かちゃん
ふ、今時黒電話とかフリークス家の通信事情もどうなってるやら。
というか、割と辺境の地――東京で言えば小笠原諸島に当たるっぽいこの島で即日配達でゲーム機が届くとは思えないんだが、そういう念能力者が関わってるのか?
「あ、シズカ、あけましておめでとう!」
「ああ、おめでとう」
「駄目だよ勝手に歩いちゃ! 転けたらどうするの!」
「そこまで間抜けではないぞ」
「気をつけなきゃ!」
そう言って手を引き寝室まで引っ張るゴン。
うーむ、何という世話焼きキャラ。間違いなく幼なじみポジション、女の子だったらな。
部屋には暖房代わりのイチローと護衛のつもりのライキ、そしてロデムがイチローに纏わり付くようにうにうにしていた。
12月、いやもう1月とは言えくじら島は暖かい方なのだが、やはり夜は冷える。
横島という抱き枕もない今、イチローが部屋にいるだけで暖かく過ごせるのだ。
というかな、妊婦の手足の冷えがやばい程パネェのだ。
普通、運動選手などは女性でも冷え性になりづらい。筋肉量と内臓の鍛えが違うからだ。
そして絶状態で試しの門を普通に開けられる俺の筋力でも冷え性になる。
つか手足冷たいやばい。
あと最近太った。
いや腹に人間様が二人もいるんだから当然なんだろうけど、これは産後の運動頑張らないと行けないかも知れん。
…まあ一番太ったのは胸なんだがな!
妊婦は仰向けに寝られないので側臥位で睡眠を取るのだが、ゴンに手伝われつつベッドに潜り込むと足下にロデムが潜り込んでくれた。
暖かい、天然の懐炉だ。いつも助かってます。
床に丸まっているイチローもベッド脇へ躙り寄ってきて、その側でライキも丸くなる。
「じゃ何かあったら呼んでね」
「ああ、おやすみ、ゴン」
枕元にペットボトルや床に悪阻用のバケツ、温めの湯湯婆等を用意して、電気を消して部屋から出て行ったゴン。
もう甲斐甲斐しいにも程がある、あんな弟が欲しかったなぁ。
ユーノも可愛いけど、なのは達が独占してるからなー、ちょっとは貸してくれてもと思ったもんだ。
まあその分お腹の赤子どもに期待するとしよう。
あー…弟とか考えたらなのは達の事を思い出してしまった。
そして濡れる枕。
最近は情緒不安定気味で、ふとした拍子に涙が流れて困る。
ゴンとかに見られて余計な心配をかけてしまった事も屡々だ。
考えないようにしないと。
横島に会いたくなる。ああ、駄目だ、考えちゃ駄目だ。
湯湯婆をお腹に影響しないように抱き締めて、手の冷たさを癒す。
湯湯婆を抱く胸もKカップまでおっきくなってしまった。出産後には小さくなる女性も多いらしいが、大丈夫なのか。
俺は極力何も考えないようにしながら、涙を流したままそのうち眠りに就いた。
****
「あら、あけましておめでとう、シズカ」
「ああ、おめでとう、ミトさん。イネさん」
朝になって新年の朝食。
お節料理位作れなくはないんだが、今は駄目だ。
味覚も嗅覚も変わりすぎてて、味の調整に自信がない。
「ほいほい、おめでとう」
イネさんも元気だね、ひ孫がいるとは思えん程ちょこちょこと動いて仕事している。
見た目的には一番年齢相応ではあるが、前の世界と合わせても。
「手伝おうか?」
「良いからじっとしてなさい」
「うむ」
渋々席に着くが、どうもなぁ。
こう、上げ膳据え膳は凄まじく居心地悪い。
酒場の方も出してもらえないしなぁ。
厨房も任せてもらえん、いやヤレと言われても断るが。
生魚無理、匂いで死ぬ。米も炊いたのは無理だし酒の匂いもキツい。
ここまで嗅覚が変化するとはなぁ。
幸いフルーツ関係と甘味に関しては普通だからお菓子作りは平気だが、この状態でそんなばかすか作る訳にも喰う訳にもいかん。
妊婦さんには高タンパク低カロリーかつ繊維質と各種栄養がたっぷりな滋養食と決まってる。
相変わらずトマトは食べてるけど。
「タダオはまだ帰ってこないの?」
「帰ってくるなと言ってあるからな」
俺の言いつけを守らない訳がないし、心眼もくっついてるから安心だしな。
うむ。
「…なぜゴンが落ち込む必要がある」
「だって」
「だっても何もない。
誰にとって何が今一番大切かはそれぞれだ。
私にとって、今は忠夫が誰よりも強くなってもらわねば、困る」
そう、激しく困る。
文珠覚えてもらわないと困る。
正直、文珠を覚えてもらって、帰れるようになればキメラアント以外は放置したところでどうにかなる問題ばかりなのだ。
するつもりは全くないがね。
例えばクルタ族の滅亡は俺らがここに来る2~3年前の話だから関わりようがないが、試験でゴンと一緒に行動する以上はクラピカともそれなりに親しくなる、というかならざるを得ない。
好きだしね、クラピカ。美形はこの世の宝だし。
直に会うのが楽しみだ、異世界トリップものの醍醐味だわ、嬉しかないが。
どうもユーノとかいいクラピカといい、ああいうタイプが好きなのか俺は。
いやいやトレーズ様に告られたら一発でオーケーする自信あるぞ、絶対ないだろうが。
……なんで横島なんだろうか?
いや良いんだけどね、好きだしね。
「うー」
納得いかないのかゴンが唸る。
これがハンターの仕事でってなら納得するんだろうなぁ、こないだ修行ならくじら島でも良いじゃんとか言われたんだが、それは困る。
天空闘技場じゃないと相手いないしな、適度に強くて修行になるのが。
そういう意味じゃGIも適度に強いモンスターばっかりだったんだよな、流石ジン。
人格と才能が手を取り合わないのはこの世の常識だな。
「ゴンは優しいな。だが、迷惑だ」
「う…」
はっきり言わなきゃ解らんからな、このどこまでもまっすぐな頑固者は。
そういう意味じゃなのはそっくりだわ、全く。
「さ、ミトさんとイネさんの心づくしの料理を食べよう」
「…いただきます」
納得はしてないと顔で答えて料理を食べ始めるゴン。
ま、可愛いもんだ。
海産物と山菜と、山と海が同居するこのくじら島ならではの料理を少しずつ口に入れる俺。
ミトさんは兎も角イネさんはよく解っていて、俺が今食べられないモノは一切並んでなく、俺が食べた方が良い、消化に良くて滋養がある料理が俺の前にだけ並んでいる。
本当に有り難い。
横島がいなくても、平気なのは、この人達の、おかげだ。
本当に、有り難い。
「シズカ」
「…む」
く、また涙が。
涙腺がイカレてるのかすぐに泣けてきて困る。
それとも自分で思う以上に情緒不安定なのか。
「はい」
ゴンの差し出したハンカチで涙を拭い、食事を取る。
「ありがとう」
言い置いて食べ始める。
旨いんだが味は濃くないし油は殆どないしで満足しきれないんだよなぁ。
旨いけど。
トマト位ならまだしもそう油モンだの味が濃い料理だの食べる訳にもいかんのは解ってるが。
ゴンが採ってきたキノコの類はオリーブオイルでソテーしただけだが旨い。
この程度の油なら許されるハズだ、うまうま。
「ああ、そうだ。ほれ、お年玉だ」
「なにそれ?」
即席で封筒を弄って作ったポチ袋をゴンに渡す。
「私の国では新年の挨拶の後、子供達にお年玉と言って小遣いを上げる習慣があるのだ」
「へー、ありがとう、シズカ」
「もう、悪いわね、シズカ」
「いや、いつも世話になっているしな」
ついでに以前は出来た手伝いも殆ど出来ないしな。
ゴンのハンターへの訓練の手伝いとノウコと一緒に料理する以外は冗談抜きに殆ど妖怪喰っちゃ寝だからな……
勿論この状況で身体動かさないのは色んな意味で不味いので、ゴンをお供に島内を適当に散歩したりもしてるが。
この世界、筋力の低下は殆どないのだけは助かるな、どういう理屈かは兎も角。
「食事が終わったら散歩したいな、付き合ってくれ」
「うん、解った!」
「気をつけてね、本当に」
心配そうなミトさんと超然としたイネさんに微笑んで、食事の片付けを初める俺であった。
****
森の奧、コン達の縄張りから少し外れた場所。
例の泉がある場所で正座で座禅を組んでいる俺。
胡座を組みづらいというかバランス悪いので正座である。
そして俺をくるむように尻尾と身体で寒さから守ってくれているイチロー。
ゴンの特訓はビスケがGI編でやってた寝てる間も気を抜くのは駄目だよ訓練と、森の中での隠れ鬼ごっこである。
流石にこのお腹で夜通し起きているという選択肢はないので、俺に変身したロデムに一晩中起きてもらっている。
睡眠は必要ないらしいのだ、ロデムは。
よく解らん生態だが役に立つならそれで良い。
あと流石に石でやるのはどうかと思うので、軟式ボールでやっている。
ちなみにこの手の訓練は俺達も親父からやらされているので慣れたものだ。
隠れ鬼ごっこは本来のソレとは違う。
隠れている鬼役を探して、見つけたら捕まえる。鬼は見つかったら逃げて、逃げ切れたらまた隠れる。
ここまでは同じだがハンター役が気付かぬよう、カウンターハンター役を投入するのだ。
要するに第四次試験のアレである。
ただし、カウンターハンターは投入する時としない時がある。
そして鬼役は反撃不可、逃げのみであり、他は攻撃有り。
隠れ鬼=ヒソカ・ハンター=ゴン・カウンターハンター=忘れたけど吹き矢の奴と言う想定。
アレは痺れ薬だから良かったものの、一歩間違えれば即死である。
そもそもゴンは今まで独りで過ごしていた時間が長すぎて、誰かを探す事はあっても探される事は殆どなかった生活なのだ。
ゆえに自分が狙われているという状況を殆ど想定していなかったに違いない。
よって、ライキ・俺かゴンに変身したロデム・ゴンで役を変えながら毎日一回は隠れ鬼ごっこである。
副次効果ではないがライキとロデムの能力の底上げにもなって大いに結構な事だ。
ゴン達が訓練と称して遊んでいる間は纏・点の修行のみを行う俺。
練や絶は細胞からオーラを体内から放出する、留めるという性質上、体内に存在する赤子に良い影響は与えないらしい。
纏の修行は兎も角、点の方はやると涙が止まらないのが難点だ。
俺は自分が思う以上に寂しがり屋だったらしい、或いは妊娠の影響によるものかも知れないが。
こういう時、暗殺者として才能がある自分が恨めしい。
感情は滂沱していても身体はとりあえずやるべき事をやっているのだから。
別に必要ないが無駄に才能がある身体というのも面倒なものだ。
「また泣いてる!」
汗だくのゴンとライキ、よく解らんロデムが戻って来た。
「心の汗という奴だ、気にするな」
「ライ!」
飛びかかってきたライキを両腕のみで受け止める。
顔を拭うように嘗め回されてしまった。
可愛い奴め。
「寂しいなら寂しいって言いなよ!」
「ゴン達がいてくれるから平気さ」
いなかったら割と発狂してたかも知れん。
そういう意味では横島もだが。
独りでこんなトコ放り出されたらと思うとゾッとする。
「強がりばっかり!」
「強がってる訳でもないがな」
ライキを降ろして、パンっと手を叩く。
グォッとイチローも鳴いた。
「さ、模擬戦だ」
「うん」
文句は言い足りないがと顔に出しつつ、ロデムと距離を置いて対峙するゴン。
「ロデム、変身!」
うにょうにょとゴンに変身するロデム。
チートブースト黍団子は練が必要なので使わない。
ミラーマッチは修行には最適なのだ、特にロデムは体力以外のステータスは完璧にコピー出来る上、この世界に来るまでに培ったポケモンバトルの経験があるから、単純にゴンより立ち回りが上手い。
ちなみにこの訓練を始めたのは俺が戻って来てからなので、約一ヶ月続けている事になる。
「では始め!」
「やっ!」
ゴンが勢いよく飛びかかるのを僅かに動いて躱し、カウンターを入れる。
「がっ!?」
「阿呆、鳥じゃ無いんだ。地面から足を離せば動きが取れない所を狙われるのが当然だろう」
ゴンの動きは野生の獣に近い。
隙を見たら急所に噛みつくような動きだ。
逆に言えば適当に隙を見せて誘えば、簡単にカウンターを入れる事ができるのだ。
性格も素直だし、ここら辺は明確な弱点になってしまってる。
原作ではヒソカ戦で初めてフェイントの事を知った辺りからも伺える。
まあ、速度や腕力と言った性能が高すぎるせいで必要がなかったというのもあるだろうが。
というわけでゴン対ロデムでは常にロデムが勝っているのが現状だ。
同じ性能なら運転手の技術が明暗を分けると言う事だな。
つまりゴンは自分の身体の使い方を未だ解っていないのだ、戦闘という意味では、だが。
それも仕方ない事なのだ。
島にはゴンと対人戦で互角に戦える者がいない。
横島と俺が来るまでは独り遊びしか出来なかった。
ノウコとは年も性別も違うから遊びようがあまりないのだ。
「素直すぎるぞ。目で見るな、俯瞰しろ!」
ガスガスとロデムの攻撃を喰らうゴン。
反対にロデムは攻撃を喰らう事は殆どない。
うちのロデムの戦闘経験はアレだ、恭也とかが訓練にちょうど良いからと滅茶苦茶鍛えまくったからな。
ステータス以上の経験蓄積がある。
念能力ありならまだしも、なしならこんなもんだろう。
「終了だ」
「っかれたぁー!」
倒れ込むゴンに変身を解除しうにょうにょと俺の腕に絡んでくるロデム。
「次はライキとだ」
「らい!」
「えー!? 休憩は?」
「お前は敵に、危険な獣に待ってくれと頼むつもりか?」
「うっ」
「勿論、そんな時は逃げれば良い、隠れるのも良い。だが戦わざるを得ない時だってある。
常にベストコンディションで戦えると思うなよ?」
訓練とはそういうものだ。
想定外の事態に冷静に対処する為にも、想定できるあらゆる事象に備えておくべきなのだ。
多分、そういう意味もあったんだろうな、ビスケの対ナックル戦の訓練は。
「…はい」
「うむ。ではライキ、頼むぞ」
疲労困憊という程でもないが一戦した後では動きが精細に欠けるのは致し方あるまい。
それでもライキの攻撃を捌きつつ反撃に出ようとするのは大したものだ。
尤もライキも大分手加減をしている。
尻尾や蹴り技を使わず、また体当たりなどの四足歩行前提の技も使わず、両腕だけで相手をしている。
ライキ達のような四足歩行と二足歩行の切換が可能な種族の最大の利点がこれで、両手を人のように使う事も出来れば獣のように走る事にも使えるという、言ってみれば二種類の攻撃パターンを持っているのだ。
この世界には魔獣と呼ばれる人語を話し二足歩行をする獣人のような存在がある。
人を食った後のキメラアントなんて最たるものだろう。
人以外と戦う経験は今のうちからあった方が良い。
「ライキ」
「らい!」
「うわっ!?」
意識から完全に外れていただろう尻尾の攻撃をまともに喰らい、ゴンが吹っ飛ぶ。
単に叩いただけで、アイアンテールなどの技使ってたら真っ二つだったかもね、今のゴンなら。
「手しか使わないとは誰も言っていないぞ。
いいか、どんな事をしても勝てとは言わん。
だがな、どんな事をされても負けるな。
その為にあらゆる事態を想定しておけ。
有り得ないなんて事は、この世には絶対に有り得ないんだからな」
この言葉に出会えただけでハガレンを読んだ価値があると思うのだが如何なものか。
「解った!」
なにやら感銘を受けたのか、吹っ飛ばされた割に生き生きとした顔で頷くゴン。
「埃払って顔を洗え」
「はーい」
ぼろぼろの顔を泉で洗い始めるゴンとライキ。
可愛いなぁ、ライキは。
それにしても自分が動けないのはキツい、精神的に。
あ、来た。昼間に来るのは久しぶりかも知れん。
「ゴン、果物採ってきてくれ」
「え――うん、解った!」
顔を濡らしたまま、風のように去っていくゴン。
そして持ち歩いててたエチケット袋へ――
****
「大丈夫?」
「ああ、もう平気だ」
ゴンの採ってきたリンゴっぽい果物を囓りつつ、答える。
血糖値を常に一定に保つようにしてれば悪阻の吐き気は襲って来づらいのだ。
だからちょっと太りやすいんだけど痩せるよかマシだよね。
そろそろ安定期入る頃だしつわりも収まってきたしで油断してたわ、全く。
前をライキとロデム、背中をイチローに囲まれて守られている俺。
「もう帰ろうか?」
「そうだな」
糖分補給したしそこまで気分は悪くないが、まあゴンに余計な心配かける事もあるまい。
一番酷い時期は血糖値の調節に慣れるまでは相当な頻度で吐いてたからなぁ。
今でも悪阻の明確な原因は解らんらしい、面倒な話だ。
「じゃ帰ろ」
イチローをボールに戻しゴンの手を取って立ち上がる。
鬱蒼とした森の中をゴンと歩く。
転けた時受け止めるつもりらしいライキとロデムを足下に連れ立って歩く。
如何になんでも俺がそうそう簡単に転ける訳がないのだが気持ちは有り難く思う。
深い森の中を歩くのは気持ちが良い。
ゴン達がいれば獣もそうは寄ってこないからな。
正確にはコンが身重の俺を気遣って近づかないよう森の獣たちに指示してるとか。
コンパネェ。
もう冬なので動物たちも一部を除いて余り外は出歩かないのかも知れん。
「タダオは今何してるかなぁ?」
「修行中だろう。カイト位強くなってもらわんと困る」
最低でもな。
「カイトの事知ってるの?」
「ああ、ジンの弟子は有名だからな」
「へー」
とりとめない事を話しながら家路に着く。
家に帰るとノウコがいた。
ミトさんとイネさんは外出しているらしい。
この辺りは特有の大らかさを感じるな、この島全体がある意味で家族みたいなものなのだろう。
ライキとロデムを連れ立ったまま、居間のテーブルに腰掛ける。
「こんにちわシズカお姉ちゃん」
「ああ、こんにちわ」
どうもなのはを思い出していかん。
ティッシュで目元を拭って、椅子から降りてライキを抱えようとするノウコの頭を撫でる。
30㎏は子供には重かろう。
ゴンがエチケット袋などの処理をして戻って来た。
なんというか良い子だよなぁ、うちの妹達もそうだが。
「さて、今日はクッキーでも作るか?」
「うん」
ノウコの拘束を解いて俺の側へ寄るライキ。
チートブースト黍団子(を使えればロデムを俺に変身させて、頭の中で命令するだけで良いんだが、流石に口頭だけで料理ほどの細かい技能を再現させるのは難しい。
「さっき森で戻した癖に何言ってるの!」
「大丈夫だってばさ」
台所への道をふさぐつもりのゴンの頭を撫でてから、脇をすり抜ける。
すり抜けられてからその事実に気付いたゴンが、驚きと怒りをあらわに叫ぶ。
「ふざけないの!」
むう、同じジャンプの主人公の真似しただけなのに酷いってばよ。
どうでも良いが無理あるキャラ付けだと思わんかね?
と言う訳で口うるさい舅のようなゴンをスルーして台所へ向かう。
ゴンに気付かれずに横をすり抜ける事など今ならまだ容易いのだよ。
念の為、常備しているレモンの蜂蜜付けを三枚ほど腹に入れておく。うまー。
ついでにトマトジュースを飲む。うまうま。
何故たかがトマトがここまで旨いのか。
うーむ。妊娠とは不思議なものだ。
「らいらい」
ぺしぺしとゴンの背中を叩いて宥めているつもりのライキが可愛い。
「これを作ったら横になるさ」
そこまで疲れてないけどな。
心配性の弟だこと、全く。
ノウコちゃんを伴ってクッキー作りを始めながら、可愛い弟をなのは達に会わせてやりたい、そんな事を思っている俺であった。
****
静香は前世の男だった頃からトレーズ様のファンです。
W自体の評価は黙秘ですけどねー。まあ問題なのはWよか続編扱いのアレな気もしますが。