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No.13774の一覧
[0] うそっこおぜうさま(東方project ちょこっと勘違いモノ)[にゃお](2011/12/04 20:19)
[1] 嘘つき紅魔郷 その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:52)
[2] 嘘つき紅魔郷 その二 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:53)
[3] 嘘つき紅魔郷 その三 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:53)
[4] 嘘つき紅魔郷 エピローグ (修正)[にゃお](2011/04/23 08:54)
[5] 嘘つき紅魔郷 裏その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:54)
[6] 嘘つき紅魔郷 裏その二 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:55)
[7] 幕間 その1 (修正)[にゃお](2011/04/23 09:11)
[8] 嘘つき妖々夢 その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 09:24)
[9] 嘘つき妖々夢 その二[にゃお](2009/11/14 20:19)
[10] 嘘つき妖々夢 その三[にゃお](2009/11/15 17:35)
[11] 嘘つき妖々夢 その四[にゃお](2010/05/05 20:02)
[12] 嘘つき妖々夢 その五[にゃお](2009/11/21 00:15)
[13] 嘘つき妖々夢 その六[にゃお](2009/11/21 00:58)
[14] 嘘つき妖々夢 その七[にゃお](2009/11/22 15:48)
[15] 嘘つき妖々夢 その八[にゃお](2009/11/23 03:39)
[16] 嘘つき妖々夢 その九[にゃお](2009/11/25 03:12)
[17] 嘘つき妖々夢 エピローグ[にゃお](2009/11/29 08:07)
[18] 追想 ~十六夜咲夜~[にゃお](2009/11/29 08:22)
[19] 幕間 その2[にゃお](2009/12/06 05:32)
[20] 嘘つき萃夢想 その一[にゃお](2009/12/06 05:58)
[21] 嘘つき萃夢想 その二[にゃお](2010/02/14 01:21)
[22] 嘘つき萃夢想 その三[にゃお](2009/12/18 02:51)
[23] 嘘つき萃夢想 その四[にゃお](2009/12/27 02:47)
[24] 嘘つき萃夢想 その五[にゃお](2010/01/24 09:32)
[25] 嘘つき萃夢想 その六[にゃお](2010/01/26 01:05)
[26] 嘘つき萃夢想 その七[にゃお](2010/01/26 01:06)
[27] 嘘つき萃夢想 エピローグ[にゃお](2010/03/01 03:17)
[28] 幕間 その3[にゃお](2010/02/14 01:20)
[29] 幕間 その4[にゃお](2010/02/14 01:36)
[30] 追想 ~紅美鈴~[にゃお](2010/05/05 20:03)
[31] 嘘つき永夜抄 その一[にゃお](2010/04/25 11:49)
[32] 嘘つき永夜抄 その二[にゃお](2010/03/09 05:54)
[33] 嘘つき永夜抄 その三[にゃお](2010/05/04 05:34)
[34] 嘘つき永夜抄 その四[にゃお](2010/05/05 20:01)
[35] 嘘つき永夜抄 その五[にゃお](2010/05/05 20:43)
[36] 嘘つき永夜抄 その六[にゃお](2010/09/05 05:17)
[37] 嘘つき永夜抄 その七[にゃお](2010/09/05 05:31)
[38] 追想 ~パチュリー・ノーレッジ~[にゃお](2010/09/10 06:29)
[39] 嘘つき永夜抄 その八[にゃお](2010/10/11 00:05)
[40] 嘘つき永夜抄 その九[にゃお](2010/10/11 00:18)
[41] 嘘つき永夜抄 その十[にゃお](2010/10/12 02:34)
[42] 嘘つき永夜抄 その十一[にゃお](2010/10/17 02:09)
[43] 嘘つき永夜抄 その十二[にゃお](2010/10/24 02:53)
[44] 嘘つき永夜抄 その十三[にゃお](2010/11/01 05:34)
[45] 嘘つき永夜抄 その十四[にゃお](2010/11/07 09:50)
[46] 嘘つき永夜抄 エピローグ[にゃお](2010/11/14 02:57)
[47] 幕間 その5[にゃお](2010/11/14 02:50)
[48] 幕間 その6(文章追加12/11)[にゃお](2010/12/20 00:38)
[49] 幕間 その7[にゃお](2010/12/13 03:42)
[50] 幕間 その8[にゃお](2010/12/23 09:00)
[51] 嘘つき花映塚 その一[にゃお](2010/12/23 09:00)
[52] 嘘つき花映塚 その二[にゃお](2010/12/23 08:57)
[53] 嘘つき花映塚 その三[にゃお](2010/12/25 14:02)
[54] 嘘つき花映塚 その四[にゃお](2010/12/27 03:22)
[55] 嘘つき花映塚 その五[にゃお](2011/01/04 00:45)
[56] 嘘つき花映塚 その六(文章追加 2/13)[にゃお](2011/02/20 04:44)
[57] 追想 ~フランドール・スカーレット~[にゃお](2011/02/13 22:53)
[58] 嘘つき花映塚 その七[にゃお](2011/02/20 04:47)
[59] 嘘つき花映塚 その八[にゃお](2011/02/20 04:53)
[60] 嘘つき花映塚 その九[にゃお](2011/03/08 19:20)
[61] 嘘つき花映塚 その十[にゃお](2011/03/11 02:48)
[62] 嘘つき花映塚 その十一[にゃお](2011/03/21 00:22)
[63] 嘘つき花映塚 その十二[にゃお](2011/03/25 02:11)
[64] 嘘つき花映塚 その十三[にゃお](2012/01/02 23:11)
[65] エピローグ ~うそっこおぜうさま~[にゃお](2012/01/02 23:11)
[66] あとがき[にゃお](2011/03/25 02:23)
[67] 人物紹介とかそういうのを簡単に[にゃお](2011/03/25 02:26)
[68] 後日談 その1 ~紅魔館の新たな一歩~[にゃお](2011/05/29 22:24)
[69] 後日談 その2 ~博麗神社での取り決めごと~[にゃお](2011/06/09 11:51)
[70] 後日談 その3 ~幻想郷縁起~[にゃお](2011/06/11 02:47)
[71] 嘘つき風神録 その一[にゃお](2012/01/02 23:07)
[72] 嘘つき風神録 その二[にゃお](2011/12/04 20:25)
[73] 嘘つき風神録 その三[にゃお](2011/12/12 19:05)
[74] 嘘つき風神録 その四[にゃお](2012/01/02 23:06)
[75] 嘘つき風神録 その五[にゃお](2012/01/02 23:22)
[76] 嘘つき風神録 その六[にゃお](2012/01/03 16:50)
[77] 嘘つき風神録 その七[にゃお](2012/01/05 16:15)
[78] 嘘つき風神録 その八[にゃお](2012/01/08 17:04)
[79] 嘘つき風神録 その九[にゃお](2012/01/22 11:18)
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[13774] 幕間 その8
Name: にゃお◆9e8cc9a3 ID:dcecb707 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/12/23 09:00




 よいしょっ…っと。


 博麗神社から紅魔館に無事帰宅。美鈴(ドラゴンモード)の背から羽をぱたぱた上下させて降り、私は地に足をつける。
 私と咲夜が背から降りたことを確認し、いつもの人間モードに戻る美鈴。…何度見ても思うんだけど、なんで変身しても服が破れないのかしら。
 美鈴にそれとなく訊いても『変化(ぺんげ)ですからねえ』としか教えてくれないし…ううん、確か龍人って言ってたっけ。便利ねえ。
 美鈴は自分の種族が嫌いって言ってたけど、私にしてみれば羨ましい限りで。私も龍になれたらきっと今は自由に空も飛べる筈。…ドラゴンキッズくらいに
なれないかなあ。最悪ドラキーでもいいから。吸血鬼のくせにドラキーになりたいって願うのも大概アレ過ぎる気もするけど…
 
「美鈴、今日も付き合ってくれてありがとう。そして咲夜も鍛錬お疲れ様」
「いいえー、私はお嬢様の喜びが自分の喜びですからね。でも、お褒めの言葉は喜んで受け取らせて頂きますよ」
「母様こそ、昼食を用意して下さり感謝しています。霊夢達、本当に喜んでましたから」

 私が感謝の言葉を述べると、二人揃って笑顔を見せて返答を返してくれる。うん、二人の笑顔を見るとこっちも心がぽかぽかしてくるわねえ。
 …でも、咲夜、最近私のこと『母様』って呼んでくれるようになったわね。以前はいつも二人きりのとき以外は『お嬢様』だったのに。
 あれかしら、『母様って呼べるのは小学生までだよねー!』的な思春期病が終わりを迎えたのかしら。…いや、咲夜がそんな
難病を持っていたとは微塵も思わない訳だけど。でも、霊夢達と接する咲夜はなんていうか、前より柔らかくなってるのよね。連中相手に
表情を綻ばしてる咲夜を見てると、お母さんとっても安心。昔の咲夜は私達意外にはトゥーシャイシャイガールだったからねえ…

 娘の成長を喜びつつ、私は呼吸を軽く吸って意識を切り替える。…咲夜も頑張って勇気を出して、自分を変えたんだ。次は私の番だ。
 ここのところ、ずっと一人悩んできたこと。それは私のたった一人の妹、フランとの関係。あの永い夜、フランと永遠の別れを錯覚した
ことでやっと導くことが出来た私の本心。あの夜、フランと死別するんだと思ったとき、私にとってフランがどれ程大きな存在かを
知ってしまった…いいえ、違うわね。『今更』理解した…そう、本当に今更。ずっとずっと一緒にいたくせに、本当に…今更。

 フランドール・スカーレット。私のようなへっぽこと違い、『本当の吸血鬼』であるフランとの思い出は、本当に浅くて薄いものしかない。
 フランとちゃんと顔を合わせて話をするようになったこと、それはお父様が死んで私が紅魔館の主になってから。
 それまで私とフランは本当に他人のような存在だった。主の娘ということで、私は自室という堅牢で毎日を過ごし続けていて、昔の私が
お話しする相手は門番から私の傍仕えに異動した美鈴くらいだった。そんな軟禁状態を思えば、恐らくフランも同様の状態だったんだと思う。
 当時の私にとって、フランは畏怖すべき対象であり、嫉妬の対象であり、希薄な存在だった。廊下で顔を合わせても、向こうは私と目を
合わせることも会話することもせず、まるで路傍の石ころのように私を見ていた。そんな態度に、当時の私は毎日のように美鈴に愚痴を零していたように思う。
 生意気で、私なんか見向きもせずに、いてもいなくても変わらない存在で…でも、そんな美鈴との会話の中で、私は『でも可愛い妹なんだ』と
必ず言葉を終わらせていた。そう言わないと、駄目だったから。妹なんだ、私はお姉ちゃんなんだって、納得させないと、きっと耐えられなかったから。
 自分より遥かに優秀な妹が、自分の存在を認めていない…そう確信してしまうことが、何より恐ろしかったから。だから私は自分を誤魔化した。
 気難しい妹なんだと、難儀な奴なのだと、お姉さんで在り続ければ、私はいつか必要とされるのではないかと思ったから。


 美鈴と出会い、パチェと友達になり、そしてお父様が亡くなったとき、私とフランは顔を突き合わせて言葉を交わすことになる。
 その理由は、勿論『後継問題』。正直、私はお父様は迷わずフランを選ぶとそのとき信じて疑わなかった。どんなに似非の強さを着飾っても
本当の吸血鬼には叶わない。私とフランでは発する存在感がまるで違う。だからお父様は『私の嘘』に気付いているんじゃないかと思っていた。
 紅魔館の主はフランになって、私は館を追い出されるんだろうと思っていた。もしそうなったら、人里近くに居を借りて、森のケーキ屋さんとして
第二の人生を歩むつもりでいたわ。美鈴に『私が弱いことをばれないように』それとなく話してみると、美鈴も付いてきてくれると言っていたから、
身の危険的にもそんな心配はしていなかった。『私は紅魔館の主ではなく、レミリアお嬢様だけに付き従いますよ』そう言ってくれた美鈴の言葉は本当に嬉しかった。

 そして、お父様の遺言が紐解かれて、私の人生計画は全て無意味なものとなった。フランと顔を突き合わせ、フランが私に差し出してきた
お父様の遺言にはたった一言、『次の主はレミリアに譲る』だけ。そんな軽い一枚の紙きれで、私の世界は大きく暗転した。
 紅魔館の主なんて雑魚の私に務まる筈もないし、何より命の危険が酷過ぎる。私は『遺言なんて無意味。面倒事は嫌い。フランに譲る』と
強く訴えたけれど、私の言葉をフランは悉く否定した。そのとき、私の知る『今のフラン』に『初めて』出会ったのかもしれない。
 そこに以前のような『私の存在を見ないフラン』は何処にも存在せず、私の話をニヤニヤと笑って訊き、私の感情を逆撫でしては
その反応を楽しんでいるような、小悪魔なフラン。我儘で人の話なんて聞こうとしない、唯我独尊吸血鬼。それが私の出会った第二のフランだった。
 親友である筈のパチェすらフラン援護にまわり、結局私は紅魔館の主になることになった。美鈴は私の判断を優先するとは言ってくれたんだけど…私は主を受け入れた。
 少し前の私は、当時の自分の判断を死ぬほど呪っていたけれど、今なら私がどうしてそんな判断を取ったのかよく分かる。


 私は嬉しかったんだ。
 フランが初めて『レミリア』と接してくれたことが。

 私は本当に嬉しかったんだ。
 フランが初めて『レミリア』を認識してくれたことが。


 それからの日々は、振り返る必要もない。時折問題を起こしては私に責任を擦り付け、あたふたする私を見て笑うフラン。
 思い返せば、沢山…本当に沢山のことでフランに振り回され、散々心労をかけられてきた。ときには紅魔館から脱走することすら考えた。
 でも…でも、そんな日々を今の私は心から愛しく思う。何か問題を起こす度に、フランは私を見てくれた。私と接しようとしてくれた。
 フランにしてみれば、玩具として面白い姉で遊んでいただけかもしれないけれど、そんな理由でも私は構わない。
 たった一人の妹が、こんな情けない姉を姉として見てくれる。それだけで、それだけで私は本当に嬉しいから。
 今ならこんなにも大切だと、大好きだと分かるたった一人の妹…本当に今更過ぎると思う。長年接しようともせずに、今更大好きだなんて。
 でも、それでも私は願ってしまう。フランと接したいと、フランと仲良くなりたいと。
 疑似でもフランとの別れを経験して…私との別れで、泣いているフランを見て…あのフランが、私の為に泣いてくれていることを知って。
 でも、私は弱虫だから。自分の『嘘』を未だ家族の誰にも言いだせない弱虫だから…みんなを信じていると謳っておきながら、
『もし私が弱いことを知ってみんなが心変わりしたら』、そう思ってしまう臆病な私だから…だから、私はフランに一歩を踏み出せなかった。

 怖い。フランに罵倒されるのが怖い。今更だと、都合が良過ぎると、お前なんか嫌いだと言われるのが怖くて。
 独り思い悩み、どれだけ考えてもたった一歩が踏み出せず。本当に臆病な自分自身が嫌になる。そんな私の背を押してくれたのが、霊夢だった。
 内容をぼかして相談する私に、霊夢は強く背中を蹴りだしてくれた。『私の大好きな親友なら、取るべき方法なんて一つしかないと考える筈』だと。
 …そうだった。こんなお馬鹿な私が取れる方法なんて、いつだって一つしかなかった。私は馬鹿だから、思い悩んでも答えなんて出る筈が無かったんだ。
 私に出来るのは、いつだって行動だけ。行動して、強情にしがみついて、歯を食いしばることしか出来ない。それで私は霊夢の時も、萃香の時も乗り越えてきたんだ。
 フランが大好き。その気持ちが真実ならば、私は迷うことなんてしちゃいけなかった。怖がってウジウジするくらいなら、真っ直ぐに打って出る、それが私じゃないか。
 悩むな、迷うな、行動しろ。それが霊夢に教えてもらった私の姿。大切な親友が、ちょっぴり怖いぶっきらぼうな優しい親友が教えてくれた、
レミリア・スカーレットの生きる道。答えは出た、ならばもう迷ってなんかいられない。だから私は決断した。


 フランに、自分の本当の気持ちを伝えること。
 ごめんなさいを伝えて、もう一度、本当の仲の良い姉妹としてここからやり直そうと。

 …そして、もしフランが許してくれたら、フランに、咲夜に、美鈴に、パチェに私の『本当』を話そう。
 フランが許してくれるなら、きっと私も勇気を持てる筈だから。勇気を持って、本当の私を伝えられる筈だから。
 本当はこんなに弱い吸血鬼であること…そのことを、嘘つきな私でも、頑張って話すことが出来る筈だから。



「…よしっ!大丈夫!私ならやれる、頑張れる!」
「おお、お嬢様張り切ってますね。大丈夫、お嬢様なら何でも出来ますよ」
「うん、ありがとう美鈴。その『何のことかサッパリ分かんないけどとりあえず褒めとこう』みたいな適当振りが最高よ」
「いやあ、実際何のことか私にはサッパリですし。ねえ、咲夜さん?」
「えっと…ええ、何のことだか私には」

 首を傾げる二人に、私は内心ちょっと安堵する。いや、だって主や母親である私が妹との仲を取り戻すことを決意した、なんて
ちょっと格好悪いじゃない。二人は多分私とフランの仲をとても良好だと思ってるだろうし…余計な心配を二人にさせることもないしね。
 全部の事情はフランとのお話を終えてからにしよう。全てを終えたら、美鈴にも咲夜にも私の全てを話す。
 …だから、ごめんね、二人とも。臆病な私相手に辟易してるだろうけど、もう少しだけ待って欲しい。
 最後の最後まで臆病な私だけど、今度の今度は正直になれる筈だから。勇気を持って、二人に話せる筈だから。

「それじゃ私は一度自室に戻るわ。貴女達はどうするの?」
「そうですね…私も一度戻って、その後仕事に戻ろうかと」
「あ、咲夜さんそれ待って下さい。実はパチュリー様から『今日帰ってきたら図書館に来い』と言われてまして」
「図書館に?それは私だけに?」
「いえ、私と咲夜さんにだそうです。だからレミリアお嬢様とフランお嬢様は残念無念また来週ということで」
「く…何この微妙な疎外感は。別にいいけどね、私も私で用があるから」
「はい。ですので、こちらは気にせず頑張ってくださいね。お嬢様なら絶対に大丈夫です!何を頑張るかは知りませんが!」
「ええ、ありがとう。貴女の意味不明な応援、一応胸に留めとくわね。それじゃ二人とも、また後で」

 二人に別れを告げ、私は一度自室に戻る為に館内へと足を進めていく。
 い、一生に一度の覚悟でお話に行くんだもの!やっぱり決意表明の意味も込めて身を清めることは大切だもんね!
 と言う訳でまずは身体を一度綺麗にしておかないと。服も一番お気に入りのヤツを用意して…う~!本当に緊張したきたわ、フランに会って話すだけなのにー!





















 ~side 美鈴~



「――ふざけるなっ!!!!!!」

 我を忘れ、『素の自分』に戻ってしまったことを気にかけることもせず、私はテーブルを強く叩いて言葉を荒げる。
 気が安定しない。感情の昂りを隠せない。怒りと絶望が心を支配して、自分が何をしているのかすら分からない。
 『パチュリー』の話を聞き終えた今の私を表現するなら、まさしく『妖怪』なのだろう。自分の身体から殺気が充満しているのが理解出来る。
 私の怒りの表情を見てなお、パチュリーは揺るがない。彼女は淡々と事実を語るだけ。

「信じたくないのは分かるけれど、全て真実よ。本人に確認も取ったわ」
「それは真実です、なんて突き付けられて納得出来るような内容じゃないだろうが!!
どうしてもっと早く話さなかった!?どうして私達が何も知らない!?私達がそんなに信じられないか!?」
「貴女の怒りは尤もだし、同様の感情を私も抱えていることは否定しないわ。
でも、今そんな『余計な荷物』に振り回されている暇は無いの。時計の針を戻すことは、咲夜を持ってしても難しいこと。
私達が今、すべきことは未来を考えることよ。糾弾断罪は全てを終えてからでも遅くは無い」
「…ッ!分かってる、分かってるけれど…こんなふざけた現実、認めたくないのよ…」

 私は言葉をそれ以上発することが出来ず、押し黙るしか出来ない。
 パチュリーから伝えられた現実、それは本当に悪夢でしかないもので。絶望、それ以外に一体どう表現することが出来るだろうか。
 あの馬鹿が。私達が必死に奔走して求めた未来は、そんなものなんかじゃなかった筈だ。それなのに、一人だけ格好付けて、
全ての悪役を演じ続けて、それで自分はサヨナラか。ふざけてる。そんな舐めた現実、絶対に認めたくない。認められない。
 拳を握りしめて沈黙を保つことしか出来ない私を横に、今まで押し黙っていた『咲夜』がゆっくりと言葉を紡ぐ。

「…うそ、ですよね…そんなの、嘘、ですよね」
「…本当よ。証拠も証言も、全て揃ってる」
「そんなの…そんなの、ないですよ…フラン様は、最強なんですよ…?
誰より強くて、誰より厳しくて、でも誰より母様想いで…母様を護る為に、私をここまで鍛えてくれた、あのフラン様が…そんな…」
「受け入れなさい…まず、貴女達が現実を受け入れてくれないと、話の続けようがないのよ」
「っ、受け入れられません!!フラン様が――フラン叔母様が死ぬだなんて、そんなふざけた未来なんて!!」

 図書館に響き渡る程の声。それは悲痛な叫び声。様子を見れば、咲夜は目じりから涙を零していた。
 あの心の強い咲夜を持ってしても、この現実に押しつぶされそうになっている。その姿を見て、私は冷静に戻ることが出来た。
 ――何をやってるのよ私は。咲夜がこんな状態なのに、それを放置して一人勝手に感情的になって。今私にとるべきは、『パチュリー様』の
ように『冷静を取り繕うこと』。無理矢理にでも冷静にギアを切り替えて、落ち着かないとパチュリー様の言うとおり、話も出来はしない。
 それにパチュリー様が『フランドールは死ぬ。もう何も出来ない。諦めろ』だなんて話で終わるような人じゃないことは永い付き合いで分かってる。
 恐らく、この場において大切な話題は『そこ』じゃない。パチュリー様の議題内容は必ず未来を見ている筈。私は気を入れ直し、自分を取り繕って『咲夜さん』に言葉をかける。

「…咲夜さん、私も含め、一度落ち着きましょう。パチュリー様の話には、必ず先がありますから。ですよね、パチュリー様」
「…察してくれて助かるわ。もしあのままの状態で噛みついてこられたら、私も感情を抑えられなかった筈だから」
「申し訳ありません…先ほど、レミリアお嬢様からフランお嬢様へのお気持ちを聞かされていたものですから、感情的になってしまいました」
「そう…本当、尚更レミィには伝えられないわね。…さて、話を戻すわね。私達が話し合うべきは、次に取るべき一手の選択よ」
「次の一手…ですか?」
「そう、その決断を下すことを私はフランドールから直接頼まれたのよ。フランドールからの頼まれごとを、行動に移すか否か」

 そこまで伝えられ、私はフランお嬢様がパチュリー様に頼んだ内容を察し、思わず拳を強く握り締めてしまう。
 …それ程ですか。それ程までに、貴女はレミリアお嬢様の為に…本当、馬鹿ですよ貴女は。そんなことをして、本当にレミリアお嬢様が
喜ぶと思っているとは思ってはいないでしょうが…それでも、その選択肢だけは、選べない。選ぶことなんて、絶対に出来ない。
 私とは違い、言葉の意味を察せない咲夜さんにパチュリー様はゆっくりと言葉を紡ぐ。それはフランお嬢様から私達に課せられた最後の仕事。

「――フランドールを殺すか否か、その選択よ」
「なっ…!?なんですかそれ!?そんなの…」
「フランドールの病、症状、それは先程話したでしょう?そんな状況の中で、レミィに『もしも』があったらどうするの?
きっと、現状のフランドールは夢と現の境目すら曖昧でしょうね。そんな中、破壊願望と力がレミィに向けられたら…そう考えて、私達に決断を頼んだのよ。
レミィを護る為に、レミィに生きる意味を与えられた私達に、何が最良かの選択を…ね」
「っ…それでも、それでも私は嫌です。フラン様は、私の大切な家族です…母様の、たった一人の血のつながった家族なんです…
私に力を、母様を護る為の力を与えてくれたフラン様を、私は危険だからだなんて理由で殺すことなんて…そんなの出来ません…」

 咲夜の結論、それは間違いなく私達の総意。
 様々な経緯はあれど、レミリアお嬢様をここまで守り抜いてきたのは他ならぬフランお嬢様だ。そんなフランお嬢様を本人の希望とはいえ、
切り捨てるなんて真似だけは絶対にしない。フランお嬢様もまた、この紅魔館の家族の一人であり掛け替えのない人物なのだから。それに…それに何より…

「フランお嬢様が自分の為に死ぬ…そんなこと、レミリアお嬢様が受け入れる訳ありませんから。
私達はレミリアお嬢様の為に生きる者、レミリアお嬢様の望みこそ我々の本懐。なればこそ、レミリアお嬢様の心に沿って生きることに意味が在ります」
「つまり…?」
「――そんなことは決まっています。フランお嬢様の病、それを完治してしまえば、全ては丸く収まる筈です。
レミリアお嬢様とフランお嬢様が手を取り合って幸福に満ちた道を歩く未来…尊き夢を守る為、私達は只管それを目指すだけです」
「それがどれだけ困難な道だと知っても?」
「当然です。困難な未来こそ、掴み取る為に足掻くだけの価値が在る。そうでしょう、パチュリー様」
「…フフッ、違いないわ。そう、私達の目指すべきは遥かな高み。
レミィとフランドールが望むなら、私達は結果を導くだけよ。…フランドールは必ず助ける、これが総意で間違いないわね?」
「「はい」」

 私と咲夜さんはパチュリー様の言葉に強く頷く。当然です、それ以外の未来なんて絶対に認めません。
 だって、レミリアお嬢様は望んでいますから。フランお嬢様と手をつなぐことを、一緒に生きることを。共に笑いあう…そんな未来を。
 それにフランお嬢様、一人だけ途中下車なんて認めませんよ。私達は何処までも共犯者、レミリアお嬢様が真実を語ってくれたとき、
みんな揃って土下座する仲ではないですか。その謝罪を私達だけに押し付けようだなんてそうはいきません。
 みんなでごめんなさいして、レミリアお嬢様に沢山沢山お説教を受けて、そしてみんなで笑いあいましょう。
 レミリアお嬢様がいて、フランお嬢様がいて、そして私達がいる、そんな幸せな未来を祝いながら。そんな優しい未来を願いながら。

「…二人の意見は理解したわ。まず、これからの指針の話し合いをしましょう。
まず、当面はフランドールの身体への対処法とレミィの行動ね。フランドールの件は私に一任して頂戴。
この私の知識にかけて、必ずフランドールを救う方法を発見してみせるから。それと、レミィの件だけど、さっきも言ったように
フランドールの精神が非常に不安定なの。だからフランドールには極力…っ!?」

 パチュリー様が言葉を途中で切った理由、そんなものを口にする余裕など、今の私達には無かった。
 気付けば私達は図書館を出て駆け出していた。――馬鹿が!どうして、どうして最初に気付かなかった!?
 お前は先ほどまでレミリアお嬢様と一体何を話していた!?お嬢様が何をするつもりだったのかは知っていたではないか!?
 私が取るべき行動、それはパチュリー様から真実を聞かされてすぐにレミリアお嬢様を保護することじゃないか!何故なら
レミリアお嬢様は、大切なお話をする為に――精神が非常に不安定なフランお嬢様の地下室へと、向かっていたのだから!

「――レミリアお嬢様っ!!」

 名前を言葉に出し、私は真っ直ぐに地下への階段を駆け降りる。
 先ほど、館全体を覆う程の濁った妖気の発生源…その一室を只管に目指して。





















 ~side フランドール~






 夢。




 それは本当に優しい夢だった。




 地下室で一人泣いている私。一人ぼっちな私のもとに、大好きなお姉様が駆けつけてくれる夢。

 怖がっている私に、お姉様は沢山の言葉をくれるの。
 それは沢山沢山。お腹一杯になるくらいの、本当に優しい言葉。

 大好き。
 うん、大好きだよ。

 好き。
 うん、私はお姉様が大好き。

 お姉様のこと、ずっとずっと大好きだよ。

 お姉様、私に沢山お話をしてくれたね。
 寝たきりで動けない私に、沢山沢山お話をしてくれたね。

 全てを忘れてしまっても、お姉様は私に優しかったね。
 私、大好き。昔のお姉様も、今のお姉様もとってもとっても大好き。



 ねえ、お姉様。もし私が元気になったら、一緒にお外に出ようよ。
 星が沢山きらきらしてる空の下で、お姉様と一緒にお空を飛ぶの。

 でも、私はお姉様みたいに綺麗に飛べるか少しだけ不安。
 お姉様はお空を飛ぶのが上手だもん。それに凄く格好良い。お姉様は私の憧れ。
 いつかは私もお姉様みたいになりたいな。お姉様みたいな格好良い吸血鬼に、私もなりたいな。


















 ねえ、お姉様、ちゃんと私のお話聞いてくれてる?

 駄目だよ、居眠りなんかしちゃ。私、お姉様に沢山沢山お話したいんだから。
 大好きなお姉様と、もっともっとお話したいの。お話しようよ、沢山のお話。

















 ねえ、お姉様。お姉様が私のこといつも見てたの、私知ってたよ。

 お姉様、私のこと怖がってたよね。私のこと怖がってるお姉様、凄く凄く可愛かった。
 大好き。そんなお姉様も大好き。恐怖に震えて怯えちゃってるお姉様、そんなお姉様も大好きだよ。



 ねえ、お姉様。お姉様はいつも私に紅魔館の主の座を押し付けようとしてたよね。

 怖かったんだよね。紅魔館の主の座について、他の連中に狙われるのが。
 でも大丈夫。そんな塵はみんな私が殺しちゃったから。ぷちぷちって潰したよ。トマトみたいにぐちゃってなって、本当に綺麗だったよ。
 ああ、お姉様に見せてあげればよかったな。大好きなお姉様にあいつ等が綺麗な綺麗なぷちぷちになるところ、見せてあげればよかった。



 ねえ、お姉様。お姉様は私のこと嫌いかな?

 私は好き。お姉様のこと大好きだよ。お姉様の綺麗な姿も、お姉様の優しい心も、みんなみんな大好き。
 お姉様って凄く綺麗だから、きっと壊れた姿もきっと綺麗だよね。お姉様の壊れた姿、見てみたいなあ。
 お姉様のお気に入りの純白の服を、お姉様の綺麗な赤で染め上げるの。それはきっときっと、とても綺麗。




















 ねえ、お姉様、ちゃんと私のお話聞いてくれてる?

 駄目だよ、居眠りなんかしちゃ。私、お姉様に沢山沢山お話したいんだから。
 大好きなお姉様と、もっともっとお話したいの。お話しようよ、沢山のお話。


















 お姉様。お姉様。私の大好きなお姉様。
 ねえ、どうしてお話してくれないの?私のこと、嫌い?


 私は好きだよ。世界で一番お姉様が大好き。
 お姉様以外の奴なんて知らない。お姉様だけでいい。


 私の全てはお姉様のもの。心も身体も全部お姉様のもの。
 お姉様は誰のもの?私以外の誰かのもの?
 それは嫌だな。お姉様も私のものがいいな。
 他の奴等なんかにお姉様は渡せないもの。お姉様は全部全部私のものだ。


 お姉様の綺麗な髪も、お姉様の優しい笑顔も。
 手も、足も、爪も、血液も、骨も、臓物も、全部全部私のものだ。
 お姉様はとてもとても綺麗だから、きっとバラバラにしても綺麗。
 心も身体もバラバラにして、全部全部私のもの。お姉様を守るのは、私の役目だもん。



















 ねえ、お姉様、ちゃんと私のお話聞いてくれてる?

 駄目だよ、居眠りなんかしちゃ。私、お姉様に沢山沢山お話したいんだから。
 大好きなお姉様と、もっともっとお話したいの。お話しようよ、沢山のお話。

















 ねえ、お姉様、返事をしてよ。

 不安だよ。お姉様の声が聞こえないと、凄く凄く不安なの。
 私はお姉様がいないと駄目なの。お姉様がいないと、私は駄目なの。
 大好きなお姉様、寝てばかりいないでお返事してよ。お話しようよ、お話。沢山、沢山お話。


















 ねえ、お姉様、お願いだから起きてよ。

 寂しいよ。怖いよ。お姉様がいないと私嫌だよ。
 お願いだからお返事して。声を聞かせて。名前を呼んで。
 『フラン』って。お姉様にそう呼ばれるだけで、私は大丈夫だから。だからお姉様…お話…


















 ねえ、お姉様、お願いだから…お願いだから、目を覚まして…

 嘘だ。こんなの嘘だ。だって私、お姉様のこと大好きなんだよ?
 ずっと守らなくちゃって…お姉様を守るんだって…今度は私の番だって…
 嘘だよ…嫌だよ…こんなの、嫌だよ…嫌、こんなの…こんなの…こんなの…























「こんなの…嫌だよ…おねえ…さま…」


 ――美鈴の声も、咲夜の声も、パチュリーの声も、今の私には聞こえない。
 私の膝の上で、身体中を血に染めて眠るお姉様…その光景が、何処までも夢のように霞んで見えて。
 指一つ動かさないお姉様。まるで精巧に作られたお人形のように眠り続けるお姉様。
 まるでこのまま目を覚まさないんじゃないかって…まるで夢の世界の光景みたいだなって…

 ああ、そうか、これは夢なんだ。
 私の見る悪夢。お姉様のいない未来。だからお姉様は…こんなにも血塗れなんだね。




 …ああ、嫌だな。本当に嫌だ。


 夢を見るなら、やっぱり幸せな夢が良いな。
 お姉様と一緒に笑いあえる――そんな、幸せな夢が…私は大好きだから。








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