「お姉ちゃん分ほじゅ~」
「えっ、と。ほ、補充?」
SR上野駅構内、切符売り場付近のスペース。
よく分からない事をほざきながら妹とその親友に抱きつかれる俺。
主要駅の一つだけあって人人人だねぇ、懐かしい。
「お姉ちゃん分ってなに?」
「静香お姉ちゃんから吸収するの。足りなくなると寂しくなるの」
「そうなんだ」
フェイトが信じちゃったぞ、チョロい。
なのはとフェイトの頭を撫でてやりつつ、お疲れ気味なユーノに声をかける。
「ご苦労だったな」
「ええ、ホントに…女の子の、というか子供のパワーって凄まじいですね…」
「お前も子供やろが」
横島のツッコミ。
「あのねあのね、パンダの玄ちゃんが可愛かったの」
「タイヤ乗りの曲芸とかしてたんだ、凄かった」
「…パンダが曲芸…?」
「ホントですよ」
ユーノの携帯には確かにタイヤに曲乗りしつつ番傘広げて下駄を回しているパンダの動画が移っていた。
上野動物園パネェな。
「静香ー、お腹空いたよー」
アルフ自重。
ザフィーラはどうした。
「はやて達はどうした?」
「シャマルさんがライブの時間ミスったとか騒いでましたよ。
挨拶もそこそこに六本木の方へ行っちゃいました」
何してるんだシャマルは。うっかりか、うっかりなのか。
「さて、どうするか」
夕飯には早い上にさっき色々喰ってしまったからな、俺と横島は。
「あ、国立博物館行ってみたいんですけど」
「今何やってる?」
「ドナウ文明起源説の可能性を探るとか言うタイトルですね」
上野駅構内のそこここに置いてあるパンフを見ながら、子供らしい表情でユーノが語る。
考古学者だからな、こいつは。
なになに、ヨーロッパ文明の源流として云々。
この世界だと四大文明じゃないのか? 古代文明のメインは。
ドナウ川って何処だ?
「アメ横でお買い物はー?」
ま、なのは達の反応が普通の子供かね。
「なら二手に分かれるか?
ユーノと私、なのは達と横島とで」
「「「えー!? やだ!」」」
なのは、フェイト、横島の声が重なる。アホか。
「お前らなぁ…」
「静香ちゃんと一緒が良い!」
「ユーノ君とお姉ちゃん、一緒が良いの!」
「今度は静香と一緒が良いな」
「お腹空いたよー静香ーご飯はー?」
うるせえアルフ。骨っ子ぶつけんぞ。
「じゃあユーノと一緒に博物館だな」
「楽しくなさそーなんだけどなぁ」
「ユーノと一緒なら楽しいよ、きっと」
うちのなのはは我が儘だから困る――いや困らないけど。
ガキってのはもっともっと我が儘だよな、理不尽に。
訳分からん事よく言うし。
そう考えたらうちの子供らは利口だし物わかり良い方だよ、うむ。
「では博物館へ行くぞ。
時間的に急いだ方が良いな」
「はーい×3」
「ごーはーん」
「…横島、売店でビーフジャーキーでも買って来い」
「うーす」
こう、アレだな。
幼女モードのアルフは可愛いな、うん。
しかし脳まで子供に戻ってるんじゃないか? これは。
****
「凄かったですね!」
「ユーノ君嬉しそう」
「行って良かったね」
両手に花状態のユーノのテンションが高い。
日が暮れてきて少しは涼しくなってきた上野駅構内である。
不忍池口から入ると色々キヨスクというか土産物屋が多くてな、昔は帰りによってゴマ玉子とか買ったもんだ。
不思議だよなぁ? ポケモンだの魔法騎士だの英霊だのいて、それでいて俺の前世と同じ食い物が普通に売ってる。
ホントよく分からん世界だよ、全く。
「明日は、というかこれから横浜行くからな。
東京土産はここで買っていくぞ」
五番町飯店と関帝廟・中華街がメインだぜ。
葛葉キョウジは横浜じゃないんだっけ、関帝廟あるくせに。
そういやデビサマの続き出たのかなぁ。
この世界、怖い事に「株式会社アトラス」がないんだよな…
「はーい」
なのはの返事。
片方の手でユーノを引っ張るように歩きながら、店先を覗いている。
「川っていうのは大体の古代文明、それも管理局法で定義されている近代から現代文明と比較すると影響は大きくてね。
昔、この東京と言う都市が江戸と呼ばれてた時代は交通の要、つまり水路として川を江戸中に張り巡らせたって話だけど、古代文明の場合は貿易路としての機能もそうだけど何より農業と密接に云々――」
…ユーノのスイッチが完全に入ってしまった。
これだからオタクはウザいと言われてしまうんだぞ、全く。
なのはに手を引かれながら反対の手を繋いでるフェイトにぺらぺらと話しかけている。
「うんうん」
ユーノに引っ張られるように歩きながら、よく分かってなさげなフェイトが頷きながら聞いていた。
良い子だね、全く。
「横島ーアレ喰おうアレ。スライム肉マンだって」
横島に負ぶさって、てか肩車させて頭を叩き、色々と横島に買わせているアルフ。
親子か、全く。
バンダナを手綱のように握ってるのが可愛いな、おい。
「やかましい! 頭叩くな!」
「やれやれ」
割とカオスだな、人が多いが目立つからはぐれる程じゃないが。
ん?
「リュウさん! 次は何食べましょうか?」
「まだ食べるのか?」
「えー? そんな食べてないですよ?」
目の前をいちゃつきながら、道着に裸足の男と鉢巻き巻いたセーラー服が歩いて行った。
…裸足かよ。飯食う前に靴買えよ。
金持ちだとしても貧乏人だとしても人格に多大な欠陥があると言わざるを得ないと思うんだが、俺より強い奴に会いに行くって何さ。
「お姉ちゃん、これ買ってー」
パンダの玄ちゃんとやらの人形か。
「静香、これ…」
おずおずとフェイトも同じモノを手に取ってきた。
お前ら結構な額の小遣いもらってんだろうに…全く。
「ほれ、買ってこい」
とユーノに諭吉さんを渡す。
「ユーノ君もお土産買うの!」
「え、いいよ僕は…」
「良くないの!」
うちのなのはは凶暴です。
ユーノごとフェイトを引きずるように売店のレジまで一目散に駆けて行った。
まあ子供が我が儘言わない方がおかしいんだしな、適宜手綱を締めればよかろ。
「静香ーメタルスライムあんまん買っておくれー」
「いてーっつのっ! 降りないならせめて大人の方になれ!」
「大人の方はザフィーラだけのモノさー」
「お前は食い過ぎだ馬鹿者」
メタスラあんまんってなんなんだ一体。
この分じゃバブルスライムスープとか有りそうだ…絶対喰いたくないが。
「なのは達が戻ったら荷物取りに行って新幹線乗るぞ」
「うーす」
「今度は狼にならなくて良いのかい?」
「構わん」
何度も動物のままで新幹線では面白くないだろうしな、なのは達も。
む。
横島の頭の上で喰うものだから、肉マンやら鳩サブレやらの食べかすが面白い事になってるな。
横島は気付いてないようだが。
「ちょっと動くなよ」
横島の髪を払う。
髪質は意外と柔い。俺の髪は硬い方だからなあ。
「アルフも食べ滓を気にしてやれ」
「はいよー」
ダメだな、期待出来ん。
なんか横島は感動してるっぽいし。
「お姉ちゃんありがとー!」
「ありがとう、静香」
「ありがとうございます」
俺の腰に抱きついてくる二人と一歩引いて頭を下げるユーノ。
まあユーノ的には微妙だろうが。
「では行くぞ」
五番町飯店にな。
****
「新幹線はやーい」
「大きいと見え方が大分違うんだ」
なのはとフェイトは窓際に張り付いて外の景色にご満悦である。
ユーノは横島にもたれるようにして目を閉じてる、眠ってはいないようだが。
アルフは横島の膝の上に座って眠っていた。
完璧保父さんだなこれは。
「動けねー」
「じっとしてろ」
微笑ましすぎる。
カシャ
む?
「ユーノ君とアルフさんの寝顔可愛いー」
「…眠ってはないけどね」
目を閉じたままユーノが答える。
無限書庫で鍛えられた精神を持ってしても、体力の方はまだまだ年相応でしかないからなぁ、鍛えてる分平均よりは上だろうが。
要するにお疲れモードなのだ。
なのは達はアレだ、おそらく飯喰ってホテル入ったら電池が切れるんだろうな。
「あれ?」
「あ…」
「あ、ルリちゃん!」
「あ、ども、なのはちゃん」
「どーしたルリちゃ――あ、高町先輩?」
「あー静香ちゃんだ!」
天河明人、御統百合香、星野瑠璃が三人がオプション連れて新幹線の通路をやってきた。
「ほほう、いつの間に子をこさえていたのか…なかなかやるな天河明人」
「いや違うから。
ルリちゃんの妹だけど俺の子じゃないから」
「ラピスちゃんは可愛いけど私たちの子じゃありません!
あ、アキトが欲しいならいつでもオッケーだよ!」
「静かにしろバカ!」
ルリの手の先に、ルリより更に小さい――大体6歳位か?――の女の子を連れていた。
そういやいたな、全然ナデシコらしくない映画で。
「とりあえず通路にいられたら邪魔だ。席へ着け」
騒がしい連中だよ、全く。
「人の事は言えんがこのかき入れ時にな」
「サイゾウさんも墓参りに行くとか言ってましたけど」
何というか、ご都合な事にアキト達四人の席は通路を挟んで俺達の反対側の席だった。
で、せっかくなのでなのはとフェイト、ユーノとルリがワンセット、俺とアルフON横島、ユリカとラピスONアキトがワンセットで席を交換しあって談笑中。
「それにしても静香ちゃんと横島君がデートする程ラブラブだったなんて!
これは私たちも負けてられないよアキト!」
「別にデートではないしラブラブでもないが」
「…クールすっね、高町先輩」
「まあ恋の一方通行って奴だねえ」
ハグハグと車内販売で買ったガインパン(新幹線の形してるパン)を喰ってるアルフ。
その隣でラピスが欲しそうな目でアルフを見てる。
「食べるかい?」
食べかけをちぎって差し出すアルフ。
「あ、ありがと…」
うーむ、ちっちゃいからかやたらと人見知りするな。
大きさ的には今のアルフと変わらんだけに凄く臆病にも見える。
「で、お前らはこれから帰るのか?」
「横浜で降りて五番町飯店ってトコでご飯食べる予定だよ!」
「お前らもか」
…なんだこれ。
****
いつまで東京にいるのかって感じですなー。作中時間はそこまで経ってないんですけど。
まあぼちぼち行きます。