敗北
さて、曹操は再度孫家軍が攻めてきても大丈夫なように張遼・李典を合肥において、急いで許都に戻る。
袁紹軍だと予想が立てにくいが、あの孫家軍であれば残存勢力8万程度であれば5万の兵を残した合肥を攻めきることは出来ないだろうから、これで徐々に、曹操が呉を倒し揚州・荊州を治めるように変わったと触れ回れば揚州・荊州が曹操領になるだろう。
統治はそれはそれで考えなくてはならないが、それはおいおい考えていくことにする。
食料も、幸か不幸か袁紹が只でくれたので、とりあえず一息ついている。
だが、もう一方の袁紹はそうはいかない。
兵の疲労も少なくないだろうが、それでも大急ぎで許都に戻らなくては、いつ袁紹が攻めてこないとも限らない。
だから、曹操は疲れる兵を叱咤激励して、許都に戻る。
許都までの行程は出かけるときに夏侯淵に宣言しておいた通り、3日。
普通なら早くて5日、通常の大規模な兵の移動なら10日かかってもおかしくない距離だが、それを曹操は本当に3日で帰ってこようとしている。
「明日は許都につくわね」
曹操が荀彧に話しかけている。
「はい、きつい行程でしたが、皆よく着いてきてくれました。
許都に袁紹軍が現れたと言う報もありませんから、どうやら全軍で袁紹軍に攻することができそうです」
「そうね。許都についてから、兵に休息の時間があればよいのだけど。
袁紹軍、いつごろくるつもりなのかしら?」
「さあ。このまま攻め込んでこないのであれば、今度は我々が軍備を整えて袁紹様に借りを返しにいくまでのことです」
「ええ、そうね。
借りは返さないとね。麗羽に申し訳ないから。
麗羽も、泣いて喜ぶことでしょうよ」
「はい、そう思います」
曹操も荀彧もにやりと嗤う。
「まあ、明日も強行軍よ。今日はもう寝ましょう」
「え?……その……もう寝るのですか?」
「桂花、そういう我侭を言う娘はお仕置きが必要みたいね」
「あ~ん、かりんさまぁ、そんなにわがままなんか、いっていませ~ん。
ゆるしてください」
だが、荀彧の表情は言葉とは裏腹にうっとりとしているのである。
翌日、また曹操軍は朝から強行軍を開始する。
そして、ようやく夕刻近くになって許都が視界に入ってくる。
「………変ね」
曹操は、許都を見て違和感を感じた。
「何がですか?」
「桂花、御覧なさい。
城壁の上の柵が取り払われているわ」
「確かに。袁紹軍の新型の弩に対抗するためにわざわざ城壁の上に柵を作ったと言うのに、秋蘭は何を考えているのでしょうか!」
「そう……よね。秋蘭がやったのよね。
まさか一日で許都が落とされるはずはないわよね」
「………それはないと………………思いますが」
「一応、攻撃態勢をとって許都に近づくように」
「御意」
曹操軍は攻撃態勢をとって、ゆっくりと許都に近づいていく。
と、城壁の上に人影がぞろぞろと現れる。
そして、中央のやたら派手な金髪の女が話しはじめる。
「あ~ら、華琳ではないですか。
どこに行っていたのですか?
許都がお留守でしたから、あまりに物騒ですから代わりに治めておいて差し上げましたわ。
オーッホッホッホ」
そう、やたら派手な金髪の女は当然袁紹。
思いっきりご機嫌である。
どうやら、許都はたった一日で陥ちてしまったらしい。
だが、一体どうやって?
「なんですって!
中にいた兵や秋蘭はどうしたのよ!」
「ああ、兵や将ですか?
ほんの少しいたようですが、みんな眠ってましたわ。
困ったものですわね~。
戦うときはおきていないといけませんわよね~。
その点、袁紹軍は皆起きてましたから、簡単に許都に入ることができたのですわ。
オーッホッホッホ!!」
時は若干遡って、その日の朝。
「夏侯淵様!大変です!
城外に袁紹軍がやってきています!」
「何だと!」
見張り兵の声にたたき起こされた夏侯淵は、大急ぎで城壁に登ってみる。
そこには、ピンクの地に金色の袁の文字と色とりどりの花々が刺繍された、不必要に豪華な牙門旗が見える。
どう考えても袁紹の旗だ。
「全軍、攻撃態勢をとれ!」
夏侯淵が兵に指示をだす。
だが、兵はその声に一斉に夏侯淵に刃を向ける。
「……どういうことだ?」
「ごめんなさいね、夏侯淵さん。
昨晩のうちに、曹操軍、みんなやっつけちゃいました」
と、にこにこしながら出てきたのは顔良。
沮授は、荀諶と許攸を許都に潜り込ませ、許都の防衛の弱いところを調べさせてきていたのだ。
その結果、許都で弱いのは城壁に巡らせた柵だという結論に達した。
あの諸葛亮の考えた柵というか楯は攻撃を防ぐには有効だが、反面視界が制限されてしまうと言う問題があった。
このため、夜は城内から敵を見つけにくくなってしまう。
そこで、袁紹軍は曹操軍が帰ってくると分かった前日に一晩で許都を陥としてしまったのだ。
その方法は、まず兵が少しづつ城壁に近づいていく。
そして、一斉に城壁を登る。
袁紹軍の中でも精鋭を選んで、城壁を登る技術や敵を静かにする技術を叩き込んで、これに備えていた。
上ったら柵の楯の部分に隠れて、見張り兵がいなくなったところで一気に柵を乗り越え、見張り兵を倒す。
見張り兵がいなくなったら、もうあとは何でもやり放題。
城門を静かにあけて、そこから袁紹軍の本隊の大部分が入っていく。
兵舎がどこにあるかも、荀諶や許攸がしらべてあるから、そこに入って兵をみんな縛ってしまう。
殺さなかったのは、劉協ができるだけ人は殺さないでください、とお願いしたから。
こうして、その晩のうちに許都の中の兵は全て袁紹兵に変わってしまっていた。
許都の兵が15万いても、取り押さえる兵が15万以上いれば何とかできる作業である。
数千人漏れたって、大勢に影響はない。
そして、朝を待って、袁紹を含む部隊が許都に襲い掛かるふりをする。
だが、もうとっくに許都は陥ちてしまっていたのだった。
ここに沮授の作戦は成就した。
確かに、おとなしい顔をしてえげつない作戦を考え出すものだ。
曹操や孫策とは違い、正々堂々なんて微塵も考えていない。
「勝てばいいのです」
「麗羽!笑っていられるのも今のうちよ!
許都は返してもらうわ!」
「あら、どうやって攻めるのですか?
武器ももう碌にのこっていないのでしょう?
素直に降伏すれば命まではとりませんわよ。
オーッホッホッホ」
曹操は次第に怒りで燃え上がってくる。
「桂花!全軍で攻め込むわ!!」
「で、ですが……」
そんなことをしたら、山のような死者が築き上げられてしまう。
とても、採用できる策とは思えない。
だが、今の曹操、怒りで平常心を失っている。
「どんなに被害が出ようとも攻めきるわ!!」
そんなこと言われても、と荀彧は思うが、曹操の命令は絶対である。
仕方無しに、曹操に従い、特攻まがいの攻撃を仕掛ける。
曹操軍が攻め込んでくるのを見て、城壁の上からは、弓が雨霰のように降ってくる。
だが、不思議なことに弓は曹操兵にぶつかるのみで、命を奪うようなことはなかった。
その代わり、曹操軍の侵攻が、弓の攻撃で何故か緩んでしまう。
「華琳さま~~~」
最前線から夏侯惇が泣きながら戻ってきた。
「春蘭!何をしているの!
戦線を離れるとは将としてあるまじき行為!
今すぐ前線に戻りなさい!」
だが、夏侯惇、泣きながらこう続けるのである。
「もう、戦場はどこにもありません」
「何を言っているの!
あんなに矢が射込まれているじゃないの!」
「あれは矢ではありません。
このような檄です」
と言って、檄(細長い板)を曹操に渡す。
その檄には次のように書かれていた。
曹操変態
陵辱荀彧
肛門挿杭
緊縛快感
現代語訳
曹操は変態だ。
荀彧を陵辱し、その肛門に杭を挿し、緊縛して快感を感じている
「兵はこれを見て、士気を失っております」
それに対する曹操の答えは……
「………どうしてばれたのかしら?」
思わずずっこける夏侯惇。
そして、夏侯惇の闘志は、その日、戻ることがなかった。
更に、城門の上の城壁の高いところに袁紹軍の動きがある。
そして、城壁の上から巨大な布をばさっと降ろす。
その布には、裸の曹操が椅子に座り、後ろ手に縛られ床に転がっている裸の荀彧の肛門の杭を、足で嬉しそうに弄っている様子、要するに檄で描写された風景が描かれていた。
いわゆる、超巨大春画である。
ご丁寧にも総天然色(フルカラー)!
脚を開いている曹操の女性自身の描写も丁寧。
当然モザイクはかかっていない。
控えめな胸も正確に再現されている。
もちろん荀彧の表情はうっとりとしているのである。
こちらの胸は、荀諶の意向もあり、かなり大きく描かれている。
自分と間違えられると嫌だということで。
一刀がゲームの絵を何枚か思い出し、絵師に頼んで書いてもらったものである。
絵の雰囲気は、リアルでなくアニメっぽい。
でも、誰が見ても曹操と荀彧だと分かる絵だ。
ゲームの絵とは荀彧の胸のサイズとモザイクの有無が違う。
劉協ができるだけ、死者が少なくなるようにと言うので、一刀が考え出した曹操軍のやる気を削ぐ作戦だ。
檄文も、状況を陳琳に説明して彼女に文面を作ってもらったのは、やはり一刀である。
ここにきて、ようやくゲームの知識が生かされた………………のかもしれない。
一刀にはおかずにするほどエロくないという判定を下された絵であるが、この時代の人々には効果絶大!
始めてみるアニメっぽい絵に、並々ならぬ欲情を示している。
曹操兵の攻撃は全くなくなってしまった。
「な、な、なんなの、あれは!
早く焼き払いなさい!!」
顔を真っ赤にして指示する曹操であるが、もう兵たちの動きは下半身を鎮めることに集中していて、曹操の命令を聞く余裕がない。
一応、各自の持っている砲で絵を攻撃しているが、射程が届かず…………というより、それは攻撃とは言えない行為である。
荀彧も顔を覆うばかりで、もう何もできない。
「曹操様!」
別の兵が慌てて曹操の元に走ってくるが……
「今度はなんなの!」
と尋ねる曹操の顔を見て、視線を顔から胸→下半身へと移し、顔をまっかにし、腰を引いて去っていってしまう。
服を着ているのに何故か裸を見られているような恥ずかしさを感じる曹操、思わず服の上から股間と胸を手で隠し、兵の後ろ姿を睨みつける。
兵にその気があったら思わず曹操に襲い掛かってしまうほどにエロ可愛らしい。
ついさっきまでは部下の士気を高めていた曹操が、今は部下の士気を削ぐように変わってしまった。
そして、その直後、文醜隊と呂布隊が曹操のところに突撃してくる。
曹操に呂布の方天画戟が向けられる。
「負けた……」
曹操の屈辱的な敗北だった。
あとがき
官渡編ですが、官渡での戦いはありませんでした。
出てもきませんでした。
許都も戦いと言っていいのかどうか……
烏巣も戦いといっていいのかどうか……
まあ、許都の方は曹操負けたので、戦いだったのでしょう。
R18ゲームでの敗北は、本当に屈辱的でした。
次回から赤壁編です。
赤壁の戦いがあるのかどうか分かりませんが。