バーンパレス内に設けられた会議室にて魔軍司令ハドラーが声を荒げている。
「バランはどうしたのだ!? ダイ奪還に失敗した挙句にまったくの音沙汰なしとは!!
むううっ…だからあいつには任せておけんと…」
「発見! 発見! バラン様を発見しました!!」
「どこじゃ!?」
悪魔の目玉から突然報告が入り会議室内は色めき立つ。
「ベンガーナ王国の南端・アルゴ岬にて体力の回復を行っていた模様…映し出します」
悪魔の目玉に映し出されたバランは岬の突端で巨大な三色の篝火を焚いていた。
それを見てハドラーの顔に忌々しげな表情が浮かんだ。
「ウウッ!! や、やはり…竜騎衆を呼ぶつもりなのか!?」
「竜騎衆!? なんです、それは!?」
「…バランは単独で竜を操っても無類の強さを誇る為、あまり表立ってはおらんが…ヤツには竜騎衆と呼ばれる最強の部下が三人いるのだ!!
それぞれが海・陸・空の竜を操る屈強の竜使いであり、バランガこの三人を配下に置いた時の破壊力は想像を絶する!!」
「そ…それほどの部下が!?」
ザボエラはただ呆然と呟くしかなかった。
『集え!! 三界の覇者達よ!!』
映像の中のバランが叫ぶ。
『今こそ超竜軍団決戦の時!!』
三色の篝火が巨大な火柱へと変じた。
それは巨大な火の玉となって空中に留まっており、何かの合図のようであった。
ややあって…
『…来たかっ!! 竜騎衆!!』
『竜騎衆が一人! 空戦騎ガルダンディー見参!!』
最初に現われたのはスカイドラゴンに跨った鳥人族の男だった。
続いて岬直下の海面が渦を巻き、次いで巨大な水柱が上がった。
中から現われたのはガメゴンロードの甲羅の上に設えた玉座に座るトドマンだ。
『海の王者・海戦騎ボラホーン! 参りました!!』
最後に巨大な地響きを立てながら進むドラゴンに跨る槍を持った魔族の青年が姿を見せた。
『陸戦騎ラーハルト推参!!』
ここにバラン最強の部下、竜騎衆の三人が揃ったのだ。
『ご苦労だった。待っていたぞ!』
バランの労いに三人は不敵に笑う。
『…数年ぶりですね。我ら三人がバラン様の下に集うなど…』
『我々全員の力を欲するとは、いったいいかなる事態が起こったのです!?』
『世界を燃やし尽くす日でも来たのですか? クククククッ!』
『私の息子…ディーノが生きていたのだ!』
バランの言葉に三人は若干の驚きの表情を見せる。
『最近とみに評判の高かった魔王軍に立ち向かう勇者の少年ダイ…彼こそ我が息子ディーノだったのだ!』
『!! な…なんと皮肉な巡り合わせか…』
ラーハルトが感嘆の声を上げる。
『私は既にディーノに出会った! そして彼率いる勇者のパーティと一戦交えた。
その結束力は想像以上に強く…私も若干のダメージを受けた』
『ば…バラン様が…手傷を!?』
『そ、それでこのアルゴ岬に来られていたのですな。ここは代々竜(ドラゴン)の騎士が力を回復する“奇跡の泉”があると云われるところ!』
『ウム…来た理由はそれだけではないがな…』
ラーハルトはやや痛ましげにバランを見つめるが、ハドラー達にはその理由が皆目見当がつかなかった。
『心得ました。バラン様!! 要はディーノ様の奪還にお力添えをすれば良いのですね!』
ラーハルトの言葉にバランは既にダイから人間としての記憶を消していることを前置きし、後は迎えにいくだけなのだが、と語尾を濁す。
懸念事項としてダイの仲間の事を挙げ、特にクロコダインとヒュンケルは侮れないと諭した。
『ククッ…笑止な。バラン様になら兎も角、魔王軍の軍団長如きに我ら竜騎衆が後れを取るはずなどありません!!』
しかしガルダンディーはバランの忠告を一笑に付す。
『確かにお前達は竜の騎士ほどの力はないとはいえ、魔族、獣人族の中から選りすぐった最強のドラゴンライダー達…
だが死を覚悟した人間どもは恐ろしい力を発揮する事もある。もし勇者の仲間達が抵抗してきたらお前達三人で叩き潰すのだ!
その間に私は息子を奪い返す!!』
『ハハッ!!』
彼らの返事を聞いて、バランは踵を返す。
『戦の準備を整えてくる…しばし待て』
そう云い置いてバランは森の奧へと姿を消した。
それを見送ったガルダンディーは若干の呆れの表情を浮かべる。
『フッ…バラン様も相変らず細心な御方よ。たかが人間ども数人と裏切り者二人の為にわざわざ我らをお呼びになるとは』
『無礼だぞ、ガルダンディー!!』
ボラホーンがガルダンディーを窘め、ラーハルトも同意する。
『そうだ。獅子は兎を倒すにも全力を尽くすという。その細心の配慮が百戦百勝の我が超竜軍団の栄光を支えていることを忘れるな!』
ガルダンディーは二人に軽く、分かってるよ、と返すと、アルゴ岬から海を挟んで見える街に気付く。
『確かベンガーナという国だな』
『フッ、面白い! 俺は人間どもをいたぶるのは久しぶりなんだ。ちょっくらウォームアップをしてくるぜ!』
自らのスカイドラゴンに跨るガルダンディーをボラホーンは慌てて止めるが、彼は耳を傾けない。
スカイドラゴンを駆ってあっという間に飛び去ってしまった。
『馬鹿めが…!!』
『…いつもの事だ。バラン様も笑ってお許しになる…』
しかし、二人はこの時殴ってでもガルダンディーを止めるべきだったと後悔する事を知らない。
「は、ハドラー様…」
「フン! あのガルダンディーとかいう男を追え! 少しは気晴らしになるものを見せてくれるやも知れん!!」
伺いをたてるザボエラにハドラーは面白くなさそうに答えたのだった。
ベンガーナ上空にて、スカイドラゴンが凄まじい雄叫びをあげた。
「な…なんだっ!? また魔王軍が!! し、しかも今度はドラゴンだってぇ!?」
エターナル率いる百獣魔団・氷炎魔団の攻撃の傷も癒えていないベンガーナの住人達はひどく狼狽している。
「のたうち回るがいい! 灼熱地獄でな!!」
ガルダンディーに手綱で顔を叩かれたスカイドラゴンは眼下の街に向けて火炎の吐息を吹きかけた。
ガルダンディーの狂ったような哄笑が響き、炎が街を焼き、サーベルが戦闘員、非戦闘員の区別無く抉っていく。
酸鼻極まる光景にガルダンディーは鼻で笑う。
「ヘッ、味気ねえな…これじゃ準備運動にもならねえや! ククククッ!!」
「そうかい…なら俺が相手をしてやろうか?」
「あん? 誰が相手をしてくれるってぇ?」
頭上に自分はおろかスカイドラゴンまですっぽりと覆う巨大な影がかかり、ガルダンディーは訝しげに上空を見上げた。
「……クワアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」
珍妙な悲鳴をあげてガルダンディーは血走った目を見開かせた。
「だから俺が相手をしてやるってンだよォ…鳥野郎…」
そこには普段以上に瞳を濁らせたエターナルがいた。
「い、いや、ちょっと待て!? そんなんどこで見つけた!?」
そしてエターナルが立っていたのは、ベンガーナのデパートに負けぬほどの巨体を誇る漆黒の鱗に覆われたドラゴンの頭上だった。
「待て? ああ、俺が魔軍顧問の地位にいるから遠慮してるンだな? そんな気遣いはいらねーよ」
エターナルが巨竜の角を軽く叩くと、それはスカイドラゴンを片手で掴まえ、そのまま口に入れて丸呑みにしてしまった。
「る…るるるるるるるるるるるるる…」
「あん? 歌でも歌ってンのか、テメェは?」
「ルードォォォォォォォォォォォォォォッ!?」
スカイドラゴンの名を叫ぶガルダンディーをエターナルはただ冷ややかに見下ろすだけだった。
すると巨竜は短く唸り、頭をゆっくり左右にふった。
「おい、鳥人族の兄ちゃん…食いでがなかったとよ…スカイドラゴンのお代わり頼めるか?」
嗜虐的な笑みを浮かべたエターナルにガルダンディーは目に涙を浮かべて激昂した。
「て、テンメェ…ルードはなあ…俺の唯一心を通わせた友達…いや! 兄弟だったんだ!!」
「そうかい…で?」
「俺達はいつも一緒だった!! どんな時でも…それを…俺の最愛の竜を…!」
ガルダンディーの目には狂気が宿っていた。
「よくも丸呑みにしやがったなああああっ!! しかも食いでがなかっただあ!? 切り刻んでやる!! 拾い集められねえくらいバラバラにな!!」
「できねー事は口にすンじゃねー…恥をかく事になるぜ?」
「うるせえっ! ルードを殺した報いは受けてもらうぜ!! 死ねえ!!」
ガルダンディーは頭から白い羽を数本抜くとエターナルに向けて投げつける。
しかしエターナルはよける素振りも見せずに左腕で受け止める。
「死ねって割りには大して痛くねーし、毒を塗ってある様子もないな…」
「余裕ぶっこいてんじゃねえ!! その羽をよぉく見てみろお!!」
見れば腕に刺さった羽からキラキラと光が零れていた。
「その光はお前の魔法力だ! 理解したか? その白い羽は相手の体から魔法力を奪うのさ!」
今度は赤い羽根を抜いて投擲の構えを取る。
「そしてこの赤い羽は…」
「募金すると貰えンのか? 1ゴールドで良いかい?」
「ふざけるな!! こっちは相手の体力を奪うんだ! この意味が分かるだろ? お前を空っぽの木偶の坊にしてからジワジワと切り刻んでやる!!」
「だからよ…できねー事を口にしてっと後で恥かくのはテメェだぜ?」
「舐めるなっ!! たっぷり死の恐怖を味わわせてから殺してやる!!」
エターナルは赤い羽もそのまま右腕で受け止めた。
「こっちは光じゃなくて血が噴き出すのか…見た目も悪いが、何より無粋だなァ…おい」
「なっ?…て、テメェのその血の色…」
「あん? 血も何も耳の形とか肌の色で俺が魔族じゃねーのはすぐに判ンだろ?」
雪のような純白の肌を鮮血が瞬く間に赤く染めていく。
「…そういやァさっきから黙って聞いてりゃァ、魔王軍近衛騎士団長の俺にお前だのテメェだの…随分な口の利きようだな?
俺も堅苦しいのは嫌いだが、軍団長の使い走り風情にタメ口きかれる謂われはねーンだよ…」
エターナルの両腕に刺さった羽が独りでに燃え上がり、一瞬にして灰になった。
ガルダンディーは色を失ってぶるぶる震え出す。
「で、だ…なんでテメェがベンガーナにいるンだよ? あのヒゲオヤジにはベンガーナ攻撃を命じてねーぞ?」
エターナルの右腕を汚していた血がまるで舐め取られているかのように消えていく。
「答えやがれ…黙ってっとテメェの独断専行ってことにして軍法会議にかけンぞ?」
「な…な…軍法…会議?」
「当たりめェだろ? テメェら竜騎衆がカイゼルヒゲ個人の部下だってのは知ってっけどな、そのヒゲオヤジが魔王軍に所属してる以上、テメェらも軍属扱いなんだよ。
だからな、テメェみてェに好き勝手動かれると示しがつかねーンだ…当然、テメェのような狂犬を放し飼いにしてるヒゲにも責任取ってもらうぜ?」
エターナルは器用にも空中で固まっているガルダンディーを見据えながら指の関節を鳴らす。
「まあ、私はこれこれこういう理由があって? かくかくしかじかって利益を得られると思ってベンガーナを攻撃しましたってンなら聞くだけ聞いてやるぜ?
俺を納得させる理由があんなら云ってみ? 場合によっちゃァぶん殴って終わりにしてやらァ…ただし快楽を求めての殺戮だったら分かってンな?」
「な…なんで俺が罰せられなくちゃならねえんだよ!! たかが人間を殺しただけじゃねえかっ!? おま…あんただって魔王軍なんだろ?」
「そうだな…俺だって魔王軍の一員として殺した人間の数は十人、百人じゃ利かねーよ? だがな? 不要な殺戮や略奪は一回もした事ァねーよ!
ただでさえ魔族やモンスターは人間を見下してる…理知を知らねー獣もいらァ…でもな? だからこそ厳しい軍律で行動を律してンじゃねーか!!」
エターナルが巨竜の頭から飛び出してガルダンディーに鉄拳を見舞い、差し出された巨竜の右手に着地した。
「本能の赴くままに殺戮、略奪、強姦なんぞやってみろ…いくら強い者が偉いってェ単純な掟を重んじる魔界の者とはいえ、ただの破落戸集団だよ、それじゃァ…」
エターナルは静かに降ろされた巨竜の手から地面に降りると、大の字になって気絶しているガルダンディーを肩に担いだ。
再び巨竜の手の上に乗り、持ち上げられると火の海と化したベンガーナの街を振り返った。
「詫びはしねェ…だが、超竜軍団の手綱をしっかりと握っていなかった魔軍顧問たる俺の責任だ…大人しく首はやれねーが、仇を討つってーンなら逃げも隠れもしねーよ」
そう云い残すと、エターナルの指示を待つ事なく、巨竜は翼を広げて巨体に似合わぬ速度でベンガーナから飛び去った。
再びアルゴ岬。
既に戦いの準備を終えているバラン、そしてラーハルト、ボラホーンの三人は待てども待てども戻ってこないガルダンディーに苛立ちを隠せないでいた。
「ベンガーナから立ち上る大量の煙…ガルダンディーの仕業だと思うが、夢中になっているにしても遅すぎる」
「も、申し訳ありません。バラン様…同じ竜騎衆の一員として殴ってでも止めるべきでした!」
「ウム…多少なら戦いの狼煙に丁度良いと不問に付するところだが、いくらなんでも羽目を外しすぎだ!!」
バランとしてはすぐにでも息子を取り戻したいところなのだが、肝心の戦力の一人が戻って来ないのでは話にならない。
「こうなったら今回はガルダンディーを外しましょう! なぁにこのボラホーンの怪力をもってすれば裏切り者の軍団長など物の数ではありませぬわ!!」
「仕方ない…こうなってはお前達二人にガルダンディーの分も働いてもらおう!」
「「ハハッ!!」」
ラーハルトとボラホーンが異口同音に返したその瞬間、彼らの背後で何か物が落ちるような音がした。
「むっ!? ガルダンディー!? 何があったのだ!」
白目を剥き、だらしなく舌を出して気を失っているガルダンディーを三人は取り囲む。
すると突如突風が巻き起こり、巨大な水柱が立った。
「何事っ!?」
ラーハルトがバランを庇うように前に進み出る。
水柱は収まったがそこには何も無かった。
「いや待て! 何かがおかしい」
バランの指差す方向には海面に穴があいており、空中には水滴が浮いていてぽたぽたと海面へと落ちていく。
「レムオル解除…」
「な…なにぃ!?」
バラン達には一瞬、空間が歪んでいるように見えた。歪みは徐々に色を得て、ついにはアルゴ岬を見下ろすほどの巨大な竜の姿となった。
そして今、彼らの頭上には巨竜の頭の上で腕を組んでいるエターナルの姿があった。
「いよォ…テメェンとこの狂犬、回収してきてやったぜ? 明らかに独断専行、軍律違反だ…飼い主としてどう責任取るつもりだ?」
「魔軍顧問…エターナル様…」
エターナルとバランはしばし睨み合う。
一触即発の状況でラーハルトが口を開いた。
「お待ち下さい! ガルダンディーの行動はヤツの独断でしたこと! バラン様は我らにここで待つように指示されていたのです!
勝手な行動をしたのはヤツ自身! そして罪があるのは、それを止めなかった我ら竜騎衆にございます! 責任は我らにあります!」
「傲ったこと抜かしてンじゃねーぞ? 責任ってーのはな、責任者が取ってこそなんだよ! テメェ如きが責任取れるわけねーだろが!!
それに今の口振りじゃオメー…そこの鳥野郎は軍団長の待機命令をも無視したって事じゃねーか! 逆にもう一個、責任問題が浮上したよ、馬鹿野郎!!」
エターナルは飛翔呪文トベルーラでゆっくりと巨竜から降りると、改めてバランと対峙した。
「おう、この父親失格オヤジ! この落とし前、どうつける気だ?」
「分かりました…ガルダンディー、起きろ!!」
何度か軽く蹴るうちにガルダンディーは目を覚ました。
「…ハッ!? ば、バラン様!?」
「後ろを向け」
「……は?」
「後ろを向けと云っている」
「は、ハハッ!!」
ガルダンディーが後ろを向くとバランは背中の剣を抜き、一閃させた。
「ギィヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
右側の翼を斬り落とされてガルダンディーは苦痛にのたうち回った。
「ガルダンディーにとって命よりも大切な物を破壊しました…私自身への罰はディーノ奪還後、ご随意に…今はこれにて平に…」
「ま、いいだろ…テメェへの仕置きは追って沙汰する…ま、テメェにダイを奪えるのかどうかは知らんがな」
エターナルの物云いにバランの目つきが鋭くなる。
「聞き捨てなりませぬな…先程の父親失格というお言葉も聞き流す事が出来そうにありませぬ」
「テメェ…本気でダイの父親たる資格があると思ってンのか?」
「資格も何も私はあの子が生まれた頃から父親ですぞ! それにダイではなくディーノです!」
エターナルは大仰に溜息を吐いた。
「テメェの餓鬼の人格を全否定する父親がどこにいやがる! いや、それ以前になんで最初に自分が父親だと名乗らなかった!?」
エターナルの拳がバランへと迫り、その直前で拳を止めた。
「今更テメェを殴っても仕方ねェ…なあ? なんでテメェは超竜軍団長だと名乗った? 何故、自分の息子を抱きしめてやらなかった?」
「いずれディーノは魔王軍に来るのです。ですから始めに自分の身分を明かしたまで…それに抱きしめるまでもなく私が父であると自ずから悟ると思いましたので…」
「どっから来るンだ、その自信…結局、交渉は決裂…戦闘になった挙句に記憶まで奪っちまいやがって…ダイはな、テメェの復讐の道具じゃねーンだぞ!!」
「子供というものは親に無条件で従うものです! 私が人間を滅ぼすと決意した以上、ディーノもその道を歩むべきです!!」
その瞬間、エターナルの脳裏に鮮明に甦る記憶があった。
生まれた頃から巨大で恐ろしい男に殴られ、蹴られ、煙草の火を押しつけられる日々…
物心つく前からおぞましい厚化粧を施し空虚な笑みを浮かべながら神の存在を説く不気味な女…
複数の男女に取り押さえられて、全身に刺青を彫られた激痛…
巨大な竈に放り込まれて、つい先日まで無邪気に追いかけっこをしていた友と共に業火にさらされた絶望…
『偉大なる太陽神よ! 貴方様のお力の一部である贄蝕みの炎(にえはみのほむら)に無垢なる巫女達を捧げまする!!』
一人…また一人…業火の中で友が力尽きていく…
一番仲の良かった年上の友人が身を捨ててフバーハとヒャド系呪文で業火から守ってくれているが、二人とも死ぬのは時間の問題だった…
『我が娘エターナルよ。その名に恥じぬよう太陽神へ永遠の忠誠を誓い、誠心誠意お仕えするのですよ!』
『エターナル…好きよ…だから生きて…生きて私の分まで幸せになって…大丈夫…誰かが助けてくれるまで私は貴女を守るから…』
『熱いよ! 炎が私の中に入ってくるよ!?』
『巫女よ…選択はなされた…我が伴侶はそなた…我が名は太陽を司る神…』
『だ、誰だ、貴様は!? 神聖なる儀式の邪魔をするか!?』
『下品な宗教だ…いい加減目障りだ! 消え失せよ! カイザーフェニックス!!』
「………様! ……ナル様!」
「ん? …ああ…俺は?」
「気が付かれましたか、エターナル様?」
エターナルは周囲を見渡す。
まるで森林火災の跡だった。木々は炭と化し、地面は乾きひび割れている。
どうやら自分は横たわっているらしい。それをバランが抱きかかえるように支えていた。
「どうやら火は完全に消えたようです。エターナル様の竜が吹雪を吐けなかったら火災はもっと広がっていたことでしょう」
煤まみれのボラホーンが呆れ混じりに報告する。
「消火ご苦労…ディーノを取り戻す聖戦の前に焼け死んではシャレにならんからな!」
「お…俺はいったい…?」
「覚えていないのですか? 突如、貴女様の周囲に巨大な火柱が立ち、周囲を火の海にしたのですよ…ガルダンディーまでも巻き添えにして…」
ラーハルトが指差す先には鎧をつけた巨大なローストチキンがあった。
「殺しちまったか…俺としたことがなんてェザマだ…」
エターナルは立ち上がるとゆっくりとガルダンディーの亡骸へと近づき、黙祷を捧げた。
「すまん…許してくれ…」
「エターナル様…先程の炎はいったい…」
「そうだな…仲間殺しておいて、すまんじゃ済まされめェよ…」
エターナルは自分を庇うように自らを抱き竦めた。
「俺はな…餓鬼ン頃、魔界で一時期流行ってた太陽神信仰で…太陽神信仰、知ってるか?」
「ええ、地底深くに存在する魔界には太陽の光が届く事はありませぬからな…
太陽に憧れる者達が、僅かでも良い、光をお恵み下さい、と太陽の神に祈り、供物も捧げていたとか」
バランの言葉にエターナルは小さく頷く。
「その供物ってェのは生け贄も含まれていてな…こうして…」
エターナルは顔を覆う包帯を剥ぎ取り、炎を表現した刺青を見せた。
「数年に一度、男を知らねー餓鬼を集めて太陽神に仕える巫女の刺青を全身に施し…太陽神が魔界の者に与えたとされる炎の中に捧げるのさ」
「なっ…? ではエターナル様は…」
「そう、太陽神の生け贄の一人だった…ちなみに顔の右半分と右腕に刺青がねーのは、当時、面白半分に皮を剥がされてて刺青を施せなかったからだ」
その告白にバラン達は顔をしかめる。
「実は魔界にも人間はいる…魔族やモンスターと比べたらほんの一握りの数だがな…そして魔物に追いやられる日々の中で…」
「魔物に皮を剥がされたと?」
「いや、魔物が人間を襲うのはあくまで食う為だ。魔族は人間に見向きもしねェ…遊びで人間をいたぶるヤツはいなかったよ。
魔物に追われ続ける毎日で歪んでいったンは…人間だ…いつ食われるか分からない恐怖の中で、その鬱憤は弱者に向けられたンだ…」
「人間…!!」
バランの目に憎悪が宿るが、エターナルは彼の額を優しく叩いて窘める。
「人間全体を憎まないでくれ…俺も人間だよ…もっとも精霊達と気を通わせ合い、精霊界の食い物を食ってるうちに阿呆みたいに寿命が伸びちまったけどな」
「エターナル様が人間…?」
「見りゃァ判ンだろ? とっつぁんとは義理の親子だ…血の繋がりはねェ…」
そこでエターナルは話がどっか飛んじまったな、と頭を掻いた。
「生け贄にされた俺達は、太陽神へ捧げる為に贄蝕みの炎と呼ばれる特殊な炎の中へ放り込まれた。
巫女の刺青のせいか炎は何故かこの身を焦がすことは無かったが、生命力を著しく奪っていった。
次々とダチが力尽きていく中、俺の耳に奇妙な声が聞こえたと同時に、炎が俺の股から中へ入ってきやがった…」
そこで俺はとっつぁんに救われたンだ、とエターナルは懐かしげに、そして今にも泣き出しそうにしながらも微笑んだ。
「それ以来、俺は感情が高まりすぎたり、男に純潔を捧げようとすると、さっきみたいに炎が暴走して周囲を焼き尽くしていく…
とっつぁんが云うには、俺は太陽神に魅入られているらしい…生け贄を蝕む炎は今もなお俺の中で燃え続けてるンだ」
おぞましいだろ? と苦笑するエターナルにバラン達は哀しそうに見つめ返すだけだった。
「これがガルダンディーを殺した炎の正体だ…あとはお前達でヤツを殺した報いを俺に与えてくれ」
エターナルは目をつむり、超竜軍団の裁きを静かに待った。
バランはエターナルに近づくと、刺青を施していない右頬に一筋の傷を作った。
「ガルダンディーの命の報いに、女の誇りに一つ傷をつけました…ですが、そもそもあれしきの炎から逃れられぬヤツが未熟だっただけの話!
しかし、それでは貴女様のお気が済まぬだろうと思い、罰を与えました。超竜軍団からの裁き、お受け頂けますな?」
「すまない…恩に着る…」
エターナルは深く頭を下げた。
「それとなバラン…今後な…子供は親の従属物みたいな発言は控えてくれ…俺は俺を制御しきれてないンだからな…」
「御意…どうやら私の不用意な言葉が貴女を傷つけたようですね…申し訳ありませぬ…」
「そう思えるくらいなら…ダイと再会した時、父親だと名乗って後は何も云わずに抱きしめてやれば良かったンだよ…
そうすりゃァ、ここまで拗れることは無かったンだ…いや、下手な交渉をする前にダイは魔王軍に来てくれていたかも知れねーな」
エターナルは自らを抱いていた腕を解くとしっかりとした足取りで歩を進める。
「どちらへ?」
「どちらも何もテランに決まってンだろ? ガルダンディーを殺しちまったからな、野郎の分くらいは働くさ…」
エターナルは苦笑してそう答えたものだ。
「今度はしくじるなよ?」
バランを見つめるエターナルの目は期待と不安が入り混じっていた。
あとがき
難産でした。
ガルダンディーの扱いをどうしようと悩み続けて、結局は今回のようになりました。
前回でエターナルはかなりキレてましたからね…ガルダンディーのようなタイプとは絶対に衝突するなぁと。
そして徐々に明らかになるターさんの過去。不幸街道一直線な幼少期でした。
後にもっと詳しい描写をすると思いますので、それまでお待ち下さい。
それでは、また次回に。
修正しました。