ダイ視点
闘技場の舞台をすっぽりと包み込む結界に俺は圧倒されていた。
この結界はエターナルの暗黒闘気によって作られたもので、本人が云うには中で竜(ドラゴン)の騎士が暴れたくらいでは壊れないんだそうだ。
エターナルの言葉を信じるなら、竜闘気(ドラゴニックオーラ)を全開にした父さんとディーノが模擬戦をしてもビクともしなかったんだって…
「ご来場の皆様にお願い申し上げます!!」
エターナルの良く通る声が会場に響き渡る。
「これから始まる戦いは決して恐ろしいものではありません!! 平和を乱す悪を誅する為に天が地上へと遣わした希望の力なのです!!
この力を恐れるなというのは無理かも知れません!! しかし、いたずらに迫害する事は許しません!! それは天に対する冒涜となりましょう!!」
会場が戸惑いと不安の声にざわめく。
「我が母、精霊ルビスの名において命じます!! 希望の勇者・竜の騎士を貶める事なかれ!!」
「その通りじゃ!! 勇者こそ魔王軍が席巻する地上に唯一残された希望!! その希望を我ら人間の手で摘み取ってはならぬ!!」
エターナルに続いて王様まで声を張り上げる。
「それは神への冒涜、精霊ルビス様への侮辱、そして、ここにおわす精霊の姫・エターナル様の御心を裏切る事になろう!!」
エターナルから神々しい光が放たれ、半信半疑だった観客達は一斉にエターナルと王様に平伏した。
これって今から全力で戦う俺やディーノが人間に恐れられない為の処置であると同時に、俺に対する牽制でもあるんだろうなぁ…
多分、エターナルは俺がロモスに仕掛けられた黒の結晶(コア)のオチを知った事を察している。だからこうして俺に釘を刺してきたんだ。
もし、今のタイミングで俺がエターナルやディーノが魔王軍の手先だと公表すれば、きっと会場のみんなの批判は俺に向くだろう。
精霊ルビス様のお姫様になんて事を云うんだと、この場の人間全てを敵に回し…下手をすれば攻撃される可能性もある。
ここは乗るしかないんだろうなぁ…あ、エターナルのヤツ、こっち見てニヤッって笑った!
「ダイ…エターナルは確かに魔王軍の幹部として動いている。けど、きっと貴方がこの戦いの後、苦しまないように考慮してるだろう事も信じてあげて?」
セコンドについてくれたマァムに俺は、エターナルが優しい心も持っている事を知ってる、と返した。
「…って云うか、マァムもエターナルが魔王軍だって知ってたんだ?」
「ちょっとね…少し為になる話を聞いちゃったから、今の私は少なくともエターナルの味方よ。勿論、寝返るって意味じゃないからね?」
分かってる。きっとマァムはエターナルと敵対してはいても心では繋がっていると云いたいんだ。
自分はあくまでもアバンの使徒としてエターナルとは戦うけど、決して憎いとか、やっつけてやるとか、そういう感情を持たずに純粋に接するつもりだと…
「でも…」
「でも?」
「こうして見ると、やっぱりエターナルが優しいというのがよく分かるわ…だって、魔王軍として動くならこうしたフォローは必要ないもの。
いいえ、むしろ観客の感情を操って貴方を差別されるように仕向ける方が利口だもの…でもエターナルはそうしない」
マァムとエターナルは目が合ったのか、ほぼ同時に微笑んだ。
「あれ? そう云えば、俺が竜の騎士だって云ったっけ?」
「結界を張る少し前にエターナルとお話しする時間があってね、貴方の事を聞かされたわ。あの子、貴方の支えになってくれって云っていたわよ?」
「俺の支えに? いくらあいつが優しいって云ったって、敵にそんな事云うかなぁ?」
首を捻る俺にマァムは苦笑した。
「それはディーノにも突っ込まれていたわ。それに対してエターナルは、そう云っておけば奴(やっこ)さんも俺と戦いづらくなるだろう、ですって」
素直じゃないわよねと、マァムは優しい眼差しでエターナルを見る。
「でも覚悟はした方が良いわね…いつかはエターナルと直接対決をする事になるだろうけど、そうなったら多分、いえ、必ず彼女は私達を殺しにかかるわよ。
あの子は優しいけど軍人としての厳しさも併せ持っている。もし負けても情けをかけて貰えると思っていたら痛い目を見るわね…
エターナルの優しさは決して甘さとはイコールじゃない。敵を殺してあの子の心が傷つくのは確か…でも、あの子は振り下ろした刃を絶対に止める事はしないわ」
マァムはかなり深い所までエターナルを理解しているみたいだ。
でも、俺はもっと気になる事があった。
「マァム? なんかエターナルの事、“あの子”って呼んでない?」
するとマァムは驚いたように目を見開いて右手を口元に当てた。
「嫌だわ…私ったらルビス様の口調が移ったかしら?」
「ルビス様?」
「あ、何でもないわよ! きっとエターナルと友達になれたから親しみを感じたのかも知れないわね?」
マァムの追求するなと云わんばかりに鋭くなった目に俺はこれ以上突っ込まなかった。
誰? 突っ込めなかった、の間違いだろうって云ったのは?
「でも正直、エターナルと戦っても勝てる気がしないよ…あいつは精霊達から愛されてるお陰で魔法が通じないんだ。
ヤツに向かって放つ魔法は全て無効化されて、逆にヤツの魔法は少ない魔法力消費で威力も精度も格段に上がるんだよ。
おまけにバーンの持つ必殺技もいくつか使えるみたいだし、殆ど反則の塊だよ…せめて呪文が問題なく使えればなぁ…」
「それは無理よ。エターナルはただ精霊達に愛されてるだけじゃないわ。遙か昔に精霊界を危機から救った英雄だもの。精霊は絶対にあの子を裏切る事はないわ」
「英雄? 精霊界の危機って?」
マァムはまたも失言したって顔をして、ポップ達と合流してから話すわと、言葉を濁した。
「そう云えばポップやヒュンケルはどうしたの? 薄情な話、大会で頭がいっぱいだったから今まで気に置いてなかったけど、一緒じゃないのね?」
俺の心臓が痛いくらいに跳ね上がった。
どうしよう…ヒュンケルは治療と修行で云い訳は成り立つけど、とてもじゃないけどポップは女の子に、それも天使になりました、なんて云えないよ…
「えーっと…ヒュンケルは武器が新しくなったんで、それを使いこなす為に修行に専念してるよ…ポップは…」
『ご来場の皆様! 結界の安全確認が完了しました! これより三位決定戦を行います!!』
タイミング良くエターナルのアナウンスが入り、お陰で俺はなんとか誤魔化す事ができた。
「じゃあ、行ってくるね!」
「ええ、頑張ってね! 相手はかなりの技巧派よ。それに加えて今まで秘めていた大きな力を開放するみたいだし、油断は禁物よ」
「分かってる! あいつは強い! 気を引き締めないと確実に負けるって分かるんだ!!」
その証拠に舞台上で俺を見下ろしているディーノは薄く笑みを浮かべている。
俺がバーンを倒した事を知ってても笑えるんだから、あいつも相応の力を持っていると見るべきだ。
しかも俺の背中の剣は既に戒めを解いている…相棒(こいつ)も分かってるんだ。ディーノが強いって事を…
「行くぞ! ディーノ!!」
俺は結界を擦り抜けて舞台に上がる。
結界を通る瞬間、なんか暖かいものに包まれたような感覚を覚えた。
そう、喩えるなら母さんの腕の中に抱かれたかのような安心感と云えばいいのか…
「ター姉の暗黒闘気の源は全てを優しく包み込む慈愛の心…ター姉は全てを愛する。それは闇とて例外じゃない。
夜の闇が眠りに就く人々に安息を与えるように、ター姉の“闇”は優しいんだ…それが怖い」
確かにこの結界の中は酷く安心する…
「きっとお母さんのお腹の中にいる赤ちゃんはこんな心持ちなのかも知れないね…下手するとここから出たくなくなるくらいにね。
知ってる? この結界は組み立て方を変えると内部の生命体の命を吸い取る恐怖の力場に変わるんだ…
結界に捕らわれた者は次第に自分の生命力を奪われていく事に気付いていながら、この安心感のせいで結界から抜け出せなくなる。
凄かったよ…いや、怖かったよ…結界内のハドラーさんが子供のように安らいだ表情を浮かべながら干涸らびていく光景はね…」
ディーノの話を聞いてなお俺の心の中に恐怖は生まれず、それも良いかな、と思った瞬間に漸く背筋に冷たいものが走った。
見れば、ディーノの顔は、しっかりしろと云わんばかりに厳しいものになっていた。
「これは本気で気を引き締めないとね…油断すれば二重の意味で危険に曝されるよ…」
「当然だよ。なんと云っても暗黒闘気遣いの本家・ミストさんの闘魔滅砕陣を発展させたこの闘魔滅魂陣は、ミストさんをして恐ろしいと口にしたんだからね。
敵に苦痛どころか恐怖すら与えずにじわじわと命を吸い取り…しかも敵の中には母親を思い出して感動の涙を流しながら死んでいく…慈悲深くも残酷な蜘蛛の巣なのさ」
そんな結界の中に俺達はいるのか…
「しかもこの結界は内側からじゃ竜の騎士が二人がかりで攻撃しても壊れないんだ…入る事はできても決して抜け出せない…蜘蛛の巣と云うのは我ながら良い喩えだね」
なんだか怖くなって目を瞑った瞬間、何十人ものエターナルに囲まれてるイメージが浮かんで思わず目を見開いた。
「優しい顔をした無数のター姉に囲まれたって顔だね? この結界はター姉そのもの、うかつに五感を閉じればター姉の“闇”に襲われる事になるからね」
目を瞑れば沢山のエターナルに囲まれ、耳を塞げばエターナルの甘い囁きが耳をくすぐり、鼻を抓めばエターナルの匂いに包まれる…
試しに鼻を抓むと、日向の花畑の真ん中に立っているかのような優しい香りがした。柔らかな日差しの春の匂いだ。
「これはデスマッチだ…ター姉はボクと君、どちらかが完膚無く叩きのめされるまで結界は解かないと云っていたよ。この試合に限っては降参も場外負けもない」
ディーノはハルバードを頭上で勢いよく振り回す。風を切る音が会場内を不気味に木霊する。
俺も背中の剣を抜いて構える。逆手にだ。
「いきなりアバンストラッシュか…面白い…ター姉!! 試合、いや、死合いを始めるよ!!」
『これより三位決定戦を始めます!! レディ…ファイト!!』
俺は右手に竜の紋章を発動させるとアバンストラッシュA(アロー)を放った。
「今更、そんな温い技がボクに通用すると思ったのか!? 竜闘気(ドラゴニックオーラ)を使うまでもない!!」
ディーノはアローを掻き消そうとただの闘気を込めたハルバードで迎撃しようとするけど、それこそ俺の狙いだ!!
俺は予想されるアローとハルバードの衝突点目がけて飛び出し、上から叩きつけるようにアバンストラッシュB(ブレイク)を繰り出した。
「何ッ!?」
「アバンストラッシュX(クロス)!!」
二つのストラッシュが交差してハルバードを斬り飛ばした。
これで武器を封じたと思った瞬間、右手首を掴まれ捻りを加えて投げられた。
妙に手応えが軽いと思ったけど命中の瞬間、ハルバードを手放していたのか!?
「牙狼月光剣『無刀取り』!! これもター姉が古文書から甦らせた技の一つさ」
ディーノの手には俺の剣が握られている。手首を捻られた瞬間に取られたのか!?
「この輝き…オリハルコン製か? それにこの重さ…全く手に馴染まない違和感…生意気にも遣い手を選ぶ剣と来たか…」
ディーノは俺の剣を弄ぶように、上に放ってはクルクルと回転しながら落ちてきた剣の柄を見事に掴む事を繰り返している。
「だが!」
ディーノは俺の剣を持ったまま餓えた狼のような速い寄り身で俺に迫る。
「牙狼月光剣は武器を選ばない!! 仮令(たとえ)自分に使われまいとする武器であろうと支配する!!」
ディーノの額に竜の紋章が輝き、剣を逆手に持ち替える。
「そら! 君の武器! 君の技だ!! アバンストラッシュ!!」
ディーノのアバンストラッシュもまた大地を斬り、海を斬り、空を斬る完全版アバンストラッシュだった。
当たり前か! ディーノはテランで記憶を失うまで殆ど俺と同じ歴史を歩んだ勇者ダイなのだから!!
「全開!! 竜闘気!!」
俺は両手の竜の紋章のパワーをフルに使ってディーノのアバンストラッシュを受け止める。
「何ッ!? 竜の紋章が二つ!? これがらりるれろを倒した力か!?」
らりるれろ? 何を云ってるんだ?
「おっと危ない…実はボクにはポカをして正体を知られないように暗示がかけられていてね。らりるれろの名前を出そうとすると別の言葉が出るんだ」
なるほど…さっきディーノはきっとバーンの名前を出そうとしたせいで、今のように意味不明な言葉が出たんだ。
「君の強さの秘密を知ったからにはボクもそれ相応の礼を尽くさないとね…牙狼月光剣の神髄を見せてあげるよ!!」
ディーノは俺の剣をこちらに放ると、背中に手を回し腰に差していた二本の剣を取り出したって…いや、あれって檜の棒!?
「相応の礼と云っておきながらそれか!? 檜の棒で俺と俺の剣と戦おうって云うのか!?」
激昂する俺に対してディーノは涼しげに見つめ返すだけだった。
「これも云ったはずだ。牙狼月光剣は武器を選ばない…つまり檜の棒で君に勝つと云ってるんだ」
ディーノの竜の紋章が光を増し、竜闘気が檜の棒に伝わっていく。
そんな事をすれば一瞬にして燃え尽きてしまうだろうに…
「…えっ!? そんな…馬鹿な…」
なんと竜闘気によって光り輝く檜の棒は燃え尽きる事はなかった。
「君や父さんを含めて歴代の竜の騎士が永遠不滅の金属・オリハルコン製の武器を必要としていたのは偏に竜闘気に武器が耐えられないせいだ。
けどボクはその弱点を克服すべく画期的な技法を編み出した。それは武器に竜闘気を伝えるのではなく、竜闘気でコーティングする技法さ…」
ディーノが檜の棒を振る度に恐ろしいまでの威力が風となってこちらまで届く。
「云ってみれば竜闘気で武器を護る訳さ。そうする事でこんな最弱の武器でも伝説の剣に勝るとも劣らない威力と強度を得る事ができるって寸法さ。
勿論、この技法は平時でも相当な難易度だし、普通に伝えるよりもエネルギー効率は遙かに悪い…でも武器を選ばないという意味では有効だよ」
その時、汗が目に入り瞬きしたのがいけなかった。
その一瞬の隙にディーノは俺の懐に入っていた。
「せいっ!!」
左手の棒が俺の右小手を打つ!
右手が痺れるけど、なんとか堪えて武器を手放す事だけは避けられた。
「あぐっ!?」
体勢を立て直す間も与えられず、右手の棒がコメカミを襲う! 左手が脇腹、また右手が太腿、更に左手が再び右小手を打つ!!
流水のような動きで俺の防御を潜り抜けて檜の棒が容赦なく俺の体を打ちのめす!!
「そぅら、どうした!!」
上段から左右同時の振り下ろしをかろうじて剣で受け止める。
「お…重い…それに斬れない…」
俺は双竜紋を全開にしているのに対し、ディーノは額に紋章が一つあるだけなのに威力もスピードも俺と遜色がない?
いや、確実に俺の方がスピードもあるし、威力も強いはずだ…なのに何故?
「さぁて、何故だろうね!!」
迷いが隙となって俺はディーノの蹴りを股間で受けてしまう。
よ…容赦なさ過ぎ…俺が竜の騎士じゃなかったら潰れてたよ?
「勝機ッ!!」
潰れなくても痛いものは痛く、つい息を詰まらせてしまった隙に再び連続攻撃が始まる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
俺は竜闘気を全開させ強引に後ろへ跳んで連続攻撃から抜け出すと、すぐさま剣を逆手に持ち替えてアバンストラッシュAを放った。
「ボクに同じ技を二度も遣うなんて馬鹿にしてるの!?」
なんとディーノは竜闘気を込めた檜の棒をアローに向かって投げつけ相殺してしまう。
アバンストラッシュBを放つタイミングを逸した俺だけど構わずディーノに突撃する。
狙いはアローを打ち消す際にできる隙だったのだから!!
「喰らえ!! アバンストラッシュ!!」
「秘剣『昇竜』!!」
ディーノはアバンストラッシュをかわすでも防ぐでもなく、跳び込み様前転して懐に入り、起き上がると云うより跳び上がりながら俺の顎を打ち据えた。
下からの打撃に俺の頭は大きく揺さぶられ痛いと思う前に意識が朦朧とした。
「君はらりるれろを倒した事により、決して小さくない驕りができてたんだよ。もう自分より強い者はいないと心のどこかで思ってたんだ…」
「…そ…そんな事…だって…俺はエターナルに…」
「いや、負けてはいない。カラミティウォールで必殺技ごと吹き飛ばされただけだ。そこを精神的なショックを受けて勝負は終わった…
君は自分で気付いてないだけさ…君はこう思ってるはずだよ? あのまま戦っていれば俺は負けなかったってね?」
俺はディーノの言葉を何故か否定できなかった。
なんで? やっぱりディーノの云うように心の奥で自分が最強だと傲ってたのか?
「あのハドラーさんだって決して弱くはなかった…けど、慢心と動揺の繰り返して敗北を重ねてきたんだ…そして今、君がその二の轍を踏んでいるんだよ」
「そ…そんな…」
朦朧とする意識の中、脚にもきたのか立つ事さえ困難になっていた。
「ダイ! しっかりしなさい!! ディーノの言葉に惑わされては駄目よ!! 彼は自分より格上の敵と戦う為の策として言葉で攻めてるだけよ!!」
「…マァム?」
マァムは厳しい目で俺を見据えている。
「貴方は脳を揺さぶられて意識が混濁してるせいで判断力が低下してるの!! 普段の貴方ならこんな言葉に惑わされる事はないはずよ!!」
マァムの言葉が少しずつ俺の意識をはっきりとさせてくれる。
「それに貴方は人間なのよ!! 多少、心に驕りがあると気付いただけで動揺する方が可笑しいのよ!! 貴方に真の勇気があるのなら自分の心の闇とちゃんと向き合いなさい!!」
不思議だ…マァムの言葉を受けただけで、俺の意識は覚醒し、動揺も迷いも消えていた。
いや、自分の驕りを見据えて反省をしたというべきか、今の俺の心は妙に清々しかった。
「真の勇気があるのなら自分の心の闇と向かい合え、か…ありがとう! 俺はもう自分の心の醜さに怯えないよ!!」
「どう致しまして。お説教は元・僧侶戦士の本分ですからね」
マァムの微笑みは本当に綺麗で、ヒュンケルが聖母と喩えたり、ポップやエターナルが好きになるのが良く分かるよ。
と云うか、俺の知ってるマァムよりも綺麗に見えるのは気のせいかな?
「余計な事を…否、アバンの使徒の絆の深さを甘く見ていたボクが浅はかだっただけか…」
ディーノはハルバードを拾い上げ竜闘気を開放していく。
同時に何故か目の下にラーハルトのような模様が浮かび上がる。
「ならば本来ボクより強いはずの君が圧倒された本当の理由を教えてあげるよ!!」
ハルバードを勢いよく振り回しながら突進してくるディーノを俺は真正面から迎え撃つ!!
「俺の中に眠る竜の力よ!! 再び一つとなれ!!」
両手の紋章が消え、額に強大な力が収束していくのを感じる。
同時に心の内に全てを破壊したいという衝動が湧き起こるけど、何故かそれはすぐに引っ込んだ。
「ウオオオオオォォン!!」
俺は雄叫びを上げて竜闘気を全開にする。
「ハーケンディストール!!」
ディーノが何故かラーハルト最強の必殺技を繰り出してくるけど、俺は竜闘気を纏わせた両手で受け止める。
ハルバードの一撃の余波が俺の体に襲いかかるけど、服を少し破くだけで終わった。
「ぐ…両手の竜の紋章を一つにするだって…? これが父さんを、いや、らりるれろを圧倒したという力か!?」
ディーノは一瞬、表情に焦りを見せたけど、すぐに持ち直して大きく息を吸った。
「カアアアアアアアアアアアッ!!」
なんとディーノの口から輝いて見える極寒の息が吐き出された。
竜闘気を纏った体が凍り付くのを見て、危険と判断してハルバードから手を離して距離を置く。
「なんで吹雪を吐けるんだ!? そんなの俺にもできないぞ!?」
「そう、これこそボクの強さの秘密…テランでボクを奪還する際に犠牲になった竜騎衆の魂と融合して新たな力を得た…」
「魂と融合!?」
驚く俺にディーノは薄い唇の端を吊り上げた。
「正確には竜騎衆の魂を精霊と化し、ボクと契約させたんだけどね? ガルダンディーは風の精霊、ボラホーンは氷の精霊、ラーハルトは守護精霊って具合さ。
ボクは戦闘時に彼らと一時的に融合してパワーを増幅する事ができるんだ。卑怯とは云わないよね? それを云ったら魔法は精霊の力を借りるんだしね?」
つまりディーノは精霊と合体する事で竜魔人に匹敵する強大なパワーを得られるという事か!!
これは油断はできない…今のディーノから感じる魔力や闘気はバーンにも迫る勢いだ!!
「お互いが手の内を見せた以上、お遊びは終わりだ!! 次で決着をつけよう!!」
ディーノがハルバードを頭上に掲げて叫ぶ。
「望む所だ!! ライデイン!!」
俺の剣に稲妻が落ち、刀身に火花が散る。
俺はそれを素早く背中の鞘に納める。
「それがター姉から聞いたライデインをギガデインに変えるという鞘か…ならば遠慮はいらないな…」
ディーノは聞き取りにくい言葉を唱えた瞬間、ギガデイン以上のエネルギーを持つ稲妻がハルバードに落ちた。
「これぞター姉と雷の精霊、そして近衛騎士団・魔法開発課が編んだギガデインを超えるデイン系最強の新呪文! ジゴデインだ!!」
ジゴデイン…俺ですらギガデインを使えないのに、それを上回る呪文を使えるなんて…
ディーノは青白く発光するハルバードを頭上で回転させて勢いをつける。
「ジゴデインはター姉と精霊融合(スピリットフュージョン)をした状態のボクにしか使えず、竜魔人と化した父さんの竜闘気をも貫く究極の呪文!!
それと極限までのスピードと截断力を持つハーケンディストールとの合わせ技…そちらはギガデイン相当の呪文と全てを斬るアバンストラッシュの合わせ技…」
ディーノは愉しそうに笑う。
呪文は自分が上、技は俺が上、片や竜魔人、片や精霊と融合した竜の騎士、どちらに分があるか読めないからこそ面白いと云わんばかりの顔だ。
「征くぞ!! いざ!!」
「尋常に!!」
「「勝負!!」」
俺とディーノは同時に駆け出す!!
「ギガ…」
「ジゴ…」
そして同時に互いの必殺奥義を繰り出した!!
「「ストラッシュ(ディストール)!!」」
結界の中、いや、会場全体が凄まじい閃光に包まれた。
「「手応えあり!!」」
右腕に伝わる何かを斬った感触と胸に走る鋭い衝撃。
俺と同時に叫ぶ俺よりやや低い声。
「ああ…!!」
後方へと吹っ飛びながら、ああ、マァムの声だと、暢気に思った自分がなんだか可笑しかった。
気が付くと俺の顔を覗くように見つめているマァムの顔が見えた。
「あっ! 気が付いたのね、ダイ!!」
周りを見渡すと俺は舞台の脇にいた。
「どこか痛いところはない?」
声のする方へ向くと青い布が見えた。
目線を上げると大きな何かが影になってマァムの顔を半分隠していた。
何だろう? 邪魔だなぁ…と、それをどかそうと手を伸ばしてみると凄く柔らかかった。
「ちょ、ちょっとダイ!? ポップじゃあるまいし、何すんのよ!?」
マァムに拳骨されて俺の意識は一気に覚醒した。
俺はマァムに膝枕をされて寝ていた。するとさっきの青いのはマァムの武闘着の帯で、さっき俺が触ってたのは…
「ご…ごごごごごごご、ごめん! マァム!!」
慌てて起き上がって謝る俺にマァムはクスリと笑って許してくれた。
「ま、意識が朦朧としてたって事で許してあげるわ。それより勝負の結果は気にならないの?」
「あ…そうだった!!」
寝惚けてたとはいえマァムの胸に触っちゃった事にうろたえて肝心な事を忘れてた。
「そ…それで結果はどうなったの!? どっちが勝ったの!?」
するとマァムは苦笑しながら教えてくれた。
「引き分けよ。両者ノックアウトって事で決着がついたわ」
「そうなんだ…今日は痛み分けか…なんか悔しいな…」
「そうは云うけど、二人とも酷い怪我だったのよ? エターナルなんて半狂乱になってベホマズンを何回も唱えて大変だったんだから」
マァムの目線を辿ると、俺と同じようにエターナルに膝枕をされているディーノが見えた。
あ…エターナルの胸に手を伸ばして殴られてら…ここまで行動が似るとなんだか憎めないな…
「それにしても、やっぱりエターナルは凄いわよね…伝説の中でしか伝わってない究極の回復呪文ベホマズンまで使えるんだから…」
マァムは頬に手を当てて、ほぅと溜息を吐いた。
なんかエターナルを見る目がどこかとろーんとしてるように見えるのは気のせいかな?
「いよいよ決勝戦ね。貴方との勝負が楽しみだわ」
背後からの声に俺達は勢いよく振り返る。
「アニマさん…」
全然気付かなかった…気配がないと云うよりも周囲の土や草に溶け込んでるような感じがした。
「二人の竜の騎士同様、私も決勝戦では真の実力をお見せするわ。貴女も私を殺す気でこないと死ぬ事になるわよ?」
そう云い残してアニマさんは俺達から離れていった。
少し心配になってマァムを見ると、マァムは全然気負った感じが見えなかった。
「マァム、大丈夫?」
「平気よ。あんなの脅し文句にもならないわよ」
マァムは俺を安心させるように微笑んでウインクをした。
「うん、頑張ってね! 俺もここで応援してるから!」
「ありがとう!」
『どうやら両者とも目が醒めたようです!! 会場の皆様、二人の健闘を称えて大きな拍手をお願いします!!』
場内アナウンサーに再び舞台に乗せられた俺とディーノは湧き起こる拍手と歓声に手を振って応えた。
ちょっと恥ずかしかったけど、みんな俺達を恐れている感じはなくてホッとした。
「試合直後で興奮してるせいもあるだろうけどね? それでも罵声が一つも無いのは本当に奇跡だよ。ボク、結構えげつない技を遣ってたしね」
やっぱり試合前にエターナルと王様が精霊ルビス様の名前を出して観客達を牽制してくれてたのが大きいんだろうな。
なんか俺ってエターナルに助けられてばかりのような気がする…こんな事じゃエターナルには勝てないよ…
やっぱりどうにかしてパワーアップをしないといけないなぁ…本当、強さって虚しいよ。どこまでいっても上には上がいるんだから…
『さあ、いよいよ残すところは決勝戦であります!! 決勝は美女同士の対決です!! アニマ選手、マァム選手は舞台へ!!』
俺達は慌てて舞台から降りた。
そしてマァムと擦れ違う瞬間、ハイタッチを交わして微笑み合った。
『お二人とも準備は宜しいですか!? それではロモス武術大会・決勝戦を始めます!! レディ…ファイト!!』
桜色の髪を持つ両者は睨み合ったまま動こうとはしなかった。
あとがき
三位決定戦が終了しました。結果は両者ノックアウト、痛み分けに終わりました。
今後、二人はライバルとして切磋琢磨していって欲しいので、ここはあえて引き分けにしました。
ただ戦いの最中、迷いが生じたダイに発破をかけたマァム、これも説教になるのでしょうかね? いまいち定義が分かりませんが…
ターサンもそうですが、ディーノも精霊界で修行した為か色々とチート能力を持ってます。
竜騎衆の精霊化は驚かれた方もいらっしゃったかと思いますが、三者ともあまり見せ場が無かったのでこうして復活させました。
ラーハルトも精霊化したらアバンの使徒サイドの戦力が消えるとお思いかも知れませんが、その辺りのフォローは考えてあります。
決まってないのは実は三人の容姿でして、お約束で美少女化するか、可愛いSDキャラにするか、それともあえて姿を変えないか考え中です(汗)
さて、次回はついにマァム対アニマの決勝戦です。
どちらが勝つか、どのような展開になるかは次回のお楽しみに。
それでは、また次回に。