11月25日 PM 12:50 時空管理局本局 医療局第7区内 病室
「なんか、やっぱ新品って緊張するなぁ…」
新しく卸されたスーツを着るユーリ。
ティアナが部屋から出た後、彼は早速医者の診察にかかった。
もとから定期健康診断では「超」がつくほど良好とされていた彼だったので、心音の確認や、上気道感染がないかどうかのチェックのみで、退院にOKサインを出された。
ちなみに、彼の着ようとしている新品のスーツは彼の給料から差っ引かれている。
「準備できたか?行くぞー」
ネクタイを締め終えたユーリにゴリスは声をかける。
「ん、了解!」
元気よく、頷くと、この2日間の間に同じ班のメンバーが持ってきてくれた見舞いの品を貸してもらったトランクに仕舞う。
最後に忘れ物がないか、室内を見回す。
するとベッドの横の戸棚に置いてある果物の入ったバスケットが目に入る。
「あ…」
“アナタには関係ないでしょ!”
先程、言われたティアナの台詞にユーリの胸が少し痛む。
「関係ない、か…」
「おーい、早くしろー!」
物思いにふけっていると、ゴリスが早く出ていくように急かされる。
自分の世界が一瞬で消えさる。
「ゴメン!今いく!!」
トランクにロックをかけ、カートを立ち上げ、伸ばした持ち手を片手で握る。
そして、もう片方の手にバスケットを持ち、彼は僅かな時間だが過ごした部屋に別れを告げた。
病院からの帰り道の途中、ユーリはゴリスにいきなり車のキーを渡される。
「?何これ?」
「何って車のカギだよ」
「いや、そりゃ…見りゃわかるよ…流石にこれがインテリジェントデバイスにも見えないわけだし…」
「だったらいいだろ」
「いや、そうじゃなくて!
なんで、俺にこんなの渡すのさ。今日の予定って本局の軽い書類チェックでしょ?おやっさん言ってたじゃない」
ユーリの当り前な反応を見て、「あー、言ってなかったっけ?」と、白髪を掻きながらとぼけた表情をするゴリス。
「葬儀だよ…この間の遺跡の調査団のな。
ワシの知り合いもいたし、お前だって若い奴との交流はあったんだろ?
一応、出ておくのが礼儀ってもんだ」
「うん、そういうことなら…わかった…いつ頃ここを出る?場所は?」
「そうさなー…大体夜の7時頃だ。場所はミッドチルダ西部のスミソニアン教会ってところ。
お前、今日の仕事は軽くしといてやったんだから…少し下見して来い。
ワシ遅れたくねーし」
ユーリはゴリスの背中を見つつ少しだけ苦笑いをする。
若者のような理屈をつけて、自分をこき使おうとするが、ゴリスは自分に「未確認生命体第2号」になったことについて言及しようとしない。
それに、自分の体内に吸い込まれてしまったベルトのことについても、自分から口を開こうとはしない。
保安部の制服は着てるし、通路を通る際のID証明もパスされたのだから、恐らくクビにはなってないだろうが、
遺跡から発掘されたロストロギアが紛失、だなんて責任問題に発展した事件だったでだろう。
ここで、普通に礼を言ってしまうのが、一般人だ。
ユーリ、もとい管理取引担当3班の連中はここで礼は口で言わず、態度で示す。
“ありがとう”なんて口走った日には、照れ隠しに“なんかとがった棒で何回も突かれたり叩かれたりする刑”が待っているからだ。
だからユーリは礼を言わずに
「わかったよ、おやっさん!」
元気よく答えた。
執務官の事件簿 2話 “変身” (中)
11月25日 PM 14:40 ミッドチルダ西部 セント・カルラエ教会前駐車場
「すいません!遅れました!」
ティアナは車から降りるとすぐに、人ごみを抜け、管理局と警官の制服を着た集団へと入り込む。
「あ、ティアナ…ごめんね!忙しいところに」
彼女の声に反応して、美しい金髪の主が振り向く。
フェイト・テスタロッサ・ハラオウン、数年前まで彼女が執務官のイロハをティアナに教え込んでいた師匠であり、恩人だ。
「いえ、そんな…それで事件と言うのは?」
相変わらず、自分ではなく相手の事を中心に考える人だな、と思いつつティアナは今回呼び出された事件について聞くことにする。
聞かれたフェイトは少し遠慮がちに、そして内緒話をするように声を絞った。
「うん、ティアナは当事者だから知ってるんだよね?未確認生命体のことについて…」
「はい」
「今回の事件の犯人は彼らじゃないかって言われてるんだ」
「え?」
「同じような事件はこれで5回目なんだ。被害者は共通点のない一般市民。
殺害方法は5件全部が体中の血を全部吸うっていう単純なものなんだけど
ほら?ワイドショーで最近やってるでしょ?“吸血鬼再び!”みたいな煽り文句で…」
「あ、そういえば…」
最近、家に帰ってもゆっくりテレビを見る時間なんてなかったので街頭テレビ程度での情報だが、そんなことを言っていた気もする。
被害者の中には牛も混ざっていて、それも血を抜きとられてカラカラに干からびていたとか…
「それじゃあ、なにかの使い魔の可能性も…」
ティアナは一番妥当な線を挙げる。しかし、フェイトは残念そうに首を横に振った。
「うん、私も考えたんだけどね…第3者の魔力の残滓の反応が全くないの。
使い魔っていうのは言うなれば、主の魔力を血肉にして生きている魔力の塊みたいなものだから絶対に残滓は隠せないんだ」
「そう…ですか…」
じゃあやっぱり、とティアナは殺害現場を見る。
駐車場の真ん中にポツンと寂しく置かれた車、その横には発見当時、被害者の方が倒れていたのであろう、白いラインがその形にひかれていた。
自分が映像で見たものではないにしろ、この殺害方法は余りにも酷すぎる。
「それで、ティアナとスバルが遭遇した未確認生命体1号と2号だよね?
彼らに何か吸血をする器官があったかなって思ったんだけど…」
ティアナは少し考え込む。
まずユーリ、ではなく2号については論外だろう。
そして1号について思い出す、独特の機構をしており、頭の形のごとく糸を吐き出す能力を持ってはいるが血を吸うにはどう考えても適していない。
「そうですね…第1号も第2号も口の形状は人間とは異なっていますが、そのようなことを出来る構造ではなかったと思われます」
「うーん、そっか…それじゃあ、光に弱い、なんて習性はあるかな?」
「いえ…そんなことはないですが…どうして?」
ティアナは思ったことを口にする。
そうか…とフェイトは言うと、後ろに佇む教会を見る。
「うん、目撃者がいたみたいなんだけど。その人が“怪物は朝陽を見て逃げ出した”って言ってたものだから」
「となると…第3号…」
ティアナは想像したくない、現実にあってほしくない、しかし一番可能性のある予測を口にする。
それに渋い顔でフェイトは頷いた。
未知の力の恐怖、というよりかは、これからはこんな得体のしれない連中が殺人を始めるのだろうか…その地獄絵図を想像すると表情が暗くならざるを得なかった。
「酷いよね…こんな聖なる場所で、こんな惨い殺し方なんて…」
思ったことがつい、言葉に出てしまったのだろう。自分に言うかのようにポツリとフェイトが口を開いた。
「そうですね」
ティアナも同じように教会を見上げながら、頷いた。
自分の思ったことが口に出ていたことに、ティアナの相槌で気付いたのか、フェイトはティアナを見ると恥ずかしそうに笑った。
「それじゃあ、ティアナ。他にも色々聞きたいからあと少しだけ付き合ってくれないかな?」
「ハイ、もちろん」
この人から、まだ色々勉強しなくちゃいけない。捜査現場からいったん離れる背中をティアナは追った。
11月25日 PM 16:02 ミッドチルダ西部 国道線沿い
14:30頃には書類整理も終了し、ユーリは早引けすることになった。
ここで彼に彼女の一人でもいれば、本局の飲食店で甘い昼下がりを過ごすことができたのだろうが、残念ながらこの朴念仁にそんな相手はいない。
かといって、自分の家に帰ってゆっくりできるほどの時間もない。
いや、家に帰って、色々することはできるのだろうけど、それは制限時間のついたゆっくりであるからして、今彼が求めている物とは違うのだ。
そのため、今夜、葬儀が行われる教会へと出向くことにした。
体が、と言うよりかは筋肉が硬直した独特の痛みを感じたユーリは管理局の公用車を使わずに自分のバイクで行くことを選択。
せっかくゴリスがくれた外でのんびりできる時間だ、外で寄り道しながら気分転換をしよう。
そう思いながらアクセルを捻った。
いまどきナビも使わず、時代錯誤の紙媒体の地図を見ながら目的地探し。
道を間違えてどこか見知らぬ地に出ることもままあるが、それはそれでこの旅(?)の醍醐味というものだ。
スミソニアン教会は簡単に見つかった。
あまり行かない地域なので不安もあったが、簡単に見つかったことに自分の地図読みレベルの高さに少し自己満足するユーリ。
しかし、ここで調子に乗ってしまって
「じゃあ地図とは違う方向で帰ってみよう!」
なんて言い出してしまったが最後、かれこれ今自分がどこを走ってるか分からない状態が続く。
「くそー、ギャンブルに負けたかー…」
公道をゆったり走りながら、何か目印になるものはないかを探しつづける。
時間はまだたっぷりあるが、そろそろ気持ち的に急がなくちゃな…などと思いながら走り続けてると住宅街にはいった。
「お、やった!」
ついに人がいるところまで出てこれたぞ、ユーリは叫びたくなる衝動を抑えつつ、あとは誰かに道を聞いて…と外に出ている住民の人を探す。
すると、3人の女性グループが目に入った。バイクを止め、ヘルメットを外す
「あの!」
と声をかけようとした途端、そのうちの一人が口を開く。
「そう言えば、この近くでもあったらしいよ?吸血鬼騒ぎ…」
その言葉を聞いて、声を上げようとしていたユーリの勢いが止まる。
吸血鬼……なんとなく嫌な予感がユーリに走った。
そう言えば、病院の退院届を出す時、吸血鬼、現代に現る!?とかロビーのテレビでやってた気がする。
映画のCMかなんかだと思ってスルーしていたけど、まさかニュースだったとは…
女性はその言葉を聞いて、顔を少ししかめる。
「うそ…この近所でも起こってるの?怖くて夜中に出歩けないじゃん…」
「これで…5件目…だっけ?」
「そうそう、報道されているので言えば5件目だと思うよ」
「神父様、大丈夫かな?吸血鬼に襲われてないかな?」
「そうねー、心配ねー…」
彼女たちはユーリに目もくれず、その横を通り過ぎ去っていく。
彼はそのままの体勢で辺りを見回した。
遠くの方に大きい十字架を屋根につけた建物が見えた。ここにも教会がある。
しかし、さっき自分が行ってきた教会とは少し作りが違うようだ。宗派が違うのだろうか。
地図とガイドマップを広げてここがどこか確認してみる。
「セント・カルラエ教会…か…へー…」
この西部にはポートフォール・メモリアルガーデンという墓地が集合している施設がある。
葬儀から短い時間と少ない手間でこの施設に埋葬できるように、この周辺には宗教施設は多いとのことだ。
ブロック毎に宗派は分けられており、埋葬方法や、石碑などしっかりと管理されており、彼の両親もそこで眠りについている。
「墓参り…最近行けてないな…」
ここを最後に訪れたのはどれくらい前だろうか…恐らく半年以上前だ。
そうだ、ついでに両親に会いに行こう。彼の心はすぐに決まった。
「その前に」
ユーリは遠くに見える十字架を見据えた。
「失礼しまーす…」
思い立ったが吉日、“吸血鬼”という単語に何処か興味、というか惹かれるものをを感じたユーリは教会へと出向くことになった。
正面から教会に入ろうとした彼ではあったが、残念ながら鍵がかかって中に入ることはできない。
良識ある一般人ならば、そこで引き返して、後日改めて出直すというのが正しい行動ではあるが、今の彼は違った。
まわれ右ではなく、右向け右をすると、何かを確かめるように外壁を時々手で触りながら、教会の周囲をぐるぐると散策し始めた。
少しすると、自分がジャンプをして届くくらいの所に窓を見つけた。
周囲に誰もいないかを左右を見て確認すると、少し助走をつけて飛び上がり、窓の淵に手をかける。
指を窓の横縁に引っ掛け、少し引っ張ると、カラカラカラと軽快な音を立て窓が開いた。
「お、ラッキー」
そのまま窓を全開にすると、ユーリは自分の体を持ち上げ、そのまま教会内へと入って行った。
教会内は物静かで、誰もいないようだ。
普段はシスターや巡礼者など、人がたくさんいるような所が、このように誰もいないと一種の恐怖感というか、自分だけ何処かに取り残されたような焦燥感を覚える。
少し落ち着かず、自然と教会内を早歩きで回っていると、正面に大きいドアがあった。
不審者にもかかわらず礼儀よくノックをして、ドアを開けるユーリ、もちろんここにも鍵なんて掛かってなかった。
「礼拝堂か…」
彼は無神論者ではある。しかし、人間、このような場に来ると遺伝子に植えつけられた性であろうか自らの佇まいを正さなくてはいけないような気になってしまう。
陽に照らされた美しい輝きを放つステンドグラスを見ながら、上着を叩いたり、襟を正すユーリ。
すると、突如、礼拝堂の列席の奥にある扉が乱暴に開かれた。
「え!」
静寂を一瞬でぶち壊した方向を見ると、扉の奥から黒の礼服を着た男がこちらを睨みながら立っていた。
それは、聖職者の雰囲気とはあまりにもかけ離れたもので、ユーリに威圧感を与える。
少し後ずさりをしてしまうユーリ。
まるでスポーツ選手のように、大きく出張った肩、そして耳に金属製のピアスというのも、独特の雰囲気に拍車をかけている。
首元にかけてあるロザリオですら、ストリートファッションのアクセサリーのように見えた。
少し怯えたユーリの様子に、神父は口端を歪め、大股でユーリへと接近しようとする。
しかし
「…グ?!」
唯一空いている2階の窓ガラスから入る陽の光に当てられ、その動きをユーリの2,3メートル手前でとめた。
憎々しそうに、窓を見る神父。
ユーリは訳も分からずに、神父の視線を辿り、窓を見る。どこも変なところなんてない。
その後にもう一度神父を見た。
何にイラついているのか、溜息をというよりかは獣のような低いうなり声をあげている。
視線を下に逸らすと、神父は光さす所のギリギリで立ち止まっており、それ以上こちら側に寄ってこようとしない。
まるで、境界線のようだ、とユーリは思った。
「あの…!ここらへんで吸血鬼騒ぎがあったらしくて…
で、どうしたのかなーって…いや、お元気ならいいんです!失礼しました!」
よく考えると今自分は不法侵入してる状況だ。もしかしたら怒られるかもしれない…
ユーリの頭の中に嫌な未来予想図が首をもたげてきた。
さっさとここから逃げ出そう。彼は自分が来た意図を手短にそして早口でまくし立てると、自分が入ってきた方まで歩いて行った。
「ギ……ャバ…グス……ザ」
「ん?」
チリン…何か金属製のものがぶつかる音と、余りに小さすぎて内容までは聞こえなかったが、神父が何か喋ったような気がした。
もう一度さっきまで神父がいたところを振り向く。
そこにはもう誰もいない、それどころかいた気配すら残っていなかった。
まるで、最初から誰もいなかったかのように…
気味の悪さに、首をかしげると、来た時以上の早足で外に出て行った。
「そう言えばティアナのお兄さんの御墓って、このポートフォール・メモリアルガーデンにあるんだよね」
喫茶店でお茶を飲んでいると、フェイトがふと何かを気付いたように口を開いた。
未確認生命体第1号との戦闘の経緯、そして第2号が自分を助けてくれたことについて(もちろん今は正体を伏せておくが…)をある程度話した後、久々に会った2人は世間話をしていた。
そんなに長い時間は話しこめないが、お互い忙しすぎて全然自分の時間が取れない身だ。
これくらいの我儘は許されるべきだろう。
未確認生命体の事について今後起こるべきことを危惧しつつも、次第にお互いの近況について話す割合が増えてきていたのだ。
「はい、そうですね…この事件が早く解決してくれれば久々に兄に会いに行けるのですが…」
恐らくそれは無理だろう…、言葉の節々と彼女の表情からそれは読み取れた。
「そっか…」
フェイトも残念そうに顔を伏せる。
「でも、分かっててこの道を私は選んだんですから、後悔はしていません」
「うん」
フェイトには“うん”しか言えない。ここで下手に「頑張れ」だの無責任なことは言えない。
既にティアナは相当「頑張っている」のだ。
自分の教え子の成長ぶりにしみじみと感慨にふけていると、遠くから窓を通して声が聞こえてきた。
「?」
どこから聞こえて来てるんだろう?
フェイトは辺りを見回した。聞こえる声の一音一音に集中すると、なんとなく「しつむかんさーん」と言っているように聞こえる。
私?とフェイトは思う。しかし、こんな声質の知り合いなんて自分にはいない。
心当たりがあるか、フェイトはティアナに聞こうと正面を見る…
「…………」
ティアナの顔は前髪で隠れて見えない。しかし彼女の手にあるカップに注がれた紅茶はまるで地震に揺られているかの如く、波をうち震えていた。
もちろん、今は地震なんて起こってない。
『執務官さんってば!!』
窓越しにティアナを呼び続ける男性、フェイトは優しそうな人だなと第一印象に持った。
ティアナは腹から唸るように、そして女性とは思えないほど低く怨念のこもった声を出す。
「な………こに…る…よ…!」
『はい?なんですか?』
しかし、窓越しでは彼女が何を言っているか分からずに、恐れ多くも復唱要求なんかしてきている。
部下ではあるはずのティアナの様子を、ビクビクしながら、これ以上何にも刺激されないようにと祈りながら身を縮こまらせるフェイト。
彼女の纏ったドス黒いオーラにも気づかず、男は能天気に店内へ入って来る。
「あの、今はティアナに近づかない方が…」
ティアナに向かって走り寄る男を、フェイトは止めようとする。
「え?」
フェイトの制止の意味が変わらずに、男はフェイトとティアナを交互に見る。
その時ようやく、男はティアナの纏っている雰囲気がいつもと違うことに気付いた。
「えーと…執務官さん?」
「ど う し て こ ん な と こ ろ に い る の よ !?」
指でテーブルを強く叩きながら、リズムに合わせて一文字一文字区切ってティアナが男に問い詰める。
「え…いや…道に迷ってたらのどが渇いたから…寄ったんですけど…」
「は?」
鳩が豆鉄砲食ったかのような呆けた表情に、さっきまでの怨念が全て祓われたような声がティアナから上がった。
「いや、だから…今日知り合い葬儀のやる場所を確認してからの帰り途中に、迷っちゃって、で、その内に喉が渇いてきちゃいまして…
どこかに喫茶店ないかな―、と思ってたらここにたどり着いたんですけど…」
「あぁー…そう…そうよね…」
心底ホッとした表情でティアナは座りなおした。
心に余裕が出来たら思考に余裕が出来てきた。
目の前をみる、そういえば、憧れの先輩とさっきまで楽しいティータイムをしていたはずだ…
憧れの先輩っていうのは目の前にいるフェイトで…
しまった、目の前にいるフェイトが会話からっていうか、この状況から置き去りだ。
「あ…!フェイトさん!!こちら、この間の事件でご一緒した本局所属 遺失物保安部 管理取引担当のユーリ・マイルズさんです」
ティアナは取りつくろうかのように、ユーリの紹介をし始める。
いきなり自分の紹介をされて驚いたユーリだったが、ティアナのペースに飲まれ「よろしくお願いします!」とフェイトに対して元気よく頭を下げた。
「へ?あぁ、うん!私は本局所属のフェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官だよ。
よろしくね」
その勢いに乗せられフェイトも自己紹介をする。
自己紹介が終わった後、会話が終わり、間が持たなくなる独特の凍った時間が流れる。
「えーと…」
フェイトが苦笑いをする。しかし笑顔で、間が持つというある意味の会話スキルは、一部の人間のみが持つ天性のようなものだ。
確かにフェイトには天性の美貌が備わってはいるが、残念ながらその天性の会話スキルは備わってはいない。
自分がこの中で一番年上だからどうにかしないと、と責任感の強いフェイトは頭の中で、この場面に適した会話パターンを探す。
こんなことならもっとハウツー本とかを読んでおけばよかった、自らの未熟さを呪った。
「あのー、すいません。メニューくれません?」
間の抜けた声が、その空気をぶち壊す。
いつの間にか席に座ったユーリが店員を呼んでいたのだ。
店員がやってきて、彼にメニューを渡す。
メニューを受け取ると、何が良いかなー…と呟きながらページを捲った。
男のくせに堂々とデザートメニューなんて選ぼうとしている。
「お二人に聞きたいんですけど、この店って何がお勧めです?」
<あとがき>
あれ?なんか無駄にユーリが空気読めないキャラになってしまった…
楽しみにしていた方(いるのか?)お待たせしました。申し訳ありません。
とりあえずフェイトさん登場です。
どんなポジションになるかはまだ決めてません!
見切り発車って本当に怖いです。
私信ですが…
仕事の関係と一身上の都合のため、更新の頻度の急激な低下。
そして感想に逐一コメントすることができなくなりそうです…
申し訳ありません。
ですが、しっかりと目を通させていただいて、励みにしております。
皆さまありがとうございます。
感想に複数あった「桜子さんポジション」ですが…まだ、決めかねています。
どうしましょ…