第二十話 机上の空論、議場の空論 俺は幸か不幸か『帝国領への大規模な出兵』に置いての、作戦参謀『代理』に任命されてしまった。シトレ元帥に「作戦参謀『代理』って、何をすればいいの?」と確認した所、取り敢えずは、作戦会議の時に病気療養になったフォーク『予備役』准将の代わりに、作戦を説明する役を仰せ付かってしまった。「遠慮せずに徹底的にやれ。」byシドニー・シトレ元帥シトレ元帥からの許可が出たので、俺は作戦会議で大暴れしてやる事にした。この時、俺の頭の中のではミュッケンベルガー元帥が『そうか、ならば徹底的にやれ』と命令している様子と、徹底的にやられて指令席にへたり込むロボス元帥の様子が浮かんでいた。あれは、第4次ティアマト会戦だったっけ?まあ、俺は参加して無かったけど。ついに、待ちに待った作戦会議の日がやって来た。統合作戦本部内の大会議室に、統合作戦本部長シドニー・シトレ元帥や宇宙艦隊司令長官ラザール・ロボス元帥、統合作戦本部次長ドワイト・グリーンヒル大将、宇宙艦隊総参謀長クブルスリー大将や各艦隊の司令官など大量の将官が『帝国領侵攻作戦』について話し合う為に集合していた。まず、最初にシドニー・シトレ元帥が発言した。「さて、今回の帝国領への侵攻作戦は、すでに最高評議会によって決定されている。 先ず部隊編成を後方主任参謀を勤めるキャゼルヌ少将から説明して貰おう。」「はっ、先ず総司令官は宇宙艦隊司令長官であるラザール・ロボス元帥閣下が勤められます。 総参謀長クブルスリー大将、作戦参謀コーネフ中将以下五名、情報参謀ビロライネン少将以下三名 後方参謀は四名、実戦部隊としてビュコック中将の第5艦隊、ホーウッド中将の第7艦隊、 アップルトン中将の第8艦隊、アルサレム中将の第9艦隊、ウランフ中将の第10艦隊 イースト中将の第11艦隊、ボロディン中将の第12艦隊、そしてヤン中将の第13艦隊、と 合わせて八個艦隊を投入します。その他を含めた総動員数30,827,400名。 なお、最高評議会の予算処置が降り次第、ルフェーブル中将の第3艦隊が後方支援として参加する予定です。」「この遠征軍の具体的な行動計画はまだ立案されていない。本日の会議はそれを決定する為のものだ。 諸君の活発な提案と討論を希望する。」キャゼルヌの説明が終わると周囲の人々から感嘆の声がもれる。そりゃそうだろ。こんな大規模な遠征は今までに一度も無い、同盟至上初の試みだからな。そして、シトレ元帥から会議スタートの合図があり、その合図を待っていたかのようにウランフ提督が質問をして来た。「総司令官にお尋ねしたい。我々は軍人であるからには、行けと命令があれば何処へでも行く。 まして、ゴールデンバウム王朝の本拠地を突くというのであれば、なお更だ。 しかし、それには周到な準備が欠かせない。先ずこの遠征の戦略上の目的をお聞かせ願いたい。」「作戦参謀『代理』説明を。」戦略上の目的?そんなもんは、初めからねぇだろが!!なに、俺に質問をふってんだよ。まあいい。シトレ元帥の言うとおり『暴れてやる』「はっ、作戦参謀『代理』を勤めますペトルーシャ・イーストです。今作戦を作成したアンドリュー・フォーク准将が ヒステリーで倒れ、予備役になった為、私が代わりに作戦説明を致します。 先ず、戦略上の目的ですが作成者のフォーク予備役准将によると 『大軍をもって帝国領土の奥深く侵攻し、帝国の人間共の心胆を寒からせしめ、更には高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処する』 との事です。分かりやすく言いますと、『行き当たりバッタリ』という事です。」俺の発言に対し皆、思い思いのリアクションで返してくれる。シトレ元帥は苦笑し、キャゼルヌは『やれやれ』という感じで首をすくめ、その他の方々も顔を見合わせたり、驚いたりと様々な反応をしている。ロボス元帥のコメカミには青筋が・・・いや、俺は何も見ていない。そして、ヤン提督は手を上げ発言の許可を求めてきた。「いいですか?」「ヤン中将、どうぞ。」「帝国領内に進行する時期を、現時点に定めた理由を聞きたいのですが。」「選挙が近いからではないかね?」ヤン提督の質問に俺が答えるより早く、ビュコック提督が軽口を挟む。まあ、実際その通りなのだが・・。一応、俺も質問に答えないとね。「現時点で何故、帝国領内への進行するのか?と、言う事ですが・・ビュコック提督の言う通り『選挙が近いから』でしょう。 つまり、政権維持を目的とした出兵という事です。 銀河帝国の軍人の間では、我々同盟軍は選挙が近くなると好戦的になると噂されている位ですからね。 更には、帝国軍の士官学校では『同盟における政権支持率と出兵関係の比例関係について』などと云う論文がある位ですからね。」ビュコック提督の軽口に笑っていた将官達だが、俺が更に突っ込んでした発言を聞いてその笑顔が引きつっている。「えーと、小官がフェザーンにある弁務官府を通じて入手した『その論文』が在りますので、皆さんにお配り致します。」予め、全員分コピーした論文を配ると、将官達の引きつった笑顔が更に引きつる。シトレ元帥は必死に笑いを堪えているようだ。キャゼルヌは頭を抑えている。ロボス元帥は・・・見なかった事にしよう。「今までは、前任者のアンドリュー・フォーク予備役准将の作戦を説明しただけですが、 ここからは、小官の考えを話させて頂きます。 先ず、敵の司令官はローエングラム伯になると思われます。 そして、私がローエングラム伯ならば・・・焦土作戦を使い同盟軍と戦うでしょう。」「焦土作戦?」 「はい、同盟と接する各星系から食料などの物資を引き上げる。そして、進行していった我々同盟軍から帝国の民間人を使い物資を吸い上げる。 我々が帝国人民の解放をうたっている以上、飢えた民間人がいれば食料の提供をしない訳には行かないですからね。先ずはそこを突いて来るでしょう。 そして、物資を搾り取れるだけ搾り取ったら一気に反撃に移る。・・・あくまで最悪のパターンだったらですが。」「では、一体どうするのだ。」「・・・対策としては、進行するに当たって兵力の分散せず、占領については、無計画に占領地を増やさない。これを基本計画とし、帝国軍の反応を見て 場合によっては早期撤退も視野に入れる必要があると思います。」かなり消極的な作戦だ。簡単に言えば、『泥棒が玄関を覗き込みながら軽く声を掛け様子をうかがい、怖そうなオヤジが出て来たらすぐ逃げる。』こんな感じだ。戦略的目的が何も無い作戦だ。まあ、元があんな作戦だし仕方ない。俺の説明に対し、シトレ元帥は満足そうに頷いているが、ロボス元帥は不満顔だ。他の提督達に至っては、凄くやる気が無さそうだ。もう、今にも帰りたそうにしている。きっと今作戦の『戦略目的が無い事』や『政権維持の為に戦え』ってのが効いたのか?現実が予想以上に酷い為に、心が折れてしまったのだろう。「かなり、消極的な作戦の様に感じるのだが・・・」ロボス元帥が俺の作戦に不満そうに口を開くが「いえ、作戦参謀代理殿の作戦は素晴らしいと思います。」「その通りです。とても、素晴らしく非の打ち所がありません。」「完璧な作戦です。」「流石、第3次ティアマト会戦の英雄ですな。」「反対意見の方は?」 一同「「「異議なし!!!」」」「では、満場一致でペトルーシャ・イースト提督の作戦を採用する。以上を持って、本会議を終了する。では、解散!!!」各艦隊司令官から次々に俺の作戦への賛辞の声が上がった為に、ロボス元帥は口を封じられ、間髪入れずにシトレ元帥が「満場一致で」と俺の作戦採用を決めた為に、満場一致?で俺の作戦が採用された。シトレ元帥も、他の提督達も酷い奴らだ。可哀相に、ロボス元帥は発言を遮られた時のポーズで固まってるぞ。って、シトレ元帥はもう帰ってるし・・・。他の提督も次々に席を立って帰って行く。まさに、『はい、はい、もう終わり。帰ろう、帰ろう。』って感じだ。仕方が無いので、俺も帰る。ちなみに、一人固まった状態で取り残されたロボス元帥が再起動するまで5分を要したが、そんな事は誰も知らない。統合作戦本部内のアレックス・キャゼルヌの執務室にヤン・ウェンリーとダスティ・アッテンボローと俺が尋ねて行ったのは帝国領侵攻作戦の会議が終了した次の日だ。話題は自然と『帝国領侵攻作戦』と『先の会議』へと移る。「それにしても、中々上手い会議の運び方でしたね。イースト提督。」「へえ、そんなに面白い会議だったんですか?」ヤンの会議の感想に真っ先に飛び付いたのは、伊達と酔狂が大好きな自称革命家だ。「最初に戦略的目的が無い事を強調し、次に戦略的意義が無い事を強調する。この場合は、今回の出兵が最高評議会で決定された理由が『選挙の為』だったという事で まあ、実際はどうか分からないが、こんな小道具まで出したお陰で、皆『選挙の為の出兵』と信じてしまったんじゃないかな?」ヤンは、俺の用意した帝国の論文『同盟における政権支持率と出兵関係の比例関係について』を読みながらアッテンボローに会議の経緯を説明している。「ああ、あれで一気に厭戦気分が蔓延したからな。」「厭戦気分って、・・それは不味くないですか?」「普通は不味いんだろうね。でも、今回は構わないんじゃないかな。」「今回は高い士気で帝国領深くに突入していくより、入り口辺りで威力偵察程度の軍事演習をする位が望ましいな。危なくなったら即撤退でよろしく。」実際の所、作戦会議は予想以上に上手くいった。『ローエングラム伯が敵の司令官になる。』、『敵は焦土戦術を使ってくる。』これらの事は、俺の原作の知識であり、なんらの証拠も無い。憶測に憶測を重ねた意見と言われても反論でき無い、もし会議の席で証拠を示せと云われたら万事休すだった。会議場に蔓延した厭戦気分・・・と言うより、『やってられっか。』とか『馬鹿馬鹿しい。』が諸提督の本心だろう。これらのお陰で、消極的進攻作戦を採択し、会議を早々と打ち切る事が出来た訳だ。実際に打ち切ったのは、シトレ元帥と諸提督だが。俺が、ブルース・アッシュビー位有能だったら、『俺には判る』と言って開き直る位出来るんだが・・・。「完全武装のピクニックって事ですか?」「・・・アッテンボロー、その発言は、不味いぞ。フラグが立つ。他には、一気に進行し物資回収中の帝国軍を急襲する作戦とかあるけどボツにした。」「フラグ?それより、どうしてその急襲作戦はボツにしたんですか?」「本当に焦土戦術をやるかどうかなんて、実際には帝国領に進攻してみないと分からないだろ?『急襲したら万全の迎撃体制で待ってました。』ってな事になったら馬鹿だろ。 飛んで火に入る夏の虫ってやつだ。フォーク予備役准将の曰く『高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処する』だ。」「行き当たりバッタリ・・・か。」「そう云う事。」「「「・・・・・・。」」」・・・・・つづく。主人公の作戦は『威力偵察程度の進攻』って事になりました。色々、皆様からアドバイスがあったのですが作者の頭では上手く扱えませんでした。タイトルについて、銀河演習伝説・・・『銀演伝』もしくは『銀習伝』でいこうと今の所思っています。年明け早々、色々とゴタゴタしてしまい更新が遅れてしまいました。これからは、更に遅くなると思います。ご容赦の程、よろしくお願いします。