伝染
暗殺騒動から少したった日。
その事件は、沮授のこの言葉から始まった。
「気持ち悪い……吐きそう」
「どうしたんだ?清泉。
病気かな。それとも変なものでも食べたのかな?」
自分の奥さんを心配する一刀。
「わからない……でも、気持ち悪い」
「じゃあ、今日はもう休んだら?」
と、言っていると……
「気持ちわるーい……吐きそうだわ」
「……菊香も?」
「菊香"も"って、どういうこと?」
「清泉も気持ち悪いんだって。
何か食あたりかな?」
「わからないわ」
だが、事態はそれで終わりにはならなかった。
「気持ち悪いわ……こんな気持ち悪さ初めて」
「華琳も、なのか?」
「華琳"も"って、どういう意味よ?」
「清泉も菊香も気持ち悪いんだって」
「食あたりかしら?」
そして更に……
「気持ち悪い……」
「え?恋も?」
こくりと頷く呂布。
あの、何食ってもぴんぴんしていそうな呂布が気持ち悪い?
そんな酷い食品があっただろうか?
……それはいいすぎだ。
呂布、すぐ傍で見ると案外華奢な女の子だもん。
食あたりなら他にもなりそうな人がいそうなものだが、今のところ気持ち悪そうにしているのはこの4人だけだ。
その様子を見ていた程昱、
「これは食あたりではありません。
病気です」
と物騒なことを言い始める。
「病気?」
みんな一斉に程昱に聞きなおしている。
「そう、病気。
しかも伝染性で不治の病」
それを聞いてみんな4人から距離をとる。
「びょ、病気ってなんだよ!不治の病ってなんだよ!
直す方法はないのかよ!」
心配した一刀が程昱に食って掛かっている。
「この病気は、最初は気持ち悪くなったり、嘔吐感がおきるだけなのだが、そのうちに腹部が信じられないくらい大きく腫れてきて、そして死ぬほどの苦痛を感じるようになり……
そして……そして………」
「どうなるんだよ?」
「嗚呼!とても私の口からは言へない。
この病気は、この病気は、病名を……」
全員固唾を呑む。
「悪阻といふ」
芝居がかった様子で仰々しく病名(?)を伝える程昱。
一気にトーンダウンする周辺の女性達。
それと同時に一斉に一刀を冷ややかな目で見つめるのである。
「………悪阻?………………ってことは」
伝染性って、一刀が感染源か。
「うつされてもいいかも……」
恥ずかしそうに言うのは董卓。
「え?月、冗談よね?ね?冗談でしょ?冗談って言って?」
大慌てで董卓に駆け寄る賈駆。
だが、董卓は顔を手で覆って恥ずかしそうにするのみである。
「月の気持ちは理解できます」
と董卓に理解を示すのは劉協。
「………献様、今何と仰いましたか?」
と聞くのは皇甫嵩。
「月、部屋に戻りましょう」
劉協はそれに答えず、董卓を連れて去っていってしまった。
残ったのは呆然とする賈駆と皇甫嵩。
「だ、大丈夫だ。
俺の奥さんは菊香と清泉だけだから」
一刀が慌てて二人(特に皇甫嵩)をなだめようとするが、それに曹操が異を唱える。
「あら、私は側室じゃないの?
この子はどうするの?
側室にしてくれる約束だったでしょ?」
「……そ、それと華琳だけだ」
うまいこと側室に収まってしまった曹操であった。
更に、つんつんと一刀の袖を引っ張るのは呂布。
「それと恋だけだ」
一刀が口を開くたびに一刀を見る目の温度が下がっていく。
「恋はともかく、華琳まで側室ってどういうことよ?」
「夫婦で話し合う必要がありますね。
部屋で待っています……うぷ」
田豊と沮授はそう言い残して去っていってしまった。
呂布が側室として認められるのは、この間の発情期が原因だろうか?
「きっさまーーー!華琳様に何をした!」
「あなた、華琳様に何をしたのよ!!」
「お前、恋殿に何をしたのですか!!」
と、一刀に詰め寄るのは夏侯惇、荀彧、陳宮。
一刀は、冷や汗をかきながら、
「こ、子供ができるような行為……かな?
ひひ……ひひ……」
と答えざるを得ない。
それを聞いた3人、今度は曹操と呂布に詰め寄り、
「華琳様、冗談ですよね!
やましいことは何もないと仰っていたではありませんか!」
「冗談と言ってください、華琳様ぁ!!」
「恋殿、そんなことはありませぬよね?」
と尋ねるのだが、
「春蘭、桂花。
もう、私は一生一刀の閨の友になることにしたの。
愛し合う二人の間に何があってもやましいことではないでしょ?
ごめんね。もう、あなた達と閨を共にすることはないわ」
「そ、そんな……」
「うそ……」
「だって、春蘭や桂花とやるよりずっと気持ちいいんだもの」
と顔を赤らめる曹操。
呆然とする夏侯惇、荀彧。
呂布も、
「赤ちゃん」
といって、にっこりとおなかを優しく撫でている。
「恋殿~~~~」
それから、3人でわんわんと泣き始めるのである。
そんな3人を無視して、嬉しそうなのは顔良。
「一刀さん、約束でしたよね。
私を側室にしてくれるんですね?」
最早、拒否することは出来ない一刀であった。
そのうちに……
「そもそも、悪いのは……」
陳宮が最初に泣き止んで、一刀を睨みつけ、それから彼女の必殺技を繰り出す。
荀彧と賈駆もそれに続く。
「陳宮キーーーーック!!」「グェ」
「荀彧パーーーーンチ!!」「グヮ」
「賈駆チョーーーーップ!!」「グォ」
更に、
「かーずとーー!!そこに直れ!七星餓狼の錆にしてくれよう!」
「助太刀いたそう」
「か、夏侯惇さん、皇甫嵩様、それしゃれになりませんから!」
「もちろん、本気だ」
刀を鞘から抜く皇甫嵩を見て、必死で逃げ回り始める一刀であった。
あとがき
やっぱり発情期のあとはこうなりますよね。