還元
「今なんて?」
曹操が信じられないといった表情で荀彧に再度言葉を促している。
荀彧はほとんど泣きながら、同じ言葉を繰り返す。
「濮陽は陥ちました。
半日も持ちませんでした」
「し、信じられない……。
どうしてそんなに早く陥ちたのかしら?」
「二里の向こうより楯を打ち抜くほどの弩の槍が飛んできて、城壁に誰も登ることができなくなり、敵が遠方にいるのに城壁を制圧されてしまいました。
城壁に登れない状態では、もう我々に勝ち目はありませんでした」
曹操も呆然としている。
だが、いつまでも呆然としているわけにはいかない。
放っておいたらここ許都に攻め込まれるのも時間の問題だ。
「屯田兵の農作業は一旦中止、全軍で袁紹軍を迎え撃つ準備をなさい!」
「御意」
曹操、苦渋の選択である。
屯田兵も早めに農作業に戻れれば収量減は少なくて済むが、長引くようだと今年の収穫は純粋な農民が作業した分だけになってしまう。
徐州の石高はまだ調べていないが、徐州が食っていくのがやっとという状況だろう。
ただでさえ、袁紹から大きく引き離されているのだから、ここで足踏みをしたら離される一方だ。
だが、だからといって農業に人員を割けば曹操は滅ぼされてしまう。
それでは本末転倒だ。
だから、とりあえず今を乗り切らなくてはならない。
曹操ですら泣きたくなってくるほどの悲惨な状況だ。
曹操軍は袁紹軍に備えるため、全軍を集結させ始めた。
ところで、曹操が泣きそうな状況に陥っているとき、ほとんど捕虜として許都にいる劉備は何をしていたか、というと………
「そうだよね、そうだよね。あのビールっておいしいよね」
「ええ。それにずいぶん強いお酒で、すぐ気持ちよくなるし」
市井の人々と能天気に取り留めの無い話をしていた。
「でもね、でもね、袁紹ちゃんのところには、ウィスキーっていうもっと強いお酒があるんだよ」
「そ、そうなんですか?」
「そうそう。あのね、徳利に半分飲んだだけなのに、次の朝、頭が割れるように痛いんだよ。
もう、桃香ちゃん、あんなお酒のみたくないなあ」
「そ、そうなんですか。
でも、そんな酒なら一度は飲んでみたいものですなあ」
「飲む機会があったら、ちょっとだけにしたほうがいいと思うよ。
全然おいしくないし」
とまあ、何をするわけでもなく、許都の中を関羽や兵器の配備が終わって戻ってきた諸葛亮とぶらぶらしているだけなのだが、何が人を惹きつけるのかここでも劉備の人気はぐんぐん上昇していた。
巨乳が人々をひきつけるのだろうか?
曹操エキスもつまっていそうだし。
ちなみに、諸葛亮は難しい顔をしていた。
普段なら、何かにつけて劉備に「ちがいましゅ!」と苦言を呈しているところだが、今はそんな余裕は全く無い。
それというのも、濮陽が陥落したと言うニュースを聞いたからだ。
衝車や雲梯車の話は既に伝わっていて、弓では簡単には対処できないと言うことはわかっていた。
だが、霹靂車を何台も用意した濮陽なら、そう簡単には攻略されないだろうと思っていた。
ところが、半日もかからないで濮陽が陥落している。
聞けば、楯をも貫通する弩が数里離れた位置から正確に見張り兵を射抜いたとか。
諸葛亮は衝撃を受けた。
どうすれば、新型弩にやられないように見張りを続けることができるか。
更に、出来るならば、袁紹軍の弓に対抗しながら弓を射返したいのだけど……。
見張りを立てるだけなら城壁の上に覆い、今の言葉で言えばトーチカを作ってそこから見張ればいいのだろうけど、そうすると見張りしかできなくなってしまって、弓の攻撃力が発揮できない。
どうすれば袁紹軍に対抗できるのだろうか。
関羽は、なんとなくにこにこしながら劉備について歩いていた。
その心の内は、というと……
とりあえず、今は普通に生活できている。
だが、これでは曹操の籠の中で生きているだけではないか。
私が曹操軍に入って活躍すれば、桃香様も喜んでくださるのだろうか?
ただ……部下はいい人々なのだが、その、なんというか……
やはり、早く桃香様には再度独立していただきたいものだ。
というようなことを考えていたりした。
そんな3人を厳しい目で見ている人物がいる。
程昱である。
程昱。字が仲徳、真名が風。
演戯では悪役のように扱われているが、そうでもないらしい。
それどころか、曹操をたてようと智謀の限りをつくした人物であるようだ。
それが他の勢力から見れば悪役に見える、といわれればそうなのかもしれないが、やはり立派な人物だったのだろう。
恋姫では……頭に太陽の搭型怪電波受信搭(通称宝慧)を備え、いくら舐めても減らない(舐めていないのか?)ぺろぺろキャンディーを常に持ち、都合が悪くなると寝てしまう特技を持つと言う、なんといったらよいか天然系の人物である。
恋姫内では、大体いつも郭嘉と一緒だが、郭嘉は濮陽で既に袁紹軍に捕らえられていて、今は単独行動をとっている。
その程昱、城に戻るなり曹操に会いに行き、
「華琳様、劉備を殺してください」
と、いきなり、劉備を殺すことを提言する。
「ど、どうしたのよ、いきなり。
劉備が何か謀反でもおこしたとでもいうの?」
さすがに、歯向かってくるわけでもない人間を、いきなり殺せ!と言われるとショックを受けるものだ。
「そうではありません。
ですが、劉備はここ許都の民の心をつかみつつあります。
このままでは、臣民の心は華琳様から離れ、劉備に変わってしまわないとも限りません。
あの女は危険です。
生かしておいては必ずや華琳様の災厄となるでありましょう」
眠ることもなく、真剣に曹操に提言する程昱だ。
「そ、それはいくらなんでも考えすぎなんじゃないの?」
「いえ、そうは思いません。
あの女はここに居残り華琳様の災厄となるか、裏切るか、とにかく生かしておいてよいことはなにもありません。
傍目には無能を装っていますが、本当に無能なのか疑問です。
いつもへらへらしていますが、結局自分の意見を押し通しています。
華琳様も気がついたら劉備にいいようにあしらわれてしまうのではと不安です。
劉備を殺すことで関羽や諸葛亮が華琳様に下らないのであれば、二人とも諦めてください」
「…………そこまで言うなら、一応気をつけてみてみましょう。
ただ、今すぐ殺すことはしないわ。
少なくとも諸葛亮はまだ使えそうだから」
「…………御意」
程昱、まだ何かいいたそうだったが、曹操にそういわれるとそれ以上は曹操に詰め寄ることはしないのだった。
曹操、一応他の人間の意見も聞いてみようと荀彧を呼ぶ。
「―――と風が言っていたのだけどどう思うかしら?」
「劉備がですか?
あれはただの押しの強い馬鹿ではないのでしょうか?」
「そうは思うのだけど………風の意見も尤もだと思わせる何かが時々劉備にはあるのよね」
「わかりました。私も一応監視してみます」
「お願い」
そんなことがあったとは全く知らない諸葛亮、曹操のところに新兵器の提案に来る。
「丸太をいくつも束ねて三角にするのです。
それを二つ作って、細い隙間を空けてくっつくけるのです。
それを楯として城壁にいくつも並べるのです。
そうしたら、隙間から矢を射ることも出来ますし、敵の矢や新しい弩もほとんどを防ぐことができると思います。
運悪く隙間を通ってきてしまった弓は防ぐことができましぇんが……」
新しい楯の提案だった。
昔の城にあった細長い鉄砲用の窓(銃眼、狭間)の構造をそのまま楯にしたような感じだ。
確かに、これなら敵の攻撃を防ぐことができ、尚且つ自分たちの攻撃力を損なうことが無い。
「なるほど、それはいい考えね。早速配備させるわ」
ということで、曹操軍も新兵器に対抗する装備を配備することになった。
まだ、劉備には使い道があると感じる曹操であった。
再び劉備。
今は城内にいて、劉備にしては緊張した様子で歩いている。
そして、角を曲がったところでぴたっと止まり、後ろから来る人間を待ち伏せする。
劉備の後をつけていた人物は、劉備が角を曲がると、さっと走って劉備の後をつけようとするが、劉備はそこで止まって待っていたのでどんとぶつかってしまう。
「ねえ、荀彧ちゃん、どうしてそんな怖い顔をして桃香ちゃんをつけてくるの?」
「うるさいわよ!華琳様の命令で、あんたがよからぬ事をしないか見張っているのよ!」
劉備の後をつけていたのは荀彧。
律儀に曹操の命令を遂行していたところだ。
隠れて尾行、というような高等なテクニックでなく、単純にすぐ後ろからついて歩いているだけなので、普通の人間ならすぐ後ろに荀彧がいることは分かってしまう。
「え~?桃香ちゃん、そんな悪いことしないよ。
みんなとなかよくしたいだけだよ」
「知ってるわよ、そんなこと。
あんたがそんなに頭がよくないことくらい見ればわかるわよ。
昔から巨乳の女は乳に栄養が行った分、脳に栄養が行かないから頭が悪いと相場が決まっているのよ!」
それを聞いた劉備、にっこりと荀彧に微笑みかけて、
「なぁんだ、荀彧ちゃん、おっきいおっぱいがいいんだ!
じゃあ、いいことがあるよ」
と言って、荀彧の手を引っ張って自分の部屋に連れ込んでしまう。
「ちょ、ちょっと、何するのよ!」
嫌がる荀彧をむりやり部屋に連れ込んだ劉備は、おっぱいを取り出して、
「はい、どうぞ」
と言って乳首を荀彧に含ませてしまう。
口に乳首を含んだとたんに、今まできつい表情をしていた荀彧は急に優しい表情に変わり、無心に劉備のおっぱいを吸い始める。
荀彧はそれは幸せそうに劉備のおっぱいを吸い続ける。
劉備は、荀彧をまるで母親が赤子をあやすように優しく抱きしめる。
そのうちに、劉備のおっぱいは心持ち小さくなり、その分荀彧のおっぱいが大きくなったようだ。
とはいうものの、NカップがLカップに変わっても(Z→X?)、ほとんど見分けはつかないが、A--(Aマイナスマイナス)カップがいきなりCカップに変わると変化は覿面。
荀彧の胸は、ほぼ無からいきなりささやかな、いや並の胸に変化した。
曹操から搾り取ったエキスを荀彧に還元したのだろうか?
「桃香ちゃんの胸は大きすぎるから、また荀彧ちゃんに分けてあげるね!」
「はい、劉備様……」
荀彧は幸せそうに劉備の部屋を後にした。