「バーサーカーさんって凄いの!」
「当然よ」
ふふんと言わんばかりに賛辞を受け取るイリヤ。
夕食というか第二次宴会というか、まあそんな中、子供達がプールでバーサーカーと遊んだ事とかを親に話してる最中である。
バーサーカーに「投げて」もらっての飛び込みとか、バーサーカーによる無理矢理流れるプールとか。ちょっと楽しそうとか思ってしまった。10畳ほどの小さい宴会場の端、壁に寄りかかるようにどっかと胡座を掻いて座っているバーサーカー。食べなくても良いらしい、お酒だけはちょこちょこ飲んでるみたいだ。ただ、ピッチャーがおちょこに見えるのが何とも言えん。
そんなバーサーカーによじ登り滑り落ちてはまたよじ登るライキ。まさにバーサーカー登り。なんという可愛さ。
バーサーカーの無骨で厳つい顔が逆にライキの愛らしさを無限倍だぜ。
「凄いわねぇ」
話半分なのか頬を染めてにこにこと笑っているプレシアと高町母。プレシアは当然の如く隣のオーフェンに腕を絡ませて酌させたり酌したりしている。
オーフェンの異性観は兎も角、こういちゃついてるシーンはついぞ思い出せないから違和感があるな。人前でいちゃつくのなんか嫌がりそうなタイプだと思ったんだが。まあ今もあんまり良い顔はしてないが、仕方ないなって感じで。
父士郎とデビットのおっさんはサッカー談義で盛り上がってるな、あと意外にも衛宮も加わっている。
なんというか……普通の青年だな、衛宮。話に聞く限り魔術は使えるっぽいんだが。
あとアルフとセイバーはバーサーカーの小食っぷりを見習うといいよ。
大食い競争とかすんなアホ。
「横島、もう少し落ち着いて喰え」
大食いといえばこいつもだが。
あーもーぼろぼろ零しやがって。手近な布巾を取って口元に押しつけてやる。
「うっう。 ありがとー」
全く。
…………マテ、ナニ自然に「男」の口元ぬぐうとかしてるんだ俺!?
箸を置いて顔を覆う俺。
あんまり自然過ぎて自分でも気付かなかったわ! どんどん雌化というか女性そのものになりつつあるのか!?
そしてオマエら視線がうっおとしいぞ!(誤字に非ず)
「…なんだその眼は」
「べーっつにぃ♪」
殺すぞ愚妹。
忍も恭也もなんだその眼は。
というか、なんでアルフとセイバー以外全員こっち見てやがる! こっち見んな!
バーサーカーすらこっち見てるってどんだけ!?
「? なんだい?」
「何かありましたか?」
「…何でもないよ、セイバー」
アルフとセイバーが素っ頓狂な声を上げたところで空気が元に戻った。
助かったぜ……
当の本人は分かってるんだが分かってないんだか、前にも増して勢いよく食べてやがる。
二匹目の泥鰌はいないぞ。
そして再び皆の世話を焼き始める鮫島のじーさん、ノエル・ファリン・エレインのメイド三姉妹にリニス。
オマエらも休めよこんな時位。まあ何もしてない方が落ち着かないんだろうけど。
「ねーねぇ! 横島と静香さんって今どうなってるの?」
嬉しそうになのはに尋ねるアリサに、興味津々のガキども+母親ども。
「アリサ、そういう話は本人のいない所してもらおうか」
練をしそうになる位にはキツく睨み付ける。そしてバーサーカーの頭の上で唸り始めるライキ。
主人想いなのは嬉しいがそこで発電するとバーサーカーが危ない気がするんだが。まあ一度喰らったら二度目は利かないとかチートボディだけども。
そういや12個の命って補充出来ないのか? 宝具なんだから時間かけるなりなんかすれば補充出来そうな気もするんだが。
まあそれは兎も角。
「は、はい…」
「ライキ」
怯えるアリサを尻目に顎をしゃくると、ぴょんっとバーサーカーの頭から飛んで俺の腕の中へ収まるライキ。
そして一頻り撫でてボールに戻す。
「全く…別に横島とは何でもないぞ、私は」
横島、(|| ゚Д゚)ガーン!!とか口に出さなくて良いから。
というか、お前は俺に好かれるような事なんもしてないだろ、多分、覚えてる限り。
まあ翠屋の売り上げが上がった事とかなのは達の遊び相手してくれたりとかは評価しても良いが。
「えー」
「そんな事ないよねぇ」
高町母、いい歳して(33歳)そんな事言っても可愛く…可愛いけど可愛くないぞ。そして愚妹は黙れ死ね。
「学校でも肩揉ませたりしてるじゃない?」
「肩こりは持病だから仕方ない」
重いんだぞ、マジで。忍、お前だってかなり大きい方だというのにこの気持ちが分からんのか。
「お弁当も手作りだし?」
「逆に横島にだけ作らなかったらイジメだろうが」
次から美由希のだけ作ってやらねーからマジで。
俺はほぼ毎日両親以外の全員の弁当作ってるわ。
ユーノとかなのは、フェイトも手伝ってくれるけどどっかの愚妹は手伝おうともせんなぁ?
「登下校も一緒なの!」
同じ家に住んでて同じ学校に通ってて登下校が同じなのは当たり前だからな、なのは。
「仕事中も横島さんのフォローは静香さんばかりですよね」
「それは仕事だから当たり前だろう」
何故か横島と同じ時間に外立たされたり中で料理配ったりする事が多いからな、厨房要員の俺が。
「というかお前ら、よくそんな他人事で盛り上がれるな」
「全くだ」
呆れたようにオーフェンの声。くいっとビール…じゃないな、アレ。烏龍茶か? 酒飲めなかったっけ?
「色恋は人生の一大事なのよぉ?」
違和感ありありの、相変わらず間延びしたプレシアの声。
「なら娘の心配してやれってんだ。今から三角関係とかどうなってんだよ」
うーん、オーフェンが凄く常識的だぞ。
「大丈夫よぉ、スクライアは一夫多妻制だしぃ」
流石に博識ですね。
「いっぷたさいせいってなに?」
すずかとアリサが顔を見合わせてる。なのは達も字面が思い浮かばないのかさっぱりな顔。
まあイリヤとユーノは分かってるみたいだが。
「一夫多妻制というのは一人の男性が、たくさんの女性と結婚出来る制度ですね。
日本やミッドチルダの基本的な結婚観では一夫一妻制が基本ですが、ミッドチルダはその土地その部族の風習には関与しませんから。
スクライア一族は伝統的に一夫多妻制なので確かにユーノと結婚するというのならはなのはちゃんとフェイト、二人でダブルウェディングというのも問題なしですね」
ま、話を聞く限り、スクライア一族でも一夫多妻な家族は珍しいらしいけどな。
理由? 一人の女相手するのだって面倒なのに好きこのんでなんで集団を相手にしなきゃとかそんなのらしい。
発掘と研究が趣味で仕事な一族だからなぁ、基本が。
「じゃあフェイトちゃんとユーノ君を取り合う必要はないの!」
「良かった…」
諦めたというか受け入れたというか、嬉しいんだけど納得いかないというか。
そんな顔で片手ずつなのはとフェイトに握られているユーノ。
「あらあら」
高町母、嬉しそうな顔してますが父士郎が後ろで唸ってますよ、娘の結婚とかデリケートな話題のせいで。
「最近の小学生は進んでるんだなぁ」
「世の中には色々な風習があるものですね」
衛宮の何とも言えない表情に、セイバーがこくこくはむはむしながら同意する。器用だなおい。
「くーっなのはに先超されるなんてっ!」
「アリサちゃん、まだ小学生なんだからそんな事考えなくても大丈夫だよ」
大人だなぁ、すずかは。
「しょうがないわね、私もセイバーと一緒で良いわ」
「いや訳分かんないから、イリヤ」
すかさず衛宮にすり寄るイリヤ。
「イリヤスフィール、シロウと妻は私だけで十分です」
「ふふん、料理一つ出来ない貴方が妻とか笑っちゃうわね」
「そんな事は障害にはならないのです! そうですよね?! シロウ!」
「どうでもいいけどシロウシロウ連発されると妙な気分だね、どうも」
「同じ漢字で士郎同士ですものねぇ」
話題が俺から他所に移った隙に、こっそり席を立つ俺であった。
やれやれだぜ。
****
「何故お前がついてくる」
「お腹いっぱいになったし」
訳分からんし。
ポンっとライキを出して自販機で落としたカレージュースを開けて渡すと美味しそうにごきゅごきゅ飲み始める。
…誰得なんだろうか、このカレージュースは。しかも結構辛いし。
まあそれはさておき、横島と一緒にロビーで休憩中。あれ以上いて玩具にされるのも業腹だからな。
だというのにこいつが一緒について来たらまた噂話に華が咲くだけじゃねーか。
全く気が重いぜ。
「静香ちゃん、卓球やろう卓球!」
「だが断る」
目的が見え透き過ぎて怒る気にもならん。
だいたいスポーツブラ無しで運動すると凄いんだぞ、色々と。激しく揺れすぎて胸の毛細血管ぶちぎれまくって胸が真っ青になるわそもそも揺れが激しすぎるからモゲるか思う程痛いわ、揺れが激しいせいで運動の邪魔にしかならないわ。
ロクなもんじゃないな、うん。
「この格好でンな事出来るか」
「浴衣だからいいのに」
「スポーツブラもないのに運動とか出来ない」
「ちぇー」
拗ねる横島に空き缶をちゃんと捨てに行って戻ってきたライキが飛びつく。
痺れるんじゃ! とか騒ぐ割にちゃんと受け止める辺り人が良いよな、大概。
浴衣だから俺には抱きつくなとちゃんと指示してあるのだ。まあ横島に抱きつくなとは言わなかったが。
「で、いつ教えてくれるっすか?」
「むちゃくちゃ嬉しそうだなお前…」
個人的には凄く教えたくないんだが。
うーん……だってなぁ、別に敵とかそういうのもないし、そもそも横島が強くなきゃいけない状況でもないし。
そもそもこいつなんで強くなりたいんだ? 原作じゃ努力とか面倒なタイプだったと思うんだが。
そりゃ例の蛍とか美神とかが強烈に絡んだ時は自分から努力もしてたが。
ソレより何より念とか教えたら最強YOKOSIMAとかに化けそうで嫌。
大体俺自身欲しくて手に入れた能力でもないしな……
しかし、だ。ここでやっぱやーめたとかそれはそれで酷い気がする。
うーむ……
「正直言って、教える事は可能だが、誰にも教えたくない。特に身内にはな」
どれほど都合悪い真実でも嘘よりはマシだろ。
「…なんで?」
「なのはの魔法だってそうだ。あんなもんに手を出して欲しくはない。
状況と当人の意思がアレだったから今更文句も言えないが、魔法だのなんだの…
余計なものは要らない、と思う。俺のアレだって欲しくて手に入れた能力じゃない。
横島には、そのままでいて欲しい、と思う」
明確な敵や危険があるならまだしも、な。
いや危険と言えば危険なフラグだらけだけどさ、この街は。
ライキが俺の背に負ぶさり、慰めるように頭を撫でてくる。
ちなみに二本の三つ編みにしたのをシニョンでお団子二つに纏めてるぜ。
うん、気持ちは嬉しいけどぱちぱち静電気で髪の毛が凄いから。辞めろと言える雰囲気でもないし、嬉しいは嬉しいんだが。
「大体、そこまでして強くなって何になるというのだ?
自分の身を守れる程度でいいし、それなら恭也に教えてもらえば、お前なら一年も要らんだろうよ」
なんだかんだ言って才能はあるからな、色んな意味で。
うーん、納得いかなそうだな。
「約束破るような真似をしてる事は謝る」
ぺこり、と身体を折るように頭を下げると、ずるっとライキが落ちて床にころんと転がった。
「たが、少なくとも今はまだ教えたくはない」
「うー……」
納得しがたいが頭まで下げてる相手に我が儘言うのも、という所か?
「とりあえず頭上げてくださいよ!」
「…それはいいが。なんで敬語なんだ? 同い年だろうに」
「あんま同い年って感じしないっすよ? 年上っぽいっつーか。そこが良いんだけど」
意外と勘が鋭いな、こいつ。
頭を上げると横島の背中によじ登るライキの姿。バーサーカーで味を占めたか?
しかし普通の人間は頭に乗られると重いと思うが、30㎏だし。大体小学生3~4年の体重か。
つまりなのは達と同じくらい重いと。…急にライキがデブく思えてしまうな、なのは達と比較すると。
そんな所も可愛いんだが。
「詫びと言ってはなんだが、言う事一つ聞いてやる」
「なんと!? じゃあ――」
「一発ヤらせろとか言うなら言ってみろ?
ヤらせてはやるぞ?」
「――ちょっと考えます!」
横島の考えは分かりやすいから困る。いやあんまり困らないけど。
大体こういう時にヤろうって奴を誰が好きになるというのか分からんかね?
「じゃあこれから名前で読んで欲しいっす!」
「その位なら――なに?」
忠夫と呼べと?
……
…………
……………………
ないわ! いやしかし言う事聞くって言ってしまったし…
いやいやいや! お前、高町母とか愚妹とかに聞かれたら赤面するどころじゃないだろうそれは?!
…まて、落ち着け。男の友人を下の名前で呼ぶ位何でもないはずだろう?
前世じゃ当たり前だったハズ、だ。
……なんだこの座りの悪さは!?
……うー、是非も無しか。
「…分かった」
「じゃあ早速カモン!」
ライキと共に踊り出しそうな勢いの横島。殴りてぇ…!
というか本気で小躍りし始めやがった! ライキが可愛いぞ畜生!
「ライキ! 忠夫に電気ショック!」
「ライ!」
「ちょっ!? ぎゃー?!」
くっ! 顔から火が出そうな位こっぱずかしいぞ!?
たかが下の名前を呼んだだけだというのに!
まあ例によって殆ど顔には出てないだろうが。鉄面皮ってのもこういう時だけは便利だな。