新暦78年 11月某日 AM 11:30 海岸地区 遺跡 最深部
石彫りのレリーフが床一面に敷き詰められた一室、その中央には大きな大人でも丸々入れそうな石棺が鎮座されている。
それ以外には何の装飾品もない、ものさびしい部屋。しかしそこにはしっかりとした気品があり荘厳な雰囲気を醸し出していた。
そこに場違いと思える、デジタル機器類が所狭しと、それも乱雑に並んでいる。
その目の前には数人の人間が忙しそうに駆け回り、モニターの画面と睨めっこをしては、頭を抱え、そしてまた駆け回っていた。
そこをゆっくりと一人の壮年男性が通り過ぎ、中央に鎮座されている棺の目の前で立ち止まる。
「ふむ…」と顎を指でなぞりながら、古代文字がびっしりと描かれている棺の外面を撫でる。
その手つきは埃を取るようにゆっくりと、そして愛しい者を愛でるかのように優しいものだった。
その周囲をしばらくチェックすると、ある程度の情報は確認し終えたのか、顔を上げ、先程までデジタル機器と睨めっこをしていた若者達に目を向ける。
彼らには多少疲れた様子も見えたが、石棺の中身が気になるのか、興奮した様子で皆一斉に頷く。
それに壮年の男性も頷き返すと、懐からポケットレコーダーを取り出した。
日付、場所、研究チーム、自身の名前、使ってる機材、これまでの道程…を口頭で記録していく。
それを全て終えると、いよいよ本番、重く閉ざされた石の棺の蓋に手をかけた。
一人で蓋を開けるのは無理と判断したのだろう、何人かの助手もその作業を手伝った。
堅い物同士が擦れるゴリゴリとした音と、機器から聞こえるピッピッといった電子音以外は何も聞こえない怖いくらいに物静かな空間。
その場にいる誰もが喋ることはおろか、呼吸することすらも忘れていた。
ゴトン、石棺が開かれた…
そこにあるものは…
魔法少女リリカルなのはStrikers-SSX-×空我
11月23日 PM 12:30
そこは湾岸地区のカフェテラス、お昼時ということもあり非常に込み合っている、主に女性で…
そこのオープンテラスのテーブル席で映える橙色、ロングヘアーの女性、ティアナ・ランスターはコーヒーカップをかき回していた。
既に運ばれてから相当に時間が経過したのだろう、湯気など見る影もない。
「遅いわね…」
ポツリと彼女は呟いた。
店内は満席、このオープンテラスの席もどんどん込み始めており、そろそろ店の外では待ちの行列ができそうだ。
このまま長居するのは倫理的にまずいだろう、というか既に店頭で待っている誰かに睨まれている被害妄想すら出てきた。
あと、自分は今私服ではない、黒の執務官服を纏っている。
お忙しい時空管理局の人間が、こんなところにずっと居座っては管理局の品格も疑われてしまうというものだ。
「スバルには待ち合わせ場所の変更メールでも送っておくかな…」
そう呟くと、彼女はバックを片づけ、伝票を持ち、席を立とうとする。
そこに見慣れた影が視界に入った。
「ゴメン!遅れちゃって!」
青髪短髪、明朗快活な女性(…というにはまだ幾分か幼い気もするが…)、スバル・ナカジマがティアナの方に走りこんできた。
姿を見てホッとしたのか、ティアナは軽く微笑み、再び席に着く。
「いいわよ、忙しかったんでしょ?」
そう言いながら、スバルにメニュー表を渡す。
「ありがとー」といつものように元気に礼を返すと、嬉しそうに“本日のオススメメニュー”の項目から目を通して行く。
犬だったらきっと尻尾が千切れんばかりにブルンブルン振るわれていることだろう。
「うん、まぁねー…ちょっとチビっ子達を局内を案内してたら、迷子が出ちゃってさー」
少しメニューを眺めた後、一息ついてから、スバルが口を開いた。
「そういえば今日って子供たちが訪問しに来るって言ってたわね」
「うん、それで案内してたら一人、好奇心旺盛な子がいてね…ヘリとか訓練用具とか…、あぁ、あとは作業機械かな。とりあえず、いろんなの指差して『これ何!?』って質問攻めにあっちゃってさー…」
愚痴っぽい内容なのに、スバルの方は笑顔だ。
子供好きで面倒見の良い彼女にとって、自分たちの仕事に興味を持ってくれるというのは純粋に嬉しいのだろう。
その様子を見てるとティアナの方も自然と笑顔になってくる。
会話も酣、満足いくまで話し終えたのか、スバルがオーダーのために店員を呼んだ。
その注文量にティアナも、そして店員も若干引き気味だったことはここに記述しておく。
「それで…今日は何の要件で来たんだっけ?」
先程運ばれて来たテーブルに所狭しと並べられたメニューを前に、備え付けの水の入った瓶を片手にグラスに水を注ぎながら、スバルが尋ねる。
「この間、この区域で事件があったでしょ?遺跡の探索チームの殺人事件が」
「うん、知ってる。その事件関係で私も現場付近にまで調査で行ったから」
「それの関係で私が連れ出されたのよ。正直、遺跡とか歴史は詳しくないんだけどね」
苦笑いしながらティアナは冷めきったコーヒーに口をつける。
スバルは「へー」と相槌を打ちながらコップの水を飲み干した。
「今朝言い渡された辞令だから詳しいことは聞けてないんだけど、遺跡から発見されたものの輸送するとか…」
「え、でもそれって、本局の専門部署が独自にやることだよね?」
「そのはずなんだけどねー…」
ティアナは溜息をついた。
どこか言いづらそうにしている彼女のまだ少女の部分を残している姿から、執務官になってもまだ齢19歳なのであると再認識させられる。
「ホラ、私…っていうかアンタもだけどさ、機動六課時代になのはさんに徹底的にしごかれたじゃない?それで、その後のゆりかご事件解決にも1枚噛んでたわけだし…」
「あぁ、うん」とスバルは相打ちを打つ。
目の前のティアナの言っていることがイマイチ的を射ない。頭の上に「?」が乗っかっている感じだ。
「あ、あとこの間のマリアージュ事件もか…まぁ、その結果私にはすっかり武闘派のイメージがついちゃってね。
そこで、今回の遺跡の件なんだけど…スバルはどれくらい事件について知ってる?」
「詳しいことはしらないよ。えーと…だからこの付近で発見された地下遺跡に大学の研究チームが調査に向かう。これが、1週間くらい前でしょ?
それで2日前、この調査隊と連絡が取れなくて、大学側の要請で地元の警察が探索に向かったら、最奥部の部屋で、研究チームと思われる人たちが惨殺されていたって話だよね?」
そこまで行ってスバルの動きが止まる。
サラダを口に含みつつ、真面目な顔をしたままフリーズ。他からみれば滑稽なシーン極まりない。
「あ、それで“武闘派”執務官のポジションでもあるティアが…」
「“武闘派”言うな!でも、要するにそういうワケ。研究チームの人たちも何も武器持って行ってないわけじゃないからね。その彼らを惨殺っていうのは、ちょっと脅威でしょ。
それで、結構やんちゃな事件を解決してきた私に白羽の矢が立ったってわけ」
「執務官補佐もいないから下手に担当事件増やせないしね」と最後に付け足して、今度はティアナがメニューを開いた。
「すいませーん!オーダーいいですか?」
「いやぁ、食べた食べた」
「アンタ、何度も言うけど太るわよ、絶ッ対に太るわよ」
店を出た後、膨れたお腹をさすりながら至福に浸るスバルにティアナが厭味を言う。
訓練校時代から何度もあったこのやり取り、決まってスバルはこう返す。
「しっかりとその後に消費するから問題ナシ!!」
「そんなことも言ってられないわよ。私たちももうハタチ手前なんだから、体の作り上、脂肪を貯め込んでくるんだからね」
「ならそれ以上に消費する!」
食事し終えたばかりだというのに、軽くシャドーボクシングをするスバル。
ハイハイと呆れて手を振るティアナ。
今でも変らないやりとりに2人して笑ってしまう。
「それじゃあ、ティアはこれからその遺跡に?」
ひとしきり笑った後、スバルが切り出した。
「うん、そう。ゴメンね、忙しい中呼び出しちゃったりして」
「何言ってんの!ティア!
相棒なんだから、そんな水臭いこと言いっこなしだよ!」
それにティアは、うん、と軽く返事をして車に乗り込む。
「じゃあ行ってくるわね」
「気をつけてね」
手を振るスバルにティアナは手を振り返した後、アクセルを踏み込む。
見えなくなる彼女の車の姿に、スバルは少し嫌な予感を感じた。
PM 14:00
「本件での輸送担当のティアナ・ランスター執務官です」
ID証を係りの者に見せた後、「KEEP OUT」と書かれた黄色いテープを踏み越え、遺跡内部に入る。
遺跡内の通路は狭い一本道だった。
壁の所々に溝や、出っ張りなど通せんぼのための壁があったであろう形跡を見ると、侵入者が入って来ることがないように作られていたのだろう。
「墓荒らしへの呪い…なんてことはないわよね…」
独り言を言いつつ、少し嫌な顔をするティアナ。
こう本物の雰囲気にあてられると、幼いころに見たホラー映画のワンシーンを思い出す。
怖いけど続きが気になって、兄の背中でビクビクしながらも最後まで見てしまったことや、結局映画のシーン思い出して怖くて寝れずに兄のベッドで一緒に寝たことなど、同時に恥ずかしすぎるメモリーが脳内をちらついた。
一度このようになってしまうと、この手の記憶は湧水のように溢れてくる。
必死に雑念を払いながら、遺跡内を早歩きで進んでいく。
道中、石を思いっきり蹴飛ばしたり、足を壁に思いっきりぶつけたけど気にせずに歩き続けると、開けた広間に出た。
「う…」
ティアナは思わず口を覆う。
それもそうだろう、その広間は壁、天井を含めほぼ赤黒く染まっており、独特の異臭が辺りに満ち溢れている。
何があったのか、よりも誰がやったのか、という思考が最初に来てしまう。
血の跡には、枯れた筆を無理やり押して色を塗った、あの独特のかすれ具合を醸したモノまである。
心底気味悪い空間だ。
慣れるまで手で鼻を覆いながら、人が集まっている棺の前まで歩いていく。
死体(この夥しい血の跡から察すると肉片といった方が正しいのかもしれない)はどうやら片づけられたようで、それ以外は発見当時のまま保管されているようだった。
「お疲れ様です。本局より参りました、ティアナ・ランスター執務官です」
棺に夢中になっている、男たちの背中に向かって凛とした声で挨拶をする。
いくら女性の社会進出が当然になってきた社会とは言え、この業界はやはり男が強い。
女は舐められないように、ある程度鎧を纏っておかないと、本来なら上手くいく捜査、仕事の取り次ぎですら覚束なくなることがままある。
そのためにも第一印象は大切だ。
多少キツく見られてしまっても、「剛」から「柔」の変更ならば、その後で機会を作れば簡単に修正できる。
その逆に「柔」から「剛」の変更は非常に大きい労力を要する。
“柔よく剛を制す”などと言うが、人間関係、特に構築段階にそれは適用されないらしい。
「あぁ、これはわざわざご足労ありがとうございます。私はこの地区の刑事をしております…」
と、小太りの中年男性が頭をかきながら、こちらにお辞儀をする。
どうやら、こちらが思っていた以上に向こうは人が良いようだ。
構えていたティアナは内心で安堵する。
お互いの自己紹介も済み、発見した警官の発見当時の話や被害者遺族への報告の話の説明を受ける。
そして話を本題の今回輸送するモノ、そして遺跡の状況へと移そうとした。
「え~、私からお話しできるのはここまでですね。あとは専門家の方にお願いしますので…では、こちら管轄取り次ぎの書類です。確認をお願いします」
と、目の前の刑事からのバトンタッチ宣言。
専門家も別に連れてきているらしい、こじんまりとしてるが、これほど古びていそうな遺跡だ。やはり興味がわいてしまうのだろう。
などと、考えながら差し出された書類を受け取ると、クリップで止められた書類を捲っていく。
もう何度も慣れた事務的な仕事だ、チェック項目は頭の中に叩き込んであるため、1分も掛からないうちにそれを済ます。
そして書類を封筒に戻しながら「ありがとうございます。確認いたしました」と感謝の意を伝えた。
「はー…早いですなー…流石は管理局本局勤務の執務官さん…」と目の前にいる刑事は目を丸くして驚いている。
自分としては出来て当たり前のことをしているつもりのティアナには、このようなことで持ち上げられると非常にむず痒い。
さっさと話題を変えようと、先程の話に出ていた専門家を呼んでもらおうとした。
すると…
「大体2~30くらいだね…」
「これって土葬ですよね…なんのために…というかどうして壁を一枚隔てた向こう側にこんな空間があったんでしょう…」
と奥の壊れた壁の向こうから2人分男性の声が聞こえた。
一つは年老いた、そしてもう一つは逆に若い声だ。
もしかしたら、自分と同い年かもしれない、とティアナは感じ、そちらに振り向く。
「さあねー…見たところ、古代ベルカよりも古い時代のものっぽいし、儀式だったのかねぇ。まぁ、土葬の中身がないんじゃあ、なんの調べようもないけどさ…
と…おや、執務官さん、もういらっしゃったんですか!お早い到着でしたね」
先に奥から出てきたのは見たところ60歳前くらい手入れをしてないボサボサヘア+白髪に猫背、身長は160センチあるかないかくらいの、いかにもな“おじいちゃん”の風貌をした壮年の男性。
そして続いて出てきたのが、自分たちと同い年くらいの年齢で170センチ半ばくらいだろうか、髪の色は黒、長さはミディアム程度のやや痩せ形の特にこれといって外見に特徴のない男性だった。
「あ、ホントだ。今日はよろしくお願いします!」
こちらに気づいた若い方が礼儀正しく頭を下げる。
このまっすぐな人懐っこさ、ティアナは先程まで一緒に食事をしていた相方を思い出した。
そのまま2人はティアナの前まで歩いてきた、壮年の男性から口を開く。
「今日の輸送担当の管理局本局所属 遺失物保安部 管理取引担当3班 班長のゴリス・カーネルです。で、こっちは付き添いの…」
「同じく、助手のユーリ・マイルズです!よろしくお願いします!」
挨拶が終わると、ゴリスは「それじゃあ、今回移送するものについてお話しますわ」と鞄から端末を取り出した。
それに懐からビニール袋に包まれたメモリースティックを差し、映像をウィンドウに表示する。
そこには、まだ発見されたままの姿であろう奇麗なこの部屋、そして自分たちの目の前にある石棺が佇んでいた。
「動画ファイルじゃないんですがね…とりあえずはこちらで勘弁してください。動画の方は、この後管理局の湾岸部の方で専用の機材をお借りしてそちらで見るつもりですので…」
「はい、わかりました」
またスバルと会うことになりそうだな、と思いつつティアナは応えた。
その間もページが捲られていく。
意味のわからない、古代文字…というか絵。表音文字ではなくて表意文字なのだろうか…
「これが研究チームが辿り着いた直後のこの部屋の様子です。まだこの部屋の奥の壁にも穴なんか空いてなくて、綺麗なもんでしょう…」
きっと嬉しかったのだろう。部屋に入るチーム全員の表情は眩かんばかりに笑顔だ。
「そしてこちらが、この棺を開けている時の絵です」
最初は数名が石棺の蓋を開けようとしている、特に変わり映えのない画だ。
しかし、そこから先のページからこの惨状がどうして起きてしまったのか、その発端が始まることになる。
パラパラマンガのように写真を連続的に見せ状況をティアナに説明するゴリス。
内容はこうだ。
まず、チームの男手数名が棺の蓋を開ける。そこには腰にベルトのようなものを巻いた木乃伊が寝ており、彼らは早速、細菌等のウィルスがないか機材を片手に調査することになる。
しかし、その直後、この部屋を照らしていた照明が消え、辺りは闇に包まれてしまう。
この写真を撮った人間も相当慌てていたのだろう、シャッターを何回も切ってライトを点灯させ、辺りを照らしていた。
やがて非常灯がつくと、奥の壁に穴が開いていた、いや、注目すべきところはそこではないだろう。
石棺の前にたたずむ人の形をしたナニかだ。
顔の細かなディテールまでは把握できないが、額にもかかった長い髪、異様に尖った指先、異様に発達した体中の筋肉、そして静止画からもわかる人間的ではなく獣のような挙動。
それはおとぎ話に出てくる悪魔そのもののような形をしていた。
悪魔は棺の中に手を伸ばし、先程映していたベルトを片手で持ち上げる。しかし、そのベルトを天にかかげた瞬間、彼は苦しみだし、そして忌々しそうにそれを床にたたきつけた。
その直後、研究チームの存在に気付いたのか、悪魔は首だけをカメラ側に向ける。レンズと目が合ったのをティアナは何となく感じた。
一度、体ごと向き直る。
そのページを捲ると、次の写真には鋭い爪によってレンズが遮られているであろう画がうつっていた。
「…!」
突然のことに息をのむティアナ。
その後の写真は全て黒一色。何も得られるものなどなかった…
「まぁ、こんなとこですわ。その後、この壊された壁の向こうにある部屋から、コイツのお仲間が次々と脱走…ですかね?今残っているのは、このベルトのみっちゅう話です」
ゴリスは部屋の隅っこを指差す。
そこでは防菌性能を持つ作業服を着たグループがベルトに様々な端子をつなげ何やら分析していた。
この部屋の異常な光景に入った瞬間から圧倒されていたティアナは今彼らの存在に気付いた。
しばらく、彼らの作業を眺めていると、後ろから
「カーネル班長!言われていた通り、一通り古代文字は記録しました」
とユーリ・マイルズが声をかけてきた。
ティアナがこれまでの話を聞いている間に、彼は壁やレリーフに記された文字を写してきたらしい。
それと同時に、高らかな電子音が鳴る。
どうやらベルトのチェックも終了したようだ。
「カーネル班長、ウィルス検出・および魔力反応値、異常なしでした。どうぞ」
「どうもありがとうございます。悪い、ユーリ持ってってくれ」
「はい!」
ゴリスに頼まれ作業員から、ケースを受け取ろうとするユーリ。
その時、彼の動きが止まる。
それは2,3秒の短い時間の些細な出来事、しかし違和感を持つにも十分な時間であった。
「おい、ユーリ!」
「は、ひゃい!?」
ようやく我に返ったユーリが、動揺の声を上げる。
「どうしたんだ?まったく…ホラ、さっさと受け取らんか!」
ゴリスの怒声に「スイマセン」と苦笑いをしながら、お辞儀をしてケースを受け取った。
「どうかしたんですか?」
「えぇ、大丈夫ですよ!ちょっとボーっとしちゃったくらいですから!」
初対面のティアナも彼の様子が変だと感じ、ユーリに声をかけた。
それに彼は「大丈夫!」の返答と親指を立てて―サムズアップ―のジェスチャー付きで応える。
その返し方に二の句が継げなくなるティアナ。今、自分が困ってる表情を必死に隠そうとして困っている表情になっているのがわかる。
どう返していいものかと、彼女の頭の中では様々な単語が飛び交い、検索を続けている状況だ。
「えーと…」とやっとの思いでようやく声を絞り出した時、スパーンと高らかな音が室内に響き渡った。
その音に我に返ると、ゴリスがユーリの頭を叩いていた。
「お前は馬鹿か…ここは3班じゃねえんだから、いきなりそんなことされても困るだけだろうが!すいませんね…コイツはホントにおバカなもんで…」
「いえ…」
まだ少しひくつく頬に違和感を感じながら、心の中でゴリスに感謝をする。
このまま彼の助け船(?)がなければ、自分がどのような返答に出たか分かったものではない。
着飾らずに真っ直ぐに自分の心中を見せてくる相手に、自分はどうやら弱いらしい。
小さくため息をついた
「では、湾岸部の方へ行きましょうか!」
「はい」
「ちょっと、おやっさーん!いきなり頭叩くのはないでしょー!」
ゴリスを先導に遺跡から出ていくティアナとユーリ。
ティアナはゴリスの背中を追って真っ直ぐと出口まで直進する。
だが、ユーリの方はどこか後ろ髪を引かれるような…自分はまだここにいるべきなのではないか…そんな感覚を覚えていた。
<あとがき>
というわけで第一話でした。
とりあえずクウガの2話辺りまでは書きあげたいと思っています。