はやての回復は順調だった。それに比例して私の脚は動かなくなっていく。だが、不便ではない。たかが一個体が行動不能になろうが全体にはほとんど影響もないし、最悪でも胸まで麻痺したとしても特に個体の生存には問題はない。それに、麻痺している個体がはやてと顔を合わせることもない。闇の書のことを知っているはやてに簡易ラボとして借り受けている部屋に隠し、足の麻痺が進んでいないように装う。
あともう少しでD-day。ヴォルケンリッターそのものに害はないだろうし、はやては家族が増えることに喜ぶだろう。個体を消耗しながら闇の書をゆっくりと解析していけば、いずれ管制人格も何事もなくサルベージできるだろう。少なくとも、ルーデル閣下封印記念日、そしてその後にあるどこかの宗教の誰かが生まれたとかいうのを祝う日までには時間を稼げる。それを超えた場合、可能性として『安全装置』が作動して破壊・転生するかもしれない。
「どうだ」
『ギル・グレアムは白です。ただ、彼の協力者に何人かグレーが。その協力者に繋がる者の中に黒が何人かいます』
それ以上に私が恐れていること。ギル・グレアムに間接的に協力している者の中に、『不法に魔導師を入局させている者達』が存在した。恐らくは、魔力至上主義者あるいは管理局信望者。魔力を持っている、そのことに選民的な優越感を持つ者、あるいは強大な魔力を持つ者をいかなる手段を以てしても管理局のために引き入れようとする者。この二者はたいていイコールで結ぶことができ、厄介なことに自分の行為にが悪であると理解してもその行為を正当化する自分への言い訳が存在するから、まったくといっていいほど罪悪感を感じていない。証拠隠滅も隠蔽工作もしっかりやるし、なによりある程度の権力を持っていたり、高い戦闘能力を持っていたりする。
「黒のリストを。名前、発覚していない前科、証拠、被害者で」
『Sir, Jawohl sir』
エイダがまるでドイツ軍人のように返事をする。ドイツ語版フルメタルジャケットを観たらしい。
『イレースプランはどうしますか?』
「海は全て同時に派手に吹き飛ばす。陸は内部浄化がなかなかだしな、摘発程度でいいだろう」
海の上層部はかなり腐っている。程度にもよるが、犯罪者にも魔力資質があれば管理局で働くことでその罪を清算するようなシステム、これはまあアリだ。正史のフェイトも、この制度のお陰で実刑にならずにすんだ。問題は、内部の不正に対してもこれが適用されることだ。あまりに酷いものであれば話は別だが、結局お咎めなしにも等しい。陸では減給から始まり刑務所は当たり前、果ては終身刑や死刑も実行されたことがある。ギリギリの人事のせいか、そもそも不正の発生そのものが少ないから、問題となってはいないが。海でこれを今やろうとすればかなり戦力や人材が削られるだろう。
『…………』
「正しいとは言わんさ。正解でなければ間違いでもない。罪だが、奴らを野放しにして害を被るよりかはマシだ」
『まるでマフィアですね』
「そうも言えるか。だが、ファミリーの殆どは善良な一般市民だ。そして彼らは何も知らない。平穏は砂上の楼閣であることも、管理局が牙を剥くことも、私のことも。そして、動いているのは私一人だけ」
『心外です。私を忘れるとは』
エイダが、いつもの平坦な声に怒気を含ませた。もしこいつが『うっかり』なんかすると、なかなかかわいい反応を見せてくれそうだ。
「ああ、すまないな。勝手に一人きりだと思い込んでいた」
『パートナーを忘れるとは。まったく』
「一身同体ということで許してくれないか」
『もう怒っていません』
やれやれ。まるで恋人の痴話喧嘩だ。犬も食わないほどに甘ったるい。
『証拠がある者はフェリスによる警告、ない者で比較的軽いものは説得の後自首を勧め、悪質なものは一応説得をし、その反応により対処を決める。これでよろしいですか?』
「ああ。PT事件の『関係者』はどうなった」
PT事件。あの事件で気になったのは、なぜプレシアがジュエルシードの輸送情報を、ロストロギアの輸送情報を知ることができたのか、これに尽きる。ロストロギアの輸送はその危険性から、ロストロギアを狙う賊などを考慮して秘密裏に厳重に輸送される。PT事件の時のように輸送船が単艦で輸送することはまずあり得ないし、その輸送ルートを外部の人間が知ることはできない。
プレシアに訊けば、ジョン・ドゥと名乗る管理局員から情報を得たという。時の庭園の崩落のせいでかなりの情報が消えてしまったが、ジョン・ドゥに関係する情報も破損してしまった。
私は、このジョン・ドゥが輸送船を単独行動させたのではないか、そう睨んでいたが、どうやら正解だったようだ。
『突き止めました。アーク・ジィル。本局武装隊所属の一等空尉。訓練校時代から一匹狼で、今まで小隊に組み込まれたことはありません。ランクはA。任務達成率から優秀といえるでしょう。ジィル家は極めて保守的な軍人の家系ですが、アークは例外です。管理局法を平然と無視し、その功績から見逃されているような状態です。いわゆる問題児です。PT事件では誤報で輸送船を単独行動させていることになっています』
「ZIL……探りを入れるか」
『黒のリストには入っていませんが、ギル・グレアムの協力者にアーク・ジィルが存在します。隠蔽や偽装でギル・グレアムにすら知られていませんが、他の過激派と比べてもかなり行動が活発です。行動の内容自体はおとなしく、管理局への勧誘にも違法性はありません』
「…………」
まさか。可能性としてはあり得るが、それが正しいのか。
『ランナー?』
「……アーク・ジィルは、私と同類かも知れない」
『上位世界からの転生者、この世界の行く先を知っていた可能性がある、と』
「かもな。しかしそうであると仮定しても、その正史の記憶はすでに役に立たない。私という異物のために」
『未来の記憶という観点では、ランナーにもアドバンテージはありません』
汎用デバイスを模したヴュステファルケがカートリッジを吐き出す。魔法物質ならではの強度と軽さを誇るそれは、本来であれば長大重厚にして連射速度に劣るヴュステファルケにSMG並みの連射性能をもたらした。
俗にい言う引き撃ちをしながら、敵をバカスカ撃ち落としていく。
「それはどうでもいい。問題は、それを根拠に自分を特別だと思いこむことだ。私とて、『破壊神の器』という馬鹿な物を得てはしゃいでいたんだ。Aというランクも、おそらくそれに拍車をかけるだろう。気になるのは、PT事件を発生させようとして事件そのものには関与していないことだ。グレアムにもかなり遠回しに関与しているだけで、直接的な行動は一切ない。エイダ、しっかり調べておいてくれ。本当に黒なのか……気になる」
『Ja. ときにランナー、私なしでの戦闘はどうですか?』
エイダは未だ諜報にそのほとんどのリソースを割いている。アヴェンジャーの性能の全てを引き出すにはエイダのサポートが不可欠だが、それが得られない今、単純に私の躯に依存した戦闘をするしかない。単位時間あたりの制御魔力が比較的少ないヴュステファルケによる魔力銃撃と身体能力をフルに使った機動。デバイス本体に最低限の制御リソースがあり、AIと切り離すことができるからできる芸当だった。
「なかなか気分がいい。カートリッジの消耗は仕方ないにしても、ダンテにでもなった気分だ」
『How do you like me now?』
「それを言わせたいならさっさと仕事を終わらせるんだな。パーティーの花火には火力が足りない」
強攻突入した研究所、ここでは様々な違法研究があり、本来ならセンチュリアを投入し叩き潰すべき場所だ。それでも強攻突入、そして潰さずに実験体のみを転移させ撤退したのは、ただ単に泳がせて更なる情報を得るためだ。たとえ移転しようが、既に何人かはすり替えてある。
追いかけてくる警備員やガードメカに12.7mm高圧縮徹甲非殺傷魔力弾の弾幕を浴びせ、死屍と瓦礫の山を築く。一回のトリガープルで一発のカートリッジを消費し、その魔力を可能な限りそのまま魔力弾に変換する。高圧縮徹甲能力の付与は、私がやらないといけない。機関砲をフルオートで撃ちまくるような連射速度だ、一発にかけられる時間は一瞬もない。空のカートリッジがじゃらじゃら飛んでいく。
「もう一人持ってくればよかったな」
『もう5人の間違いではありませんか?』
「まあ、それだけエイダがいれば百人力どころではないな。うまくいったぞ」
『こちらでも確認しました。枝及びシステムの掌握は完璧です』
何人かの研究員とすり変わった私が、研究所のシステムとエイダにパスを通した。
「戻ってこれるか」
『とっとと片付けましょう』
「Gut. さらばだ諸君、また会おう」
[[ノスフェラト、Ready]]
「Feuer」
『マッハで蜂の巣にしてやんよ』
久々に放つADMMは、その弾数ゆえの莫大な消費魔力を残ったカートリッジでは補えず、珍しいことに私の魔力を削り使う。
通路という通路を通り、扉という扉を破壊し、人という人を貫き、最後の一発が着弾すると同時に、動くものは一切なくなった。研究に必要な施設には一切傷をつけず、誰も殺さず、綺麗に蹂躙した。
私よりエイダがハイテンションだ。口調は淡々としたものだが、もはや私より人間らしいのではないか。
『ハハ、見ろ、人がゴミのようだ』
「自重しろ。施設内の動体反応は」
『ありません』
「よし、撤退だ」
念のため結界を張り、その中で転移する。
「! なによ、またマネキンじゃない」
「すごくイヤな予感がするけど……」
魔法を知ったアリサとすずかに、サイレン・ヒルの結界を楽しんでもらっている。今はまだ表世界、太陽がなく、明るいのに世界に色が少なく、いつも見慣れた風景は霧に満ちている。メリーさんの時はまだ完成しておらず、クリーチャー役を私がやることになったが、改良したこの結界は不気味なオブジェが現れる。これは罪を犯していない者仕様で、俗に言うホラーアトラクションだ。罪を犯したものは、その者が『死ぬほど』恐ろしいものが出る。
「あ、なのはちゃん」
「なんでなのはがここにいるのよ! 偽物よ!」
「そうだよね……うん。大丈夫」
目の前を横切ったなのはの幻影についていきそうになったすずかを、アリサが止める。
「ハリーだってうっかり追いかけたから3で宇宙人になったのよ」
「何がどうなってそうなったんだろ……?」
また懐かしい話を。戻ったらZEROから3までやらせてみせよう。部屋と家が来いはなかったことにして。
「変な宝石は見ても近づかないこと。宇宙人にさらわれるから。あと電波な格好の女にも。ビーム食らうわよ」
「この世界、ホラーだったよね?」
「柴犬に会えばこんな恐怖ともおさらばよ!」
犬はこの世界に存在しない。残念だったなアリサ。犬の怪物は存在せど、それは今の世界にはない。二人がいるのは、誰もいないだけの、ただ不気味なだけの世界。本来は少しだけ優しいという修飾文が入るが、今はそれと一緒に悪戯心が詰め込まれている。
二人は騒がしくゴーストタウンのような海鳴を歩く。時折、まるでそこから先が消滅したような道の断裂や障害物に阻まれるが、流石と言うべきか、私が用意した謎解きは多少時間はかかってもあっさりとクリアされてしまう。
「えーと、『英雄の墓に敬意を。無限の円環に。白き死神に。無傷の王に。戦乙女の亡霊に。人類最強の破壊神に。凍空の猟犬に。異界の殺戮者に。黒の悪魔に。無垢なる閃光の守護者に。手向けるに相応しきものを』」
「なんでドイツ語なのよ。読めるからいいけど。要は台座にそこらに落ちてるおもちゃを置けばいいのね?」
「そうだと思うよ。それにしても」
「女の子の部屋じゃないわね。落ちてるものが」
少年が眼を光らせて道を踏み外しそうなものばかりがそこにはある。あからさまな『お嬢さまの部屋』に落ちているべきではない。
「ウォーバードコレクションが全部に、ロボットとか。エアガン・ガスガン・電動ガン、刀剣類まで……」
古今東西の名機、名銃、銘刀、それらがある程度揃っていた。
天蓋付ベッド、赤い絨毯、脱ぎ散らかされたゴスロリドレス。本来なら床から天井までそこらの一般人が描く富豪のお嬢さまの部屋が、雄々しく蹂躙されていた。
「これね」
「あったよアリサちゃん」
どんどん見つけては台座に物を置いていく二人。
アリサとすずかだから出せた問題だ。予備知識なしで解くには、このゲームを隅々まで調べる必要がある。
あの独特の間をおき、あのよく響くカギの開く音がした。
「バイオハザードのやりすぎだと思うよ……」
「この先ね……」
扉の先は
「ゴールだ。おめでとう」
普通の、ルーデル屋敷のエルテの部屋。カーテンは引かれているが、その隙間からは日光が差し込み、今までの薄暗い世界から解放されたことを意味していた。
「死ぬほど怖かったわよ!」
「やれやれ。最初に言っただろう。静岡だって」
「あーもー! 自分の愚かさに腹が立つー!」
「そこまで予想外だったか」
「悪趣味よ! いつの間にかすずかがマネキンにすり代わってたり、すずかを追いかけたら道がなかったり、すずかと再開したら心臓止まるかと思ったわよ!」
「楽しんでくれてなによりだ。本当なら、ここで希望から絶望に叩き落とす予定だったが、さすがにアリサを泣かすわけにはいかなくてな」
「あ、あはは……」
「な、泣かないわよ! ちょっとすずか! なんで苦笑いしてるのよー!」
今日も海鳴は平和だ。若干なのはがハブられている気もしないでもないが、あっちはあっちでアルトと全力全壊している。もはやガイアでは壊れては困るモノだらけ、無人の管理外世界で死合している。アルト相手だと死ねないが。
PT事件からまだ一ヶ月も経っていないが、フェイトの裁判もそろそろ終わる。正史より格段に短いが、ルーデル機関の関与であらゆる事務処理が恐ろしく速くなっている影響だ。フェリスの関与が最も大きいが。
闇の書自体はもはや解決したに等しい。問題は管理局。
《あとがき》
はい、転生者がいるかもしれないということになりました。ZILが転生者かどうかはさておき、ロシア車なんて誰も知らないだろうと思って名前をつけてみたり。GAZとか誰も知らない……
あ、ドイツ車は世界一です。日本車は2位です。バイクはカブかY2Kが欲しい。飛行機はユンカースかフェアチャイルドかスタヴァッティかな。アメ車は唯一ストライカーが欲しいですねー(普通車ちゃう)。
アリサとすずかの答えはわかりましたか?
簡単です。
黒い話と平和な話です。これらはほぼ同時の話です。
エルテという特殊な存在の一人称視点を表現するのが非常に難しいです。
ニコニコ動画がおもしろすぐる。
アクアビット本社て。ソルディオスって! 本社型AFって! 社員汚染で死ぬよあれ!
ちなみにこのなのは世界で高校野球ルールブック改正「ボークの廃止」は1998年です。
今までの話をWordからテキストエディタに変えたらスマートすぎてへこんだ。
Wordだとファイルサイズから文字数が推測できないんだもの。
ちなみにこれが12kB程度です。
A'sではなくA'ce。誤字じゃないですよ。わざとですよ。
A'cesとかACESとかA'cとかネタ候補はあったのですが、原形に音が近いこれに。
理由はおわかりですね?