本人だったようだ。ようやく見つけた手掛かりを目の前にティアナは安堵の表情を見せる。
そして、単刀直入に切り出した。
「怪人を目撃した、という情報を伺いたいのですが…」
それに目の前の男、トニーは目を輝かせる。
「嬢ちゃん、アンタ信じてくれるのかい!」
ティアナがそれに頷くと気分を良くしたトニーは嬉しそうにその当時の事についてしゃべりだした。
余りにも当人の喋り方がべらんめぇ口調だったことと、酒やつまみの注文をするため、色々と閑話休題してしまったために、ここにまとめて記す。
酔っ払い…もといトニー・G・ラリーがいつものようにこの酒屋街で酒をあおった帰りの事だ。
飲酒しているために彼は、少し離れた自宅まで歩いて帰ることにしている。
その通り道にセントカルラエ教会があるらしいのだ。
昨日も、いつものようにその前を通ろうとした時の事、駐車場にあった車がドアを開けたまま止まっていることに気付いた彼は何事かとそこに近づいたのだという。
そこには血の気もなく、水分を吸われたかのようにか細く骨と皮になった女性の死体が転がっていた。
彼はもちろん驚いたが、酔いがさめたショックからか、冷静な判断が出来る状態になったらしい。
すぐに携帯端末を取り出し、然るべき場所に連絡を取ることにした。
その時である、教会の屋根の十字架に誰かが立っているのが見えた。
その姿は、遠目からでも人間のものとは違うということが分かるほどに異形だったという。
その怪物は彼と目が合うと人差し指を指し、腕の翼を広げ真っ向から襲いかかってきた。
車を盾にして隠れ、最初の飛びかかりは難をのがれたが、その時に携帯端末をなくしてしまったらしい。
どこにやったか探していると、いつの間にか、怪物が彼の目の前にいた。
驚くトニーに怪物は何かわけのわからない言葉をつぶやくと、鋭い爪をまるで自慢するかのように彼に見せた後、その切っ先を彼の喉元に向けた。
その時、ちょうど朝日が昇った。
煌びやかに辺りを眩く照らす太陽の光は彼と怪人をつつみこむ。
こんなきれいな朝焼けで死ねたら本望、なんて彼が思うはずもなく、ずっと「助けてください」と神に祈り続けていた。
すると祈りが通じたのか、急に怪人が体を太陽の光から覆うようにして、苦しみ呻きだしたのである。
彼には何のことか分からず、立ちすくむしかなかった。怪人はやがて大きく一声叫ぶと目の前の教会に入って行ったのだという…
彼はその後家に帰り、この時間まで布団にくるまり怯えていたらしいが、アルコールと旨いつまみに飢え、恐怖に耐えながらここまでやってきたとのことだ。
あまりの短絡的思考にティアナは呆れかえるが、そのおかげで今自分はこの情報を聞けたのだ。
礼を告げると自分の車に乗り込み、遠くに控える十字架を見つめる。
静かにアクセルを踏んだ。
ティアナは教会に着くと、すぐにデバイスを起動させバリアジャケットを纏う。
当然、傷が痛む今では銃は片手でしか持てないので、ワンハンドモードで…
入口が開いてなかったので、どこぞの男と同じように裏口から侵入。
同じルートを辿り、礼拝堂まで出る。
夜、誰もいないというのに祭壇にある蝋燭は煌々と燃え盛っており、より不気味さを際立てる。
銃底を左手で固定しつつ、ティアナは周囲を警戒する。
誰もいないが、誰かいたような気配はある。そんな気味悪さを感じながら祭壇の周囲を確認し始めた。
しかし、ティアナは気づいていなかった。
既にこの空間に怪人、第3号がいるということを…
彼はその部屋の天井に蝙蝠のように逆さに張り付きながら、ティアナが自分を探している様を眺めていた。
彼は思う…
あの人間の女はさっき自分が殺そうとした人間だ
もう、壊れた玩具扱いしていたが、まだ自分に立ち向かう気力があるとは…
その滑稽さに不思議と笑みさえ覚えてくる。
少しの物音に過敏すぎるほどに反応し、銃口をそちら側へ向ける様なんて実に愉快じゃないか…
しかし、一度はグムンを退けたとも聞く。
面白い奴ではあると思うが、眉唾ものだな…
第3号は盛った獣のように興奮した吐息を漏らす。
そして、大きくその翼を広げ、ティアナに向かって飛び放った。
「!?」
独特の羽ばたき音を感知したティアナは流石の反応でそれを避けつつ魔力弾を撃つ。
右に横っ跳びというバランスを崩しながらの体勢からだったので、それは目標から軌道が逸れ、一発目は外れ。
今度は外さない!ティアナは仰向けに倒れ込んだ状態で第3号が着地したところで狙い撃つ。
しかし、二発目も、第3号の常人離れした身体能力によってかわされてしまう。
代わりに木製の列席に着弾、当然、その席の背もたれの部分ははじけ飛んだ
。
「っ!」
しかし、そんなことに構っていられない。
クロスミラージュを持ち直すとすぐに、先程、第3号が着地した所まで駆けより銃を構えた。
いない。
もう一列先をチェックする。
いない。
「どこ…?」
今までに感じたことのない、ホラー映画を見ているような恐怖を感じながら、再び祭壇へと歩を進め、そこに背を預けるティアナ。
クロスミラージュの探知魔法が一切通用しない…
ティアナは焦る気持ちをなだめつつ、深呼吸をする。
先程は確認していなかった天井などにも目を通し、第3号の影がないかを確かめる。
その時、後ろから耳をつんざくような音が聞こえた。
振り向くとステンドグラスをぶち破って第3号が飛んできたのだ。
蝋燭に光が、粉々に砕け散るステンドグラスに反射し美しい放物線を描いた。
しかし、そんな物に見惚れている暇はない。
ティアナは急いで銃口をそちらに向けようとする。が、それよりも早く第3号にその手を取られ、投げ飛ばされてしまった。
「うぁっ!!」
祭壇の上にあった蝋燭ごと吹き飛ばし、ティアナは壁に叩きつけられる。
蝋燭が辺りへ飛び散り、教会へと燃えうつった。
燃え盛る火が第3号を照らし、それがより彼女に威圧感と恐怖を煽る。
が、そんなことに膝を折るティアナではない。再び銃口を構え、魔力弾を放つ。
ワンハンド、それにコンディションは最悪と言うこともあり、誘導弾は3つしか打ち出すことができない。
それを第3号はあえて、防御もせず全身でくらう。
「!?」
予想外の反応に僅かだが呆気にとられてしまうティアナ、確かに第3号は多少のダメージは受けたらしいが些細なものだったらしい。
少しの硬直の後、先程と同じように再びティアナを投げ飛ばした。
勢いよく列席の方に投げられ、ティアナは必死で自分の身を庇うように受け身を取った。
そのままティアナは落下。椅子は真ん中で叩き割られ、無残なオブジェとなってしまう。
「あ…ぐ…っ…!」
ティアナはなんとか息を吐き出し、立ち上がろうとする。だが、自分の手足がそれを許さない。
溜まりに溜まったダメージのせいでついに限界が来たようだ。
体が動くのを拒否している。筋肉が自分の言うことを聞いてくれない。
生まれたての小鹿のように、立ち上がろうとしては倒れ伏してしまう。
「くっ…!」
第3号がティアナを見世物を見るかのような目で見て笑った。
「ラグゴグザグ ヂゾグ デデジャス」
口元をだらしなく開き、舌なめずりをする。
(限界…か…)
もう立ち上がれない、目の前の相手を倒すべき手段もなく、何より彼女の心が折れてしまっていた。
力が入らないどころか入れられない。
その双眸には、なんの感慨もなく、目の前の敵、その先にある死を映していた。
(もうちょっと、優しい言葉で諭せなかったのかな…)
心残りはたくさんある、だが、その中でもついさっき、自分が酷く傷つけてしまったであろう青年の事を思った。
しかし、厳しいことを言わなければ彼はずっと義務感で戦い続けるだろう。
かと言って、病院で自分が放った言葉の針、彼が最も気にする、戦いに対しての気持ちの中途半端さを指摘したことを後悔してもいた。
第3号が口元から涎を流しつつ、こちらに近づいてくる。
そっと瞳を閉じた。
その時、正面の木製のドアが勢い良く開かれた。
聞き覚えのあるエンジン音。
飛び込んできたバイク、スピードを殺さずに突っ込んできたそれは第3号めがけて一直線に飛んでいく。
バイクの乗者はその瞬間に降り、尻から地面に格好悪く着地した。
突っ込んでくるバイクを第3号は寸での所でかわし、バイクは火の中へ放り込まれる。
瞬間、勢いよく火は膨れ上がり、大きな爆発とともにさらなる炎上を巻き起こす。
「大丈夫ですか!?執務官さん!」
さきほど着地した人間がヘルメットを外し、ティアナに安否の確認をする。
その顔を見てティアナは目を見開いた。それは先程、自分が戦うなと念を押したユーリ・マイルズだったのだ。
「あなた!どうしてここに!?」
何とか上半身を起こして、彼がここに来た理由を聞きただす。
第3号が立ち上がり、こちらを見つめていた。
こんな状況でまた戦おうとしているのなら、容赦はしない。彼には悪いがプラズマバレットで強制的に寝てもらう。
「戦います、俺!!」
考えたくないが予想通りの答えが返ってきた。
ティアナはあの喫茶店と同じように再び胸倉を掴み上げた。
「まだそんなことを!!!」
ユーリを叱りつけるように大きな声で強い口調で言い放つ。
しかし、彼はあの時のように動じる様子もない。
それどころか、胸倉を掴んでいる手を振りほどき、ティアナを第3号から放たれる蹴撃から身をひるがえして守った。
そして、いままでのように能天気な声でもなく、かといって揺れ動いている弱弱しい声でもなく、別人とも思えるような雄々しい声で強く言い放つ。
「こんな奴らのために!これ以上、誰かの涙は見たくない!!」
ティアナを第3号からの標的から逸らさせるために、ユーリは彼に立ち向かっていった。
しかし、誰から見ても分かる力量の差。
ユーリは呆気なくティアナのもとに投げ飛ばされてしまう。
「皆に笑顔でいてほしいんです!!
だから見ててください!
俺の―――――変身――――――――!!!」
再びユーリは立ち上がり祭壇まで駆け上がる。
第3号はその様子を黙って見ていた、どうやら面白いことが始まるようだ、そんな表情が見て取れた。
ユーリが大きく手を広げる。
すると、腰部に中央に炎の如く赤く輝く宝石をあしらい、渋く輝く銀色を基調としたベルトが現出する。
両手をそのベルトに一端翳し、右手を左前に掲げ、左手を右腰横にある飾りへと手を伸ばす。
今ならくっきりと見える…赤い戦士の姿が
どのように変身して、そしてどのように戦っていたのかすらも…しっかりと自分の中に蘇ってくる…
ベルトが低く駆動音を鳴らし始める…それとともにユーリの胸の鼓動も早く脈を打っていた。
右手を右前へ、左手をそのままベルト上をスライドさせるように動かしていく。
そして、右手で左手の肘を押し込み、ベルトの左横にある飾りにぶつける。
今鳴っている駆動音よりも一際大きい音が辺りに鳴り響き、ユーリは第3号に殴りかかった。
今までのように中途半端な拳ではない、自分の願い、意志、全てを一撃一撃に込める。
そして、それはいつしか第3号を圧倒していく。
右腕、左腕、右足、左足、自分の体が自分の体でなくなっていく感覚がはっきりと分かる。
しかし、彼の体を纏っていくそれは過去2回とは明らかに違うところがあった。
そう…“赤い”装甲を纏っていたのだ。
体の変化が、腕、足、を包みこみ、体をも取り込んでいく、そしてついに、彼の顔も仮面に包まれていった。
「うおりゃあ!!」
最後に振りしぼって出した雄たけびと同時に、第3号を放り投げる。
第3号は空中でバランスを立て直すことができす、さっきのティアナのように列席に突っ込んでいった。
ユーリは自分の手を見つめ、自身が赤い戦士になったことを確認した。
今までとは比べ物にならないほど、体中に力が溢れているのが分かる。
「変わった…」
ティアナは変身したユーリを見てつぶやく。
第2号…白い怪物とは外見的な意味で酷似しているが、倉庫街の時とは身体的なスペックがまるで違うのがハッキリとわかる。
よく見ると、彼の頭部の黄金の角も第2号に比べると長く肥大化しているように見えた。
「ヌゥぁああ!!!」
燃え盛る火に照らされた赤い姿にティアナが見惚れていると、第3号が瓦礫を押しのけて立ち上がり、ユーリを威嚇する。
「ビガラ グバスビ クウガ!!?」
ユーリには目の前の敵が何を言っているのかは分からないが、彼が自分を指して「クウガ」と呼んでいるのだけは分かった。
ようやく分かった、古代の戦士の名前…
ユーリは嬉しそうに、興奮した口調でその名前を繰り返す。
「クウガ…そうか!“クウガ”か!」
第3号が構える、それに対応しユーリも構えた。
2人はお互いを見つめあい、次の一手がどうくるのか…それに注意を払い間合いを詰めていく。
「ッシャ!!」
先に動いたのは第3号の方だった。
一気に間合いを詰める驚異の脚力、それは第1号を彷彿させ、一度ユーリが痛い目をみた独特の動きでもある。
「ッふ!」
赤い戦士になって反射神経が跳ね上がっているのか、ユーリはそれをジャンプで難なくかわす。
そして着地した瞬間、後ろへ振り向く勢いを殺さずにローキック。
それに反撃しようと無理やり振り向いた第3号の下腹部に周囲の空気が震えるほどの右拳を叩きこむ。
「ッグ…!」
衝撃を殺すことができずに、くの字の体勢で教会の壁に叩きつけられる第3号。
その勢いで天井が崩れ落ちた。
その隙にティアナの肩に手を回し、教会から一跳びで脱出をする。
しかし、先程の一撃でやられてくれるほど第3号は弱くはなかった…
炎中から翼を使い弾丸のように勢いで飛び出て来た。
その際にユーリの首を絞め、そのまま遠くに見える廃ビルの屋上へと飛んでいく。
「りゃぁっ!」
そのままやられっぱなしのユーリではない。
首を掴まれながらも、今度は第3号のわき腹を殴り付け、バランスを崩した第3号と共に廃ビルへと落ちて行った。
脆くなった天井を突き破り、2人して梁のような所に着地する。
普通の人間だったら歩くだけでもすぐにバランスを崩し真っ逆さまになりそうな条件下でユーリと第3号は殴る蹴るの応酬を始めた。
凪ぐように大振りな第3号の拳を捉え、ユーリはミドルキックで彼にカウンターを叩きこむ。
それに、第3号は耐えきれずに錐揉み回転をしながら、地面に落ちていく。
ユーリは追い討ちをかけようと、数メートルもある高所から飛び降りた。
すぐに相手を視界にとらえ、もう一度蹴り飛ばす。
寸前で腕でガードをされたために、後ずさりさせることしかできなかったが、ダメージが溜まっているのか、第3号の構えに力が入っていない。
(いける…!)
そう思った瞬間、後ろからガシャンとなにか固い鉄のようなものがぶつかり合う音がした。
すぐにそれに反応し、音のした方向を振り返ると、第1号が蜘蛛糸を天井に絡みつけ、ターザンのごとくこちらに向かってきていた。
暗闇、そして勢いがあるということもあり、上手く対応ができずに蹴り飛ばされてしまう。ユーリ。
「ぐあっ…!」
受け身を取るが、地面に這いつくばる形になる。
すぐに起き上がろうとするが、第一号が今度は上から爪による刺突を繰り出してくる。
それをユーリはとっさの判断で横に転がり、回避すると、立ち上がろうと、中腰の状態になる。
しかし、いつの間にか回復した第3号が後ろから羽交い絞めをしてきた。
「しまっ…!」
その台詞すらいわせない速さで第一号がユーリの腹に拳を決める。
痛みはある…だが、白い戦士の時に食らったほどのダメージではない…
すぐに体勢を立て直すと、第2発を構えていた正面にいる第一号を思いっきり蹴飛ばした。
その反動を利用し、軽業とも言えるバク宙で第3号の羽交い絞めを抜け出す。
体勢は元に戻ったが、未だに1対2の状況、ユーリに不利なことに変わりはない。
次はどう動くか考えていると、第1号の口から糸が吐かれ、ユーリの腕に絡みつく。
そのまま1号はユーリのバランスを崩しつつ、自分の方まで無理矢理引っ張り込んだ。
それに合わせて、飛び蹴りを入れる第3号。一瞬、それにのけ反るが先程のように再び体勢を立て直す。
しかし、また腕に絡みついた糸を引っ張られ、体勢を崩されてしまう。
たとえ第3号の攻撃を防いでも、第1号の糸がある限り状況は変わらない。
(腕の糸を何とかしなくちゃ…!)
ユーリが第3号と取っ組み合っていると、突如、腕を引っ張る力が消えた。
否、糸が切れた。
「バンザ!?」
上を見ると、梁の上から、ティアナが銃を構えている。
顔を歪めて脇腹を押えながら、銃を構える彼女の姿は痛々しいものがあったが、今は心強いことこの上ない。
「バザザ!」
第1号は再び糸をユーリに吐きかける。しかしそれも彼女の放ったヴァリアブルバレットによって相殺されてしまう。
「グ…!」
彼は上を見上げ、ティアナを視界にとらえる、しかし…
「うおりゃあ!」
その隙を逃がすユーリではない、容赦ない拳を彼の顔にめり込ませ地面に叩きつける。
第3号はそれを後ろから攻撃しよう突撃、しかし…その時、建物の崩れた壁から光が差し込んできた。
「アア…アアアア…!」
昨晩のように苦しそうに呻くと、第3号はそのまま飛び去って行った。
「これで一対一…」
ティアナはそれを確認すると、梁を渡り、地に足を付けた。
そのまま壁にもたれかかり、座り込んだ。
「昨日と言い、今日といい、一生分のゴタゴタ運使い果たしたんじゃないかしら…」
誰に言うでもなく愚痴ると、一人早く眠りに着いた。
そんな中、第1号は屋上へと糸を貼り、そのまま飛び上がっていく。
「逃がすか!」
ユーリは辺りにある壁に手をかけながら、最短ルートで彼を追う。
この筋肉の装甲は自分の身体能力を飛躍的に高めてくれている、超人のような跳躍でビルを昇って行った。
屋上に辿りつくユーリ、しかし、昨日のように第1号の姿はそこにはない。
上からの奇襲も考慮し、辺りを見回す。
その時、彼の体に一斉に糸が巻きついた。
「なに!?」
突然の事に対処ができずに、すぐに糸にからめとられてしまうユーリ。
糸を辿ると、そこには1号が糸束を持ち、獲物を狩った狩人のように高らかに笑っていた。
そのまま、糸を手繰り寄せ、ユーリを蹴り飛ばし、地面に彼を叩きつける。
頑丈な糸で四肢を固定されてしまっているために、自由に動くことができずユーリはされるがままだ。
そのまま胸部を踏みつけられる。
「ぐぁ!」
「ドゾレザ…!」
腕部から爪を伸ばし、止めの構えをとる第1号、思いっきり振りかぶる。
とどめは一瞬で、一撃で…ということなのだろう。
ぎりぎりまで引き絞り、一撃でユーリを仕留めるつもりのようだ。
絶体絶命の状況…しかし、彼は諦める気配を見せない。
必死に糸をちぎろうと、体中に力を込め、引きのばそうとしている。
「フン!」
その無駄な努力を嘲笑うかのように、第1号は一気にその爪をユーリに突き刺そうとした。
間一髪、ぎりぎりのところでユーリを縛っていた糸が千切れ、彼の四肢は解放される。
そのままの勢いで、迫ってくる第1号の右腕を掴みあげ、爪の刺突を避けると、彼の左ももへローキック。
そして、第一号が後ろへ引き下がると、勢いよく立ち上がり左足で、腹部を蹴り上げた。
「!」
だが、それは直撃までもう少しというところで、両腕で受け止められてしまう。
「うおりゃあああああ!!」
しかし、ユーリは右足で飛び上がると、そのまま彼の胸部に一気に右足を叩きつけた。
爆発音と間違うほどの、耳をつんざく音。
それによって第1号は後ろへ吹き飛ばされ、屋上の外壁へと追突する。
その後でややバランスを崩した形で、ユーリが着地した。
「ビザラ…ボゾグ…!」
それでも第1号は、倒れなかった。
尚も諦めずにユーリへと歩を進めようとする。しかしユーリは動こうとはしなかった。
「フ!?」
その歩みがいきなり止まり、蹴られた胸を抑え第1号が苦しそうに呻きだす…
「ボソグ…ジャデデジャス…ボ…ボ、ボソグ!」
胸を抑えていた手を離す、そこには何か印のようなものが残っていた。
その印はしっかりと押し付けられたようで、そこを中心として第1号の体にどんどんと罅が入っていく…
「ビザラ…!!ビザラ…!」
呻きながらも、決して仇敵から目をそむけようとせず、尚も立ちはだかろうとする。
しかし、体を蝕む罅の進行は止まらない…
「ジャデデジャス…ボ…クウガァアアアアアア!!!」
そして罅の進行が、彼らの着けている腰の飾りまで辿りついた時…彼は爆発を起こした。
いや、彼の体内の何かが弾け、粉々になったのだろうか…
ユーリはただ立ち尽くす。彼の右足からは煙が上がっており、最後の蹴撃がどれほどのものであるかを示していた。
第一号のいたそこにも煙が上っている。
もう一度、ユーリは自分の体を確認した、確かに人間のものじゃない…
「だけど…」
「ん…ん…?」
ティアナ・ランスタはゆっくりと目を覚ます。
なんなんだろうか、この何かに揺られてるような感覚は…
確か自分は疲れ切って、ビルの壁に背を預けて眠っていたはずだ。
となるとビルが揺れているのか?それはまずいだろ、命の危機だ。
しかし、ビルの中ではないらしい、だって今、自分は誰かに抱きかかえられているような感覚を覚えているからだ。
じゃあ誰に?
彼女は寝ぼけた頭で必死に現状を整理しようとするが、まとまらない。
少し体を動かし、寝ぼけ眼をこすろうとした。
すると…上から聞きなれた声がした。
「あ、おはようございます!ランスターさん!」
…………ユーリ・マイルズ…
うざったいくらいに元気な声だ…これほど煩いモーニングコールもそうそうないだろう。
というか、なんでお姫様だっこの状態なんだ?
自分がこんなボロボロだというのに…
とは口に出すほどの気力もない彼女は心中で愚痴る。
「なんで…こんなことに…」
ようやく口をでた台詞がコレだった。
それに、彼は笑顔で元気いっぱいに応える。
「まぁ、いいじゃないですか!」
この青空のように晴れ晴れとした表情でそんなことを言ってのけた。
「一生の不覚…」
元上司の侍女騎士のように、端的に自分の気持ちを吐露すると、そのままティアナは黙り込んだ。
どうやら、ユーリはまだ歩くようだ。
ティアナがそろそろ目的地を聞こうとしたその時である。
「お、開いてる」
ユーリが嬉しそうにドアを開けた。
あ、コレ自分の車だ…ユーリはそのまま彼女を運転席に乗せると、シートベルトを着けさせた。
「一応、本局へはクロスミラージュが連絡つけておいてくれましたから」
疲れきって寝ぼけ眼のティアナの顔を見ながらそう言う。
それに、力なく頷くことしかティアナは出来ない。
そのグッタリとした反応に、いままで見て来たティアナ・ランスターとは違う一面を見たユーリは少し笑ってしまう。
そして、最後にもう一度だけで顔を引き締めた。
「ランスターさん、聞いてるか分かりませんけど。
俺…もう、中途半端はしません。関わると決めたらどこまでも関わりぬきますから…
だからじゃんじゃん巻き込んじゃってください!」
その言葉を聞き、最後力を振り絞ってティアナは起き上がろうとする。
何を言うかもまだ分からない、だが、返事を返さなきゃいけない気がしたのだ。
バタン…!
ドアが締められる音がした。その後、元気よく駆けていく足音…
(あの…能天気バカ…!)
心中でだけ元気よく小言を言うと、ティアナは再びその意識を手放した。
<あとがき>
お疲れ様でした!
この休日で一気に書きたいところ(クウガ本編2話)まで書くことが出来ました!!
それも皆さんの感想があっての事です!本当にありがとうございました!
この1日半で一気に描いたので誤字脱字等あるかもしれません。
その場合は感想の方へお願いします…