読みやすくしてるつもりですけど、読みづらかったらごめんなさい。
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「ユーノ君! 今日も頑張ろーね!」
「なのはは魔法の特訓、好きだよね」
苦笑気味のユーノと手を繋ぐなのは。
朝4時、恭也と美由希、そして横島の三人と玄関先で朝の修行の準備をしていた。
魔法の訓練を始めるに当たって、恭也と美由希の修行に同行する形をとるよう指示したのはユーノである。
前回は「魔法バレ厳禁」だった為、色々気を遣わざるを得なかった。
しかし今回はどっかの無機物や静香の申し出もあって、最初からバレてしまってるので逆に開き直れるのだ。
つまり魔法使いに必要な体力作りを恭也達に協力してもらう。
単純に身体を鍛えるとなれば、恭也は美由希の師匠だけあってその手の指導力は疑う余地はない。
シスコン気味の彼はなのはの身体の負担にならない、それでいて確実に身になるカリキュラムを組んでくれた。
なのはを『二度』と墜とさない為にも、体力作りは必須事項であると言える。
身体の鍛えが違えば疲労の蓄積も抜けも違うだろうし、自分以外の身内の目があれば無理や無茶はしないだろうというユーノの計算だった。
尤も、今のなのはに無理をして、ユーノや家族に心配をかけるというつもりは全くないが。
これは魔法と自分と家族を取り巻く状況が『前回』と余りにも違う為だ。
『前回』はユーノのサポートがあるとは言え、何もかもをなのはが背負わなければならなかった。
更にユーノが負傷していたため(魔力適合とかAs以降では触れもしなかった謎設定の為)実戦のサポートとしてはかなり役に立ちづらかった。
正直、最初から人間Verで実力全開出来てたら、フェイト達出てくるまでなのは要らない子だったのは誰も否定出来ないはずである。
考えても見れば良い、如何に精神年齢が高かろうと当時、なのははただの小学三年生なのだ。
それを街の破壊などを見てその強い精神力で決意を固めてしまった事がなのは第一の不幸と言える。
つまり、『自分』が何とかしないといけなかったのだ、ユーノのサポートのみで。
しかし今回は違う。まず家族全てがなのはとユーノの事情を知り、その上で協力してくれている。
更にもユーノが負傷していないどころか『前回』より技術的に遙かにパワーアップして戦闘をサポートしてくれる上、魔法の教導も『元々十二分に分かりやすかった前回』より遙かに分かりやすく緻密である。(前回のなのはの実力を見れば、ユーノの教え方が上手かった事が分かる、勿論教えもしない新しい魔法を組むなど、なのはの才能が頭一つ抜けていたのも事実だが)
なのはの魔法の癖や魔力の質、個人の性格や肉体的特徴など、様々なパーソルデータを頭にたたき込んであるユーノならでは、である。
最後にフェイトの存在である。『前回』は始めて逢えた同種、しかし敵であった。
その寂しがり屋な本性が引き合った結果、敵対せざるを得ない状況。
いくら非殺傷設定があるとは言え、ジュエルシードなんて危ないモノを賭けて同年代の少女との喧嘩は基本的には優しいなのはにとってどれだけ負担だったか。
今回、初めて逢った魔法使いの少女とは確かに最初は喧嘩だった。
しかしなのはにとって最初に喧嘩は友情フラグである。アリサもそうであった。
そして予想通り、そして期待通り『すぐ』にフェイト仲良くなれた。
誰かがいれば苦労は減らないとしても気苦労は確実に減るのが人間というものだ。
そして最大の要素、「なのはは魔法にそこまで執着していない」事がでかい。
最初に静香という姉がいつでも側にいてくれた事、そして今は自分の何もかもを理解して支えてくれるユーノという存在。
まあ逆行して二回目のユーノなのだから、ある意味当然ではあるが。
つまり寂しさを魔法で埋める必要がないのだ。
その命の恩人であるユーノから与えられた力である以上、大事にして『ユーノの役に立ちたい』という願いはあってもあくまでユーノ>魔法である。
そう、今のなのはにとって、魔法は『自分にしか出来ない、自分だけの力』ではなく、『ユーノ君の役立つ為に必要な力』であり、『ユーノ君が教えてくれるから頑張る』のだ。
ここまでユーノにベタ惚れなのは、知れば知るほど、付き合えば付き合う程何もかも理解して支えてくれるという少女特有の思い込み(だけではないが)と、実際になのはを陰に日向に支えているユーノの気遣い、最初に命を助けられたという刷り込み(助けた、ではないのがポイント)、魔法という力を教えてくれた事、大人と対等に渡り合う毅然としたユーノの態度、更になのはの学校の勉強まで教えてくれる頭の良さと見目の良さなど、様々な原因が重なり合った結果である。
恋は盲目、しかしユーノのなのはに対する想いは本物なのだから、これはこれで良いのだ。
そう、なのはにとって今問題なのは友達だった筈がいきなりライバルに格上げされたフェイトの存在である。
勿論、恋のライバルである。
自分より先にユーノにキスした上に旦那様などという裏切り者である。(直後になのはもユーノとべろちゅーしました、所謂ディープキス)
その上、何故だか知らないうちに社会勉強と表してフェイトとアルフの同居が決まってしまった。
恐らくプレシアはオーフェンと二人きりを体験したかったんだと想われる。リニスは手放すと自分たちの生活がヤバくなるので手放せないのだ。
ただ、フェイトは今までの人生で他者との触れあいが少なすぎるのは事実なので、一概に自分の色恋を優先した訳ではない、プレシアも。
(ふ、フェイトちゃんには朝の練習は教えないの。二人きりになってユーノ君と仲良くなるのはなのはだけで十分なの)
まあ実際、今更フェイトに基本的な特訓は必要は必要ないよね、とユーノも考えた為教えてないのだが。
その証拠に夜の訓練時にユーノはフェイトとなのはの模擬戦を行わせたり、フェイトの魔法を真似させたりしている。
こんな事考えてるなのはだが、フェイトの事はもうアリサ・すずか並に親友だと想っている。
ただし、美由希曰く「恋は戦争、親友でも後ろから刺して足蹴にすべし」という教えを実戦しているだけである。
事実、美由希は学校の友人を一人も一回も自宅に連れ込んだ事はなかった。
こんな事を言ってる辺り、まだ恭也を諦めていない美由希の諦めの悪さを伺えると言えよう。
その科白を側で聞いていて、美由希さんってこんな性格だったかなーなどとユーノが考えたりしたが無害である。
ちなみにユーノのスクライア族は放浪の民であり、婚姻も通い婚に近い。つまり既成事実がそのまま結婚である。
そう、一夫多妻も容認されている部族なのだ。まあ少数民族にはありがちでもあるが、学者肌の人間が多いのでそこまで一夫多妻が流行ってる訳でもない。
ユーノとしては別になのは以外と付き合うつもりはないが、まあ話の流れ次第かなと達観していたりする。
小学生の肉体に引きずられて、性欲が湧かないというのもあるのだろう。
むしろユーノにとって問題なのは二人が言い争ったりする事なのだが、模擬戦を行うようになってからはそれも減ったようだ。万事順調という奴である。
「準備出来たか?」
「問題ないです」
ちなみに西町神社まで走るのだが、律儀にユーノも走っていたりする。
「うー…美由希ちゃん眠いー、その胸で安らかに眠らせてくれ!」
ばしっ!
「み、鳩尾はキツかとですたい」
これから走って神社の長い石段を登らねばならないというのに鳩尾を殴る男、恭也。
「もう忠夫お兄ちゃん、エッチなのは駄目なの!」
「うう、なのちゃんにまで怒られた」
ちなみに昨日も寝ている静香の部屋に忍び込んで番犬代わりのアルフに噛まれて、ライキの十万Vを喰らい、たまたまトイレに起きてて駆けつけたなのはにOHANASIされたマヌケがこいつである。
「行くぞ」
一斉に走り出す高町家+α。
流石に速い恭也と美由希、遅れてユーノとなのは、横島である。特になのはは運動神経が繋がりづらい性質なのか、魔力を展開していないとのび太並に運動出来ない子なので走るのも一苦労である。
ちなみに上の兄姉は全力疾走しながら先に消えて行った。
なのはの為にユーノが「疲労回復効果付与」のフローターを開発した為、全力でぶっ倒れる事が出来る、とは恭也の言。
眠いせいもあろうが小学生とほぼ同じスピードでしか走ってない横島こそ誰かケツを叩くべきではあるのだが、この場に静香はいないので無理であった。
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――ほら、今レイジングハートに入れたプログラム、起動してみて。
――うん。
周囲には恭也達が砕いた親指大の小石達。
距離を取ったユーノに向けて、集中するなのは。
ちなみに魔法特訓中は全て念話で会話するのが二人で決めた約束である。これもまた練習。
なのはの魔力が展開すると、小石を環状魔法陣が取り巻き渦巻き始め、宙にいくつか浮かび始める。
「貫いて! スターダストフォール!」
かかかか!!
小気味良い音を立てて、宙に浮いた小石達が高速でユーノに襲いかかる!
「ラウンド・シールド!」
ユーノの突き出した手から翡翠の魔法陣!
それは全ての小石を受け止め揺るぎもしなかった。
――凄いね、なのは。
始めて教えた魔法をここまで使えるなんて。
――えー、簡単に防がれたのに?
――今のは練習だから小石だったろう?
この魔法は、岩とか鉄塊とか、でかくて硬くて、そこら辺に落ちてる物体を使う事に意味があるんだ。
勿論、重ければ重い程威力は上がるし、硬ければ硬い程貫通力が上がる。
けどいきなり練習でそんな重いのは使わせないよ。
――じゃあ、今度はもう少し大きいので試してみる!
――うん、いいよ。今度は一個、大きいの飛ばしてみて。
気になる人がいるかも知れないので補足しておくと漫画Stsでなのはがこの魔法を使用した時はカートリッジ二個使用したが、今回は「使えるようになる」練習である。ぶっちゃけ威力は必要ないのだ。
ただユーノとしては色々食い違いやバタフライが起きすぎてる為、念のためAMF対策として教えているに過ぎない。
あとこの魔法は「物体操作」の練習にもぴったりだという点も見逃せない。
目指せ生活に優しい魔法使い。
「魔法って凄いなぁ」
石が宙を舞ったり打ち落とされたりするのを横目で見ながら、横島がぼやく。
「否定はしない。だが所詮は人の使う技だ。
俺たち御神に倒せない相手じゃない」
空飛ばれても倒す自身があると言い切る御神の剣士、恭也。
「それよりも素振り200回までまだ半分だぞ。
うちの妹が欲しければ根性出してみせろ」
美由希に教えられて朴念仁の恭也も横島の恋慕には気付かされている為、この科白である。
「ういっす」
ぶんっぶんっ
特訓用にわざと重く硬く作られた特製の木刀を振り上げては振り下ろすを繰り返す。
その側で、木刀同士で打ち合いを始める恭也と美由希。
割と当たり前に見られる、高町家の朝の風景である。
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「むー…むー…」
私立聖祥大学付属小学校、3-2の教室。
休み時間となれば小学校である、金持ち御用達とは言えそれなりに騒がしい。
そんな中、頭を抱えている我らがなのはちゃん。
「なのはちゃん、どうしたの?」
「額に皺が寄ってるわよ」
すずかとアリサが心配そうな顔で、おもしろがっている。
勿論、横島から事実を聞いている為だ。
「何でもないの…」
全然なんでもなくないのだが、流石に口には出せない。
『学校行ってる間、なのはのユーノ君と、フェイトちゃんが二人きり』
今のなのはの悩みはこれである。この世界の人間ですらない為、義務教育とか以前に戸籍すらないので当然と言えば当然である。
この状況で自分が学校にいる間にジュエルシードが発動してフェイトがゲット、ユーノ君が惚れちゃうとかどうしよう、などと実に平和な悩みである。本人は至って真面目だが。
ちなみにフェイトとアルフはプレシアの所へ行っていて、ユーノは翠屋を手伝ってる為なのはの心配は無意味である、あくまで今日は、だが。
「ふーん、何でもないの…」
人の悪そうな笑みを浮かべるアリサ。
今週末のお茶会で逃げられないようにしてからきっちりと問いただすつもりなのだ。学校では時間制限がありすぎる。
仕方ないなぁ、と言わんばかりの微笑を浮かべるすずかも何も言わない。
「そうそう、今日、服買いに行きたいのよね、付き合いなさい」
有無を言わせぬ命令形。流石お嬢様というべきか。
「うん、いいよ」
「え…今日はちょっと――」
ユーノ君(+フェイトちゃん)と魔法の訓練があるの、とは言えず。
一瞬言葉が詰まったのをアリサは見逃さない。
「最近、なのは付き合い悪いからね、今日は付き合いなさいよ?」
そう言われると確かに最近はユーノと魔法の訓練しつつデートしたりしてるので何とも言えない。
ちなみにその内容はステルス機能追加のサーチャーを複数飛ばしてジュエルシード探しつつウィンドショッピングとかである。明らかにアニメのそれより、技術的に向上しているなのはであった。
「うん、分かった。何処にお洋服買いに行くの?」
友達が大事ならばこういう事はちゃんと付き合うべきである。
ユーノ君には新しい洋服で新たな魅力を見せつけるのとか考えてるが、ユーノ以外には無害である。
「あ、そうだ。フェイトちゃんも一緒にいい? こっち来たばかりでお洋服もあんまりないみたいなの」
フェイトの交友関係広げつつ、ユーノとのフラグをへし折る策略である。
「フェイトちゃんとお友達になるチャンスだね」
「いいわ、是非連れてきなさい!」
「じゃあフェイトちゃんにメールしておかなきゃ」
携帯を取りだし、メールを打つ振りをして念話を飛ばすなのは。
――フェイトちゃん、今大丈夫?
――大丈夫だよなのは。なにかあった?
――あのね。今日、学校終わったらお洋服買いに行こうって話になって。
フェイトちゃんも一緒に行こう?
――服? バリアジャケットがあれば別に着替えなんて…
だめなのこいつ…速くなんとかしないと…
なのはがそう思ったかどうかはさておいて、流石に9歳の少女の考え方としては適当でないのは確かだ。
――じゃあ新しいお洋服で着飾った姿を、ユーノ君に褒めてもらうのはなのはだけで良いんだね。
ありがとうフェイトちゃん♪
――行く。何処に行けば良いの?
手っ取り早く釣る事にして、成功させる。
「フェイトちゃんと何処で待ち合わせするの?」
「そうね…学校終わる30分位前に翠屋の前にいてくれれば、鮫島に車回させるわ。
一応、鮫島にはなのはのおばさんに声かけるように伝えておくから」
「オッケーなの」
――15時頃になったら翠屋の前にいて。そしたら鮫島さんって執事のおじさんが車で迎えに来るから。
わたしのお母さんが知ってる人だから、声かけられたらお母さんに声かけてね。
――分かった。じゃあまた後でね。
「翠屋の前で待ってるって」
「オッケ、鮫島に伝えておくわ」
ちなみに私立聖祥大学付属小学校、敷地内に普通に駐車場がかなりの数完備されている。
すずかやアリサのような車通学の子の為である。
(ユーノ君にもお洋服買ってあげようかな♪
身長は同じ位だから取っ替えっことか楽しいかも♪)
一気ににやにやし出したなのはを横目にアリサとすずかは呆れた風に苦笑する。
さて、お金持ちの二人は兎も角、何故なのはが学校帰りに服を買えるほどお金を持ってるのか不思議に思った方もおられるかも知れない。
実は桃子からちゃんと給料をもらっているのである、主にPOPやメニュー用の写真作成の報酬として。
プロのカメラマン顔負けの技術で撮るなのはの写真は、商店街の他の店からも依頼が来る事もあるほどなのだ。
勿論、身内も身内なので、外注するよりよほど安く出来あがる。
つくづく魔法なんてものに出会わなきゃ良かったのにと思わせる才能である。
更に物欲の少ないなのはは余りお金を使う機会がないので、貯金額も小学生の額ではないのだ。
これは親戚がいっぱい存在する高町家のお年玉のおかげもあるのだが。
まあそういう訳で洋服の一着や二着は問題ないのがなのはさんなのである。
フェイトは何故かお金持ちなのでこれまた服を買う程度は問題ない。
金の出所は考えては行けない。
まあミッドチルダに戻ればプレシアはお金持ちの筈なのだが、あれだけの技術と大魔導師と呼ばれる魔力があれば。
「さ、どんな服買うか考えておかなきゃ♪」
授業開始前の予鈴が鳴り響く中、不真面目な事をほざきつつアリサとすずかは自分の席に戻っていった。
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「フェイトちゃん黒ばっかりは駄目だよ、オーフェンさんみたくなっちゃう」
何もしないのに子供に泣かれる男、オーフェンもなのはにかかれば形無しである。
ユニクロなどとは一線を画したブティックに小学生が四人も子供服を見てあーでもないこーでもないと言い合うのは物珍しいのか、店員もいぶかしげな視線で放置している、勿論、側に鮫島が立っているという事もあろうが。
「オーフェンって誰よ?」
服を身体の前に持ってきながら、アリサ。服の方に興味が移ってる為か、どうでもよさげではある。
「えーと、静香お姉ちゃん曰く、フェイトちゃんの保護者代理代行補佐で、モグリ?の金貸しで万年貧乏の元エリートの落ちぶれやくざ、だって」
保護者云々は兎も角概ね間違っていない。魔術とか次元漂流者とかそういう話を抜くとどうしてもこういう表現になってしまうのだ、彼の場合。
「…オーフェンは優しいよ?」
「人間としての優しさが、必ずしもしゃかいてきひょーかやきひんに影響する訳じゃないって静香お姉ちゃんが言ってたの。意味がよくわかんないけど」
「ふーん? フェイト、ちょっとこの服着てみなさいよ」
「え、うん…」
「もう、アリサちゃん。それで10着目だよ? フェイトちゃんも疲れちゃうでしょ」
まあ女三人で、とはよく言うが少女でも四人も集まればそれはやかましい。
「いいじゃない! フェイトは可愛いんだから黒一色なんて退廃的な服を着てちゃ駄目よ!」
「でもそろそろ買うもの買ってマックでも行きたいかな。ちょっとお腹空いちゃった」
薄手の淡いグリーンのジャケットと、ピンクのワンピースを抱えたなのは。
「そうだね。アリサちゃんもそれでいい?」
こちらもワンピースやジーンズを数着抱えたすずか。
フェイトも殆ど押しつけられた形でいくつか服を抱えていた。
「そーね。これぐらいで今日は勘弁しておいてあげるわ」
鮫島が抱えてる服はどう見ても10着じゃ足らなさそうである。
「ありがとうございましたー」
店員の声を背中に店を後にする四人+執事。
少し郊外にある店な為、駐車場スペースは広い。それでもそこそこ車は駐まっているが、人はまばらであった。
「さて、何処で食べようかしら?」
「フェイトちゃん何処か行きたい所ある?」
洋服の入った紙袋を抱えながら、同じように紙袋を抱えているフェイトに尋ねる。
「んと、お土産が買える所なら何処でも――」
キキィ!
「え――? きゃぁ!?」
「え!? アリサちゃん!」
「お嬢様!?」
服を放り出して、アリサを押し込めた車に駆け寄る鮫島――
だん! だん!
「ぐっ!?」
鮫島の腹と太ももから血が吹き上がる!
そしてアリサを拉致った車が音を立てて走り去っていく。
「鮫島さん!?」
「バルディッシュ!」
「え――もう! レイジングハート!」
「え? ええ?!」
一人展開について行けないすずかはおろおろするばかり。
「ちっ!」
「え?」
後ろで舌打ちが聞こえた事に反射的に振り向くと、そこにはどこかで見たような男――いや青年がかなりでかいハーレーにまたがり、エンジンをかけていた。
そしてそのまま爆音をあげて走り出す――誘拐犯の逃げた方へ。
「行くよ! なのは!」
「うん! すずかちゃん、忍お姉ちゃんに連絡して鮫島さんお願い!」
バリアジャケットに身を包んだ二人はそのまま飛び上がる!
――Flier Fin
――Blitz Action
二つのデバイスが声を上げ魔法を展開したその瞬間!
――なのは! フェイト! ジュエルシードが反応した! なのは達の結構近くみたいだ!
「えぇぇぇぇ!?」
なのは絶叫フェイト絶句。間が悪いにも程がある。
――そんな! 今、アリサちゃんが誘拐されたの! 鮫島さんも撃たれて動けないし!
――Protection
きん! と音を立てて弾丸が跳ね返された。レイジングハートがオートで展開した魔法で防いだのだが、そんな事に構っていられる状況ではない。
――なんだって!?
――私がアリサを助ける! なのははジュエルシードを!
――分かった! なのは、携帯を恭也さんのにつなげたまま、フェイトに渡して!
――うん!
『フェイト、聞こえるか?』
「大丈夫」
『ならまず追いかけてくれ! 高々度から追跡すれば気付かれずに追えるはずだ』
「はい!」
「ディバイン・シューター!」
光の先で拳銃を持った黒服がぶっ倒れる!
「なのはちゃん!? フェイトちゃん!?」
鮫島の腹と足を今日買ったばかりの服で押さえながら、いきなり光放ったなのはと空に飛び上がったフェイトに戸惑いを隠せない。
「ごめん! すずかちゃん、説明は後!」
「行くよバルディッシュ! 友達を…助けるんだ!」
――Blitz Action
轟! 音を立てて黒い閃光のように消えるフェイト。
――なのは、ちょっと動かないで!
――うん!
そして数瞬後、翠の魔法陣と共に現れるユーノと静香とライキ。
「妙なる響き、光となれ! 癒しの円のその内に鋼の守りを与えたまえ!
ラウンドガーダー・エクステンド!」
地に描かれた翠の魔法陣が半円の球を作り、鮫島とすずかを覆う!
「これでそこのおじさんは大丈夫! なのは、飛ぶよ!」
「こっちは任せておけ」
抑揚のない声で静香が請け負う。
「ライ!」
「急いで片付けてきてよ!」
「お姉ちゃん、お願い! 行こうユーノ君!」
――Flier Fin
そして空を駆けるなのはとユーノ。
何故転移魔法で飛んで行かないか? 座標の目印となる人物や建物が分からないからだ。
(違いすぎるな…アニメと。今更というのも今更だが)
遠ざかる二人を見ながら、余り意味のない事を考える。
この時期こんな場面(勿論描写されなかっただけかも知れないが)でジュエルシードが発動するなど覚えていないし、そもそもアリサが誘拐されるとは二次創作なら兎も角アニメでそんなエピソードは覚えていない、少なくとも静香は。
「さて……ライキ、鮫島さんとすずかに誰も近寄らせるな。守れよ」
「ライ!(o`ω´o)ゝ゛」
「一匹見たらじゃあるまいし…」
眼鏡を外し、御神の剣士としての顔で、黒ずくめの車から降りてきた黒服達を睨む美由希。
足止め要員なのか、それとも別系統の組織のバッティングなのか判別付かないがそれは二人にはどうでも良い事である。
二人とも腕は未熟なれど御神の剣士。
守る御神に敗北はあり得ない。
****
『今どの辺りだ』
愛刀・八景を研ぎに出している為、待機に回らざるを得ない恭也の苛立ち混じりの声。
「えと…」
一瞬で通り過ぎる交通案内を読み取り――
「国道××号線を――海鳴市から遠ざかる方向に走ってます!」
『分かった。その方向にSPを配置するよう、バニングス家に連絡する。そのまま追跡を頼む』
「はい!」
勿論隙あらば助ける気満々のフェイトである。
「あれ?……」
足下――と言っても上空100mは上からなのだが、目標の車に近づくでっかいバイクが見える。
そしてほぼ並走に近い状態になると、バイクに乗った青年は両手を離した。
魔力と違う、しかし確かな「力」の発動をフェイトが感じたその瞬間!
アリサが青年の腕の中に『顕れた』!
しかしこれで容赦はしなくて良い! 急ブレーキをかけ、車との距離が一気に開くバイクを尻目に、友達を誘拐しようとした車に全力で裁きを下す!
「行くよ――バルディッシュ!」
――Photon Lancer Multishot
七つのフォトンスフィアがフェイトの周囲に生成され――フォトンランサーが幾条もの閃光となって突き刺さる!
「車」については勉強済みな為、『非殺傷設定』の上で乗車席×4を狙って打ち抜いた為、爆発炎上する事もなかった。その上、「いきなり奪い返された人質」を取り戻す為、急ブレーキをかけていたのが周囲に被害を与えずに済んだ要因である。
尤も、車体越しに非殺傷設定だった為か気絶はさせられなかったようで、壊れた車から這い出るように三人の男が現れる。
『どうした?!』
恭也の声、しかし答えてる暇は今はない!
「バルディッシュ!」
――Scythe Form
「行くよ!」
雷纏う刃が奔る!
そしてそれは一瞬で終わる。その場の男達全てを切り伏せ、気絶したのを確認すると、軽く飛んでバイクの青年に向かい合う。
「へっ…最近のガキは空まで飛ぶのか。大したもんだな」
バイクを寄せ、気絶しているアリサの縄を解きながら降りてきたフェイトを茶化すような物言い。
「あの、アリサを助けてくれてありがとう。
……あの、貴方は?」
ぺこりと頭を下げ、その何処かオーフェンに通じる容姿を持つ青年を見る。
「通りすがりの…たいやき屋さんよ」