ダイ視点
ロモスの王様から貰った鋼鉄の剣がもう寿命なので、俺は今、新しい武器を探しにベンガーナのデパートまで来ていた。
とりあえずカッコイイ騎士の鎧をレオナに買って貰ったまでは良かったんだけど、サイズが合わなすぎてイマイチ強くなった気がしない。
続いて本命の武器を買おうとすると、なんと鉄より硬いドラゴンの皮膚も簡単に貫くって有名なドラゴンキラーがオークションにかけられていた。
結局はこちらの予算が足りなくて、ゴッポルさんって商人が落札しちゃったんだけどね。
レオナはちょっと悔しそうにしてたけど、俺は高い武器が欲しいんじゃなくて新しい剣が欲しかったんだから別に良かったのに…
「あれ? ちょっと肌寒くない?」
急にレオナが二の腕をさすり始めた。
「ああ、云われてみればさっきまで蒸し暑かったくらいだったのに、今はやけに涼しいな…」
ポップも不思議そうにしてるけど、騎士の鎧の中が蒸れていたせいか俺は涼しさなんて感じなかった。
「たっ…大変だああ!! あれを見ろ!!」
戦士風の男の人が指差す方を見て俺達は驚いた。
だって無数のブリザードが円を描くように街を取り囲んで、グルグル回転しながら吹雪を吐いてたんだ。
「あれは氷炎魔団のモンスター!? 奴らは全滅したんじゃなかったのかよ!」
ポップもかなり焦ってるけど、目の前に魔王軍がいるんだ。
やることは決まっている!
「ど、どうすんだよ? やるか?」
「ああ、何をやってるのか分からんが、ブリザードくらいならなんとかなるだろうし、ベンガーナの兵士もすぐに来るだろ」
周りの戦士達も応戦するみたいだ。
よぅし! バルジ島の時よりも数は多そうだけど、みんなで戦えばなんとかなるだろう。
「あっ! ベンガーナの兵隊だ!!」
窓から見下ろせば、確かに兵士の恰好の人達が上空のブリザード達に火矢やメラ系呪文を放っているのが見えた。
しかし、ブリザード達は兵士達には構わないで回転を続けて吹雪を吐いている。
やがてすっかり街中が白く染まり、温暖なベンガーナは瞬く間に極寒の世界へと変わってしまった。
「さ、寒い! 魔王軍の奴ら、この街の人達を凍死させるつもりだ!!」
「今までにない戦法だわ! でも、フレイザードが死んだ今、誰がブリザードに命令してるのかしら?」
そうだ! ブリザード達のこの動き…誰かが命令してなきゃできないはずだ。
仮にフレイザードが生きてたとしても、なんからしくない…あいつは卑怯なヤツだったけど、戦う時は自ら戦ったはずだ。
こんな自分の手を汚さずにじわじわと嬲るような戦い方はしないはずだ。
「グオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!」
「うわああああっ!?」
すると恐ろしげな咆哮が上がり、悲鳴が聞こえてきた。
「なっ!? 新手のモンスターが!!」
どこに隠れていたのか、グリズリー系とエイプ系のモンスターがベンガーナの兵士達を背後から襲っていた。
「今度は百獣魔団のモンスターかよ!? 一体全体どうなってやがるんだ!?」
そんなのこっちが訊きたいよ、ポップ!
「驚いてる場合じゃない! ポップ! まずはブリザード達を何とかしよう!」
「あ、ああ…よっしゃ、行くぜ!」
そう答えてポップが窓から飛び出そうとしたその時、俺は吹雪の音に混じっている何かを聞き取った。
「ポップ、待って! 何かいる!」
目を凝らすとブリザードの包囲網の外にある教会に異変を見つけた。
教会のシンボルのである十字架の上に人らしい影がかろうじて見えた。
「十字架の上に誰かいる!! もしかしたら魔王軍の指揮官かもしれない!」
「なんだってっ!? よぅし…俺がブリザードの包囲を破ってやる! ダイは教会へ!」
ポップの指示に俺は大きく頷いた。
「私も行くわ。まずはブリザードを何とかしないと避難もままならないし」
そうだった。この極寒地獄をなんとかしないと、店の外に逃げても凍え死んでしまうだけだ。
「先に行くぜ!」
ポップはトベルーラで窓の外から飛び出していった。
「メラゾーマ!!」
「ギャアアアアアアッ!!」
ポップのメラゾーマがブリザードを十数匹飲み込んだけど、ブリザードの回転はまだ弱まらない。
「よおしっ! 俺も行くぞおっ!!」
俺もポップに続こうと窓に足をかけたまでは良かったんだけど、鎧の重さでバランスを崩して地面に落ちてしまった。
か…カッコ悪い…
「ええいっ!! もうこれじゃダメだっ!! 動きづらくって!!」
俺は騎士の鎧を外すと、動きを妨げなさそうなパーツを選んで装着する。
「よしっ! 行くぞ、ゴメちゃん!!」
「ピイッ!!」
雪や氷に足を取られないように注意しながら、俺はゴメちゃんと一緒に駆けだした。
ポップやお城の兵士達、デパートにいた戦士達の頑張りもあって、俺がブリザードの包囲網に辿り着いた時には、回転も密度もかなり弱まっていた。
「火炎大地斬っ!!」
「ギエエエエエエエエエエエエッ!!」
剣にメラをかけた魔法剣で目の前のブリザード数匹を蒸発させた。
続いて襲いかかってきたグリズリーとキラーエイプを蹴散らしながら俺は教会へと急いだ。
「こ…この旋律は…?」
やっぱり十字架の上に人がいた。
男か女かは判らない。黒いズボンに袖無しの黒い襟の大きいシャツ、ブーツまで黒い、全身黒尽くめ…
腰にサーベルだろうか、細い剣を二本腰に差している。その二本の剣は遠目に見ても長さが違うようだった。
どうやら顔と左腕(もしかしたら全身?)に包帯を巻いているらしい。
その人は唇にフルートを当てて綺麗な旋律を紡いでいる。
荒ぶる怒りのような力強さと胸を締め付けられるような深い哀しみが同居しているようなメロディーだ。
「どうだ? 魔界でも伝説の作曲家ロー・キダタの名曲『百獣の嘆き』…
身勝手な人間のせいで住処を奪われた獣達の怒りと哀しみを表現した曲だそうだ」
いつの間にかフルートの音が消え、十字架の上の人もいなくなっていた。
俺は背中から冷や汗が噴き出してきたのを自覚した。
何故なら、今の声は俺の背後から聞こえて来たのだから…
「おい、拍手の一つもねーのか? ターさん、頑張ったンだぜ?」
振り向けない…声すら出ない…
僅かでも動けば殺される!
そんな馬鹿げた思いが全身を硬直させていた。
「まあいいさ…まずは自己紹介といこうか…」
背後の人がゆっくりと俺の正面へと回ってくる。
殺気は感じない。敵意すら感じない。違う…何の気配も感じられないんだ…
「俺の名はエターナル…魔王軍近衛騎士団長にして魔軍顧問…人は俺をターさんと気軽に呼ぶ」
「き、騎士団長が気軽に呼ばれちゃダメなんじゃ?」
口の中がカラカラに乾いている。
軽口を叩いているけど、こいつはそんな軽いヤツじゃない…
こいつを見ていると、あのハドラーが猫のように思えてくる…
「良いンだよ…恭しく礼なんてされてみろ…鳥肌が立つぜ」
ついに俺の正面にきたエターナルのその目は…濁り切っていて、本当に生きているのかという疑問を持たせた。
俺の全身に怖気が走り、冷や汗は背中どころか全身から出てくる始末だ。
こんな銀色の綺麗な髪をしているのに、こんな綺麗な顔をしているのに、その目を見ただけで俺は身を竦ませた。
マトリフさんの言葉を思い出せ! 勇者の最大の武器は勇気じゃなかったのか!
俺は震える全身をなんとか動かしてエターナルを睨み付けた。
「あ、あのブリザードとグリズリーはお前の仕業か?」
俺の問いかけに、エターナルはニヤリと笑った。
「ああ、百獣魔団も氷炎魔団も軍団長を失って宙ぶらりんだったからな。だから俺が再編成して近衛騎士団の隷下として組み込んだンだ」
こいつでな、とさっきのフルートを俺に見せた。
銀色に輝くフルートはライオンと大鷲、蛇の姿が刻まれているようだった。
「これは百獣王のフルート、奏者の力量によって操れるモンスターの数やレベルの上限が変わる代物だ。
ちなみに俺が吹くと獣系だけでなく、ブリザードのようなエネルギー生命体も支配できるンだぜ?」
エターナルは愉快そうに笑う。
ならば俺はフルートを壊そうと剣に手をかけるが、エターナルはケラケラと笑みを深めるばかりだった。
「今更フルートを壊しても無駄だぜ? モンスターを手懐けるにゃァ演奏するだけじゃ意味はなくてな。
このメロディーに惹かれて集まったモンスターを屈服させるだけの力を示さにゃいけねーンだよ」
だから百獣王って冠してンだ、と苦笑した。
「つまりお前はグリズリー達を従わせるだけの事をしたと?」
「ま、軽く闘気を放っただけなンだがな? 一斉に腹を見せ始めたモンスターの群れにビビッたのは俺とテメェだけの秘密だ」
そこでエターナルは意地の悪い笑みを浮かべた。
「そういう訳だ。お前さんは百獣魔団も氷炎魔団も滅ぼしちゃァいねェ…軍団長を倒しただけだ。
クロコダインやヒュンケルも戦士としては優秀だったが、将としての器はねェ。
ただ、軍団のパワーと数に頼った力押しでロモスとパプニカに勝ってただけだ。
フレイザードも良い線いってたが、生まれたてで思考が餓鬼すぎた…手柄に執着するあまり独断専行が酷かったからな。
結局、フレイザードのバカヤロも指揮官向きじゃなかった。出世したとしても、戦いしか能が無ェから役には立たなかっただろうよ。
分かるか? クロコダインらの裏切りもフレイザードの死も、魔王軍全体からしてみれば大した損失じゃないンだよ」
「だったらお前も大した指揮官じゃないな! こうしてブリザードの包囲網は全滅してるし、キラーエイプ達ももう逃げ帰っている!」
するとエターナルは大きな声で笑った。
「虚勢を張るンじゃねーよ、坊主! お前はもう分かってるンだろ? 今のがデモンストレーションだってよ?
俺が本気ならブリザードじゃなくフレイムを使ってこの街を焼き尽くしてたって悟ってンだろ?」
そうだ…エターナルの云う通りだ。
ブリザードとキラーエイプ、グリズリーだけでここまでの被害が出たんだ。
こいつの指揮したフレイムの軍団なら、きっと為す術もなくベンガーナは灰燼と帰していたに違いない。
「誤解されても困るから云っておくがな、別に俺は余裕を見せてる訳でも、テメェを馬鹿にしてる訳でもないからな?」
「どういう意味だ?」
「そりゃァ、今後の為に魔王軍の現状を知っておいて貰おうとな…あっと、肝心な事を忘れてたぜ!」
訝しむ間もなかった。
不意にエターナルが何かを思い出したように手を叩いたからだ。
「さっきの話に出てきたフレイザードな? ヤツの事で礼をせにゃァいけなかったンだ」
「礼だって?」
腰に手を当てて笑うエターナルに訝しげに問うと、こいつは更に胸を反らした。
間近で見るとやはりシャツの下は包帯がきつく巻かれているようだった。
だから今まで気付かなかったんだけど、胸を反らした今、判った。
こいつ…女だったんだ。
「フレイザードはな、テメェも知ってるように不死騎団を地底魔城ごと滅ぼしやがった。
いくらなんでもこれはやり過ぎだ…だから近々フレイザードは処刑される事になってたンだ」
「それを俺達が倒した…」
「ああ、おまけに完成したアバンストラッシュの威力も見せて貰えたしな。
本当はヤツを作ったハドラーも更迭する予定だったンだが、その功績によって野郎はお咎め無しって訳さ」
こいつ…!!
「あのな? こちとら軍人だぜ? テメェの手柄の為に暴走するヤツを放っておけるかよ。
俺も不真面目な方だが、規律だけはきっちり守ってる。そうしないと下がついてこないからな。
なんぼ強くても軍規を乱すヤツは粛正されるンだよ。ま、しっかり利用させてはもらったがな」
エターナルは肩を竦めた後、不敵に笑って腰の二本の剣を抜き放った。
「フレイザード処刑代行及びアバンストラッシュ披露の礼に今度は俺自身の力を見せてやる!
ハドラー達との戦いなんぞ餓鬼の手遊びに過ぎなかったと思い知るンだな!」
エターナルは右手に持った長剣を頭上に掲げ、短剣を逆手に持った左手を俺に向かって突き出すような構えを取った。
「決闘の習いだ。もう一度名乗ろう…魔軍顧問エターナル…大魔王バーンの娘だ」
「なっ!? バーンの娘だって!?」
「驚いてねーでテメェも名乗れや」
そう云って睨むエターナルの目は全然濁ってなくて、鷹のような鋭い光を放っていた。
この時、俺の心は素直になった。
怖い。
どういう意味で今の目とあの濁った目を使い分けているのかは知らない…
けど、あの鋭い目に射竦められた俺は、負けられないと思う前に…覚悟をしてしまったんだ。
死を…
「無礼な餓鬼だな…まあ、いい…ついでに俺の相棒も紹介させてもらうぜ」
いつの間にか俺とエターナルの間合いが狭まっていた。
不動の構えかと思っていたけど、本当は少しずつ俺に気付かれないように間合いを詰めていたんだ!
「この二振りは、とある海底洞窟で見つけた古文書を解析して製造法を甦らせたカタナって剣でな。
こと斬る事に関して右に出る剣は無ェ…銘はその古文書に書かれた騎士に似た存在に敬意を表してこうつけた。
長剣をサムライ、短剣をモノノフとな。そしてこの二振りを使いこなす為、別の古文書から甦らせ独自の工夫を加えた剣法…」
この時になって俺は漸く剣を抜く事ができた。
「牙狼月光剣! 推して参るっ!!」
まるで餓えた狼のような迅い寄り身だった。
あとがき
半端かなとは思いましたが、このまま戦闘を書くと長くなりそうなのでここで切りました。
次回はいよいよエターナル本人の戦闘能力が明らかになります。
前書きにも書きましたが、チート丸出しの極悪仕様です。
竜の騎士も大概チートですが、それを上回ります。
でも最低系にはならないように工夫をしてますので、どうかお付き合い下さい。
いや、今回のエターナルの口上も十分最低系かな…
あと、思っていた以上に感想が多く頂けたので嬉しかったです。
本当にありがとうございました。
他にもツッコミ、アドバイスもございましたら、宜しくお願いします。