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No.14604の一覧
[0] 【習作】執務官の事件簿 (仮面ライダークウガ×魔法少女リリカルなのはSTS サウンドステージX後)[めいめい](2009/12/21 04:40)
[1] 執務官の事件簿 1話[めいめい](2009/12/07 21:22)
[2] 執務官の事件簿  1話(中)[めいめい](2009/12/08 04:43)
[3] 執務官の事件簿  1話(後)[めいめい](2009/12/17 15:20)
[4] 執務官の事件簿  2話  “変身”  (上)[めいめい](2009/12/11 23:15)
[5] 執務官の事件簿  2話  “変身”  (中)[めいめい](2009/12/15 20:13)
[6] 執務官の事件簿  2話  “変身”  (中その2)[めいめい](2009/12/20 00:15)
[7] 執務官の事件簿  2話  “変身”  (後)[めいめい](2009/12/21 04:51)
[8] 執務官の事件簿  3話  “転機”  (上)[めいめい](2009/12/29 05:16)
[9] 執務官の事件簿  3話  “転機”  (中)[めいめい](2010/01/08 03:02)
[10] 執務官の事件簿  3話  “転機”  (下)[めいめい](2010/04/24 00:56)
[11] 執務官の事件簿  4話  “審判”  (上)[めいめい](2012/08/07 23:12)
[12] 執務官の事件簿  4話  “審判”  (中)[めいめい](2012/08/14 23:27)
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[14604] 執務官の事件簿  1話(後)
Name: めいめい◆3b0582e4 ID:6ccf35fd 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/12/17 15:20
最初に…そういえば私、英語出来ませんでした…
なので、デバイス音声はほとんど日本語となります。
脳内変換で英語でしゃべってる風に感じ取ってくさい…m― ―m







「何…アレ…」

スバルはフロアにいる怪物を見てつぶやく。
それはティアナ達3人を除いて、その場にいる全員が思っていることでもあった。
あまりの異形の姿に、先程一斉射撃を行った武装局員たちも、ただ突っ立ってしまっている。

「ゾグジザ、ログゴパシザ?」

怪物は彼らの数メートル手前に立ち、鼻で笑うかのような首を少し上に傾けた。
もちろん、ここにいる人間が何を言っているのか分かるはずがない。

「え?」

中央にいる指揮をしていた男がやっとのことで状況を把握して声を絞り出す。
しかし、その瞬間、彼は怪物に首根っこをつかまれ、片手で軽々と締め上げられていた。

「あ…!が…!!」

目が大きく見開かれ、大きく口を開けて呼吸をしようとする。
しかし、それ以上の力で気管を握りつぶされているため、肺に息が入ってこない。
魔法を使おうにも、それを編み出す集中力すら与えてもらえず、ただ、喉を握りつぶされる…
体が痙攣し始め、手から力が抜ける。
杖が手元から離れ、カランと乾いた音が辺りに響き渡った。
それを合図に他の武装局員が我を取り戻し、再び己がデバイスを構える。

「隊長を離せ!!」

人質を取られているために、下手な射撃魔法は打てない。かといって、あの身体能力に敵う自信もない。
判断は早く、彼らは一度距離を取ると各々で魔法陣を展開した。

<<<<Chain Bind>>>>

四方向から一斉に魔力の鎖が伸びた。
一瞬、怪物の体に鎖がはじかれたかのように見えたが、取り付ける場所を見つけたのか、それ以後は数秒待たずに怪物の腕、足、首、体中に絡みついた。

「バンザ?」

自分の手足に絡まっている物に不快感をしめし、取り払おうと体を動かす怪物。
しかし、幾重にも重なり絡まった魔力の鎖は、その自由を許さない。

「ザサザダギギ…!」

片手で持ち上げていた武装局員を投げ捨てると、両手で自分に伸びてきた鎖を掴む。

「フン!!」

そしてそれを、自分側に無理やり引いた。
想像以上の力に、鎖に引きずられ、怪物の前に放り出される一人の武装局員。

「な…!」

「ギベ」

不自由ではあるが強力な拳が彼の顔面に直撃する。
コキャという、甲高い音を上げ、受付まで弾丸の様なスピードで吹っ飛んでいく…
吹き飛ばされた局員の首は180度、真逆に捻じれており、それはもう彼の命がないことをしめしていた。
その光景を呆気にとられて見ているスバル。

「言ったでしょ、化物と戦うはめになるかもって…」

背中を壁に預けて、身を隠しながら、ティアナはスバルに冷静に声をかける。

「そうじゃなくて…そういう問題でもあると思うんだけど…ティアはどうしてこの怪物が来るかもって分かってたの!?」

ティアナは未だにパニック状態に陥っているスバルの腕を引き、彼女を自分の隣へ座らせた。

「決まってるでしょ…アイツらの狙いが何なのか予想がついてるからよ…」

「え?それってどういう…」

「その前に…スバルひとつだけ約束して」

今度は向き合い、顔と顔を正面から合わせる。

「この話をアンタに話すわ。このことで、管理局をやめなくちゃいけない羽目になるかもしれないし、懲罰モノになる可能性だってある」

「…!」

「でも、私はスバルに協力してほしい。
それが、今この現状からここにいる皆を救いだせるきっかけになるかもしれないし、もしかしたら、狙われている物も奴らから守り通せるかもしれないから…」

目の前にいる相棒を信頼して、きっと自分に協力してくれるだろうと確信してティアナは言葉を紡ぐ。
自惚れでも何でもない。
しかし、今この場にいることは彼女にとって、長年の夢だったところだ。
その夢を彼女自身の手でぶち壊してしまう可能性すらある…
出来れば、彼女には断ってほしい。
そんな相反する2つの思い、整理のつかない矛盾を抱えながら、スバルを真っ直ぐ見据えた。
しかし、彼女はそんな心配も全て分かっていたのだろう。
スバルは優しく微笑み、頷くと口を開いた。

「何を心配してるの?ティア…私は守りたいから今この場にいるんだよ。大丈夫!絶対何もかもうまくいくって!」








執務官の事件簿  1話(後)







武装局員3人が立ちまわって必死に怪物を抑え込もうとしている。
しかし、それも時間の問題だろう。すぐにバインドは剥がされ、怪物は自由の身になってしまうだろう。
……いや、違う。怪物はもう自由の身になれる。3人を嬲り殺すことができるのだ。
ただ、今は彼らで遊んでいるだけ。
どれだけ必死に命を繋ぎとめようと努力するか、生に執着するか、縋りつくか…それを見て奴は嘲り笑っている。

「……アイツ…!」

しかし、ユーリは憤慨するしかなかった。自分には力がない、戦う術がなく、ここで見ているだけしかない。
苛立って強く壁を叩く。

「おい…」

横から声をかけられ、振り向く。
声の主はゴリスだった。

「お前は進む道を変えちまったんだ…今更喚くんじゃねーよ」

怒りも、呆れもなく淡々と思ったことを告げる、感情のない声だ。
それに何も返せず黙りこむしかないユーリ。
その陰鬱に染まっていく彼の気持ちを、逸らしたのがスバルの発声だった。

「よし!それじゃあ行きますか!!」

スバルが手と拳を合わせパン!と打ち鳴らして立ち上がろうとする。

「え?ちょっと…行くってどこに…」

呆気にとられて何も言えず、スバルを見つめるしかないユーリ。
そんな彼にスバルは彼のようにサムズアップをして応える。

「皆と…そのベルトを守りにですよ!」

「でも!」

「このベルト…調査チームの皆さんが頑張って見つけたものなんですよね!
だから大丈夫!守って見せます!」

やっぱりアイツが狙ってるのはこのベルト…!ユーリはアタッシェケースを見る。
その後ろからティアナが立ち上がり、ゴリスの所まで歩いていく。
そして頭を下げた。

「申し訳ありません。カーネル班長。協力者の理解を得るため、彼女に事情を話してしまいました。
この責任はいずれ負いますので、どうかこの場は…」

「いいよ。執務官さん、責任を一人で背負わなくても。もしもの時は俺が全部背負ってやる。
年寄りに出来ることなんざ、未来ある若者の道を切り開くことの手伝いぐらいだしなぁ…」

「……ありがとうございます!」

もう一度深々と頭を下げ、スバルと並ぶティアナ。
そしてこの建物の設計図をデバイスを通してウィンドウに表示した。

「それでは、脱出のための手順を説明します」



つまらん…怪人は思っていた。
ここにいる連中は自分と同じように“戦う存在”だ。
なのに、なんなのだ…この体たらくは…
4人の内、一人掛けたら、もう先程までの勇敢さは見る影もない。
自分をこの場に縛り付け、攻撃もしてこない。
拍子抜けだ…

手の甲から鋭い爪を伸ばす。

「ガゾヂバゴバシザ」

もう一度鎖を手繰り寄せ、今度は串刺しにしようとする。
その時だった。

「うおりゃああああああああ!!!!」

甲高い、そして勇ましい女性の声が聞こえた。

「!?」

声をした方を向くと、青髪の女、スバルが右の拳に風を纏い、こちらに飛んでくるのが見えた。
挙動が速く、怪物まで瞬間的に肉迫すると彼女は右こぶしを腹部へとめり込ませた。

「グ!?」

怪物は瞬間的に浮く。
驚いた、油断していたとはいえまさかのけ反らされるとは…怪物は自分の考えを改めようとした。
その瞬間

<< cartridge load>>

少女のものではない声が聞こえる。
それと同時に、自分の腹部にかかる圧力が何倍にも増した。

「バンザド!?」

「てええええええい!!!」

そのまま拳を伸ばし、全体重を前身にかける。
零距離からの、カートリッジで威力を倍増しにしたスバルの拳撃。
今度は怪物が吹き飛ばされた。

「よし!」

<<効率のいい、ダメージを与えることができたと思われます>>

「私もそう思う!久々のティアとのコンビだもん!
無様な真似はできないしね!全力全開で行くよ、マッハキャリバー!」

<<All right.Buddy>>



「今のうちにこの廊下を渡ってください。なるべく音をたてず慎重に…!」

バリアジャケットを着たティアナがユーリとゴリスに指示を送る。
2人はかがんだ状態で、一気に出口前へと続く階段へと進んでいった。

『スバル、こっちも行動開始したわ。なるべくアイツを引きつけて!』

『まっかせといて!』

思念通話で指示を出すと、威勢のいいスバルの返事が返ってきた。
強気な相棒の返事に無茶をしないようにと、念を押す。

「こっちも出来るだけのことはしましょうか…!クロスミラージュ!」

<<OK、my master.Fake Silhouette>>

ティアナが魔法陣を展開すると、クロスミラージュの効果によりスバルの姿が何人にも増える。
大体7,8人くらいだ。

『ブーストもないし、長期戦になるかもしれないから、これくらいしかできないけど…あとは頑張って』

『うん!』

通話を切ると、怪物が立ち上がるところだった。
先程自分を殴った人物が何人にも増えているのに驚いたようで、何遍もティアナの作りだした幻影を見ている。

「でええい!」

何人ものスバルが怪物に向かって殴りかかる。
しかし、怪物は避けようともせず、それをガードして直撃を退けながら受け続けていく。
後ろに本物のスバルが、回り込んだ。
その時、怪物の動きが僅かだが強張った。

「もらった…!」

スバルが右腕を振り落とす。真後ろからの攻撃、絶対不可避の拳は奴の後頭部に直撃するはずだった。
しかし

「バレスバ!」

「え!?」

スバルの右腕を後ろを向いたまま左腕で掴み、一本背負いの要領で投げ捨てた。

「うわああ!!」

スバルは勢いよく吹き飛ばされ、上階の渡り廊下の壁が直撃し、そのまま廊下へと体を放り出される。

「ナカジマさん!?大丈夫ですか!?」

その壁の向こうには出口へと移動していたユーリ達がいた。

「私は大丈夫…だから早く行ってください…!」

「でも…」「大丈夫ですから!!」

心配して駆け寄るユーリに、強い語調でしか当たれない自分に嫌気がさしつつ、先程まで怪人がいたところを見る。

「あれ?いない…」

まだ吹き飛ばされてからわずか数秒しか経っていないのだ…そんな遠くへ移動できるはずもない。

「一体どこに…」

そう呟いた瞬間スバルはわき腹に衝撃を感じた。
蹴りあげられたと理解した時にはもう既に遅い…わき腹に相手の足がめり込んでいるのがわかる。
瞬間、その方向を見ると…

「ゴボザ…デスドンクウガ…」

怪人がユーリの持つケースを見つめていた。

「うあ!」

またも壁を突き破り、今度は渡り廊下から1階まで叩き落とされるスバル。

「スバル!」

ティアナは思わず叫ぶ。
本当は今すぐにでもスバルの安否を確認したい状態ではあったが、今はケースを優先するのが先だ。
柱と壁を利用し、渡り廊下まで駆け上がる。
渡り廊下までのぼると、ゴリスを庇いながらユーリが怪人の攻撃を紙一重でかわしていた。

「さすが陸戦Aマイナー…!」

呟き、再び走り出す。

「クロスミラージュ!ダガーモード!」

<<All right>>

ティアナの持っている2丁拳銃の銃口とグリップ側からオレンジ色の魔力刃が伸び、近接用の武器へと変わる。

「はぁっ!」

怪人の後ろから斬り付けるティアナ、しかしスバルの時と同様、常人離れした反射神経でそれを受け止める。

「がっ…」

その振り向く際にユーリの腹部に蹴りを入れたらしく、ユーリが壁際まで飛ばされた。

「マイルズさん!こんの!」

ティアナは立ち位置を変えケースの方へ陣取る、そして怪人と対峙しながらも器用に足でケースの位置を確認すると、それを壊れた壁に向かって蹴りだした。

「スバル!後よろしく!」

腹部を抑えながらも、やっとのことで立ち上がったスバル。
声が聞こえて上を見上げると、ベルトの入ったケースがこちらに向かって落ちてきた。

「ナイスだよ!ティア!」

それを受け止めるため、両手を広げるスバル。
しかし、そのケースが空中で止まる。そして、一気に上へと引き上げられた。
一瞬の出来事、そして光の当たり具合のせいで気付かなかったが、よく見るとケースに糸が絡みついており、その糸は怪人の口から出されていた。

「そんな!ズルっこ!」

まるで子供のように絶望を表現するスバル。
ケースがそのまま怪人の手に落ちる瞬間、今度はオレンジ色の光弾がケースを破砕した。
その衝撃で、1階フロアへと投げ出されてしまった中身のベルト。

「渡すわけないでしょ!」

再びティアナがダガーモードで怪人と向かい合った。




1階へと放り出されるベルトを見てユーリは思う。
あの時、遺跡で作業員の人からベルトを受け取る時…確かに自分は見た。
このベルトを着けた人間―――赤い外骨格のような甲冑をつけた戦士――――が、異形の者たちと戦い、そして倒していった光景を…
白昼夢だとか幻想だとか…そんな風に言われるとどうしようもないが、でも確かに見た、このベルトが刻んだ記憶を。
もしかしたら戦えってことなのかもしれない…

ベルトが地面に落ちる、心なしか自分と目があったように感じた。

「…っ!」

「おい、ユーリ!どこに行く!!」

ゴリスが制止する声も聞かずに走りだした。




「なんとか、大丈夫…まだ、戦える!」

スバルは掌を開いて握る動作を繰り返し、自分の体が安全であるかを確かめる。

「よし!」

そう言って上を見上げた瞬間、何者かが上から飛び出してきた。
未確認!?そう思って身構えたが違う。そう、アレは…

「マイルズさん!?」

反射的に地面に拳を叩きつけウィングロードを展開するスバル。
ユーリの落下地点に階段のように重なり、彼はそこに上手く飛び乗った。

「よかった…」

ベルトを取りに行くのだろう。
彼の安全を確認したあと、再び上を見上げる。
そして、相棒を助けるため渡り廊下へ…



「あった…!」

ベルトには傷一つない、無事なままだ。
あとはこれを…そう思ってベルトの向きを確認していたら、ゴリスが鬼気迫る勢いで階段から下りてきて問い詰めた。

「ユーリどうするつもりだ!」

「着けてみる!」

それに間髪いれずにこたえるユーリ。

「お前!それは!」

ゴリスの制止の説得を全く聞かずベルトを腰に巻くユーリ。
すると、少しした後、ベルトの中央に飾ってある石が激しく輝きだした。

渡り廊下で戦っている2人も、怪物もそして、その場から離れようとしている人間は皆、その光に目がくらんだ。

「…あ…ぐ…!!」

痛みを訴えるような声を出し、ユーリが倒れ伏す。
腹部を見るとベルトなどどこにもなかった、それどころか彼の着ていた上着、シャツ等など腰の部分が消滅してしまっていた。
ベルトを当てたであろう腹部の箇所は火傷をしたかのように赤く染まり、痛々しい後を残していた。
ゴリスは膝から崩れ落ちるユーリを支えようと、手を出すが、その手を怪人に阻まれてしまう。

「ムン!!」

気合いの入った一声とともにユーリは外へ投げ出された。

「…ぐぁ!!」

ユーリは地面に強く体をぶつけ呻き声をあげる。
辺りを見回すと、そこには中と同じように武装局員が倒れ伏していた。
出血からみて、もう亡くなっているのだろう…
それを起こした張本人に激しい怒りと恐怖を感じる。

「ドグギザ…!」

やっとの思いで立ち上がったところで再び首根っこを掴まれ、今度は壁に投げつけられる。
いつもなら受け身の一つも取れるのに、先程のベルトを着けた時の痛みで思うように身動きが取れない。
骨が軋み、世界が揺れる、体中の至る所から警告のサイレンが激しく鳴り響いている。

「殺される…!このままだと…!」

やっとの思いで立ち上がったユーリは何かを確認するかのように、ユーリは拳を恐々と握りなおす。

「ギベ!」

「らぁ!」

怪人よりも早く繰り出されるユーリの一撃。
それは怪人の顎に命中し、仰け反らせることに成功した。
そのままユーリは攻め続ける。
右パンチ、左フック、おお振りならずになるべくコンパクトに、数を与えようと、どんどん打撃を繰り出していく。
すると、右腕から段々と彼の体に異変が起こっていった。
何もなかったところに白の手甲が顕れ、そこから自分の体が黒いスーツ、肌の上から筋肉の様なものに包まれていく。
蹴りを放つ。
今度は足も黒い筋肉に包まれていった。
しかし、そんなことに驚いてはいられない。意識を外したら殺されるのだ。

「あああああ!!!」

無我夢中で大きな一撃を放った。
自分がやったとは思えないほど、怪人が派手に吹き飛び、瓦礫の山へ突っ込んでいく。
足腰がうまく立たない…肩で息をしながら、自分の掌を見る。
変わっている、まるで自分の体じゃないようだ…しかし、自分の思った通りに指は動く。
不思議な感覚を味わいながら、そのままガラスに反射した今の自分の姿を見た…

「これは…一体…!?」

太陽の光にあたり輝く黄金の角
昆虫を彷彿させるような赤い複眼
そして白い装甲を纏った自分自身が立っていたのだった。
変わり果てた自分の姿を見て、ショックで気が飛びそうになる。
しかし、自分が戦っている相手とはどこか違う…禍々しさは抜け、代わりにどこか聖なるオーラを纏っていた。

「クウガ…!」

その静寂を振り払ったのは、先程吹き飛ばした怪人だった。
瓦礫の山を振り払い、尚もその力強さは健在だ。
自分の前にある、障害物を荒々しく蹴飛ばしながらユーリに近づいてくる。

「あれくらいじゃ駄目なのか…!」

姿かたちは変わったとはいえ、さっきまでのダメージは未だに蓄積されている。
悲鳴を上げ続けている自分の体に喝を入れファイティングポーズを構えた。

「ヅボグヂギガブバダダバ」

怪物は戦闘の意志が目の前にいる敵にあると見ると、一回の跳躍で距離を詰めた。

「な!?」

戦いが久々なユーリはそれに驚くだけで、なにも行動が起こせない。
怪物の雄たけびとともに、ラリアットが首に決まる。
喉が取れるような痛みと呼吸困難に倒れ伏すが、身動きができなくなるほどじゃない。
追撃が来る前にユーリは横へ側転し、真上から来る拳を逃れた。
体がだんだんと訓練校にいた頃やっていた組み手を思い出す。
あの頃の自分は、この訓練が好きになれなかった。
訓練とはいえ、人を殴り、優劣を決めるのだ。だから自分はいつも逃げ続けていた。
相手も傷つかず、自分も傷つかない、ただ攻撃を受け流し続ける、中途半端な動きをしていた。
そんな自分が嫌で、訓練校をやめて今の場所にやってきたのだ。
その時の勘が戻ってきていた。

怪物に手首を取られても、スナップを利かせ手首を相手が掴んでいる方向と反対側に回す。
それでも取れなかったら、もう片方の手で相手を押し出し、相手と無理やり距離を取る。

訓練校時代の相手は人間だったために、何度もかわし続けていると、相手に疲れが来るため動きが鈍くなる。
しかし、今の相手はそうもいかない。体力は無尽蔵かと思われるほどにタフだ。
逆にダメージを貯め込んでいるこちらの方が不利だと言える。

「どうにかしないと…」

ユーリの動きに焦りが見え始めていた。



「ちょっとティア!もう1匹増えてるよ!?」

「わかってるわよ!さっきの蜘蛛頭に白いの!?しかも戦ってるじゃない!」

自分達、蜘蛛頭、そしていきなり現れた白い奴、三つ巴の状況でどう行動するのが正解か…ティアナはそれを決めあぐねていた。
見たところ、白い方が押されているように見える。
蜘蛛頭は徹底的に白い怪物を攻める。白はそれを受け流すことしかせず反撃ができずにいた。

「いや、違う…」

反撃する気がないんだ…と考えを改める。
間を取られた時の蜘蛛男には誰が見てもわかる隙が出来ていた、しかしそのタイミングに白いのは攻め込まない。
ただ、体勢を立て直すだけで何もしないのだ。
白いのの動きを見ていくうちに、何か見覚えあるものが目に付く。

「あのベルト………スバル!」

「ん!」

「白い方に味方するわよ!」

「おっけー!そうだと思ってた!」

自分の意見に即肯定してくれるのは嬉しいが、なんでそう思うとスバルは分かったのかがティアナには理解できない。
しかし、今はそれを問う時でもないだろう。

「行くよ!マッハキャリバー!ギアセカンド!」

スバルの下に魔法陣が展開され、魔力が収束される。より速く鋭い機動を実現したモードだ。

「クロスミラージュ、こちらも負けてらんないわよ」

余力はもうない、長期戦は持ちそうにない。
速攻で片をつける…2人は腰を落とし身構えた。

「ぐぁっ!!」

避けきれずについに鋭い打撃を受けてしまったユーリは壁際まで追いつめられる。
相手がその隙を見逃すはずもない。すぐに追撃をしかける。
すんでの所で首を捻って避ける。鼓膜を打ち破るような破砕音。後ろにあるビルの壁が粉々に砕けたのだ。
腰が砕けそうになるのを必死でこらえ、しゃがみ、ガラ空きになった腹部にパンチを決める。
初めて入った強い一撃だ。
拳に残る嫌な感触を確かめながら、再び間を取った。
視界が開け、怪人の他にも回りが見えるようになる。

「あれは執務官さんとナカジマさん!?2人とも無事だったんだ…」

2人の安全に少し気がゆるんでしまったユーリの集中力は途切れ、相手に攻撃の機会を与えてしまう。
空気を切る音とともに蜘蛛の糸がユーリの首に巻き付いたのだ。

「しまっ…!」

蜘蛛頭の怪物は最後まで言わせず自分の糸で、ユーリを振り回す。そして、部署の屋上まで放り投げてしまった。
それを呆気にとられて見るしかできなかった魔導師2人。

「なんつー馬鹿力…!スバル行くわよ!」

「うん!」

<<wing road>>

スバルの履いているローラーブレードの足首に輝くクリスタルが明滅し、青く輝く帯が螺旋状に空へと伸びていく。
二人はそれを確認すると空へと続く橋を全速力で登って行った。


「うわぁ!!」

放り投げられたせいで屋上に叩きつけられるユーリ。
首に巻かれた糸はほどけてくれたが、お陰で蜘蛛頭の影を見失ってしまった。

「どこだ…」

すり足で、なるべく全周囲に注意を払いながら屋上を回るユーリ。
すると一瞬だけ、自分に影が差したような気がした。

「!!」

普段ならば特に注意を払わないことでも、現状では命取りだ。
上を見上げると腕の爪を伸ばした蜘蛛男がこちらに襲いかかってきていた。

「は!」

両手で蜘蛛男の手首を掴むと二人してそのまま転がりこむ。
即死の危険性は回避したが、自分が不利な状況に変わりはない。
体力が有り余ってる相手の方が立ち上がるスピードが早いのだ。
立ち上がろうとするユーリを蹴飛ばし、今度こそ止めを刺そうとする。
この体勢では間に合わない、ユーリは終わりを覚悟した…

「リボルバァアアアア!シュート!!!」

青い光弾が2人の間を駆け抜ける。
思わぬ乱入のせいで、蜘蛛頭は地面にバランスを崩した形で着地する。
蜘蛛頭はすぐに今の攻撃が飛んできたところを確認するがそこには誰もいない。

「バンザ…?」

何が起きたのか分からない蜘蛛頭、この時ばかりはユーリの存在を忘れていた。
チャッ
乾いた音が自分の死角…いや、真正面に聞こえた。
そこ…自分の腹の前には2丁拳銃の銃口を突き付けた中腰の状態のティアナランスターが不敵に笑っていた。
あらかじめビルの遮蔽物に隠してあったヴァリアブルバレッドを蜘蛛頭の周囲に展開させる。

「クロスファイヤー…!!」

低く唸るような声。そこでようやく蜘蛛男はティアナの存在に気づくが、もう遅い。

「シュゥウウウトぉおお!!!」

一斉にヴァリアブルバレッドが蜘蛛男に直撃、その間にも銃口からは何発も魔力弾が撃ち込まれている。

「ガガガガッ……!!!」

蜘蛛男が弾の衝撃で後ろに吹き飛ばされ、ビルの壁にめり込む。
苦しそうに呻く蜘蛛男を見てティナは確信を得た。

「やっぱり、アンタに射撃魔法は通用するのね…最初の何発かは無効化されたようだけど、その後のは気持ちいいほど決まったわ」

ホントはこれで倒れるはずなんだけどねー…と頭をかきながらぼやく。

「ビガラ…!!ボゾグ!!」

頭に血がのぼった蜘蛛頭は一心不乱に油断しきっているティアナに飛びかかる。
彼に、冷静な判断力と、多少のチーム戦の知識が入っていればこのような愚挙には出なかったであろう。
しかし、圧倒的な有利な状況から、ここまで無様な真似をさせられてしまったのだ。
自分のプライドを傷つけた目の前にいるコイツだけは生かしておけない、その一念のみが彼を支配していた。
それ以外何も見れていなかった
懐に迫っていた“黄金”の瞳をもつ少女に…

「振動拳!!!」

スバルの拳は先程のお返しと言わんばかりに脇腹にめり込む。
その攻撃は衝撃波を対象に直接送り込み、共振現象によって対象を粉砕するものだ。
この技には自分にもダメージを与える諸刃の剣だが、現状で効果的なダメージを与えられる術はこの技しかないと判断した。
スバルは自分の体が悲鳴を上げているのを感じるが、一気に押し切り、屋上の貯水タンクまで殴り飛ばす。
爆発音と水しぶきが派手に上がった。
それを見て安心したのか、スバルはその場にへたり込む。

「へへへ…やったよ…ティア…」

「そうね、お互いボロボロだけど」

ティアナもへたり込む。お互い緊張と体力の限界だ…もう何もしたくない…
2人が白い怪物-ユーリ―の方へ眼を向ける。

「アナタもお疲れ様。助かったわ…」

ティアナは安心しきった表情で礼を言う。

「よかった…」

安堵のため息をして、ユーリはその場を去ろうとする。
しかし、

「ガアアアアアアアアアアアアア!!!!」

瓦礫の山から黒い影が飛び出す。さっき倒したと思っていた蜘蛛男だ。
彼はユーリではなくティアナ、スバルへと狙いを定める。
2人が息をのむ、もう自分達には立ち上がる気力もない。
死を覚悟し、目を瞑った。

1秒

2秒

3秒

しかし、何秒待ってもその時が来ない。

2人は恐る恐る目を開く…そこには白い怪物-ユーリ―が凶刃を両腕で掴み止めていた。

「はああああああ!!」

ユーリは気合いのこもった雄たけびとともに爪を持ち直し、一息で押し返す。
押し返された蜘蛛頭はバランスを崩され、後ろへ倒れ込みそうになる。
普段なら追い討ちや止めを躊躇う彼であるが、今はためらっている余裕など、むしろ体が戦えと求めてくるような感じさえ覚えた。
前につんのめる様になりながらも、拳を振り上げた。
何発も的確に、蜘蛛頭の顔面に打撃を当てて圧倒していく。
ティアナは、さっき見た、避けてばかりの戦い方とは正反対の光景に釘つけになる。
蜘蛛頭もやられてばかりではない、拳を受け止め反撃に転じようと、振りかぶろうとするがそれすら許さない。
掴まれた腕をスナップを利かせつつも、体を回転させ振り払うと、回し蹴りを腹部に決め、ビルの端まで追いつめる。
柵に体を預け、体勢を立て直そうとする蜘蛛頭。


―――――――ダメージは余り通っていないようだが、ここまで追いつめた―――――


「あとは!」

ユーリは腰を低く落とし、力を溜めるように構える。
いつまでも、相手が悠長にグッタリしてくれるとは限らない。
顔を上げ、正面に蜘蛛頭を捉えると、右足をツイストし、一気に走りだす。
なにも余計なことを考えられない。
もっと速く!もっと強く!足を踏み出すスピードも音も激しくなる。

最後に右足を大きく踏み出し、高く飛ぶ。

「うおりゃああああああああ!!!!!」

右足を付きだし、蜘蛛頭に向けて矢のように自らの体を放つ。
蜘蛛頭は腕を体の前で交叉させ、ガードするがそれに構っていられない。
そのまま勢いを殺さずに、蜘蛛男へと飛び蹴りを放った。
衝撃を殺しきれなかった蜘蛛頭は背中の柵も折られ、そのままビルから真っ逆さまに下っていく…


静寂が辺りを包む、ユーリは静かに立ち上がると肩で息をしながらティアナとスバルを見る。
疲れきっているのか、それとも安心しているのか…2人ともこちらを呆けた表情でこちらを見ている。

「ねぇ…あなた…!」

スバルが口を開く、すると白い怪物は親指を立てサムズアップをした。

「それじゃ!」

そして、そのまま隣の棟に飛び移り、その姿を消す。
スバルは呆気にとられて自分でも親指を立ててみる、しばし逡巡したあと、何か気付いたようにハッと顔をあげてティアを見る。

「ねぇ!ティア!今のって!!」

「さぁね、でも、そういうことなんでしょ」

スバルの閃きを面倒くさそうにあしらうティアナ。
上半身を上げるのも億劫…
ティアナはバタリとこのまま倒れる。さっき壊された柵を通して見える海を見ると、ちょうど夕陽が沈むところだ。

けたたましいサイレン音が聞こえる。
きっと救急隊だろう。この場所にも来てくれるだろうか…などと考えながら静かに目を閉じた。


ホント、今日は厄日だわ…








<あとがき>
えースイマセンでした!
ここまで長くなるとは思わなかったんです!
短い物をポンポン出すつもりだったのに、まさかの1万字越え。
確かめてビックリしましたよ。
こんなに書けるのならもっとレポートもマシなもの書けたな―とか色々思ったりしました。


いかがでしたでしょうか?「執務官のお仕事」1話、これにて終了です。
白い怪物、ユーリの区別が難しく、ゴチャゴチャになってしまうかもしれません。
ここはこうしたほうがいいんじゃないか?などの意見があれば感想の方へお願いします。
もちろん普通の感想もお待ちしております。

仮面ライダークウガもここまでが1話だからとりあえずキリがいいかな、と思いここで区切ってみました。
早速、スバルとティアナに正体ばれちゃってますけどね…
これから色々と展開は考えてるのですけど、あくまでこれは「なのはの世界」なのでグロンギばっか出すのではちょっと違うかなーと…
なので、平凡な日常とか任務なんかもまったり書いていきたいと思います。


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