訓練終了後、なのはは最後の最後でやっと覚えられたヘルゼリッシュ兼用の転移魔法を使って高町家に帰った。今ごろは家族に甘えているだろう。フェイトはマンションの一室でザ・ワールドによる時差ボケに悩んでいる。パーフェクトとは言いがたいが、仕上がりはそれなりといったところか。それでも、一般的なSSS+の魔力量を遥かに超えてしまっている。まさかここまで伸びるとは思わなかった。フェイトは普通にSSSだが、その高速機動は他の追随を許さない。初期生産型ノーマルの私が反応できない程度なのだ。撃墜する方法はあるが、それは俗に『無差別飽和戦術空間攻撃』と呼ばれるもので、要は『狙うことができないのなら、焼き尽くせばいい』という攻撃だ。空対空核ミサイルともいう。
ハードがパーフェクトでも、ソフトは完璧とは言いがたいのが現状だ。
「しかし、アルフがデバイスを使うようになるとはな」
承太郎に影響されまくったせいか、徒手空拳での戦闘スタイルを確立したアルフ。そのまま素手でこれから先やっていくと思ったのだが、訓練後に貸したredEyesでゴッドハンドに憧れたらしく、作ってくれとせがまれてしまった。いっそユーノにも作ってしまおう、ということで、魔王のパーティは全員デバイス持ちになる予定である。
「うっかり育てすぎた、かな」
まさかユーノがなのはと肩を並べるSSS+になるとは。集束砲撃は苦手で及ばないものの、バインドをまるで己の腕のように自在に操り、ギリギリとはいえなのはのSLBを耐える防御を持つ。べクターバインドなる新たな魔法は、不可視であったりと某妖精の歌だ。近いうちに角のアクセサリー……いや、補助デバイスにするか。
アルフはフェイトに依存しているからランクは上がらないものの、疑似スタンドを発現するに至った。魔力で作った自らの分身、イメージに失敗したらしく、なぜか私の姿をしている。能力もなく、身体能力も外見相応だから、雑用にしか使えない。私の姿をしていながらここまで無能なのも珍しい。
「独り言、ですか。珍しい」
テーブルを挟んで向こう側に、アジーンとドヴァーがいる。ロシア語の数詞で1と2。ジェイルのナンバーズの失敗作を私がサルベージしたのだから、という理由で最初の12人はこの命名法則でつけられた。その次はドイツ語、その次は、ACZEROのアサルトレコードから、それから先は……人名辞典でまともなのを片っ端からつけていった。
「二人がいるからだ。誰もいないなら、独り言すら言わない」
「聞かせるつもりがないのに、人がいないと出ないというのも奇妙ですね」
「……聞かせる?」
ドヴァーは極端に無口だ。神出鬼没で、娘の間では怖がられている。唯一、何故か一言も喋らずに意思疎通のできるアジーンと行動を共にしているところをよく目撃されるらしいが、それ以外はたいてい私の傍にいるから、私には実感がない。
「癖、習性、そんな感じか。人間、いや、生物だけの特性ではないようでな、機械などにも存在するらしい。AIや自我があればなおさら」
「母上は機械ではありません」
「人とそれ以外の境界なんて、誰にも判らんさ」
サイボーグを人間と定義しない人もいる。クローンを人間と認めない人もいる。知らなければ、アンドロイドを人として――――いや、知っていたとしても、高度なAIと愛し合う人もいる。人の定義なんて誰にも決めることはできない。いや、誰にでも決めることができるから誰にも判らないのか。明確な定義なんて、どの世界にも無い。
「そうだな、だったら、私は人であって人でない、そんなシュレディンガーの猫な状態なんだな」
私であり『俺』でもある。
「独り言で自己完結するのはいいですが、忘れられたようであまりいい気分ではありません」
「どうでもいいことだ、気にするな。それで、そっちの成果はどうだった」
9年の訓練をしたのは、なのは達だけではない。私の子供たちのうち、戦いたいと願う者もあの世界で鍛えた。洗脳もしていないのに私に忠実な子供たち。例外はいるが、その場合はなるべく機関やガイアに関する記憶を奪い、希望の進路にいける教育機関に放り込むという手段をとっている。そこから先は知らない。金銭はかなり渡しているし、戸籍なども完璧。私の手を離れた存在にいつまでも構うほど、私は暇ではない。やましいことといえば、最悪の場合も想定して、遠隔爆破装置を体内に仕込んでいるくらいか。
「チート、ですね。戦略を考えなければ、米軍を30人弱程度で制圧できるでしょう」
「……間違ってもやるなよ」
一応、釘をさしておく。忠実ではあるが、暴走しないとは限らないのだ。
「本題は別にあるのでしょう?」
「可変高抑制リミッタはどうなった」
うっかり強化しすぎた白い魔王と黒い死神、そしてその相棒と使い魔。それをごまかすために、リミッタの開発を頼んでいたのだ。機関の意思決定は私がするが、私が育てた機関は私がいなくなってもうまく動くだろう。独裁組織ではあるものの、エイダさえ残せれば体制はそのまま継続できる。余るほどの私だが、それでも、まさかの場合に備えて対策を立てるのは、私が臆病だから。
「ナノマシンとなのマシンということになります」
「冗談が巧くなったな」
「なのはねえさまは出力が最高にいかれていますので、専用に開発することになりました。ですのでナノマシンとなのマシンと区別することに」
装飾品系などの外部装着型だと、アースラのときと同様に出力に耐えられず、あるいは負荷が集中して壊れる。または抑えられたとしても、部分的なもので確実に漏れるだろう。ナノマシンで負荷を分散してしまえば、どうにかなる。躯の全てに浸透させる訳だから、外見にも変わりはない。そして、血液検査でもされない限り見つかることはない――――いや、科学に関しては地球のそれより遥かに劣っているミッドの医者や技術屋が、ハイブリッドステルス処理の施されたなのマシンを見つけることなど不可能だ。質量兵器を嫌うあまり物理を探求しないのは馬鹿だと私は思うのだが、管理世界ではそれが一般論だ。
「進行状況としては、70%といったところです――――ん、何?」
ドヴァーが何か言ったらしい。口も動かさないので、『言う』というのはおかしいが。
「確かに。すっかり忘れていたわ。なのマシンには通常のリミッタとしての機能の他に、制限で溜まった魔力を自動的にカートリッジにして転送する機能がついています。将来的になのはねえさまは更に威力を求めると思いましたので、オーバーフロー対策もできて丁度いいかと」
「カートリッジシステムか。さて、どうなるか」
ヴォリケンリッターにボロクソに負けたのがきっかけだったが、このシナリオのなのはは負けない、というか余裕で制圧すらしてくれるだろう。そもそも、夜天の書の解析が遅々とはしているが進んで魔力パスがほぼ私にリンクしている今、はやての病状が悪化することはなく、故に騎士たちが蒐集に出かける必要もないのだ。
「まあいい。特に問題はない。ありがとう、そのまま続けてくれ」
「はい」
アジーンはそのまま部屋を出るが、ドヴァーはそのまま残る。
「…………」
「…………」
そのまま、何も言わずに一日が終わった。
エルテ・ルーデル交響楽団のコンサートは、アースラで大盛況だった。独房でバンドをしていた頃から比べると格段の進歩だ。独房を『うっかり』破壊してしまった、というのも原因だが、クロノは私を縛ることを諦めたようだった。拘束服を『うっかり』引きちぎり、リミッタつき手錠を漏れている魔力出力だけで砕き、独房の中でバンドやカルテットなどをし、最終的にはその独房をオープンにしてしまったのだから。私がいた独房は、独房なのに壁がないという不思議な状態だ。扉ではなく、廊下に面している壁を全部破壊してしまったのだから、さすがに怒られるか、とは思ったものの反省はしていない。
オープンな部屋でギターを片手にブライアン・アダムスを歌っていたら、クロノが来てこれでもかというほど力いっぱいため息をついた。
「さまー! さまー! さまおぶしくすてぃなぁい!」
「ノリノリなところすまないが、これはなんだ」
「ジ・オフスプリングのPVを再現したらこうなった」
サビが『Dooraemooooooon』と聞こえることで有名な、あの歌のPV。しょっぱなから扉をぶち破るのだが、扉ではなく壁だった訳だ。
「壁でも壊す場面があるのか、そのPVには!」
「惜しいな、壁ではなく扉だ」
「その格好は」
その格好。一糸まとわぬ上半身に、いつもの黒いスラックス。この姿を男に見られて平気なのは、『俺』だったころの名残だろう。
「上半身裸で街を疾走するPVだったんだが、さすがにそれはどうかと思ってな。格好だけでもと。ついでに、さっきオフスプメドレーをやって少し暑いんだ」
「もう少し女の子としての恥じらいを……」
「ほう。私を女として扱ってくれるのか。嬉しいな、嫁に来ないか」
「嫁に来るのは君だろう、まったく」
「真っ赤な顔で呆れたように言われてもな。ふう、だいぶ涼しくなった」
裸の上半身にコートを羽織っただけの姿。一部人類にはたまらないだろう。
「それで、なんでまだここに? 君ならすぐに逃げられただろう」
「逃げて欲しかったのか? まあ、普通なら逃げるか、検査と尋問が続けば」
意図が見え見えな検査と尋問。私が何者なのかが知りたいのだろう。もう少し小規模砲撃でクロノを撃墜すればよかった。
「君は何者なんだ?」
「神様」
「真面目に答えて欲しい、といっても無駄なんだろうな」
「真面目だよ。私は破壊神の器」
何も話すつもりはなかったが、調べても徒労に終わる真実なら別に与えてもいい。無限書庫に『破壊神の器』に関する文献は一切存在しなかったのだから。
「……破壊神」
「その気になればこの艦、アースラだったか。余裕で撃沈できる。エスティアのようにな」
「……え?」
からかいすぎた。口が滑った。『うっかり』口が滑った。
「どういう、ことだ」
「フフフ……さてさて。ギルが、『今』『本当は』『何を』しているのか訊いてみるといい。正直に話してくれる訳はないが、それなりの証拠は自分で集めないと。そう、話してくれるように、疑惑という種に、証拠という水をまいて、ゆっくりと、花を愛でるように、聞き出すといい」
ここまで話したのだ。今の事件から意識を分散させるための疑惑。おそらく、私が目的を達する前にクロノがはやてにたどり着くことはない。プレシアはおそらくジュエルシードを諦めてはいるが、捜査の手がプレシアに伸びる前に目的を完遂しなければならない。輸送船のクルーは全員無事が確認されたし、次元跳躍攻撃に関してはブラックボックスの中身を改竄して事故ということにしてある。フェイトがなのはと戦闘した理由も、一応考えてはある。
「ギル……グレアム提督か!」
「誰だ、それ」
あからさまな『知っているけど知らないフリ』をして、更にクロノの眼が鋭くなるのを微笑みで受け流す。
「ちょっとした物理の話。君たち管理局が大嫌いな物理の話をしようか」
「…………」
沈黙は肯定とみなす。
「物事は全て確率である。あり得ない現象でも、小数点以下数万桁の先、あるいはもっと先には『可能性』が存在する。その可能性の世界を見ようとするのが量子力学の一分野なのだが、それはどうでもいい。今度シュレディンガーの猫の話をしてやるから、その時にでも悩むといい。さて、さっきの確率と可能性の話に戻ろう。この世界に『あり得ない』ということはあり得ない。理論上は、『可能性』の大小で、不可能は存在しない。『可能性』を自在に操れば、の話だけど。だから、これから先、どんなことがあろうとそれは不思議なことではない」
たとえ、クライドが生きていたとしても、とは続けない。私が書き換えたシナリオはまだ、不安定なまま。
「さて。シャワーと食事を頼む」
この少女は何を考えているか判らない。
いや、考えも行動も正体も何もかもがアンノウン。独房の壁が綺麗さっぱり消え去っているのを見たときは、考えるのをやめたくなった。
「Summer! Summer! Summer of 69!」
エルテはギターを掻き鳴らしながら歌っていた。訓練室でオーケストラをやってまだ足りないらしい。
「ノリノリなところすまないが、これはなんだ」
「ジ・オフスプリングのPVを再現したらこうなった」
昨日はMADを再現とかで、曲に合わせて大鉈を振り回していた。明らかに魔法を使っても無理な動きに見とれたが、今度はPVを再現したか。どんな暴力的なPVなんだ。
「壁でも壊す場面があるのか、そのPVには!」
「惜しいな、壁ではなく扉だ」
どちらにせよ、するな! と言いたかったが、どうせ無駄だ。大鉈を振り回すなと言ったら大剣に変わるだけだった。
「その格好は」
正直、眼のやり場に困る。上半身裸。リーゼ達やエイミィには無い妙な色気が……ゲフンゲフン。
「上半身裸の男が街を疾走するPVだったんだが、さすがにそれはどうかと思ってな。格好だけでもと。ついでに、さっきオフスプメドレーをやって少し暑いんだ」
オーケストラが終わってからずっとやっていたのか? 格好だけでも、ってそれは男だから許されるのであってエルテが真似すべきものではないだろうに。
「もう少し女の子としての恥じらいを……」
「ほう。私を女として扱ってくれるのか。嬉しいな、嫁に来ないか」
「嫁に来るのは君だろう、まったく」
さっきまでの妙な色気は消えて、からかう相手を見つけた悪戯っ子の雰囲気がエルテを包む。唇の端をわずかに上げて、その雰囲気にそぐわない優しい微笑みが浮かぶ。
「真っ赤な顔で呆れたように言われてもな。ふう、だいぶ涼しくなった」
いつも着ているコートを羽織る。肩に引っ掛けているだけなので、無論胸は丸出しだ。それにしても、健康的に白い。服とのコントラストで余計に映える。
「それで、なんでまだここに? 君ならすぐに逃げられただろう」
「逃げて欲しかったのか? まあ、普通なら逃げるか、検査と尋問が続けば」
逃げる訳がない、か。あんなに強大な力を持っていながら、形だけとはいえ監禁に甘んじているのだから。一応、許可がなければ独房から出ないし、要求があれば『要求がある』ということを念話で伝えてくる。いつでも外に出られるというのに、エルテは律義に、なるべく頼みごとは会って話そうとする。
検査と尋問の意図はとうに気づいているだろうし、ならば、この疑問も唐突じゃない。
「君は何者なんだ?」
「神様」
即答だった。何の躊躇もなく、そんなことを言ってのけた。
神。様々な世界でその概念に当てはまるものが存在する。ただの物語に登場する存在だったり、人々の心の支えだったり、その言葉が意味するものは様々だが、ただの人間が自称するにはおこがましい。
「真面目に答えて欲しい、といっても無駄なんだろうな」
どうもエルテは、僕をからかうのが好きなようだ。だからこれも冗談だと思っていた。
「真面目だよ。私は破壊神の器」
「……破壊神」
物騒な神だった。その単語から、いいイメージを持つのはなかなか難しそうだ。
エルテが今の格好で、屍と瓦礫の山の頂点に君臨し、悠々とワイングラスを傾けるのが見えるようだ。案外、似合っている。
「その気になればこの艦、アースラだったか。余裕で撃沈できる。エスティアのようにな」
「……え?」
エスティア。11年前に父さんと共に沈んだ次元航行艦。
それを、エルテは――――撃沈?
「どういう、ことだ」
混乱している。マルチタスクが全て、冷静な思考回路がない、11年前、エルテは年下、あ……れ?
「フフフ……さてさて。ギルが、『今』『本当は』『何を』しているのか訊いてみるといい。正直に話してくれる訳はないが、それなりの証拠は自分で集めないと。そう、話してくれるように、疑惑という種に、証拠という水をまいて、ゆっくりと、花を愛でるように、聞き出すといい」
「ギル……グレアム提督か!」
「誰だ、それ」
あからさまに知らないフリをするが、それにかみつくほどの余裕はない。
そんな僕を見て、楽しそうに微笑む破壊神。いや、邪神。
「ちょっとした物理の話。君たち管理局が大嫌いな物理の話をしようか」
「…………」
突然の、脈絡のない話。僕の収まりかけた混乱がぶりかえす。
「物事は全て確率である。――――」
エルテの言葉が、意味をなさなくなっていく。
聞かなければ。意味が判らなくても、何かヒントがあるはずだ。
「――――これから先、どんなことがあろうとそれは不思議なことではない」
僕が理解できたのは、最後の一言だけ。何が起ころうと、それは不思議じゃない。この世界に不思議なことは存在しないとでもいうのか。
「さて。シャワーと食事を頼む」
何も言えないでいると、そこにはいつものエルテがいた。何故か、救われた気がした。
10分後、食事を持っていったら、そこには壁と、大きな扉があった。
『ルーデル機関 アースラ支部』と記された、大きな表札と共に。
なのはとユーノは原作と変わらず、管理局に協力することとなった。なのマシンはザ・ワールドで完成させ、順調に魔力を抑制している。今はSランクのはずだ。
しきりに私のことを気にしていたが、微笑みながら『気にするな』と言っておいた。向こうも『エルテちゃんなら、まあいいかな』などと納得してくれたのでよしとする。どうやら気にするだけ無駄だと悟ったようだ。私ならどんな予想外な正体があってもおかしくないと理解したらしい。アースラに滞在する間は、ルーデル機関アースラ支部で普通にお茶をするくらいには。ちなみに、ユーノはアースラの技術者連中とジュエルシードに関する難しい話の真っ最中だ。
「ねえねえ、エルテちゃん。ルーデル機関って、あの世界のことだよね」
もはや独房だった面影は一切存在しない。トイレもちゃんと仕切ってあるタイプの独房なので、少し狭いがソファーまである執務室といった風にまでリフォームされている。ここが独房と知ったときのなのはの驚きようは、エイダがいれば完全に記録していただろう。雨宮和彦アイを装備しておくべきだったとつくづく後悔した。
「あの世界はガイアという。ルーデル機関というのは……そうだな、さまざまなものを研究する統合研究機関と大規模軍事組織をドッキングしたものだと考えればだいたい正しい」
「軍事組織? だめだよ、危ないことしちゃ!」
思えば、なのはは結構天然が入っていたな。まあ、小学生に正しい暴力の形を理解しろというのが難しいか。しかるべき場所にしかるべき戦力を投入すれば、大規模国家間戦争を防ぐこともできるのだ。管理局は戦力そのものが足りていないから、抑止にすらなっていないが。
「私がそう簡単に怪我をするとでも?」
「あー。そうだね」
なのはの全力砲撃を生身で食らって丸裸にされたのは昨日のことだ。私本体は無傷だったが、酷かったのはユーノの失血だった。『俺』の世界では淫獣と称えられていたが、存外純情だった。
「ガイアは私の生まれた場所。そして、今では私の子供たちもいる。だから、護らなければならない。犯罪者から、そして、管理局からも」
「え? エルテちゃんはドイツ系日本人じゃ……」
「この躯はガイアの、とあるドイツ人の血が流れている。だが、その中にある私の意思は、完璧に地球の、日本人のものだよ」
なのはやアリサ&すずかのいる地球ではないが。嘘は言っていない。
「ガイアって、ドイツがあるの?」
「地球に酷似した世界だ。汚染されて、捨てられた」
「汚染?」
「人々は、自分たちが汚してしまった、汚れきった星を見捨てて、大きな大きな大きな大きなフネをつくって、別の世界へ旅立ってしまいました。残されたのは、忘れられた研究所の、忘れられた少女だけ」
「その残された女の子って……」
「千年以上前のことだからな。当時を知るものは誰もいない」
嘘は、言っていない。正しくないだけで、答えてないだけで。だが次は、嘘の代わりに反吐が出そうだ。
私の心は案外、繊細だったのかもしれない。いつかもし、目的のためになのはを、友を裏切ることになったら……。
「あ、あと、管理局から護るって、どうして?」
「ガイアは遥か昔に捨てられ隠され、今は次元世界から完全に独立した世界だ。管理局などが突然来て、管理局法なんて勝手な法を振りかざして支配するなど、私は許さない。犯罪者に関しても同じ。私の世界で踏み入ることすら許さん」
「え、エルテちゃん、顔が怖いよ……」
失礼な。いつも通りの無表情なのに。
「管理局が大挙してやってこようが全て撃沈する。それ以前にまず見つかるまい。存在すら知られていないし、ほぼ完璧に隠蔽されている。なのはが管理局にうっかり漏らしてもそれほどの影響はないが……それでも、もしバラしてしまったら処刑だ」
「えええええええええ!?」
「そうだな、機関で試作した変態兵器、いやデバイスのモニターになってもらおう。なに、苦しいのは一瞬だ」
「即死!? って、変態兵器って言ったよね!?」
「いや、死にはしない。変態デバイスだ」
「それならよ、ってよくないよ!」
「口を滑らさなければいいだけだ。これなら安心だろう」
「そ、そっか~~……そうだよね、私が言わないと処刑されないんだよね、ふぅ」
心底安心したらしい。溜息がかわいい。
「かく茶がしばけるのも、そう機会はないだろう。暇ならいつでも来るがよい。ユーノにもそう伝えてくれると嬉しい」
「え? うん」
「そこで聞き耳を立てているクロノクル、来い!」
犬を呼ぶように、いや、吐き捨てるように言う。
「僕はクロノだ!」
今度Vガンダムでも見せてやろう。クロノクルをクロノに音声編集する嫌がらせは、今後の彼の態度によって決まるだろう。
「さて、どこから聞いていたかは知らないが、まぁ、聞いていたとして手出しはできんだろうからな」
「どういう意味だ」
「座れ、そして紅茶を飲むがいい。話はそれからだ。」
「…………」
食器棚から新しいカップとソーサーを出し、紅茶を注ぐ。最近料理関係の熱効率が異常にいいので、湯でカップを温める必要がない。体温の熱量を転移させれば、一瞬で高温のカップの出来上がり。手は冷えるが、すぐに回復する。
「普通のダージリンだ。高級でもバカ安でもない、葉も少し古いし、味もそれなり。こんなものしか出せんが、まあくつろぐがいい」
「どこからそんなものを……いや、訊いているわけじゃない。どうせ無駄だろうしな。それより、それは遠回しに帰れと言っているのか?」
「今はこれしかないんだ。翠屋二代目候補生なのはに出すべきものではないが、それでもうっかりお茶をしようと誘ったのは私なんだ。出さざるを得ないだろう」
「……それで、あれはどういう意味だ」
やっと紅茶に口をつけたかと思うと、すぐに本題に入りやがる無粋なクロノ。決闘の邪魔とか、緑茶に砂糖とミルクとか、監視盗撮とか、躯いじり回すとか、管理局は無粋の塊か?
「やれやれ。無粋で無粋な執務官はせっかちにも程がある。知ることができたとして、どうしようもないことがこの世界にあることを知らないのか?」
「それでも、知らないよりはマシだ」
「人間はこうしてパンドラの箱を開けてしまうのか。ちなみに希望はない」
「最悪だよそれ!」
「なんだそれは」
クロノはパンドラの箱を知らない。
「では箱を開けてやろう。ミッドチルダ、時空管理局本局、地上本部その全てにルーデル機関のスリーパーが存在する。クロノが何か情報を漏らせば、その時点で『その情報が意味を成さなくなる』」
「なんだと!」
「触らぬ神に祟りなし、いや、知ることすら許さん。私は、私が好きなモノを護れればそれでいい。ああ、ちなみにクロノも好きだ」
「だから殺さないのか」
「処刑はする。そうだな、『どうでもいいことを忘れて思い出せそうで思い出せない呪い』でもかけるか」
「私よりずっと酷いような……」
なのはは変態へ――――デバイスの恐ろしさを知らない。変態が何故変態と謳われるか、なのはの身を以て教えてやろう。
「目的のために……敵対することもあるかも知れんな。私とて、血も涙もない訳ではない。嫌いだからって理由で管理局を滅ぼすような真似はしないさ。今の横暴極まりない管理局が変わらなければ、どうかは判らんが」
茶菓子として出したジンジャークッキーを噛み砕く。エイダのレシピだ。
そんな私を睨みながら、クロノは紅茶を飲む。
「ああ、忘れていた。なのは、状況はどうだ?」
管理局崩壊の話は切り上げる。これ以上の脅しは無駄だ。
「どうって?」
「ジュエルシードだ。回収は進んでいるか?」
「まだ一日しか経ってないんだよ?」
「現在確認できている数は?」
「えーと、私たちが集めたのが7個、フェイトちゃんがたぶん2個なの」
「成程、後4つか」
海底に存在するのが4個、テスタロッサ陣営に存在するのが8個。そして私が所持しているのが2個。
プレシアは恐らくジュエルシードの捜索から撤退したはずだから、恐らく回収は管理局がすることになるだろう。
「君は基本的な算数すらできないのか」
「んんっ。クゥゥロノォォォ、君はぁぁ、少しぃ単純んぅすぎるぅぅぅ。言葉の裏をぉ、察するのもぉ上にぃ立つものとしてぇぇぇぇ必要なぁぁ技術でぇあるぅぅぅぅ」
「す、すごく似てる……」
「そこはかとなくむかつくな」
当然だ、馬鹿にしているのだから。
「あー、あー。んっ。私が確保しているのが2、フェイトが確保したの――――」
戻った声で正しい情報を伝えるが、しかしそれはアラートによって阻まれた。
「なんだ!?」
「何があったの!?」
「何故だ……」
この時、全ての私は止まってしまっていた。
クロノとなのはが支部から出ていくのを茫然と見送り、私は何も考えれらない。
まさか。あり得ない。
プレシアには希望を与え、アルハザードは諦めたはずだ。まさか。
海鳴沖に大規模結界を確認。魔力反応は、私が育てた、フェイトのもの。
《あとがき》
あーけましてぇぇぇぇ……
お・め・で・た・う! ございます!
今年もよろしくお願いしますよー!
47代大統領と聞いて、バラク・フセイン・オバマJrが一番最初に出た私。メタルウルフカオスは知りませんでした。
アジーンとドヴァーは閣下の嫌いなロシア語から。あの数詞が一番女の子の名前に合いそうな気がした、酔っぱらった私。
チェトィリエとかセーミなんかそんな感じがしてならなかった。
シラフに戻ってドイツ語が最高であることに気づいた。でもリィンがいるからあんまり使いたくなかったり。
そういえばなのはにロシア車の名前は無かったような(あるわけねー)。ZILとか。
大迷走中の本作。なんでプロット通り書いたはずなのにこうなるんだぁぁぁ!
計画通りに行かないってコンセプトで書いてるけど作者にまで適用しないでほしい……
密かに小ネタフラグを回収している現在。気づかない人もいるかもしれません。ラーメンズの『およそ14分後』くらいのネタですので。
アルフにはパルスアーム、ユーノにはディクロニウスの角を与える予定。2期くらいに渡す予定になるとは思いますが。
もはや傍観者や裏方ではなくなりつつある今日このごろ。
もうそろそろ1期も終わります。
どうにか、ハッピーエンドにしたい……