私は奔走する。
ずっとこの施設にいるわけにはいかない。
アルトを養って、自分も食っていかなければならないのだ。食事の必要は無くても、空腹はつらいのだ。特にアルトは飢えさせたくない。口減らしはしたいが、またコールドスリープができるほどのエネルギーや物資は、この施設に存在しない。殺すなんてもってのほかだ。
ということで、島を探索し、食えるものが一切ないことを確認して絶望し、希望を持って島の外に飛び出した。
流石に低空飛行で地球一週はきつい。空中給油したいくらいに。
相変わらずのツーマンセルではなく、スリーマンセルで行動している。探索範囲が広いからだ。
陸地はあった。マップ通りに。都市はあった。フッ飛んでいたが。どこもNBCMのどれかに激しく汚染されていた形跡があった。魔法汚染なんてあったのか。
白骨死体すらない。いや、あるのだが、しっかり風化して石と見分けがつかない。
ド田舎の集落や、一部の都市は無傷だったが、そこも破棄されて久しいようだ。
森林地帯や砂漠、海の中でさえエイダが何もないことを教えてくれる。猫の仔一匹いないと。
戦争か何かがあって、致命的に汚染されたこの星を見捨て、みんなどこかに行きました。こんなシナリオか。あるいは、植物を残してみんな死にました、か。可能性としては前者だろう。無傷の乾ドックに、巨大時空航行艦の設計図らしきものがあったから。ツルギスタンの恒星間移民船規模の。
とにかく、食糧なんてない。
私も、早めにこの世界を見捨てて、別の世界に行くべきだろう。あの施設は凍結させて。
転送ポートは少ない。世界中から集めたエネルギーをつぎ込んで、順次地球に向かう。我が愛しの祖国、日本へ。
夜の日本の、北は北海道南は沖縄まで、スリーマンセルで送る。一ヶ所に同じ顔が百人なんて騒ぎになること間違いない。どこかで戸籍を手に入れるまで、少しは汚いことをせざるを得ない。確か地球は管理外だったからジャミングをかませばそうそう管理局に見つかることは無い。死ぬ前の『俺』がいるならば、アルトだけでも養ってもらいたかった。
とはいえ、私と『俺』はこの世界では別人なのだ。迷惑はかけられない。
「おねえちゃん……どこいくの?」
「別の世界さ。私以外の人がいる、ね」
不安なのだろう。目覚めてすぐ、環境が変わるのだから。私だって不安だ。戸籍も金も無いのに、明らかに日本人離れした容貌の私を受け入るほど、日本の行政は優しくない。
戸籍は情報を改竄して手に入れよう。ハーフということにしよう。姓はルーデル。エルテ・ルーデル、アルト・ルーデルの双子ということにしよう。誕生日は昨日、七月二日。
ついに私とアルトだけになった。
「さあ、行こう」
「う、うん……」
戸籍は手に入った。エルテ・アルトではなく、ハンナという名前で。後で出生届を出して、エルテとアルトが生まれたことにする。免許証を偽造して、不動産屋を騙して、古く曰くつきだが広い住処をを手に入れた。人外魔境、海鳴市に。
俺をそこに集め、アルトと一緒に住んでいる。都市部より遠く、山の中腹で森に囲まれ、周囲に民家は無い。かつて金持ちが道楽で建てて、建てた本人がこの屋敷で死んで、幽霊が出て売りに出されたとか。家というより屋敷だが、この人数なら妥当なところだろう。
ちなみに金は……バリアジャケット(頭部装甲付)着込んでやのつく人の豪邸に集団で突貫して奪ってきました。魔法はなるべく使わず。白いおくすりは派手にブチまけて、とかちゃんまかちゃんは壊して餅撒きのように。国家権力が来る前に逃げましたとも。
以上の行動は、この躯に付与されたある程度成長の制御が効くというチートを利用した。フィーリングでやってみたら、三人の魔力使い果たして一人を18歳くらいまで成長できた。この成長させた私がハンナとして動いている。小さくする時は、魔力が放出されるようだが、小さくするためにも魔力が必要なようで、完全に可逆ではない。三人の魔力が回復するまでの時間がもったいないので成長させたままでいる。するのは成長だけで老化はしないので、成長をしても、多分22歳くらいで頭打ちになるだろう。
必要な人数分、順々に成長させていって、バイトでも始めよう。今ある資金が尽きる前に。書類上ではまだ生まれてすらいない私はハンナ・ルーデル。学歴も何もないフリーターというキャラクター。エルテとアルトの親になるキャラクターであり、同時にエルテでもある。
私はアルトを守るために生きる。親として、姉として、騎士として。
外に出る。少し成長した私が、何も判らないアルトを連れて、この世界を見せるために。
アルトは外見より子供っぽい。屋敷の庭で遊んでやっていたが、流石に私と遊ぶだけでは成長はしないだろう。もう少し成長したら、初めてのお使いでもさせてみるか、などと思っている。最終的には、家事全般をできるくらいには。
ちなみに、今回は食糧の買いだしだ。百人分は買えても運べない。五十人ほどが市内の各食料品店に赴き、一人四人分くらいの量を買って運ぶことになっている。この躯、まったく疲れないし力が強い。ターミネーターにでもなった気分だ。
「おねえちゃん、これなに?」
「ん? ああ、猫だ。というか、よく捕まえられたな」
アルトが猫を両手で持っていた。猫はおとなしく、私を睨んでいる。
「ねこ?」
「そう、猫。生き物だ。私と、アルトも同じ生き物。殺したらいけないものだ」
「ふーん」
「放してやれ。猫は自由なものだ。引っ掻かれるぞ」
「わかった」
アルトはそのまま手を離す。しゅた、と地面に降り立つ猫。
「生き物をそんなふうに落とすなよ」
「いけなかった?」
「ああ。ちゃんと地面に下ろしてから手を離すんだ」
とまあ、常識を知らない。アルトは自分の力を知らない。私が教えないし、デバイスも渡していない。私は全員アヴェンジャーをペンダントにして持っているが、アルトは何も持っていない。いずれ善悪の判断がつけば持たせるつもりだが、今はまだ、早い。
「猫はあれくらいの高さだったら上手く着地するが、他の動物はそうはいかない。アルトだったら、屋敷の屋根から落ちるようなもんだ」
「落ちたらどうなるの?」
「痛いぞ。死ぬかも知れん」
「死ぬ?」
「死んだらもう動かないし、喋ることもできない。悲しいだろ」
「……わかんない」
死を理解するのも、理解させるのも難しい。死を知らない躯で生まれたアルトは余計に。
だが、理解させなければならない。アルトは破壊神の器。いずれは力に気づくだろうが、それまでに。
《あとがき》
力を手に入れてもあんまり増長しない、小市民なエルテ。
波風をあんまり立てずに頑張っています。ヤクザ襲ってますが。
なのは要素ほとんど出ていないけど、実はまだ生まれてないからだったり。
ハンナというキャラ作って出生届を出すなんて面倒なことをするのはそれが理由だったり。
ハンナというキャラは汎用性が高いので、これからちょくちょくでてきたり。バイト先の一つには……
扇風機様、感想ありがとうございます。
ちなみに、今のところエルテの意思が分裂することは無いと思います。物語がかなり進まないと。
Oct.2.2009
なんということだ。
海鳴市を鳴海市と間違えるなんて。
ということで修正。
ありがとうございました。
Oct.16.2009
ちょこちょこっと修正。