「フフフ、苦戦している」
『悪役ですね』
「そう、正しく悪だ」
『もう、ランナーとはやってはいけんよ』
「1億殺す訳ではない。これくらい許せ」
『恨まれませんか?』
「誰も傷つかない結果など、夢物語にしかない」
『ランナーに得るものは?』
「親殺しは幸せらしい」
『本当に? 』
「化物を超える、これは強くなったということだ。師として冥利に尽きる」
『たとえランナーを殺すことができたとしても、それはランナーを超えた証拠にはなりえません』
「フフフ……手段にもよるが、人とは手段によって、弱き個を恐ろしいまでに強化する。卑怯な手段なら、それを駆使できるように、それを使う覚悟ができるように成長したということだ。成長を常識で測るな」
『ランナーが、そう言うのであれば』
「まあ、我が教え子達なら、純粋に力と技術で向かってくるだろう。あれは純粋に過ぎる」
『ブラッディシードがまた一つ、無力化されました』
「おっと。今のなのはに手加減は無用。薪をくべねば」
どれだけジュエルシードを封印したっけ? もう判りません。
レイジングハートが言うには、まだたくさんのジュエルシードが暴れているようです。
ずっと青ばかりのジュエルシードを見ていたので、初めて見た赤いジュエルシードは、どこか不気味に見えたり。
封印しても封印しても、フェイトちゃんを囲む水のドームに穴は開かなくて、フェイトちゃんに会えないのがもどかしいです。
『マスター、エルテからリミッタ解放許可SS+が出ています』
「わかった! これでやっと本気で……いけるね、レイジングハート!」
『もちろん。あの黒い蚊トンボに訓練の成果を見せつけてやりましょう』
エルテちゃんのフレーム強化と調整を受けてから、レイジングハートは、なんというか、その、どこかおかしい気がします。
「あ、あはは……でも、そうだよね。ずっと負けっぱなしはイヤ。エルテちゃんに訓練を……訓練……くんれ……ん……」
『マスター? マスター!? 戻ってきてください! 眼にハイライトがありません! どうしたというのです!?』
レイジングハートの声にはっとなって辺りを見回しますが、そこは地獄ではありませんでした。ただの、ちょっと荒れ狂っているだけの海。
「う、な、なんでもないよ。なんか思い出しちゃいけないことを思い出しそうになっただけで」
『そうですか。何でもないなら問題ありません。では』
「レイジングハート、キャノンモード!」
『Canon mode』
エルテちゃんがつけてくれた、『どれだけ無茶な威力の砲撃でも一応一発は確実に保証してくれる』、主砲モード。金色の、メタルギアREXのようなレール砲身が伸びて、レイジングハートのコアがその根本、まるで射出されるかのように収まっています。持つところはロッドじゃなくてライフルみたいな形で、ついでにトリガーもあったりします。変形後は原型のカケラも残さないのがガイアのエキスパートデバイスエンジニアなのだとか。
『……落ち着きません』
「少しだから我慢してね。いくよ!」
『いつでも』
初めての、キャノンモードでの全力砲撃。エルテちゃんには、ベクターキャノンをイメージするといいと言われたけど、どうすればいいんだろ?
『あの駄デバイスの言う通りにやればいいかと』
駄……エイダさんのことなんだろうなぁ。仲が悪そうに見えて、こういうところは信頼しているみたいです。あれ? それだと仲が悪いのかな?
「まぁいっか。サァ、いこう!」
『それは死亡フ……いえ、キャノンモードに移行。魔法陣、展開開始』
私の足元に魔法陣が展開されます。それも、いつもより結構大きな。
『エネルギーライン、全段直結』
レイジングハートと繋がった感触。視界の上下にレールが見えるので、これはレイジングハートの視界だと思います。胸から魔力が吸い出されるのがよくわかります。
『ランディングギア、アイゼン、ロック』
赤い糸で足が固定されているんだろうなと、見えないので感覚でしか知ることができません。そもそも固定する意味があるのでしょうか。エイダさんは『気分が出るでしょう』とか言ってたような……。
『追加加速砲身展開』
リング状の魔法陣が幾つも幾つもレイジングハートの先から現れます。
『チャンバー内、正常加圧中』
ここからが少し難しくなります。魔力を集めて圧縮して収束する、これに失敗すると『吹き飛び』ます。吹き飛ぶとものすごく痛いので、気が抜けません。
『ライフリング、回転開始』
今までゆっくり回っていた砲身の魔法陣が、互い違いの方向へ加速しました。
『撃てます』
トリガーを全力で引いて、
「メテオライト……ブレイカァァァァァァァァァ!!」
エルテちゃんを唯一撃墜できた、SLBの進化形。これで落とせないものなんて!
今の私なら、ユリシーズだって! ジョン・ドゥだって撃ち落とせる!
『集中が乱れています』
わかってるよ、まだ、やることは残ってる。拡散した砲撃を、もっと集束して密度を高めます。かなりの高圧の水壁なので、分散すると向こうまで抜くことができません。追加砲身を締めて、それでも砲撃の圧力は変わらないから更に加速が始まります。
『エルテから、リミッタ解放許可SSSが出ました』
使える魔力が増えて、もっともっと圧縮できる。集束はまだまだ太いけど、これなら!
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
残った圧縮魔力を全部解放して、壁に叩きつける!
手応えあり。
『貫通確認。ですが、そう余裕はありません』
「うん!」
海の下で、今失った魔力を補うように魔力が増えていきます。まるで、だれかが――――ううん、考えすぎかな。
意外と長い水のトンネルの向こう、そこは外よりも酷い暴風雨が吹き荒れていました。どこかで見たような色の雷も。その中に見える金色の光。あ、落ちた。
「って、フェイトちゃん!?」
誰かが、名前を呼んでいる。誰の名前を?
「――――! ――――と――――ん!」
えっと、こういうときは、何て言えばいいんだっけ?
ガルディが言うことだから嘘かもしれないけど。
「ほら、キャノピーの向こうに、天使の羽が……痛っ」
頬に痛みが走った。
「――――フェイトちゃん! 生存フラグ立てても人は死ぬんだよ!」
おまじないの効果がすぐに出た。うん、これから危ないときはこれを使おう。
「あ……」
「……えっと……えへへ」
困ったように笑うなのは。ずっと敵だった子。
「大丈夫?」
「……うん」
「じゃあ、レイジングハート」
魔力切れを狙って捕まえに来た、というわけじゃないみたい。
底を尽いていた魔力が、バルディッシュを通して私に流れてくる。
「あ……ありがっ!? まま待って止めて!」
「え? わかった」
とんでもない量の魔力が送られてきた。私の保持限界を遥かに超える魔力を、顔色も変えず……
「もう、いっぱい、だから……」
少し苦しい。
「そうなんだ……半分こしようと思ったのに」
半分こになんかされたら、私は死んじゃうかもしれない。
そう言えば。ガルディが言ってたことを思い出す。
『なのはの魔力量は非常識だ。私は例外としても、人類としては規格外だ』
でも、戦って勝てるかどうかは五分五分らしい。私の武器は速さ。エルテの本気でも届かないくらいの速さ。
ヘッドオンするかレールキャノンでないかぎり墜とされはしない。どっちの意味も判らないけど。
「フェイト~~~~!」
「なのはぁぁぁぁぁ!」
アルフと……誰? 二人とも、別々の方向から来て、
「あ」
「あ」
いきなり生えた水の触手にはたかれた。
平気だとは思うけど、油断大敵。すぐ助けに行こう。
いままでフィーリングで魔法を使っていたなのはに理論を教えたら、砲撃威力が跳ね上がった。
フェイトに考えうる効率的な加速方法を教えたら、応用して誰も追いつけなくなった。
ユーノにあらゆる訓練を徹底的に施したら、バインドを手足のように操りだした。
アルフに支援・援護を叩き込んだら、スタンド使いになった。
アルフのみネタネタしいのは、エイダが座学においてその1/3の時間を費やしジョジョやその他ネタに関する知識を教えに教えまくったからだと思う。
とにかく、見事に成長し、今、私が火に油どころかガソリンやプルトニウムを投げ込んでいる状況に対して立ち向かおうとしている。これが、私の課す最終試験。
《エイダ、全員のリミッタ完全解放》
[[よろしいのですか?]]
《私の結界とジャミング、いや……システムは掌握しているのだろう?》
[[了解しました。管理局には偽の映像を?]]
《魔力計だけでいいだろう。フフフ……》
[[刮目するがよい、ですか。ランナーは管理局となのはが必要以上に接触するのを嫌っていたようですが]]
《ああ。プレシアがああならなければ、回収だけで終わり、のはずだったんだが。もはや管理局入りは確定したようなものだ、ならばここは思う存分暴れてもらわなければ》
[[売り込むというのですか?]]
《10年後のシナリオ、という気の長い話だがな。見てみろ、連中の反応を》
アースラのブリッジ。私は適当に椅子を転送して、やたらと広く人口密度の低いブリッジのド真ん中に陣取っている。エイダが送ってくる、アースラの監視カメラの映像でリンディ達の表情がよく見える。
「凄いわ……」
「魔力値計測不能! ジャミング!?」
「だが、明らかにこれはSSSランクの域を超えている」
水のドームの中の戦闘、それが映し出されたメインモニタを食い入るように見つめるアースラトップ三人衆。オペレータの二人も、それぞれのコンソールで見ているが、茫然としている。
[[…………]]
《それまでに、腐れきった馬鹿どもに鉄槌を下さないとな》
[[……そこまで汚れて、ランナーに得るものはあるのでしょうか?]]
《自己満足はできるかな。少なくとも、私の大切な、愛しい人たちを護れる》
ジェイルと接触したのだって10年後の事件を思いとどまらせるためだし、管理局に潜入しているのも老害三人衆以下無能あるいは害毒連中をどうにかするため。ガイアの子供達、海鳴の友、管理局の戦友、ミッドのご近所さん、なのはたち、八神一家……みんなを護るため。彼女らの幸せのため。
それさえ達すれば、私も安心して消えることができるだろう。褒美としては充分ではないのだろうか。
でも、それはエイダには言わない。私が消えることを諦めていると思っているだろうから。
[[ランナーは無欲すぎます]]
《多くは望まないが無欲ではないさ。さて》
強く在ってほしい、生きていてほしい、幸せであって欲しい。これが欲望以外の何なのか。
「リンディ。そろそろ終わる」
「え?」
残ったジュエルシードは、オリジナル0、ブラッディシードと名付けた模造品が5。言葉通り終わりに近い。エイダとの話を打ち切って、状況に集中する。
「いや、始まる、か」
モニタでは未だ水のドームは健在で、その中は暴風雷雨吹き乱れている。魔力計はカンストしたまま。水面下の出来事は、何も判っていないのだ。
「どういうことかしら」
「ぼうっと観戦して、リコメンドを忘れるなよ、エイミィ」
テーブルとティーセット、さらに茶菓子を転送して、ティータイムと洒落こむ。この前買った、とっておきのベノアのダージリン。
「どういうこと?」
「フフフ……」
ジンジャークッキーがなかなかにうまい。エイダレシピがどんどん増える中、特に私が好きな生姜類は充実している。
「何を知っている?」
「シュレディンガーの猫の意味くらいは知っている」
「ふざけるな!」
「昔、あるところに、幸せな母娘がいました。母は偉大な魔導師でした。娘はその才能を受け継がなかったものの、そんなことはどうでもいいことです。二人は幸せだったのですから」
「だから! ふざけている暇なんて……」
「中略。母は死んだ娘を生き返らせるために、どんなこともしました。ある日、彼女の拠点の近くで船の事故がおきました。その船には、とっても危険な宝石が乗っていました。母は、その一つを偶然手に入れ、そして力に呑まれ、正気を失ってしまいました。危険な宝石を集めて次元の狭間を開ければ、かつて次元の狭間に落ちたと謳われた幻の都・アルハザードへいけるのだ、そう思いこまされてしまいました」
「…………」
「アルハザードはかつて繁栄を極めた幻の世界。そこなら、死者蘇生の秘術もあるはず。ですが、そこには死体を操る技術しかありません。危険な宝石に取りつかれた母は、娘を使って宝石を集め始めました。しかし、病を患っている身、もう時間はありません」
カバーストーリー。恐らくクロノは録音している。たとえしていなくても、アースラの監視記録に残る。エイダはシステムを掌握してはいるが、今はどこにも関与していない。せいぜい、得られる情報で状況を分析している程度だ。
「開けるまで中身は判らない。ジュエルシードは歪んだ形で望みを叶える。アルハザードは無いかも知れないが、在るかも知れない。確率としては小さいが、そこにわずかな確率がある以上、ジュエルシードが『結果』ではなく『方法』を望んだ彼女に『その方法』を与えた。ジュエルシードに再現性はないし、憶測に過ぎないが、状況から鑑みるに、これが正解だろう」
もしもの時のために、プレシアが管理局に確保されてしまった場合の嘘。そして――――
「輸送船沈没事故も、ユーノから聞いた話では……管理局の依頼で危険物を単艦で輸送していたらしい。護衛艦か何かをつけるべきだったのではないかと私は思うのだ」
管理局の非を問う。プレシアが撃沈した事実は、輸送船の残骸の消去、ブラックボックスの改竄で問題無く処理されている。クルーは全員脱出を確認しているし、既に管理局が救助済み。さすがに死者が出ると詳細に調べるから、気付かれないようにサポートするのは骨が折れた。
これでフェイトの罪も問えなくなる。結局は管理局のマッチポンプなのだから。護衛さえつけておけば、すぐに封印・回収もできただろうし、そもそも沈没・飛散も回避できたかもしれない。プレシアが撃沈したことを考えても、これは非であると言えよう。プレシアが沈めたということになれば、また話は違ってくるが。
「……その『母』って、誰なのかしら?」
「ヒントは出した。答えはすぐ見つかる」
これだけのヒント。そしてなのはから『テスタロッサ』の名を聞いているはずだ。
「――――プレシア・テスタロッサ?」
「あの、大魔導師?」
「プレシア・テスタロッサなんだな?」
「…………」
私は答えない。もう与えることのできる情報は与えた。そしてこれから、踊ってもらう必要がある。
「答えろ!」
「フフフ……それよりも執務官殿。回収に向かわなくてはならないのでは?」
「なに!?」
メインモニタに、最後のジュエルシードが封印される様子が映し出されていた。
回収なんてする暇はない。なのはがドームに入る前に回収していたが、それは意思を持つように暴れまわる水の柱や暴風雷雨が無かったからできたこと。今はドームも消え去り、曇天だが風も雨も雷もない。あるのは血の色をしたジュエルシードが無数に。
そして四人とも息が上がっている。最終試験は合格だ。なのはは閣下に近いサンダーボルトⅡに、フェイトは黄色に近いチルミナートルに成長してくれていた。ユーノとアルフはその支援だ。戦闘効率を飛躍的に上げ、支援者個人の戦闘能力も相当なものだ。私も一人でこの四人の連携を破るのは難しいだろう。ツーマンセルでもかなりてこずるのだ、下手を打てば負ける。
これならば、問題無い。
海上ではクロノが転移し、ジュエルシード回収合戦が始まっている。遠眼に見る分には美しいが、今はそれに見とれている暇は無い。
《さて、ラストステージ。母と娘の幸せのために》
時の庭園から、世界の壁を超えて、紫の砲撃が放たれる。私がプレシアの代わりに放つ。幻術を応用して魔力光を欺瞞し、あの4人ですら打ち倒せる威力のそれを放つ。
それは正確になのは達に向かい、防ぐのが遅れたなのはとフェイトに命中。防御が硬いなのはは意識を保ち追撃を逃れたが、フェイトは一瞬でブラックアウトしたようだ。
「フェイトォォォォォォォォ!!」
アルフがどうにかその手を掴み、海面に叩きつけられるのを阻止。そのまま抱きかかえ、青と赤のジュエルシード目指し飛ぶ。
「――――っ!」
クロノに阻まれる。だが、その程度。私の教え子が、その程度で止められるはずがない。
「邪魔だぁぁぁぁ!!」
片手が使えずラッシュを放てないのがクロノに幸いした。魔力をまとった拳にS2Uごと殴り飛ばされ、海面を跳ねる。水柱が立ち、なのはとユーノの視界が奪われた。
そしてアルフは気付く。青い、オリジナルが3つしかないことに。
「ッチ、でも、これだけあれば!」
30はあるイミテーテッド。その中から片手で掴めるだけ掴んで、アルフは逃走を始めた。
同時刻。
アースラにはエルテの次元跳躍攻撃が襲いかかっていた。
「9時・4時・12時方向、きます! 着弾まで137秒」
「回避!」
「! さらに6時方向に2発、着弾まで128秒!」
「回避できる?」
「できます!」
エルテの砲撃は、原作のプレシアのそれより容赦がなかった。
とりあえず派手に。この次元世界に自分達より強い力が存在することを教えてやる、と、某艦長のように宣言しかねない。
「んぅー……」
「どうしたの?」
「こんなに正確に次元跳躍できるのに、なんでこんなに離れて、しかも遅いのかなって思いまして」
原作ではもっと余裕がなかった。回避の暇はなく、防御しかできていなかった。
「! 攻撃の軌道が歪曲! 誘導しています!」
まるでホーミング魚雷。遅い理由は、高い旋回性能を得るためだった。物理現象に大きく干渉されるエルテの砲撃は、高速に過ぎると旋回半径が大きくなる欠点を持つ。
「加速しました! 避けられません! 全弾着弾まで4秒!」
「防御を! 総員衝撃に備えて!」
果たして、その命令に従えたものは何人いただろうか。破壊ではなく衝撃に特化された攻撃は、シールドを超えてアースラに衝撃のみを与える。
「きゃあ!」
「がっ!」
「ぐうぅ……」
「ふぅ。生姜紅茶もなかなか……」
立っていれば倒れることは間違いない。その衝撃で、オペレータの一人はコンソールに頭を打ちつけた。
未だブリッジで優雅にお茶をしているエルテだけが平然としていた。椅子やテーブルごと少し浮いて衝撃から逃れていた。そのほっとした幸せそうな顔を、誰も見ていなかったのは幸運だろう。
衝撃はほんの数秒だけ。魔力攻撃が5発、シールドしていたとはいえ、普通なら轟沈していてもおかしくない威力。
「……攻撃の予兆、ありません」
「そう……警戒を続けて。損害報告を」
それなのに、被害は皆無に等しかった。皿が割れた、頭を打った、こけて転んで壁にぶつかって腕の骨が折れた、その程度。
「……これで終わりだ。追撃はないよ」
椅子だけを残し、テーブルやティーセットが消える。エルテが立ち上がると、最後に残った椅子も消えた。
「どこに行くのかしら?」
「支部に戻る。残念だが、協力も手助けもできないからな」
海中に潜み薪をくべていたエルテからは海上の様子は見えない。ヘルゼリッシュは視界がある程度クリアでないと使えない。結界の中を覗く術はあるが、隠密性が低いが故に却下された。厳重になったアースラの監視を鑑みて、万が一発見された場合に備え、海上には一人もエルテを配置していない。海上の様子を知るには、アースラのメインモニタを見るのが最も手っ取り早かった。
それももう終わり。全てのジュエルシード・ブラッディシードは封印され、フェイトとアルフは撤退。エルテは二人の居場所を把握しているが、ここで管理局を手伝う必要性はない。
「なぜ、追撃はないと?」
「ただの勘、ということにしておこう。それより、機関は無事かな?」
すぅーっと、爪先を床で削りながら飛び、ブリッジから去った。
「…………」
「不気味ですね」
「いえ、無理しているみたいに見えたわ」
リンディには一瞬、エルテの顔が泣きそうに歪んでいるように見えた。
「私にはいつも通りの無表情に見えましたけど……ああっ!」
「どうしたの?」
「機関室から報告です! 魔力炉がオーバーヒート、しばらく使えない上に航行機関が過負荷で壊れています! 応急処置はできても、最大船速は72%低下するそうです!」
「なんですって!?」
エルテの言葉が思い出される。あれは、もしかしてルーデル機関の部屋ではなく、アースラの機関のことではなかったのか。
それを確かめても、意味はない。
ルーデル屋敷にアルフを誘導した。今までの拠点はプレシアに知られて、海鳴全域が管理局に監視されている今、外界から観測されないほどに結界を強化した屋敷は、海鳴で最も安全な場所といえる。アルフは厨房で料理を作ってもらっている。
フェイトの傷は深いが、生命に関わるほどではない。ガルディで回復をかけて、あと数分で全快するだろう。躯だけは。
優しいあまり、残酷な手段を採らざるを得なかったプレシア。その手伝いをする、いや、実行犯である私。フェイトの、呪縛ともいえるプレシアへの想いを断ち切るため。だが、私はそれを許さない。
アースラの機関を攻撃による損傷に見せかけ内部から過負荷をかけて破壊した。それでも、よほど無能でない限り、時の庭園に至ることはできる。完全に破壊はしていないし、システムは死んでいないのだから。莫大な出力を持つ戦闘艦の主炉なのだ、20%以上も出力が残って、そして地球と時の庭園に比較的近い場所で停泊している。艦足は亀のように遅々としたものになっているが、システムの運用や転送出力は充分だ。
「……フェイト。真実を聞く勇気はあるか」
「真実……?」
「プレシアがフェイトにつらく当たっていた理由。これを聞いても、フェイトは知らなかったふりをしなければならない。どんなに辛くてもこれを誰かに、たとえプレシアにも悟られてはならない。他ならぬ、プレシアのためにも」
フェイトが、もしこの時点で全ての真実を知って、プレシアの側についてしまったら。プレシアの後を追いかねない。
「…………」
「それでも聞きたいなら、約束してくれ」
「約束?」
「聞いたことを、フェイトが真実を知っているということを、たとえプレシアであっても悟らせないこと」
「…………」
黙りこみ、じっと考えている。
真実。これほどフェイトに重くのしかかり鋭く突き刺さるものはない。なるべくショックを受けないようにはしたいが、下手にオブラートに包むより正しく伝わるように言うべきだ。それが、プレシアを裏切る、私の義務だ。
「聞かせて。真実を」
「後悔は許されん。それでもか?」
「聞かなかった方が後悔すると思うから……」
未来は誰にもわからない。もはや私にも予想すらできない。私のシナリオは『うまくいけば』の話。
かつて、見えなくなった未来は何よりも恐ろしく、それが普通だってことに気づけるまで、少しの時間を要した。
フェイトは過去が存在しない。与えられた記憶による幻影だけ。
「アリシア・テスタロッサ。プレシア・テスタロッサの一人娘。26年前、魔力炉『ヒュードラ』の暴走により死亡」
「アリ……シア?」
「その後、プレシアはアルトセイムに存在した時の庭園をアリシア死亡の賠償金で購入。プレシアはアリシアの遺体とともに行方不明になった。9年前、とある違法研究者よりプロジェクトFATEの概要を渡される」
「違法……フェイト……」
「そして4年前、未完成だったそのプロジェクトは、人工生命体の完成を以て完遂される。アリシア・テスタロッサの遺伝子より創り出された、アリシアとほぼ同じ躯に、アリシアの記憶をインストールしたコピーと言える存在。プレシアは、娘を甦らせようとしていた」
「でも、アリシアは……」
「しかし、その存在はアリシアと同一ではなかった。アリシアに無かったはずの魔力資質を有し、その性格もオリジナルとは違っていた。別の方法を模索していたが、ある日、己の身が長くないことを知る」
「そんな! どうにかできないの!?」
「現代医学の敗北だ。不治の病に冒され、しかしアリシアを諦められないプレシアは、偶然にもアルハザードの存在を観測してしまう。無事にたどり着ける確率も低いが次元断層が起これば行ける、そう理論は証明していた。そして偶然、ジュエルシードを輸送しているという情報が入った。それが今回の事件の始まり」
「……今回の、事件?」
「そろそろ気づいているんじゃないか? アリシアのクローン、フェイト・テスタロッサ」
「!!」
「安心しろ。フェイトは普通の人間だし、プレシアに嫌われているわけじゃない」
「じゃあ!」
アルフが扉をぶち破らん勢いで乱入してきた。盗み聞きしていたのは知っていたが。
「じゃあ、なんであの女はフェイトにこんなひどいことをできるんだい!?」
「己の寿命が残り少ない。そして、しているのは違法研究。自分にべったりなフェイトを引き離すには、嫌われるしかない。自分が死んだときに、あまり悲しまなくていいように。諦めきれずアリシアを求めて、動けない自分の代わりにフェイトにジュエルシードを集めさせ、もし管理局に捕まったとき、何も知らされず、そして虐待の事実があれば、刑は比較にならないほど軽くなる。今回ほとんど手加減しなかったのもそういう側面がある」
「そん、な……馬鹿なことがあるかい!」
『……そうよ。私は、狂ったつもりだった。アリシアと同じ形を作っては捨てて作っては捨てて。でも、あなたのおかげで正気に戻れたの。いえ、狂ってなかったと気づいてしまったの』
「かあさん……?」
私の掌の上に、青く光る多面体、待機状態のアヴェンジャーが乗っていた。
『私が全てを用意する、そう言ったはずだ。使い捨てのヒトガタ魔力炉、そう思えばいい。そう書いてあっただろう!』
『滑稽よねぇ……今更、良心の呵責に耐えられなくなるなんて』
『私はヒトではない! 偶然人の形をしている、ただの魔力炉つきの戦略兵器だ! 良心など1mmも傷つかん! 傷つく必要があるわけがない!』
『そんなに優しい子が、そんなものじゃないくらい……私にだって判るわ……』
『っ……成程。フェイトを被害者にする、そういう訳か』
『今日もあんなに鞭でぶったのに、それでも、あの子、私を『母さん』って呼ぶの。どうしたら嫌われることができるかしら……』
『どんなに悪役に徹しても、たとえ『大嫌いだ』と直接言っても、恐らくプレシアを嫌うことはないだろう。あの子は、そういう子だ』
『あはははははは、困ったわねぇ……これじゃぁ……』
ぷつりと途切れる、誰かと誰かの声。
あの時録音していた、何より伝えなくてはならないこと。
「嘘だ! あの鬼婆がそんな……」
「フェイト。プレシアは虚数空間の向こうにあるアルハザードに行くフリをして自殺する」
「そんな!」
「私が死なせはしない。たとえ虚数空間に落ちたとしても、絶対に連れて戻る。だから――――」
いつになるかは判らない。
だが、私が望む光景が見られるのは、存外遠くない、はずだ。
《あとがき》
はい、かなり間が開いてしまった投稿です。私の拙作を心待ちにしている方々、謹んでお詫び申し上げます。
地獄の期末試験期間真っ最中。そんな時にこんなの書いてんじゃねぇと友にキレられたり。
03で書いてるのに時間がなくて、やっとこさ書き終わったと思ったら予定より話が進んでねぇ。
プレシア? 死にませんよ。
私が許すと思うてか!
ACは4とfAしかやってなかったり。なのに某SSのせいでフロム脳になりかけていたり。
リリウムー! メイー! いやそれよりもセレンさん結婚してくれェー!
部屋にセイバーオルタのフィギュアがあるのにFateは全くやっていないファンタジー。
ディスクはあれどインストしてなかったり。
そうなのか、セイバーオルタにはそんな表現が……。
今は11eyesやってたり。試験でしばらくやってばいけど。
急に感想が来てビビる私。
あれだ、お小遣い頂戴と冗談で婆さんにねだったらほんとにくれたときの心苦しさといいますか、私はその程度の小物だったり。お年玉ならいいが、それ以外は……ねぇ?
純粋すぎるフェイトさん。でもあの状況で生還したのはどうなんだマーカス。
なのはさんもしっかりネタに毒されちゃって。
まあ、なのははエルテ達とエスコンしたりと、おおよそ女の子があまりしないゲームをあらかたコンプしているので問題ないかと。
なのはの時代に箱丸やPS3は在り得ないのですが、パラレルワールドってことで。