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No.13774の一覧
[0] うそっこおぜうさま(東方project ちょこっと勘違いモノ)[にゃお](2011/12/04 20:19)
[1] 嘘つき紅魔郷 その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:52)
[2] 嘘つき紅魔郷 その二 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:53)
[3] 嘘つき紅魔郷 その三 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:53)
[4] 嘘つき紅魔郷 エピローグ (修正)[にゃお](2011/04/23 08:54)
[5] 嘘つき紅魔郷 裏その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:54)
[6] 嘘つき紅魔郷 裏その二 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:55)
[7] 幕間 その1 (修正)[にゃお](2011/04/23 09:11)
[8] 嘘つき妖々夢 その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 09:24)
[9] 嘘つき妖々夢 その二[にゃお](2009/11/14 20:19)
[10] 嘘つき妖々夢 その三[にゃお](2009/11/15 17:35)
[11] 嘘つき妖々夢 その四[にゃお](2010/05/05 20:02)
[12] 嘘つき妖々夢 その五[にゃお](2009/11/21 00:15)
[13] 嘘つき妖々夢 その六[にゃお](2009/11/21 00:58)
[14] 嘘つき妖々夢 その七[にゃお](2009/11/22 15:48)
[15] 嘘つき妖々夢 その八[にゃお](2009/11/23 03:39)
[16] 嘘つき妖々夢 その九[にゃお](2009/11/25 03:12)
[17] 嘘つき妖々夢 エピローグ[にゃお](2009/11/29 08:07)
[18] 追想 ~十六夜咲夜~[にゃお](2009/11/29 08:22)
[19] 幕間 その2[にゃお](2009/12/06 05:32)
[20] 嘘つき萃夢想 その一[にゃお](2009/12/06 05:58)
[21] 嘘つき萃夢想 その二[にゃお](2010/02/14 01:21)
[22] 嘘つき萃夢想 その三[にゃお](2009/12/18 02:51)
[23] 嘘つき萃夢想 その四[にゃお](2009/12/27 02:47)
[24] 嘘つき萃夢想 その五[にゃお](2010/01/24 09:32)
[25] 嘘つき萃夢想 その六[にゃお](2010/01/26 01:05)
[26] 嘘つき萃夢想 その七[にゃお](2010/01/26 01:06)
[27] 嘘つき萃夢想 エピローグ[にゃお](2010/03/01 03:17)
[28] 幕間 その3[にゃお](2010/02/14 01:20)
[29] 幕間 その4[にゃお](2010/02/14 01:36)
[30] 追想 ~紅美鈴~[にゃお](2010/05/05 20:03)
[31] 嘘つき永夜抄 その一[にゃお](2010/04/25 11:49)
[32] 嘘つき永夜抄 その二[にゃお](2010/03/09 05:54)
[33] 嘘つき永夜抄 その三[にゃお](2010/05/04 05:34)
[34] 嘘つき永夜抄 その四[にゃお](2010/05/05 20:01)
[35] 嘘つき永夜抄 その五[にゃお](2010/05/05 20:43)
[36] 嘘つき永夜抄 その六[にゃお](2010/09/05 05:17)
[37] 嘘つき永夜抄 その七[にゃお](2010/09/05 05:31)
[38] 追想 ~パチュリー・ノーレッジ~[にゃお](2010/09/10 06:29)
[39] 嘘つき永夜抄 その八[にゃお](2010/10/11 00:05)
[40] 嘘つき永夜抄 その九[にゃお](2010/10/11 00:18)
[41] 嘘つき永夜抄 その十[にゃお](2010/10/12 02:34)
[42] 嘘つき永夜抄 その十一[にゃお](2010/10/17 02:09)
[43] 嘘つき永夜抄 その十二[にゃお](2010/10/24 02:53)
[44] 嘘つき永夜抄 その十三[にゃお](2010/11/01 05:34)
[45] 嘘つき永夜抄 その十四[にゃお](2010/11/07 09:50)
[46] 嘘つき永夜抄 エピローグ[にゃお](2010/11/14 02:57)
[47] 幕間 その5[にゃお](2010/11/14 02:50)
[48] 幕間 その6(文章追加12/11)[にゃお](2010/12/20 00:38)
[49] 幕間 その7[にゃお](2010/12/13 03:42)
[50] 幕間 その8[にゃお](2010/12/23 09:00)
[51] 嘘つき花映塚 その一[にゃお](2010/12/23 09:00)
[52] 嘘つき花映塚 その二[にゃお](2010/12/23 08:57)
[53] 嘘つき花映塚 その三[にゃお](2010/12/25 14:02)
[54] 嘘つき花映塚 その四[にゃお](2010/12/27 03:22)
[55] 嘘つき花映塚 その五[にゃお](2011/01/04 00:45)
[56] 嘘つき花映塚 その六(文章追加 2/13)[にゃお](2011/02/20 04:44)
[57] 追想 ~フランドール・スカーレット~[にゃお](2011/02/13 22:53)
[58] 嘘つき花映塚 その七[にゃお](2011/02/20 04:47)
[59] 嘘つき花映塚 その八[にゃお](2011/02/20 04:53)
[60] 嘘つき花映塚 その九[にゃお](2011/03/08 19:20)
[61] 嘘つき花映塚 その十[にゃお](2011/03/11 02:48)
[62] 嘘つき花映塚 その十一[にゃお](2011/03/21 00:22)
[63] 嘘つき花映塚 その十二[にゃお](2011/03/25 02:11)
[64] 嘘つき花映塚 その十三[にゃお](2012/01/02 23:11)
[65] エピローグ ~うそっこおぜうさま~[にゃお](2012/01/02 23:11)
[66] あとがき[にゃお](2011/03/25 02:23)
[67] 人物紹介とかそういうのを簡単に[にゃお](2011/03/25 02:26)
[68] 後日談 その1 ~紅魔館の新たな一歩~[にゃお](2011/05/29 22:24)
[69] 後日談 その2 ~博麗神社での取り決めごと~[にゃお](2011/06/09 11:51)
[70] 後日談 その3 ~幻想郷縁起~[にゃお](2011/06/11 02:47)
[71] 嘘つき風神録 その一[にゃお](2012/01/02 23:07)
[72] 嘘つき風神録 その二[にゃお](2011/12/04 20:25)
[73] 嘘つき風神録 その三[にゃお](2011/12/12 19:05)
[74] 嘘つき風神録 その四[にゃお](2012/01/02 23:06)
[75] 嘘つき風神録 その五[にゃお](2012/01/02 23:22)
[76] 嘘つき風神録 その六[にゃお](2012/01/03 16:50)
[77] 嘘つき風神録 その七[にゃお](2012/01/05 16:15)
[78] 嘘つき風神録 その八[にゃお](2012/01/08 17:04)
[79] 嘘つき風神録 その九[にゃお](2012/01/22 11:18)
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[13774] 嘘つき風神録 その一
Name: にゃお◆9e8cc9a3 ID:dcecb707 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/01/02 23:07






 ずっとずっと憧れていた先輩。数か月前までは、遠くから眺めてるだけで声をかけることすら出来なかった遠い人。
 その人が今、こうして私を強く抱きしめてくれて。私の想いは、最後の最後で最愛の人に届いたんだ。

「ジバ子、君は本当に残酷だな。私に温もりを、生きる意味を教えてくれた君は私を置いてこの世から去ろうとしている…
君のいない世界で、私は一体これからどうやって生きていけばいいんだ。君を失って、私は一体どうやって…」
「ユキノ男先輩…私の誰よりも愛した人。どうか私なんかに囚われないで…
私は幸せだった。貴方に出会えて愛して貰えて、この世界の誰よりも幸せだった。貴方はきっと神様が私にくれた贈り物だったのね。
私が死んでも、貴方は決して立ち止まらないで…私の愛した貴方は、他の人を幸せにしてあげられる本当に優しい人だから」
「ジバ子…」

 優しい涙を零してくれる先輩に、私は精一杯の笑顔を浮かべる。私は今、ちゃんと笑えているだろうか。
 先輩が少しでも不安にならないように、私が誰よりも幸せだったと証明する為に、私はしっかりと笑えているのだろうか。
 ありがとう、先輩。私の愛した世界で唯一人の素敵な人。貴方の腕の中で旅立てるなら、私はもう何も怖くない。
 やがて自然に私と先輩の唇はそっと重なって。先輩、さようなら――私は貴方に出会えて、本当に…



















「んああああああ!!!ジ、ジバ子のアホおおおおおお!!!駄目駄目駄目!どうしてそこで死んじゃうのよ!?
貴女言ったわよね!?『私は将来先輩のお嫁さんになる』って!!ネバーギブアップ、今日から貴方は不死鳥よ!!」
「残り巻数は後一冊…このまま死ぬんじゃない?どうも打ち切り臭が酷く漂ってるし」
「やめてえええ!!お願いだから私を絶望に叩き込むような発言はやめてええええ!!
私は何時でもハッピーエンド以外認めないをモットーにしてるのよ!?そんな死亡エンド誰が認めるものか!
私と輝夜はずっと期待していたんでしょう!?ジバ子が生きて先輩のお嫁さんになる、そんな誰もが笑って誰もが望む最高のハッピーエンドってやつを!」
「私は面白ければ何でもいいけど。それに私は恋愛物はあまり興味が無いのよね」

 もうすぐお昼を迎えようかという紅魔館。
 早朝から遊びに来てくれた輝夜と二人、私の部屋でゴロゴロと漫画を読み耽っては漫画の感想を言い合って過ごしてるナウ。
 私が最近お気に入りの恋愛漫画に悶えていると、輝夜は打ち切りエンドなんて酷い予想を立ててきたのよ。鬼過ぎる。
 …でも、最終巻一つ手前でこの展開は、もう滅茶苦茶嫌な予感がして仕方ないのよね。これで死亡エンドなんて迎えてみなさい。ジバ子の
お墓の前で泣かないで下さいなんて千の風になってみなさい。私、多分しばらく立ち直れなくなる。
 …うん、続きはまた今度にしよう。私は最終巻をマイ漫画専用本棚にいそいそと収納する。

「最後の一巻見ないの?」
「…もし本当に輝夜の予想通りの展開だったら、私ちょっと立ち直れない。熱が冷めた後で読むことにするわ。
それにしても、いいなあ…やっぱり恋愛物いいなあ…素敵な男の人と出会って、そこから運命が始まって…キャーキャー!!
ああ、私にもドキドキで壊れそうな1000パーセントスパーキングな恋がこないかなあ…」
「何、レミリアは男と付き合いたいの?」
「当たり前でしょう!私はノーマル、カビケンタラッキーにも負けないくらいドノーマルな女の子なのよ!?
女の子として生まれたからには、私だって恋の一つくらいしたいわよ!素敵な男の人とお付き合いしたいわよ!」
「そんなものかしら。男に言い寄られても、正直あまり楽しいものではなかったわよ?経験談を言わせてもらうと」
「うぐっ…そ、そう言えば輝夜って滅茶苦茶モテモテだったのよね…沢山の男の人に言い寄られてたとか…」
「うん。面倒なだけだったけど」

 …あかん、輝夜が格好良過ぎる。あっさりと言い放つ輝夜の何と女として煌めいてることか。
 知ってるわよ、かぐや姫のモテモテ伝説は北欧にも届いてるのよ。全盛期の輝夜はあれでしょ、『3人に5回告白されることは当たり前、
3人に8回告白されることも』とか『出会って数時間後に男からの貢物頻発』とか『グッと微笑んだだけで二十人の男が集まった』とか
そういうレベルの神聖モテモテ王国を築いてたんでしょ。ううう…同じ女なのに輝夜とレミリア、どうして差がついたのか…慢心、環境の違い…
 軽く凹む私に、輝夜は読んでる漫画を一度閉じて、心に湧いた疑問を私に遠慮なく投げかけてくる。

「レミリアは付き合いたい付き合いたいっていつも言ってるけれど、貴女って男の人の知り合いっているの?」
「へ?男の人の知り合い?」
「そう、知り合い」
「も、勿論いるわよ!えーと、ちょっと待ってね…」

 輝夜の指摘に、私は必死に記憶の奥底から男の人の交友関係を見つめ直す。
 えっと、男の人、男の人…道具屋の店主、茶屋のお爺さん…あれ、終わり?え、嘘、本当に?男の人、男の人…本当にこれだけ?
 ちょ、ちょっと待って。今まで本気で男友達とか考えたことなかったけれど、これ本格的に女の子として拙くない?
 冷や汗をダラダラと流しながら、私は輝夜の目を見て必死に声を押し出す。

「お、男前な女の子なら…何人か…霊夢とか萃香とか…」
「つまり男の人の知り合いはいないということね」
「うぐぅ…そ、そういう輝夜はどうなの!?男のお友達なんているの!?」
「私?そんなのいないわよ?私はレミリアが友達ならそれだけで満足だし」
「いやいやいやいやいやいや!そんなあっさりきっぱりはっきり言い放たれるとリアクションに困るというか…
でも、これは少し大問題ね…紅魔館の主が男の子とお話したこともないなんて、絶対に許されることではないと思うの!
そう、神は言っているわ。私はこのまま独女でいるべきではないと!」
「おお、燃えてるわね。でも、レミリアがどんな風に男と接するのか見るのも一興かも」

 私はベッドの上で必死に現状の打開策を考える。
 そう、このままではいけないわ。どんな物語だって恋愛は必要不可欠な絶対要素。このレミリア・スカーレットが紡ぐ物語に
素敵な男の子との出会いが未だにないなんて絶対に許されないわ。私の物語はバトルモノなどではなく、恋愛ほのぼのモノになるべきなのよ。
 必死にベッドの上で頭を悩ませる私に、ふと輝夜が部屋を見渡した後、口を開く。

「そういえば、今日は部屋に貴女の妹も伊吹鬼もいないのね。遊びに来る時は二人のどちらかが部屋に居るイメージだったけれど」
「萃香とフランなら外よ。ほら、外から何か爆発音みたいなものが聞こえてくるでしょう?」
「言われてみれば確かに聞こえるわね。何、二人で鍛錬でもしているの?」
「第一回幻想郷暗黒武術会。何か面白いことはないかって萃香に訊ねられたから、この漫画みたいに武術会でも開けばいいじゃないって
ノリで適当なことを言ったら本気で開催されたでござるの巻。何も考えずに言った。今は反省しているわ」
「へえ、そんなものが今開催されてるんだ。いいの?レミリアは参加しなくても」
「絶対NO!萃香に誘われた時、一秒も間をおかずに土下座拒否を敢行出来た私の雄姿、輝夜にも見せてあげたかったくらいよ。
というか、本当に冗談で言ったのに、まさか岩を削り出してリングまで自分で作りだすなんて…まいった、私の負けよ萃香。貴女の出番よ、咲夜…」
「そしてレミリアは瞬間移動で死亡、と。出来るの?瞬間移動」
「瞬間土下座なら。死刑囚とのデスマッチ一番手は私に任せなさい」
「自信を持って土下座する吸血鬼様、本当にレミリアは飽きさせないわよね。私、貴女のこと好きよ」
「うん、私も輝夜のこと大好きよ。大好きだからいつまでも良いお友達で」

 いつもの冗談キャッチボールを繰り返して、私は先ほどまでの会話の内容に小さく溜息をつく。
 ――男性の知人が全然いない。その現実を突き付けられ、正直私の精神状態はあんまり落ち着ける状況ではなかったりする。
 だって、私の将来の夢って何時の日か素敵な旦那様と結婚して家族みんなで幸せになることなのよ?それなのに、今の私は
懸念する男の人はおろか、友達どころか知人だって数えるほどしかいない状態。こんな状態で『将来の夢はお嫁さん(キリ)』とか言ってる私の何と道化なことか。
 こういうことを言うと、きっと家族のみんなは『焦るようなことでもないだろう』と一笑に付すんでしょうけれど…私、彼氏いない歴が
見事に五百年越えちゃってるのよね…いいえ、彼氏いない歴どころか異性の方とまともに話をしたことすらない訳で。
 こんな私が結婚の夢を語るなんておこがましいと思わないかねって何処かのお偉いさんに怒られてしまいそうな現実。ましてや、私は
輝夜のようなモテ期すら一度も訪れていない在り様。だ、駄目よ!私本気で駄目駄目過ぎるわ!私、この現状に甘んじちゃってるじゃない!
 フランのことを含め、山積みだった大変な問題が一応落ち着いたのよ。この好機に行動せずしていつ行動すると言うの!?
 何もしない吸血鬼が夢を語るだけで叶えられるの?望むだけで願いは叶うの?違うでしょ!本気で心から願うのは、いつだって行動が伴ったときだけなのよ!
 本気で望んで、願って、必死に手を伸ばした者だけに神様は微笑んでくれるのよ!私の幸せの為に!家族の幸せの為に!だから私は――

「――決めたわ、輝夜!私、今日から真剣に探すことにする!」
「探す?探すって一体何を?」
「そんなの決まってるわ!私が一生を共に添い遂げる、素敵な素敵な旦那様よ!」

 私の唐突な宣言に、輝夜の口からクッキーがぽろりと零れ落ちた。
 そして、数秒して何がツボに入ったのか輝夜はお腹を抱えて大爆笑。…本当、私は良い友達を持ったものね。ちくせう。
 ひとしきり笑い終えた輝夜に、私は『思い立ったが吉日』と宣告し、人里に向かうことを告げる。
 すると輝夜も当たり前のように『面白そうだから私も行く』と一緒に人里へ。日傘を片手に、人里の街中を歩く私と輝夜。
 …まあ、人里に来てどうするんだと問われると、私が応えられるのは『何も』とか言えなかったりする。仕方ないじゃない!素敵な旦那様に
出会う為にはどうすればいいのか、なんて独女歴五百年の私に分かる訳ないでしょ!?だからまあ、単純な思考回路だと我ながら思うんだけど、
『人里には男の人いぱーい!というかそこしか男の人居る場所知らないし!』ってことで、人里に舞い降りた訳よ。
 そんな私の単純思考な意見に、輝夜はニコニコと笑うだけで反対する事は無かった。楽しんでる。この輝夜の反応は私のアホな行動を見て
楽しんでる顔だわ。ふふん、これまでの輝夜との付き合いから、輝夜の考えることなんてお見通しなんだから…リア充が馬鹿にして!
 いいわ、輝夜がそういうつもりなら、私にだって意地ってモノがあるんだから。この輝夜のにやけ顔を驚きへと変える為にも、絶対に素敵な
人と出会ってやる。絶対に今日中に運命的な出会いを果たしてやる。そう心の中で誓ってたんだけど…

「美しいお嬢さん、よろしければ私とお茶でも」
「ごめんなさいね、興味が無いわ」
「どうですか、私とこれから一緒に…」
「貴女といても退屈そうだから嫌よ」

 私の歩く数メートル後ろで、あれよこれよと言う間に男の人達に言い寄られる輝夜。
 そんな輝夜の姿をちらちらと眺めることしか出来ない私のなんと惨めなことか。あれ、変ね…涙が急に出てきたじゃない…
 群がる男の人を斬っては捨て斬っては捨て…何この真・輝夜無双。ちょっとどういうことよ、誰よこんな厨キャラ作ったの。我ニ敵ナシ状態じゃない。
 沢山の男の人に言い寄られる輝夜。そうよね、輝夜、幻想郷一位二位を争うレベルの美少女だもんね。普通誰だって声掛けるわよね。
 対する私はちんちくりんで背も無ければ胸も無い、実力もなければ度胸も無いヘタレでチキンなビビり根暗女だもんね。そりゃ勝負にもならないわよね。
 女として勝負にならないことくらい最初から分かってた。天と地の差が在ることだって知ってた。でも、でも…私だって女の子よ?こんなのでも
女の子としてのプライドってものがあるのよ?私という一人の女の子もここにいるっていうのに、輝夜だけ口説かれてるっていうのは…正直、死ねる。
 また一人、また一人と言い寄られている輝夜の姿をチラチラと眺めながら私は心の中で何度も何度も祈り続ける。
 神様。幻想郷の何処かにいるであろう私の味方をしてくれる神様。一人だけでいいんです。何人も何人もなんて我儘は言いません。
だから神様、たった一人だけ…たった一人だけで良いから、私に声をかけてくれる男の方を!お願いしますお願いしますお願いしますお願いしま…

「もしもし、そこの日傘のお嬢さんや」
「――ッ!?は、はい!日傘を持つ私に何かご用ですか!?」

 キタ。きたきたきたきたきたきたきたきたキターーーーー!!!神は、神は私を見捨てなかった!!
 信じる者は救われる、実に良い響きだわ。何処の神様か分からないけれど、私は今日から貴女の教えを信じることにします。浄土真宗から宗教変えます。
 出会えた。とうとう私にも声をかけて下さる方がいた。これぞまさしく運命の出会いと言わずして何と言うの。落ち着け、落ち着きなさい私。あまり
がっつくと品の無い女だって思われてしまうわ。殿方は立てて、私は一歩後ろから。心のドキドキを必死に抑えながら、私は声をかけて下さった殿方の方を振り返り――

「小さいのに一人でお出かけとは偉いのう。どれ、ワシが飴玉をあげよう」
「――あ、え、え?」
「うむうむ、小さい子供が遠慮などするものではないぞ。それでは気をつけてな」
「あ…りが、と…う…?」

 私の運命の――爺様は私に飴玉を三つほどくれて、私の頭を一撫でして一緒にいたお婆さんと一緒に笑って去って行った。
 …あめちゃん。私の運命の人は、齢にして七十を超えてそうな爺様で。私の運命の人は、私のことを小さな子供扱いして、飴玉をくれて。
 聞こえる。私の後ろから必死に笑いを押し殺してる輝夜のくぐもった笑う声が聞こえる。あ、見てたんだ。今の光景全部見てたんだ。
 ふーん。見られちゃったんだ。神様にまでお願いして、沢山沢山お祈りしてようやく辿り着けた、私の運命の爺様との出会いを見てたんだ。
 …ああ、もう無理。もう限界。もう駄目。私はフルフルと零れ落ちる感情を抑えきれずに、そのまま全力で暴発させた。

「もー!もーもーもーもー!!輝夜のあほー!!!なんで輝夜ばっかりもてて私は全然もてへんのじゃー!!
こんなん不公平やろ!!ウチかて女の子なんじゃ!!こんなちんちくりんでも一度くらい女の子されたいんじゃ!!モテモテの輝夜のどあほーー!!!!」

 本気で、これ以上ないくらい、思いっきり情けない言葉を並べ立てて、私はマジ泣きしながら駆けだしていた。
 自分のモテ力の情けなさと、輝夜への妬みの想いを言葉に乗せ、私は十にも満たない人里の子供のように泣きじゃくった。
 輝夜に対する言葉が見当違いの八つ当たりと分かっていても、抑えられない感情ってものがあるのよ。…ウチだけの運命のあんちゃんはいつになったら現れるんじゃ…
























 輝夜から逃げ去ること数分後。私は人里の大通りを一人ぶらぶらと歩いていた。
 とりあえず、気持ちは何とか落ち着いて、輝夜にごめんなさい言う為にも合流しようと思うんだけど、肝心の輝夜が見つからない。
 さっきまで輝夜のいた場所は誰もおらず、周囲にも見当たらず。結局どうしようもなくて、私は人里をこうして輝夜探しの旅に出てると
言う訳なんだけど…本当、輝夜、一体どこに行っちゃったのかしら。そんなことを考えながら、道を歩いていると、ふと視界にある少女の姿を捉える。
 いや、ある少女…なんて勿体付けた言い方したけれど、その女の子は私の知人でも何でもなくて。ただ、凄く目を引く女の子で。女の子というか、今のその娘の姿が、かな。
 綺麗な緑髪を束ね、年頃は魔理沙達くらいの可愛らしさと綺麗さが入り混じる女の子。でも、何より興味深いのは、その女の子の格好。
 彼女はまるで霊夢のような…いいえ、霊夢同様に巫女服に身を包んでいた。正直、霊夢以外で巫女服を着てる人なんて私は幻想郷で
初めて見た。だから物珍しさを感じたという点もあるにはあるんだけど、それ以上に私が気になったのは、その女の子の表情。
 なんていうか、疲れてる。道の隅に控えめに立っている女の子は、綺麗な容貌に少し疲れを感じさせる、そんな表情を浮かべていた。
 …うーん。初対面の相手の疲れが気にかかるっていうのも変な話だけど、正直勿体無いなと思う。多分その表情は人が誰も見ていないからこそ
浮かべた表情なんだろうけれど、そんな表情が下にある中で笑ってもあまり楽しくないでしょう。
 私の美少女観察眼(これまでの沢山の美少女との出会いで無駄に磨かれました)によれば、あの娘は笑うと絶対にもっともっと綺麗だと思う。
 だからこそ、なんていうか、歯がゆいっていうか、勿体無いなっていうか。余計なことをしてるんだろうな、そう思いつつも気になったものは
仕方ない。私は意を決して、その女の子の傍へと歩みより、声をかける。

「そこの貴女、ちょっと良いかしら?」
「…え?あ、はい、何でしょうか――ッ!?」

 私の方を向き、優しく笑顔を作った――かと思ったら、いきなり女の子の目が釣り上がる。鬼怖っ!!何この敵意剥き出しの目!?
 思わずビビってしまい、言葉を思わず飲み込んでしまう。いやいやいやいやいや!!なんで初対面の女の子なのに私に対して爆弾点灯!?まだ
出会う前だからデートにも誘えないのに爆弾処理しなきゃいけなかったなんて、一体どんな鬼難易度隠しキャラなのこの娘!?
 少女に言葉を続けられず、あうあうと口をパクパクさせることしか出来ない私に、女の子はじっと私を凝視しながら口を開く。

「…貴女、妖怪ですね?」
「え?あ、ええと…妖怪だけど…」
「ならば問います。貴女は人に害を為す妖怪ですか?これまでに一度でも人に害を加えましたか?」
「ち、違うわ。私は人に害をもたらしたことなんて一度も無い」
「その言葉、神に誓えますか?」
「貴女がそれを望むなら、私は神だろうと誰であろうと誓ってあげる。私の存在すべてを賭して虚偽の無いことをここに誓うわ」

 むしろもたらす力なんてない。だって私、ヘッポコだもん。人間に害を為すどころか、人里の子供に喧嘩で泣かされるレベルだし。
 少女の問いかけに(びびりながら涙目で)素直に応えると、納得したのか満足したのか、少女は張り詰めた気を静め、先ほどまでの
優しい表情へと戻って私に深く頭を下げる。え、怒ったと思ったら謝罪?何この急展開。

「まずは非礼をお許し下さい。いきなり不躾な問いかけをしてしまい、本当に申し訳ありませんでした」
「えっと、いや、いいよ、うん。
よく分からないけれど、貴女にとっては必要なことだったんでしょう?それで貴女が満足出来たのなら、私はそれでいいわ」
「ありがとうございます。はい、私にとっては本当に…本当に大切なことでしたので。
悪い妖怪、人に害を為す妖怪は退治する。貴女が良い妖怪で本当に良かったです」

 …いや、悪い妖怪なら退治するって。如何にも霊夢の台詞っぽい…っていうか、霊夢の台詞よね。巫女って生き物はみんなこうなのかしら。
 まあ、霊夢の場合前置きとして『私にとって』『面倒でなければ』なんてモノがつきそうだけど。とにかく、この女の子は私を敵という
カテゴリーから除外してくれたみたいで何より。正直『ヤバそうな女の子に声をかけちゃったかも』って気持ちが心の中で生まれちゃってるけど、気にしないことにする。
 とりあえず、この女の子の前に幽香とか連れてきちゃ絶対にいけないということは分かったわ。いや、幽香=悪って訳じゃないんだけど、
幽香のことだから悪乗りして『私は幻想郷一の害悪よ。かつてこの世界すら滅ぼそうとしたわ』なんて言い出しそうだし…幽香、ヒール格好良い。
 私がそんな意味不明なことを考えていると、女の子は改めて私に対して挨拶を行う。

「私、東風谷早苗と言います。あの、お名前をお訊ねしても?」
「ん。私はレミリア、レミリア・スカーレット。見ての通り妖怪だけど、貴女は人間かしら?」
「はい。私は人間…そうですね、人間です」
「そう、悪いわね変な確認とって。何せ見ての通り、ヘッポコな妖怪でね。
表立った妖気や力の大小は何となく分かるんだけど、貴女みたいに力をワザと抑えてる相手は種族まで目利き出来ないのよ」
「…私が力を抑えていると、どうして?」
「経験。貴女、人間だけど相当実力者でしょ?」

 だって巫女服=霊夢=バリバリ最強No1じゃない。巫女服は私にとって最強の戦闘服のイメージなんだもの。
 だから勝手にこの娘も滅茶苦茶強いんだろうなって思ってたんだけど、違ったかしら。首を傾げる私に、その少女は
少し困ったように微笑みながら、返答を返してくれた。

「自身の強さは分かりませんが…私の仕える神様に恥ずかしくないよう、研鑽は積んできたつもりです。
ですので、ありがとうございます。レミリアさんの言葉、凄く嬉しかったです。これまでの努力が認められたみたいで」
「そうなんだ。でも、今まで他の連中だって貴女のこと『強い』って言っていたんじゃないの?」
「いえ…私、さっきみたいに褒めて貰ったのは生まれて初めてですよ。
他の方は私の力を怖がったり気味悪がったり…外の世界に、私の居場所は最初から何処にも在りませんでしたから」
「そっか、よく分からないけれど貴女も色々と大変だったみたいね。でも、今はそうじゃないんでしょう?」
「…ええ、そうですね。私は、私達はこの地に、幻想郷に全てを賭して…そして生きる術を、場所を見つけることが出来ましたから」

 嬉しそうに、それでいて上品に笑う早苗。うん、早苗の話は微塵も分からないけど、とりあえず元気になったみたいで良かったわ。
 神様が云々っていうのは、あれでしょうね。早苗は巫女みたいだから、早苗が信仰している神様のことでしょうね。空の上から早苗を
見守ってくれてるみたいな。うんうん、信心深いのは良いことね。私は数分前に出会いの神様なんて信じないことにしたけれど。
 それと、話の内容からして早苗は外来人みたいね。つい最近幻想郷に越してきたようなことをさっき言ってたし。
 そうすると、早苗の言う話もよく分かる。幻想が失われた外の世界で霊夢クラスのパワーを持つ巫女なんて受け入れられる訳が無い。そんな
超人を一般人が怖がるのも当然でしょう。だって、昔の私が霊夢を本気で怖がってたのと結局同じ話だし。本当、こっちに来てよかったわね、早苗。
 心の中で同情しながら、私は早苗に会話する切っ掛けとなった彼女の疲れた表情について問いかけることにする。まあ、折角自己紹介を
交わす仲になれたんだし、それくらいは踏み込んでも良いわよね。嫌な顔されたら話変えればいいんだし。

「ところで早苗…あ、早苗って呼んでも良い?」
「ええ、構いませんよ。私もレミリアさんとお呼びしてますから」
「さんづけは要らないんだけどね…まあ、それは置いといて。
早苗、さっきまで何処か疲れたような困ったようなそんな顔してたわよ?どうかしたの?」
「え…そ、そんな顔してましたか私」
「してた。貴女みたいな美少女が道端でそんな顔してるんだもの。何かあったのかなと思うじゃない。
それで私は貴女に声をかけてみたんだけど…あ、余計なお節介だったらごめんね?本当に興味本位というか、心配本位というか、そんな感じだから」
「…ふふっ、レミリアさんはお優しいんですね。声をかけて下さりありがとうございます」
「あ、別に感謝されるようなことでも…あと優しくも何ともないからね?本当にこればっかりはただの好奇心で…」
「人を心配すること、声をかけること。それは誰にでも出来るようで、とても難しいことです。
ましてや私はレミリアさんと面識もない相手。それなのに、レミリアさんは心配して下さり、声をかけて下さったんですよね」
「持ち上げ過ぎよ…とにかく、そういう訳なんだけれど、何か悩みでも?
出会ったばかりで何の縁も無い私だけど、愚痴を聞くくらいは力になれるわよ?
こう見えて精神的サンドバッグとしては幻想郷一位二位を争うレベルの逸材だと自負しているからね。遠慮なく吐き出してくれてもいいのよ?」
「サンドバッグになんて出来ませんよ。でも、お言葉に甘えて少しだけお話をさせて頂いてもよろしいですか?
レミリアさんの貴重な時間を割いて頂くことになってしまうので心苦しいのですが」
「いいよ、時間なら腐るほどあるし、探し人も見つからないし。何より話を聞きたいっていったのは私だしね。
さあ、遠慮なく私に愚痴を零しなさい。どんな話も受け止めてあげるわよ?」

 そう言葉を切ると、早苗は微笑みながらゆっくりと私に話を始めてくれた。
 早苗の話によると、私の予想通り、早苗はつい最近この幻想郷に外界から越してきたらしい。それも神社と湖ごとという
紅魔館みたいなミラクル転移を行って。そんな無茶苦茶をする奴なんてお父様くらいかと思ってただけに驚いたわ。
 で、越してきたはいいんだけど、転移した場所が少しばかり悪かったらしい。彼女達が越してきたのは妖怪の山。あの場所は
天狗を始めとした妖怪達の領域で、突然の闖入者である彼女を当然歓迎する筈も無い。で、妖怪の山に居を構えることを彼女の神様が
必死に対話を試みているんだけど、向こうは全然話を聞いてくれず、出ていけの一点張り。彼女の神様という表現がよく分からないんだけど
多分早苗自身が心の中の神様を信じて交渉しているってことなんでしょうね。神様なんて現実にいる訳ないし。
 で、妖怪の山の妖怪達と険悪なムードが漂っている中、自分も神様の力になりたいものの神様は早苗に妖怪達の前に出すつもりはないらしい。
 『身の危険を心配して下さってるんです』とは早苗の談だけれど、いや、早苗が交渉してるなら直接出てるような…早苗の口ぶりはまるで
本当に神様が存在してるみたいね。本当、早苗は熱心な教徒なのね。これが本当の巫女の姿なんでしょうけれど…霊夢ェ…
 で、それでも何とか神様の力になりたい早苗が出した結論は信仰の獲得だった。何でも、幻想郷に来た目的は彼女の信じる宗教が
外界で信仰を失ってしまっていたらしく、このまま滅びを待つより(宗教の滅びって何かしら。神社の維持費が払えないとかかしら)幻想郷に
全てを賭けようとこの世界に引っ越したらしい。だから、本来の目的である信仰の獲得を人里で行おうと早苗は考えて行動したとのこと。
 でも、困ったことに人里の人々はあまり早苗の話を聞いてくれないらしい。うん、そりゃそうよね。人里の道端に立って宗教について話を
したがる女の子。いくら美少女でも、初対面の相手からそんな話を熱心にされてはドン引きする人も出るでしょう。
 かくして本日が信仰獲得を開始して三日目だけど、あまりに人が集まらないので少し心が折れかけている…というのが早苗の話だった。
 その話を聞いて、私が思ったのはさっきも言うように『無理も無い』ということ。例えば私が早苗に興味を持たない村人Aさんだったとして
早苗の突然の宗教の話を聞くかというと…ねえ。ましてや早苗の信じる宗教は幻想郷に根付いていない真新しい宗教な訳で。
 …本人には言えないんだけれど、きっと村人達の間では『変な女の子が変な宗教を勧誘してる』としか広まってないんだろうなあ。早苗の
熱い気持ちは分かるけれど、ちょっと本人のやる気が空回りしちゃって変な方向に行ってる気がする。
 『なかなか難しいです』と肩を落とす早苗に、私はうーんと頭を少しばかり悩ませる。折角知り合えた友人が困ってるんだもの、
力になってあげたいんだけど、私に何が出来るのか。人里に知人でもいれば、早苗は怪しい女の子でも何でもないから、少しだけ
話を聞いてあげてって言えるんだけどね…私、人里の知人って数えるくらいしかいないし。まあ、寺小屋の子供達を入れて良いなら
その数は馬鹿みたいに増えるんだけど…って、おおおおお!?寺小屋の子供!?

「ねえ、早苗。貴女は自分の信じる神様のお話を人に聞いて貰いたいのよね?」
「え?あ、そうです」
「その神様に対して無理に信仰させたりとかは?」
「そんなことしませんよ。人が信じる者は人それぞれですし、それを無理に変えさせても本当の信仰は得られません。
ただ、もし私の話を聞いて、少しでも神奈子様の…神様のことを知りたいと思って頂けたら、これ以上の喜びはありません。
私はただ、知って欲しいのです。外界で忘れ去られかけ、滅びを待つしかなかった私の神様の存在を多くの方に知って頂く。それだけでいいんです。
忘れ去られなければ、神様は消えません。人々の心に生きていれば、神様は永遠に在り続けることが出来るんです。
…私は、私の大切な人が消える未来なんて嫌なんです。だからこそ、大切な人を護る為に…皆様の力を少しでも借りられれば、それ以上は望みません」
「そう…うん、分かった。それなら慧音もOKくれると思う。
悪いんだけど早苗、少しだけここで待っていて頂戴。すぐに戻ってくると思うから、お願いね!」
「レミリアさん?」

 それだけを言い残し、私は慧音と子供たちの居るであろう寺小屋へと走っていく。
 うん、正直早苗の言う宗教とか信仰とか神様とかの話は全然分かんないんだけど、それでも力になってあげたいと思う。
 だって、あんな風に一生懸命な女の子が頑張ってるんだもの。そんな女の子の為に、こんな私でも力になれるのなら、少しくらいは…ね。
 …あと、早苗の信じる神様は恋愛も対象にしてるのか後で聞いてみよう。もししてたら、私も早苗の宗教の話を真面目に聞いてみよう、うん。
























 ~side 早苗~



 私が人里で出会った妖怪さんは、不思議な妖怪さんでした。
 見ず知らずの私に対して、声をかけて下さった理由が『貴女が疲れたような困ったような表情をしていたから』というもの。
 その言葉に、私はとても驚いてしまった。妖怪には、こんな人もいるんだ、と。
 妖怪とは悪いもの。妖怪とは退治するもの。このように教えられてきた私にとって、人里の地で出会った妖怪さんは在る意味私の
常識の外に位置する存在でした。そんな風に驚く私に、妖怪さんはなおも私の概念を壊すような言葉を続けてくれます。
 愚痴を聞いてあげる、と。心の閊えがスッキリするなら、話してみろ、と。力になってあげる、と。
 それらの言葉は本当に私には信じられないものばかりで。妖怪はおろか、他人にもこんな風に心配されることなんて
私には経験がありませんでした。私がどんな風に思い悩んでも、私を理解しようとして下さるのは神奈子様だけだったから。
 実の父も、実の母も、友人も、誰もが私を異質なモノと遠ざける世界。それが私の今まで過ごしてきた世界。
 生まれながらに私は常人とは異なる力を持っていたから。私はきっと他の人から『悪い意味』で違っていたから。だからこれは私のせい。
 そんな私を、この世界は受け入れてくれる。こんな私を、妖怪さんは許容してくれる。そんな些細なことが、私にはどうしようもなく嬉しくて。
 だから舞い上がってしまい、私は妖怪さんに自分の悩みを打ち明けてしまった。私の抱える事情、神奈子様のことを。
 突然こんな重い話をされても、普通の人は困るだけだろうに、私はそれでも話さずにはいられなかった。この妖怪さんなら
受け止めてくれるかもしれないと期待してしまったから。この妖怪さんなら、私の話をしっかりと聞いてくれるのではないかと。

 そして全てを告げ終えたとき、妖怪さんの行動は私の期待を裏切るものだった。そう、それはどうしようもなく良い方向に。
 妖怪さんは、少しだけ待つように言い、人里の奥へと走り去って行った。何事だろうかと思いつつ待つこと十数分、妖怪さんは再び
私の前に現れてくれた。それも何故か沢山の子供達を連れて、だ。

「え、えっと…これはあの、一体…」
「君が東風谷早苗か。成程、確かにレミリアの言う通り、真面目そうな女の子だ。
全く、人里を流れる噂などやはり当てにならないな。変な女の子と表現されるような感じでもあるまいに」
「あの、貴女は…」
「ああ、申し遅れた。私は慧音、上白沢慧音だ。この人里で寺小屋の教師をやっている。
今日は君が子供達に歴史の話をしてくれるということで、急遽青空授業に切り替えたという訳だ。本日はよろしく頼む」
「「「お願いしますーー!!!」」」

 子供たちが礼儀正しく一礼する姿に慌てて私も一礼を返す。
 ただ、未だに現状が良く分からず、私は自分でも分かる程にうろたえた様相で妖怪さんの方へ視線を送ってしまう。
 そんな私に、妖怪さんはぐっと拳を握って私に向かって言葉を贈る。

「ほら、子供たちが貴女の神様のお話を待っているわよ!貴女の信じる神様の物語を子供たちに聞かせてあげて頂戴!
なんせ一宗教の神様なんだもの、沢山逸話があるんでしょう!?それをバーンとォ!!話してあげると子供たちもハッピー貴女もハッピー!
あ、どうせなら五百年独身だった妖怪を結婚させたとかそういう話でも私は一向に構わんッッ!!むしろその方向をお願いする所存で!!」
「そんな話子供たちが喜ぶか馬鹿者」

 そんな妖怪さんと慧音さんの遣り取りを私は呆然と眺めるだけ。
 ちらりと視線を移せば、子供たちが今か今かと私の話を待ってくれていた。
 …待ってくれている。私の話を、神奈子様のお話を、子供たちが楽しみに待ってくれている。ようやく理解できた現状が
私の胸をこれ以上ない程に温かくさせる。そして、理解する。この状況を作り出してくれたのは、他ならぬ妖怪さんなのだと。
 今日出会ったばかりの妖怪さんは、私なんかの為にここまで力になってくれた。
 人里で出会った妖怪さんは、悪い妖怪でも何でもなくて。少し話をしただけの私に、こんなにも力を貸してくれた。
 その現実が、事実が、私の世界を変える。それは他の人にとっては小さなことかもしれない。当たり前のことなのかもしれない。
 だけど、外の世界で過去を生きた私には信じられないくらい大きな出来事。これが、幻想郷。これが、私の生きる世界。この方が、妖怪。
 私は自分の心に生じ続ける感情を抑えきれず、思わず少しだけ表情に零してしまう。クスリと笑みを零しながら、私は子供たちに言葉を紡ぎ始める。

「――それは昔々のお話です。まだ、人々が文明らしい文明を持ち得なかった、これは今より遥か昔の…」

 神奈子様。今日は早苗に沢山の出来事がありました。夜のうちに語りつくせるか不安になるくらい、とてもとても沢山のことがあったんです。
 話は少し長くなるかもしれませんが、それでも神奈子様には最後までお付き合いをお願いしたいと思います。
 何せ、今日は私にとって、とてもとても大切な出会いがあったから。それは、この幻想郷で出会うことのできた、私の初めてのお友達。
 

 ――レミリア・スカーレットさん。私の出会った、とても優しい優しい妖怪さん。
 神奈子様、幻想郷は本当に素敵な場所ですね。この世界に訪れたこと、妖怪さん…いいえ、レミリアさんに出会えたこと、私は心から感謝します。
 退治する必要のない、とてもとても優しい良い妖怪のお話を、今日は神奈子様に沢山沢山しようと思います。






















「ただいま~…って、咲夜?えっと、輝夜は戻ってきたり…してない?」
「蓬莱山輝夜なら帰宅しましたよ。母様に伝言とこちらをお渡しするように、と」
「…髪飾り?わ、綺麗!こんな素敵なモノを貰って良いの!?あ、伝言の方はなんて?」
「『今日はごめんなさい。悪気はなかったのだけれど、レミリアを不快にさせたのなら謝ります。
私にとって貴女が初めての友達だから、どこまで許されるかの境界線が下手くそで本当にごめんね』と」
「…ば輝夜。私は全然気にしてないのに…むしろ謝るのは勝手に振り回して勝手に泣いた私だっていうのに。
輝夜には私からも後日謝罪して贈り物をしないとね。うん、ありがとう、咲夜…って、貴女、よく見るとあちこちボロボロじゃない。
どうしたの…って、そう言えば今日貴女萃香の開催した武術会に参加してたんだっけ…」
「はい。母様の為に必ず優勝をと誓っていたのですが…申し訳ありません」
「いやいやいや謝る必要ないからね!?うん、咲夜が頑張って満足したならそれでいいの!
それでちなみに咲夜は何処までいけたの?」
「初戦の妖夢には何とか勝ちを拾えたのですが、続く次戦で不覚にも霊夢に後れを取ってしまいまして…」
「あああああああ!!咲夜は頑張ったから!頑張ったからそんな今にも自殺しそうな顔しないで!!
次やれば大丈夫だから!!組み合わせとかの問題もあるし、次霊夢とやったら咲夜が勝つから!!!そ、それで優勝は霊夢?」
「いえ、霊夢は次の試合で八雲藍に敗退しました。私との戦いで力の全てを使いきったようで嘘のようにボロ負けしました」
「ああ、そうなんだ…というか、あの式神さんも試合に出てたんだ。そういうの出そうにないイメージだったけど。じゃあ優勝は藍なのね」
「いえ、続く試合で八雲藍は風見幽香に競り負けまして」
「…そ、そうなの…やっぱり幽香が優勝か。うん、幽香化物だもんね…流石幽香…」
「いえ、幽香は続く試合で伊吹萃香に接近戦の上に膝をつきまして」
「ちょっとちょっとちょっと!?あれも負けこれも負けそれも負けって一体誰が優勝したのよ!?」
「ですので、風見幽香に勝利した伊吹萃香が優勝ということになります。次回は必ずや母様の為にも優勝を」
「…うん、その、が、頑張って」





 


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