愉快なことに、美しく恐ろしくそれは飛んでいく。
「あははははははは、ちょーきもちいいいぃぃぃぃぃぃ!」
完全にデバイス任せの砲撃。カノンは全くそれに疑問を感じていない。
「ゆぅぅぅぅぴぃぃぃぃてぇぇぇぇるぅぅぅぅ……」
『ロードカートリッジ。撃てます』
色々抜かしたと思うのは私だけだろうか。
「かのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!」
仰々しく、見た目もなかなかに派手だ。しかし、今まで教えられた『補助・回復』の術式から編み出した、攻撃ではなく、少しの衝撃と回復のための砲撃。これだけの魔力を受けながら、平然とHAHO降下ができたことから、その『威力』が思い知れる。
『…………』
「綺麗だな」
ひたすら無口なエイダと、素直に感心する私。アルトの砲撃の後には、数分経たずして草木が生えまくる。バカスカ撃ちまくるから、ガイア最大の荒野が森に生まれ変わりつつある。無論、私の感想は人の手の入っていない密林に対してではなく、アルトの紅い砲撃に対してのものだ。血のように、と表現するのが最も正しい。それは確かに美しいが、生命としての『何か』を怯えさせる。
それ以上に恐ろしいのは、
「あはははははは! カノン、次いってみよー!」
どこか別次元にトランスしているアルトそのものだ。
『御意。ベトールストライク、Load』
「べとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉる……」
『ロードカートリッジ。撃てます』
「すとらいッ!」
今度は上空に放つ。紅い光は空高く飛び、弾けた。
『たーまやー』
「たーまやー」
見事な唱和。
『…………』
「…………」
花火はそのまま消えたりはせず、大地にユリシーズよろしく降り注ぐ。これが魔砲だったりするとメテオスウォームかジハードだ。上から見ると、どんどん緑化されているのが判るだろう。エコロジストの崇拝の対象になれる。使い方によれば、文明破壊兵器として使えるが。
『都市部跡地、汚染区域に着弾。浄化されていきます』
「アルトを開発した奴も、まさかこうなるとは思わなかっただろう」
確信した。アルトは破壊に向かない。今だって、ただ『砲撃を撃ちたい』だけで、『破壊したいから砲撃』ではないのだ。安全快適なこれを『砲撃』、と言えるかは別だが。
「あーっはははははははは!」
この姿と、砲撃の派手さだけ見れば、紛うことなくそこら辺の魔王とか冥王とかなのだが。
『いいのですか?』
「いいんだ。今まで溜めていたフラストレーションを解放してくれれば、それでいい」
『いいえ、そのことではありません。第四研究所が密林に沈みました』
「…………」
『第十三研究所も』
第四、第十三研究所。ジェイルの『元失敗作』が、いや、今は私の子供たちが教育や訓練を受けている場所のうちの二つだ。教育機関だが研究所とついているのは、元々あった研究施設を修復して使っていた名残だ。それが、樹に縛りつけられている。根は地下施設を破壊している。地上構造物はもう見えない。私がいるので、子供たちにさほど問題は無いが。
「アルト、アルト、待て」
「いいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃ……やっほおおおぉぉぉぉぉぉぉい!」
「ドライヴ」
「ゆーぴーてーるぅぅぅうぎゃぎゃぎゃぎゃん!」
ドコドコとアルトにぶつかっては消えていく黒い誘導弾。いい感じにタイミングが合い、アルトは踊っている、ように見える。
「ふう」
『エルテ殿、流石です』
なぜカノンに褒められるのだろうか。普通、私を憎むのではないのだろうか。力加減はしたとはいえ、『これぞフルボッコ』と言わんばかりの光景を展開したばかりだというのに。
プスプスと音を立てて大地に倒れ伏す妹閣下の姿は、さながら悪のボスの最期のようだ。
『カノンのフレームの疲労が限界近くに達しています』
『主は私の警告を無視しておりました。私が壊れれば、制御の甘い主は暴走していたでしょう』
「見れば判る。強制停止はできただろう」
『強制停止にも関わらず魔法行使を強行された結果、当該システムに致命的損傷を受けました。自己修復は不可能』
「…………。本部に戻るぞ」
『Ja』
『Ja』
カノーネンフォーゲルは、アヴェンジャーほどではないにしろ、SLBの乱射程度なら耐えられる強度と演算性能を持っていたはずなのだ。それがこうもあっさりと。
「何故だ」
『何に対する疑問でしょうか』
『アルトの構築する術式の魔力変換効率が非常に悪いからだと推測されます。損失魔力がフレームにダメージを与えています』
付き合いの長さの差か、それともAIとしての経験の差か。カノンとエイダは対象的だ。頑丈で話相手か教育係にでもなればいい、そう思って作り上げたデバイスは、しかしそこまで人間臭くはなってくれなかった。
「とりあえずフレームは新型に全換装だな。放熱系を追加するか」
『現行技術では不可能です。恐らく放熱が追いつきません』
「ルーデル機関の技術を馬鹿にするなよ。放熱対策など、遥か昔に終わっている」
子供たちはみな優秀だ。少し教育するだけで即戦力になる。そして、私にない発想もする。やはり研究機関には、色々な人間がいるべきなのだ。
おかげで機関の技術力は世界一と高らかに宣言できるくらいに成長している。
「EFBシステムといってな、恐らく究極のアクティブ冷却システムだ」
『相手が死にそうなシステムですね』
『何故カノンが知ってい……アルト、ですね』
『主の名誉のため、黙秘させていただきます』
「その時点で名誉は汚れていることに気づけ」
研究所は廃棄された施設を再利用している。とはいっても、何世紀も汚染されたまま放置されていたものばかりで、建材の劣化も激しく、使えるのは全てを破壊した後の大穴だけということが多々あった。今では地球や次元世界から大量の廃棄艦船など回収し、その穴に埋めたり海に浮かべたりして研究所としている。地球の世界史は私の関与した80年代後半ころから少しずつ変わっており、ソヴィエト崩壊のドサクサでネコババしたアドミラル・クズネツォフ級2隻やキエフ級4隻などが埋められたり海に浮いていたりする。タイフーン級も退役・解体予定の3隻を奪えたが、原子力機関をどうにかするのに手間取っている。
「ねえママ、どこに行くの?」
ハインドの編隊、その中の一機の中で、娘に問われた。第四、第十三研究所はしばらく修復に時間がかかるので、洋上第二研究所『ヴァリヤーグ』に向かうこととなった。転送のできる子供もいるが、ずっと地下にいた子供達にガイアを見せてやる目的でこうして飛んでいる。
「家が壊れたからな、新しい家で元の家が直るまで待つんだ」
「新しい家? どんなの?」
「大きな船だ。島のようにな」
子供達は外の風景に釘付けだったり、本を読んでいたり、寝ていたりと自由に過ごしている。機関砲以外の武装を解除しているのでペイロードに余裕があり、そしてほとんどが子供なので乗っているのは10人ちょっと。動き回るので、編隊の間隔はかなり広くとっている。
「ふーねー」
まだ幼い子供を実験に使い、失敗すれば死ぬか処分されるか。子供達を回復して引き取ったのは、同情、だったのだろうか。この躯に残っていた、淡々とした記憶の。
「アデーレ、外は好きか?」
「うん!」
迷わず頷く我が娘。
世界は、見えるだけならこんなにも綺麗なのに、汚染区域に入ればすぐに死んでしまう。
「やれやれ。アルトに頑張ってもらうかな」
研究所は、汚染区域には存在しない。それどころか、可能な限り離れたところを選んでいた。故に、ほとんどが洋上で、ド田舎に存在する。だから、安心してアルトに好き放題打ち込んでもらうことができる。
カノンはシステムの最適化・高速化、カノーネンフォーゲルはフレームの全換装・EFBシステムの搭載を本部で受けている。そういえば、アルトはカノンとカノーネンフォーゲルを一緒のものと考えている節がある。
「アルトのおねーちゃん?」
「ああ、アルトが頑張ってくれれば、外……この世界を自由に歩き回れるようになるかも知れない。地下や船みたいな、窮屈な場所に住まなくてもよくなる、かも知れない」
「ほんと!?」
「ああ。汚染されていた場所が浄化されて、草木一つ生えないはずが今では森だ」
それを聞いてはしゃぐ子供達。ヴァリヤーグの甲板に森でもつくろうかと本気で思った。
BC汚染はTプラスでどうにかすることができるかも知れないが、核汚染や魔法汚染はどうしようもない。生物・化学汚染にしても、しっかり土壌に染みついているので、私でもそう簡単にはできずにいた。
私が勝手に救ってこの世界に連れてきたのだ。子供達には普通に幸せに生きてもらう権利がある。私には、そのために働く義務がある。
そのために、私は――――
「ふむ、どうやってもエルテの意識が発生するのだな」
ジェイルは懲りずに、『まっさら』な私を造ろうとしている。私のクローン、コピーという時点でそれは不可能だというのに。
「無駄なことをする暇があったら、戦闘機人でもつくるといい」
「戦闘機人より、私は君に興味がある」
「……愛の告白でも受けている気分になるな」
「ハハハ、その通りだよ。ガイア式魔法を操り、動力炉になれるほどの魔力量に、それを制御する能力。そして何より、一つの意思のもとで全ての兵力を動かせる統率力。そう、君は究極の兵器であり、一つの最強の軍事組織だ。これほど面白く、そして愛おしい存在はないよ」
歴史は順調に書き変わっている。可能性として、戦闘機人は12人全てが揃わないかもしれない。今、完成して動いているのはチンクまでだ。そして、そこで止まっている。
「一つ、言っておこうか」
「なんだい?」
「ジェイルがしている、私に関する研究。その全てが、機関では既に実証されている」
「……なん……だと」
ジェイルの顔から笑みが消える。それもそうか、かなりの時間をかけてきた『私に関する研究』の全てが、実はもう終わっていたなんて知ったら。
「ずっと黙っているつもりだったが、流石に100体も造られると、哀れに見えてな」
ドシャァ、と床に崩れ落ちる。見事なorzだ。
「それとなく教えていたつもりなのだが。全く気付かないなんて。機関では既に新型が開発されているし、私に関する技術は恐らくは追いつけはしないだろう」
orzから五体投地に移行。プライドの高いこの男をここまで消沈させたのは、恐らく私が初めてだろう。何年棒に振ったことやら。
さすがにこれを笑う気にはなれず、少しだけ希望を与えてみることにする。
「そもそも、ガイアと次元世界の技術思想は根本から違うからな。予備知識もなしに追いつけないのは当然だ。だったら、ガイアのことは私に任せて、ジェイルはジェイルにできることをやるべきだろう。人には向き不向きと好き嫌いがあるのだから」
「……そうだね」
そうは言うが、立ち上がる気配も見せない。ならば。
「エルテに関する基本的な情報をやる」
「本当か!?」
復活した。子供っぽいところは昔から変わらない。
「ただ、それを見れば判ると思うが、生命操作技術とは相容れない。私は、どちらかと言えば生命より概念と言うべき存在だから」
「それでも、応用が効く技術があるかもしれない。それも見てみないと判らないと思うがね」
「違いない。だが、応用できると言うだけで、エルテの技術をそのまま使えるとは思わないことだ。エルテ・ルーデルの躯はエルテ・ルーデルの器でしかないのだから」
「心得ているよ。伊達に君を100人も造っていない」
ああ、哀しくなってきた。自虐ネタがここまで哀しいとは。
「そうだ、代わりと言ってはなんだが、近いうちに病人を治して貰うことになるかも知れない。いいか?」
「その病気にもよるがね。かまわないよ」
「助かる」
プレシアの救済準備も整った。必ず治る、とは言い難いが、最悪の場合、躯を治療してから『生命還元法』を使えばいいだけの話。
「さて、運命は我が手の上に。ストーリーは幸福な結末に」
「ん? なんだい、それは」
「ジェイルの真似、かな。私の未来改窮素敵計画が順調に進んでいる」
「ほう。まるで未来を知っているようだね」
「ジェイル。ゆりかごで管理局に喧嘩を売ってはいけない」
「なるほど、本当に知っているんだね?」
「どうだろう。私というイレギュラーは、既にバタフライ効果という形で世界に影響を為している。私の知る未来がこの世界の未来かは、クロノスのみぞ知る」
もう、既に変わっている気もしないが、それでも、大筋は変わっていない。そして未来は、『プレシア・テスタロッサの生死』という分岐で確実に決まるだろう。
「さぁて。ジェイルの自慢の娘達を可愛がりに行こうかな」
「あまり、変なことは教えないでくれよ」
「チンクとセインにギターを教えたのがそんなに変か? 今日はクアットロにドラム教えようかと思ったんだが」
私は一応何でもできて、四人ともヴォーカルができる。気まぐれでThrough the fire and flamesを掻き鳴らしたら、ちょうど暇を持て余していた三人に捕まって、教える羽目になった。とりあえずスクラップの山からギターやベースを見つけてガジェットの工房で修理したが、全員ギターでは面白くないので適当に割り振った。とはいえ、教えればなんでもすぐに覚えるので、近いうちに好きなのをそれぞれが勝手に選ぶだろう。
念願のドラムセットがやっと届いたので、今日こそは本格的にバンドができる。と、思っていたのだが。
「訓練ができないと、トーレが文句を言ってくるんだよ」
「あー、確かに」
練習は防音が完璧な訓練室でやっている。追い出されないのは、私がいるからか。
「君がいるから強くは出られない分、私に言ってきたよ」
訓練の相手を頼まれ、少々のことでは壊れないと高を括った私がデスドライヴして、完膚なきまでに半壊させてしまったのが原因で、それ以来避けられている。私+訓練室など、トラウマものだろう。
「空いている部屋は無いか? 防音室にしてみようかと思うのだが」
「ふむ。ならここを使うといい」
提示された部屋は、それなりに広い。これならいけるだろう。
「上等だ。ありがとう」
「なに、これくらい構わないさ」
とっととジェイルの『エルテ研』を出る。最初から最後まで空気だったウーノが溜息を吐くのが見えた。ジェイル至上主義者の彼女が何も言わなかったのは、私のスペックと性格と立場を充分に知っているからなのだが。ちなみに、仲が悪いわけではない。
「さて、サーカスギャロップでも教えるかな」
《あとがき》
アルトの本質は破壊でなく再生だった!
ところがどっこい、結果として破壊が発生しています。植物は、どこかから種を転送しています。
ガイアは核・生物・化学・魔法によって汚染されている地域が点在します。人の住んでいた、ある程度発展した街の跡は全て汚染されています。海洋汚染と大気汚染がほとんどない不思議。
ちなみに、ベトールとは木星を司る精霊です。
ルーデルの子供達は、ただの同情で引き取ったわけではありません。
センチュリアだけでは、同じ顔だらけで怪しまれて動けないこともあります。機関として動く時に、センチュリアでは不具合が出ることも考えられます。ならどうするか。
普通の人間がいればいいのです。優秀でクローンとか純粋培養とかの差はあれど、純粋に兵器であるセンチュリアとは比べてはいけないほどに人間です。
実はそんな打算があったという話。
丸くなったスカさんと、その娘達。
流石に数の子の性格を全部把握はできていませんが、この五人はまだどうにか。
いつぞやか読んだ漫画で、サイボーグが32ビートでギターを弾いているのが印象的で、強化系のキャラには意味もなくギターとか持たせたくなる悪癖がついてしまったり。関係ないけど、素子さんがギター持ったらどうなるんだろ……
前回出したALとはAIのバッタモンでも間違いでもありません。人工知能(Artificial Intelligence)ではなく、人工生命(Artificial Life)です。
エイダのようなAIとは違う、ということを表現したかったのですが、マイナーだったようです。
A'sくらいで全容を明かすつもりなのでしばしのお待ちを。