「ジュエルシード、封印!」
遥か眼下、下界では、封印を行っているなのは。神社で犬を取り込んだジュエルシードと戦っていた。
「なのはが天才で、レイジングハートが優秀でよかった」
『うっかりセレスタルストライカーを放つところでした』
なのはがモンスターに襲われ、エイダはザ・ワールドを無断で起動した。空間と時間に歪みが出て、カートリッジを馬鹿みたいに消費するから嫌いなのだが、この時ばかりはエイダの機転に感謝した。エイダの冗談みたいに、セレスタルストライカーを撃てば私は発見されただろう。
止まった時間の中で、なのははバリアジャケットをしっかり装備していた。戦い慣れてはいないが、その魔法の才能は恐るべきものだった。
「次は何だったか」
『私にその記憶はありません』
エイダに、私の前世の記憶は無い。私の記憶はあやふやだ。ジュエルシードが犬を取り込むのは、原作では昨日だった気もする。
記憶だけではない。最近になって気づいたことだが、私の性格が変わっている。これが『精神は躯に曳かれる』という現象か。いまだアリサからは『男らしい』とか『紳士的』とか言われるが、私の根本の部分が変わりつつあるのが判る。十余年、確固たる意思を持つ人間でも、変わるには充分な時間だ。
「そうだったな。まあいい、引き続き監視だ。明日にはまた発動するはずだ」
高町家周辺に大量の魔力を送る。不自然にならないほどに、回復に指向性を持たせたものを。怪我の治りは早くなり、疲労の回復も加速される。
今までイレギュラーが発生したのは一度だけ。だが、これからまた発生しない保証は無い。なのはが疲労あるいは警戒不足で敵にやられたりすれば、その時点でシナリオは決定的に変わってしまう。あと一年、闇の書事件まではそれなりにシナリオ通りに動いてもらう必要がある。
「私が世界を創れたら、誰もが幸せな世界を創るのに。何故神は、こんな歪んだ世界を創った設定の神は崇め奉られるのだろうか」
『便利だからではないのですか?』
世界の無情を神に例えると、エイダが答えをくれた。その必要は無かったのだが。
「だとしても、人間は神のキャラメイクに失敗している。人間が創るものなど、所詮全能には程遠いいい例だ」
破壊神の器の私。神の器として造られていながら、全知全能とは断じて言えない。完璧を目指して造られていても、死ねない生命は不完全という矛盾をはらむ。
『ですが、ハンス・ウルリッヒ・ルーデルを信仰しているのでしょう?』
「ルーデル教は心構えとジョークのようなものだ。閣下の復活など、信じている信者の方が少ないのではないか?」
『熱心に布教している割にはドライですね』
「信仰するというのは、愚か者が神にすがるという意味だ。強くあるべきことを教えの根幹とするルーデル教は、その点に関して宗教ではない」
そんな馬鹿な話をしながら、地上に異変がないか探す。いい加減に暇なのだ、エイダが話し相手をしてくれなければ、退屈で魔法を乱射したくなる衝動に駆られる。
「……今日は運がいいな。見つけた」
『反応はありませんが』
「パッシブで反応を期待する方がおかしい。よし、ロックした。シール用意」
『了解、シーリングプログラム・バンダースナッチ起動』
その伸びる魔力の腕で、ジュエルシードを掴み、同時に封印を施す。同時に、金色の光を捕捉した。
『フェイト・テスタロッサの反応を確認』
「知ってる」
起動したジュエルシードは無い。私の魔力反応を感知したのだろう。
『ジャミングに失敗しました』
「面倒だからって、遠隔操作系の魔法使うべきじゃなかったな」
今更の報告に、怒る気にもなれない。そもそも、私の失敗なのだ。
「あなた、でしたか」
「空気は薄くないか? 寒くないか? 苦しいなら、下界に降りるが」
「その必要はありません」
「生真面目だな、フェイト。プレシアの機嫌はどうだ?」
「…………」
無言で睨まれた。
「そう怒るな。これをやるから」
ジュエルシードを放る。フェイトはうまくそれをキャッチし、バルディッシュに回収する。
「何が、目的?」
「私が知る、全ての人にハッピーエンドを迎えてもらう。そのためにシナリオを書き換える。こんな悲劇、本当は26年前に阻止したかったが、な」
クライドは間に合ったが、あの事故の時は、私は世界に存在していなかった。
「プレシアに渡して欲しい物がある。受け取ってくれるか」
「なんですか」
「これ。ついでに伝言を」
ベクタートラップと名付けられた、ただのサイドパック。そこから私の補足と仕掛けが追加され最後の重要な記述の抜かれた『真・生命還元法』と『独ミ辞書』を取り出す。ミッドチルダの言語だったはずだから、これをつけておくべきだろう。
「……伝言は」
「『アルハザードには死者蘇生の術は無い。あるのは死体を傀儡にする術のみ。パスコードはRex tremendae』。覚えたか?」
「はい」
なかなか記憶はいいようだ。問題があるとすれば、Rex tremendaeのつづりを間違えないことだが。もう少しネタが判る人なら、この次の、重要区画のパスコードも判るはずだ。そう、これは『あの施設』のゲートのパスコードだ。
「頼んだ」
前と同じくゼロシフトで、今度は高度100kmまで駆け上がる。無音発動で警戒もされず、宇宙空間に逃げることで絶対に追われない。自己保護でカートリッジの消費が激しいが、実はそんなに気にする必要は無い。最近は消費より生産が多いくらいだ。最大秒間消費量が多いだけで、訓練や実戦ではそんなに使わないことが判ってから、屋敷のアーセナルではカートリッジが文字通り山となりつつある。アルトの37mmカートリッジも、密かに生産中だ。
「フェイトの部屋の屋上。ゼロシフト」
フェイトに警戒され、上空監視ができなくなった。行き場のなくなった私は、とりあえずバラバラに地上に降りることにした。
《あとがき》
原作開始の4日目のことです。
思ったより進んでいました。
呪われたフェイトの足の小指が気になる。
Nov.8.2009
あとがきを修正。
話数変更するの忘れてました。