「やあ士郎。なのはは起きているか?」
なのはがねぼすけなのはよく知っている。ましてや、昨日は疲れる事が多かったのだ上、遅くまで外出していたのだ。
「ああ、ハン……エルテちゃん。まだ寝ているよ」
「ふふ……アルトは区別がつくのに、まだ私とハンナと区別がつかないか」
「いや、二人ともハンナさんに似てる。でもアルトちゃんは歳相応のおてんばさというか、そういうのがあるけど、エルテちゃんは落ち着いてるからね」
玄関先でずっと話している訳にはいかない。流石に時間に余裕がなくなってきた。
「褒められているのやら。それはともかく、なのはを起こすべき時間じゃないか? あのねぼすけ、昨日は夜ふかししたみたいだから」
「昨日、何があったか、知っているのかい?」
士郎のまなざしと声が鋭くなる。地雷を踏んだかもしれない。
「知っているが、話すことはできない。話したとしても、なのは以外にそれを止める権利は無い。知らないフリをして、黙ってなのはが話すまで待つのが最良だろう。あの鋼の意思を止める事は、文字通り縛りつけなければ無理だろう」
「確かに、頑固だからなぁ」
一つ、タメイキ。士郎は相変わらず難しい顔をしていたが。
「考えるのは後でゆっくりするといい。それよりも、時間が来てしまった」
その日、少女を担いで疾走する銀髪の少女が街で目撃された。
「ふえええ~~」
短距離走並みの速度で、バスを使う道のりをマラソンすれば、そして走者に担がれていては流石に眼を回すだろう。しかも色々とショートカットをしたものだから、バスより早く着いてしまうファンタジー。
「だるい。疲れた」
「そうは見えないの」
「罪悪感を感じるがいい、このねぼすけ。私の勘が悪ければ、なのはは遅刻していた」
「う、ごめんなさい」
「言うべき言葉が違う」
「ありがとう」
「ああ、どういたしまして」
うっかりターミネーターっぷりを発揮して披露してしまったが、別に問題は無い。
「にしても凄いわね。あの距離を、しかもなのはと荷物を担いで完走するって、どんだけよ?」
「世界記録、いけるんじゃないかな」
「ふむ、かく言うターミネーター二号君は私より高機動かつその無尽蔵の体力で私以上の記録を期待できそうだが」
そう、この月村すずか閣下は、恐ろしいまでの機動性と力と体力を持っている。体育などでは、全力ではないがそれでも人類の常識からはみ出るくらいで対応しても、普通に負ける。あれが全力かどうかは知らないが。
「将来は人類の抵抗軍のリーダーを守る鉄壁のガーディアンとなり……」
「もう! 私はそこまで強くないよ。それにそんな役は私よりエルテちゃんの方が……」
「いや、私は既に将来が決まっている。黄金柏葉剣付ダイヤモンド騎士鉄十字勲章の魔王の再来として――――」
「『A-10神サンダーボルトを駆り、世界中に愛の鉄槌を!』でしょ。まったく、ルーデルネタ、よく飽きないわね」
「ルーデルだからな」
「ルーデルだもん」
私とアルトの声がハモる。
『我等は破壊神の末裔』
「どこから落ちても死にはしない」
「誕生日は7月2日」
「シュトゥーカリートはソラで歌える」
「エスコンではA-10神をつかう」
「急降下爆撃が好き」
「飛行機にはおとされない」
『いくぞバニングス、出撃だ!』
「ステレオでハモるんじゃなーい! って、どこに連れていくのー!?」
両脇を固めて浮かせて、連行する。
『いざ、花を摘みに! シュトゥーカ、シュトゥーカ、シュトゥーカ!』
「きゃー」
「楽しそうだね、アリサちゃん」
「うん、でも……」
やっぱり、昨日の鎧の人と、とっても似ている。口調といい、雰囲気といい、あの優しい黒い右眼といい。
「なのはちゃん?」
「なんでもないの」
あの人は背は私より高かった。エルテちゃんは私より少し低いくらい。だから、あの人はエルテちゃんじゃない。
もしかしたら、あの人はお父さんが言っていたハンナさんかもしれない。
「それよりも、ルーデルネタってどういう意味なのかな?」
話題を変えるついでに、ずっと気になっていたことを聞いてみた。アリサちゃんとすずかちゃんは判ってるみたいだけど。
「アルトちゃんたち、名字がルーデルでしょ? その名前、昔のあまりにも有名な軍人さんと同じなの」
「どんな人なの?」
それは、あまりにも突拍子もない話だった。
曰く、戦車を『少なくとも』500輌は破壊した。
曰く、戦艦も撃沈した。
曰く、機動性も悪い鈍重な攻撃機で敵エースを撃ち落とした。
曰く、何度も撃ち落とされていながら、すぐに戦場に舞い戻る不死身のエース。
曰く、戦闘機には撃ち落とされたことがない。
曰く、スターリンから名指しで懸賞金をかけられた。
曰く――――
「す、凄い人なの」
意味は判らないけど凄いことはわかる。
「まだまだあるんだけど――――」
「人間とは思えない、不死身で人類史上最強の破壊神と覚えておけばいい」
「あ、おかえりなさい」
「ただいま~。おねえちゃんが大好きなルーデル閣下の話?」
アルトちゃんまで『閣下』と呼んでいた。なんか違和感。
「同じルーデルだと、我々と区別がつかん」
あれ?
夜は私の世界。
なんの為に黒いコートと鎧をバリアジャケットにしたのか。それは夜間戦闘の視認性を低めるため。昼間は昼間で対策できるよう、コートに仕掛けが施してあったりもするが、私は夜が好きだ。この涼しい風、眼下の輝き、人が恐れた世界。
「いい夜だ。月は無く湿度は低く、風もなければ音もない」
バリアジャケットのコートの裾が、言葉を否定するように翻る。
「訂正。少しは風がある」
独り言。私が何人いようと、私は一人なのだ。アルトは別の場所で、私の腕の中で眠っている。
「だが、悪くない。涼しい――――」
『魔力反応を確認。狭域探査魔法です。欺瞞工作の痕跡を確認』
だらけていた躯に緊張が充填される。
「ロックオン」
『ロックオン。対象を拡大します』
左眼のHMDに映し出される映像。赤外線パッシブ・アクティブ、サーマルスコープ、スターライトスコープ、マジカルスコープ、通常の順に切り替わり、対象の情報を教えてくれる。
『セレスタルストライカー、Ready』
「……今回は監視だけだと言ってなかったか?」
『保険です』
何があるか判らない世の中だから、備えておくのはいいことだが。今日は私が高空で一人で監視するのだから。
『ゼロシフト、Ready。オプション、衝撃波キャンセル・風圧キャンセル・無音移動』
「対象がやばくなったら、勝手に撃っていい」
『どの程度やばくなれば?』
エイダは冗談は言うが、真面目な話は真面目に返す。私にとっては悪友のような存在だ。非常に優秀なAIだと言わざるを得ない。時々、冗談に聞こえないジョークを言うが。
「ギリギリまでだ。念のため、ノスフェラト用意しておけ」
『了解。ノスフェラト、Ready』
多目標追尾誘導魔法弾を用意して、もしもの時の為に備える。私の魔法は超広域戦略攻撃に特化しすぎていて、小さい目標を制圧したりするには、燃費が悪ければ使い勝手が悪い。デフォルトのアヴェンジャーモード、対空用の連射速度に特化したバルカンモード、近距離から中距離まで長時間弾幕を張れるミニガンモード、そして最近見つけた、小細工用のマイクロガンモード。まるで爆撃と防御のみに特化しているように見えてならない。
「カートリッジロード、ストー。海鳴市全域に結界を張る。対象に気づかれるな」
『よろしいのですか? 100発も使えば、リロードに15時間はかかります』
「下手に誰かに騒がれて、大事になるのは避けたい。この前の動物病院だって……」
かなりのニュースになった。あり得ないことだが、目撃者がいなかった。だから何事もないのだが、今回もそうとは限らない。
『対象に発見されました。全域結界は不要です。対象より半径100mに結界を施行します』
「……全く。監視だけって言ったろ」
エイダは私に対して過保護だ。不必要だと判断すれば、マスターである私の意思すら無視する。道具としては最悪だが、相棒としては最高だ。時折、それが疎ましく感じるが、エイダには開発段階でインストールされた、先人の経験と知識がある。戦闘に関してもそう。つまり、私より遥かに戦い慣れている、ということだ。私がある程度エイダに従うのも、それが理由。
『対象、戦闘を開始。サポートの必要はありません』
「引き続き監視を続行。対象に危険指数がなくなれば結界を解除。さて――――」
高空は消耗が激しすぎた。今は雲より少し下。空気の薄さにも慣れ、気温だけに魔力を消費できる。カートリッジは忘れたころに勝手にロードされる。本当はしなくてもいいが、エイダは可能な限り私の魔力を満タンにしたがる。
『対象の戦闘が終了しました。対象はジュエルシードを取得。結界を解除、ジャミングを実行しました』
「早いな。何もできずに終わった」
見てみると、対象――――フェイト・テスタロッサは……
「……当然か。俺は怪しい者だ。時と場合により敵にも味方にもなってやれる」
「…………」
「そう怖い顔をするな。ほら、お望みのもの、一つ」
カラスから回収したジュエルシードを一つ、投げてよこす。
「! どうして……」
「気分だ。それに……」
ジュエルシードが、すべて揃うことはない。鋼の意思、白い悪魔がいくつか集めるだろうから。
「まあいい。後2、3回ほどジュエルシードの暴走を見逃してくれ。白い魔導師には接触しないでほしい。どこかの屋敷で猫が巨大化したら、その時点で行動・回収していい」
「…………」
「それまで我慢してくれたら、俺が集めたジュエルシードは全部やるよ。暴走してなかったら自由に回収してくれていい。それを邪魔する権利は俺にはない」
「……わかった」
「いい子だ、フェイト」
驚きに、フェイトの眼が見開かれる。
「じゃあな。ゼロシフト」
亜光速での移動は、人の眼では確認できない。フラッシュムーヴとは違い直線でしか動けないが、10kmを一瞬で移動した俺が再び視界に入ることは無い。残像くらいはあったかもしれないが。
同じ大気中に私と監視対象がいれば、マークした相手をいつでもどこでも自由にひたすら監視できる究極のストーカー魔法、ヘルゼリッシュを使い、音も風もなく瞬間移動した俺に対するフェイトの反応を見て、家路についた。
《あとがき》
フェイトさんと遭遇。
なるべく原作通り大筋を進めたい主人公エルテさん。
エスコンネタとルーデルネタがまだまだ続く予定です。
実は、最初、アルトの名前はトート(Tod=死)でした。不吉すぎるのとエルテのセンスが悪くなるからAltキーにしたわけです。結構メインになるはずが、どんどん影の薄いキャラになりつつある現状。自我バリバリのデストローイ! なキャラにすればよかったかな……名前トートで。
Oct.25.2009
少し修正。